言峰士郎の第五次聖杯戦争   作:豚足と豚骨の化身

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赤い弓兵

 

遠坂は今地下室で英霊召喚をしている。時刻は夜中の2時。それが彼女と最も相性のいい時間だそうだ。

 

「遠坂のやつ……上手くいくといいけど……」

 

コンコンと包丁を動かしながら、そんなことを呟く。今俺は夜食を作っている。召喚後の遠坂への労いと、サーヴァントへの歓迎の意を込めて。

 

ちなみに既にほぼ料理は完成していた。あとは切った具材をパンに挟むだけ。そうすれば、夜食にピッタリのサンドイッチの完成だ。低カロリーで、何より軽い。

 

「よし、終わりだな。」

 

皿に盛り付け、完成。あとは客間にでも持っていけば俺の仕事は終わりだ。そう思った時、どこかからとんでもない轟音が聞こえた。これは遠坂のいる地下室の真上ってところか。

 

ろくな事になっていないだろうというのは、音で察せられる。何せここまで遠坂の怒鳴り声が聞こえるから。誰かと話しているし、とりあえず召喚には成功したのだろう。

 

「見たくないなぁ……絶対部屋滅茶苦茶だぞ。」

 

それを片すのは俺だって言うのに。とはいえ、そんな文句を垂れていても仕方がない。とりあえずサンドイッチは持っていてやろうと、両手に皿を抱えて騒がしく唸る扉をゆっくり開いた。

 

「あんたは私のサーヴァント!ならアタシには絶対服従ってもんでしょ!!」

 

「正気かマスター!考え無しにも程があるぞ!こんな大雑把なことに令呪を使うなど……」

 

赤い装束を纏った男がそう言った。見ると、確かに遠坂の手に刻まれた3画の赤が、ひとつボヤけて消えている。それはそれとして、この2人は背後の爆散した家具は誰が直すと思っているんだろう。好き勝手してくれるものだ。

 

「遠坂、少し場所を変えたらどうだ?サンドイッチを作ってきたから、これを食べながらゆっくり話し込むといい。目の前に広がる惨状は俺がどうにかするからさ。」

 

「士郎……!?」、「君は……」という2つの声が重なった。妙な空気が辺りを包み、だんだんと冷静になってきた遠坂が若干頬を赤らめながら口を開く。

 

「わかったわ。片付けはお願いね、士郎。」

 

「あぁ、任せろ。」

 

「それじゃあ行くわよ。」

 

赤い装束の男は頷き、遠坂の後をついて行く。そんな俺の目は、何故だが俺へと向けられていた。突然部屋に入ってきたから興味を持った……なんて一過性のものではない。もっと何か……極めて執着のようなものを感じる視線だ。

 

とはいえ、男が何か言葉を発することは無かった。二人が出て行ったあと、俺は物の見事に混沌に突き落とされた部屋を見回す。

 

「片すって言っても……全部ゴミ箱だよな、これ。」

 

倒れて針が折られた時計、真っ二つのソファと半壊した棚。どれを取っても処理の面倒なゴミと化してる。全部分解してひとつにまとめ、使えそうなものは保存する形で進めようか。全く、骨が折れそうだ。

 

 

 

 

一通り物品は片付けられた。ざっと時刻は午前3時。不健康もいいとこだ。俺は大きく伸びをして、軽く息を吐く。

 

「お前、アーチャーなのか?」

 

そして、背後の男に問いかけた。視認してはいないが、気配で何となく悟ることができる。遠坂とは別種の存在感を放っているから。

 

「そう言う君は家政婦か何かか?」

 

「違う……って言いたいところなんだけどな。この家での立ち位置は大体そんな感じだ。」

 

身体を半回転させ、声の方向へと向き直る。仏頂面の男が、こちらをじっと見ていた。

 

「あのようなマスターの世話とは、苦労が絶えないことだろうな。」

 

「あぁ、だからこそ面白いんだよ。それで、さっきの質問に答えをくれないか。お前はクラスは?」

 

聞いては見たが、この男は十中八九アーチャーだろう。セイバーと言う割に剣を持っていないし、明らかに遠坂は召喚を失敗していたから、引き当てるならセイバーじゃない方のサーヴァントだ。

 

「いかにも、私はアーチャーのサーヴァントだ。残念ながら自身の真名は忘れてしまったがね。」

 

「元々明かすべきじゃないだろ。俺はマスターじゃないんだから。」

 

「そのマスターからの命令なのだよ。君のことは全面的に信頼するようにと。」

 

「へぇ……そうは見えないがなぁ。」

 

立ち姿、視線、気配……全てが俺を警戒してる。まぁ自身のマスターに従うと誓っただけで、アーチャーは俺となんの関係も無い他人なのだから仕方が無いことだが。

 

「まぁ、従ってるのは同じ人間なんだから仲良くやろう。俺は言峰士郎だ。よろしくな、アーチャー。」

 

そう言って、俺は赤い装束の男へ手を差し出す。そしてその当人は、なんとも神妙な面持ちをしていた。「言峰…………?」と、聞こえるか聞こえないかの声量で呟く。

 

「どうしたんだ?」

 

「…………いや、問題ない。どうか仲良くといこう。」

 

手を取り、かたく握手をする。英霊を触るという経験が初めてだったからか、妙な高揚感があった。

 

「あら、意外とあなた達仲良くやれそうじゃない。」

 

そんな声がして、パッとそちらを見るとニヤニヤとイタズラに笑う遠坂の姿。目の前の男に気を取られて、彼女の存在に気が付かなかった。俺は咄嗟にアーチャーから手を離した。

 

「片付けありがとうね。いつも手間をかけさせてごめんなさい。」

 

「いいさ、好きでやってることだ。ゴミは纏めておいたから、捨てられる時に捨ててくれ。」

 

「了解。士郎はこれからどうするの?今日も泊まっていくなら、部屋を用意するけど。」

 

「いいや、今日は帰るよ。少しやることがあるからな。」

 

「もう3時まわってるわよ。大丈夫?」

 

「心配するなって、遠坂。ちゃんと明日の朝食も作りに来るから。」

 

「ちょっと待って。それだと私が毎日あなたの朝食を楽しみにしてるみたいじゃない!」

 

「え?違うのか?」

 

「違……くはないけど、そればっかりが目的ってわけじゃないわよ!何よりあなたをこんな時間までこき使っておいて、明日の朝もってわけには行かないでしょ!」

 

「そうか?それならお言葉に甘えて、明日はよしておくとしよう。……今思ったけど、今朝の方が正しいのか?」

 

そうこう話していると、すっかりアーチャーの存在を忘れていたことに気がつく。というか、彼はいつの間にか霊体化して何処かに消えていたらしかった。

 

 

 

荷物を纏め、玄関の前に立つ。

 

「じゃあね、士郎。また明日会いましょう。」

 

「あぁ、学校で。」

 

軽い別れの後、俺は帰路に着いた。寒空を見上げ、先程の赤い弓兵について思いを馳せる。

 

流石は英霊と言うか、前に立つだけで力量の差をひしひしと感じた。きっと全力を出しても、俺がアーチャーに勝つことなんて万に一つも無いのだろうと痛感する。

 

「もっと強くならないとなぁ……」

 

ひとり、そんな嘆きが暗闇に溶けていった。そう、強くならなければならい。あの冬木の大災害を起こした人間を見つけ出して、復讐するまで……それが、成せるまで……

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