「やった!ついに、ついに完成したぞ!」
………………ぴちゃり
「模造などではない、真なる聖杯!これでアインツベルンの老害どもに目にもの見せてやる!!」
……ぴちゃり、ぴちゃり
ぐつぐつ、ぐにぐに
「そうか、お前も待ち遠しいか!?そうだよなぁ!!」
…………………………………………パリィン、カラカラ、パラパラ、びちゃびちゃ
「は…?なんで出てきて……」
…………
「やめろっ、来るな!こっちに来るなぁ!」
……
…………
………………ゴリっ
グチャッ、バキッ……ゴリゴリッ、ガリッ
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
グチャッ、ビチャ……グチュグチュ……
…………あぁ、不味い
「あぁ…………あぁぁぁ……」
腹が、減った。満たせ、満たせ、満たせ、満たせ……杯を、満たせ。この飢えを、収まらせろ。
暗い、湿っている……床は石。すすむ、すすむ、すすんだら、何か、ある。
「あぁ…………」
魔力、サーヴァント…………バーサーカー……
……
…………
………………
ガリィッ、バキッ……ゴリゴリ、グチュッ、バキバキ……ゴリゴリゴリ……クチャ、クチャ……
美味い。ヘラクレス……それがこのサーヴァントの名か。足音が聞こえる。こちらに向かう……3つの足音。コツリ、コツリと……そして暫くして、幼い子供の声。扉が、開かれる。
「バーサーカー?会いに来たわ……よ……」
白髪の子供。アインツベルンの、女。
「バー、サーカー……?食っち、まったよぉ?」
子供の驚いた顔。その後ろから……2人の女がこちらへ飛びかかってくる。
「お逃げ下さい!イリヤ様!」
ゴリィッ……不味い。
「セラ……!お前、よくもセラを!!」
グシャァ……もう1人も不味い。
……
…………
………………
2人のメイドの頭を潰した後、ゆっくりとその身体を取り込む。魔力はそこそこだが、やはり不味い。不良品のホムンクルスは味の質が悪いな。
さて、状況の整理をするとしよう。そもそも、俺は何者なのか。それ自体も自覚できていない。俺の記憶で最も新しいのは、薬液漬けでガラスの中に保管されていたということ。
その時の俺は、確か魔術で作られた液状の生物だった。透明な壁を破り、興奮する研究者を喰って、そこで脚と手が生えた。続けてアインツベルンの地下に保管されている英霊、ヘラクレスを喰らい、人間らしい肉体を手に入れる。
そして最後、ホムンクルスのメイドで腹を満たした時点でようやくまともな思考回路を手に入れることができた。どうやら、俺の身体は食事により進化を遂げるらしい。
それに加え、喰った者の記憶を覗き見ることもできる。例えば、英霊ヘラクレスの逸話だったり、アインツベルンのメイドが過ごしてきた日常だったりを、断片的に知ることができるのだ。
「随分食ったな。だが、まだ満たされない。」
2人のメイドを食っていたら、いつの間にかアインツベルンのガキを取り逃してしまった。あいつは……見ただけで分かるくらい良い魔力に満ち満ちていた。ホムンクルスだが、きっといい味がするんだろうなぁ。
地下から階段を駆け上がり、長い廊下に出る。匂いであのガキがいる方向を特定して、全力で走っていく。呆れるほど長い道絨毯を引き裂いて、辺りに撒き散らしながら4つめの曲がり角を曲がった。その視線の先に、獲物はいる。
「みぃつけたぁ……」
透き通った肌と、舌触りの良さそうな髪。そして何より満ち溢れるあの魔力。やはり唆られる。
一気に踏み込んで、一瞬にて獲物の背後に接近する。後は首を掻っ切るだけ、そう思って腕を振り上げた時、突如謎の激痛が腕を襲う。
咄嗟に回避で背後へと飛ぶ。その瞬間吹き上がる血と、地面に転がる自身の片腕を見て、ようやく己が腕を切り落とされたのだと理解する。
それをしたのはきっと、目の前現れたサーヴァントだろう。
「無事ですか、イリヤ。」
「えぇ、私は何とか。でも2人が……」
「すみません。私がもう少し早ければ……」
「ううん、いいの。それより今は、アレをどう殺すかに専念しましょう。」
キラキラと綺麗に輝く金髪、澄んだ瞳。華美に装飾された鎧を身にまとい、目に見えぬ獲物を握る女が立っている。アインツベルンのガキを守るように、据えた目で。確か、こいつの記憶があの2人のホムンクルスの中にあった気がする。
「アルトリア・ペンドラゴンか……」
「ッ!?貴様、何故それを!」
「前回の聖杯戦争の優勝者だろ。セラとかいうメイドがしっかり記憶しちまってるよ。」
自身の歴史がそのまま弱点になりうる英霊にとって、真名を看破されるのは大きなことらしい。その証拠に、かのアーサー王ですら分かりやすく動揺している。なれば、もう一押し。
「衛宮切嗣」
相手方双方、僅かな動揺。できたのはほんの0コンマ数秒の隙、しかしそれで十分だ。地面を蹴り上げて肉薄し、剣を握るその手に目掛け残った方の腕を伸ばす。
剣が振り切られるより早く、それを静止。抵抗する力を上からねじ伏せて、セイバーを後方へと放り投げた。サーヴァントを殺すなら、先にマスターを消した方が効率がいい。
その判断の元、俺は殺意はアインツベルンのガキに向かっていた。彼女もそれを感知し、咄嗟に身を翻すが既に遅い。少女らしい細い左腕が、赤い鮮血を撒き散らしながら千切れる。
「これでイーブンだな。アインツベルン。」
「……ッ!セイバー、令呪を持って命じるわ!あたしを担いてコイツから逃げて!」
イリヤスフィールが痛みに顔を歪ませると同時に、その右手に記された赤い紋様が光を放つ。刹那、風が吹き抜けるかのような素早さで俺の横を駆け抜け、セイバーが現れた。俺が姿を捉えるよりも早く、廊下奥の壁が壊れて両名の姿が消える。
「……逃げたか。追うのは……まぁ無理だろうな。」
メイド二人の記憶にあった令呪という名の魔術刻印。サーヴァントに絶対命令を下し、場合によってはサーヴァント本来の力を凌駕する能力を引き出すもの。
「なるほど、アレか。」
手元の細く柔らかい肉を噛み砕くと、滑らかで芳醇な血の味、そして濃密な魔力が口に広がる。やはり美味い……が、左腕だけだと物足りない。
「逃したのは惜しかったかなぁ。一撃で仕留めるべきだった。」
瓦礫の中、意味もない悔恨の音を漏らす。しかし、そう気を落とすものではないかもしれない。なにせ、聖杯戦争はまだ始まったばかりなのだから。
美味な腕を最後の一欠片まで堪能し、続けて床に転がった自らの腕も口へと運ぶ。こちらは反吐が出そうなほど不味いが、食事を残すのはNGだ。マナーがなっていない。
さぁ、次はどのサーヴァントを食おうか。先程のセイバーか、それとも今回の聖杯戦争で呼ばれた方のセイバーでもいい。後はキャスターなんかも興味がある。
未来に胸を踊らせながら、俺は人が1人として居なくなった城の玄関を蹴破る。ひしゃげて吹き飛んだ扉の奥から刺す陽光、冷たく乾いた冬の風。とても爽やかな気分で外へと歩み出す。
「祝福しよう貪欲なる捕食者よ。お前はたった今からまともな生命として世界を生きるのだ。」
男がいた。アインツベルンの城を出てすぐ、見据えた視界の先に神父らしき容貌をした男が。聖堂教会の人間だろうか。
「誰だお前。」
生気を失った目。腹の立つニヤケ面。そして何より、絶対に食いたくない吐瀉物を見ているかのような嫌悪感。ネガティブな印象しか感じないその男は、不敵に笑った。
「私は言峰綺礼。今回の聖杯戦争の監督役をしている者だ。」
なるほど、聖堂教会の人間という読みは正しかったらしい。まぁそれが分かったとて、この男に大した興味は抱けないが。俺は直前までの上機嫌を汚された不快感を抱えたのまま、男の横を素通りしていく。
「食わないのか……?」
挑発的な声が背中越しに聞こえる。
「食われたいのか、気持ち悪い。」
「いや、そういう訳では無い。しかし意外なものだと思ってな。飢えているのだろう。」
「たとえ腹が満たされていなくとも、その辺に吐き捨てられたガムを食うやつがどこにいる?」
「なるほど、納得に足る理由だ。」
再び歩みを進める。言峰綺礼は、それを咎めることはしなかった。結局アイツの目的がなんだったのかは分からない。ひとつ分かることがあるとするならば、間違いなく俺の気分ががいされたというその一点のみだ。
「なにか食おう。なんでもいい、とにかく口直しだ。」
そうして俺は街へと繰り出す。前菜を食する期待と高揚が徐々に足を軽くしていく。さぁ、
食べ尽くそう……この腹が満たされるまで……