Fate/Denied: 最後のマスターはなぜ、英雄を殺すと決めたか   作:冬木観測者・ローシャッハ

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第一章:正義の味方を殺す日

「ビーッ。——虚数潜航(ゼロセイル)完了(コンプリート)

 

 耳元の戦術バイザーから響くのは、生死を分かつ極限状況には不釣り合いなほど、吐き気がするほど甘ったるい声。

 

「冬木市へようこそ、ゼロ様♡本機(ワタシ)はただちにゲーティア外殻の状態を検証いたしま……あら、もう粉砕(おジャン)ですわね」

 

 ズドォォォォンッ!! 

 

 重力が、乱暴に肉体を捕獲した。

 ゼロは制御を失った流星の如く、未だ燻る黒い魔力の残滓を纏いながら、なんの緩衝もなく日本庭園へと叩きつけられた。土塊が飛び散り、手入れされた石畳は瞬時に亀裂を刻み、崩壊する。

 

「がっ……、はっ……」

 

 白煙を上げるクレーターの底。ゼロはよろめきながら身体を起こす。

 漆黒のコートはボロ雑巾のように裂け、露出した筋肉には虚数洪流(イマジナリ・ストリーム)に削がれた無数の傷が走っている。口角に滲む血の泡を乱暴に拭い去り、熱を帯びたイヤーマイクを押し込んだ。

 

「……ッ、NFFサービスなんぞにシステムを弄らせるんじゃなかった。シオンの遺物を、こんなふざけた口調に調教しやがって」

「人聞きが悪いですわねぇ。ワタクシは最新鋭の——」

「黙れ、オルテナウス」

 

 ゼロが顔を上げる。硝煙の向こうで、その熔解した金(モルテン・ゴールド)の瞳が苛立ちと共に輝いた。

 

「今のテメェは、コヤンスカヤ本人より鬱陶しいぞ」

「あらあら、ゼロ様ったら~。もっと愛を囁き合いたいところですが……」

 

 オルテナウスの声色が、不意に戯れを捨てた。

 

「アフターサービスの話をする前に、『目の前』をご覧になることを推奨しますわ?」

 

 警告など不要だった。

 その瞬間、冬木市の掻き乱された大気は、鋭利な刃物で切り裂かれたかのように凍りついたのだから。

 

 ゼロは呼吸を止めた。

 舞い上がる粉塵が晴れゆくなか、月光の下に静謐と佇む、その小柄な影。

 

 彼女に驚愕はない。

 まるでクレーターが穿たれる数秒前から、この結末(おわり)を予見していたかのように。

 

 塵ひとつない蒼銀の戦帷子(ドレス)。両手には、不可視の黄金の剣。

 その碧緑の瞳には感情のさざ波ひとつなく、ただ純粋で、凛冽な殺意だけが、ゼロの頸動脈に狙いを定めていた。

 

 騎士王。セイバー。アルトリア・ペンドラゴン。

 

「天より降りし侵入者よ、名を名乗れ」

 

 少女の声は氷のように冷たく、風王結界(インビジブル・エア)が巻き上げる気流はゼロの頬を撫で、髪を切り落とす。

 

「貴公が答えるとは思わぬが」

 

「……その通りだ」

 

 ゼロは顔を上げる。

 果てしない旅路の末に焼き尽くされたその金色の双眸が、かつて見知ったはずのその瞳を、無感情に射抜いた。

 

「どうせ、お前は記憶(おぼ)えていない」

 

 その顔。あまりに凛然として、何人たりとも侵せぬ聖性を帯びた(かんばせ)

 激突の衝撃でさえ乱れなかったゼロの呼吸が、あまりに馴染み深いその造形を目にした瞬間、窒息にも似た痛みに襲われた。

 

 似すぎている。

 その揺るぎない眼差しも、すべての責務をその華奢な肩で支えようとする不器用さも。

 網膜の裏で、幾重もの幻影(メモリー)がオーバーラップする。

 

 クリスマス・イヴにプレゼントをねだった黒き王。

 銀河の彼方でカップ麺を啜った星の王。

 最果てにて、己に栄光を授けた槍の王。

 そして……。

 笑顔で彼を未来へと押し出し——けれどこの間違った世界で、強制的に千子村正(エミヤ・シロウ)へと「あてがわれた」、楽園の妖精。

 

『どのアルトリアも、運命的に衛宮士郎(エミヤ・シロウ)のものになる』

 

 どの世界にいようと、どの側面のアルトリアであろうと。「世界意志」という名の三流脚本家が出しゃばってきて、彼女たちを「衛宮士郎」という男の腕の中へ突き飛ばすのだ。

 

『見ろ。これが全ての元凶だ』

 

 内心の何かが冷笑する。

最初の邂逅(ボーイ・ミーツ・ガール)という概念を持つこのアルトリアが、エミヤの傍にいる限り。あの忌々しい運命は永劫回帰(リフレイン)し続ける』

 

 ゼロの指先が微かに震えた。

 戦術グローブ越しでも分かる幻痛。かつて彼女を抱きしめたいと願った衝動は、今やこの因果をへし折りたいという破壊衝動へと変質していた。

 

 これが、この世界の(やまい)だ。

 そして眼前の不可視の剣を構える騎士王こそが、このふざけた運命の病原体(ウイルス)だ。

 

「……サーヴァントか?」

 

 セイバーが僅かに重心を沈める。足元の芝生に魔力の波紋が走った。

 

「クラススキルを感じ取れぬが、この魔力反応……バーサーカーか? あるいはアヴェンジャーか?」

 

 直感が告げているのだろう。

 目の前の黒衣の青年は、人の器を持ちながらも、とうに人の領域を踏み外している。その全身から漂うのは、数多の戦場を渡り歩いた硝煙の臭いと、人間が抱えるにはあまりに重すぎる魔力の(おり)だ。

 

 ゼロは答えない。

 ただセイバーを見据える。その眼差しに、歴戦の騎士王ですら得体の知れぬ悪寒を感じ取った。

 それは敵を見る目ではない。切除すべき『患部』を見る、外科医の目だ。

 

「オルテナウス」

 

 ゼロの声は砂利を噛んだように低く、熔金色の瞳から感傷が急速冷凍され、絶対零度の殺意へと変貌する。

 

本機(ワタシ)はここに〜。今の魔力残存量から警告いたしますと……」

「迂回はしない。補助機能を全カットしろ。残りの魔力(リソース)を一滴残らず戦闘に回す」

 

 かつての彼なら、対話を試みたかもしれない。あるいは非致死性の手段を選んだかもしれない。この顔の持ち主を傷つけたくないという甘えがあった。

 だが、それは自殺行為だ。

 目の前のアーサー王は、すべてのアルトリアの原点(オリジナル)にして、完成体(ロード・ログレス)に最も近い怪物。手加減など、死と同義だ。

 

 不機嫌そうな電子音と共に、戦術バイザーが明滅し、ブラックアウトする。胸元のブローチが放つ、存在観測を継続する微かな緑光だけが残った。

 

 この歪んだ世界を正すために。奪われた未来を奪還するために。

 ——彼女の屍を、越えていくしかない。

 

「|俺はこの間違いを正す、どんな代償を払ったとしても《I will fix this, no matter what it takes》」

 

 誓言ごとき呟きが、夜気に落ちた。

 

「御託を!」

 

 セイバーが動いた。

 人間の動体視力では捕捉不可能な速度。

 Aランクの魔力放出が華奢な肉体を弾丸へと変え、不可視の聖剣が暴風を巻く。地面に刻まれた深痕だけが、死神の軌跡を示していた。

 

 初手からの首断ち。

 それこそが騎士王の慈悲。一切の苦痛を与えず、一撃のもとに葬り去る最適解。

 

 だが——ゼロは避けない。

 七つの特異点と異聞帯という地獄を這いずり回った彼の戦闘論理(ロジック)は、とうに「相手より速く動く」ことから、「相手を自ら衝突(あたり)に来させる」ことへと進化していた。

 

 風王結界(インビジブル・エア)がゼロの咽喉を食い破る寸前——。

 ゼロの掌に、懐中電灯にも見える無骨な灰色の円筒が現れる。

 

以太(エーテル)起動。『聖抜』側、エンゲージ」

 

 以太旋断剣(エーテル・シュレッダー)、第一形態——【光剣】。

 

 噴出する黄金の光刃。現代工業めいた暴力的かつ不安定な高熱が、千一秒の刹那に風王結界(インビジブル・エア)を焼灼し、受け止める。

 

「なッ——!?」

 

 セイバーの碧眼が驚愕に見開かれる。

 攻撃を防がれたからではない。兵装が交錯した瞬間、相手から「戦士」としての尊厳も、試探りも感じられなかったからだ。

 

 ゼロの左手が、毒蛇のように黒い袖口から滑り出る。

 五指が開かれ、視認不可能な極細鋼糸(ワイヤー)が魔力のスパークと共に、セイバーの無防備な頸動脈へと——チーズを切断するように——無音で迫る。

 それは殺戮のためだけに研ぎ澄まされた技術。人理を救うために「名誉」などという言葉を噛み砕いて飲み込んだ男が、この悲劇の運命へ手向ける、最大の慈悲(リスペクト)

 

 お前が全ての始まりだというのなら。頼むから未来のために、死んでくれ。

 

「卑怯な!」

 

 騎士王の反応速度は思考を超越していた。

 鋼糸(ワイヤー)が皮膚に食い込むコンマ一秒前、強引に手首を捻転。不可視の風が異様な角度で鎌首をもたげ、甲高い風切り音と共に鋼糸(ワイヤー)を弾き飛ばす。

 

 だが、それも計算(よみ)の内だ。

 

 距離はゼロ。鼻先が触れ合うほどの死の距離(クロスレンジ)

 ゼロは微塵も狼狽えない。熔金色の左目に、冷徹な勝利の光が宿る。

 弾かれた左手は、その反動を利用し——まるで慰めるかのように、セイバーの手甲へと【優しく添えられた】。

 

擬似・微睡爆弾(シュード・チックタック)

 

 ゼロが、悪戯のようなコードネームを囁く。

 クルミ大の黒い金属球体。ある悪魔ごとき道化師の宝具をリバースエンジニアリングした量産型礼装が、吸血する蒼耳(オナモミ)のように、白銀の手甲へと食らいつく。

 

 球体の中心で、紅い光が激しく明滅を始めた。

 

「こ、れは——ッ!」

 

 セイバーの『直感』が脳髄で警鐘を鳴らす。防御不能。甩き放せ! 

 だが、その球体はまるで生き物のように装甲へ浸透している。

 ゼロは一撃離脱の勢いで後方へバックステップを踏み、巨大な蝙蝠のように黒衣を展開して身を隠す。

 

 カッ、ドォォォォォンッ!!! 

 

 小指の先ほどの爆弾が、塀を吹き飛ばすほどの指向性衝撃波を撒き散らす。

 呪詛属性を帯びた赤紫の火球が炸裂した。メフィストフェレス由来の悪辣な技術は、「物理衝撃でありながら、物理防御では完全に相殺できない」という最悪の特性(オプション)を持つ。

 

 噴き上がる黒煙。

 ゼロは着地と同時に戦術靴(タクティカル・ブーツ)で地面を削り、爆心を確認すらせず邸宅の奥、母屋へと疾走した。

 標的(ターゲット)はただ一人。衛宮士郎。

 あのセイバーを三秒足止めした。人類の身としては、奇跡に等しい戦果だ。

 

 だが、三歩目を踏み出した、その時。

 

 背筋の産毛が逆立った。

 音はない。大気の揺らぎさえない。だが、死線を潜り抜けてきた第六感が告げている。

 湿り気を帯びた、粘着質な殺意が、毒蛇のように脊椎を這い上がってくるのを。

 

 貫かれる。

 

 思考より先に、反射神経が肉体を駆動させる。ゼロは地面を強く踏み砕き、慣性を無視して強引に右側へ横転した。

 

 ガィィィンッ! 

 

 紫色の魔力残滓を引く、毒蛇の牙のような長大な鉄釘。それがゼロの残像を貫き、深々と地面に穿たれていた。

 矢ではない。それは獲物を捕獲するために鍛造された『楔』。

 

「意外ねぇ」

 

 屋根の上から降ってくるのは、冷淡でいて危険な女の声。

 獲物を品定めするような侮蔑と、テリトリーを侵された怒りが混じり合う。

 

「正面からセイバーを圧倒した上に、中の人間まで襲おうとするなんて。……あの坊やのことは嫌いだけれど、ここは私の仮宿なのよ」

 

 ゼロが視線を上げる。

 月を背に、紫の長髪が狂い踊る。黒いベルトがボンテージのように肢体を締め上げ、魔眼殺しの目隠しをした長身の女。手には鎖に繋がれた短剣(タガー)

 

 ライダー。メドゥーサ。

 

「次から次へと……」

 ゼロは血反吐を吐き捨て、以太旋断剣(エーテル・シュレッダー)を握り直す。

「今夜は冬木市の『サーヴァント・カーニバル』か?」

 

 悪態をつきながらも、足だけは止めない。

 背後からは風王結界(インビジブル・エア)の唸りが迫っている。あの化け物は、呪詛爆弾を食らってなお、数秒で立て直してきたか。

 まだ奥の手(ジョーカー)は切りたくない——つまり、挟撃だけはごめんだ。

 後ろのライオンが噛み付いてくる前に、前の毒蛇を始末する。

 

 屋根の上のライダーが次なる短剣を投擲する暇も与えず、黒衣の男は狂犬のように突っ込んだ。

 

「死に急ぐか」

 

 ライダーが冷笑する。この距離なら、サーヴァントの反応速度は人間の数十倍。僅かに身を豗し、鎖で首をねじ切れば終わる。

 

 しかし、ゼロの指が柄の機関部を弾いた。

 

 カシャ、——ヴンッ! 

 

 起動ではない。伸長(エクステンド)

 短かった円筒が、魔力のポンプ音と共に爆発的に伸びる。二段、三段——瞬きの間に、それは二メートルを超える漆黒の長柄へと変貌した。

 

 以太旋断剣(エーテル・シュレッダー)、第二形態——【薙刀】。

 

転換(シフト)、『嵐』側、顕現」

 

 煌めく黄金の刃が消え、長柄の尾端——『聖槍・オルタ』の欠片が狂ったように回転を始める。吹き出すのは、石油のように重く、不吉な紫黒の魔力。それは光さえ飲み込む、巨大な鎌となって凝縮する。

 

「な——ッ?!」

 

 ライダーの視界が、突如として伸長(エクステンド)した凶器によって塗り潰される。

 人間が振るえる重量ではない。物理打撃の範疇を超えた、純粋な魔力嵐の質量体。

 

「狭所だが、機動力と『怪力』を持つお前と刺し違えるのはリスクが高い」

 

 嵐の中心で、ゼロの氷結した声が響く。

 小細工はない。疾走の運動エネルギーをすべて乗せ、その二メートルの攻城兵器を、ライダーの横腹へと薙ぎ払う。

 

「だから——不意を突いて一撃で潰す」

 

 ズドォォンッ!! 

 

 ライダーは短剣で受けようとした。だが、桁違いの魔力質量が彼女の重心ごと粉砕する。

 まるで建設重機に正面から撥ねられたかのように、彼女は布切れのように吹き飛んだ。壁が崩壊する轟音と共に、ライダーは悲鳴を上げる暇もなく、紫黒の雷光を纏った薙刀ごと、玄関横の耐力壁へと叩き込まれた。

 

「チッ、出力低下が激しいな。霊核どころか、完全な無力化(ダウン)まで持っていけなかったか」

 

 粉塵が舞い、妖艶なサーヴァントを瓦礫が埋め尽くす。英霊の耐久力ならば即死はしないだろうが、霊基が激震し、十数秒は壁から引き剥がせないはずだ。

 

 ゼロは瓦礫を一瞥もせず、薙刀を収束させ、黒い稲妻となって粉砕された玄関を突破した。

 木片が飛び散る中、既視感(デジャヴ)に満ちた日本家屋の廊下が広がる。

 

 データベースにある情報はこれで全て。あの二騎を抜ければ、居間に「正義の味方」がいる……。

 

 セイバー相手に一瞬の隙を作り、ライダーを火力で圧殺する。

 その代償として、残された生命力は枯渇寸前だ。

 

 だが——安いものだ。

 ゼロの冷え切った口元が、わずかに歪む。

 

 勝った。

 未来からの情報差(アドバンテージ)を利用し、弱点を突き、最強の武装を惜しみなく振るった。何より、最後の切り札はまだ温存している。

 

 障子紙一枚隔てた向こう、居間から温かい光が漏れている。

 そこに、ヤツがいる。

 世界に偏愛され、本来なら自分に向けられるはずだった全ての光を奪い去った男。

 

 目標まで、あと五メートル。

 魔術も、宝具もいらない。あとは歩いていって、果物ナイフでも突き立てれば、この悲劇の連鎖は断ち切れる。

 

 ゼロは、障子の向こうを焼き尽くさんばかりに睨みつけた。

 

「殺すぞ、エミヤ・シロウ」

 

 幾千の悪夢の中で繰り返してきた呪詛を、低く吐き捨てる。

 

 ゼロの靴底が、廊下の板を踏みしめた、その瞬間だった。

 

 ド、ン。

 

 心臓が、一拍止まった。

 音ではない。

 空気さえ凝固させるほどの『質量』が、突如として頭上に顕現したのだ。

 それは純粋で、隠しようもない、生物としての本能が畏怖する——絶対的な『死』。

 

 ゼロは弾かれたように見上げた。

 視認する必要さえない。歴戦の直感が、最も無様で、けれど唯一の正解(ルート)を選ばせる。

 ——地面を転がる、泥臭い回避だ。

 

 なりふり構わず、横へと飛ぶ。

 次の、刹那。

 

 爆発も、閃光もなかった。

 ただ、豆腐に杭打ち機を打ち込むような、鈍く、重い音がしただけだ。

 

 常軌を逸した巨大な『斧剣』が——屋根の半分を巻き込みながら——コンマ一秒前にゼロが立っていた空間を、物理的に消滅させていた。

 衛宮邸が、断末魔のような悲鳴を上げて軋む。

 

 セイバーではない。

 ライダーでもない。

 

 土煙が晴れる。

 その山のような黒い肉体は、完全には立ち上がっていない。片膝をついたまま、紅く燃焼する狂乱の双眼で、地を這う蟻を見るように、ゼロをあごでしゃくっていた。

 

『■■■■■■■————!!!!』

 

 それは咆哮ではない。

 ギリシャ神話最強の大英雄が、絶望という名の災害(カタストロフィ)と化し、ただ呼吸しただけでガラスを砕いた音だ。

 

 バーサーカー。ヘラクレス。

 

 巨大な影が、血の気を失ったゼロの顔に落ちる。

 人間どころか、並の英霊でさえ、十二の試練を持つ大英雄とのこの距離(ゼロ距離)は、死刑宣告に等しい。

 

 だが、死の恐怖よりも、ゼロを凍りつかせたのは。

 前提崩壊の事実だった。

 

「……ふざ、けるな」

 

 ゼロは乾いた音で呻く。喉が砂利で詰まったようだ。

 すべての手順は完璧だった。あと一歩だった。

 

原典(オリジナル)とも、他の記録とも……まるで整合性が取れない……」

 

 剣の柄を握る指が、あまりの力に白く軋む。

 廃墟と化した衛宮邸で、不条理と、行き場のない憤怒が木霊した。

 

「どうしてだ……。なんで、バーサーカーが、この時間軸(タイミング)で……ここにいる!?」





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【あとがき】FGO第2部終章リメイクという名の「人理定着」
「嘘でしょう」 ——そう呟かずにはいられませんでした。
 ゼロが冬木に降り立ち、運命への反逆を誓った(僕が第2章を書き上げた)まさにその時。
 公式から『FGO 2.0終章リメイク』が発表されるなんて。
 これは単なる偶然ではありません。間違いなく、汎人類史(公式)による正確無比な飽和攻撃です。
 私たちがこの物語で掲げようとした「陳腐な結末への怒り」を察知し、世界(TYPE-MOON)は慌てて「より強固で、より完璧な、否定しようのないエンディング」を上書きしに来たのです。
 まるで、「お前のような歪な異聞帯に、入り込む隙間などない」と言わんばかりに。
 正史が我々を『剪定』しに来た以上、悠長にはしていられません。
 人理定礎が完了し、この物語が『有り得ざるもの』として消滅させられる前に、この記録を公開します。
 ゼロよ、どうやら君の敵はエミヤ・シロウだけではないらしい。
 TYPE-MOONのシナリオライター室そのものが、全力で君を「剪定」しに来ているぞ。
 ならば見せてやろうじゃないか。公式の筆が折れるか、僕らの執念が砕けるか——勝負だ。
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