安月給のモテない俺が、老後に向けてお金を貯める。
世間様に後ろ指刺されない様にする為に。
しかし、そんな未来の死ぬ為の貯蓄に俺は少しずつ疲れ始める。

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あしながおじさん願望

俺はモテない安月給の会社員だ。

彼女なんていたこともない。

それどころか女友達すらいない。

そんな俺だから、将来は独居老人の孤独死まっしぐら。

孤独死の果てに自分の腐乱死体で他人様のお手を煩わせてしまうのは申し訳ないと、老後の為にお金を貯める事にした。

生きて楽しむ為のお金じゃない。

人に迷惑を掛けずに死ぬ為のお金だ。

幸い勤務先はサービス残業、サービス休日出勤、

当たり前のブラック企業だったので、

使う暇なんてない。

安月給でも貯蓄は着実に貯まっていった。

資産運用で購入していた株が急騰した事もあり、

10年もしないうちに2,000万円に

手が届くと言う金額の資産出来た。

このペースで増やしていけば、

老人ホームにも入れそうだとか喜んでいたが、

徐々に虚しさを感じるようになってくる。

自分なんかがただ死ぬだけの為に、

金を貯める。

この生産性のかけらも無い事実に

耐えられなくなって来たのだ。

 

「国の為とまでは言わないけど、未来の為に使いたいな。」

未来、と言えば子供。

甥っ子や姪っ子でもいれば、

全力で資金投入するのにと思っても、

残念ながら兄弟に子供はいない。

他に親戚付き合いも無いし、

友人の子供は友人に逆に気を遣わせてしまうから難しい。

それならばと地元の自治会がやってる

子供向けイベントに三万ほど寄付したら、

次からはやめてくれと断られた。

一応、額が大き過ぎて他の寄付先が

萎縮するからという理由だったが、

その表情には、

「独身の非モテがイベントをダシに子供に近づくな!」

という警戒感と嫌悪感がありありと見えた。

そういう事には慣れているつもりだったけど、

流石にその時は泣きそうなった。

 

だったら、そう言う子供を支援している団体にでも

寄付すれば良いじゃないかと言われるが、

それは違う!断じて違う!

それじゃあ匿名の誰かの好意で終わってしまう。

しかも、自分の金で団体の奴らが

良い人として感謝されるのだ!

そんな事に自分の金を使うのは御免こうむる。

この金は自分が人として「まとも」に

死ぬ為に必要な金なのだ。

死んだ後まで他人から蔑まれない為に

必要不可欠な金なのだ。

だから、ちゃんと寄付したのは俺であると、

大っぴらにして貰わなきゃ意味がない。

「この人は生前、多くの寄付をした立派な人だ」

と腐乱死体で悪態を吐かれても、

世間様が擁護してくれ、それを帳消しにしてくれる。

それぐらいじゃなきゃ、俺のこの金は出せない。

 

あしながおじさんという物語がある。

正直ああいうのに憧れている。

俺自身はあの物語の男性のようになりたい。

俺は裕福でスマートな男性とは真逆のおじさんだ。

だから物語のように最後、

支援した子に手を出すのはルール違反だろ!

とは思うけど、

ああやってちゃんと自分の支援で立派に育って、

感謝の手紙まで定期的にくれる。

ああいうちゃんとお金が未来に繋がってて、

確実に自分がそれに役に立ってるって達成感!

それが欲しいのだ!

しかも、手紙!

これが良い!

自分の死後、部屋を片付ける業者が手紙を見つける。

その人は一人の身寄りのない子供を、

自分が孤独死になりながらも支え続けた男。

この物語性に腐乱死体への嫌悪感も薄らぐ!

…はずだ!

 

そんな事を考えていた、ある日、一通の手紙が

郵便受けに入っていた。

「貴方もあしながおじさんになりませんか?」

というコピーに釣られて読んでみると、

まさに理想的な話だった。

一言で言うと、

身寄りのない子供の自立を支援する為の寄付

と言う事なのだが、そのシステムが理想的なのだ。

支援対象の子供1人につき、支援者1人の担当制。

直接会うのは厳禁だが、

支援対象からお礼の手紙が毎月届くらしい。

手紙!

これこそ俺が求めていた対価だ!

その分、払わされる金もなかなかヘビーだ。

施設の部屋代と食費諸々で月々12万円。

その他、学費や入学金も別途かかると言う。

貯め込んだお金は全て無くなってしまう。

しかし…

どんとこいだ!

今までの空虚な人生に意味が出来るなら、

これくらいの出費、お安いご用だ!

俺は、手紙にあった連絡先に連絡した。

 

俺が担当は14歳の女の子と言う事だった。

施設の話によると、

施設は義務教育の中学生までしか

預かる事が出来ず、

15歳になると自動的に自立させられてしまう

らしい。

しかし、今の時代、高卒どころか中卒では

ろくな就職先は見つからない。

その子は成績も良く、環境さえ良ければ、

高校は進学校に行け、国立大学も狙えるらしい。

そんな将来有望な子供の未来をこの俺が救えるのだ!

月々12万なら1年で、144万。

大学卒業まで支えるなら8年間で1152万。

高校は…よく知らないけど

無償化がどうたらニュースでやってたし、

いらないとして、大学はいくらかな…

俺の行ってた私立で入学費込みで

4年間400万弱だっけ?

まあ、国立大学ならもうちょい安くなるかな。

貯蓄全部使わなきゃと思ってたけど、

いくらか残りそうだなという計算を頭の中でした。

俺は迷う事なく、この支援契約を結ぶ事にした。

 

その日から、支援対象者から来る手紙が

俺の月に一回の楽しみとなった。

「高校に行けると聞いて感動してます!ありがとう!」

「今、勉強頑張ってます!絶対志望校受かります!」

「この前、部活で県大会出る事になりました、」

「文化祭来て貰いたいけど、ダメなので、写真送ります」

手紙や時々同封されている写真には

活き活きと学生生活を送る支援対象者の様子が

溢れるように詰まっていた。

それまで、ただ惰性のように起きて、

働いて、寝てと繰り返すだけだった

俺の生活に鮮やかな彩りが加わった。

 

もちろん想定外のこともあった。

意外とお金がかかるのだ。

古くなった上履きや体操服を買い替える、

3年生の教科書、修学旅行の積み立て、

部活の遠征費等々

それらに面食らいながらも、俺はちゃんと払った。

相手が青春をエンジョイ出来ている証拠だと

嬉しくすら思った。

貯蓄だけで支援するつもりだったけど、

現在進行形で仕事はしているわけだし、

毎月今も貯蓄はしているから、金銭的にそんなに

負担は感じなかった。

そんな事よりもこの支援で得られる

喜びの方が上回っていたのだ。

俺には子供がいるんだぞ!

それも俺なんかとは違って飛び切り優秀な子が!

自信にもなった。

社会人になって初めて社会に貢献している実感が得られた。

学校などを取り巻く行政や制度に関心を持つようになった。

社会の仕組みに理解を持つようになった。

今までブレブレだった足元にしっかりと根が生えたような感覚。

そういった手応えがあった。

 

俺自身が手紙に助けられる事も少なく無かった。

上司に怒られて凹んでる時も、

「模試の結果が悪かったけど、挽回してみます!」

という手紙に、俺も負けてられないと奮起出来た。

会社に損害を出してしまい、

退職しようかと本家で悩んでいた時も、

「中学最後の大会、レギュラー落ちちゃいました。

でも、気持ち入れ替えて、応援頑張ります!」

という前向きな姿勢に感化され、

次の仕事で見事損害分を帳消しにする事に成功した。

常に支援対象の頑張っている様子が頭の中にあり、

自分を支えてくれた。

まるで二人三脚の様な心強い感覚に励まされた。

 

結局、高校は私立しか受からず、

入学金込みで300万払う事になる。

流石に月々の貯蓄分でも払い切れず、

夜間のアルバイトをして賄った。

会社はサービス残業をしなくなった俺に対し、

露骨に嫌味を言ってきたが、子供のために無視した。

今の俺には会社の同僚の言葉より、

もっと優先すべきものがあるのだ!

「中学3年間続けたバスケ、高校もやる方にしました!

レギュラー狙うぞー!」

「文化祭、サイコー!来て貰いたいけど、

会っちゃいけないルールなので、

とりあえず皆んなで作ったモニュメントの

写真送ります。」

「修学旅行!行かせてくれてありがとうございす!

高校の仲間とのサイコーの思い出ができました!」

自分の支援によって、1人の若者が青春を謳歌している。

俺はそれを守らなければならないのだ!

ただでさえ激務なブラック企業での仕事に加え、

夜のバイトまでこなしたせいで

体はヘロヘロ立だったが、

不思議とやる気とやりがいは溢れていた。

 

しかし、追い打ちをかける様な事態が起きる。

対象者が進んだ大学が私立の薬学部だったのだ。

調べると薬学部の学費は年間100万。

そしてその上、通学期間は一般的な大学と違い、

4年ではなく5年なのだ。

蓄えとこれから働いて稼ぐ給料で4年分はなんとか

支払う事は出来そうだ。

しかし、あと1年分がどんなに計算しても、

どんなにバイトを増やしても足りないのだ。

対象者が大学5年生に上がるという時、

俺はとある掲示板で見つけた依頼を受け、

腎臓を売る事にした。

 

対象の子供は見事、5年生への進級を果たし、

今、対象者からの最後の手紙を受け取った。、

手紙には9年間の支援の礼と薬剤師になれた事、

卒業出来た事が書いてあった。

卒業式の写真まで同封されていた。

そして、手紙の最後には、

「いつか私も貴方の様に

人を救える立派な人間になろうと思います!」

俺は役目を果たしたのである。

私は嬉しい涙を流しながら、

何度も、何度も手紙を繰り返し読んだ。

 

それから数ヶ月もしないうちに俺は腎臓を

摘出した時の感染症が原因で余命宣告を受ける。

手の施しようがなく、治療は不可能と判断され、

自宅の布団で今まさに死を迎えようとしている。

たった1人で。

しかし、俺には後悔はない。

むしろ、やり遂げたという達成感で胸が満たされている。

俺が支援したあの子は何人の同じ様な子供を救うだろう。

あの子は素晴らしい子だ。

それは私の枕元に置いてある9年分の手紙が証明している。

そんな事を考えながら俺は今、息、絶える…

 

ー数ヶ月

「あー、これ結構腐乱が進んじゃってますね。」

悪臭がするとの苦情で呼び出された駐在が部屋の中央に

腐乱死体を見つける。

「あれ?枕元に手紙が沢山入った缶々が置いてますね?」

同行した救急隊員が手紙を見つける。

「あ、じゃあ、血縁者とか仏さんの引受人が

見つかるかもしれませんね。えーと、送り主は…

児童養護施設たすけあい…あっ!これ、

先月、いもしない孤児への支援金だとか言って

お金騙し取ったって検挙された詐欺グループの

名前ですよ!」

と、駐在が驚いている。

「あーじゃあこの人、その詐欺の被害者なんでしょうね」

と、手を合わせながら救急隊員が同情の目で遺体を見る。

「でも、まあ、犯人が捕まる前に亡くなったみたいだし、

ある意味幸せだったのかもね」

そう言いながら駐在も手を合わせた。


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