月村手毬に、大手芸能事務所「100プロ」からのスカウトという大きなチャンスが舞い込む。しかし、その移籍には「学生である現在のプロデューサー(P)が担当から外れる」という非情な条件が付けられていた。Pは手毬の将来を第一に考え、自ら身を引く覚悟を伝える。それを聞いて、手毬は何を叫ぶのか──

※台本形式の短編です。

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月村手毬は、プロデューサーのいない未来を拒絶する

 

(P視点)

 

 

「おはようございます、プロデューサー!」

 

 

「おはようございます、月村さん。今日は一段と元気がいいですね」

 

 

朝、プロデューサーが一人仕事をしているとき、手毬は目をキラキラ輝かせながら、勢いよくプロデューサー室に入ってきた。

 

 

「ふっ、当然です。プロデューサーももちろん知ってますよね?」

 

 

「……ええ、もちろん知っています。100プロにスカウトされたんですよね?俺の方にも話がきました」

 

 

「そう、遂に私もプロにスカウトされたんだよ。まあ、私からしたら当然の結果だけどね。褒めてくれてもいいよ、プロデューサー」

 

 

「はい。おめでとうございます、月村さん。頑張ってきた成果がでましたね」

 

 

「………………」

 

 

手毬が腕を組み、不機嫌そうな目でPを睨む。

 

 

「……あの、月村さん?どうかされました?」

 

 

「担当アイドルがプロにスカウトされたのに、なんでそんな淡泊な感想しかでないんですか?もっと私のことを労って、褒め称えてください」

 

 

「……はぁ」

 

 

(いつもの甘えん坊モードが発動した。こうなると褒めるまで不機嫌なままだ、このままだとまずい……というかめんどくさい。早く済ませよう)

 

 

「まあ、月村さんはとてもかわいらしい顔をしてますし、歌声も素晴らしく、ステージの上では最高にカッコイイアイドルです。あなたは、間違いなくトップアイドルになれる器だ。そんなあなたにプロのスカウトが来るなんて当然のことです。いちいち褒めるまでもありません」

 

 

「ふ……ふ~~~ん。流石プロデューサー、わかってるね。じゃあお祝いに、二人でラーメン食べに行こうよ」

 

 

「太りますよ?」

 

 

「ふ、太……ほんっと、デリカシーないですね!プロデューサーは。もういいです」

 

 

「……それはそうと月村さん、100プロのスカウトの件で大切な話があります」

 

 

「……何ですか?私今機嫌悪いんですけど、どっかのデリカシー0男のせいで……」

 

 

「月村さんが100プロに移籍する際、学生の間、俺は月村さんの担当から外れることになります」

 

 

「………え?」

 

 

手毬の動きが固まる。何を言われたか理解できないといった顔で、プロデューサーを見つめる。

 

 

「……どういうこと?なんで、プロデューサーが私から離れないといけないの?」

 

 

「100プロ側の意見としては、学生である俺よりも、100プロの経験豊富なプロデューサーをつけたほうがいいとのことです」

 

 

「そんなの……プロデューサーはそれでいいの?私のことプロデュースできなくなっても……私と一緒にいれなくなっても」

 

 

「……決めるのは月村さんです。俺に口出しする権利はない」

 

 

「………………」

 

 

「今ここで結論を出せとは言いません。月村さんの中で答えが決まったら、またいろいろと話をしましょう」

 

 

「………わかった」

 

 

 

 

 

(手毬視点)

 

 

一年一組の教室

 

 

「あら、元気ないわね手毬。どうかした?」

 

 

「……咲季には関係ない、放っておいて」

 

 

「いいから、お姉ちゃんに話してみなさい」

 

 

「……仕方ないな」

 

 

手毬は、今悩んでることを全部咲季に話した。

 

 

「へえー、100プロに所属する代わりに、プロデューサーが担当から外れると。それで、手毬はどうしたいの?」

 

 

「……私は」

 

 

(100プロに入れば、私の夢にすごく近づくかもしれない。けど、それでも……)

 

 

「私は……プロデューサーと一緒にいたい」

 

 

「それは、どうして?」

 

 

「私、プロデューサーに迷惑かけてばっかりで……でも、こんな私のことをプロデューサーは好きでいてくれて、ずっと隣で支えてくれて。そんなことしてくれる人、あの人しかいないと思うから」

 

 

「……じゃあその気持ちをそのままプロデューサーに伝えなさい。そうすれば、きっとわかってくれるわ」

 

 

「……うん」

 

 

(咲季のおかげで、自分のやるべきことがわかった。ありがとう、咲季)

 

 

「まあ、咲季にしては役に立ったよ」

 

 

「む、私にしてはってなによ。私のこと誰だと思ってるの?」

 

 

「お姉ちゃんズラしてくる鬱陶しいやつ」

 

 

「な、なんですってーーー!!!人がせっかく相談に乗ってあげてるのに、なによその態度は!」

 

 

「まあ、特別に感謝してあげてもいいよ?」

 

 

「ほんっと、かわいくないわね。もういいから、さっさとPのところに行ってきなさい」

 

 

「うん、そうする」

 

 

(プロデューサーに伝えるんだ。私の、私のありのままの気持ちを)

 

 

 

 

 

 

(P視点)

 

 

夕方、プロデューサー室

 

 

「プロデューサー!」

 

 

「月村さん、どうしました?そんなに大声を出して」

 

 

「……出したよ、答え」

 

 

「……聞きましょう」

 

 

「私……私は、プロデューサーと一緒がいい。だから、100プロには入らない」

 

 

「……どうしてですか?」

 

 

「私、怠け者で、甘えん坊で、性格悪くて……いつもプロデューサーに迷惑ばっかりかけてた。それでも、プロデューサーは嫌な顔一つせず、私についてきてくれて、私の隣でずっと走ってくれた。こんな人、たぶん他にいないと思うから」

 

 

「………………」

 

 

(月村さんの言葉は凄く嬉しい。けど、俺は彼女のPだ。彼女にとって最善の選択をとらなければならない)

 

 

「月村さんの言葉は凄く嬉しいです。けれど、100プロには俺よりも優秀なプロデューサーが沢山いる。俺ではなく、100プロに行った方が月村さんの夢に近づきます」

 

 

「………………」

 

 

「俺は、あなたのプロデューサーにはふさわしくない。ですから、月村さんは100プロに行ってくださ……月村さん?」

 

 

「……っ!バカじゃないの……バッッッカじゃないの!!」

 

 

「………!?」

 

 

「あなた以外に、私のプロデューサーが務まるわけがない。私にとって、あなた以上のプロデューサーなんているわけない!」

 

 

「………月村さん」

 

 

「これだけ言われても、まだわからない?それともプロデューサーは、私の担当を辞めたいの?」

 

 

「そんなことはないです。でも、月村さんの夢を考えたら……」

 

 

「──プロデュースするなら、あなたがいい。あなたが自分で言ったんだよ」

 

 

Pの脳内で、あの日手毬に言った言葉が思い出される。

 

 

『日々の努力を苦痛に感じている怠け者が、誰よりも努力し、高みを目指している。超人よりも、天才よりも、他のどんなアイドルよりも魅力的です。──あなたがいい』

 

 

「あのときの言葉、そのまま返してやる!私は月村手毬。未来で、あなたと一緒にトップアイドルになる女だ!!私のプロデューサーは、あなたがいい!」

 

 

「………………」

 

 

「他のプロデューサーなんていらない、100プロに所属するなんてどうでもいい。私は、私のことを一番よくわかってくれて、私のことを大好きでいてくれる。そんなあなたが私は大好きで、これからも一緒にいたいって思うんだ!だから、だから……」

 

 

手毬の目から、一粒の涙が床に零れる。

 

 

「プロデューサー、辞めないで……これからも、私と一緒にいてよ……」

 

 

「月村さん………」

 

 

(俺は、彼女にこんな悲しい顔をさせたかったのか?担当アイドルにこんな思いをさせて、何がプロデューサーだ。俺は、俺のやるべきことは……」

 

 

「すみませんでした、月村さん。あなたにこんな悲しい顔をさせてしまうなんて、俺はプロデューサー失格かもしれない。けれど……」

 

 

「…………?」

 

 

「俺も、あなたと一緒にいたい。あなたと一緒に、トップアイドルを目指したい」

 

 

「………プロデューサー」

 

 

「こんな俺ですが、これからもあなたと一緒にいることを許してくれますか?」

 

 

「……バカ。何度も言わせないでよ」

 

 

 

 

 

 

翌日、プロデューサー室

 

 

「おはようございます、プロデューサー」

 

 

「おはようございます、月村さん」

 

 

「ふ、ようやく元の顔に戻ったね。昨日まで私のプロデュース辞めるってなって、辛気臭い顔してたのに」

 

 

「その節は、本当にすみませんでした」

 

 

「いいよ。私は優しいから、豚骨ラーメンとショートケーキで許してあげる」

 

 

「ダメに決まってるでしょう。せめて人参ケーキです」

 

 

「なっ!?プロデューサーのバカ、鬼、悪魔!せっかく許してあげるって言ったのに……」

 

 

「それに、そんなものはトップアイドルになってから食べればいい。そのときは、俺がいくらでもおごりますから」

 

 

「……へえ。言ったね、プロデューサー。じゃあ、最後までついてきなよ」

 

 

 

「私があなたを、頂点の景色まで連れてってあげるから!」

 

 

 

 


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