勘違い戦士、ダンジョンを揺らす   作:お粥のぶぶ漬け

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第5話

 翌朝、シュタルクはエイナとの約束通り、意を決してダンジョン第一階層へと足を踏み入れた。

 

「よし、まずはエイナさんに言われた通りに……魔物の動きをよく見て、攻撃しよう」

 そこへ、一匹のゴブリンが不気味な声を上げながら姿を現す。

 シュタルクは巨大な斧を構え、ゴブリンの突撃を待った。……が。

 

(……遅い。……え、何これ、止まって見えるぞ?)

 

 あまりの緩慢さに、シュタルクの心に焦燥とは別の感情が湧き上がる。アイゼンの修行で、風を切るように飛来する岩を捌いてきた彼にとって、ゴブリンの動きは欠伸が出るほど退屈だった。

 

「……ああっ、もう! じれったいな!」

 

 斧を振るタイミングさえ狂わされたシュタルクは、思わず構えを解き、目の前でモタモタしているゴブリンの顔面に、無造作に拳を叩き込んだ。

 ――グシャッ!!

 喉元を狙うどころか、ゴブリンの頭部は一撃で消し飛び、残った胴体も魔石ごと粉砕され、黒い塵となって霧散した。

 

「……あ。やってしまった……。弱すぎるよこれ…」

 その後、シュタルクは何とも言えない、虚無感の混ざった複雑な表情で地上に戻り、ギルドのエイナへ報告に向かった。

 

「お帰りなさい、シュタルクさん! 問題なく帰還出来たんですね!」

「あ、はい……一応、倒せました。……なんというか、その、手応えが全然なくて……」

「いいのよ、最初は誰だってそう感じるわ。恐怖で感覚が麻痺することもあるもの。でも、ちゃんと生きて帰ってきた。それが一番の成果よ!」

 

 エイナは満面の笑みで彼を褒めた後、今後の注意点を一時間ほど語り聞かせた。

 

「今日はもう帰りなさい。無理は禁物ですよ?」

「はい、ありがとうございます……」

 

 シュタルクはそう言ってギルドを後にしたが、内心のモヤモヤは晴れなかった。

 

(……拳で殴り殺したなんて、口が裂けても言えない。でも、あんなに弱い相手じゃ、エイナさんに教わった『冒険者の駆け引き』なんて試しようがないぞ。……よし、ちょっとだけ、もう少し下に行ってみようかな)

 

 エイナさんにもヘスティア様にも内緒で、シュタルクは再びダンジョンへ。

 エイナの講習で、13階層までは魔物の知識を叩き込まれている。

 

「第2層、弱い。……第5層、これも弱いし軽い。……第10層……」

 一層ごとに魔物を「お試し」で小突きつつ数が多い時だけ斧でなぎ払いながら下りていくが、どれも一撃で消えていく。気づけば、彼は当初の目的を忘れ、一気に13階層まで到達していた。

 そこで、シュタルクの前にこれまでとは違う威圧感を放つ魔物が現れた。

 

 ――小竜(インファントドラゴン)。

 

(……こいつは、小型だがドラゴンか。こいつなら流石に強いだろ!)

 

 シュタルクの戦士としての本能が臨戦態勢に入る。純粋なシュタルクは小竜(インファントドラゴン)を「小さいけどドラゴンなんだから強敵」だと誤認した。

 

「くるぞ……!緊張するが逃げちゃダメだ。ここは、師匠に教わった全力で……!」

 

 シュタルクは腰を深く落とし、斧を上段に構える。緊張で震える足を踏み締め、魂を込めて叫んだ。

 

「『閃天撃(せんてんげき)』ッ!!!」

 

 一閃。

 13階層に天から隕石が落ちたかのような轟音と閃光が炸裂した。

 小竜は頭から半分に割れ魔石ごと塵に消え、衝撃波はダンジョン壁を破壊。そのエネルギーはダンジョンの構造を伝わり、地上にそびえ立つ巨大塔『バベル』を根元から激しく揺さぶった。

 ドォォォォォンッ!!グラグラグラグラッ

 

「……な、なんだ!? 地震か!?」

「バベルが揺れてるぞ! 何が起こった!?」

 

 地上では冒険者や神々がパニックに陥り、叫び声が飛び交う。

 一方、13階層。

 シュタルクの目の前には、小竜どころか、ダンジョンの壁を粉砕し、巨大な凹みを作ってしまった凄惨な光景が広がっていた。

 

「……やりすぎた。これ、知られたら絶対に怒られるやつだ……」

 

 シュタルクは、自分の実力への驚きよりも、誰かに知られたり、エイナさんにバレた時の恐怖で、小竜と対峙した時よりも激しく震えていた。

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