ミレニウス: 生き過ぎた男   作:nocomimi

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その後のこと

俺が勲章を受けたという話はたちまち町中に広がった。

 

これで、俺の仕事運は文字通り反転上昇した。

 

勲章というのは、いわば公のお墨付きである。

 

俺は、どこの馬の骨とも知れないポッと出ではなく、国の認証を受けた剣士として認められたのだ。

 

やがて、身辺警護や剣術教師としての依頼が次々と舞い込んできた。

 

さらには、戦災からの経済復興の一環として神殿群から宝物を回収しようという機運も生じてきたため、

 

ダンジョン探索の仕事も回ってくるようになったのだ。

 

そんなとき、俺は必ずカエルスを誘った。

 

ミレニウスはと言えば、誘っても来ないことが増えてきた。それで、いきおいカエルスが俺にとっての冒険のパートナーになっていったのだ。

 

パーティに参加したほかの剣士たちは、カエルスを見て最初は半信半疑だった。

 

こんなヒョロヒョロの少年が役に立つのか、と。

 

だが、そんな彼らも、ダンジョンから出る頃になると、彼の剣技、勇気、判断力に感服し、何も言えなくなるのが常だった。

 

(しかも後から聞いたところによれば、カエルス少年は実のところコルネリウス長官から『銅獅子勲章』を授けられたらしい。それを知った俺に向かって、カエルス少年は『実力が伴うまで秘密にしておいてくれ』と懇願してきたので、俺は長い間口にモノが挟まったような気分がしていたものだ。)

 

そのようにして、俺はいくつも仕事を掛け持ちしながら忙しく過ごしていた。

 

もちろん、背丈が伸びるにつれどんどん腕を上げるカエルスに負けないよう、自分の稽古も怠らない。

 

そんなある日のことだ。

 

俺は依頼主との打ち合わせが終わって下宿に戻ろうとしていた。すると、もはや聞きなれたあの足音が聞こえてくる。

 

王家直属部隊の行進の足音だ。

 

振り向くと、兵士たちの隊列が街道を西に向かって進んでいる。俺は他の町民たちと一緒に端に寄ると、先頭にいた百人隊長に敬礼した。すると向こうも敬礼を返してきた。

 

ところが、隊列の中に意外な顔を見つけた俺は目を丸くした。

 

ウラヌスだ。両手を縄で縛られ、引かれている。

 

俺は覚えず彼に駆け寄ると、声を掛けた。

 

「おお?若造かぁ。久しぶりだな」

 

彼は俺に気付くと破顔一笑した。俺は彼の手の縄を見ながら尋ねた。

 

「ウラヌス...あんたまさか.....」

 

「へへ...安心しな。本来死刑のところを、罪一等を減じて追放刑で済んだのさ。王女様に精一杯媚を売っておいたのが効いたよ」

 

俺は安堵すると同時に驚いた。『王女誘拐未遂犯』という状況からどういう媚を売れば減刑されるのか、想像もつかなかった。

 

彼は俺の耳元にそっと口を寄せると、こう言った。

 

「こう言ってやったのさ。『王女様を誘拐したのは、あまりに美しいので心を奪われたからで、敵に売り飛ばすためでなく自分の妻にしたかったからです』ってな」

 

俺は呆れて目を白黒させた。カエルス少年の前で嘘をついたことを後悔した自分が阿呆らしくなってしまった。

 

そうこうしているうちに、隊列は街はずれについた。ウラヌスの手の縄が解かれ、追放が改めて言い渡されると、元傭兵団長は思い切り伸びをしながら言った。

 

「ああ、豚箱暮らしに比べりゃ百倍マシだぜ。あばよ百人隊長さんよ!」

 

俺はウラヌスを見送るため、しばらく道中を付き合った。奇妙な気がしたが、そうしたいと思ったのだ。

 

すると、戻ってこないよう見張っている兵士たちから距離が離れたところで、ウラヌスは俺の肩を引き寄せこう言ってきた。

 

「...なあ若造。俺と組んで他の地方で商売やらねぇか?」

 

「商売?」

 

俺は素っ頓狂な声を上げた。

 

「ああ。種銭はたっぷりある。剣士なんかよりよっぽど儲かる仕組みを俺が考えてやるからよ。お前は見た感じが真面目そうだから、営業担当だ」

 

「遠慮しとくよ。第一、最近まで死刑囚だったあんたが種銭なんてどうやって...」

 

俺が答えると、ウラヌスは懐から袋を取り出した。その口を少し開くと、中には金貨がぎっしり入っている。

 

「な?」

 

「い.......いったいどうやって?」

 

俺は度肝を抜かれた。

 

「神殿から燭台とか香壇とかを盗み出して売り払ったらいいカネになったのさ。おかげで部下どもの退職金も払えたしな。結構実入りのイイ仕事だったよ、今回のは」

 

俺は呆れ果て苦笑してしまった。

 

「まったくあんたもやり手だな。だけど...俺はやっぱり剣士がいいよ。商売ならあんた一人でやってくれ」

 

「チェッ...面白くねえ」

 

ウラヌスはやや唇を曲げると、金貨袋を仕舞いながら言った。

 

「ま、実入りの良くねえ剣士稼業を続けたいってぇならそれもいいさ。じゃ、頑張れよ」

 

彼は街道を西に向かって足早に歩き始めた。

 

俺は立ち止まり、彼の丸っこい背中が離れていくのを眺めていたが、やがて踵を返した。

 

すると、町の方角から人影がやってくるのが見えた。

 

大人の男ひとり、そして少年と少女が一人づつ。

 

ミレニウスと、カエルス、そしてリラ嬢だ。

 

「ミ....ミレニウス?」

 

俺は驚いて彼に駆け寄った。ミレニウスは、古風な股引にゲートル、腰に剣を提げ、背中には袋を背負っている。旅装束だ。

 

「どうしたんだよ、その恰好は?」

 

俺が尋ねると、彼は恥ずかしそうに頭を掻いた。

 

「...黙ってて悪かったな、セヴルス。実はもうだいぶ前から、町を離れようって思ってたんだ」

 

「な...なんでだよ?」

 

俺が尋ねると、カエルス少年が代わりに答えた。

 

「ミレニウスさん....あの勲章の一件があって以来、しょっちゅう町民から声を掛けられるようになっちゃったんです。新聞やなんかも沢山尋ねてくるし、中には『ミレニウスを題材にした劇を上演したい』なんて言い出す人も出てきて....」

 

カエルスが説明を続けた。

 

「それで、しまいには『うちの娘と結婚してくれ』って申し込んでくる人まで....」

 

「……結婚?」

 

俺は思わず聞き返した。

 

リラ嬢がため息をついた。

 

「ほんとよ。『英雄の嫁になれば家が安泰だ』って。おじさん、毎日逃げ回ってたわ」

 

俺は困惑するとともに、彼が困っていたことに気付かなかった自分の鈍感さを恥じた。

 

剣士の仕事がなかったころは、どうやって仕事を手に入れるかということしか頭になく、剣士の仕事が舞い込み始めてからは、どうやって仕事を回していくかということしか考えなかった。

 

――こんな俺は、ミレニウスの友人として失格だ。打ちのめされた気がした。

 

「気にすんじゃねぇ、セヴルス」

 

彼は心を読んだかのようにそう言うと俺の肩を叩いた。

 

「...いずれこうなることに決まってたのさ。俺みたいな奴は一つの町に長い間いられねぇ。いや、いちゃならねぇのさ」

 

「そうか.....」

 

俺は彼の顔を見た。落胆と寂しさで心が沈んだ。ミレニウスは続ける。

 

「ま、しばらくほとぼりが冷めるまでな。その後はまた来るかも知れねぇし」

 

「しばらくって...どれくらいだ?」

 

俺が尋ねると、彼は空を見上げながら答えた。

 

「まあ...百年くらいかな」

 

「おいおい....もう俺は生きてないじゃないか」

 

だがミレニウスは何も答えず笑った。その笑いは、邪気のない、しかしどこか寂し気な笑いだった。

 

「おじさん...ありがとね」

 

リラ嬢が進み出てミレニウスの手を握った。

 

「うち、おじさんのお陰で人生の目的がわかった気がする。復讐じゃなくて、やらなきゃならないことが他にあるって、わかったわ」

 

「リラさんは、魔法学校に通うことになったんです」

 

カエルス少年が言う。リラ嬢が言葉を継いだ。

 

「...うち...お父さんのやり残した仕事を完成させたい。神殿の地下にまだ残ってる収集機を『絶対に開けられないように』封印する。それがうちの仕事だって」

 

「そうか...頑張れよ、リラ」

 

ミレニウスは彼女の頭を撫でると目を細めた。

 

「本当に、行くんだな...」

 

俺が呟くと、彼は頷き、俺の肩をそっと拳でつついてから歩き出した。

 

俺は、カエルス少年とリラ嬢とともにその後ろ姿を見えなくなるまで見送った。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * 

 

こうして、ミレニウスという男と一緒に戦った俺の奇妙な冒険は終わった。

 

だが、ミレニウスは今もどこかでひっそりと暮らしているのだ。

 

だから、俺は思うことがある。

 

剣士として冒険をしているうちに、あいつとまたバッタリ会うこともあるのではないか、と。

 

そうなった時、俺はあいつにこう言われたい。

 

「ん....?セヴルスお前腕上げたんじゃねぇか?」

 

なので、俺は毎日修行に励んでいる。

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