マンダレイの弟はゲッターの尖兵 〜ピクシーボブによる逆光源氏計画遂行中〜 作:お粥のぶぶ漬け
雄英高校の入学式を数日後に控えた、ある春の日。
竜は魔獣の森の拠点にあるプライベートジムで、限界まで肉体を追い込んでいた。
「998……999……1000!」
最後の一回を終え、バーベルをラックに戻す。
前世の記憶にある「流竜馬」の荒々しさを宿したその肉体は、15歳にして完成されていた。ゲッター線による細胞レベルの最適化と、プロヒーロー二人による地獄の特訓。贅肉を削ぎ落とし、鋼の密度を誇る広背筋、血管の浮き出た分厚い胸板、そして獣のような荒い呼吸。
「……ふぅ。まだだ。まだ炉心の出力に肉体が負けてる」
滴る汗を拭いもせず、竜が独りごちたその時。背後の扉が静かに開いた。
「……竜、タオルを持ってきたわよ」
現れたのは実姉、信乃(マンダレイ)だった。だが、彼女の足が止まる。
湯気を上げる竜の肉体――10年前の「可愛い弟」の面影はどこにもない。そこにあるのは、人知を超えたエネルギーを宿し、爆発せんばかりの生命力を放つ「雄」の完成形だった。
(……あぁ、なんて……なんて逞しいの……)
信乃の視線が、竜の背筋のうねりに釘付けになる。彼女の脳は、プロヒーローとしての理性を焼き切られ、ただの「一人の女」として、目の前の暴力的なまでの肉体美に支配されていた。
弟を支え、守ってきたはずの自分が、今はその肉体に組み伏せられたいという衝動に駆られている。
「信乃姉? どうした、そんなところでボーッとして」
「……っ! い、いえ……なんでもないわ」
竜が振り向いた瞬間、信乃は思わず息を呑んだ。汗に濡れた顔、不敵な眼光。彼女の個性『テレパス』が、竜の体から溢れる「熱」を直接拾い上げ、彼女の理性をさらに融解させる。
姉として愛さなければならない。なのに、脳が求めているのは「弟」ではなく「この男」なのだ。
「ちょっと信乃! 一人で竜を独占しようなんてズルいわよ!」
そこへ、トレーニングウェア姿の流子(ピクシーボブ)が飛び込んできた。彼女は迷うことなく、竜の汗ばんだ腕に自分の腕を絡める。
「竜、本当にいい体になったわね! 流石私が選んだ男!最高の仕上がりじゃん! 雄英に行っても、浮気は許さないんだから。あなたの心も体も、いただくのは最初に唾つけた私なんだからね!」
流子の直球な欲望。28歳の成熟した肉体を押し付け、所有権を主張する。
だが、その様子を見つめる信乃の瞳には、かつての「宥め役」の余裕はなかった。
「……流子、そのあたりに。竜が困っているわ」
信乃の声は低く、どこか湿り気を帯びていた。流子の攻勢に、これまで隠していた「女としての嫉妬」が混ざり始める。
安息の終わり
その夜。夕食を終えた竜が自室で明日の準備をしていると、信乃が一人で部屋を訪れた。
彼女は言葉を交わさず、背後から竜の広い背中にそっと額を預ける。
「信乃姉……?」
「……竜。数日後にはあなたは、私の目の届かないところへ行ってしまうのね」
信乃の手が、竜の逞しい腕を震えながらなぞる。
実の姉弟。超えてはならない一線。だが、昼間に見たあの肉体の残像が、彼女の脳から離れない。
「私は……あなたが人を辞めることになっても構わない。ゲッターの尖兵でも構わない。……ただ、私のことだけは、忘れないで」
信乃の瞳から一滴の涙がこぼれ、竜の肩を濡らす。
それは聖母のような慈愛ではなく、愛する男を繋ぎ止めたいと願う、一人の女の執着だった。
竜は何も言わず、ただその熱を受け止める。
進化を司るゲッター線でさえ、この28歳の女性たちの情念を解析し切ることはできないだろう。