ドブカス(本物)のヒーローアカデミア   作:むめい。

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感想かんしゃ。

最近ドブカスで別のも書いてみようと思ってるんだけど・・・ブルーアーカイブは既にあのお方が書いている(尊敬)。

ドブカス(本物)でストーリー全然違かったら盗作にならないか・・・?他に面白そうな舞台あるかなー


4話 音もなって派手で・・・どっかのおもちゃみたいやね?

 

 幼稚園に通い始めてしばらくした頃には、群れの輪郭もだいぶ見えてきていた。

 

 誰がうるさいか。誰が泣けば得をするか。誰が先生に気に入られているか。誰が中心に立ちたがって、誰がその後ろをちょろちょろついて回るか。最初は全部ひとまとめにクソガキで済ませていたけど、毎日同じ箱に押し込まれていると、さすがに差も見えてくる。

 

 あの目つきの悪いガキは、その頃にはもう教室の真ん中におった。

 

 いや、正確には最初からそこに居たがっていた、やな。

 

 声がでかい。足音もうるさい。何をするにも一番前。一番早い。一番強い。そういう顔を、朝から晩まで崩さへん。ガキのくせにようやるわと思う反面、無理してる感じがないのが腹立つ。あいつは本気で、自分が一番であるべきやと思っとる。周りにそう思わせたいんやなくて、自分でそう信じとる顔や。

 

 せやから、群れはああいうのに弱い。

 

 分かりやすいからや。

 

 強そう。怖そう。偉そう。子供は単純や。大人も大概やけどな。

 

 その日も、自由遊びの時間やった。教室の隅でブロックを積んでるやつ、絵本を広げてるやつ、先生にまとわりついてるやつ。もじゃもじゃのそばかすは今日も今日とて、あの目つきの悪いガキの後ろをうろちょろしていた。よう飽きへんなと思う。

 

「かっちゃん、それすごいね」

「当たり前だろ! オレが作ったんだぞ!」

 

 偉そうな声が響く。見ると、あいつが積み木を高く組んでいた。周りのガキが「すごーい」とかなんとか囃し立てている。ほんま、薄い。高く積めたくらいでそんなに騒げるんやから、幸せな頭してるわ。

 

 けど、その空気が一瞬で変わった。

 

 横から別のガキがぶつかって、積み木の塔が崩れた。

 

「あっ」

 

 乾いた音を立てて、木片が床に散らばる。

 

 教室が、しんとした。

 

 あの目つきの悪いガキが止まっていた。口を真一文字に結んで、散らばった積み木を見下ろしている。肩がぴくりと揺れる。怒る。ああいうやつは分かりやすい。次に何が来るかくらい、誰にでも分かる。

 

 ぶつかったガキが、青い顔で一歩引いた。

 

「ご、ごめ……」

 

 言い終わる前やった。

 

 ぱん、と小さな破裂音が鳴った。

 

 空気が弾けるみたいな音やった。乾いていて、短くて、妙に鋭い。床の上で、あいつの手のひらが一瞬だけ光ったように見えた。散らばった積み木が、その衝撃で跳ねる。ぶつかったガキが尻餅をついて、目を丸くした。

 

 教室の空気が凍る。

 

 先生まで止まっていた。

 

 俺も、その音の質を測るみたいに目を細めた。

 

 ……へえ。

 

 煙ほどでもない白い靄が、手のひらのあたりからふっと散って消える。火薬の匂いに似てるけど、もっと浅い。熱も一瞬。けど威嚇としては十分やった。分かりやすい。派手で、目を引いて、しかも“自分の力”やと誰が見ても分かる。

 

 一拍遅れて、周りが騒ぎ出した。

 

「いまのなに!?」

「すごい!」

「かっちゃんのて、ばーんってした!」

 

 さっきまで怯えてたガキまで、泣くのを忘れてぽかんとしてる。ほんま、現金やな。怖いのとすごいの区別もついてへん。ただ目立つものに、先に心が持っていかれる。

 

「かっちゃん、いまの……!」

 

 もじゃもじゃのそばかすが、誰より先に食いついた。目をきらきらさせて、一歩前へ出る。さっきまでの空気なんかもう忘れてる顔や。観察して、憧れて、追いかける側の目やった。

 

 先生がようやく我に返る。

 

「すごい……! 勝己くん、今の、もしかして個性かな!?」

 

 その声には驚きと、それ以上に喜びが混じっていた。

 

 あいつ……勝己いうんか。

 

 勝己は、自分の手を見ていた。怒りで出たんやろうに、本人も少しだけ驚いてる。けど次の瞬間には口元が持ち上がっていた。もう分かっとる顔や。自分が“持ってる側”やと、そう理解した顔。

 

「……オレのだ」

 

 小さいのに、妙に確信のある声やった。

 

 先生は完全に嬉しそうやった。

 

「派手で目立つね! 勝己くん、すごいよ。ヒーロー向きの個性かもしれないね!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、教室の空気が一気に傾いた。

 

 すごい。ヒーロー。かっこいい。

 

 そんな単語が子供らの口から勝手に零れていく。たった今まで積み木を壊して、半泣きのガキを尻餅つかせたやつを、大人が笑顔で褒める。その理由は簡単や。派手やから。分かりやすいから。強そうやから。

 

 ……なるほどな。

 

 俺は椅子に座ったまま、その騒ぎを眺めていた。

 

 よう分かった。

 

 この世界の連中は、強さそのものを見てるんやない。強そうに見えるものを、先に持ち上げる。中身やなくて、音と絵で判断する。爆ぜて、光って、目に見えて、誰でも一瞬で理解できる。そういう力が好きなんや。

 

 分かりやすい舞台やな。

 

 勝己はもう周りの真ん中にいた。褒められて当然みたいな顔で顎を上げている。あいつは、たぶんあの瞬間に確信したんやろう。自分は他のガキとは違う、自分は上に立てる側やと。

 

 間違ってへん。

 

 少なくとも、この教室の中ではな。

 

 もじゃもじゃのそばかすが、その横で興奮した声を上げていた。

 

「かっちゃんすごい! いまの、ばーんって! すっごかった!」

 

 語彙が死んどるなと思う。けど、あいつなりに本気で感動してるのは伝わった。目の前で“才能”が発現した瞬間を見たやつの顔や。憧れと劣等と興奮が一気に混ざった、ああいう目は鬱陶しいけど覚えやすい。

 

 勝己はその声に気を良くしたんか、にやりと笑った。

 

「当たり前だろ。オレはすげーんだよ」

 

 先生は苦笑いしながらも否定せえへん。周りのガキはすげえすげえと騒ぐだけ。誰も、その力が何を壊せるかとか、どう使うべきかとか、そんな話はせえへん。

 

 ヒーロー向き。

 

 その一言で全部片づくんやから、安いもんや。

 

 俺は肘をついて、頬杖のまま小さく息を吐いた。

 

 個性、か。

 

 ああやって発現した瞬間から、力は“才能”になって、“才能”は“将来”に変わる。まだガキの手のひらで積み木を弾いただけやのに、もう周りはヒーローの話をしている。早い。雑。せやけど、この世界はたぶん、ずっとそうやって回ってる。

 

 なら、利用せん手はない。

 

 呪力と術式のことは誰も知らん。知らんからこそ、個性いう札を貼られた力だけが、公然と価値を持つ。なら俺も、いずれ表に出す時はそうするだけや。分かりやすい形に整えて、そういうもんやと見せてやればええ。

 

 せやけど、ひとつだけ。

 

 騒ぎの中心で得意げに笑う勝己を見ながら、俺は少しだけ眉を寄せた。

 

 派手で、目立つ。分かりやすく強い。

 確かに、こういうのは好かれるやろう。

 

 けど、浅い。

 

 音が鳴って、目を引いて、それで終わりや。

 速さも、詰め方も、潰し方も、まだ何も知らん。

 ただ、最初の一枚を派手に切っただけや。

 

 ……まあ、五歳児にしては上出来か。

 

 その時、不意に勝己がこっちを見た。

 

 褒められて上機嫌の顔のままやのに、目だけが笑ってへん。周りが騒いでる中で、一人だけ冷めた顔をしてる俺が気に食わんかったんやろう。いかにも、って目つきで睨んでくる。

 

 俺はその視線を受けて、ほんの少しだけ口元を吊り上げた。

 

 勝己の眉がぴくりと動く。

 

 ああ。

 分かりやすい。

 ほんまに、分かりやすい。

 

 この世界では、派手な火花ひとつで王様になれるらしい。

 なら、その王様ごっこがどこまで通じるんか、見物させてもらおか。

 

 ■

 

 騒ぎが少し落ち着いて、先生がようやく場をまとめにかかった頃やった。

 

 勝己はまだ興奮の残った顔で、けどさっきよりずっと偉そうに歩いていた。自分の手を何度も見て握って開いて、それから周りの視線を受け止める。もう分かっとる顔や。たった今、自分がこの教室の真ん中に立てる側やと知ったやつの顔。

 

 子供のくせに、板につくのが早い。

 

 ほんで、そういうやつは大体、次に何をするかも単純や。

 

 自分の位置を確かめたなる。

 

 誰が下で、誰が横で、誰が邪魔か。

 それを知りたがる。

 

 勝己は真っすぐこっちへ来た。

 

 教室の真ん中で褒められて、気分良う笑っていた顔のままやのに、目だけが妙に据わってる。興奮してるくせに、ちゃんと喧嘩売りに来る目やった。群れの中心に立った瞬間、次は自分より上が居らんか確かめに来る。分かりやすくて助かる。

 

「おい」

 

 俺は机に肘をついたまま、視線だけ上げた。

 

「なんや」

「おまえの個性、なんだ?」

 

 来たか、と思った。

 

 周りのガキどもも、近くで聞き耳を立ててる。もじゃもじゃのそばかすなんか、半歩後ろから目を丸くしてこっちを見ていた。ほんま、よう見とる。

 

 俺は少しだけ首を傾けた。

 

「なんで教えなあかんねん」

「はァ? だってあるだろ」

「あるかないかも含めて、手札は見せるもんちゃうんやで」

 

 そう言うと、勝己は一瞬だけぽかんとした。

 言い回しが気に食わんかったんか、すぐに眉を吊り上げる。

 

「なにカッコつけてんだよ。言えねぇだけだろ」

 

 ……はぁ。

 

 煽り方に迷いがない。雑やけど、ちゃんと相手を小馬鹿にしようとしてる。年齢のわりに筋がええ。腹立つけど。

 

「べつに、ないんやったらないでええんやで〜?」

 

 口元をにやつかせながら、勝己は続けた。

 

「さっきからずっとすましてっけど、ほんとはなんもねぇんだろ。だから見てるだけなんだよな?」

 

 周りのガキがざわつく。

 単語の意味を全部理解してへんやつまで、空気だけで「お、なんか始まる」みたいな顔をしていた。群れっちゅうのはほんまくだらん。火種の匂いだけで集まってくる。

 

 もじゃもじゃのそばかすが、おろおろした顔で勝己と俺を見比べていた。止める勇気は無い。けど目だけはきっちり逸らさん。面倒なやつや。

 

 勝己はさらに一歩近づいてきた。

 

「オレのはすげぇ個性だ。先生も言ってた。ヒーロー向きなんだよ」

「せやな」

「……は?」

「派手で分かりやすい。あんなん、そら褒められるわ」

 

 俺がそう言うと、勝己の顔が少しだけ歪んだ。

 

 褒められてるのに、気に食わん顔やった。

 分かる。言葉の中に混ざった温度が、たぶん届いたんやろう。

 

「なんだよそれ」

「そのままや。ええ個性やと思うで。音鳴って、目立って、見栄えもする。ガキも大人も好きそうや」

 

 教室の空気が少しだけ冷えた。

 

 勝己の肩が上がる。

 こいつ、自分でも分かってるんやろうな。褒められてるようで、違う。持ち上げられてるようで、下に見られてる。その感触だけは、子供でも嗅ぎ取る。

 

「……おまえ、ムカつく」

「知っとる」

「なら見せろよ。おまえの個性」

 

 しつこいな、と思う。

 けど、それ以上に、言い方が気に食わんかった。

 

 見せろ。

 

 命令みたいに言うなや。

 しかも、自分が少し目立っただけで、もう他人の札まで確認した気になっとる。

 

 腹の底が、ぬるく熱を持った。

 

「言うたやろ」

 

 俺はゆっくり立ち上がった。

 

「手札は見せるもんちゃうんやで」

 

 勝己は顎を上げたまま、睨み返してくる。

 

「見せられねぇだけだろ」

 

 その一言で、何かが切れた。

 

 大したことやない。

 大人なら鼻で流す程度の煽りや。

 けど五歳の身体は、妙に短気やった。感情の走り方が浅い。頭では分かってても、熱が先に出る。

 

 ……ほんま、鬱陶しい。

 

 腹の底へ意識を落とす。

 呪力はもう、呼べば返ってくる。問題は術式や。

 

 視界を切る。

 一秒。二十四枚。

 床の木目。勝己の肩の位置。机の角。足の長さ。今の身体で踏める幅。膝の高さ。重心の浅さ。全部を一気に拾って、コマを並べる。

 

 まだ雑や。

 まだ短い。

 せやけど、届く範囲で組めばええ。

 

 俺は呼吸をひとつだけ浅く吸って、意識の中で未来を定めた。

 

 行け。

 

 次の瞬間、世界が少しだけ切り替わった。

 

 身体が勝手に動く。

 右足、左足、捻り、踏み込み。

 決めた通りをなぞる感覚は、やっぱり気持ちええ。自分で動かしてるというより、組んだ未来へ身体が追いついてくる感触や。

 

 勝己の横を抜ける。

 教室の反対側まで、一気に詰める。

 

 椅子の脚、机の角、散らばった積み木。

 それを縫うみたいに滑って、最後の一歩で止まった。

 

 遅れて、教室の空気がざわつく。

 

「はやっ」

「え、いま、あっちいたのに!」

「すごーい!」

 

 子供らの声が一斉に上がった。

 もじゃもじゃのそばかすなんか、口まで開けて固まっている。先生まで目を丸くしていた。教室の端から端まで、五歳児の動きとしては十分すぎる速さや。今の身体でも、良うて車くらいの勢いは出たはずやった。

 

 せやのに。

 

 俺は、止まった瞬間に舌打ちしたくなった。

 

 勝己が、こっちを見ていたからや。

 

 完全には追いついてへん。

 けど、見失ってもいない。

 

 目が、ちゃんと最後までこっちを追ってた。

 

 ……は?

 

 胸の奥に、じわりと嫌な熱が広がる。

 

 褒められてる声は聞こえてる。

 速い、すごい、個性だ、みたいな浅い言葉が飛んでる。

 先生まで「直哉くんも個性が……!」とかなんとか言いかけていた。

 

 そんなもん、どうでもええ。

 

 問題はそこやない。

 

 今のは、もっと“消える”はずやった。

 少なくとも、五歳児の目で追える筋合いはない。

 こっちはコマを切って、未来を組んで、その通りをなぞったんやぞ。

 

 なんで見えとんねん。

 

 勝己は驚いた顔のままやった。

 けど、その驚きの奥に、ちゃんと食らいつく目が残っている。理解できてへん。でも「速かった」とだけ認識して終わってへん顔や。

 抜かれた。見せつけられた。せやけど、そこで終わる気は無い。そういう目やった。

 

「……すごい」

 

 誰かが呟く。

 

 勝己は数秒遅れて、ぐっと歯を食いしばった。

 

「……っ、もう一回やれ!」

 

 その声に、俺は余計に腹が立った。

 

 褒められて当然、驚いて当然、圧倒されて当然。

 本来はそうなるはずやった。

 なのに目の前のクソガキは、呆けるより先に食らいついてくる。

 しかも「何や今の」とか「見えへんかった」とかやない。「もう一回やれ」や。

 

 気に食わん。

 

 先生が慌てて間に入ろうとする。

 

「ちょ、ちょっと待って、二人とも……」

 

 周りのガキどもも口々に騒ぐ。

 すごい。はやい。かっこいい。そんな声が飛び交ってる。

 けど、その全部が薄かった。

 

 俺は勝己を見たまま、ゆっくり息を吐いた。

 

 速かった。

 それは事実や。

 

 けど、足りへん。

 

 今の器じゃ、まだこの程度か。

 脚の長さも、体幹も、踏み込みも、浅い。

 組めるコマが子供仕様に引きずられとる。

 前世の感覚から見たら、笑えるくらい鈍い。

 

 褒める声がうるさい。

 それ以上に、目で追われた事実が鬱陶しい。

 

 俺は小さく口の中で吐き捨てた。

 

「……クソが」

 

 勝己の眉がぴくりと動く。

 たぶん、自分に向けられた悪態やと思ったんやろう。半分は当たりや。半分は、この身体にや。

 

 術式は動いた。

 せやけど、まるで足らん。

 

 こんなんで“見せた”ことになるかいな。

 

 俺は席に戻りながら、腹の底でぐつぐつと煮える苛立ちを噛み潰した。

 

 勝己はまだこっちを見ていた。

 さっきまでの得意顔は消えている。代わりに、獣みたいな目があった。

 悔しさと、興奮と、負けたくない熱だけで出来た目や。

 

 ……面倒やな。

 

 ほんで、腹立つことに。

 ああいう目は、嫌い切れへんかった。

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