最近ドブカスで別のも書いてみようと思ってるんだけど・・・ブルーアーカイブは既にあのお方が書いている(尊敬)。
ドブカス(本物)でストーリー全然違かったら盗作にならないか・・・?他に面白そうな舞台あるかなー
幼稚園に通い始めてしばらくした頃には、群れの輪郭もだいぶ見えてきていた。
誰がうるさいか。誰が泣けば得をするか。誰が先生に気に入られているか。誰が中心に立ちたがって、誰がその後ろをちょろちょろついて回るか。最初は全部ひとまとめにクソガキで済ませていたけど、毎日同じ箱に押し込まれていると、さすがに差も見えてくる。
あの目つきの悪いガキは、その頃にはもう教室の真ん中におった。
いや、正確には最初からそこに居たがっていた、やな。
声がでかい。足音もうるさい。何をするにも一番前。一番早い。一番強い。そういう顔を、朝から晩まで崩さへん。ガキのくせにようやるわと思う反面、無理してる感じがないのが腹立つ。あいつは本気で、自分が一番であるべきやと思っとる。周りにそう思わせたいんやなくて、自分でそう信じとる顔や。
せやから、群れはああいうのに弱い。
分かりやすいからや。
強そう。怖そう。偉そう。子供は単純や。大人も大概やけどな。
その日も、自由遊びの時間やった。教室の隅でブロックを積んでるやつ、絵本を広げてるやつ、先生にまとわりついてるやつ。もじゃもじゃのそばかすは今日も今日とて、あの目つきの悪いガキの後ろをうろちょろしていた。よう飽きへんなと思う。
「かっちゃん、それすごいね」
「当たり前だろ! オレが作ったんだぞ!」
偉そうな声が響く。見ると、あいつが積み木を高く組んでいた。周りのガキが「すごーい」とかなんとか囃し立てている。ほんま、薄い。高く積めたくらいでそんなに騒げるんやから、幸せな頭してるわ。
けど、その空気が一瞬で変わった。
横から別のガキがぶつかって、積み木の塔が崩れた。
「あっ」
乾いた音を立てて、木片が床に散らばる。
教室が、しんとした。
あの目つきの悪いガキが止まっていた。口を真一文字に結んで、散らばった積み木を見下ろしている。肩がぴくりと揺れる。怒る。ああいうやつは分かりやすい。次に何が来るかくらい、誰にでも分かる。
ぶつかったガキが、青い顔で一歩引いた。
「ご、ごめ……」
言い終わる前やった。
ぱん、と小さな破裂音が鳴った。
空気が弾けるみたいな音やった。乾いていて、短くて、妙に鋭い。床の上で、あいつの手のひらが一瞬だけ光ったように見えた。散らばった積み木が、その衝撃で跳ねる。ぶつかったガキが尻餅をついて、目を丸くした。
教室の空気が凍る。
先生まで止まっていた。
俺も、その音の質を測るみたいに目を細めた。
……へえ。
煙ほどでもない白い靄が、手のひらのあたりからふっと散って消える。火薬の匂いに似てるけど、もっと浅い。熱も一瞬。けど威嚇としては十分やった。分かりやすい。派手で、目を引いて、しかも“自分の力”やと誰が見ても分かる。
一拍遅れて、周りが騒ぎ出した。
「いまのなに!?」
「すごい!」
「かっちゃんのて、ばーんってした!」
さっきまで怯えてたガキまで、泣くのを忘れてぽかんとしてる。ほんま、現金やな。怖いのとすごいの区別もついてへん。ただ目立つものに、先に心が持っていかれる。
「かっちゃん、いまの……!」
もじゃもじゃのそばかすが、誰より先に食いついた。目をきらきらさせて、一歩前へ出る。さっきまでの空気なんかもう忘れてる顔や。観察して、憧れて、追いかける側の目やった。
先生がようやく我に返る。
「すごい……! 勝己くん、今の、もしかして個性かな!?」
その声には驚きと、それ以上に喜びが混じっていた。
あいつ……勝己いうんか。
勝己は、自分の手を見ていた。怒りで出たんやろうに、本人も少しだけ驚いてる。けど次の瞬間には口元が持ち上がっていた。もう分かっとる顔や。自分が“持ってる側”やと、そう理解した顔。
「……オレのだ」
小さいのに、妙に確信のある声やった。
先生は完全に嬉しそうやった。
「派手で目立つね! 勝己くん、すごいよ。ヒーロー向きの個性かもしれないね!」
その言葉を聞いた瞬間、教室の空気が一気に傾いた。
すごい。ヒーロー。かっこいい。
そんな単語が子供らの口から勝手に零れていく。たった今まで積み木を壊して、半泣きのガキを尻餅つかせたやつを、大人が笑顔で褒める。その理由は簡単や。派手やから。分かりやすいから。強そうやから。
……なるほどな。
俺は椅子に座ったまま、その騒ぎを眺めていた。
よう分かった。
この世界の連中は、強さそのものを見てるんやない。強そうに見えるものを、先に持ち上げる。中身やなくて、音と絵で判断する。爆ぜて、光って、目に見えて、誰でも一瞬で理解できる。そういう力が好きなんや。
分かりやすい舞台やな。
勝己はもう周りの真ん中にいた。褒められて当然みたいな顔で顎を上げている。あいつは、たぶんあの瞬間に確信したんやろう。自分は他のガキとは違う、自分は上に立てる側やと。
間違ってへん。
少なくとも、この教室の中ではな。
もじゃもじゃのそばかすが、その横で興奮した声を上げていた。
「かっちゃんすごい! いまの、ばーんって! すっごかった!」
語彙が死んどるなと思う。けど、あいつなりに本気で感動してるのは伝わった。目の前で“才能”が発現した瞬間を見たやつの顔や。憧れと劣等と興奮が一気に混ざった、ああいう目は鬱陶しいけど覚えやすい。
勝己はその声に気を良くしたんか、にやりと笑った。
「当たり前だろ。オレはすげーんだよ」
先生は苦笑いしながらも否定せえへん。周りのガキはすげえすげえと騒ぐだけ。誰も、その力が何を壊せるかとか、どう使うべきかとか、そんな話はせえへん。
ヒーロー向き。
その一言で全部片づくんやから、安いもんや。
俺は肘をついて、頬杖のまま小さく息を吐いた。
個性、か。
ああやって発現した瞬間から、力は“才能”になって、“才能”は“将来”に変わる。まだガキの手のひらで積み木を弾いただけやのに、もう周りはヒーローの話をしている。早い。雑。せやけど、この世界はたぶん、ずっとそうやって回ってる。
なら、利用せん手はない。
呪力と術式のことは誰も知らん。知らんからこそ、個性いう札を貼られた力だけが、公然と価値を持つ。なら俺も、いずれ表に出す時はそうするだけや。分かりやすい形に整えて、そういうもんやと見せてやればええ。
せやけど、ひとつだけ。
騒ぎの中心で得意げに笑う勝己を見ながら、俺は少しだけ眉を寄せた。
派手で、目立つ。分かりやすく強い。
確かに、こういうのは好かれるやろう。
けど、浅い。
音が鳴って、目を引いて、それで終わりや。
速さも、詰め方も、潰し方も、まだ何も知らん。
ただ、最初の一枚を派手に切っただけや。
……まあ、五歳児にしては上出来か。
その時、不意に勝己がこっちを見た。
褒められて上機嫌の顔のままやのに、目だけが笑ってへん。周りが騒いでる中で、一人だけ冷めた顔をしてる俺が気に食わんかったんやろう。いかにも、って目つきで睨んでくる。
俺はその視線を受けて、ほんの少しだけ口元を吊り上げた。
勝己の眉がぴくりと動く。
ああ。
分かりやすい。
ほんまに、分かりやすい。
この世界では、派手な火花ひとつで王様になれるらしい。
なら、その王様ごっこがどこまで通じるんか、見物させてもらおか。
■
騒ぎが少し落ち着いて、先生がようやく場をまとめにかかった頃やった。
勝己はまだ興奮の残った顔で、けどさっきよりずっと偉そうに歩いていた。自分の手を何度も見て握って開いて、それから周りの視線を受け止める。もう分かっとる顔や。たった今、自分がこの教室の真ん中に立てる側やと知ったやつの顔。
子供のくせに、板につくのが早い。
ほんで、そういうやつは大体、次に何をするかも単純や。
自分の位置を確かめたなる。
誰が下で、誰が横で、誰が邪魔か。
それを知りたがる。
勝己は真っすぐこっちへ来た。
教室の真ん中で褒められて、気分良う笑っていた顔のままやのに、目だけが妙に据わってる。興奮してるくせに、ちゃんと喧嘩売りに来る目やった。群れの中心に立った瞬間、次は自分より上が居らんか確かめに来る。分かりやすくて助かる。
「おい」
俺は机に肘をついたまま、視線だけ上げた。
「なんや」
「おまえの個性、なんだ?」
来たか、と思った。
周りのガキどもも、近くで聞き耳を立ててる。もじゃもじゃのそばかすなんか、半歩後ろから目を丸くしてこっちを見ていた。ほんま、よう見とる。
俺は少しだけ首を傾けた。
「なんで教えなあかんねん」
「はァ? だってあるだろ」
「あるかないかも含めて、手札は見せるもんちゃうんやで」
そう言うと、勝己は一瞬だけぽかんとした。
言い回しが気に食わんかったんか、すぐに眉を吊り上げる。
「なにカッコつけてんだよ。言えねぇだけだろ」
……はぁ。
煽り方に迷いがない。雑やけど、ちゃんと相手を小馬鹿にしようとしてる。年齢のわりに筋がええ。腹立つけど。
「べつに、ないんやったらないでええんやで〜?」
口元をにやつかせながら、勝己は続けた。
「さっきからずっとすましてっけど、ほんとはなんもねぇんだろ。だから見てるだけなんだよな?」
周りのガキがざわつく。
単語の意味を全部理解してへんやつまで、空気だけで「お、なんか始まる」みたいな顔をしていた。群れっちゅうのはほんまくだらん。火種の匂いだけで集まってくる。
もじゃもじゃのそばかすが、おろおろした顔で勝己と俺を見比べていた。止める勇気は無い。けど目だけはきっちり逸らさん。面倒なやつや。
勝己はさらに一歩近づいてきた。
「オレのはすげぇ個性だ。先生も言ってた。ヒーロー向きなんだよ」
「せやな」
「……は?」
「派手で分かりやすい。あんなん、そら褒められるわ」
俺がそう言うと、勝己の顔が少しだけ歪んだ。
褒められてるのに、気に食わん顔やった。
分かる。言葉の中に混ざった温度が、たぶん届いたんやろう。
「なんだよそれ」
「そのままや。ええ個性やと思うで。音鳴って、目立って、見栄えもする。ガキも大人も好きそうや」
教室の空気が少しだけ冷えた。
勝己の肩が上がる。
こいつ、自分でも分かってるんやろうな。褒められてるようで、違う。持ち上げられてるようで、下に見られてる。その感触だけは、子供でも嗅ぎ取る。
「……おまえ、ムカつく」
「知っとる」
「なら見せろよ。おまえの個性」
しつこいな、と思う。
けど、それ以上に、言い方が気に食わんかった。
見せろ。
命令みたいに言うなや。
しかも、自分が少し目立っただけで、もう他人の札まで確認した気になっとる。
腹の底が、ぬるく熱を持った。
「言うたやろ」
俺はゆっくり立ち上がった。
「手札は見せるもんちゃうんやで」
勝己は顎を上げたまま、睨み返してくる。
「見せられねぇだけだろ」
その一言で、何かが切れた。
大したことやない。
大人なら鼻で流す程度の煽りや。
けど五歳の身体は、妙に短気やった。感情の走り方が浅い。頭では分かってても、熱が先に出る。
……ほんま、鬱陶しい。
腹の底へ意識を落とす。
呪力はもう、呼べば返ってくる。問題は術式や。
視界を切る。
一秒。二十四枚。
床の木目。勝己の肩の位置。机の角。足の長さ。今の身体で踏める幅。膝の高さ。重心の浅さ。全部を一気に拾って、コマを並べる。
まだ雑や。
まだ短い。
せやけど、届く範囲で組めばええ。
俺は呼吸をひとつだけ浅く吸って、意識の中で未来を定めた。
行け。
次の瞬間、世界が少しだけ切り替わった。
身体が勝手に動く。
右足、左足、捻り、踏み込み。
決めた通りをなぞる感覚は、やっぱり気持ちええ。自分で動かしてるというより、組んだ未来へ身体が追いついてくる感触や。
勝己の横を抜ける。
教室の反対側まで、一気に詰める。
椅子の脚、机の角、散らばった積み木。
それを縫うみたいに滑って、最後の一歩で止まった。
遅れて、教室の空気がざわつく。
「はやっ」
「え、いま、あっちいたのに!」
「すごーい!」
子供らの声が一斉に上がった。
もじゃもじゃのそばかすなんか、口まで開けて固まっている。先生まで目を丸くしていた。教室の端から端まで、五歳児の動きとしては十分すぎる速さや。今の身体でも、良うて車くらいの勢いは出たはずやった。
せやのに。
俺は、止まった瞬間に舌打ちしたくなった。
勝己が、こっちを見ていたからや。
完全には追いついてへん。
けど、見失ってもいない。
目が、ちゃんと最後までこっちを追ってた。
……は?
胸の奥に、じわりと嫌な熱が広がる。
褒められてる声は聞こえてる。
速い、すごい、個性だ、みたいな浅い言葉が飛んでる。
先生まで「直哉くんも個性が……!」とかなんとか言いかけていた。
そんなもん、どうでもええ。
問題はそこやない。
今のは、もっと“消える”はずやった。
少なくとも、五歳児の目で追える筋合いはない。
こっちはコマを切って、未来を組んで、その通りをなぞったんやぞ。
なんで見えとんねん。
勝己は驚いた顔のままやった。
けど、その驚きの奥に、ちゃんと食らいつく目が残っている。理解できてへん。でも「速かった」とだけ認識して終わってへん顔や。
抜かれた。見せつけられた。せやけど、そこで終わる気は無い。そういう目やった。
「……すごい」
誰かが呟く。
勝己は数秒遅れて、ぐっと歯を食いしばった。
「……っ、もう一回やれ!」
その声に、俺は余計に腹が立った。
褒められて当然、驚いて当然、圧倒されて当然。
本来はそうなるはずやった。
なのに目の前のクソガキは、呆けるより先に食らいついてくる。
しかも「何や今の」とか「見えへんかった」とかやない。「もう一回やれ」や。
気に食わん。
先生が慌てて間に入ろうとする。
「ちょ、ちょっと待って、二人とも……」
周りのガキどもも口々に騒ぐ。
すごい。はやい。かっこいい。そんな声が飛び交ってる。
けど、その全部が薄かった。
俺は勝己を見たまま、ゆっくり息を吐いた。
速かった。
それは事実や。
けど、足りへん。
今の器じゃ、まだこの程度か。
脚の長さも、体幹も、踏み込みも、浅い。
組めるコマが子供仕様に引きずられとる。
前世の感覚から見たら、笑えるくらい鈍い。
褒める声がうるさい。
それ以上に、目で追われた事実が鬱陶しい。
俺は小さく口の中で吐き捨てた。
「……クソが」
勝己の眉がぴくりと動く。
たぶん、自分に向けられた悪態やと思ったんやろう。半分は当たりや。半分は、この身体にや。
術式は動いた。
せやけど、まるで足らん。
こんなんで“見せた”ことになるかいな。
俺は席に戻りながら、腹の底でぐつぐつと煮える苛立ちを噛み潰した。
勝己はまだこっちを見ていた。
さっきまでの得意顔は消えている。代わりに、獣みたいな目があった。
悔しさと、興奮と、負けたくない熱だけで出来た目や。
……面倒やな。
ほんで、腹立つことに。
ああいう目は、嫌い切れへんかった。