はじまりはじまり
2009年、スノーフィールド、警察署。己の手下を一蹴され、自らも危機に陥ったオーランド·リーヴ警察署長。彼は恐怖を勇気で押し殺し、死徒に立ち向かおうとした。彼が手にしているのは紛い物の宝具。霊的存在に攻撃するには充分であっても、人理の下にある武装故に眼前の死徒には効果がない。しかし、彼は立ち向かう。警察としての職務、隊長としての責務、人間としての義務として。
歪んだ笑顔を浮かべた死徒はそれを一顧にせずに目の前の
死徒は己の手をもって眼前の雑草を刈り取る…その筈であった。死徒が雑草を摘み取ろうとしたその瞬間、彼は、己の手がないことに気づいた。
手を奪った相手を探す。正面にはいない。取るに足らない者がいるだけだ。上でもない。そもそも空を自由に飛べるものなんてこの世界には数えるほどしかいない。
そして背後から若い声が聞こえてきた。
「米国の警察官よ、その勇気を讃えよう。そして、ハンザ。私もこの聖杯戦争に参戦するよ。マスターとして」
後ろを振り向いた。そこには一人の近未来的な鎧の上からコートを羽織った東洋人がいた。背丈は170もない、若い青年。東洋の言葉で緑髪と言うほどの美しい、長髪の黒髪の男がいた。彼の周囲は揺らいで見える。それは彼の余りにも膨大過ぎる魔力故か、それとも彼が発する熱量によるものか。
その男を、死徒は知っていた。蒼崎紫音。聖堂教会、埋葬機関第七位。若輩18にして師の教室を丸ごと戦士の巣窟に変えた時計塔の問題児。
本来ならば、万が一の可能性にかけて全力での逃走に挑むべきであろう。眼前の雑草と違う意味で、彼とは勝負にならない。
しかし、彼は激昂してしまっていた。己を無視して己が摘み取る筈であった
「ふざけるなァァッ!!」
足踏みで床を砕き、浮かび上がって来た瓦礫を投げつける。死徒の身体能力によって亜音速で飛ぶその瓦礫は当たれば致命傷。それは代行者であっても変わらないはず。
そして、それは過たず彼に直撃した。粉塵が辺りを覆う。己を蔑んだ者、己を打とうとした代行者を数多屠ったその一撃は、抜群の手ごたえで命中した。思わず快哉のままに叫びたくなる気持ちを、
何故、あれは何もしなかったのだ?
今まで己が屠った者達は多かれ少なかれ、回避行動や迎撃の行動を取ろうとした。まあ、その多くは実を結ばず屠られたが。理性が一つの回答を導き出した。
あれは、避けられなかったのではない。避ける必要すらない、真の怪物であると。
回答を導き出した瞬間、彼は弾かれたかの如く動き出した。撤退へと、敗走へと。脇目も暮れず、恥も外聞も投げ捨てて一心不乱に逃げ出す。出口へと。それは皮肉にも、彼が今まで襲った一般の人々の姿と同一であった。
出口へと辿り着いたその瞬間、粉塵が晴れた。そこに居た男は無傷、塵一つ付かずの状態で笑顔を浮かべながら死徒を見送った。
どうも、聖杯戦争参加者の蒼崎紫音です。
しかも害獣が勇気ある人間を襲っているし、たった一撃当てただけで逃げ出しちゃったから面倒なことこの上ないです。まあ、外には家の子に待機しておいてもらったから今頃は倒されているでしょう。取り敢えず、けが人を診なくてはな。
「そこの御仁、ちょっと失礼」
「あの...何をしているので?」
「汚染検査だ。簡易的なものだが、9割以上はこれで弾ける」
肘から先をなくした年若の警察官に近づいた彼は、その傷をしっかりと改めている。死徒は手癖が悪いものが多く、己の攻撃の際に血を振りまき、他者を汚染するものも少なくない。故に、紫音は死徒に襲われた者が汚染されていないかの確認を怠らない。一度、汚染され人でなくなってしまった者に背後から襲われた経験がある故に。
「よし、汚染は問題ない。止血についても...よくできているな。落ち着いたら、ここに君の細胞片を送ってくれ。君の失った腕をこちらで手配する」
「すまないが...私には腕の対価に差し出せるものがないんだ...悪いが、断らせてくれないか?」
淡々と紡がれる言葉に、自分へ囁かれているのは有償の奇跡ではないのかと戸惑い、断ろうとする警官に紫音は笑顔を浮かべて答える。
「対価?今君達は勇気を示した。職務に忠義を示した。服務に準じた。だからこそ、私達は私達の職務に準ずると言った所だ。」
そう言って、彼は名刺程のサイズの紙を制服の胸ポケットに差し入れ、後ろに揃い立ちしていた2人に振り向く。
「さて、ハンザには必要ないだろうがそちらの警察署長の為にも名乗らせて頂こう。私は諏訪の地の神官にして埋葬機関第七位、蒼崎紫音だ」
「オーランド・リーヴ、スノーフィールドの警察署長だ。危機を救ってくれた事、部下の治療の手配、感謝する」
両者は固く握手を交わした。
「そう言えば、あの吸血鬼は逃げ出していったが、大丈夫なのか?必要なら、こちらの監視網に仕事をさせるが」
握手をほどいた後、彼は目下の懸念事項である吸血鬼について紫音に質問した。それに対しして、紫音は笑顔のまま右手の令呪を見せつける様にして答えた。
「問題ない。先ほど言った通り、私はマスターとして参加している。私のサーヴァントが既に待ち構えているのでね、遠からず討伐の報告が来るだろう。彼女は、存在自体が死徒の天敵のようなものだからね」
そう紫音が答えると、彼は少し考えこむ様子を見せた。
彼は迷っていた。あの神父と会うまで、あの
「教会の監督役、ハンザ·セルバンテス殿。これまでの貴殿への行い、心より謝罪する。」
故に、己が成すべき事を再認識した。市民の命を守ること。故に彼は最初の過ちを正す為に謝罪する。
「何、構わんよ。それより、何か言いたいことがあるのだろう?」
対するハンザは、鷹揚に謝罪を受け入れる。それは善性からか、余裕さからか。
「ハンザ殿と蒼崎殿、両名に願いたい。今回の聖杯戦争における市民の犠牲を私は可能な限り抑えたい。その為に、協力を願いたい」
そして、誠意を示さんとばかりに最敬礼を両者に対して行った。
「私は監督役だからな。市民の犠牲を抑えるのは私の役目でもある。必要な事があれば言ってくれ」
「私も聖杯戦争の
異句異音なれど、意思は同じ。ここに、3人の男たちの同盟が誕生した。
「そう言えば、君たちはニュースを見たか?」
階段を下りながら署長が着いてきている2人に問いかける。
「全く見てない、というかこの街に来て最初に来たのがここだからな。そんな暇はなかったよ。ハンザは?」
「勿論、見てるとも。もしかして、例のセイバーか?」
「ああ。マスター共々留置場に入れておいたが、報告を聞いた範囲では巻き込まれた一般人とそれを守るサーヴァントという事でな。うまくすれば協力体制を築けるかもしれん」
地下の留置場に繋がる扉を開け、先導してきた彼の足が止まった。何とそこはもぬけの殻。開いた扉と落ちている手錠が人がいたことを物語っていた。
「逃げられたか…」
一方、怖気づき警察署から逃げ出した死徒は、未だ危機的状況を脱せずにいた。
「はぁ...はぁ...ここまで来れば、流石にあの男も追って来るまい...」
壁に体を預け、全力疾走で乱れた呼吸を整える。彼が逃げ込んだのは繁華街の路地裏の袋小路。大通りには大量の餌があり、裏通りには人気が無い。日が昇っても下水道へと退避できる点を加えれば死徒にとって最高の立地だろう。
「いやー、いきなりここで待っていろって言われて言うとおりにしたらこれって、あいつ何処まで見えていたんだろーなー」
しかしながら、金髪の幼女がこの場には不釣り合いな程豪勢な椅子に座って待ち構えていた。彼女の名はメタトロン·ジャンヌ。主によって遣わされたルーラーである。
「ま...まさか...!」
「じゃーねー」
死徒の顔が絶望に歪む。そして、光が彼を飲み込んだ。
役に立たないTips:人理が完全に定着しているわけではない本作世界においては、黄泉平坂は物理的に冥界につながっており、瘴気が溢れ出す忌み地として要監視対象とされています。
Tips:紫音の欠点は割り切って考えることが出来ない事。だから彼のSAN値は漸減傾向のまま。
Tips:紫音は特定のクラス適性を持たない英霊は召喚できません。
Tips:紫音はこの戦いに行く前に聖典をシエルに譲っているので今回の戦いで聖典が出てくることはないです。
次回は少し巻き戻って、紫音が召喚する所から。
fake編で紫音はサーヴァントを召喚するか?
-
己の肉体が解決する(いらない)
-
こいつストッパーが必要だな(いる)