だが世界には彼らの鍵に隠れた天才もいた。
これは、快音に惹かれた、ある科学者の物語である。
ナイトメアフレーム(以降はKMFと呼称する)。それはブリタニアが開発した人形ロボット。既存兵器を大きく上回るポテンシャルを秘めるこの兵器は、様々な派生を生み出し新技術をたくさん受けてきた。しかしそんな立派な兵器にも弱点は存在する。大きな問題としては燃料だろう。多くのKMFではサクラダイトという特定の地域でしか取れないレアメタルが必要だ。かつてはサクラダイトを用いないKMFも作られていたようだが、戦場を支配した今じゃあそんなことは難しい。
ここで
これはそれに目をつけた一人の科学者の物語だ。
「さて、インド軍区からパクったこのKMF。確か“蜃気楼”と言っていたな。まあお蔵入りしそうなら、俺が更に美味しく改造させてもらいますがな」
ある科学者がインドに忍び寄った際、たまたま放置されていたKMFをそのまま奪い取った。科学者の名は、ローラ・ワンクル。ゼロ・レクイエムによる人事異動で国を追われた悲しい科学者だ。それで新たなる隠れ家とともに研究としてインドまで赴いてKMFを取ったという暴挙に出た模様だ。
道中追手に追われたがそこはKMF。あっさりと返り討ちにした。それもそのはず、奪ったKMFの蜃気楼は拡散構造相転移法、通称「ゼロビーム」と呼ばれる武装を持っているからだ。どういう武装か簡単に説明すると、結晶を生成・放出して拡散させて広範囲を攻撃することができる、いわば即席でイージスシステムと同じことができるのだ。
「にしても、ラクシャータも大概なものを作ったな。エナジーの研究にも役立てたいが、こいつにおれの“エンジン”が通用するのかな?」
そう、彼はKMFの開発者の一人であると同時に、サクラダイトに頼らない新型エンジンの開発者でもあり、KMFのパイロットでもあった。KMFの操縦は人並みだが、一説ではナイトオブラウンズにも遅れを取らないとか、“ブリタニアの魔女”も追い込んだとか言われてる。半分事実だから余計に否定できない。それが彼の数少ない苦痛となったが。
一方、インドでは、
「なにィ?ワタシの蜃気楼が奪われた!?ブリタニアに??」
報告を受けたラクシャータ・チャウラーは不満そうな顔をする。自身が開発した蜃気楼があっさりと奪われたこと管理体制の杜撰よりも、ブリタニアに奪われたことが気に食わなさそうだ。
「で、どこの誰なの?
「いえ、それが
「そう。ならいいわ」
相手が
「はぁ…今更出てきても、居場所はないに等しいってのに、いっつも出てくるんだから....全く、今度は何を企んでるの?」
キセルを蒸すその顔には、どこか悲しみを滲ませていた…。
あれから数時間、無事に隠れ家に帰ってきた。コーカサス地方に陣取ったのはここに埋没されているであろう化石燃料になる石油を確保するためだ。少々遠いところだったが、ここはE.U.とユーロ・ブリタニア、中華連邦らは支配したがらないから、隠れ家としては非常に最適だった。
「帰ったぞ。今回は大収穫だ。KMFを獲ってきたぞ!」
「おお、それは素晴らしいことだ。フラッグシップにはもってこいの機体かね?」
端から見ればただの大工場だが、ここが彼の隠れ家だ。そして一人で住んでいるわけではない。奥から現れたレシル・ファ・ブリタニアとその親衛隊も同居している。
彼らは名前の通りブリタニア皇族だが地位と名誉を失ってここに落ち延びた。はじめこそ犬猿の仲だったが今では「相棒」に相応しいコンビとなっている。
「ああ。インドまで行ったから少々疲れた。しばらく寝るから整備と解析を進めておいてくれ」
「了解。ついでに、“
「いや、あれは俺がやる」
「わかった」
この光景を見れば皇族、貴族たちは大いに驚くだろう。明らかに上である(という幻想を持っている)我らが下っ端と仲がいいことを。
「おいおい、インドまで行ったってことはラクシャータ・チャウラー博士の?」
「だよな。しかも…」
親衛隊隊長、ベルセデウ・サボングと話しながらKMFを出す。機体が機体なので、身震いも覚えた。
「コレ、黒の騎士団のとこだぞ。これにあのロータリーを乗せるとなると、相当手を入れるだろうな。しっかり整備しろよ」
「「「「「「イエス・ユア・マジェスティ!」」」」」」
「…今は皇族じゃないんだけどな」
そうして蜃気楼を隅から隅まで洗いざらい整備し、解析していく。OSはやはり黒の騎士団仕様だったが、すぐ別のものに差し替えられた。一番の難所であったドルイドシステムは頭部を引っこ抜くという(素人が扱うにはあまりにも手に負えないので仕方ないが)暴挙でどうにかした。
さて奪った当の本人は、
「ふう。ラクシャータめ、あんなシステムを残しておくとは。ゼロが蘇ったとはいえどこいつは御蔵入りしてもおかしくない機体だ。まあ何も考えてないわけではあるまいし、こいつに俺の、俺達が手掛けた水素ロータリーを組み合わせて、ロイド伯爵のフロートシステムやブレイズルミナスを装備すれば…。あの時のコンビがこんな形で蘇るなんてねえ、最高だと思わないか!!」
フハハハハハ、と悪魔のような笑いをこらえてデスクの写真を見つめる。かつてブリタニアにいた頃、プリン伯爵ことロイド・アスプルンドとラクシャータ・チャウラーの3人とつるんでいた。特段仲が悪いわけでもなく温厚な生活だったが、上の2人が揉め事を起こして決裂した。それ以来会えず終いだが、今でも再び手を組めたら。と思ってる節はある。
「さて。俺も戻ろう。おそらく、あのシステムに音を上げてそうだし」
寝ると言っておいて実際に寝たのは10分だが、これからのことを考えると寝れなく、こうして起きていた。デスクにある設計図には、蜃気楼の、蜃気楼が想定している戦い方を大きく変えるいくつもの変更点が、こと細やかに書き留められていた。
「…おい。アレはやりすぎだろ」
作業場に戻ってからの第一声は呆れとも驚きとも取れる感想だった。それもそのはず。ドルイドシステムを搭載した頭部を頑張って引っこ抜いたという暴挙に驚いていたからだ。いや、彼の中ではそのまま放置するか解決の糸口を残すことはすると思っていた。
「僕らは情報工学には疎いんです。あと、胴体に搭載されていた発射機構も一旦外していますが、それはどうしますか?」
「話を逸らすな。あとよくそれを抜いたな。まああれは胴体に仕込んだままでもいいが、水素ロータリーエンジンが載せれないから外してよかったが」
ある程度バラバラにされた蜃気楼は少し可哀相だったが、まあ原作でも
「よし。解析は終わったな。これからこいつを大改造するぞ!」
「「「「「「イエス・マイ・ロード!」」」」」」
「科学者だからそれはいらないよ」
こうして数日かけてじっくりと改造された蜃気楼。具体的な内容は、
・ドルイドシステムを弄って動作支援に限定したこと。
・腕部のハドロンショットを抜いて新兵器のコネクターに切り替えたこと。
・そのハドロンショットをもとに新兵器ハドロンライフルを組み立てたこと。
・胴体の拡散構造相転移砲を抜いてロータリーエンジンに変更したこと。
・メインをロータリーエンジンにしたことにより、ユグドラシルドライブの配分を調整したこと。
・飛翔滑走翼からフロートシステムに変更。
・そのフロートシステムに水素タンクを載せたこと。
・その他装備を変更したこと。
なお可変機構は当初廃止する案が出たが、ロータリーエンジンが想定よりも小さく収まったから残すことになった。
「よし。あとはハドロンショットで新しい武器の最終調整さえすれば」
「ローラ!大変だ、ジルクスタンの残党と思わしきKMFの部隊を捉えた。おそらく後を付かれてたようだ」
「何、ジルクスタンだと!?ちょうどいいや、俺が相手をする。こいつの性能を試すチャンスだ。ベルセデウ達はここの防衛を頼む」
「イエス・マイ・ロード!御大将もお気をつけて!」
「今は突っ込まないぞ。ハッチを開けてくれ!」
ほのぼのとした雰囲気から一転。戦闘態勢に入る。
コックピットに乗り込んで各種計器を確認。互換性があるものを詰め込んだとはいえ、計器が対応できていなかったら確認のしようがない。
「各種駆動システム異常なし。ユグドラシルドライブ臨界、出力安定。ロータリーエンジン作動良好。フロートシステム、ランドスピナー共に異常なし。各種装備対応を確認。システムオールクリア。
「今名前を変えられてもなぁ…。まあいい。ハッチオープン。カタパルト、出力安定。障害物無し。全システムオールクリア。
オペレーター席に座ったレシルの案内とともにカタパルトラインが光る。平和を脅かす敵の方へ。
「
覚悟を決めた眼差しを向けて高らかに宣言。ランドスピナーのけたたましい音と共に発進した。
「流石戦士の国、ジルクスタン。堕ちた今でも人員は腐ってないようだな」
ローラが発進シーケンスを行っている間、ベルセデウらのサザーランドは苦戦を強いられていた。確かに彼らの腕は強い。だがジルクスタンも負けじと食らいついている。今は何とか持ってるが、突破されてもおかしくないからだ。
『ベルセデウ。アレを取りに来てくれるか?実戦で最後の調整をお願いしたい』
「無茶振りにも程がありますぜ、殿下。やってやりますよ!」
守備を一旦隊員たちに預けてラボに戻る。その時は
「殿下。ただいま参りましt…、殿下!?」
「ベルセデウ。僕は今から体を削る。付いてきてほしい」
レシルの瞳には赤い羽のようなもの、ギアスが宿っていた。身を削るということは体力をそれなりに持っていくやつだろう。
「…、イエス・ユア・マジェスティ」
「よし。こいつを頼んだぞ」
一方、ローラは、
「やっぱりスラッシュハーケンとブレイズルミナスだけは厳しいな。数がちと多いのもまた厄介だし」
こっちはこっちで苦戦していた。ゼロビームを自ら没収したことでレンジが圧倒的に短くなったのが災いし、ランスロットの初陣のような動きを求められた。まあ難なくこなす彼もまた変態だけど。
「敵は…、こっちに向かってくるのが5つ。秘密基地に迫ってるのが4つか」
計器とレーダーを確認する。レーダーを見る限りでは、そこまで大きい部隊ではなさそうだ。
「ベルセデウ、そっちに4機向かった。対処は任せる」
「了解だ。ローラも死ぬなよ」
「誰に言ってるんだ。これぐらい大したことねえよ」
そう言ってる割には少し覇気はない。ジルクスタンの攻勢による怯えか、それとも燃費を気にしてのことか。
(ああは言ったが、正直に言うと、凌げるかどうか微妙なんだよね…。しかも大将機っぽいやつはシールド持ちだし、どうしようか?)
迷いは隙を生じ、隙は逆転を生じ、逆転は劣勢を生じ、劣勢は敗走を生じる。そんなことは頭でわかっていても、頭では不安がよぎってしまう。
その隙が命取りとなることも承知している。一気に劣勢を強いられた。
「くっ、いくらなんでも厳しいぜ。なにか突破方法はないのか…?」
『ローラ。今そっちにハドロンライフルを送った。上空を通るからしっかり取れよ!』
「レシル!お前、その瞳は…!」
『ああこっちも頑張ったさ。こっちの努力を水泡に帰すことだけはするなよ!』
ギアスによる代償を感じさせないその覇気に、消えかかった灯火が吹き返す。
「任せろ!ナイトオブラウンズも引けを取らない俺に掛かれば!!」
機体を変形させて上空めがけて急上昇。下からの砲火は絶対守護領域で守る。蜃気楼の、蜃気楼たらしめるこの武器はドルイドシステムの補助だけでなく使用者の頭脳を求められる。絶対に使いこなせない、と確信していたローラは範囲を絞ることでどうにか使えるようにしていたのだ。
「これがハドロンライフル…。コネクターに接続。ユグドラシルドライブからのエネルギー供給を確認。行ける!」
上空から狙いを定め、地上に放つ。赤黒い光が大地を襲い、地面は削れ、豪快な爆発音が轟く。
「凄い…。これが生産されたら戦地が終わる代物だ…!」
当たった場所を見ると、ハドロンライフルを喰らった敵は撃破もしくは大破してまともな追撃もできないし帰還も難しいだろう。
「さて、向こうは大丈夫だと思いたいが。ベルセデウ!そっちはどうなんだ!」
『まずいですぜ、御大将。こっちにG1ベースが迫ってきている!アレで止められるか?』
新たに送られたデータを見ると、確かにG1ベースが迫ってきていた。
「レンジ内だから行けるけど…、回収をお願いできるか?」
『お任せください!』
「助かる。では!」
通信が途絶えると同時に機体を更に上げてライフルを構える。スコープはついてないからほぼ人力でどうにかするしかない。
「おそらくこっちのことはバレていると仮定してもいい。なら、近距離から!」
構えるのをやめたかと思えば地上に降り再び構える。
「5、4、3、2、1…、発射」
地上をかける赤黒い閃光は一瞬にしてG1ベースにヒット。とてつもない音が周囲に響き、爆発四散した。
「こちら
歓喜と疲労が同時に襲う。
「やったぜ。レシル」
この後のことは考えない。今は、開発の成功を喜んでいた―。
ロイド「あれェ、僕の出番は?」
作者「ナイデス」
ロイド「そんなァ…。セシルくんと待ってたのに…」
作者「まあ連載予定なんで、待っててくれ」
ロイド「本当に?」
作者「一年以上先になりそうだけど」
ロイド「このォ…!」
セシル「朴念仁!!」