夕暮れ時、ちょうど執務も落ち着いた頃。その日の秘書艦担当は俺にこう言う。

「雨の日になると黄色い雨合羽を着た川内さんが現れる」



別に普通のことじゃないか?

しかし話をよくよく聞いてみるとどこかおかしい…。

※ホラーと見せかけたドッキリのお話。

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第1話

 

ふと顔をあげると夕陽に照らされ眩しさを感じる。

執務室の壁時計を見ればもう午後5時をとうに過ぎているではないか。書類を捌くのに集中しすぎていて気が付かなんだ。おまけに肩や腰が凝りに凝り固まって痛い。

 

しかし本日分の仕事は終わったわけだし、今日は少し早めにあがろうか。そう思って、傍らで書類整理をしてくれていた秘書艦に声をかける。

 

それじゃあ、今日はお先にあがります、ありがとうございました。

 

いつもならそんな風に会話をして終わる、はずだった。

 

「そういえば提督、ヤセンチャンってご存知ですか?」

 

執務室から出ようとしたところで、彼女は思い出したように俺にそう言った。

 

初めて聞く単語、当然知らない。しかし何となくは察しがつく。

 

「雨の日に、黄色い雨合羽を着た川内さんがグラウンドに立ってるんですって」

 

ヤセン、と聞いてまず最初に思いつくのは軽巡川内という艦娘なのは、多くの提督のサガである。

 

「雨の日には必ず…、しかもどんなにどしゃ降りでもグラウンドにいるみたいで…、でも何かしているのかというとそういうワケではないみたいで。ただ、ぼーっとグラウンドに立ち尽くしてるみたいで…」

 

何やってんだ、あいつ…。夜戦のしすぎで、ついにおかしくなったか?

 

「それで気になった娘が、話し掛けようとしたんですって、そしたら…」

 

「まるで雨の中に消えていくように、すっーと居なくなっちゃったみたいで…」

 

ん?どういうこと?話し掛けられそうになったら、逃げたってこと?

 

「いえ、本当に、比喩表現ではなくて…、霧のように霧散して消えちゃったって、、、」

 

「でも雨の日にはまた同じようにグラウンドに立っているんです。何をするわけでもなく、ただ、立っているんですって」

 

えー、何その話は…。怖、、、

 

「怖いですよね、それで当の川内さんに突撃した娘もいるんですけど、何の話…って。うちの川内さんは何も知らないみたいで、…でも雨の日に必ず出現するんです。それで川内さんと混同しないように、いつからかその娘のことをヤセンチャンってみんな噂するようになって…」

 

なるほど、うちの川内は関係してなかったのか。となると、幽霊ってことかい?

 

「…分かりません、でもみんな怖がっちゃって。それでも勇気のある娘たちが何度かバレないように観察してくれてたみたいで、、、あることが分かったんです…」

 

ほうほう、それは…?

 

「川内さ、じゃなくて、そのヤセンチャンは何もしていないわけじゃなかった……、グラウンドに立って、じっーとある方向を恨めしそうに眺めているんですって、で、その方向の先にあるというのが…この執務室、、、」

 

ガタッ

 

え?

 

いや、こえーよ。思わず椅子から転げ落ちそうになっちゃったよ。

 

「それでこの鎮守府、昔、何かあったんじゃないかって、有志で調べてみたんです。そしたらあったんですよ、曰くが!」

 

「どうやらもう随分と前のこと、ここがものすごいブラックな鎮守府で、過酷な環境だった頃、一人の艦娘が散々使われた挙げ句に海に沈んじゃったそうで…その娘というのが、、、」

 

………

 

それが、当時の川内、、、ということか。

 

「…そうなんです。名簿で調べたら戦没者の一人として、その川内さんが載っていて、、、だからきっと彼女の怨念が今になって現れて、、だから提督、気を付けてください、特に雨の日には…。沈めた張本人じゃなくても、彼女、ヤセンチャンが恨みをはらしたいのだとしたら、提督を真っ先に狙うでしょうから、、、…それじゃあ、私はこの辺で…失礼します、、」

 

そうか…。

 

………。

 

そんな過去が、、この鎮守府に…。

 

彼女は、ヤセンチャンは…一体何が目的で…

 

いや、、違う、そうじゃない。

 

…ならば、ならば俺は、提督として……。

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

「司令官にドッキリをかけたい、ですか?」

 

ある日の夕食時、食事処には十数人の娘たちが集まって作戦会議。内容は司令官をびっくり仰天させたい。

 

「あの人さ、イイ奴なんだけど、ちょっと無表情っていうか、鉄仮面っていうか、、あんまり驚いたところみたことないよな?」

 

つまり、ドッキリをしかけて、それで以て驚いた顔を見てみたい、というのが皆の今回の目的、というか総意みたいで、、。

 

かくいう私もそんな提案、最初こそ話半分で聞いてたんですが、聞くうちに段々乗り気になっちゃって、。

 

どうやったら司令官をビックリさせられるかって皆で夜遅くまで作戦を練りました。それである人が言ったんです。

 

「やっぱりここは、定番のホラードッキリでしょ」

 

…確かに、驚かせるならホラーがいいかも。司令官、あんまり幽霊とか信じてなさそうだけど。

 

皆も賛成、賛成とそのアイデアに乗り気でした。それでどういった内容にするって話を詰めて、このアイデアの言い出しっぺである川内さんがお化け役になるということで話はまとまりました。

 

「よーし、提督をギャフンと言わせてやるぞ~」

 

ニシシ、と笑う川内さんにつられて私も笑みがこぼれました、皆も笑っていました。

 

ですがこの鎮守府、今も昔も平和そのもので…曰くなんか調べようにも何もなくて、。

 

じゃあそれなら架空の曰くを作って、それを元にストーリーを組み立てて、と方向性が決まれば、どんどん企画が具体的になっていきました。

 

私、こういうストーリー描くの得意だから描くよ、じゃあカメラで撮影するのはあの娘に任せよう、とか。

 

それで私の役割、というのは、雨が降ったらグラウンドでスタンバイする川内さんの元へ司令官をお連れする、というものでした。

 

え、もし司令官が行くの嫌がったらどうするんですか、って話なんですけど、その時は、私がそのまま執務室に突撃するよー、なんて川内さんが言ってくれました。心強い!

 

それで司令官に噂を流してから数日後、雨が降ったんです。川内さんや他の皆さんがグラウンドにスタンバイしたのを確認してから、私は慌てたフリをして司令官の元へ急ぎました。

 

「司令官、大変です!!ヤセンチャンがまた…!」

 

執務室へ飛び込んだ私を司令官は驚いた表情で見ています。でも私の言葉を聞いて、何か覚悟を決めたような表情になりました。

 

それで案内してくれ、と私に言ったんです。

 

意外でした。幽霊とか信じてなさそうだし、場合によってはお連れするのに時間がかかると思ってたからこんなにあっさりと…。

 

そしてグラウンドへ赴くと、黄色い雨合羽を着た川内さんが居ました。皆はきっと木の後ろとか茂みに隠れて様子を見守っているんだと思います。それで、司令官どうしましょう、と私が声をかけるはずだったんですが…。

 

「…え!!」

 

司令官は雨の中、手に持っていた傘を投げ捨てて、川内さんの元へと走っていきます。

 

意外な行動に私は驚きました。きっと川内さんもそうでしょう、身構えたのがここから見てても分かりました。

 

そして川内さんと司令官の距離が縮まり、遂にはお互いに手が届く距離になった時。ここからは聞き取れませんでしたが、司令官が川内さんに何か語りかけているみたいです。

 

それで……

 

「えぇ!!」

 

また思わず声が出てしまいました。でもそのはずです。

 

だって川内さんのことを司令官が抱き寄せたんですよ!?

 

川内さんと司令官は身長差があって、背の大きな司令官に川内さんはすっぽりと抱き込まれてしまいました。それでワタワタと慌てている川内さんをよそに、司令官は優しく、それはここから見てても、大事そうに大事そうに抱き締めているんです。

 

器用なことに、ハグしながらも、片手で川内さんの頭を撫でるという高等テクまで披露して!

 

しかもしかも!なんか川内さんの耳もとで何か喋ってます!?なんか見てるこっちもこそばゆくなってしまうんですが!!!

 

真っ赤な顔をして、身をよじる川内さん。そんな川内さんを司令官はようやく解放…したと思ったら!

 

「ええええええ!!!!」

 

今度は叫んでしまいました。

 

川内さんの雨合羽、そのフードを優しく取り払って、司令官は愛おしそうに川内さんの頬を両手で包み込むように触ったんです。

 

そして司令官の顔が川内さんの顔に、、、

 

ま、まさか!

 

キス?キスするんですかーー!?!?

 

…なんて思ってたら、今にも爆発しそうなくらいに赤面した川内さんが司令官のことを突き飛ばして、逃げるように走り去っていきました。

 

ちょ、ちょっと、川内さん!?

 

どこへ行くんですかーーー?!?!

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

おー、手筈通りに提督を連れてきてくれたみたいだねー

 

この寒い雨の中、どれくらい待たされるか心配だったけど、意外とすんなり来てくれてよかった。

 

ウシシ、提督~!ビックリさせちゃうからね~!

 

覚悟しなよ?

 

いやー、それにしても、まさか私のホラードッキリ案が採用されるとは(笑)

 

しかも言い出しっぺの法則で私がオバケ役かぁ、、でも提督の驚いた顔を間近で見れるなら役得、役得!

 

それに、最近は夜戦はダメとかなんとか口うるさいしぃ、ここでその恨みも晴らさせてもらっちゃうよ(笑)

 

さーて、提督?ぼーっと立ち尽くしてるだけならこっちから仕掛けちゃおうかな?それとも、もう少し泳がせてから急に変な動きして驚かせちゃおうかな、、、、

 

って……!?

 

な、なんでこっちに向かって走ってくるわけ!?

 

しかもビニール傘まで放り出しちゃって、、

 

え、えぇ~~~… 

 

で、でも。ここで動揺してたらオバケ失格…というかこのドッキリの要は私なんだから、ちゃんとオバケに徹しないと。

 

っ!もう目の前まで来た!!

 

と、と、とりあえず…平常心平常心!

 

恨めしそうに、提督の顔を睨み付けてぇ…

 

へ、、、?提督が何か言って…?

 

すまなかった、、?

 

え、なんのこと?

 

君を使い潰して、沈めてしまったこと?あ、あぁ、ヤセンチャンのことか…!

 

ど、どうしよ。すごい謝ってくれてる。

 

……!

 

そ、そんな悲しそうな、申し訳なさそうな顔をしないでよ。

 

そんな顔されたら、私、、、、

 

こ、心が痛い…

 

…うぇ!?こ、今度は急に何…!?

 

え、なんか、だ、抱き締められてるっ!?

 

~~~~~~ッ!!!!

 

な、なんでぇ~!?!?

 

そんなに強く抱き締められたら、、、

 

苦しいよ、、、、

 

え?

 

寒かったよな、冷たかったよなあって、、

 

いや、確かに雨に濡れて寒かったけども!

 

抱き締められてこっちは暑いくらいなんですが!?

 

と、というか、、、

 

抱き締めながら、そんなに謝らないでよ、、、

 

なんか胸がチクチクするし、でも居心地悪くないというか、、へ、変な気持ちになるッ!

 

あ、てかダメ、ちょうど提督の吐息が耳もとで…!

 

~~~~~~~ッ!!!

 

や、ヤバい…!心臓がもたない!

 

提督の声が耳もとで響くたんびにお腹のところがなんかジンジン熱くなって…!!!

 

う、うわぁ!?

 

あ、頭、撫でられてる!?

 

なんか、すごいキモチイイ、、じゃなくて!!

 

君は本当に頑張ったなって、、、そ、、そんな急に褒められたら、、、、

 

は、恥ずかしい///

 

だ、ダメだ!このままじゃあ、オバケどころじゃなくて、私自身がおかしくなっちゃう!

 

な、なんとかここを抜け出さないと…

 

え?

 

て、提督、何してるの?

 

私の頬なんか両手で……!しかも顔がどんどんこっちに…!

 

あ、ま、まさか…!!!

 

ちょ、ちょ、ちょっと待って!!

 

ま、まだ、その、心の準備というものがですねぇ…!?!?

 

や、ヤバい…!このままじゃあ、私、本当に提督と…!

 

き、キス…!!!!!!

 

う、うわあああああああっ!!!!

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

その後、ヤセンチャンが成仏したかどうかはまた別のお話。

 


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