神フレイヤ。
かの女神を語るならば、まずはその美貌だろう。
世界最高の詩人たちが綴るどんな美辞麗句でさえ、彼女を表現するにはまるで足りない。
美しさ、という概念は彼女から生まれたと言っても過言では無いだろう、その黄金比のプロポーションと美貌。金銀細工よりも尚眩い、銀の長髪。髪を梳く指も、吐く吐息も、衣擦れの音でさえ、美しい。
次に語るのは、彼女の派閥だろう。
オラリオに君臨するLv7の頂点、【
最速の一番槍、Lv6【
忠義の鑑、Lv6【
影を縫う殺戮剣、Lv6【
無限の連携、Lv5【
そして、無尽の黄金、
錚々たる幹部のメンバー。
しかし、それだけではない。
Lv1〜Lv4の一般構成員も、他の派閥とは比べ物にならないほどの練度であり、頭のネジが二、三本無くなってるタイプの女神信者。彼ら彼女らは『
さらにさらに。
本来ならば魔導師よりも確保が難しいとされている
ではなぜ、こんなにもフレイヤファミリアの構成員は才能豊かで、強き者で溢れているのだろうか。
その答えは女神フレイヤの持つ、凄まじい審美眼。魂を観測するその瞳にある。
彼女は、その人物が持つ秘めた才能や潜在能力といった物を、魂の色彩によって把握できる。
つまり、
『”目”より先に”手”が肥えることはない』
善し悪しを見抜く”目”を養わねば、作品を生み出す”手”の成長は望めない。
それはあらゆる
例えば彼女の眷族であるオッタル。
彼の今の地位は、数え切れない敗北と泥の歴史を積み上げてきたものだ。
土を噛み締め、顔を上げた先にはいつも、限界のその先へ駆り立てようとする
例えば、あの最低で最恐のヘラの眷族である、アルフィア。
才禍の怪物と称された彼女があそこまで劇的に成長することができたのは、所属するヘラファミリアが積み重ねてきた千年の歴史があってこそだろう。と、フレイヤは考える。
もちろんそれがなくとも今の強さに到達することはできそうだが………到達するまでの時間は大幅に短縮させたのは、やはり神時代が到来して以降、オラリオを護ってきたヘラファミリアの歴史が要因の一つになっているはずだ。
そして青年、ユースの魂は、極上のものと言えた。
品種改良の到達点。無駄を省き、厳しい環境にすら適応することに特化した、可能性の塊。角度によって色彩が変化する、類い稀なる魂だとフレイヤの瞳は見抜いていた。
恐らく育ってきた場所に、稀代の才能を持つ────いわば『英雄』と呼ばれる者────ばかりがいたのだろう。
魔導師の頂点と剣士の頂点。それらを見続けてきたユースは、他者とは隔絶した”審美眼”を育て上げ、極めて早い成長速度で英雄候補へと名乗り出た。
もっとも、『自然』的な魂を好むフレイヤとしては、少し人工的に感じる彼の魂を美しいと思えても、食指を動かすまでには至らなかった。しかし、フレイヤはそれを良しとしている。
遠くに置いて、色の移り変わりを見る。そういう楽しみもあると、フレイヤは知っているから。
「で、それがどうしたら俺と一緒に茶をシバキ合うことになるんですか?」
堅牢な四壁に囲まれる『
「あら、駄目?」
「もちろんですね。俺はさっさとザルドを回収して、こんなおっかない所からおさらばしたいんです」
こてん、と首を傾げたフレイヤ様に迷わず首肯し、目の前の紅茶を一口飲む。うまっ、なんじゃこれ。
派閥格差を紅茶のブランドで味わった俺がここにいる理由は至極単純。ザルドを回収してきて欲しいと、アストレア様からお願いされたからである。
俺もそろそろザルドの傷だらけの顔面を拝みたかった頃だし、何より彼の作る料理は絶品だ。俺は二つ返事でアストレア様の依頼を受けた。
ザルドを回収して持ち帰る。たったそれだけのおつかいだったはず。
それなのに俺は今、フレイヤ様とこうして緑の原野を眺めている。
「ここの景色はすっかり飽きているけれど………ここが一番、あの子たちの輝きが良く見える。鮮やかに光る魂、それはこの世のどんな金銀財宝を集めても、見劣りすることのない美しさ………
噂に聞く、女神フレイヤの
だが、それは買いかぶりすぎだ。
というか、人の身でそんな次元は到達できやしないだろう。
「俺のは貴女みたいに便利なもんじゃないですよ。心を通わせたりした相手に触れていなくちゃ観れない、半端もんですし」
絶対条件は触れること。
それ以外の条件は、よく分からない。
戦いを重ねる度に観える時もあれば、アリーゼたちのように特になんの前触れもなく観えたりする時もある。
そして観えたとしても、なんの得にもならない。魚の目利きの方が、まだ役立つだろう。
内心で独り愚痴を零しながら、俺はきっと高いだろう紅茶をグイッと一気に飲み干した。どこの茶葉か教えてもらってから帰ろう。
なんて思いながら腰を上げると、
「じゃ、俺帰るんで────」
ドッガーンッ!という強烈すぎる衝突音。そして悲鳴に近い叫び声の連続。
主神室のあるここまで、それらが響き渡った。
────ただ突っ込むな!数の優位を……ぐわぁぁあああああ!?!?
────ヴァ、ヴァン!?お、おのれ、よくも!…………いや別に仇取るほど仲良くなかったわ!
────
────まずい、ヘイズ様が失神した!?だ、誰か大人の人呼んで!!てか【
────良いぞ!お前も、お前の後進も、俺が喰らうに相応しい馳走だッ!行儀良く
────いつまで上から物を言うつもりだ、ザルド……!!今日こそは俺が、一人で!勝ってみせるッッ!!
────テメェこそ何勝手にほざいてんだオッタルッ!!テメェも!あのクソ
────ク、クク……!至上の闘争……沸き立つ血を制してこそ、女神の勇士であろうぞ!我が偉業!我が魔剣!髄まで味わうがいいッ!!
────チッ………蛮族共が。まともに崩せる相手じゃなかろうに。だが、私が使ってやろう………せいぜい使える案山子にでもなれ。
────気に食わないな………あの
…………。
………………。
……………………スーッ。
「おかわりはいかが?」
「………いただきます」
問題。
すっごく盛り上がっている『戦いの野』に水を差した無礼者の末路は?
回答。
原野の肥料。
俺はとても賢いので、理解できる。
あそこに立ち入ったら最期、命の保証はないと………!!
「…………どうぞ」
何事も無かったかのように腰をおろすと。
顔の右半分を灰色の長髪で隠した従者がまた新たに淹れた紅茶を差し出した。
目の覚めるような美少女であることは確かなのだが、髪に隠れる相貌は人形のように限りなく無表情。ただ、俺を見詰めるその眼差しは『冷凍』を通り越して『極寒』である。
まるで『我らの女神のお誘いを断る不敬者を何故ここまで丁重に扱わなければならないのかしかしフレイヤ様が仰られている以上もてなさなければこちらの程度が知られるがやはりフレイヤ様と特別な共通点を持つお前は心底気に食わない』と言わんばかりの視線である。これが、
「ど、どうも」
「そういえばヘルンと会うのは初めてかしら?」
「ええ、まあ」
『この子は何者にもなれやしない』。
他ならぬフレイヤ様
そんなよく知られた表面上のプロフィールを諳んじてみせた。が、それ以外は全くの白紙である。
「初めまして、ユースです」
「………………………………………………………………………ヘルンです」
「ごめんなさいね?この子、素直じゃないの」
「本当にそうなんですかね……?」
明らかに距離を感じるやり取りだったんですけど。
そして名前を発して以降、顔をギュンッ、と背けたヘルンさんに、フレイヤ様はなんだか微笑ましそうな顔を向けてる。
「勿論よ。私が話す貴方の話題に、ヘルンはいつも耳を傾けてくれるわ。今はちょっと………びっくりして、ツンツンしてるだけね」
「…………フレイヤ様、お戯れを………」
「ハリネズミもびっくりするくらいのツンツン具合ですけどね」
「下等な愛玩小動物と私を一緒にするな、
急に言葉のナイフでグサグサされたんだが?ツンツン通り越しちゃっただろ。
「でもそこはほら、可愛いじゃない?」
「フ、フレイヤ様っ!?」
「ふむ………確かに一理ありますね」
「チッ、クズめ」
「情緒不安定すぎるだろ。二重人格かよ」
てか今ゴミクズとか言わなかったか?しかもクズに格下げされなかったか?
聴き間違いを願いたかったが、Lv6の聴力では聴き漏らすなんて都合良いことは起こらなかった。
これでツンツンなら、リオンや輝夜はまだデレデレ判定になるだろう。
「じゃあこれで晴れて二人もお友達になれたことだし、話の続きをしましょう?」
「と、友達………」
「それはどういう感情の顔なんだ……?」
「これから知っていけばいいでしょう?」
俺はてっきり激昂されるかと思ったが、どうやら違うみたいだ。もしかして友達、居ないの………?
だがまだ安心も同情も出来ない。俺の思う『友達』と彼女の思う『友達』が違うかもしれないしな。少なくとも出会い頭に罵倒を浴びせる関係を、俺は友達とは呼ばないし。
「話の続き?」
「ええ、ザルドが勝つか。私の
「あ〜そういえばそんな話してましたね」
まぁでもそんなの答えは一択だろうな。
「そりゃもちろんザルドでしょ」「私の眷族よね」
………。
「「はぁ?」」
いやいやいや…………
「Lv8の高みに立っているザルドだぞ?最強はアイツしかいないだろ!」
「ふふ、もう忘れたの?七年前、その最強のLv8を打ち倒したのは、当時Lv6だったオッタルよ?」
「そっちこそ情報が足りてねーな!オッタルと【ナイト・オブ・ナイト】の二人がかりで倒したんだろ!」
「Lv6の彼と二人で超克してのけた………なら今の状況でも同じことは言えないとでも?」
「はァー?七年前とは状況が違うんですゥー!あの時のザルドはLv8成り立て!今は器もそこそこに極めている!オッタルと愉快な勇士たちなんか比じゃないくらい強くなってる!」
「同じことはオッタルたちにも言えるわ。もう器を極め、あとは試練を乗り越えるのみのオッタル。そして最速の戦車であるアレン、前衛殺しのヘグニに、都市で最も
「おいおいおい、根本的なことをお忘れですかぁ?オッタルたちがまともに連携なんて取るはずないだろうに!」
「ぐぬぬ………!!」
俺の心の中の輝夜とライラが言っている!『今ここで煽り散らかせ!』と!
ロクなこと言わねえな!輝夜、ライラ!
「あのお互いを邪魔としか思ってない目!あんなんじゃあLv8相手は愚か、Lv6相手でも勝てないんじゃないの〜!?」
「………!!」
ふはははは!!ぐぅの
「ふんっいいわ見てなさい!私の目が節穴ではないことを、あの子たちが証明してくれるはずよ!」
「ザルドのおっさん舐めんなよ?世にも珍しい猪肉のシチューに料理してくれるに違いねえな!」
「…………猪肉のシチューは毎晩出ている」
「え?」
どんだけ恨まれてんの、オッタルェ………
尚、勝負はザルドとオッタルの一騎打ちまでもつれたが、決着より先に『
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