ソードアート・オンライン アイとユウキのセカイ 作:カレー大好き
ユウキが生きて幸せに暮らしている世界を、自分なりに表現してみたくなったのです。
序盤はシリアスですが、その後はイチャイチャパラダイスとなります。
因みに、冒頭からマザーズ・ロザリオ編のネタバレがありますのでご注意ください。
第1話 神のみぞ知るセカイ
世界は無限に分岐して、いくつものパラレルワールドが存在する。
どこかの誰かがそう言いだした瞬間に、それは確かに存在するものとなった。
人の世界で広がり続けるバーチャルワールドと同じように。
そんな世界の一つに、15年もの長きに渡って不治の病と戦い続けた少女がいた。
彼女の名はユウキ。ALOにおいて【絶剣】という二つ名を与えられた最強の剣士だった。
しかし、現実世界では病魔に敗れた。やり直しの出来ない現実で彼女は敗北し、その命を失おうとしていた。
それでもユウキは懸命に戦った。自分の運命から決して逃げることなく立ち向かい、最後まで戦い抜いた。そして、長く苦しい旅路の果てに、とても大切なことを理解した。自分がこれまで生きてきた理由を。
「ようやく……答えが、見つかった……。意味なんて……なくても、生きてて、いいんだって……。たくさんの人達と……大好きな人の、腕の中で……旅を終えられ……るなんて、幸せ……だよ……」
そうだよ……ボクは、みんなと出会うために生まれて、生きてきたんだ。
ウンディーネの少女に抱かれたユウキは、優しい温もりに包まれながら感謝する。目の前にいるその少女――アスナに向けて。彼女こそ、失い続けた自分の人生に大切なものをたくさん与えてくれた人だった。
だから、いつまでもこう言い続けるよ。
『ありがとう、アスナ……』
力が入らず、音の無い言葉だけがユウキの心に響く。
どうやらもう時間が無いらしい。
最後を悟り、大好きなアスナの顔を懸命に見つめる。涙で視界が歪む中、アスナもまた大粒の涙を流し続けている。彼女も時間がない事を理解したようだ。
もう間もなく、ユウキは天に召されるのだろう。でもその前に、彼女の言葉に答えてあげなければ。
アスナは、大切な友人であり大好きな妹であるユウキに向けて、大きく頷きながら返答した。
「わたし……わたしは、必ず、もう一度あなたと出会う。どこか違う場所、違う世界で、絶対にまた巡り合うから……その時に、教えてね……ユウキが、見つけたものを……」
それは、心からの願いが込められた、とても優しい言葉だった。
うん分かった、ボクはずっとアスナを待ってるよ……ううん、ボクの方から会いに行くよ。
既に話すことすら儘ならなくなったユウキは、絶対に約束を守るよと心の中で誓う。
でも、この世界ではもうお別れだ。
ボク、がんばって、生きた……。ここで、生きたよ……。
力を振り絞って最後の言葉をつぶやく。大好きなアスナの腕に抱かれながら。
自分のせいで一杯泣かせちゃってゴメンね。でも、本当にありがとう。アスナのおかげでボクは、堂々と胸を張ってみんなの所にいけるから。
『随分待たせちゃったけど、今からボクもそっちにいくよ……』
薄れゆく意識の中、先に天国へ行った家族と仲間に向けて報告する。
これでやっと、姉ちゃんたちに会えるね。
永遠の眠りにつこうとした間際に、向こうで待っている姉たちを思い浮かべた。そんな刹那の瞬間、ユウキは家族の幻影を見た気がした。いや……本当に見える。実際に自分の目の前で、楽しそうに朝食をとっている。
家族全員があの病気にかかることもなく、元気に暮らしている光景。ユウキにとっての理想郷が今、眼前にあった。
『あっ……またこっちに来れたんだ』
景色の変化に気づいた途端、ユウキは微笑む。
彼女が見ているものは、死にゆく彼女が想像した心象風景ではない。とても信じられないことだが、現実の世界だ。
『制服を着てるってことは、こっちの世界は登校時間なんだね』
明らかに異常な状況にも関わらず、ユウキは意外と冷静だった。それと言うのも、同じような現象をこれまで何度も経験しているからだ。
この現象は、メディキュボイドの被験者となってから起こり始め、それは決まって就寝時間中だった。最初は戸惑い、病院の担当医にも相談したが、結局はストレスが影響して見せた夢だろうと判断された。
だが、何度も経験しているうちにユウキは感じた。これは夢なんかじゃないと。
『そう、この世界は夢なんかじゃない。ボクにあった【別の可能性】なんだ』
自分の目の前で姉と仲良く登校していく自分の姿を見つめながらユウキは確信した。
例えば、予知夢や既視感といった不思議な現象が、パラレルワールドにいる自分の魂とリンクすることで起きているとしたらどうだろうか。もし、VRMMOに接続するようなシステムがパラレルワールドの間で存在しているとすれば、このような奇跡だって……。
いや。この際、理由なんてどうでもいい。
『この世界のボクには、もっとずっと長い未来があるんだ。それを知れただけで、すっごい嬉しいよ!』
あまりにも異常な状況だというのに、ユウキは素直な気持ちで喜んだ。確かに、ここが彼女の予想通りパラレルワールドであり、彼女の家族が幸せならば喜ぶべきだろう。
『やっぱりアスナはすごいや、違う世界があることを言い当てたんだから』
先ほどのやり取りを思い出したユウキは、思わず感心した。
もちろん、あれはアスナの願いであって確証があるものではないと分かってはいたが、それでも褒めずにはいられない。
ユウキの魂は、量子の海を超えてアスナの言葉を確かめることが出来たのだから。
もちろん理屈など分からない。人智を超えた存在が慈悲の心を与えたのか、それとも、ザ・シードによって進化し続けているバーチャルワールドが奇跡を起こしたのか。真相は誰にも分からないだろうが、確かにユウキは、もう一つの可能性を見たのである。
もしかすると、茅場 晶彦が夢見た【真の異世界の具現化】とは、このような現象の先にあるのかもしれない。
つまりは――【神のみぞ知るセカイ】。
人が知覚できないほどの短い時間が過ぎ、ユウキの意識は元の世界に戻ってくる。そして、鼓動が完全に止まる前に、アスナの顔をもう一度見ることが出来た彼女は思った。約束は意外とすぐに果たせられそうだよと。
ただし、【別の世界の自分が】という注釈が入るけど。
『ううん。ボクだって、こっちの世界で生まれ変わって、また巡り合うんだ。アスナと……』
ユウキは、最後にもう一度誓いを立てた。そして、瞼をそっと閉じる。その瞬間に、この世界からユウキという名の少女が失われ、彼女の物語はしばしの休息を迎えることになる。
その代わりに、ここからはパラレルワールドに舞台を移して、新たなユウキの物語が始まる。主人公の座をもう一人の彼女へ引き継ぎ、もう一つの物語が始まるのだ。
別の世界で別の可能性を進んでいるもう一人のユウキは、小さな奇跡の影響を受けて新たな物語を作っていく。この世界の彼女が愛した、VRMMOというもう一つの世界をきっかけにして。
☆★☆★☆★☆
SAOがクリアされて半年後の2025年5月。
14歳になったばかりの紺野 木綿季(こんの ゆうき)は、【アルヴヘイム・オンライン】――通称ALOというVRMMOで遊んでいた。
「うーん、学校が終わった後の飛行は格別だねー♪」
インプという妖精の格好をしたユウキが、ゲーム内の空を飛びながらつぶやく。
全体的に紫色の衣装で着飾った彼女は、小柄な少女の姿をした片手直剣の使い手だ。
このゲームの容姿は、現実のように個性を演出するため【ランダムで決まる】のだが、ユウキは幸運にも自分に似た美少女キャラを引き当てた。彼女は現実でも美少女なので、もしかしたらその情報が影響したのかもしれない。
因みに、アバター名を本名のままにしているのは、自分自身が冒険していることをより強く感じたかったからだ。
「さーて、今日は何しようかな? スキルポイントでも稼ごうかな? それとも、クエストに挑戦しようかな?」
週末の授業が終わって心地よい開放感に包まれたユウキは、綺麗な長髪をなびかせながら楽しそうに今日の予定を考える。彼女がやっているこのゲームはとても自由度が高く、現実に近いことはもとより、ファンタジーなことまで思う存分に再現できる夢のような世界なのだ。
しかも、今月から新生アインクラッドとソードスキルが実装され、できることが更に増えた。
「うん、ここはやっぱりソードスキルの練習かな。必殺技が使えると楽しさ倍増だもんね!」
ユウキは、クルッとエルロン・ロール(360度回転)しながらALOのアップデートを喜ぶ。
今より7ヶ月前、このALOはとある大事件の舞台となり、一時は存続も危ぶまれた。だが、子供たちには知る由も無い事情により大復活を遂げて、短期間の内に大幅な仕様変更やアップデートが進んでいる。
因みにユウキは、大切な人がSAO事件に巻き込まれたことが原因で、このゲームを発売直後から始めていた。その時点ではまだナーヴギアの問題が解決していなかったこともあり、彼女たちの両親は難色を示したが、懸命にお願いしてようやく買ってもらった。双子の姉である藍子(あいこ)の分と一緒に。
そして今、そのお姉さんもログインしており、ユウキの左側に並んで飛行していた。
「ところで、姉ちゃんはなにしたい?」
「はぁ、ほんとにユウキは元気ね……というか、現金と言うべきね」
藍子は、あからさまに浮かれている妹に呆れた視線を向ける。
ゲーム内で【ラン】と名乗っている彼女は、顔立ちがユウキによく似たアバターを手に入れていた。双子であることを考慮されたのか真相は分からないが、とにかく姉妹共に運が良かった。
ウンディーネの特徴である青い髪の両脇に大き目のリボンをつけた彼女は、一見するとお淑やかな令嬢といった雰囲気の美少女となっている。やんちゃな妹とは違って物腰に落ち着きがあり、支援・回復魔法を主とする種族を選んでいるせいか、その印象は更に強くなっているようだ。
ただし、今はなにやらご立腹の様子だが。
「あれ、もしかして怒ってる?」
「見ての通りよ、ユウキ。せっかくオヤツに買って来たケーキをみんなで食べようと思ってたのに、強引に連れてくるんだから」
「えへへ~、ごめんね姉ちゃん」
可愛らしく頬を膨らませている姉に怒られてユウキが謝る。おどけるように手を合わせたその様子からするとあまり反省しているようには見えないが、可愛い妹に甘いランは苦笑するだけで済ませるしかない。
それに、彼女自身もこの世界を楽しんでいるので、言うほど怒ってもいない。むしろ、ユウキと同じくらい楽しんでいる。なぜなら、自分たち姉妹が恋している【お兄ちゃん】と一緒に遊べるのだから。
「私よりソウ君に聞いてみたら? 久しぶりに一緒に遊べるんだから」
「うん、そうだね! というわけで、ソウ兄ちゃんは何したい?」
ランの意見を聞き入れたユウキは、隣にいる若い男性に質問する。それと同時に、彼の背中に飛び乗って、両腕を首筋にからめて抱きついた。彼こそ、紺野姉妹に好意を寄せられているお兄ちゃんその人である。
「ねぇねぇ、ソウ兄ちゃ~ん! 今日は何して遊ぶのさ~?」
「ええい、私の名はソウ兄ちゃんなどではない! あえて言わせてもらおう、グラハム・エーカーであると!」
ユウキにソウ兄ちゃんと呼ばれたシルフの少年は、どこかの軍人のような口調で反論した。どうやら彼は、いろんな意味で普通ではないらしい。もしくは、別の世界で人類を守るために地球外変異性金属体と勇敢に戦い、散っていった男の魂が偶然にも紛れ込んだか。
どちらにしても、ユウキたちには気に入られているようなので、あえて多くは語るまい。
そんなことより、ユウキに抱きつかれた衝撃でバランスを崩したため、いつまでも彼をいじっている場合ではなかった。というか、ただ今絶賛落下中である。
「うわっ、落ちるぅー!?」
「おっと、これ以上の戯れは危険だぞ、ユウキ。この高度で落下しては、手痛い思いをしてしまうからな」
「うん、そうだね」
ソウ兄ちゃん……もとい、グラハムの注意を受けたユウキは、名残惜しそうに彼の背中から離れる。
このゲームの売りである飛行能力は、背中に現れる妖精の羽を使って空を自在に飛べる夢のようなシステムである。ただ、見た目よりも操作が難しく、初心者はまずこの技術を覚えるために反復練習するハメになる。色々と制限があった以前よりはかなりマシになったが、それでも慣れるにはそれなりの時間を要する。
実際、始めたばかりの頃はユウキたちもかなり怖い思いをしたものだ。
「当初は、この私ですら恐怖を感じたからな。ここは素直に流石であると認めざるを得ないだろう」
「あうう~、今ので、すっごい高さから落ちたときの事を思い出しちゃったよ~」
「うん、あの時は本当に怖かったよね。ジェットコースター以上だったもん」
「なにしろ、2人揃って地面にめりこんだらしいからな。実に愉快なことだ!」
「うわー! そんな黒歴史、思い出させないでー!」
グラハムに茶化されたユウキは、彼の体をポカポカと叩くような仕草で対抗する。
どうやら初代ALOの開発者にはユーモアのある人がいたらしく、限界高度から落下するとプレイヤーが地面にめりこむような面白い仕様になっていた。
そして、ご他聞に漏れず、初心者だった頃の彼女たちも限界に挑戦して同じ目にあっていたりする。
「たとえ才能があろうとも、いきなりトップファイターになどなれはしない。千里の道も一歩からだと知るがいい」
「むきー! ソウ兄ちゃんにバカにされたー!」
「いや、バカになどしてはいない。私は君たちに怖い思いをしてほしくないだけさ」
「あ……」
ユウキをからかって遊んでいたグラハムは、急に優しい表情を浮かべると、彼女の頭をさらりと撫でた。現実の彼はアメリカ人の遺伝子を半分だけ受け継いだ長身のイケメンで、大抵の女性が好意的な目で見る容姿をしているが、幼い頃から彼に恋しちゃってるユウキには更に効果バツグンだった。
「えへへ~♪」
嬉しくなったユウキは、とろけるように表情を崩す。ついさきほどまで文句を言っていたのに、ここまで急変するとは。デレた彼女はかなりのチョロイン系であった。
しかも、姉のランも彼に好意を寄せているので、当然ながらユウキのことが羨ましくなった。
「(いいなぁ、ユウキ……よし、こうなったら私も!)」
積極的なユウキの行動に触発されて、普段は大人しい彼女も時々大胆になる。そのあたりのシンクロ率は、やはり姉妹と言うべきか。よこしまな目で見なければ実に微笑ましい光景である。
ただし、大抵その後はハプニングが起こるのだが。
「ソウ君、私も撫でてー!」
「ちょっ、なにすんだよ姉ちゃん! 今はボクのターンだよ!」
「そんな決まりはありませーん」
我慢できなくなったランはグラハムに近寄ると、空いている左側の腕にしがみついた。それを見てユウキも対抗心を燃やし、右側から彼の体に抱きつく。
美少女2人に抱きつかれるという、とても羨ましい状況である。
「ふふっ、ソウ君の腕に抱きつくと落ち着くな~」
「ボクは断然、体に抱きつくほうがいいもんね!」
グラハムに抱きついた紺野姉妹は、特に恥ずかしがることなく甘い本音を言いあう。
因みに、すべてのVRMMOにはハラスメント防止コードというものがあり、異性同士の接触は基本的に出来ないようになっているのだが、本人たちが望んでいる場合はある程度まで許可される。つまり、ユウキたちの行為は、システム的に問題ない範囲であると判断されたわけだ。
ただ、一つだけ問題をあげるとすれば、今は飛行中だという点だ。じゃれあいに熱中していたユウキたちは、姿勢制御が不可能な高度まで落下していることに気づくのが遅れた。
こうなるともう、仲良く墜落するしかない。
「きゃ―――!?」
「地面がどんどん迫って来るぅ――!?」
「なんとぉ! フラッグファイターであるこの私が、空に嫌われるとは! これが奢りというものかぁ――!」
グラハムたちは三者三様に叫びながら、成すすべも無く草原地帯に落っこちた。それほど高く飛んでなかったので被害は最小限で済んだが、心的ダメージは大きかった。
「うう、今更こんな落ち方するなんて、すっごい屈辱だよ……」
「これは、思ってた以上にへこむわね……」
「なに、気に病む必要は無い。過ちは素直に認めて、次の糧にすればいいのさ」
そう言われてもやっぱり気恥ずかしい。倒れていたユウキとランは、情けない表情をしながら立ち上がる。
しかし、グラハムだけは仰向けに寝転がったまま起き上がろうとしない。気になった2人はどうしたのかと思って彼に近寄り、傍にしゃがみこんで話しかける。
「どうしたのソウ君?」
「ああ……視界に入ってきた景色があまりにも美しかったのでね。つい見入ってしまったんだ」
どうやら、綺麗に晴れ上がった青空に心を奪われていたようだ。
彼がデスゲームと化したSAOを生き抜いて無事に戻ってきてから時々やるようになった行動で、その様子を見ているとユウキの心は切なくなる。
きっと、向こうで色々なことがあったんだろう。
「(あんな酷い思いをしたんだから当然忘れられないよね。経験してないボクだってそうなんだから……)」
思わず感傷的になったユウキは、少しだけ過去を思い出した。
今より二年半前、SAO事件が起きて意識不明となったグラハムは、すぐに病院へと運びこまれた。そこでナーヴギアを被ったままベッドに寝かされた彼を見た瞬間、強いショックを受けたユウキの脳裏にとある光景が浮かび上がった。巨大な機械で目から上を覆われたまま病院のような場所で眠り続ける少女の姿を。
その時、強い恐怖と同時に懐かしい気持ちを感じた。
「(そういえば、あれって結局何だったんだろう?)」
今でも時々思い出しては疑問に思う。あんな光景なんて一度も見たことないのに、どうして記憶にあったんだろう?
ちょっとだけ不思議に思うけど……あまり気にする必要は無いとも感じる。
ソウ兄ちゃんは助かって、ボクたちの傍にいてくれる。今はそれだけでいいじゃないか。
「…………」
「どうしたユウキ、急に黙って。もしや、トイレにでも行きたくなったか?」
「全然違うよ! って、それはともかく、ソウ兄ちゃんは本当に空が好きなんだね」
「ああ、SAOにも空はあったが、とても閉鎖的で息苦しかったのでね。このALOとは段違いなのだよ。それに今は……2人のパンツも見えるからな!」
「「……え?」」
「ピンク色に水色か。デザイン的に背伸びしすぎている気もするが、それでもよく似合っているぞ、2人とも!」
「「って、そんなことを堂々と褒めるなー!!」」
双子の姉妹は仲良くつっこんだ。せっかく、恋人らしく(?)心配していたのにこれである。
実は、こういうラッキースケベ的な状況ではハラスメント防止コードが働きにくい。いわゆる、不可抗力というヤツだ。昔の3Dゲームでカメラアングルを変えたら、偶然ヒロインのパンツが見えちゃった状況と同じだと言えばお分かりいただけるだろう。
「だからって、乙女のパンツを見ておいて、タダで済むはず無いでしょ!」
「そうだね。ここはちゃんと責任を取ってもらわなきゃ気がすまないかな~」
「なんという横暴……と言いたいところだが、可愛い君たちの願いとあらば、何なりと聞いてあげよう」
何だかんだと言って仲が良い3人は、たとえエッチなハプニングが起きてもこんな感じで済むのであった。
見方次第では三角関係と言えるかもしれないので、人によっては良くない関係だと感じるだろう。しかし、彼らはまだ学生であり、年相応の清い交際をしている。だから、答えをすぐに出す必要もない。
もちろん、近い将来に必ず決断しなければならない時が来るだろうが、それまでは本人たちの望むままに青春を謳歌してもいいはずだ。
「ふっふっふ~、ちゃんと約束したんだから覚悟しておいてね!」
「了解した。とはいえ、お手柔らかにな、2人とも」
思わぬ報酬を獲得して機嫌を取り戻したユウキは、やれやれと肩をすくめるグラハムにとびっきりの笑顔を向ける。
「(久しぶりにソウ兄ちゃんと遊べる上に、リアルに戻った後も甘え放題できるなんて、今日はとってもいい日だよ!)」
この後に起こるだろうイチャイチャイベントを思い浮かべたユウキは心の底から喜ぶ。そして、姉のランも同じようなことを考えていた。
「(えっと、ソウ君にしてもらいたいことは……そうだ、後でケーキを食べさせてもらおうかな~♪」
2人とも願い事が可愛らしくて微笑ましい。14歳という年齢を考えても、彼女たちの純粋さはものすごく貴重だった。それだけ家族や周りの人々から愛されている証拠だ。もちろん、彼女たち自身が良い子であることも間違いないが。
何はともあれ、有益な約束を取り付けて少女たちの気分も落ち着いたので、次の行動に移ることにした。
「よしっ、それじゃあ改めて、冒険に出発しよう!」
「うむ、そうだな。と言いたいところだが、少し待てくれないか、ユウキ」
「えっ、なんで?」
気合を入れた途端にグラハムから止められてしまう。どうやら移動する前に何か伝えたいことがあるらしい。
「何かやりたいことがあるの?」
「うむ、実はかつての戦友たちからアインクラッド攻略の誘いを受けたのでね、久しぶりにゲーム内で会うことにしたんだ」
グラハムは急に気になることを言い出した。
SAOから帰還した彼は、これまでずっと勉強と体力回復に専念して、あまりゲームをやっていなかった。一応、SAOのデータを引き継いでALOのアカウントを作り、時々ユウキたちと遊んでいたが、ゲーム内でかつての仲間たちと会おうとはしなかった。それにはとある事情があるのだが、PK推奨のALOはどうにも興が乗らず、飛行システム以外に心惹かれる部分が無かったという理由もあった。
しかし、新生アインクラッドとソードスキルが実装された今は別だ。オンラインゲームの醍醐味である強大なモンスターを仲間と共に討ち破る快感を再び味わいたい。今度は純粋な遊びとして。
「ゆえに、私は戦友の誘いを受けることにしたのだ」
「ってことは、これからはゲームに専念するんだね!?」
「ああ、君たちにもぜひ協力して欲しいと思っているのだが、この誘い、受けてくれるかな?」
「うん、もちろんだよ!」
「はい、一緒にがんばりましょう!」
ユウキたちはグラハムの申し出を快く受け入れた。大好きな彼の願いを断る理由などどこにも無い。いや、むしろ望む所だ。ALOに愛着を感じている彼女たちは、ずっとこの日を待っていたと言っても過言ではないのだから。
ただ、ちょっとだけ気になることがある。
「ねぇ、ソウ兄ちゃん。『かつての戦友』とか言ってたけど、やっぱりその人たちもSAOをやってたの?」
「その通りだと言わせてもらおう。しかも、その中の一人はあの英雄だぞ」
「英雄って……まさか!?」
「そうだ、SAOをクリアした黒の剣士その人であり、私が心奪われた男だ!!」
「「…………えぇ――――――――っ!!?」」
グラハムの意外過ぎる告白に双子の姉妹は大いに驚く。
もちろん、彼の言葉は同性愛的なものではなく、強さに対してリスペクトしているという意味なのだが、その表現方法はとっても紛らわしかった。
またしてもグラハムを出してしまいました。
ただし、ゲーム内だけの演出的な性格で、リアルのソウ兄ちゃんは普通の人です。
そうしないと、ただのギャグ作品になってしまいまふ。
ご意見、ご感想をお待ちしております。