ソードアート・オンライン アイとユウキのセカイ   作:カレー大好き

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今回から新しい話となります。
まずは、フィリアとアルゴの過去話から入ります。
次回まで続く予定で、その後は2人もクエストに参加することになります。


ピクシー・リバース編
第10話 恋するフィリア


 2025年5月。紺野姉妹と明日奈は【見知らぬ仲間】を求める冒険を始めることになった。

 しかし、目標が漠然としすぎて何をすればいいのか分からない。そこで宗太郎に相談すると、意外な答えが返ってきた。

 

「まぁ、のんびりやればいいんじゃない?」

「え~、なんだよそれー。もうちょっと真面目に答えてよー」

「これでも大真面目だぞ? もし木綿季たちの見たイメージに意味があるとしたら、それだけお前たちに縁があるってことになるからな。放っておいても巡り会う可能性が高いわけだ」

「あっ、そうか!」

「でも、そうじゃない可能性もあるでしょ?」

「そりゃそうだけど、今のリズムを変えるほど懸命にならないほうがいいと思うぞ? 仲間ってのは無理して作るもんじゃないからな。自然に出会えれば、それが一番だ」

「うん……そうかもしれないね」

 

 宗太郎の説明はかなり説得力があり、それを聞いた少女たちは納得した。

 こうして彼女たちの活動はのんびりとやっていくことになり、ALOで遊ぶついでに探すといったスタンスで始まった。

 それと同時に、和人とユイには事情を話しておいたほうが良いと判断し、仲間に加わってもらっている。夢みたいな話のために余計な面倒をかけたくなかったが、明日奈に近しい2人には気づかれる可能性が高い。それなら素直に説明して、力を貸してもらったほうが良いだろうと考えたのである。

 

「てなわけで、和人の新たなハーレム要員を探し出すぜ!」

「ああ、そうだな……って、違うだろ!?」

 

 というように、思わずノリツッコミをかましてしまうくらい和人も乗り気であった。

 ただ、現状で出来ることはあまりなく、木綿季たちのイメージを元に作った似顔絵を参考に人探しをする程度だった。音声の記憶もあるにはあるのだが、すぐに曖昧になってあまり使い物にならないのだ。

 

「仲間の名前やギルド名は分からないのか?」

「うん……。ギルド名は、スナイピングナイツとかスニーキングナイツみたいな感じだったと思うんだけど……」

「なるほど。どうやら、銃火器とダンボールの扱いに長けている連中のようだな」

「それはたぶん違うと思うよ?」

 

 こんな感じで参考にならなそうなので、とりあえず視認での探索を進めていくことになった。

 果たして、イメージの中の彼らは本当にいるのだろうか。運命の出会いを実現できるかは、まだ分からない……。

 

 

 そして、あっという間に月日は流れて7月となった。学生にとってもっとも待ち望んでいるであろう季節がやって来たのである。もちろん木綿季たちもその中に含まれており、期末テストを終えた開放感を大いに満喫していた。

 テスト終了記念と称して東京の繁華街にやって来た彼女たちは、同伴している男どもを放置して買い物を楽しむ。あたり一面を華やかな水着で満たされた場所で。

 

「ねぇ姉ちゃん、こんなのはどうかな?」

「そんな際どいのダメに決まってるでしょ」

「え~、オッパイの大きい明日奈だったら似合うと思うんだけどな~」

「って、わたしのだったの!?」

 

 先の件で更に仲良くなった木綿季、藍子、明日奈の3人が、キャッキャウフフと水着選びをしている。そして、彼女たちの後方では、和人と宗太郎が場違いな様子でたたずんでいる。ダブルデートの途中で水着売り場にやって来た結果、このような状況になっていた。

 夏と言えば水着で勝負。ということで、プールに行く約束をした女性陣は、熱心に水着選びをしているのだ。

 ちなみに、直葉は部活動のため、里香と珪子は明日奈に気を使ってこの場にいない。まぁ、彼女たちがいたとしても男性陣の立場は変わらないのだが。

 

「はぁ。アニメとかでよくあるシチュエーションだけど、まさか自分が経験することになるなんてな……」

 

 下着売り場に次いで居心地の悪い場所に連れてこられた和人は、となりにいる宗太郎に愚痴り始める。

 

「こういう状況って想像以上にきついな」

「そうか? 俺は乙女座だから普通に楽しめるけどな」

「関係ないだろそれ!」

「いや、そうでもないぞ。乙女座の俺はブーメランパンツ派だからな。女性用水着を見たぐらいで心を乱したりはしない。いや、たとえ着用したとしても抵抗感はまったく無い!」

「そこは抵抗感持てよ! ってか、やっぱり乙女座関係ねぇし!」

 

 宗太郎に同意を求めたら、明後日の方向にぶっ飛んだ意見が返ってきた。

 しまった。この男は、こういう時にお茶目なことを言い出すヤツだった。こいつとの会話は面白のだが、時に油断ならないことになると経験してきたのに……。

 現に、怪しげな会話のせいで周囲の視線を集めてしまっており、和人にとって望ましくない展開になりつつあった。

 

「うわぁ~♪ あそこにいるイケメン、仲良すぎ!」

「もしかして、アッチのカンケイってヤツ?」

「だとしたら、黒髪の子が受けかな………………イケル!」

「ちょ、鼻血出てるよ!?」

 

 和人が聞いたら暴れ出しそうな会話で盛り上がる女性客たち。彼らのところまで届いていないのが不幸中の幸いである。

 とはいっても、和人が受けるストレスは変わらない。

 

「とにかく俺は、一刻も早くここから出たいぞ……」

「ふん。黒の剣士もこの状況では形無しか」

「モンスターみたいに倒せないしな」

「しかし敵わぬ相手でもない。ならば、全身全霊を込めて立ち向かうべきだ」

「立ち向かうってどうすんだよ?」

「俺たちも水着選びを手伝うんだよ。明日奈は巨乳でスタイル抜群だから、やりたい放題だぞ?」

「お前は少し自重しろ」

 

 和人は、自分の恋人にヨコシマな視線を送る宗太郎を睨む。むっつりもアレだが、オープンすぎるのも考え物だ。

 しかし、彼の言い分も一理ある。女子の水着を選ぶなんて若干気が引けるが、時間を早められるというメリットは大きいかもしれない。などと思っていたら、タイミング良く向こうから声をかけてきてくれた。

 

「おーい、ソウ兄ちゃーん」

「いくつか見繕ったから意見を聞かせてー」

「和人君もお願ーい」

「はら、我らが姫たちもお呼びだぞ?」

「ああ……こうなったら観念するか」

 

 おバカな宗太郎はともかく、愛しの恋人から頼まれては断れない。むっつり和人は、心の中で言い訳しながら乙女の花園へ突入していくのだった。

 

 

 数時間後。度重なる議論の末に、ようやく水着が決まった。和人の精神疲労と引き換えに、女性陣は納得のいく水着を手に入れることができたのだ。

 何はともあれ、買い物を堪能した一行は、デートの締めとして御徒町にある喫茶店【ダイシー・カフェ】にやって来た。その店はアンドリュー・ギルバート・ミルズというSAO時代の仲間が経営しており、5月にはアインクラッド攻略記念パーティーをおこなっている。それが縁で、和人たちの間ではオフ会の場所として利用されるようになった。

 ちなみに、木綿季と藍子は、その仲間――エギルとすでに対面済みだ。

 以下のやりとりは、6月初旬にALOで初対面した時のものである。

 あの時は、話の流れでグラハムが紹介することになったのだが――

 

『それでは紹介しよう。彼の名はダリル・ダッジ。ご覧の通り、軍人だ』

『一つも合ってねーよ! ってか、ダリルって誰だよ!』

 

 せっかくダンディな印象で決めようとしたのに、一瞬で台無しにされてしまった。彼もまた、グラハムによってツッコミ属性を身につけさせられた犠牲者(?)だった。

 

『まったく、お前は相変わらずだな』

『なに、これでも私は頑固者でね。人に嫌われるタイプだと自覚しつつも変わる気は無いのだよ』

『自覚してんなら何とかしろよ!』

 

 ――というような感じで、エギルとしては納得いかない結果になったものの、とりあえず紺野姉妹と彼は知り合いになった。

 その後は順調に親睦を深め、この店にも宗太郎に連れられて何度か来ている。

 だからこそ、遅めの昼食でお腹をすかしている少女たちは嬉しそうだ。

 

「むふふ~。今日はチョコパフェを食べるぞ」

「それじゃあわたしはバナナパフェにしようかな」

「う~ん。話を聞いてたら、わたしも食べたくなっちゃった」

「昼飯を決める前にデザートの話をするのか?」

「それが乙女というものさ」

 

 和人は、店を前にして甘いものばかりに気を取られている女性陣に呆れながらドアを開ける。

 このダイシー・カフェはかなり渋い作りをしており、喫茶店というよりは昔の外国映画に出てくる酒場のように見える。マスターのエギル自身が体格の良い外国人なので、華やかさとは無縁な雰囲気を醸し出している。

 しかし、今日は違った。カウンター席に2人の若い女性がいたからだ。

 どうやらエギルの知り合いのようで親しく話していたのだが、和人たちが来たのを知ると、そちらに向かって移動してきた。

 なぜかと言うと、彼女たちがここに来た理由が宗太郎に会うためだったからだ。

 

「もう、待たせすぎだよ宗太郎!」

「原因は想像つくがナ。女に甘いのは時として罪だゾ?」

 

 その少女たちは勝手なことを言いながら宗太郎に接近して、彼の腕に抱きついた。そして、問答無用と言わんばかりに店の中へと誘導していく。

 突然の出来事で反応できなかった木綿季はしばらく呆然としてしまったが、すぐに再起動してツッコミを入れる。

 

「ちょっ!? なんで琴音とアルゴがいるの――!?」

 

 ようやく事態を把握した木綿季は、宗太郎を連れていった女性たちの名を叫ぶ。

 この2人は彼の知り合いで、紺野姉妹もALO内で紹介されていた。グラハムがALOに参戦したことを知るや否や、彼女たちのほうから会いに来たのである。その結果、明日奈たちより前に知り合い、恋のライバルと認定しあうことになったのだ。

 そんな出会い方をしたのだから、自然と対抗意識が出てしまう。

 

「どうしてここに来ることが分かったのさ?」

「ふふン。オレっちたちの情報網をなめてもらっては困るナ」

「タネを明かすと、わたしが明日奈から聞き出したんだけどね」

「明日奈~!?」

「あはは……ついウッカリ口が滑って……」

「ちなみに、オレっちたちもプールに行くぞ。ソー太郎からのお誘いを受けているからナ」

「ソウ兄ちゃーん!?」

「なに。こういうイベントは、大勢で遊んだほうが楽しいからな!」

「はぁ。やっぱりこうなるのね……」

 

 いざ答えを聞いてみたら身内に敵がいた。これでは情報戦に負けてしまっても仕方がない。何となく敗北感に打ちのめされた木綿季は可愛らしくむくれる。もちろん、姉の藍子も不機嫌顔だ。

 しかし、すべての元凶である宗太郎は、急に始まった修羅場(?)を前にしても普段通りだった。

 

「はっはっは。可憐な乙女が口論する姿も可愛いものだな!」

「あんたはもっと当事者としての自覚を持ちなさいよ!」

 

 呆れるほどにマイペースな宗太郎に対して、隣にいるショートヘアの少女がツッコミを入れる。

 彼女の名前は浅倉琴音。今年で17歳になる活動的な印象の美少女だ。和人たちと同じSAO生還者であり、フィリアという名の剣士として、彼らと共に最前線を駆け抜けた。

 SAO組の中では一番最初にグラハムと出会い、そのままパーティを組んで最終決戦まで一緒に行動している。だからこそ、彼に対する想いは強い。はっきり言うと恋をしていた。

 たとえ片思いだと分かっていても、簡単に諦められるほどやわな気持ちではない。本気で命を預けられるような相手なのだから当然だろう。

 そしてもう一人。独特な喋り方をしている小柄な女性も宗太郎と縁がある人物だった。

 彼女は、仮想・現実ともにアルゴと名乗っている風変わりな美人だ。見た目は中学生みたいに可愛らしいのだが、これでも立派な大人である。

 SAOでは情報屋として活動していたため、当時から秘密の多い女性で、生還した後も宗太郎以外には本名を明かしていない。和人たちが知っているのは、大学生だということくらいだ。

 逆に言うと、すべてを打ち明けている宗太郎に対しては心を開いているということになる。その証拠に、自身の感情を隠そうともしない。

 

「ソー太郎は罪作りな男だナ。そんなヤツに惚れてしまったオレっちたちも物好きだがナ」

「確かに、常識を疑ってしまうほどに奇特な行為だなぁ!」

「だから、当事者のあんたが言うなってば!」

 

 またしてもコントを始めた宗太郎と琴音。そんな2人を見つめつつ、アルゴがぼそりとつぶやく。

 

「ふふ……好きな相手がいる男に惚れ続けてるのだから、返す言葉もないナ」

 

 SAOにいた時から圧倒的に不利な恋だと分かってはいたが、この気持ちだけは譲れない。何といっても、命がけの世界で芽生えた愛情なのだから。決着がつくまでは引かないつもりだ。

 もちろん、彼と口論を続けている琴音も……。

 

「まったく、デートするんだったらわたしも誘ってよね~」

「まぁ、今回は勘弁してくれ。今度埋め合わせをするからさ」

「ほんとに?」

「もちろん。アルゴもな」

「うむ。期待して待っているヨ」

 

 宗太郎は大切な仲間に詫びを入れる。彼もまた、彼女たちとの絆を大事にしていた。

 残念ながら恋愛対象として見ることはできないのだが……。2人の想いを拒絶することは決してしない。それが宗太郎なりの親愛の形であり、琴音もアルゴも理解していた。

 これが叶わぬ恋だとしても、出来る限り彼のそばにいたいから。

 

 

 そのように不思議な関係で結ばれているフィリアとアルゴ。本来ならほとんど接点が無かった2人は、グラハムという面白カッコイイ人物の出現によって運命を変えられ、この場にいる。

 そんな彼女たちと宗太郎が知り合ったのは、SAO事件が始まって間もなくのことだった。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 今より2年半前の2022年11月。SAOに囚われたプレイヤーは大混乱に陥っていた。もちろん、茅場晶彦の起こしたデスゲームのせいだ。

 最初の1週間はまさに混沌としていて、人間の嫌な部分をこれでもかと見せ付けられた。追い詰められ、余裕が無くなった者は、いとも簡単に暴走してしまう。蔓延していく悪意が他者を傷つけ、拡大していく絶望が自身を殺す。まさに、狂った世界である。

 茅場晶彦は本当にこんな世界を望んだのだろうか。一体何のために。理性のある者は答えを求めたが、そこに救いはなかった。

 しかし、彼らにはまだ希望が残されている。当初の目的通りに、このゲームをクリアすればいいのだ。茅場晶彦の手の平で踊らされているだけかもしれないが、挑戦してみる価値はある。ならば、やるしかないだろう。

 後に攻略組と呼ばれることになるプレイヤーたちは、かすかな希望を頼りに立ち上がっていく。地獄と化したこの世界から必ず生還してみせると決意して。

 そんな勇ましい者たちの中にはローティーンの少女もおり、短剣使いのフィリアもその1人として戦っていた。

 

「わたしは負けない! 絶対に生きて帰るんだ!」

 

 見た目通りに勝気な性格の彼女は、茅場に対する怒りを糧にレベリングをおこなっていた。無謀にも、たった1人で青いイノシシ――フレンジーボアを狩りまくっていたのである。

 宝探しが好きで、ソロプレイを好んでいるという背景もあるが、今は別の理由もある。それは、パーティを組んでもいいと思えるプレイヤーがいなかったからだ。現在は、ほとんどの者が情緒不安定になっており、自分のことで精一杯。こんな状況ではまともに話し合える訳がない。中には自棄になって、彼女にいかがわしい感情をぶつけようとする者さえいる始末だ。

 

「あんな奴らの近くにいるくらいなら、1人で戦っていたほうがマシよ!」

 

 また1匹、フレンジーボアを屠りながら叫ぶ。彼女もまた心に負荷を受けており、不安定になりそうな気持ちを怒りで覆い隠していたのである。

 しかし、そんな彼女に安心感を与えてくれる存在が現れる。モンスターを求めて次のエリアに移動したフィリアは、あの男に出会ったのだ。なぜかフレンジーボアにまたがってロデオをしているグラハムに。

 

「私の抱擁を受けてもなびかないとは、身持ちが堅いなぁ! そのじゃじゃ馬ぶり、かえって落とし甲斐があるというもの!」

「あの人なにやってんの――――――!!?」

 

 予想もしていなかった光景を目撃して度肝を抜かれる。

 ミスをすれば死ぬかもしれない状況で、あいつは何をやっているのだろうか?

 フィリアは当たり前の疑問を持ったが、もちろんグラハムもふざけてやっている訳ではない。

 彼は、敵に対してどのようなことが出来るのか色々と試している最中だった。実際の生物と類似する弱点があるのか。蹴りなどの格闘技は効くのか。部位破壊は可能か。地形にあるオブジェクトは使えるのか。乗り物として利用できないか……。知っておくべき情報はたくさんある。

 まぁ最後のだけはお茶目な冗談だが、それをこなしてしまえるほどに冷静であるとも言える。

 しかし、当然ながら乗り物にはできないので、グラハムは振り落とされてしまう。

 

「グオォォォ―――ッ!!」

「うおぅっ! この程度のGに、体が耐えられんとは!」

 

 激しく身体を揺さぶってグラハムを振り払ったフレンジーボアはそのまま突進していき、若干距離を開けたところで方向転換した。地面に落とされたグラハムに追撃を食らわすつもりらしい。

 

「あっ、危ないっ!?」

 

 危機を察したフィリアが叫ぶ。このままでは彼が大ダメージを受けてしまう。しかし、距離の離れている自分では援護が間に合わない。

 ダメだ。もし彼の残存HPが少なかったら……。フィリアの心に緊張が走る。

 しかし、当のグラハムはそれほど慌てていなかった。というか、非常にマイペースな様子で怒っていた。

 

「くっ……堪忍袋の緒が切れた! 許さんぞガンダム!」

 

 激昂したグラハムは、場違いな単語を叫びつつ起き上がった。そして、今にも弾き飛ばされそうなタイミングで、フレンジーボアの横っ面に回し蹴りを食らわした。

 

「プギィッ!?」

「なっ!?」

 

 スキルではないのでダメージはほとんど与えられなかったが、相手の軌道を変えることはできた。これも事前に情報を確かめた成果だ。

 このゲームはアクション性が非常に強くて、剣を扱う以外の行動でも様々な効果を得られる。先ほどのように格闘術で隙を作ったり、鞘を使って防御をしたり、ポーションで目潰しをするなんてこともできる。その辺の作りこみは流石であり、茅場の仕事を褒めないわけにはいかない。

 しかも、彼がプレイヤーたちに与えた可能性はそれだけではない。さらにもう一つ、VRマシンの性能についても茅場に感謝しなければならないことがあった。

 それは、グラハムの動きで説明できる。

 

「切り捨て、ゴメェェェェン!!」

 

 気合を入れたグラハムは、体勢を崩したフレンジーボアに向けて切りつけた。

 その剣捌きはとても鮮やかで、フィリアの視線を釘付けにする。

 

「は、早い!?」

 

 フィリアは我が目を疑った。通常攻撃なのにソードスキル並の速度が出ていたからだ。

 なぜそんなことができたのかと言うと、VRマシンに仕込まれた基本的な機能のおかげだった。

 脳と直接リンクしているVRマシンは、脳の処理能力をダイレクトに反映してくれる。つまり、思考速度が早ければ、それだけアバターの動きもよくなるのだ。ようするに、脳の使い方が上手いかどうかで、強さも変わってくるのである。

 通常のゲームでも上手い人と下手な人がいる。大体それと同じ理屈だ。

 普通のプレイヤーは、徐々に慣れて少しずつ強くなっていくのだが、たまに突出した実力を示す存在がいる。キリトやアスナのような凄腕プレイヤーがそれに該当する。彼らは脳の扱いにおいて高い能力を有しており、グラハムの場合は、科学者を目指していることが上手い具合に作用していた。

 その証拠に、彼は驚くべき実力を見せた。

 

「うおぉぉぉぉぉ!!」

 

 勇ましい掛け声と共に、切る、切る、切る。見事な連撃が決まり、フレンジーボアは光となって砕け散った。

 

「ふん。私は、やられたらやり返す主義なのだよ!」

「な、なにあれ……」

 

 まさに圧倒的かつ理不尽な実力。一連の光景を目撃したフィリアは、呆然としながら思った。あいつは一体何者なんだと。

 その途端に、当の本人が名乗りを上げた。

 

「あえて言わせてもらおう、グラハム・エーカーであると!」

「もしかして、心を読まれたー!?」

 

 もちろん、破天荒な彼でもそんなことはできない。ただ雰囲気で悟っただけだ。

 戦闘終了後、ようやくフィリアの存在に気づいたグラハムは、独特な口調で話しかける。

 

「ほう。これは可愛らしいお客さんだ。まだまだ拙い演舞だが、楽しんでもらえたかな?」

「は、はぁ……」

 

 なんだろうこの人。色々と変だけど、とにかく強い。それに……。

 

「(すごく綺麗……)」

 

 金髪がよく似合うグラハムの容姿にフィリアは見惚れる。当時14歳だった彼は美少女と見間違うほどに容姿端麗で、心が弱っていたフィリアには地獄に舞い降りた救いの天使のように見えた。性格はちょっとアレだけど。

 

「君は1人でここまで来たのかね?」

「うぇ!? そ、そうよ?」

「なるほど、闘志は申し分ないということか。しかし、可憐な乙女の1人歩きとは危険極まりない。君さえよければこの私、グラハム・エーカーにエスコートを任せてもらえないかな?」

「う、うん……。それじゃあ、お願いしよっかな」

 

 ものすごく個性的な雰囲気に飲まれて思わず話を受けてしまう。不思議と嫌な感じはしないので抵抗感はまったく無いのだが、やっぱり普通ではない。いろんな意味で只者ではないことだけは分かる。

 

「(でも……面白そうなヤツだな)」

 

 初めて接触したグラハムに対するフィリアの第一印象はそんな感じだった。




フィリアとアルゴは現実世界の設定があまりないので、独自に解釈しました。
フィリアはキリトと同じ年齢。
アルゴはキリトたちの通っている学校にいる描写が無いので、大学生以上と判断しました。
見た目からすると、アルゴの方が年下みたいなんですけど。
ロリお姉さんってのもアリだな!
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