ソードアート・オンライン アイとユウキのセカイ   作:カレー大好き

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過去話の続きと新たな展開の導入となります。
木綿季と藍子の出番は少ないですが、お許しください。


第11話 アルゴの愛情

 衝撃的な出会いを果たしたフィリアとグラハムは、とりあえずパーティを組んでレベリングを続けた。やたらと強いグラハムが加わったおかげで、モンスター狩りの速度が飛躍的に上昇する。

 

「やっぱり、この人すごい!」

 

 彼の戦いぶりを見たフィリアは、改めて不思議に思った。始めて間もないのでレベルに大きな差は無いはずなのに、どうしてこんなに動けるのかと。

 

「ねぇ、グラハム。なんであんたはそんなに強いの?」

「なぜかと問われたならばこう答えよう。この私がグラハム・エーカーだからだと!」

「答えになってない!」

 

 やっぱりこの男は常識では測れないようだ。

 とはいえ、言っていることは合っている。彼の思考能力が高いからこそ実現しえる動きだからだ。つまり、SAOでもトップクラスの才能を持っている特殊な人物ということなのだが、そんな彼と出会えたフィリアは幸運だったと言えるかもしれない。

 一応それなりに頼れるし……すっごいイケメンだもんね。

 

「フィリア」

「ひゃうっ!? ななな、なに?」

「顔がトランザムをしたように赤くなっているが、ポーション酔いでもしたのかな?」

「え~っと、その、なんでもないよ~?」

「そうか。ならば先を急ぐとしよう」

「う、うん、そうだね……」

 

 危うい所で何とか誤魔化せた。出会ったばかりの男に見惚れていただなんてことを知られたら流石に恥ずかしい。

 

「(こんな時になにやってるんだろ、わたし……)」

 

 命がけで戦っている状況で男に気を取られるなんて、気を許しすぎじゃない?

 でも、悪い気はしない。だから、しばらくはこの人と一緒にいようと思う。14歳のフィリアは、芽生え始めた感情を持て余しつつ、この不思議な男についていこうと決めるのだった。

 

「ではいくぞ! 目指すは友達100人だ!」

「うん、そうねって、なにその目標!?」

 

 いきなり思ってもいなかった話をしだして呆気に取られる。カッコイイと感じた矢先にこの調子である。彼の破天荒な行動は、どこまで本気なのか判別し辛かった。

 しかし、フィリアの心配は無用で、彼にはちゃんとした思惑があった。

 

「(まずはプレイヤーたちとの対話から始めなければなるまい。でなければ、歪んだ悪意がこの世界を脅かすことになる……)」

 

 実際にデスゲームとやらを体験したグラハムは、この段階からプレイヤーたちの倫理崩壊を危惧していた。

 命がけの戦闘は確かに恐ろしい。だが、表面的にやっていることはゲームそのものだ。痛みは元より出血すら無いため、危険なことをしているという感覚が徐々に麻痺してくる。この慣れこそが一番怖い。間違った知識を学習し続ければ、いずれ誰かが狂いだす。

 しかも今は、問題行為に対処すべきGMがいない。このような現状が続けば、近いうちに暴走する者が現れ始めるだろう。恐らくはPK――人殺しすら起こる可能性がある。暴力で成り立っているこの世界で、それを完全に食い止めることなど出来るわけがない。法律がある現実でも無理なのだから当然の帰結だ。

 

「(しかし、それはごく一部。多くのプレイヤーには未来を生きる意思があるはず。この私やフィリアのようにな)」

 

 グラハムは、新たな仲間に大切な少女たちの姿を見る。木綿季と藍子。彼女たちがいるからこそ、この世界でも生きていける。人間という存在に希望が持てる。

 

「(ゆえに、友達100人を目指すのだよ)」

 

 もちろん、全員と仲良くなれるわけはないだろうが、この世界を生き抜くには仲間が必要だ。

 どのような世界でも1人では生きていけない。だからこそ、支えあう仲間がいる。対話し、つながることで、秩序を構築していく必要がある。

 そのために、まずは信頼できる仲間を増やしていかなければならない。そしていつかはギルドを作り、製造系・日常系プレイヤーを充実させていく。そうすることで、出来る限り現実の生活を再現するのである。

 恐ろしい戦闘だけでなく、楽しい日常も提供できるようになれば、心の歪みを防ぐことが出来るかもしれないという算段だ。

 戦闘を重ねながらそのようなことを考えていたグラハムは、簡略化した意見をフィリアに説明する。

 

「なるほどね……。こんな酷い状況になった直後なのに、そんなことまで考えてたんだ」

「これでも社会常識をわきまえているつもりだ」

「そんな人は、猪にライドオンしたりしないけどね」

 

 確かにその通りだが、実はあれも仲間集めに役立てるための行動――情報収集の一環だった。

 情報は、人と関わりを持つ上でとても重要なファクターとなる。適確な個人情報があれば仲間集めの指針になるし、余計ないさかいを回避することもできる。そして、SAOの攻略に使えるものであれば信頼獲得に役立つ。グラハムが色々と試していたのはそういう理由からだった。

 まぁ、モンスターに乗ったなんて話は誰もいらないだろうが、とにかく彼はこれからも情報を重視した行動を進めていく。

 その結果、ベータテスターの経験を生かして情報屋を始めたアルゴと出会うことになる。

 

 

 フィリアとパーティを組んでから数日後。クエストをクリアしてアニールブレードという片手直剣を手に入れた彼らは、始まりの街に戻ることにした。

 その途中でサーシャという女性プレイヤーと出会い、交渉の末に行動を共にすることになった。フィリアと同じく周辺フィールドでレベル上げをしていた彼女をグラハムがスカウトしたのである。

 メガネをかけた彼女はとても優しそうな女性で、フィリアもすぐに賛成する。サーシャの方も人当たりの良い2人に好感を持てたので、快く受け入れてくれた。

 

「それでは、よろしくお願いします」

「こちらこそ! この私、グラハム・エーカーが、君の加入を歓迎しよう」

「これで友達2人目だね」

「ああ。ルイス・ハレヴィに続いてカティ・マネキンも仲間にできようとは。私は運が良い」

「確かにそうかもね……って、誰ソレ!?」

 

 不意におかしな言動を始めてフィリアにツッコミを入れられるグラハム。とはいえ、目標達成に向けて歩みが進んだことは間違いない。

 そうして始まりの街に戻って来た3人は、グラハムの提案で情報の変化を調査した。デスゲームが始まってそれなりに時間が経過しているので、街の様子も少しは落ち着きを取り戻している。そこで彼らは、状況把握と仲間探しを同時に進めることにした。

 

「コマンダー、目標視認。作戦行動に入る」

「は、はぁ……」

「今まで放置してたけど、街中でもそのキャラで行くの?」

 

 長らく一緒にいてようやくそこにツッコミを入れるが、もはや後の祭り。若干の不安を感じるものの、このまま行動を開始する。

 性格の良さそうなプレイヤーを見つけては積極的にコミュニケーションをとり、友好度の上昇と情報交換を同時に進めていく。はっきりいって地味な行動だったが、そんなグラハムたちに注目した人物がいた。【鼠のアルゴ】と名乗っている女性プレイヤーだ。

 彼らの様子から自分と同じ気配を感じたアルゴは興味を持った。情報収集を熱心におこなっている彼らと仲良くなれば自分にとってもメリットになると考えたのだ。

 それに、もう一つ大きな理由もある。

 

「親しくなるなら美少年の方がいいに決まっているしナ」

 

 アルゴは結構面食いだった。

 何はともあれ、グラハムが美少年だったおかげで彼女と接触するきっかけを得られたのである。

 

 

 翌日、機会を伺っていたアルゴの方から接触してきた。昼食を取っているところでさりげなく話しかけ、グラハムもそれに応じたことで彼らの長い付き合いが始まった。

 落ち着いて話せるように人気の無いところに行き、いくつかの情報交換をやりあう。その際にフィリアにも話した例の懸念を語り、グラハムの聡明さを知ったアルゴは驚きと喜びを感じた。彼女は頭の良い男が好みなのだ。

 

「正直言って驚いたゾ。その若さでそこまで先の事を考えているとはナ」

「私は常に未来を見据えている。ゆえに、進むべき道筋を見出すことができるのだよ」

 

 愛しい存在がいる彼は、彼女たちを想うだけで心を落ち着けることができる。だからこそ、明確な未来が想像できる。

 この時グラハムは、現実で待っているであろう紺野姉妹に思いを馳せて笑顔になった。その表情はとても綺麗で、真正面から見つめていたフィリアは思わず赤面してしまう。

 

「ううっ、わたしってこんなにチョロかったの~?」

「大丈夫。その想いはとても良いことですよ」

「ああ、そうだナ。こんな時だからこそ、恋を楽しむべきだと思うゾ」

「こここ、恋なんかじゃないってば!?」

 

 心優しいお姉さんたちは、初々しいフィリアに適確な助言をしてあげるのだった。

 

 

 それから更に時間が流れ、SAO開始から1ヶ月が経過した。

 2022年12月初旬。ついに第1層のボス攻略が始まろうとしていたのである。

 しかし、攻略メンバーの中にグラハムたちの姿は無い。その頃彼らは、ゲームに適応できない低年齢プレイヤーたちの保護をおこなっていた。路頭に迷っていた1人の子供をサーシャが見つけたことで、放置できない事態だと判断したからだ。

 

「早く保護してあげないと、心に大きな傷を負ってしまいます……」

「無論、承知している。ひとまず攻略を中止して、子供たちを探し出そう」

「うん、分かったわ」

 

 こうしてグラハムたちは街中を歩き回り、年齢制限以下の子供たちを保護した。街はかなりの広さなのでまだ他にもいるだろうが、とりあえず7人の少年少女を集めた。

 

「12歳以下の子ってこんなにいたんだ……」

「茅場晶彦にとっても誤算だったと思いたいが。いずれにせよ、私たちで対処せねばならんな」

「はい。まずはみんなで住めるところを探しましょう」

 

 サーシャの言葉を受けたグラハムたちは、ひとまず落ち着ける場所を探すことにした。

 家を買う金などはまだ無いので手頃な物件を借りることになるが、これだけ大人数だと資金面で問題が出てくる。

 だが、慌てる必要は無い。こういう時に役立つアルゴの情報網がある。

 

「それで、どんな物件がお望みなんダ?」

「この私、グラハム・エーカーは、堅牢な前線基地を所望している。ガンダムの襲撃にも耐えられるほど身持ちの堅い要塞をなぁ!」

「って、違うでしょ!」

 

 お約束の冗談をかますグラハムはともかく、事情を理解したアルゴから始まりの街にある教会を勧められる。家賃が無料な上に大人数で暮らせるのだが、特定の仕事を定期的にこなさなければならないという面倒な条件のある施設なので、誰にも使われていなかったのだ。

 その手間のかかる役をサーシャが買って出てくれたおかげで、最初の拠点ができた。

 

「グラハムさん。子供たちのことは私に任せてください」

「いいのかサーシャ?」

「はい。これでも大学では教職課程を取っていますし、一番のお姉さんですから」

「了解した。ここの管理は君に一任しよう」

 

 グラハムは彼女の申し出に甘えることにした。

 その結果、サーシャは子供たちの世話をすることになり、グラハムとフィリアは攻略組に戻って、資金やアイテムを稼いでくることになった。

 当面はこの形で進めていき、徐々に仲間を集めてギルドを作る。そして、余裕が出て来たところで子供たちにも戦闘以外の仕事を教えていくという方針で決まる。

 

「世知辛いとは思うが、まだまだ先は長いからな……」

 

 グラハムのつぶやき通り、攻略の進行具合は芳しくない。

 教会を拠点にした彼らが状況を整えている間にも攻略組は奮闘していた。しかし、突破できたのは1ヶ月半でたったの2層だけだった。しかも、その間に2000人以上の犠牲者が出ている。とてもではないが冷静でいられる戦況ではない。単純に考えれば100層に到達する前に破綻してしまう可能性すらあるのだから、何らかの対策を考えなければならないところだった。

 

「こうなれば、あの手段を実行するしかないな。私好みではないが、背に腹はかえられん」

 

 未来を危惧したグラハムは、大胆な作戦を思いつく。それは、一発大逆転の可能性を秘めた賭けのようなものだった。

 後日、アルゴの元を訪れてその話を持ちかけると、彼女は目を見開いて驚いた。

 

「……今なんと言っタ?」

「茅場晶彦を見つけ出すと言った」

「それはどういう意味なんダ?」

「言葉のまま、あの男を見つけ出すという意味だ」

「まさか……あいつがこの世界にいるというのカ?」

「ああそうだ。恐らく君も考えていたのだろう? あの男がどこでこの世界を見ているのかを」

 

 その言葉を聞いたアルゴは息を呑む。

 確かに彼女も考えていた。茅場晶彦の視点がどこにあるのかを。ほとんどのプレイヤーは、現実世界でモニタリングしているのだろうと考えていたのだが……。

 

「SAO開始当日、あの男は言った。『この世界を作り出し、鑑賞する為にのみ、私はソードアート・オンラインを作った』と。では、どこで鑑賞しているというのだろうか。この世界をもっとも楽しめる場所は一体どこだろうか。そのように連想しているうちに行き着いたのだよ。茅場晶彦がSAOの中にいるという可能性にな」

「つまり、オレっちたちが必死に足掻いている様を、同じプレイヤーとして眺めてるっていうのカ?」

「茅場晶彦がドSならば、あるいは」

「その解釈はどうかと思うが……本当なら酷い話ダ」

 

 何千人ものプレイヤーが死んでいく様子を何食わぬ顔で眺めているなど狂気の沙汰だ。しかし、状況を考えると十分に有り得る話でもある。この世界を一番満喫できるのはプレイヤー自身なのだから。

 

「それで、どうやって探すんダ?」

「まず容姿だが、茅場晶彦がネカマ(嘘つき)でなければ30前後の成人男性だろう。そして恐らく、不自然な強さを有していると思われる」

「確かに、自分が死んでは元も子もないからナ。システムで保護されている可能性も考えられるカ。そうなると、特殊なスキルを持っているヤツが怪しくなるナ」

「ふん。そのような戯れ言、誰が真に受けるものか!」

「お前が言い出したことじゃねーカ!?」

 

 急に手の平を返してきたグラハムにツッコミを入れるアルゴ。とはいえ、大体方針は固まった。本当に茅場晶彦が紛れ込んでいるのなら、見つけ出すことも不可能ではないかもしれない。

 しかし、問題もある。

 

「なぁ、ハム坊。茅場晶彦に当たりをつけたとして、その後はどうするんダ?」

「どうもしない。いや、できないと言ったほうが正しいかな」

「なぜダ?」

「証拠が得られなければ、単なる言いがかりにすぎないからな。その上、迂闊に接触すれば、口封じをされることも考えられる」

「それでは意味がないじゃねぇカ」

「いいや、そうでもないな。ヤツとて人の子、攻略を進める間に必ずどこかで隙を見せるはず。その時に適確な行動が出来るように、あらゆる可能性を手に入れておくのだよ。つまりは、虎穴に入らずんば虎子を得ずだ!」

「……そうカ。それは実にスリリングな仕事だナ」

 

 だからこそやり甲斐がある。

 すべての話を聞き終えたアルゴは不敵な笑みを浮かべた。同時に、グラハムに対して興味以上の感情を抱き始めた。実年齢よりも大人びていて、頭の回転が早い彼に好意を抱いたのである。

 

「(可愛い顔して中身は男だナ。能力がある分、動きが良すぎるのが玉に瑕だガ……オレっちは好きだナ)」

 

 これまでのやり取りで示してくれた聡明さと危うさが、アルゴの母性を刺激する。何となくキリトを連想させるこの少年は、頼りになるのに放っておけない独特な雰囲気がある。ようするに、構ってあげたくなるのだ。

 

「(オレっちも乙女だったということか……ふふっ)」

 

 今度の笑いは先ほどのものより柔らかい。普段は男勝りな彼女も、内心では共に歩んでいける仲間を求めていたのである。それがたまたま好みの異性で、付き合いを続けていくうちに愛情を抱くまでに至る。なんてことはないただの恋バナだが、彼女の想いは次第に本物となっていく。

 

 

 こうしてグラハムとアルゴは秘密裏に調査をおこなうことになり、後にヒースクリフという人物へと辿り着く。

 証拠は無いが恐らく間違いない。そう思わせるほどに、彼の存在はあからさまだった。

 【神聖剣】というユニークスキルを習得した彼は、HPゲージがイエローにまで落ちたことが無いほどのチート野郎なのだから、完璧なまでに条件と一致している。まるで、自分から正体を明しているのではないかと思うほどに。

 ただ、ほとんどの者たちは彼のことを英雄視しているので、疑う気持ちすら抱いていないようだが。

 

「まさかな。よもや自分で勇者を演じるつもりか?」

「それは分からんが、ふざけたヤツだということは断言できるナ」

 

 2人は、彼の行動に怒りを覚えつつ、密かに逆襲を企てる。まずは無敵と思われるヒースクリフを矢面に立たせるように誘導し、犠牲者を減らすことに専念した。グラハムたちが立ち上げた中規模ギルド【オーバーフラッグス】にはそれだけの発言力があった。

 いわゆる贅沢品と呼ばれるものを積極的に開発・生産し続けた結果、予想以上の高評価を得たのである。地道な努力が、元の日常を切望しているプレイヤーたちの心をガッチリと掴んだのだ。

 グラハムと共にギルドを育ててきたフィリアは素直に喜び、感動した様子で語る。

 

「最初に聞いたときは無理かと思ってたけど、結構上手くいくもんだね」

「ふっ、当然の結果だよ。なにしろ、この私が看板を張っているのだからな。愛を求めし男色家の心を惹かぬはずがない!」

「そんなの嫌すぎるわよ! っていうか、あんたはそれでいいの!?」

 

 なんておかしなやり取りもあったりしたが、とにかく彼らは民衆という力を得た。

 そのように多数の支持を得たグラハムたちは、言葉巧みに攻略組を扇動し、やたらと強いヒースクリフを壁役として利用しまくった。茅場晶彦が暴力を奨励するというのなら、こちらは民主主義にのっとった数の暴力で対抗する、というわけだ。

 万が一、誤認していた場合に備えてHPが半分を切ったら助けに入る用意もしていたが、それも杞憂だった。こちらが心配する必要がないほどに無敵だったからだ。その結果、彼が茅場晶彦だという信憑性が更に高まった。

 しかも幸運なことに、ラスボス役のヒースクリフには攻略組から信頼を得るという目的があったため、こちらの意見を無下に出来なかった。そのおかげで悲惨なフラグをいくらか回避することが出来た。ギルドの名称通りに、悲劇的な伏線を乗り越えていったのである。

 

 

 そして更に時が進んで75層のボス討伐直後。事態は急展開を迎える。自力でヒースクリフの正体を見抜いたキリトが強引な方法で証拠を掴み、すべての決着を付けることに成功したのだ。

 グラハムとアルゴの計画では、新たなユニークスキルが出現するまで待とうとしていた。ヒースクリフ打倒のため、キリトのパートナーとして期待していたのだ。しかし、その役はアスナが果たした。自分の命を犠牲にする形で。

 更に、ヒースクリフと相打ちになったキリトまで光となって砕け散る。

 この時、2人が死んでしまったと思ったグラハムたちは、悲しみに打ち震えた。

 

「キー坊とアーちゃんがやってくれタ……」

 

 アルゴは、最後の決戦を見届けた後にそっとつぶやいた。奇跡的な復活を遂げたキリトがヒースクリフを倒した瞬間を思い浮かべながら。

 

「こんなことなら、キー坊に話しておくべきだっタ」

「うっ、うう……」

「キリト、アスナ……すまなかった」

 

 ヒースクリフの正体は、余計な気を使わせないようにギリギリまで黙っておくつもりだったのだが、それが仇となってしまった。判断を誤り、目の前で大切な仲間を死なせてしまった。この時の後悔がグラハムのトラウマとなり、後にゲーム内でキリトたちと会うことを避ける要因となる。

 しかしこの時は、アルゴとフィリアの精神状態を慮って気丈に振舞う。

 

「オレっちたちが話していれば、2人を死なせずに済んだかもしれないのニ……」

「いや、すべては私の責任だ。君が気に病むことはない。それに……こうなることは必然だったのかもしれない。キリトが二刀流を習得した瞬間からな」

「確かに、ヒースクリフもそんなことを言っていたガ……」

「どちらにせよ、目的は見事に達成された。今はその事実を喜べばいい。それでいいと思うが?」

「……うん、そうだナ。キー坊とアーちゃんのおかげで、オレっちたちは帰れるんだからナ」

「えっ、これで現実に帰れるの?」

「ああ。私たちは、未来を切り開くことに成功したのだ……」

 

 グラハムがそう言い切った瞬間、ゲームクリアを告げるアナウンスが鳴り響く。そして、全プレイヤーのアバターがアインクラッドから消え去った。現実世界へ帰るために。

 それがこの世界におけるSAO事件の顛末である。

 

 

 もし、宗太郎が紺野姉妹と出会わなければ。冷静さを欠いた彼はキリトよりも早くヒースクリフに挑み、人知れず殺されていたかもしれない――いや、彼の元へ辿り着く前にモンスターの餌食になっていただろう。

 宗太郎の存在が紺野家を救ったように、彼もまた木綿季と藍子に命を救われていたのだった。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 以上のような経緯で宗太郎に惚れた琴音とアルゴだったが、その想いは現在も続いている。彼に好きな人がいることは分かっているけど、ここまで想いが強くなるとそんなことは関係なくなる。もはや愛を超え、憎しみも超越し……宿命となった。そんな感じである。

 たとえ恋人同士になれなくても一緒にいたい。それが、彼女たちの選んだ愛の形だった。

 もちろん、宗太郎が答えを出すまでは諦めないつもりだ。そのために、彼の心を奪い取るべく努力している。現在進行形で……。

 

「はい宗太郎、あーんして?」

「ソウ兄ちゃん、ボクのを先に食べてー!」

「わ、わたしのもあげるよ~!」

「ふもっ、ふもっふ!? (もう入らん)」

 

 エギルが経営するダイシー・カフェにて遅めの昼食を取り始めた和人たちだったが、そこでは宗太郎を巡る女の戦いが勃発していた。

 調子に乗った琴音たちが宗太郎の口に次々とあーん攻撃した結果、彼のほっぺたは限界に達しようとしていた。

 

「にゃハハハ! 難儀してるようだなァ、ソー太郎!」

「とか言いながら、お前も参加するなよ……」

 

 嬉々として宗太郎の口にスプーンを押し付けるアルゴを見て、呆れた和人がつぶやく。

 何だかんだと言って仲良くやっている恋のライバルたちであった。

 

 

 数十分後。賑やかな昼食も終わり、すっかり落ち着いた女性陣は食後のデザートを楽しむ。酒場風のデザインとまるで合わないメニューだが、味の方は甘いものにうるさい木綿季も太鼓判を押している。

 現に今もチョコレートパフェを食べながらご満悦の様子である。

 

「うまー! エギルさん良い仕事してるよ!」

「このソフトクリームがたまりません……」

「ははっ、ありがとよ」

 

 カウンターで仕事をしているエギルは、自分の料理を褒められて嬉しそうにしている。木綿季と藍子がとびっきりの美少女であるという効果もあって、若干照れてもいるようだ。

 

「ほう。エギルの顔が赤いようだが、よもや中学生相手に浮気でもするつもりかね?」

「それはいけないナ。奥さんに報告するカ?」

「本気で止めろ!」

 

 たとえ冗談だとしても実際にやられたら超危険なので、エギルも必死につっこむ。

 

「まったく、こいつらは油断ならねぇな……」

「褒め言葉として受け取っておこう」

「右に同じク」

「はぁ、相変わらず仲良いなお前ら」

 

 同じようなしたり顔でうなずく宗太郎とアルゴを見て呆れるエギル。この2人は例の計画で一緒に暗躍していたため、こういう時の呼吸は憎たらしいほどに合っている。ギルドに参加していたエギルは、何度か彼らの被害(?)に遭っていた。

 だからというわけではないものの、更にいじられる前に話を変えることにした。

 

「それはそうと、あの話をしないのか、アルゴ?」

「ああ、もちろんするゾ。ここにいる面子に聞かせるためにここに来たのだからナ」

「へぇ、何か面白いネタでも掴んだのか?」

 

 2人のやり取りに興味を抱いた和人が話を促す。

 若干困った性格のアルゴだったが、入手してくる情報に関しては間違いが無い。そして今回も、みんなの期待に応えてくれる特殊なネタを手に入れていた。

 

「今回オレっちが入手した情報は、エクストラクエストの発生条件ダ」

「えっ!?」

「なんだって!?」

 

 話を聞いた和人たちが一斉に驚く。エクストラクエストとは、それほどまでに貴重なものだった。宗太郎に対するアルゴの愛情がこのクエストとの出会いを齎したのである。

 その結果、何が起こるのか。皆が全貌を知るのは、もう間もなくだった。




次回はクエスト参加の条件などを説明したいと思います。
その後、家に帰った紺野姉妹が、宗太郎にお色気攻撃をしちゃうかも?
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