ソードアート・オンライン アイとユウキのセカイ 作:カレー大好き
マザーズ・ロザリオ編に通ずるものがあって、とっても感動的な結末でした……。
今回は、最初のダンジョン攻略&ボス戦となります。
ガンダムネタが多々あるので、分からない人はゴメンなさい。
事前に決めた通り、キリトを先頭に清浄なる乙女の森へ入る。ユイに送られた情報を確かめた結果、何らかのトラップが仕掛けられている可能性があったからだ。この森には結界が張られていて、フロアボスだと思われる霊獣に気に入られた者でなければ解除できないらしい。その罠がエリアに入った途端に発動するタイプだった場合を警戒して条件を先読みしたのである。
「鬼が出るか蛇が出るか。刮目させてもらおう」
「ああ、行くぞみんな」
ようやく本気モードに入ったグラハムの言葉を受けつつ、ユイを連れたキリトが森の中へと入っていく。中の様子はいかにもファンタジーゲームに出てくるような作りで、不思議な植物が生えていたり、奇妙な光の粒が飛び回っていたりしている。
しかし、綺麗な風景に反してエクストラクエストは容赦なかった。身構える前に、周囲を漂っていた光の粒がキリトに向けて集まってきたのである。
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
彼の身体が一瞬だけ光り輝き、何事かと思う間もなく消え去る。奇妙な現象だったが、最初に予想していた通り侵入すると発動するタイプのトラップだったらしい。
「キリト君、ユイちゃん!」
「大丈夫。俺たちに異常は無い」
「どうやら、今の光で条件を満たしているか確認したようです」
キリトの頭上に座ったユイは、落ち着いた様子で説明する。この森から排除されるというトラップの条件審査が先ほどの現象だったわけだ。
しかし、今のところ何の変化も見られない。
「追い出されなかったってことは、条件をクリアできたのかな?」
「いや、それはまだ分からないゾ。エリアの最初にこんな仕掛けがあるということは、この後も同じ展開が続く可能性が考えられル」
「なるほど。間違っててもいきなり追い出されるってわけじゃないのか」
「その代わりに何らかのペナルティが発生してるかもしれませんね」
「そうだナ。そんな感じで試行錯誤を繰り返して答えを見つけ出す仕組みなんだロ」
ユウキの疑問に対して、アルゴ、フィリア、ランが議論を交わす。この手の謎解きは数多くこなしているのでお手の物である。
「だとすれば、このエリアの難易度が上がっているかもしれん。引き締めろよ」
アルゴたちの話をまとめたグラハムは、軽やかに抜剣しながら戦闘体制に入る。
そう、モンスターとの戦いが始まるここからが本番だ。何の因果か、このクエストは全滅せずに一度でクリアしなければならないという厳しい状況下におかれている。歳も若くSAOを経験していないユウキとランにとっては荷が重いと言えるだろう。ゆえに、グラハムは彼女たちを気遣わずにはいられない。
「気負うなよ2人とも。君たちに降りかかる火の粉は、この私、グラハム・エーカーが振り払ってみせるさ」
「ありがとうソウ君。でも心配しないで。SAOの時は待ってることしかできなかったけど、今は一緒に戦えるから逆に嬉しいんだよ?」
「そうだよ。今度はボクたちがソウ兄ちゃんを守ってあげる!」
そう言うと、2人そろってグラハムに抱きついてくる。真面目な話をしているうちに、彼を失いかけた過去を思い出してしまったのだ。SAOから抜け出せず、いつ死んでしまうかも分からない彼を見守り続けるしかなかった、あまりに無力な日々。今でもあの頃の恐怖感は忘れられない。だからこそ、一緒に戦える幸せを心の底から実感しているのである。
そして、その気持ちはグラハムも同様だ。実際に死にかけた彼も2人の心情がよく分かる。
「嬉しい事を言ってくれる。トップファイターとしての矜持もあるが、可憐な乙女たちに守られるのも悪くはない。その暖かな想い、謹んで受け取らせてもらおう」
流石のグラハムもこういう時にはふざけたりしない。大好きな幼馴染が真っ直ぐに自分を想ってくれているのだから当然だ。仲間を想う時のものとはまた別の感情が彼の心を満たしていく。
友情と愛情……それは近くて遠い存在であり、フィリアとアルゴにとっては痛切に実感できる事実だった。
「あ~あ。分かっちゃいるけど、やっぱくやしいわね」
「恋とはままならないものだからナ。そこが辛いところでもあるが、楽しいところでもあル」
「はぁ、あんたも厄介な女ねぇ」
「それはお互い様だロ?」
「ふふっ、まぁね」
そばで彼らのやり取りを見ていた2人は、複雑な想いを抱きながらも穏やかな微笑みを浮かべるのだった。
森の入り口で無遠慮な洗礼を受けたキリトたちは、警戒を強めながら進んでいく。すると、彼らの努力に報いるかのように大量のモンスターが襲い掛かってきた。
どれも人の姿をした女性型のモンスターなので、一見するとホラー映画で大量のゾンビに囲まれているような光景になっていた。
「きゃー!?」
「なんかすっごい怖いよー!?」
「ええい、歪んだ愛を押し付けてくるとは、清浄なる乙女が聞いて呆れる!」
ユウキたちは、いきなり始まった恐怖展開にビビりながら剣を振るう。
この森に出現するモンスターは、名前の通り女性型ばかりだった。
古い家などに現れ、気に入らない者を容赦なく排除するメイドの妖精、エスカペイド・シルキー。妖精の恋人という意味の名前を持ち、男の精気を奪う魔性の妖精、ジェラス・リャナンシー。死を予見しているうちに負のエネルギーを取り込み、自らの手で死を振りまく存在へと堕ちてしまった嘆きの妖精、バンシー・ノワール。美しい容姿に狂気を秘めた彼女たちは、ぞっとするような笑みを浮かべながら襲い掛かってくる。
『アハハハ!』
「ちぃ! 乙女の姿で襲い掛かるとは! この私を惑わすか、ガンダム!」
バンシー・ノワールが振り下ろしてきた大鎌をかわしながらネタ発言をかますグラハム。もちろんガンダムとは関係なく、彼が放ったカウンター攻撃によってあっけなく倒される。しかし切が無い。明らかに敵の数が多すぎるのだ。
「この圧倒的な物量、尋常ではないな。通常の3倍はあるとみた!」
「最初のアレでトラップが発動したんだっ!」
キリトとグラハムは攻撃の手を止めずに状況を分析する。これがトラップにかかったことよって発生したペナルティの結果だとしたら、条件を間違えていたことになる。
だとすれば、別の答えを見つけなければならないが、この場はモンスターをどうにかしなければならない。
「とにかく今はここを抜けル!」
「これじゃあ落ち着いてお宝探しもできないからね!」
アルゴとフィリアは、息の合ったコンビネーション攻撃で敵を屠りつつ前進していく。格闘と短剣という速度重視の組み合わせで、SAOでも大いに活躍した彼女たちの戦いっぷりは見事なものだ。それはユウキたちも認めるところである。
「くやしいけど、やっぱり強いね!」
「グラハムにいいトコ見せたいからね!」
「わたしたちだって同じです!」
「ふふっ。そろいもそろって健気すぎる良い女だナ!」
「ほんと、ソウ兄ちゃんは幸せ者だよ!」
恋のライバルである彼女たちは、お互いに意識しあいながらもポジティブに進んでいく。心身ともに若くて健康的な彼女たちは、健全な恋愛を楽しんでいた。
「ははっ、愛されてるなぁグラハム?」
「ふっ、もしや嫉妬しているのかな? この私の心を独り占めしたいとは、我侭な少年だ」
「なぜそうなる!」
いつもネタにされているキリトはここぞとばかりにイジろうとしたが、逆にやり返された。所詮は元コミュ障、会話という点では迷惑なほどに開放的なグラハムの敵ではない。
何はともあれ、そんな感じで和気藹々としながらも敵の包囲網を突破することに成功し、そのまま次のエリアに続く道へ向かう。
「ふぅ。最初からすごい歓迎っぷりだね」
「流石はエクストラクエストと言ったところかな」
一息ついたユウキとランは、並走しながら笑顔を向け合う。しかし、モンスターに追いつかれる前に答えを見つけて次のエリアに入らなければならない。考えている時間はあまり無かった。
とはいえ、グラハムたちはそれほど焦ってはいない。実を言うと、この条件の選択肢はそれほど多くないからだ。キリトでダメだったということは、彼女の出番だろう。
「やはり答えはアスナだろうな」
「ああ、女だらけの敵を見て確信できたな」
既に条件を察していたグラハムとキリトは互いに確認しあう。
「えっ、2人はもう答えが分かってんの?」
「無論だ。今回のクエスト条件で異性のプレイヤーが求められていたことを思い出せば、おのずと答えに行き着くだろう?」
「あっ、なるほど! 女性が条件だったのかー。でも、なんで女性?」
「そのヒントはこのイベントにある。乙女にのみ心を許し、あらゆる毒に対抗できる力を持った霊獣とくれば、想像できるものは一つしかない」
「そうか、ユニコーンね!」
グラハムの説明で答えが分かったアスナが叫ぶ。
額の中央に一本の角が生えた馬のような伝説の生物、ユニコーン。乙女に思いを寄せ、処女の懐に抱かれて大人しくなるというユニコーンなら、これまでの展開にピッタリ合致する。お人形のようなピクシーを連れた女性プレイヤーを少女性の象徴として捉えているのだ。
「答えが分かったらすごい納得できるね」
「うん。美人のアスナにピッタリだもんね」
「え~、そうかな~?」
ユウキたちに真っ直ぐな視線で褒められたアスナは照れてしまう。紺野姉妹はアスナのことを慕っているので、思った以上に美化しているようだ。
確かにそこには事実も含まれているので、すべてを否定しない。アスナはそれだけの魅力を備えた美少女だ。しかし、彼女のことをよく知っているグラハムとしては、言っておかなければならないことがあった。
「いや、それはどうかな? 何しろ女は魔物だ。少年の心を奪うために処女を捧げて、このクエストのクリア条件を失っている可能性が……」
「無いわよ!!?」
トンデモないことを想像されて荒ぶるアスナ。確かにSAOではそのような事実もあったが、ALOでそれを認識できるはずはない。というか、されてたまるか。
そもそも、ここには幼いユイがいるのだ。母親であるアスナとしては、これ以上黙っていられない。
「ユイちゃんの前で変な話しないでよ!」
「変とは心外だなぁ。恋人同士で身体を重ねることは、愛を確かめ合う神聖な行為だ。それを歪めて解釈しているのは、君自身に邪な気持ちがあるからではないかな?」
「そ、それはそうかもしれないけど、ユイちゃんにはまだ早いって言ってるの!」
「果たしてそうかな? AIであるユイは年齢を超越した存在だ。容姿に囚われず物事を正しく教えれば、人間の負の感情に対抗する力を与えてやれるだろう。それは親として必要な教育だと私は思うが?」
「うっ……くやしいけど一理あるかも……」
ユイの情操教育を心配して注意し始めたアスナであったが、口の上手いグラハムに言い負かされてしまった。しかも、父親であるキリトも考慮してみる価値はあるかもしれないと半ば誘導されている。はっきりいって詐欺被害にあいつつある善良な親子といった様子である。
「どうだユイ。愛について、私のレクチャーを受けたいかな?」
「はい。グラハムさんのお話はとっても面白いから、たくさん聞きたいです!」
「ならばお話しよう! 私と少年が紡いだ、甘くせつない愛の物語をなぁ!」
「それはアウトでしょ!!?」
「っていうか、そんな事実は無い!!」
結局おかしなオチがついて、いつものようにツッコミを入れるキリトとアスナ。危うい所でユイのピュアハートは守られたのだった。
恒例のようになったひと悶着を起こした後、アスナとユイを先頭にした一行は順調に攻略を進めた。キリトと代わった変化は明らかで、次のエリアではほとんどモンスターも出ず、お宝もたくさん手に入った。どうやら、ALOのユニコーンはアスナを気に入ったらしい。
そのおかげでみんなの機嫌も大分よくなってきた。特にフィリアは、豪華なアイテムを入手しまくってホクホクである。
「さぁ、次行くわよ~!」
「なんか、フィリアのキャラが変わった気がする」
「あいつは根っからのトレジャーハンターだからな」
嬉々としてお宝を回収しまくるフィリアに苦笑しながら、ユニコーンが待ち構えているだろう最奥部へと歩みを進める。
そこは、幻想的な光が降り注ぐ森の中の楽園だった。
☆★☆★☆★☆
大自然の迷宮を抜けた一行は、一番奥のエリアに到着した。これまでの木々に囲まれた風景と違って、広大な草原が円形状に広がっている場所だ。その奥には神秘的な泉があり、そこに求める霊獣がいた。浄化と再生の力を持ったユニコーンだ。
「なんか感動的だね……」
「うん。すごく綺麗……」
超有名な霊獣を見たユウキとランは素直に見惚れた。
彼女たちの目の前にいる白馬は伝説に謳われるように神々しい姿で、螺旋状の筋が入った角を額からそびえ立たせている。ただ、その体躯は普通の馬の3倍以上あるため、とてつもない威圧感を発している。ようするに、倒すべきボスというわけだ。
「伝承だと、処女に心を許して大人しくなったところを襲えば簡単に倒せるってことになってるけど、そうはいかないよな」
「言わずもがなだ。可能性の獣は、シャアの再来ですら射止められないじゃじゃ馬なのだよ!」
ユニコーンは、獰猛な性格ゆえに七つの大罪の一つである『憤怒』の象徴にもなっており、自身を裏切った者は、たとえ愛する乙女でさえも例外なく殺してしまう。
現に、目の前にいるソレは、こちらに敵意を向けている。
鼻息を荒げながらキリトたちを睨みつけた後に、前足を高々と持ち上げていななく。それと同時にHPゲージが3本表示され、戦闘が始まる。
「ヒヒィィィ―――――ンッ!!!!!!」
「来るぞ!」
「総員散開!」
鋭い角を力強く輝かせて猛然と突進してきたユニコーン。それに対して、引きつけ役のグラハムを残したキリトたちは、四方に散って攻撃を開始する。
まずは、ユウキとランが左右からのはさみうちで突きを繰り出した。
「てやぁ!」
「そこっ!」
彼女たちの放った鋭い刺突がユニコーンの腹に迫る。まっすぐ突進してくる巨体は見た目通りに小回りが利かないらしく、完全に直撃するタイミングだ。しかし、当たると思われたその攻撃は、予想外の現象によって防がれてしまう。
ガキィィィンッ!!
「えっ!?」
「弾かれた!?」
何か硬いものに当たったような音と共に2人の剣が阻まれる。
「なに今の!?」
「もしかしてバリア!?」
「ちぃ! サイコ・フィールドとは、小癪なマネを!」
出鼻をくじかれて癇に障ったグラハムは、正面から突進してくるユニコーンめがけて走り出す。
「その身持ちの堅さ、崩させてもらおう!」
自分めがけて大振りに横払いしてきた角をジャンプでかわしつつ、無防備に晒された首筋に剣を振るう。
ガキィィィンッ!!
再び硬いものに当たったような音が鳴る。しかし、今度は完全に防がれなかった。グラハムの剣は一瞬だけ抵抗を感じた後にユニコーンの首筋を切り裂いていた。
「攻撃が通った!」
「首が弱点ってこと?」
「それにしてはダメージが少ないよ?」
「判断を急ぐな。今はとにかく攻撃を続けるぞ!」
これまでの様子を見ていたキリトは特殊な攻略法が必要だと見抜き、情報収集のためにさらなる攻撃を促す。
その言葉を受けて、今度はフィリアとアルゴが飛び込んでいく。高速で振り回される角をかい潜って懐に潜り込み、首筋に向けてソードスキルを叩き込む。
「これならどうよ!」
見事な動作でスキルを放ったフィリアは自信満々に叫ぶ。しかし、その攻撃はアスナたちと同様に弾かれてしまった。
しかも、その直後にユニコーンの大技が炸裂する。高く持ち上げた前足を強く踏み込んで衝撃波を発生させ、周囲のプレイヤーをなぎ払う【アサルト・ウェイブ】を放ったのだ。
「うわぁっ!」
「しくじっタ!」
「今度は効かないの!?」
「ってことは、首が弱点ってわけじゃないのか!」
吹き飛ばされるアルゴたちを横に見ながら、キリトとアスナが突っ込む。大技を出して硬直しているユニコーンの胴体にキリトはサベージ・フルクラム、アスナはカドラプル・ペインをお見舞いした。すると、キリトの攻撃だけが通ってダメージを与えられた。さきほどのグラハムと同じように。その事実から導き出される答えは……。
「どうやら男の攻撃だけは効果があるようだな」
「私もそう思う。あの反応、男嫌いの気があるとみた!」
しばらく観察を続けた末に、グラハムたちはようやく弱点を見出すことに成功した。男性プレイヤーが攻撃を当てると角の輝きが乱れて強力なバリア効果が弱まるのである。
もちろん、それにはちゃんとした理由がある。
ユニコーンは処女を好むことから貞潔を象徴するものとされ、その点に着目したカーディナルが直接攻撃を無効化する【アイアン・メイデン】――鋼鉄の処女という能力を付与した。とはいえ、そのままでは倒せないので、乙女の貞潔を脅かす男を唯一の弱点にしたのである。嫌いな男に触れられると精神を乱し、鉄壁の能力が不完全になってしまうという設定になっているのだ。
乙女好きなせいで敵を招きいれ、男嫌いなせいで弱みを晒してしまう。ようするに、ユニコーンを倒すには男女がそろっている必要があったというわけだ。
しかし、男性プレイヤーだけで攻撃すれば倒せるというわけでもなかった。
「少年! このガンダムには隠された弱点があるはず! それを見抜かねば勝利は掴めん!」
「分かってる! 俺たちで突破口を開くぞ!」
今までに得られた情報からもっと有効的な攻撃法があると睨み、2人で色々と試すことにした。
角、頭、目、その他の急所に攻撃を与えてみる。しかし、反応は芳しくない。ダメージは与えられるものの微々たる物で、ほとんど当てにはならない。
しかも、怒りに燃えたユニコーンのカウンター攻撃が炸裂してしまう。男性プレイヤーの連続攻撃でダメージを受け続けると、強力な広範囲攻撃を放つようになっていたのである。
その前兆として、ユニコーンの体に変化が起こる。魔法術式による模様が全身を走る筋のように浮かび上がり、真っ赤に輝き出したのだ。
「ソウ兄ちゃん!」
「すごいのが来そうだよ!?」
「どうやらガンダムの逆鱗に触れたか! 総員、対衝撃防御!」
後方で待機していた女性陣に防御を促すと同時に、ユニコーンの最強技が発動する。【ディストラクティブ・バイブレーション】――破壊的な振動と名付けられたその技は、ノーダメージだったユウキたちのHPを半分以上削り、戦闘中のグラハムとキリトに至ってはレッドゾーンにまで追い込んでしまう。
「こいつはヤバいぞ!」
「ええい! アクシズ・ショックの再現だとでも言うのか!」
ユニコ-ンの角から発せられた虹色の光が、凄まじい衝撃波と共にグラハムたちへ襲い掛かる。再生能力を反転させた破壊の力で、妖精たちの体力を大幅に奪い取っていく。
「アスナ、ラン、回復を頼む!」
「分かったわ!」
「待っててソウ君!」
アスナとランに魔法をかけてもらって何とか体勢を立て直す。ある程度予想していたとはいえ、思っていた以上に強力な技だった。あれを食らい続けたらあっという間に全滅してしまう。だから、男性プレイヤーの攻撃だけではダメなのだ。
しかし、幸いにもグラハムが突破口を見出していた。
「少年、ガンダムを口説き落とす方法が分かったぞ」
「本当か?」
「ああ。私たちの剣が触れた瞬間、角の発光が乱れてサイコ・フィールドが弱まっている。ということは、あの角に触れ続ければ常に弱体化できるのではないかな?」
「まさか、ユニコーンに乗ってロデオをやれってのか?」
「無謀極まりない話だが、試す価値はあるとみた!」
「分かったよ。援護してやるから行って来い!」
「その申し出に感謝する!」
作戦を決めた途端に行動を始める。キリトたちがユニコーンを引きつけている間に背後に回ったグラハムが剣を鞘にしまいながら飛びかかる。大きくジャンプして背中を踏み越え、両手でユニコーンの角を掴む。同時に、両足を逞しい首筋に巻きつけて身体を固定する。
「人呼んで、グラハムライダー!」
「っていうか、コアラみたいなんですけど!」
でっかい馬の後頭部にしがみつくイケメン……一見するとかなり愉快な状態である。ただし、コミカルな見た目に反して、その体勢を維持するのはとても難しかった。当然のようにユニコーンが暴れだしたからだ。
それでもグラハムは懸命に堪えてみせた。
「よもや、SAOでイノシシを乗り回した経験が役に立とうとは、なんという僥倖! この巡り合わせに驚嘆せずにはいられない!」
「わたしもビックリだよ!?」
この面子の中で唯一彼の奇行を見ているフィリアが声を上げる。他の仲間にとっては更に驚きの光景だった。
しかし、今はようやく見出したチャンスを活かす時だ。角から毒の効果が発生してグラハムのHPが減り始めたため、急ぐ必要がある。
「来いユウキ! 君の剣で、勝利を掴み取れ!」
「っ!? うんっ!!」
体勢を保つのに必死なグラハムは、自然と頭に浮かんだユウキの名を呼んだ。その声にドキリとした彼女は一瞬だけ硬直したが、すぐに内容を理解して動き出す。大好きな人の期待に応えるために。
「行っけぇ―――っ!!」
勇敢に突進してきたユウキは、暴れているユニコーンの動きを読んで接近する。どうやら角を掴まれている間はそれを使った攻撃が出来ないらしく、巨大な足で蹴り飛ばそうとしてくる。それでも十分脅威だが、ユウキは決して臆さない。そして、攻撃のチャンスを掴み取る。
「ここだ!!」
ユニコーンが前足を踏み込んだ直後に右側へ飛んだユウキは、無防備になった腹に向けてOSS・カプリシャス・ミーティアを叩き込んだ。高速の7連撃がユニコーンの巨体に突き刺さっていく。
「グヒィィィ―――――ンッ!!?」
「通った!!」
今度の攻撃は何の抵抗も無くヒットしてダメージを与えられた。グラハムの予想が当たり、男性プレイヤーに角を握られている間は、能力が弱体化してアイアン・メイデンの効果が無くなるのだ。この状態で攻撃すればディストラクティブ・バイブレーションも封印できるはずだ。
「やったよ、ソウ兄ちゃん!」
「見事な攻撃だ。賞賛しよう、フラッグファイター!」
嬉しそうに笑顔を向けてくるユウキにコアラっぽい格好で答えるグラハム。そこはかとなくおかしな光景だが、本人たちは至って真面目だ。
「やっぱりボクとソウ兄ちゃんは相性バッチリだね!」
「ああそうだな。このクエストは絆の力を試されている。ならば、存分に見せ付けてやろうではないか!」
「うん! ボクたちの愛があれば、なにをやっても完全勝利だよ!」
「って、都合よく解釈すんなっ!」
調子に乗ったユウキにフィリアのツッコミが炸裂する。もちろん、グラハムが好きなランとアルゴも黙っちゃいない。
「わたしだってソウ君との相性は良いんだから!」
「そういうことなら、オレっちも負けてられないナ!」
ユウキの発言に触発された彼女たちは、我先にと飛び出していく。後に残されたキリトたちは、その姿を生暖かい目で見つめる。
「ふふっ。みなさんは本当にグラハムさんがお好きなんですねぇ」
「色々と危険な気配もするけどな……。一級フラグ建築士ってのも厄介なモンだ」
「……キリト君もそうなんだけどね」
グラハムにツッコミを入れたつもりが、さりげなく墓穴を掘ってしまうキリト。そして、鈍すぎる彼にジト目を送るアスナ。ボス戦の最中でも恋にはしゃぐ元気な若者たちであった。
次回は、ユニコーン戦の後半から次のボス戦まで行きたいと思っています。
シリアスな仕掛けを考えているので、コメディ色は控えめになるかもしれません。