ソードアート・オンライン アイとユウキのセカイ 作:カレー大好き
いつもと違ってシリアス展開です。
ユニコーンの攻略法を発見したキリトたちは、すぐさま攻勢に出る。最強の攻撃と鉄壁の防御を封じてしまえば、後はどうとでもなる。
「ランはグラハムの回復、アスナとフィリアは支援メイン、残りは総攻撃だ!」
「「「「「了解!」」」」」
キリトの指示のもと、適確な攻略を進めていく。グラハムの騎乗テクニックが巧みなため、他の面子は円滑に攻撃できる。本来ならこれほど長く乗っていられず、少ない攻撃チャンス内でちまちまとダメージを与えていく仕様なのだが、このパーティには当てはまらない。ここにいる全員がトップレベルの強さを持っているからこそ、少数精鋭でもレイドボスを圧倒できるのだ。
「頼んだわよユウキ!」
「おっけーアスナ!」
アスナから魔法支援を受けたユウキは、キリトたちにも引けを取らない活躍をする。可憐な容姿に反して堂に入った戦いっぷりだ。その姿に歴戦のSAO組も奮起する。基本的にゲーマーというヤツは負けず嫌いなのである。
「
「その挑戦受けて立つゼ、キー坊!」
「まったく。大人気無いわね、あんたたち」
「とか言いながら、フィリアも狙ってるでしょ?」
仲良くケンカしながら攻撃を与え続ける。もちろんユニコーンも反撃をおこない、アサルト・ウェイブや光系の魔法を使ってくるが、最強の技を封じられている今ではそれほど脅威ではない。
後半はアスナと交代したランも加わって順調にダメージを与え続け、最初のボス戦は開始20分ほどで危なげなく終わりを迎えようとしていた。
「これで決める!」
HPが残り少なくなったところで、タイミング良く最強のソードスキルが使えるようになったユウキが最後の攻撃をおこなう。カプリシャス・ミーティアによる7連撃が炸裂し、瀕死のユニコーンに止めを刺す。
「ヒヒィィィ―――――ンッ!!!!!!」
断末魔の叫びを上げながら光の粒となって砕け散るユニコーン。
その瞬間、名誉あるLAはユウキに決まった。VRMMOをプレイしている者にとって最高の瞬間だ。喜びで気分が高揚した彼女は、ようやく自由になって地上に降り立ったグラハムにぎゅっと抱きつく。
「やったよソウ兄ちゃん!」
「ふっ。勝利の栄光を称えよう、フラッグファイター!」
可愛い幼馴染の功績を男前な仕草で褒めるグラハム。長時間激しく揺さぶられていたため、足元が生まれたての子鹿のようになっているが、優しいみんなはつっこまないでおくことにした。まことに気の良い奴らである。
ただし、話を進めたいせっかちな人物が、至福の時をすごしているユウキの邪魔(?)をしてきた。
「ねぇねぇユウキ。ゲットしたアイテムを見せてよ!」
プルプルと震えているグラハムとイチャイチャしていたら、目を輝かせたフィリアが割り込んできた。ユウキとしては『もっと空気を読んでよね』と言いたいところだったが、自分も気になっていたので仕方なく確かめてみる。
ウィンドウを操作して新しく入手したアイテムをオブジェクト化すると、少し前までユニコーンの額にくっついていた物体が出て来た。
「アイテム名は【霊獣ユニコーンの角】だって」
「そのまんまだね」
「効果は?」
「巫女姫の毒を治すことができるって書いてあるからイベントアイテムかな」
「まったくもってつまんない答えね。あんたにはガッカリだよ」
「って、ボクに文句言わないでよ!」
予想通りの答えに落胆するフィリア。しかしキリトは、ユウキの言葉に異を唱える。
「いや。もしかすると、ただのイベントアイテムじゃないかもしれないぞ?」
「えっ、どうして?」
「あのユニコーンは中ボスとは思えないほど強かったから、フロアボス扱いだった可能性がある。だとすれば、巫女姫の治療が終わった後に別のアイテムを貰えるんじゃないか?」
「へぇ、そういうこともあるんだー」
「ちょっとだけ楽しみが増えたね」
キリトの説明を聞いたユウキたちは素直に納得した。
エクストラクエストは、本命の報酬とは別にレアアイテムを入手できる場合がある。本編内のイベントで手に入るパターンもあれば、本編と連動しているサブクエストをクリアすることで貰えるパターンもある。もちろん、エクストラクエストのすべてに当てはまることではないものの、少しは期待してもよさそうだ。
しかし、それを確認できるのはもう少し後になる。巫女姫の下へ戻る前にやるべきことが発生したからだ。その兆しは、ストレージに戻したはずのユニコーンの角がユウキの意思に関係なくオブジェクト化したことから始まった。
「うわっ!?」
「どうしたのユウキ?」
「ぷぷっ、自分で出したアイテムに驚いたの?」
「違うよ! 勝手に出て来たんだってば!」
フィリアにからかわれて自分の不手際でないことをアピールするユウキだったが、それはすぐに証明される。みんなから数メートル離れた場所に、禍々しいエフェクトをまとった黒い穴が出現したからだ。
「えっ!?」
「なにあれ!?」
それに気づいて驚いた瞬間に、黒い魂のようなものがいくつも飛んできてユニコーンの角を包み込んだ。突然の出来事で硬直しつつもそちらに視線を向ける。すると、後には真っ黒く変色してしまったユニコーンの角が残されていた。
どう見ても危険なアイテムになってしまったと分かるが、まったくもって意味不明である。
「どうなったのコレ?」
「えっと。フレーバーテキストによると、魔女によって呪いをかけられてしまったようです」
「魔女?」
「それって、このクエストのラスボス?」
「はいそうです。結界内にいる魔女は、神の加護を受けているこのエリアでは満足に動けません。だから、巫女姫を治せる手段を封印することで、邪魔なわたしたちを自分のテリトリーに誘導しようとしているようです」
「ほう。随分と強引なお誘いだ。しかも、一度に9Pとは。魔女なだけに淫乱だなぁ!」
「そんな話はしてねーよ!」
グラハムの下ネタで若干おかしくなったが、ユイの説明でおおよその事は分かった。ユニコーンの角にかかった呪いを解くには、結界の中にいる魔女を倒さなければならない。つまり、一連の出来事は次のダンジョンへ進んで真のボスと戦うための仕掛けだったらしい。
ならば、魔女とやらの誘いに乗るしかないだろう。状況を把握したみんなは、空中にぽっかりと開いた黒い穴へ迷い無く飛び込んでいった。
この後にとんでもない展開が待ち構えているなど知る由も無く……。
☆★☆★☆★☆
黒い穴を通ってボスが待ち構えているダンジョンへ転移した一行は、異様な場所に行き着いた。血のように真っ赤な空が広がる廃墟の街。そこは、キリトたちがよく知っている場所だったが、まったく別の世界と化していた。
「ここは……」
「始まりの街?」
アスナが全員の意見を代表してつぶやく。そう、彼らの眼前には変わり果てた始まりの街が広がっていた。美しかった街並みは暗い影を落とすだけの廃墟となり、人の気配もまったく無い。目の前にあるすべての景色が赤色に染まって、不気味な様相を呈している。まともな精神を持っているなら負の感情しか抱かない光景である。
「この景色、SAOを始めた当時を連想させる……気に食わんな」
辺りを見回したグラハムは嫌悪感を丸出しにする。温厚な彼にしてはとても珍しく、ユウキたちはドキリとする。
しかし、紺野姉妹以外は彼の気持ちが分かるため、同じような心境で話を進める。
「それにしても変だナ。ALOのクエストでこの街が出てくるなんテ」
アルゴは空気を換えようと思い、気になったことを言ってみた。その疑問はもっともで、他のみんなも感じていた。
なぜこのような展開になったのか。おおよその概要はユイに与えられた情報に記されていた。
「テキストによると、この空間は魔女が作り出した幻影だそうです」
「幻影?」
「はい。この場所の名は【滅びし異世界の幻影】。魔女が結界内に作り出した可能性の世界という設定みたいです」
アスナの肩に座ったユイが、暗い表情で説明する。彼女は、この場に満たされている嫌な気配に怯えているのだ。
「(なんだろう……とっても嫌な感じがする……)」
この感覚は、SAOで負の感情をモニタリングしていた時に似ている。クエストを始める前にマリアベルが言っていたが、魔女とやらは本当に負の感情を集めて力にしているのかもしれない。そう思えて仕方がなかった。
「ユイちゃん大丈夫?」
「は、はい……。ちょっとだけ気分が悪くなっただけですから……」
徐々に身体が震え出したユイを心配して頭をなでるアスナ。その様子を心配そうに見守りつつ、ユウキたちは先ほどの話を進める。
「ところで、可能性の世界ってどういう意味なの?」
「たぶん、SAOのことだと思う。ALOのアインクラッドとは設定が違うから、別物として捉えたみたいだな」
「オレっちたちが攻略した後か全滅した後って感じだと思うけど、どっちにしろ悪趣味な演出だゼ」
「悪趣味どころか常識を疑うわよ……」
アルゴの意見を聞いたフィリアは顔をしかめる。彼女がそういう仕草をしてしまうのも無理はない。数千人もの死者を出したSAOの世界をクエストの設定に利用するなどあってはならない。このことが世間に知られたら大きな問題になりかねないので、運営側が容認しているとは思えないのだが……。
「もしかして、カーディナルに何らかの不具合が生じているのか?」
「その可能性は考えられるが、今は進むしかあるまい。細かな詮索は、魔女のお茶会を済ませた後でも遅くはないさ」
「……そうだな。こんな気味の悪いクエストなんか、さっさと終わらせよう」
キリトは、簡潔なグラハムの意見に乗る。彼の言うように、まずはこのクエストをクリアしなければならない。その後で、エギルの伝手を頼って運営側に訴えればいいだろう。
この時まではそう考えていたのだが……事態は彼らの想像をはるかに超えていた。
攻略を開始して、廃墟となった始まりの街を探索する。目指すべきゴールは中央広場。茅場晶彦がデスゲームの開始を告げたあの場所だ。
スタート位置は街の入り口で、中央広場まではかなりある。途中の道も瓦礫で塞がれて迷路のようになっているため、すぐには辿りつけそうになかった。
「こりゃ思った以上に厄介だね」
「知ってる場所なのに、全然印象が違うわ」
街の状況をざっと観察したフィリアとアスナが感想を述べる。ダンジョン化した始まりの街はかなり手強そうだった。しかも、彼らの行く手を阻む敵も現れる。
その姿は普通のモンスターではない。あれは……人だ。両目を真っ赤に輝かせた剣士たちが数人現われ、キリトたちに襲い掛かってきたのである。
「こいつら、SAOのアバターじゃないか!?」
袈裟懸けに振り下ろされた片手直剣を受け流しながら驚愕の声を上げるキリト。生気の無い剣士たちは、確かに見覚えのある装備を身につけている。
「(あの服装は血盟騎士団……)」
赤と白を基調とした装いの敵を見て表情を険しくする。ほんの一時だけ所属していたギルドだが鮮烈に覚えている。無論、血盟騎士団で副団長をしていたアスナも気づいており、かつての戦友に襲われているような心境に陥ってしまう。
グラハムたちも彼らの出現に驚いているが、SAOで命がけの対人戦闘を経験しているキリトとアスナの衝撃は更に大きい。
「(これじゃあ、あいつのことを思い出しちゃうじゃない!)」
アスナは、仲間だった男に殺されそうになった記憶を連想して表情を歪める。
ALOで人と戦ってもまったく気にならなかったのに、姿が似ているというだけでこんなに動揺してしまうなんて思いもしなかった。
いや、もしかすると【気にしないように振舞っていただけ】なのかもしれない。心の奥底では未だに克服できずに……。
「キリト君!」
「問題ない! こいつらは人間じゃないんだ!」
あえて事実を言葉にする事で心の乱れを治そうとする。
そうだ、これはゲームなんだ。決してデスゲームなどではない。心の中で呪文のように唱えながら槍使いの敵を切り裂く。
確かにそれは魂の無いデジタルデータに過ぎず、なんら感情を示すことなく消えていく。それでも嫌悪感は拭えないのだが。
「ねぇアスナ、気になるんだったらボクたちに任せてよ」
「そうですよ。ここはわたしたちが戦います」
「ううん、大丈夫……嫌な役目を2人に押し付けたりなんてできないわ」
SAOを経験していないユウキとランが、アスナたちの変化を察して気を使う。とはいえ、これは自分自身で乗り越えなければならない道だ。妹のような彼女たちに甘えるわけにはいかない。
「この程度のことで止まりはしない!」
気合を入れたアスナは短剣使いに飛びかかり、すばやい連続突きで圧倒する。
そんな彼女に続くように残りの敵も全員で片付けて先を急ぐ。一刻も早くこの悪趣味なクエストを終わらせるために。
そうしてしばらく走ると、魔方陣のようなエフェクトが道を塞いでいるのが見えた。特定の条件を満たさないと解除されない通行止めオブジェクトだ。
「今度は普通に謎解きかな?」
「いや、どうやら守護しているモンスターを倒すパターンらしイ」
アルゴの言葉通り、空中に浮いた通行止めオブジェクトの下を見ると、人型の敵が立っていた。その姿は先ほど戦った血盟騎士団っぽい敵に似ている。それは当然だ。何しろ彼は血盟騎士団のメンバーなのだから。
「あっ、あいつはっ!?」
「クラディール……なの?」
キリトとアスナは予期せぬ人物の登場に目を見開く。SAOの中で死亡し、絶対に再会することの無いはずだった男。そいつがなぜかここにいる。
クラディールという男は、アスナに対して異常なまでに執着した変質者だった。邪魔なキリトを殺害しようとしたところをアスナに妨害され、最終的にキリトの手によって殺された。そんなヤツがALOにいるなんて、どう考えてもおかしすぎる。
しかし、何度目をこすっても目の前にいる亡霊は消えてくれない。
「はは……なんだよこれは? 冗談にしては酷すぎだろ?」
「こんなの冗談じゃ済まないよ……」
2人は得体の知れない状況に恐怖すると同時に、湧き上がってくる怒りで身体を震わせる。その様子にただならぬ気配を感じたグラハムは、今にも飛び出さんばかりのキリトに話しかける。
「少年。あの男と浅からぬ因縁があるようだが、ここは私に任せたまえ」
「いや。あいつは俺にやらせてくれ」
「違うよキリト君。そこは『俺たち』でしょ?」
「……ああ、そうだな」
アスナと言葉を交わして気持ちが落ち着いたキリトは、控えめな笑顔を浮かべる。そして、2人で頷き合うと、偽クラディールに向かって走り出した。
以前は麻痺毒を盛られて満足に動けなかったが今度は違う。
「まともに戦えればお前なんてぇ―――!!」
偽クラディールに向けて猛然と剣を振るう。最初の数回は防がれたが、その後は次々とヒットする。どうやら、剣の腕前は本人と変わらないようだ。キリトの攻撃であっさりとHPを削られ、最後にアスナのソードスキルで止めを刺された。
「あなたはもう消えなさい!」
HPがゼロになった偽クラディールは、SAOの時と同様に光となって砕け散った。普段はなんてことない光景だが、キリトたちにとっては悪夢そのものだった。
「はぁ、はぁ……」
「ア、アスナ?」
「あの、大丈夫ですか?」
「……うん。心配させちゃってゴメンね?」
駆け寄ってきたユウキたちに笑顔を向けるが、その顔色はあまりよくない。近くにいるキリトも同じで険しい表情のままだ。
しかし、彼らが受けることになる苦難は更にエスカレートしていく。
封印が解除されたので先に進むと、またしてもSAOのアバターに襲われた。今度はいかにもアウトローといった風体の集団だ。黒いポンチョで身を包み、フードを目深にかぶったそいつらは、ラフィン・コフィンという殺人ギルドのメンバーにそっくりだった。
「今度はラフコフかよっ!!」
「くっ! よもや悪名高き不埒者とALOで戦うことになろうとは! 悪ふざけが過ぎるぞ、カーディナル!」
グラハムは、狂ったような笑みを浮かべて向かってきた敵を切り捨てながら過去の出来事を思い浮かべた。
SAOが健在だった当時、ラフィン・コフィンは100人を超えるプレイヤーを殺害した。グラハムが予見した通り、ゲームの世界に染まってしまった者たちが暴れ始めたのである。
彼らの悪行は目に余るものがあり、武力をもって止める必要が出て来た。そのため、有力なギルドを集めてメンバーを捕らえるための討伐作戦が計画された。攻略組の有志50名による討伐隊で彼らのアジトを急襲しようとしたのである。
ラフィン・コフィンの勢力拡大を危惧したキリト、アスナ、クラインもそのメンバーに参加し、グラハムも悩んだ末に加わろうとした。内心では人を殺してしまうかもしれない恐怖に怯えていたが、仲間を見捨てることもできなかったのだ。
『(いずれは茅場晶彦を殺すことになるかもしれないのだからな……。生きて2人に会うためならば、この手を汚すことも厭わない!)』
愛しい紺野姉妹の顔を思い浮かべたグラハムは覚悟を決めた。しかし、その申し出は、彼の行動に好意を抱いていた者たちによって止められる。
『いいから。お前は絶対に参加すんな!』
『しかしクライン! 生きて未来を切り開くためには……』
『あーもう! だからこそ、お前は来ちゃダメなんだよ!』
狂った世界にいても大人の理性を保っていたクラインが、血気に逸るグラハムを説得する。友人の1人として心配しているという意味もあるが、ここで彼が死亡してしまったら今後の影響が大き過ぎると判断したからだ。
グラハムが立ち上げたギルドは現実世界にあるようなアイテムなどを開発・提供することで多くの人々から人気を得ており、それと同時に幼い子供を積極的に保護していることが良識あるプレイヤーの好感を得ていた。しかも、彼自身が最前線で活躍しているため、攻略組にも一目置かれている存在だった。
そんなグラハムにもしものことがあれば攻略組の士気にも関わってくる。奇抜なアイデアで楽しい日常を与えてくれる彼は、圧倒的な戦闘力を持ったヒースクリフとは別方向のカリスマ性をもってみんなの心を支えていたのだ。
『(こいつの力は戦い以外の場所で必要なんだ。ラフコフみたいなバカ野郎どもと関わらせて、その才能を曇らせるわけにはいかねぇ)』
社会人的な視点でグラハムを評価していたクラインは、彼の力を損なわないように一計を案じた。作戦会議にて、討伐に失敗した場合のリスクを考慮する必要があるという意見を提案したのである。快楽殺人者どもに逆恨みされて子供たちを危険に晒すわけにはいかないと心あるプレイヤーたちに呼びかけ、協力を仰いだのだ。もちろんキリトとアスナも賛同し、グラハムは大きな反感を受けることなく討伐隊から外された。
『どうやら大きな借りができてしまったようだな、クライン』
『よせやい相棒! 大人として当然の配慮をしたまでだぜ?』
『ふっ、謙遜は無用だ。この礼はいつか必ず、愛を込めてお返ししよう!』
『野郎の愛なんていらねーよ!』
そんな感じで男の友情(?)を深めつつ準備を進め、数日後に討伐作戦が実行される。
そして、2024年8月にラフィン・コフィンは壊滅した。凄惨な戦いの末に両陣営から多くの犠牲者を出すことになり、グラハムたちの心に大きな傷を残して幕を閉じたのだった。
また1人、偽ラフコフを切り裂きながら思う。あの討伐戦に参加したキリトとアスナのことを。戦いに参加していない自分がこれだけ嫌な気分を味わっているのだ、当然2人はもっと酷い心境なはずだ。
「(私程度のトラウマなど、どうということはない。実際に戦った彼らに比べればな)」
仲間の苦しみを思って険しい顔になる。しかし、キリトの心理状況はグラハムの想像を超えていた。その場にいなかった彼は知らないことだが、キリトは討伐戦の最中に人を【殺して】しまっている。無論、正当防衛であり、罪に問われることではない。とはいえ、自身の手で命を奪ったという事実は変わらない。
しかも、キリトが殺したラフィン・コフィンのメンバー2人が、先ほどのクラディールと同様に通行止めオブジェクトの前に立ちはだかっていた。
「一体なんだってんだよ……」
心の奥底にしまいこんでいた記憶が徐々に蘇り、身体が震え出す。あの日の出来事を忘れて何事も無かったかのように振舞っていた自分に恐怖したのである。それはトラウマに対する自己防衛で否定することではないのだが、あまりに無関心だったことが恐ろしく感じられたのだ。
無論それは、罪悪感から来る錯覚だ。人を殺したという恐怖がストレスとなり、彼の心理を歪めてしまったのである。
まともな精神を持っている証拠でもあるが、1人で背負うには重過ぎるトラウマだった。
「う……うぅ……」
「キリト君!」
動けなくなったキリトを見かねたアスナは、優しく包み込むように抱きしめる。その姿はあまりにも痛々しくて見ていられない。
「ええい! 君たちは下がっていたまえ! ここは私が対処する!」
グラハムは、戦闘のできる状態ではない2人を庇う。彼にはそうするだけの恩があった。
「(あの時は彼らの優しさに甘えてしまったが……今度は私が剣を振るう時だ!)」
強い使命感を抱いたグラハムは、倒すべき敵に向かって走り出す。そんな彼の両サイドにユウキとランが並走して、その後からアルゴとフィリアもついてくる。
「ボクたちも行くよ、ソウ兄ちゃん!」
「何だかよく分からないけど、あの敵がキリトさんたちを苦しめてるんでしょ?」
「だったら、アスナの代わりにぶっ飛ばしてやる!」
「血気盛んだな、2人とも。だが、悪意に飲まれてはいけない。はやる気持ちを静めたまえ」
「でも!」
「私の注意を拒むな! 君たちはただ遊べばいいのだよ。あどけない子供のように、純粋な心でな」
「ソウ君……」
こんな時でも紺野姉妹のことを思いやる気持ちは忘れない。
期せずして異常な状況に巻き込まれてしまったが、これは紛れもなくゲームだ。そして自分たちは、このALOに惹かれて貴重な青春をかけている。だからこそ、悪意を向けさせてはいけない。彼女たちの熱意を歪めてはいけない。
もちろん、その思いは後ろにいる2人も一緒だ。みんなで楽しい時間を共有しようと思ってこのクエストを勧めたのだ、こんな酷い状態のままで終わらせるわけにいかない。特に、クエストを見つけてきたアルゴは大きな責任を感じて、何とかしなければと思いつめていた。
「キー坊たちを苦しめたのは、オレっちのせいダ。その落とし前は必ずつけル!」
「まぁ、その気持ちは分かるけど。あんたも楽しまなきゃダメでしょ? グラハムの言う通りにさ」
「……そうだナ」
フィリアに諭されて小さく笑みを浮かべる。確かに、お姉さんである自分が余裕を見せなければいけない時だ。
気を取り直したアルゴは、先に戦闘を始めたグラハムたちの援護に入る。いや、正確には乱入と言ったほうが正しい。
グラハムとランが相手をしていた敵を横から殴り飛ばし、体勢を崩している間に容赦なく連続攻撃を打ち込んで止めを刺す。そして、ユウキが追い詰めていたもう1人は、背後から近づいて股間を蹴り上げ、空中に浮き上がった隙を突いて悠々とソードスキルを叩き込む。可愛い容姿に反してエグい戦い方だった。
「へへっ、手柄はオレっちがいただいたゼ!」
「あー! ずっこいぞ、アルゴ!」
「横取りなんて卑怯です!」
「はん、こーいうのは早いもん勝ちなんだヨ!」
「うぅー! なんて大人気無いヤツなんだ!」
「にゃハハハ! 何を言っても負け犬の遠吠えだナ!」
「むきー!!」
「はぁ。楽しめとは言ったけど、極端すぎじゃない?」
中学生相手に仲良くケンカしだしたアルゴ姉さんを見て、やれやれと頭を振るフィリア。それがアルゴなりの優しさだと分かっているからこそ、苦笑せざるを得なかった。内心の動揺を隠してわざと明るく振舞っているフィリア自身も同じことが言えるのだが。
「ふっ。頼りになる戦友だ。しかし、このクエスト、あまりにも奇妙だな。因縁めいたものを感じずにはいられない」
グラハムは、アスナに支えられながらこちらに歩いてくるキリトに視線を向けて思った。このクエストは、キリトの経験を参考にして作られているとしか思えない。それならこの状況も、ユイが関係していることも納得できる。
しかし、そんなことが起こりえるのだろうか?
今の運営会社がこれほど無茶なことをするとは思えないし、する意味もない。また、カーディナルがここまで個人的な情報をトレースしたクエストを作るはずもない。
それでも、実際に異常現象が起きてしまっており、その原因はまったく不明だ。
「……もしや、ユウキとランが経験しているあの現象と関係があるのか?」
奇妙な直感が脳裏をよぎる。紺野姉妹が見る例のイメージは、ALOにログインしている時――つまり、アミュスフィアを使用している時に強く感じるという。だとすれば、その情報が電脳世界を通じてカーディナルに影響を与えている可能性も……。
「まさかな。恋する乙女の妄想でもあるまいし、ありえん話だ」
中二病のような答えに行き着いたグラハムは、考えすぎだと頭を振るのだった。
次回は、魔女を倒すところまで入れる予定です。
引き続きシリアスな話になると思います。
ユウキたちとのイチャイチャ展開を期待している方は、しばらくお待ちください。