ソードアート・オンライン アイとユウキのセカイ   作:カレー大好き

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今回は、まるまる魔女戦となっております。
ランが大活躍して、みんなを勝利に導きます。
ちなみに、シリアス続きでイチャイチャ好きな読者様が離れていかないか心配しております……。
後もう少しで以前のノリに戻りますので、許してヒヤシンス。


第18話 バイバイ、サチ

 ついに現れたエクストラクエストのラスボスは、有り得ない人物を模していた。かつてキリトが守れなかった少女・サチ。悲しげな彼女の瞳が、フードの中から彼を見つめる。いや、キリトだけを見ているわけじゃない。自分を滅ぼすために立ち向かってくるだろう妖精剣士たちに怯えているのだ。

 

「あなたたちもわたしを殺すの? 怖い……怖いよ……。わたしはもう死にたくない……。だから、みんなを壊さないと救われないんだよ!!」

 

 急に豹変したサチが狂気を含んだ声で叫ぶ。その瞬間、彼女はカラミティ・ワルプルギスとなってキリトたちに襲い掛かってきた。

 地面に降り立った彼女の左肩付近にHPゲージが3本表示され、いよいよ最後の戦いが始まる。誰もが望まぬ残酷な戦いが。

 

「わたしたちもいるんだから、気負いすぎないでね、キリト君!」

「ああ、分かってる。サチを救うために、みんなの力を貸してくれ!」

「もちろん、全力全開でいくよ!」

「わたしも精一杯お手伝いします!」

「当然、頼まれなくてもやってやるわよ!」

「仕方ないから見返り無しで協力してやル!」

「その申し出に合点承知と言わせてもらおう!」

 

 事情を理解したみんなの気持ちは既にまとまっている。キリトの仲間をあんな姿のままにしておけない。あのボスを倒し、少女の御霊を安らかな眠りにつかせてあげるのだ。

 

「うおぉぉ―――っ!!」

 

 魔法による支援を待たずに先行していくキリト。

 リズベットに鍛えてもらった愛剣を振りかざし、正面から立ち向かっていく。それを迎え撃つべく動き始めたカラミティ・ワルプルギスは、巨大な右手の爪を死神の鎌のような形状に伸ばす。彼女の基本的な武器であるカースド・ネイルだ。

 

「そんなもの、サチには似合わないんだよ!」

 

 本当の彼女は、可愛らしい装飾が似合う。

 下品に伸びた爪を見て怒りが湧いたキリトは驚異的な速度で迫り、袈裟懸けに振り下ろされたカースド・ネイルを瞬きもせずに避けてみせる。そうして左側に飛びのくや否や、勢いを殺すことなく突進する。見かけよりも早くてギリギリだったが、動揺することなく突き進む。

 

「だから言ったろっ!!」

 

 大降りの攻撃を外したボスを罵りながら勢いを活かしてジャンプし、彼女の胸元めがけて剣を振り回す。目にも留まらぬ高速で6回ほど切りつけた後に、蹴りを入れて離脱する。尋常ではない集中力で一時的にソードスキル並の速度を実現し、華麗に先制攻撃を決めて見せた。

 

「まだまだぁ!」

 

 勢いに乗ったキリトの攻撃は止まらない。着地した瞬間を狙って繰り出された斬撃を剣で受け流しながら懐に入り込み、今度は本当のソードスキルを叩き込む。相手が反撃に移る前に、すばやい3連撃を繰り出すシャープネイルが決まる。

 その瞬間、カラミティ・ワルプルギスがサチの声で泣き叫んだ。ある程度ダメージを受けると声を発するようだが、キリトにとってはたまったものではない。

 

「いやぁ―――!!」

「っ!?」

 

 彼のトラウマに直撃するような叫び声を聞いて、思わず動きを止めてしまう。本人とは違うと分かっていても、反応せずにはいられない。

 しかし、そんな彼の切ない想いも相手にとってはただの隙でしかない。

 間合いを確保するために後方へ移動したボスが、カースド・ネイルを水平に薙ぎ払い、キリトの身体を吹っ飛ばした。

 

「ぐわぁっ!」 

 

 左肩を切り裂かれたキリトは7mほど飛ばされ、地面に叩きつけられる前に何とか体勢を立て直す。片ヒザをついて着地してから状態を確認すると、相応のダメージと同時に状態異常まで付けられていた。被ダメージ量が増加し、HP・MPの回復量が減少する『呪い』だ。

 

「あの爪にはデバフ効果があるぞ!」

「ほう。美しい花には毒があるというわけか!」

 

 そう言いながらジャンプしたグラハムは、キリトに攻撃して振り下ろされた状態になっているボスの右腕を足場にして、無防備な胸元にソードスキルを放った。

 

「乙女座の私としては心苦しいが、その毒花、手折らせてもらう!」

 

 強力な攻撃を極めてボスのヘイトを受ける。その間に死角へ移動していたユウキ、フィリア、アルゴの3人が波状攻撃をしかける。

 

「たぁーっ!」

「そこっ!」

「食らエッ!」

 

 MPが満タンなので、最強のソードスキルを惜しみなく使う。間髪いれずに4回もスキルを食らたボスのHPは、目に見えて減っていく。

 

「イヤだ! 怖いよ!」

 

 大きなダメージを受けたボスが、またしてもサチの声で泣き叫ぶ。事情を知ってしまったため、彼女と会ったこともないアルゴたちも嫌な気持ちになってしまう。

 しかし、躊躇している隙は無い。彼女たちの攻撃に反応したボスは容赦なく応戦してくる。右手の爪に加えて、左手から放たれる闇属性のエネルギー弾、【フィアー・ビット】で妖精たちを傷つけていく。

 

「そんなことをサチにやらせるなぁ!!」

 

 激昂したキリトは、再び攻撃に加わるため後方に控えているウンディーネ組に声をかける。

 

「アスナ、ラン! 回復頼む!」

「うん! 私は呪いを解くから、HPの方をお願いね!」

「分かりました!」

 

 駆け出したキリトに向けて支援魔法をかけようとする。

 その時、回復魔法のターゲットをキリトに合わせようとしたランがあることに気づいた。通常なら敵に合わせることができないカーソルが、なぜかカラミティ・ワルプルギスにセット出来てしまったのである。

 

「あれ?」

 

 見間違いかと思って再確認しても結果は変わらない。どうやら本当に回復魔法をかけられるようだ。

 しかし、これをどう受け取ればいいのだろうか。普通に考えれば敵のHPを回復する意味などないのだが。もしかすると、人間だった頃の名残なんて酷い設定なんじゃ……。

 

「(っ! いけない、早くキリトさんの回復をしなきゃ!)」

 

 魔法を使うアスナに気づいて我に返り、急いで後に続く。

 しかし、先ほど見つけたイレギュラーが気にかかる。恐らく、どこかであの仕掛けを使う機会が来ると思う。その時に適確な行動が出来るようにしたい。

 

「(こういう時はソウ君に頼りっぱなしだけど、わたしもがんばらなきゃ)」

 

 そのために後方支援型のウンディーネを選んだのだ。前衛のユウキに負けないようにグラハムの力になりたい。

 それに、あのサチという少女のことも助けてあげたい。どういうわけか、人事ではない気がするのだ。

 

「(たぶん、わたしと同い年ぐらいで亡くなったからだと思うけど。でも、なんでだろう……)」

 

 【自分も死んでいる】なんて思ってしまうのは。

 

 

 ランは知らないことだが、別世界の彼女はこの時既に他界している。もちろんそんなイメ-ジがあるのは、ユウキの起こした奇跡に原因がある。その超常現象は、彼女に近しい者たちの因果情報まで流出させていたのである。何故なら、人の縁と因果には切っても切れない密接なつながりがあるからだ。

 姉のラン。同じ境遇の仲間たち。親友になったアスナ。そして、彼女の恋人であるキリト。別世界のユウキと強い縁があった者たちは濃密な因果情報を共有し、それが予期せぬ奇跡によってこちらの世界に流されてきた。その影響が徐々に現れ始めて、このクエストが発生したのだった。

 無論、そこに悪意は無い。今回キリトを苦しめる結果になってしまったのは、彼自身の強い想いが原因だった。カーディナルは、彼の心意を客観的に読み取ったにすぎない。アミュスフィアを経由してユウキから送られてきた【脳量子波】を読み取れる機能があったばかりに……。

 

 

 とても信じられないことだが、それらの現象はこの騒ぎの裏で本当に起きていることだった。カーディナルもまた、多大な影響を受けていたのである。

 それでも、彼らがやるべきことは変わらない。全力でALOをプレイするだけだ。

 

「次、フィリアさんの回復行きます!」

「了解!」

 

 アスナと連携しながら仲間を支援する。この時ランは、さきほど浮かんだ奇妙なイメージを振り払うように自分の役目に没頭していた。

 

「(そうよ。わたしは生きてる……。大切な家族と、大好きな人と一緒に!)」

 

 だからみんなと戦える。大切なこの世界を守るために。サチを救ってあげるために。そして、愛しい人の傍にいるために。

 そう思った瞬間、ランは無性にグラハムの声を聞きたくなった。

 

「ソウ君、がんばって!!」

「その期待に応えて見せると言わせてもらおう!」

 

 ランの声援を受けたグラハムは勇気を奮い立たせる。現在、彼はヘイト役を買ってでており、キリトたちの攻撃を支援していた。

 

「行け、少年! 剣で彼女を救い出せ!」

「おうっ!」

 

 グラハムがカースド・ネイルを防いでいる間にキリトが猛攻を仕掛ける。

 我武者羅に。一心不乱に。無我夢中に。切って切って切りまくる。

 

「うおぉ―――っ!! 俺が、安らかに、眠らせてやるっ!!」

 

 たとえ残酷な方法だとしても。独りよがりな自己満足だとしても。自分にはもう、こうすることしかできないから。

 

「だから俺は、君を倒すっ!!!」

 

 キリトの覚悟は力となって、加速度的にダメージを増加させていく。

 

「すごい……これが英雄の実力なの?」

「まるでヒースクリフと戦った時みたいだよ!」

「まさに、鬼気迫る戦い方だナ」

 

 一緒に攻撃を続けているユウキたちまでキリトの気迫に圧倒される。普段の彼からは想像もできないほど苛烈で、恐怖すら覚えてしまう。しかし、そのおかげで攻略がはかどり、短時間の内にボスのHPゲージを1本削ることに成功した。

 

「よしっ!」

「ここまでは順調ね」

 

 一区切りついたところで、思わず一息つくユウキとフィリア。しかし、この戦いはここからが本番だった。大ダメージを負って苦しんでいたカラミティ・ワルプルギスが行動パターンを変えてきたのだ。

 その変化は、麻痺効果を与える衝撃波から始まった。

 

「うわぁー!?」

「なんとぉ!?」

「気をつけろ、パターン変わるぞ!」

 

 前線にいた面子が吹き飛ばされ、後方にいるアスナたちのところまで転がってきた。5人とも麻痺しており、急いで回復魔法をかけようとする。

 その間、一時的に自由となったカラミティ・ワルプルギスは、大技の発動を示唆するモーションを始めた。

 

「なんであなたたちは、そんなに傷ついても戦おうとするの? わたしには分からない……分からないよ……」

 

 サチの声で語りかけてくるボスは、駄々を捏ねる子供のようなジェスチャーで苛立ちを表す。しかし、その様子はすぐさま豹変する。魔女と呼ぶに相応しい笑みを浮かべて、敵意をむき出しにしてきたのである。

 

「でも、本当の絶望を知れば、戦いが怖いってことを思い知るよ!!」

 

 その不吉なセリフを言った瞬間、彼女の両目が怪しく輝いた。

 すると、ボスの前方に雷光をまとった黒い球体が出現し、それが徐々に変形してとあるモンスターになった。その姿は、キリトたちにとって見覚えのあるものだった。

 そいつは、巨大な骸骨で作られたムカデの紛い物。SAOにおいて第75層のフロアボスだった存在。キリトたちがクリア寸前に戦った相手であり、多くの仲間を殺した強敵だった。

 

「あ、あいつは……」

「ザ・スカル・リーパー……」

「ええい! よもや、このような場所で再会することになろうとは!」

 

 意外すぎる相手の出現にSAO組はそろって驚く。カラミティ・ワルプルギスの奥の手である【ディストラート・ファンタズマゴリア】が発動し、キリトの戦歴でもっとも苦戦したフロアボスを具現化したのだ。

 まさに狂気を映し出す幻影であり、これには事情を知らないユウキとランも度肝を抜かれた。

 

「フロアボスが同時に2体……!?」

「そんなことってありなの……」

 

 はっきりいって絶望的だ。フルレイドでも困難なフロアボスを同時に2体も相手にするなど、普通に考えれば無謀でしかない。

 しかし、目の前の悪夢は実際に襲いかかってきた。

 巨体に見合わぬ俊敏さで接近してきたザ・スカル・リーパーは、大鎌になっている腕をキリトめがけて振り下ろしてきた。彼に狙いを定めたのは、これまでカラミティ・ワルプルギスに与えたダメージ量の多い順で狙うようになっているからだ。

 

「ギュィィィ―――ッ!!」

「ちぃっ!! やっぱり重いっ!!」

 

 麻痺が回復した直後で回避は出来ずに、何とか剣で受け流す。久しぶりに受けたが、相変わらずの威力に顔をしかめる。

 ダメだ、彼だけでは抑えきれない。その様子を見たアスナは咄嗟に判断して、すかさず援護に入る。

 

「はぁーっ!」

「このっ!」

 

 ザ・スカル・リーパーの追撃をキリトと協力して防ぐ。それはまるでSAOの戦闘を再現しているように見えたため、グラハムたちは戦慄する。しかし、いつまでも怯えているわけにはいかない。2人が奮闘している間に、他の面子は散開して状況を打破する方法を模索する。

 

「どうすればいいの、ソウ兄ちゃん!」

「無論二手に分かれるまでだ! こいつの相手は私、少年、アスナで引き受ける!」

 

 グラハムは、そう指示しながらキリトたちの援護に入る。SAOではヒースクリフ、キリト、アスナが攻撃を止めている間に他の攻略組がダメージを与えてようやく倒したのだが、今はたったの3人で対処しなければならない。無論、倒すことなど不可能である。

 

「ソウ兄ちゃんたちだけで戦うなんて無茶だよ!」

「そんな道理、私の無理でこじ開ける!」

「でもっ!」

「私の決定を拒むな! 恐らくこいつはただの幻影、魔女を倒せばおのずと消える。ならば、足止めするだけで十分なのだよ!」

 

 凄まじい猛攻を防ぎながらも、困惑するユウキたちに説明するグラハム。短いやり取りだったが、それだけで彼の意図が理解できた。

 それに、これまで様子を伺っていたカラミティ・ワルプルギスも動き出した。このままでは混戦になってしまうので、いつまでも固まっている訳にはいかない。

 

「行け、ユウキ! 迷わず進んで活路を開け! どのようなゲームもクリアできるように作られているのだからなぁ!」

「……うん、分かったよソウ兄ちゃん!」

「そして、ラン! 君がそちらの指揮をとれ!」

「えっ、わたしが!?」

「長らく冒険して気づいたが、君には資質があるとみた! ゆえに、己を信じて勝利を掴め!」

「う、うんっ! やってみるよ!」

 

 グラハムは、キリトとアスナが堪えている間に伝えておくべきことを叫んだ。そして最後に自分の気持ちを戦友に託す。

 

「フィリア、アルゴ、ユイ! 過保護だと笑われようが、あえて言わせてもらおう。彼女たちをよろしく頼む!」

「はいはい、分かってますよ!」

「デート1回で頼まれてやるヨ!」

「わたしも精一杯がんばります!」

 

 やるべきことを理解した乙女たちは、愛する人に見送られて強大な敵に立ち向かっていく。

 フロアボスをたったの4人+αで倒すなど、あまりに無謀だ。それでも、グラハムは悲観していない。

 

「なに、勝利の女神が6人もいるのだ。これで勝てぬ道理は無いさ!」

「なんてかっこつけてないで、早く援護してくれよ!」

 

 流石に2人だけでは厳しいので、キリトが救援を求める。鉄壁の防御力を持ったヒースクリフがいない今、この3人が全力で対処しなければ対抗できない。

 HPゲージが3本表示されているので撃破は可能らしいが、恐らくこいつは無理して倒さなくてもいい設定だと思われる。流石にフロアボスを2体同時に攻略するのは酷だからだ。

 もちろん倒せればそれなりの報酬を得られるだろうが、今はそれを狙う余裕は無い。

 

「くっ! とてもじゃないけど、向こうの援護に行けないよね!」

「残念だけど、俺たちは釘付けだな!」

 

 この時点で自分が狙われていることに気づいたキリトは、ここから離れられないことを悟っていた。口惜しいが、自分の手でサチを開放してあげることはできなくなった。

 

「後は、ユウキたちに任せるしかないか……っ!」

「大丈夫、あの子たちならやってくれるよ!」

「同感だな! 私の女神たちは伊達ではないのだよ!」

 

 お惚気のようなグラハムのセリフを聞いてニヤリとしてしまうキリトとアスナ。確かに彼女たちは美しく、頼りになる仲間である。だから、このクエストの行く末を彼女たちに任せよう。心を許した仲間たちの手でサチが助かるのなら、キリトも納得できた。

 

 

 カラミティ・ワルプルギスに立ち向かっていったユウキたちは、ランの指揮で適確に攻略を進めていた。

 

「ユウキ、フィリアさんとスイッチ! 120秒、被ダメ抑えて!」

「おっけー姉ちゃん!」

 

 明確な指示を与えてみんなの動きを統括する。リキャストタイム、消費アイテムの残り数、敵の行動パターンなどを正確に把握し、戦況を支配する。彼女は、グラハムの期待に十分以上の成果で応えていた。

 

「へぇ、ランの指揮ってすごいんだね」

「当然だよ。姉ちゃんの戦術予報は、スメラギ・李・ノリエガ並だからね!」

「誰だよそれハ?」

 

 激しく立ち回りながらも軽い会話を交わす。これもランの指揮が上手くいっているおかげだ。

 

「(普段はソウ兄ちゃんに甘えて分からないけど、本気を出した姉ちゃんはちょー強いんだ!)」

 

 ユウキとグラハムが見出していた指揮能力の高さこそがランの強さだった。彼女自身の戦闘能力も高いが、それを最大限に活かせる戦術予報によって更に実力を跳ね上げているのである。

 ただし、まだまだ拙いところもあって、仲間がそれを補っていた。

 

「ランさん、広範囲攻撃来ます! カウント10、9……」

「ユウキとフィリアさんは回避! アルゴさんは盾役お願いします!」

「あいヨ。手厚い援護を頼むゼ!」

 

 ユイのアシストを受けて指示を出す。その10秒後、カラミティ・ワルプルギスの新しい技、【ダークネス・コンフューズ】が炸裂する。自身の前面に展開した複数のエネルギー弾を拡散発射する闇属性攻撃だ。かなり派手目なエフェクトで、ユウキとフィリアを逃がすために残ったアルゴにダメージを与えていく。

 しかし、見た目よりも威力は弱い。ディストラート・ファンタズマゴリアを発動した反動でカラミティ・ワルプルギスの能力が若干低下していたからだ。流石にボス2体と同時に戦うは厳しいので、バランスを取る仕掛けが用意されていた。

 おかげで大きな危機も無く、HPゲージを更に1本削り取ることに成功する。

 

「よし、残り1本!」

「油断は禁物よ。またパターンが変わるかもしれないから!」

 

 慎重なランは当然のように警戒する。

 こういう時は、臆病なくらいがちょうどいいのよね。

 ガンダムで使われたセリフ通りに気をつけていたら、危機的状況に陥りそうな変化が起きた。カラミティ・ワルプルギスの背中に妖精のような2枚の(はね)が出現したのだ。

 

「怖い! 怖い! 怖いよぉ! このままじゃ死んじゃう! わたしが壊れて死んじゃうよぉ―――!!」 

 

 彼女は狂ったように泣き叫び、自分を追い込んだ妖精たちに殺意を向ける。

 

「……壊してやる。わたしを壊すお前たちを、壊してやるっ!!!」

 

 威嚇するように(はね)を広げて、三度襲いかかってくる。

 

「まずは、さっきのパターンで様子を見ます!」

「それじゃあ、ボクが引きつける!」

 

 今はまだどのような変化が起きたのか分からないので、とりあえずセオリー通りに戦闘を再開する。しばらく続けてみたところ強さに変化は見られず、あの(はね)が空を飛ぶためのものではないらしいことも分かった。

 その代わり、攻撃を受けるたびに(はね)から発せられている禍々しいエフェクトが巨大化していく。破壊できればと思って攻撃してもらったが、手ごたえはなかった。

 

「ユイちゃん、アレをどう見る?」

「何となく力を溜めているように感じますけど……」

「わたしもそう思う。たぶん、すごい攻撃が来るね」

 

 状況から判断すると、受けたダメージ量に関連した特殊技があると思われる。一定の値に達すると発動するパターンかもしれない。

 そして、見た目で分かるように表示されている意味も考える必要がある。普通に考えれば発動タイミングを計るためのものだと思われるが、エクストラクエストでは趣向を凝らしたギミックが用意されている場合があるため、常識に囚われてはいけない。

 

「思い込みは可能性を狭めるから柔軟に考えろ、だよね」

 

 ランは、以前聞いたグラハムの言葉を思い出して微笑む。ALOのボスは弱点が用意されている場合も多いので、対処方法を見つけることも楽しみの一つなのだ。そう考えると、このカラミティ・ワルプルギスにも仕掛けがあるかもしれない。

 

「あっ! もしかして、アレがそうなんじゃ……」

 

 思考を研ぎ澄ましたランは、戦闘開始間際に偶然発見したイレギュラーの事を思い出す。アレを適確に活かすことが出来れば攻略を有利に進められると思うが、今がその時なのではないだろうか。

 しかし、その答えをまとめる前に事態が動いた。恐れていた特殊攻撃が発動してしまったのだ。

 (はね)に溜めていた負のエネルギーを解き放ったカラミティ・ワルプルギスは、一瞬だけ無敵状態になると、大きく開いた口から地獄の業火を吐き出した。【サルヴェイション・フレイム】という名の最強技である。

 

「みんな、燃えちゃえ――――っ!!!!!」

 

 ズゴォォォォ―――ッ!!

 石や金属まで溶けそうな効果音が耳に届く。視界は炎に包まれており、音だけしか判別できない。

 

「ちょ、まっ、うわぁ――!?」

「魔女が炎を使うナ――ッ!?」

「こんがり小麦色になっちゃう――!?」

 

 避けきれずに食らってしまったユウキたちが阿鼻叫喚(?)となる。当然、熱や痛みは感じないが、視覚的な迫力は凄まじい。

 しかも、受けたダメージも甚大だった。75%を維持していたHPとMPが、たったの一撃でレッドゾーンに追い込まれてしまったのである。

 

「うわっ、MPまで減ってるよ!?」

「こんなの反則でしょ!?」

「っ!? ここはわたしが抑えるから、みんなは退避して!」

 

 1人だけ難を逃れたランが前進して、傷ついた仲間を庇う。それによって、とえりあえず窮地を脱したものの、危機的な状況は続いている。

 

「(あれを食らい続けたらアイテムが持たないけど、範囲が広すぎるから避けるのも難しい……。やっぱり、何らかの対処法を見つけなきゃ!)」

 

 そうしないと負けてしまう。

 追い込まれたランはネガティブな思考に陥りかけて、思わず視線をグラハムに向けた。

 

「(わたしはソウ君の期待に応えたい……。だったら、アレを試すしかない!)」

 

 これまでに得た情報から攻略法を見出したランは、それを実行することにした。リスクのある作戦だが、やってみる価値も十分にある。この時ランは自分の直感を信じることにした。

 

「みんな、さっきまでと同じように攻撃して!」

「了解、姉ちゃん隊長!」

 

 阿吽の呼吸で姉の言葉を受け入れたユウキは、彼女とスイッチする。その後に続いてフィリアとアルゴも戦列に復帰して、カラミティ・ワルプルギスにダメージを与えていく。

 HPゲージの残りは後もう少しだ。さっきの攻撃を2~3回しのげれば勝利できる。しかし、すべて食らえば、回復が追いつかずに敗北してしまうだろう。

 

「でも、この方法が上手くいけば……」

 

 ランは、自身の思い付きを信じてその時を待つ。

 そしてそれは、フィリアがソードスキルを叩き込んだ瞬間に再び始まった。

 

「さっきのがまたくるゾ!」

 

 (はね)を見て前兆を察知したアルゴが叫ぶ。今度は回避しようと全力で走るが、それでも間に合いそうにない。

 しかし、業火が猛威を振るう前に、ランの魔法が発動した。なんと、カラミティ・ワルプルギスに向けて回復魔法をかけたのである。

 

「ちょ、何やってんの!?」

「っていうか、ボスに回復魔法なんて使えたっけ!?」

 

 思いもかけない行動にユウキたちが驚く中、ランの魔法を受けたカラミティ・ワルプルギスがうめき声を上げて苦しみ出した。

 それでもサルヴェイション・フレイムを放ってきたが、その威力は激減していた。溜め込んでいた負のエネルギーが回復魔法によって消失したからだ。

 

「くぅぅっ! 心が苦しい……。この気持ち悪い感覚は何なの!?」

 

 HPを回復させているのにも関わらず苦悶する。どうやら、負の感情に支配されている彼女には、慈愛の力が堪えるらしい。

 

「なるほど。HPを回復させる代わりにあの技を封じられるってわけカ。よく気がついたナ」

「すごいよ姉ちゃん!」

「まぁ、偶然なんだけどね」

 

 みんなから褒められたランは複雑な心境になった。自分の力を存分に振るえる戦闘は楽しいが、サチのことを思うと心が痛む。【病床に伏せていた自分】に自由を与えてくれたVRゲームが彼女を縛り付けている事実が許せなかったのだ。

 だからこそ、自分の手でサチを開放してあげたかった。この世界のランというより別世界の彼女といったほうが正しいが、それでも気持ちは変わらない。

 

「(また変な感じがするけど……。でも!)」

 

 今はその感情に従う。

 そのようにランが決心を固めた頃、戦闘も終わりが見え始めていた。4度目のサルヴェイション・フレイムにも耐え抜いて、いよいよ止めを刺す時が来たのである。

 

「みんな! 最後の攻撃はわたしにやらせて!」

「えっ?」

「もしかしてLAが取りたいの?」

「ううん、そうじゃなくて……。上手く説明できないけど、わたしの手で終わらせてあげたいって思ったんです」

「そうカ……オレっちは構わないゼ」

「もちろんボクも賛成だよ!」

「そうね。ランのおかげで勝てるんだから、わたしもオッケーよ!」

 

 自分の気持ちを伝えたら、すんなりと了承された。

 後は、みんなの援護を受けつつLAを極めるだけだ。

 瀕死の状態で狂ったように泣き叫ぶカラミティ・ワルプルギスに向かって猛然と駆け寄っていく。

 

「いやぁ――!! わたしが壊れる!! わたしが死んじゃう――っ!!!」

「大丈夫、あなたは既に試練を乗り越えています。だからもう、安らかに眠ってください」

 

 ランは優しい声で語りかけると、カラミティ・ワルプルギスの懐に飛び込んでマーシフル・ヴァルキリーを発動した。戦乙女が放ったその7連撃は、サチを開放するための救済だった。




次回は、クエストのまとめとなります。
果たして、ユウキたちが得る報酬とは何なのか。
そこはかとなく意外なものだったりします。
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