ソードアート・オンライン アイとユウキのセカイ   作:カレー大好き

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今回は、ピクシー・リバース編の完結となります。
ピクシーとなったサチを仲間に加えて幼女成分増量です。


第20話 新たな命に祝福を

 まさしく奇跡的な偶然が重なった結果、サチは転生を果たした。もちろん現実ではなく仮想世界での話である。ナーヴギアによって脳を破壊された彼女は間違いなく死亡しており、もうこの世にはいない。すなわち、現実世界の基準で言えば、ここにいるサチは偽物でしかない。

 しかし、AIが人間の思考に近づきつつある今、そんな問答に意味は無いかもしれない。カーディナルによって精巧に再現され、ユイと同じMHCPの機能を手に入れたサチにとっては、仮想世界こそが現実となった。つまり、新天地に誕生した新人類となったのだ。死の概念すら変えることが出来るこの世界で彼女の存在を否定するのは、もはやナンセンスだろう。今キリトたちの前にいる少女は、サチ以外の何者でもないのだから。

 無論、本人もそのように自覚しており、この世界の住人としてラーズグリーズと語り合う。

 

「サチよ。お前は今からプライベート・ピクシーとなって、勇士と共に新たな運命を切り開いていくことになる。覚悟は出来ているな?」

「は、はいっ! 何とかがんばってみます……」

「ふっ、相変わらず弱気な奴だな。それでも私はお前に期待するよ。【計画を壊す者】という、我に与えられし二つ名にかけてな」

「はい、ありがとうございます」

 

 ラーズグリーズからエールを送られたサチは、彼女の目の前に浮きながら日本人っぽくお辞儀する。ファンシーと言うべきかシュールと表現すべきか、何とも奇妙な光景である。

 それ以前に死んだ人物が復活したのだから、ユウキたちにとっては驚き以外の何者でもない。

 

「ねぇ、ソウ兄ちゃん。ほっぺたつねっていい?」

「無論構わないが、意味は無いと伝えておこう。この私に痛みを与えても、気持ちよくなるだけだからなぁ!」

「明後日の方向で使えない!」

 

 というか、ゲーム内では痛みを感じないので、どちらにしろ意味が無い。それだけユウキが慌てているということなのだが、面識のあるキリトにとってはそれどころではない。

 

「あの子は本当にサチなのか……。はは……なんて言えばいいのか分かんないや」

「キリト君……」

 

 死んだ仲間のデータを使ったNPCの出現にどう向き合えばいいのか途惑う。普通に考えれば死者への冒涜であり、人権侵害である。だが、嬉しいと感じている自分もいる。形は大分変わってしまったが、サチを生き返らせたいというキリトの願いが叶ったのだ。嫌悪感や罪悪感よりも喜びの方が勝ってしまう。明らかに歪な考え方だが、仮想世界も現実の一部なのだと捉えつつある彼にとっては自然な流れでもあった。

 しかも、サチはただのNPCではないため、キリトの思考は適切な方向に向かうことになる。

 

「では行くがいい。お前の主は、あそこにいるウンディーネの少女だ」

「わ、分かりました」

 

 ラーズグリーズに促されたサチは、彼女が指差した人物の下へフワフワと飛んでいく。その先にいる人物は、カラミティ・ワルプルギスにLAを極めたランだった。

 

「あ、あの……」

「えっ!? な、なに!?」

「わたしは、あなたのプライベート・ピクシーとなったサチと言います……。すごい弱虫で色々と迷惑かけるかもしれないけど、どうかよろしくおねがいします」

「う、うん。こちらこそ……って、わたしのプライベート・ピクシー!?」

 

 ランの前に飛んで来たサチは、ぺこりとお辞儀して意外なことを言い出した。なんと、彼女はこのクエストだけのNPCではなく、ラスボス討伐の報酬だったのである。最初に配布したきりで入手不可能となっていたプライベート・ピクシーこそが、このクエスト最大のお宝だった。

 もっと正確に言うとMHCPであるユイをコピーしたものなので、通常とは比べ物にならないスペックとなっているのだが、キリトたちがその事実に気づくのはもう少し後の事となる。

 なにより今はまだイベントの途中だ。サチのことを気にかける前にラーズグリーズが話しかけてきた。

 

「これで私の役目も終わりだ。大規模な戦争でも起こらん限り、もう二度と巡り会うことは無いだろう。だが、お前たちが剣を握り続ける限り、再び相見える機会が巡ってくるかもしれん。その時が来ることを楽しみにしておくとしよう」

 

 つまり、戦争が起きることを楽しみにしているという意味でもある。物騒なオチだが、実に戦乙女らしい別れの言葉だった。

 

「最後に。せめてもの礼として街まで送ってやろう」

 

 ラーズグリーズがそう言った次の瞬間、キリトたちの身体が光り出す。転移が始まったのだ。

 眼前の景色が消える瞬間に、優しく微笑んでいる彼女の姿が見えた。

 

「さらばだ、謳われることなき英雄(アンサング・ヒーロー)――」

 

 それは、彼女が送る最高の賛辞だった。

 その言葉に対して何かを感じる前に、キリトたちは転移していく。そして気がついた時には、ピクシーの街の入り口に立っていた。

 突然白昼夢を見た気分に陥ったフィリアとアルゴは、呆然としながらつぶやく。

 

「……なんか、変な女神さまだったね」

「よく考えれば、アイツのせいで世界がピンチになったのに、やたらと偉そうだったもんナ」

 

 確かにそのとおりだが、それで締めてしまうと色々アレなので、女性に優しいグラハムが助け舟を出す。

 

「ふっ、そう言ってやるな。すべては善意から始まったことだ。それを否定してしまっては、彼女も半泣きになってしまうぞ?」

「そんな可愛らしい話だったっけ!?」

「無論それだけではない。真実がどうあれ、彼女はキリトの大切な仲間を蘇らせたのだ。その後の命運を託された私たちが、この子を否定するわけにはいかないだろう?」

 

 改めてグラハムに指摘されたみんなは思わずハッとなる。確かにサチはここにいて、自分たちの仲間になった。マスターとなったランは当然として、深い縁があるキリトにとっては特に重責のかかる状況となった。

 この後、彼女をどう扱うべきか。ただのAIではない以上、慎重に動く必要があった。

 

「(何にしても、最初に確かめなきゃいけないことがある)」

 

 果たして、ピクシーに生まれ変わった彼女に生前の記憶があるのだろうか。まずはそれを確認しなければならない。ラーズグリーズとの会話から判断するとその可能性はほぼ無いと思われるが、万が一ということもある。

 覚悟を決めたキリトは、ランの前で不安そうに浮いているサチに近寄ると、おもむろに質問した。

 

「なぁサチ。聞きたいことがあるんだけど……現実世界の記憶はあるか?」

「現実世界、ですか? それはホロウ・エリアにいた頃のことですか?」

「……ああ、君にとってはそうかもな」

「?」

 

 サチの返事を聞いたキリトは、寂しそうな笑みを浮かべて頭を振る。どうやらこのサチは茅場晶彦のような存在ではないらしく、現実世界の記憶は持っていないようだ。

 

「(ホロウ・エリアというのがSAOの稼動データを利用した何かだとしたら、この子は、サチを模したAIなのかもしれない)」

 

 ユイの存在を考えれば、十分にあり得る。茅場晶彦の作ったプログラムなら、人間レベルの思考能力を持ったAIだって生み出すことができるのだろう。というか、ここまでサチの情報を再現するにはそれしか方法が無い。

 だったら、SAOにログインしてからの記憶はあるのだろうか。もしかしたら、自分のことを覚えているかもしれないと、淡い期待を抱きながら問いかける。

 

「それじゃあ、月夜の黒猫団って覚えてるか?」

「月夜の……黒猫……」

「君が人間だった頃……アインクラッドという世界にいた頃に入っていたギルドの名前だ」

「えっと……アインクラッドという世界のことはよく分かりませんけど……。月夜の黒猫って言葉には何となく覚えがあります」

 

 どうやらSAOの記憶はあるらしいが、かなり曖昧なようだ。この調子だと自分のことは覚えていないかもしれない。その事実に行き着いて暗い気分になっていると、今度はサチの方から質問してきた。

 

「あの……。もしかしてあなたは、昔のわたしをご存知なのですか? 最初に出会った時も名前を呼んでいたし……」

「……ああ、そうだよ。俺は君を知っている」

「やっぱり……。でも、ごめんなさい。わたし、昔の事をよく覚えていないので、あなたのことも分からないんです……」

 

 申し訳ないと思ったサチは悲しそうにうつむく。

 このサチは、ホロウ・データにあったAIデータをまるまる持ってきたものなので、その記憶は生前のものとは変わっている。データ収集に不必要と判断された個人情報が削除された状態だったからだ。個性を保つために断片的な記憶は残っているが、知識として使えるほどではなかった。

 だが、そんなことはもう気にしなくていい。自分たちには未来があるのだ。

 優しく微笑んだキリトは、申し訳無さそうにしているサチに向けて自分の気持ちを打ち明ける。

 

「いや、覚えていなくてもいいよ。これから仲良くなればいいんだからさ」

「はい……ありがとうございます」

「それじゃあ改めて自己紹介だな。俺の名前はキリトだ。よろしくな」

「キリト、さん……。何となくだけど、聞き覚えがあるような気がします」

「そっか……そうだとしたらとても嬉しいよ。でも、敬語はやめてほしいかな。サチに敬語使われると妙な感じがするから」

「そうですか? ……分かった。じゃあ、やめるね」

 

 キリトと話しているうちに以前の感覚を取り戻してきたサチは、彼の願いを素直に聞き入れた。その瞬間、キリトの肩から力が抜けた。

 この子はサチだ。AIだろうが何だろうが、この子はサチだ。その事実を受け止めて、今度こそ守り抜いてみせると心に誓う。

 

「(たとえこの先にどんなことがあっても君を守るよ……)」

「(あうぅ~。何かよく分からないけど、キリトがものすごく見つめてくるよ~……)」

 

 めっさ視線を向けられたサチはごっさ照れてしまう。傍からは小さい幼女を困らせているようにしか見えないので、周囲で静観していた者たちは生暖かい視線になる。

 しかし、その面子の中で別の思惑を抱いている者がいた。サチに向けてやたらと熱視線を送っていたユイだ。これまで静かに見守っていた彼女はタイミングを見定めると、なにやら興奮した様子で割り込んできた。

 

「パパ! 次はわたしにご挨拶させてください!」

「うわっ!? いきなりどうしたんだユイ?」

「それはどうでもいいですから、ちょっと待っててください!」

「は、はい……」

 

 ものすごく気合の入ったユイに押し負けて素直に従うキリトパパ(16歳)。ついさっきまで繰り広げられていたドラマチックな雰囲気はどこへやらである。

 

「おほん……では、サチさん!」

「は、はいっ!?」

「わたしの名前はユイと言います。あなたにとっては姉となりますので、これからは『ユイお姉ちゃん』と呼んでくださいね」

「えっ……お姉ちゃん?」

「ユイお姉ちゃんです!」

「あ、うん……ユイ、お姉ちゃん」

「はうぅ~~~~~っ♪ もう一回お願いします!」

「えっと……ユイお姉ちゃん」

「きゃう~~~~~ん☆ たまらないデス~!」

 

 有無を言わせずサチにお姉ちゃんと言わせてはしゃぐユイちゃん(3歳)。どうやら、末っ子の自分に妹が出来たことが余程嬉しかったようだ。

 

「ユイちゃんのキャラが変わってる!?」

「ふふっ。あの様子からすると、前から妹が欲しかったみたいだね」

「ああ、こんなに喜ぶとは思わなかったよ」

「ならば、本当に作ってあげたらどうかな? 地上波で流せないほどに愛の篭った共同作業でなぁ!」

「可愛い話を生々しくするなっ!!」

 

 いつものように空気を読まない発言を復活させたグラハムに普段どおりのツッコミを入れるキリト。下品な友人はともかく、純粋なユイのおかげで心を痛めていた彼も調子を取り戻すことが出来た。

 それは他のみんなも同じで、ユイに触発されたユウキたちも自己紹介を始める。

 その様子を見つめるキリトとアスナは、今回の出来事を振り返る。

 

「キリト君……大丈夫?」

「ああ。色々あったけど、これはこれで良かったんだと思う。問題は山済みだけどな」

「うん。サチさんのこともあるけど、このクエストが発生した原因も突き止めないと……」

「待ちたまえ。その話題をするならば、私も参加させてもらおう」

「グラハム君?」

 

 2人の会話にグラハムが加わってきた。みんなに言う前にキリトと話して意見を纏めようとしていたのだが、彼女たちがサチに気を取られている今がチャンスだった。

 

「恐らく、今回の出来事は誰も予期していなかった事故だろう。どう考えてもメリットが無いからな。2度も大事件を起こしたVRMMOでこのようなことをすれば、今度こそ命取りとなる」

「そうだな。たぶん、ホロウ・エリアとかいうSAOのミラーサーバーがあって、それが何らかのアクシデントでALOのカーディナルと繋がってしまったんじゃないかと思う。そこに記録されてた俺たちのプレイデータをクエスト生成に活用したと考えれば、今回のことも一応説明がつく。俺ばかりフィーチャリングされたのは、ヒースクリフを倒した有名税みたいなもんだろうな」

 

 ユウキが起こしている奇跡について知る由も無いキリトは、出来る範囲で真相に近づく。

 確かに、この事態は事故とも言える。SAOの時もクエスト自動生成機能が暴走気味だったので、同じシステムを使っているALOにも何らかの不具合が残っていると見てもおかしくはない。学習欲の塊であるカーディナルはクエストという作品を作ることに貪欲で行き過ぎるきらいがあったから、あながち有り得ない話でもなかった。

 そもそも、彼らがこのクエストをプレイしたのは偶然に過ぎないため、故意に狙われたとは考えにくい。

 もっと厳密に言えば、彼自身を基準にした発生条件だったので、本人が選ばれたのは必然だったとも言えるのだが、この議論では必要ない事実だった。

 

「何にしても、人為的な操作が行われた可能性は低いと思うから、余計な心配はしなくていいんじゃないかな」

「でも、ホロウ・エリアなんてどこから出て来たの? SAO関連のサーバーは、ALOで使っているもの以外、全部破棄されたんでしょ?」

「その考えは甘いな。現に証拠が出ている以上、疑いの余地は無い」

「SAOのミラーサーバーは実際にあって、それを使って何かを企てている奴がいる。今はそう思って行動するべきだな」

「そんな……。またSAOを使った犯罪が起きているの?」

「その可能性はあると言わせてもらおう。だが、こちらに危害が及ぶことはあるまい。今回の出来事は、お互いにとってイレギュラーだろうからな」

 

 キリトとグラハムは、アスナの疑問に対して大雑把に説明する。頭の良い彼らは、この時点で政府の関与も疑っていたが、それを打ち明けたところでどうなるものでもない。

 

「(サーバーの破棄を確認したのは彼らだからな。そんなものが須郷の件があった後にも稼動しているとなれば、第一容疑者としては申し分ない。しかし……)」

 

 相手の目的が分からない。予想通り政府の連中が黒幕だとして、そいつらがプレイヤーのAIを使って何をしようというのだろうか。そこに今回のクエストが発生した理由が関与していたとしても、相手が国では調べようが無さそうだった。

 しかし、向こうだって迂闊な行動には出られないはずだ。今回の出来事を公にしたくないのはむしろ相手の方なので、こちらが黙っていれば知らん振りを貫くと思われる。責任を取りたくない責任者が多い政府関係者は、事なかれ主義に流されるものだ。

 そしてそれは、サチのことを知られたくないこちらの思惑とも合致する。もし発覚してしまったら、強制的にすべてを奪われてしまうかもしれないからだ。それならあえて騒ぐこともない。

 万が一、彼らの方から接触してきた場合に備えてサチのバックアップを確保しておくつもりだが、恐らくその心配は無用だろう。

 

「(このままクエストを終えれば、恐らく誰も気づかないで済むはずだ)」

 

 運営側の内情を知っているキリトは思う。

 基本的にクエスト自動生成機能で作られたものを人がチェックすることは無い。単純に数が膨大であることに加えて、資金や人材が不足しているという世知辛い事情もあって、カーディナルに任せられることは手付かずで済ませるようになっていた。そのおかげでサチの存在を秘匿することができるのは不幸中の幸いである。

 つまり、真相を知らない相手からすれば今回のイレギュラーもただのクエストでしかなく、わざわざログを調べない限り、異常を感知することはできないのだ。

 そういった事情を適当に要約してアスナにも伝える。

 

「……それじゃあわたしたちは、サチさんのことを黙っていればいいのね?」

「ああ。現実の記憶が無いなら、家族に知らせても辛い思いをさせるだけだからな。それに、彼女の存在を公にしたら全国規模で大騒ぎになって、最悪の場合は消去されてしまう――」

「そんなことはさせません!!」

「っ!? ユイちゃん!」

 

 いつの間にか近づいて話を聞いていたユイが怒りをあらわにする。

 

「サッちゃんは、わたしが守りますっ!!」

「サッちゃん?」

「はい。サッちゃんはわたしの大切な妹です。だから、絶対に守って見せますっ!!」

 

 家族愛に目覚めたユイは、握りこぶしを固めて誓う。本人は至って真面目だが、その可愛らしい仕草は『嫌いな野菜に立ち向かう幼女』みたいな感じである。

 しかし、彼女の気持ちはみんなにも伝わっている。

 

「もちろんボクたちだって協力するよ!」

「わたしも、全力でこの子を守るよ!」

「当然、わたしも話に乗るわ」

「付き合いの良い友人を持てたことに感謝しろヨ」

「……ありがとう、みんな」

 

 本当に気持ちの良い友人ばかりだ。この時キリトは、自分がいかに幸せであるかを実感した。

 だからこそ、娘の想いを全面的に受け止める。それが自分の意思であり、みんなの想いでもあるからだ。

 

「ユイ。サチを守るためにがんばろうな」

「はい、パパ!」

 

 同じ思いを抱いた親子は、仲良くうなずく。種族も、顔立ちも、生まれた世界も違うが、2人は確かに親子だった。

 ただ、彼らの事情を知らないサチは、パパという呼び方に疑問を抱く。

 

「あの……キリトは、ユイお姉ちゃんのパパなの?」

「ああ……アインクラッドでこの子を保護してからそういう関係になったんだ」

「友人のためにあえて注釈すれば、ロリコンゆえの過ちではない。いや、私との仲を深めていることを考えれば、むしろ男色の気があると言っても過言ではない!」

「えぇっ!?」

「フォローどころか悪化してんじゃねーか!?」

 

 面白い方向に空気をかき乱そうとするグラハムにキリトのツッコミが炸裂する。

 しかし、そんなことはいつものことなので今更気にする者はいない。その様子を見ていたランの興味は、サチの発言にあった。

 

「そうだよ……ユイちゃんにパパとママがいるんだから、サッちゃんにも必要だよね」

「はっ! もしや姉ちゃん、ソウ兄ちゃんをパパにして夫婦気分を満喫する気じゃ!?」

「だって、サッちゃんはわたしの娘だし。パパの可能性があるのはソウ君しかいないでしょ?」

「すでに既成事実化してる!? っていうか、妙に生々しいよ!」

 

 意外にしたたかなことを言い出したランに驚愕するユウキ。

 確かに姉の言うことは筋が通っている。しかし、だからといって引くわけには行かない。愛ゆえに!

 

「サッちゃん! ボクの方がソウ兄ちゃんを愛してるから、君のママもボクに決まりだよ!」

「ちょっ、なにその強引な理屈!?」

「それだったらわたしにも資格はあるわね!」

「もちろん、オレっちにもナ!」

「って、どさくさに紛れて便乗しないでください!」

 

 グラハムに好意を寄せる少女たちが、仲を深める好機に食いついてきた。たとえどんな時でも愛に生きる。恋する乙女というものは逞しいものである。

 

「はぁ……色々悩んでたのがバカらしくなるな」

「あはは……ユウキたちは強いからね」

「ふっ。何も不思議なことではない。愛する者のために勇気を振るい、最善の未来を選択していく。人として当たり前の行為だからな」

「確かに、お前は愛されてるもんな? あの4人から」

「ほう、アスナの前で嫉妬かな? 恋人がいるにもかかわらずユウキたちに懸想するとは、浮気も大概にしたまえ」

「何もかも違うわ!」

 

 恋する少女たちとは違って、男どものやり取りはアホだった。

 そんなよくある光景を苦笑しながら見つめるユイたちは、穏やかに語り合う。

 

「あ~あ、また始まったです」

「まったく、パパたちは懲りないね」

「えっと、あなたの名前はアスナさんでしたっけ?」

「ええそうよ。気軽にアスナって呼んでね。それと、わたしにも敬語はいらないわよ、サチさん」

「じゃあ、わたしのこともサチって呼んで?」

「うん分かった。これからよろしくね、サチ」

 

 フレンドリーに自己紹介を済ませた2人はニコリと微笑む。

 本来なら一度も出会うことは無かったはずの少女たちは、奇妙な縁によって親交を深めていくことになった。

 

 

 一通り話し合ってから十数分後。意見をまとめた結果、サチを守るために今回の出来事を公にしない事に決めた。その場合、同じようなクエストが発生してしまうという危険性が残ってしまうが、それは仕方ない。とりあえず、自分たちに害が及ばない限りは放置しておいたほうが得策だと判断した。

 

「元々GMで処理することだしナ」

「触らぬ神に祟り無しってヤツね」

 

 アルゴとフィリアの言うように、彼らが責任を負うことではない。厄介なことは責任を取るべき大人に任せて、自分たちはこのクエストをクリアするだけだ。

 サチという新たな仲間を連れて神殿に戻ってきた一行は、ユニコーンの角を使って巫女姫を救い出した。

 その際、自由を取り戻した彼女からお礼の品を2つ貰った。

 1つ目は、【ユニゾン・リング】というプライベート・ピクシー専用の装備品で、ユイを所有しているキリトに送られた。それは、プライベート・ピクシー所有者の能力を1日1回、限られた時間内だけ3倍にすることができるユニークアイテムだった。ぶっちゃけるとトランザムである。使用制限はあるものの、上手く使えば大いに役立つ代物だ。

 そして2つ目は、イベントアイテムだと思っていた【ユニコーンの角】だった。巫女姫の治療で力を使い果たしたそれは、復活した彼女の祈りによって強力な武器素材として蘇った。

 

「役目を果たしたユニコーンの角は、レプラコーンの技をもって新たな可能性に目覚めます」

 

 巫女姫はそう言うと、所有者となるユウキに微笑みかけた。

 このユニコーンの角を武器にすれば伝説級武器(レジェンダリーウェポン)に匹敵する片手直剣となる。HP・MPのリジェネ能力に加えて状態変化耐性までアップするので、こちらもチートアイテムだった。

 

 

 何はともあれ、すべてのイベントを終えたみんなは、巫女姫の力で元の森へと戻ってきた。様々な想いを胸に抱きながら。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 キリトたちは、ユグドラシルシティに戻ってきてから親しい仲間たちに連絡した。新たに加わった仲間を紹介したいから自分たちの部屋に来て欲しいと。

 この時、自分の店にいたリズベットは、メールの内容を読んですぐさま出かけることにした。

 新たな仲間は女の子。そのことを知った途端に彼女は思った。

 

「どうせまたキリトが引っ掛けたんでしょーね……」

 

 話も聞かずにあらぬ濡れ衣を着せる。決め付けるのはどうかと思うが、それなりに前科があるのだから仕方ない。自分も彼に心を奪われた1人なので、たまには文句の一つも言いたくなる。

 

「まぁ、賑やかになるのはいいことかな」

 

 我ながら物分りが良すぎかなと思いながらも、軽い足取りで歩みを進める。基本的に気の良い彼女は、新しい友人との出会いを純粋に楽しんでいた。

 ただ、一つだけ不安なこともあったが。

 

「女の子と聞けば、まず間違いなくアイツが暴走するわね」

 

 リズベットは、女好きなあの男を思い浮かべて苦笑した。すると、彼女の前方にある十字路から当の本人が現れた。例のメールを読んでやって来たクラインである。普段から締まりの無い顔だが、今日は一段とにやけている。

 

「なるほど……アレは今、こう思ってる表情ね」

 

 『コンチクショー、またしてもキリの字がフラグ建てやがったー! やっぱ顔か? 顔なのか? 野武士じゃイケメンには敵わないというのかー!? しかし、今のヤツは恋人持ち。いくら好かれようとも浮気はすまい。ならば、俺にも好機はあるはず!』と。

 

「ほんと、アンタも懲りないわねぇ」

「いきなり何のことだよ!?」

 

 合流して早々に呆れた声をかけられて慌てるクライン。ちょっぴり可哀想な感じもするけど、リズベットの想像は当たっているので問題は無い。

 

「いい? 出会って早々に言い寄ったら、アンタのことをマダオって呼ぶわよ?」

「そんな殺生な!? そんくらいいいじゃんかよう! せっかくの出会いを素敵に演出したっていいじゃんかよう!」

 

 何だかんだと言い合いながらも新たな仲間に思いを馳せる。果たして、どんな少女が待っているのか。独り者のクラインとしては、浮かれずにはいられない。

 しかし、彼らの想像は的外れだった。実際にサチと会ってその過ちに気づいた時、クラインは己の愚かさに悶えることになる。とはいえそれは、どうでもいい話であった。

 

 

 その道中、クラインたちとすれ違った6人組のパーティがいた。彼らは熱心にアインクラッドの攻略について話し合っていたため、2人に気を止めることもなくそのまま通り過ぎていく。だが、もっとも近くにいたウンディーネの女性は、何かに気づいたように足を止めて振り返る。

 

「あれ?」

「ん? どうしたの?」

「ええ……今すれ違った男性とどこかで会ったことがあるような気がして……」

「えーっと、あのバンダナ巻いたヤツと? 顔は見えないけど……もしかして一目惚れしたとか?」

「そういうことではありません」

「ははは、何もそんなに真顔で答えなくてもいいじゃん……」

 

 ウンディーネの女性を茶化したスプリガンの女性は、冷たい視線を向けられてしまう。

 

「ほんと、シウネーはお堅いねー」

「道理をわきまえているだけです。特に、恋愛に関する発言は気をつかうべきですよ」

「へいへい、分かりましたよー」

 

 優しく窘められたスプリガンの女性は、少し拗ねたような口調で答える。

 そんな彼女に苦笑しながら、シウネーと呼ばれた女性は考える。

 

「(一目惚れではないけど、こんなにも心惹かれるのは何故でしょうか……)」

 

 野武士のような男性を見た瞬間に、とても大切な存在を思い出したような気がした。

 あれは一体何だったのか。当然のように疑問を感じたものの、今の彼女には理解不能だった。

 それに今は、考えている時間も無い。先に行ってしまった仲間たちが手招きしている。

 

「おーいシウネー。みんなが待ってるぞー」

「あっ、はい!」

 

 しばらく考え込んでいたシウネーは、スプリガンの女性に促されて再び歩き出す。

 偶然起きた邂逅は、こうして静かに幕を閉じた。




次回から新章が始まります。
これまでよりも短めで、シノンとユウキたちの出会いを描く予定です。
ただ、内容がほとんどまとまっていないため、更新が遅れる可能性が高いです。
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