ソードアート・オンライン アイとユウキのセカイ 作:カレー大好き
ゲームの描写は一切ありませんが、これでもSAOなんだぜ。
2025年9月15日、月曜日。敬老の日のおかげで連休となった今日は、昨日に引き続いて快晴となった。相変わらずの厳しい残暑が厄介だったが、若い学生たちはそれぞれの自由時間を満喫しようと行動を始める。もちろん詩乃もその中の1人だ。へカートIIという相棒を得て気持ちよく朝を迎えられた彼女は、遅めの朝食を取りながら今日の予定を考えていた。
そうだ、久しぶりに良い気分だから、少し遠出をしてみようか。先ほどテレビでやっていた運勢も結構良かったし、切欠としては十分だろう。
「まぁ、『素敵な出会いがある』ってのは無いと思うけどね」
ありふれた確率論などで一喜一憂するほど純粋ではない。とはいえ、頭から否定するほど捻くれてもいない。特に今日は信じてみたい気分なので、肯定的に受け入れられる。
「よし、行こう」
自分の直感を信じた詩乃は、外へ出かけることにした。ただ、彼女がその気になったのは前向きな理由だけではない。今住んでいる街に良い思い出が無いため、時々遠出をしては鬱憤を晴らしているという経緯もあった。
「久しぶりに渋谷にでも行ってみようかな」
詩乃も年頃の乙女なので、それなりにオシャレには興味がある。小遣いは多いほうではないから余計な買い物は出来ないが、ウィンドウショッピングだけでも十分気晴らしになる。とにかく今は、自分の過去を知っている人間と出会わないことが重要だった。
こうして詩乃は気分の赴くまま出かけることにしたのだが、実を言うと本来の歴史ではアパートから一歩も出ないはずだった。しかし、別世界の木綿季によって送られた因果が、仲間を求める詩乃の想いと合わさり、彼女の運命に少しだけ変化をもたらした。別世界で生まれた2人の絆が、本来有り得なかった縁を引き寄せることになったのである。
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一方、紺野姉妹と宗太郎は、デート場所に秋葉原を選んで元気よく遊び回っていた。今日は休日ということもあってか人が多い。世界的に有名なこの街は、2025年になった現在もサブカルチャーの聖地として華やかな賑わいを見せていた。
そんな街で素敵なサムシングを求めていた3人は、気まぐれに入店した猫カフェを楽しんで大いに満足していた。
「いやぁ、猫カフェがあんなにいいものだとは思わなかったな」
「うん。ボクの『モフりたいゲージ』も十分に回復できたよ!」
「わたしはもっとモフモフしたかったけどね」
「実は俺も、猫耳美少女の柔肌で、もっとパフパフしたかったぞ!」
「そんなお店じゃなかったでしょ!?」
公共の往来でイケナイことを言い出した宗太郎に藍子がつっこむ。どうやら彼は、妄想の中で雌猫を擬人化していたらしい。
「そういえば、この前アルゴがALOで猫耳になれる装備があるって言ってたけど、それを手に入れればニャンニャンプレイも夢ではないな!」
「その話まだ続けるんだ……」
「でも、面白そうだね。ソウ兄ちゃんが望むんだったら、ボクが猫耳を付けてあげるニャン!」
「えっ!? だったらわたしも猫耳ゲットするよ?」
「ふっ、可愛い小猫ちゃんたちだ。今からその時を楽しみにしているぞ」
宗太郎は、自身の両腕に抱きついてきた美少女姉妹に笑みを浮かべる。まったく俺の幼馴染は最高だぜ。ハピネスに満たされた彼は、周囲から突き刺さる嫉妬の視線すら心地良く受け入れる。
とはいえ、安易に敵を作るのは得策ではないので、さっさと場所を変える事にする。
「よし。今度は和人に送る祝いの品でも見に行くか」
「えっ、祝いの品?」
「それってバイクの免許を取ったお祝い?」
「ああそうだ。あの野郎、ただでさえモテ要素満載なのに、バイクまで乗りこなしやがってさぁ。イケメン芸能人が本業以外でも活躍するくらい鼻持ちならないよね?」
「その点はソウ兄ちゃんも同類だけどね……」
自分のことを棚に上げて文句を言う宗太郎。その言動からはお祝いする気など微塵も感じられない。まぁ、夏休み中に普通二輪免許を取った和人は、休日を利用して明日奈とのツーリングを楽しんでいる真っ最中なので、彼のやっかみも納得できるところではある。
何にしても、この後ダイシー・カフェで彼らと落ち合う予定になっているから、面白アイテムを用意して適当にからかうつもりだった。
「せっかくだから、猫耳カチューシャでも買っていって、明日奈とニャンニャンプレイ出来るようにしてやろう」
「少しだけ面白そうだけど止めといたほうがいいかもよ?」
「明日奈さんが暴れ……困っちゃうからね」
やたらと猫耳にこだわりだした宗太郎を窘めつつ、明日奈の災難を予想して苦笑してしまう紺野姉妹であった。
そんなこんなで買い物を済ませた3人は、山手線に乗って御徒町駅で下車し、厳しい残暑に耐えながらダイシー・カフェにやって来た。
店の前を見ると、1台の青いバイクが違法駐車してある。あれが和人の愛車、ヤマハDT125Rだ。免許を取ったのは通学に使うためだと言っていたが、早速デートにも利用しているのだから、彼も年頃の男子だったというところか。恐らくは、豊満な明日奈の胸を背中で感じてニヤニヤしていたことだろう。
「はっ、これ見よがしに駐車しやがって。さりげなく自慢のつもりですかぁ? しかも今時MTとか、一体どんなアピールだよ。そこは普通にATでいいじゃん。ボトムズのアーマードトルーパーみたいでカッコイイじゃん。つーか、そんなに手動でギア変えたいんなら、ロードバイクに乗れってんだ。ラブ☆ヒメ歌いながらケイデンスでも鍛えてろっつーんだ、コノヤロー」
「なんかすっごい荒んでるけど、ほんとは羨ましいのかな?」
「たぶんそうね。嫉妬心が露骨に出ているもの」
紺野姉妹は宗太郎の本心をあっさり見抜いた。車好きな彼は『自動車免許だけで十分じゃ』といきがっていたのだが、和人たちのデート模様を想像しているうちに羨ましくなったのである。
しかし、炎天下に晒された場所でグチられても困る。少女たちは涼しさと冷たいスイーツを求めていた。
「そんなことより早く中に入ろうよ。ボクの『甘い物食べたいゲージ』が限界点を超えそうだよ」
「わたしも早く涼しみたいよ」
「それもそうだな。乙女の汗は美しいが、その柔肌を傷つけるわけにはいかない」
そう言って藍子の顔にハンカチを当ると、優しい手つきで拭いてあげる。ついさきほどまでおバカな言いがかりをつけていた男とは思えない紳士的な行動である。
「あ、ありがとう。ソウ君」
「どういたしまして、お嬢さん」
「あー! ボクもやってよ、ソウ兄ちゃん!」
「もちろんいいとも。ほら、こっち来な」
「うん!」
宗太郎の返事に元気良く答えた木綿季は、彼の腕に掴まって来る。彼女の汗ばんだ肌が直に触れて少しだけドキリとしたが、それを表に出すことなく汗を拭いてやる。
こんな感じで、こちらも十分にイチャつきながら仲良く入店するのだった。
「こんちはー!」
「おう、いらっしゃい」
勝手知ったるダイシー・カフェに入ると、いつものようにいかつい顔のエギルが迎えてくれた。それに続いて、カウンター席にいる和人と明日奈も挨拶してくる。
「よう」
「こんにちは」
「けっ、熱々カップルのせいで店の中まで暑苦しいぜ、コンチクショウ」
「いきなり荒んでるわね……」
「そういう年頃なんだよ」
バイクデートが上手くいったらしい2人を妬んで八つ当たりする宗太郎。お前だって両手に花だろと和人は思ったが、思慮の無い子供のように言い返したりはしない。なぜならこの場に娘がいるからだ。
『みなさん待っていましたよ~』
「遅くなってゴメンね、ユイちゃん」
和人たちの前に置かれたノートパソコンから可愛らしい声が聞こえてきた。その声はユイのもので、和人の家からネットワークを経由してこちらの会話に参加していた。
しかも、ユイのとなりにはサチもいた。彼女もまた宗太郎の手によって藍子の持っているパソコンに引っ越しており、ユイお姉ちゃんの部屋に遊びに来ている最中だった。
『ねぇ、藍子ママ。デートはどうだった?』
「うん、とっても楽しかったよ。猫カフェにも行けたし」
「そりゃーもうモフモフ天国だったよ!」
『あー、いいなー。わたしもモフモフしたいなー』
サチは新たな家族となった紺野姉妹と仲良く会話する。例のクエストの後にアルゴとフィリアを交えて話し合った結果、藍子と木綿季が彼女のママということになり、一応の決着がついた。無論、パパは宗太郎である。
そんな感じで色々とすったもんだがあったものの、危惧していた問題は一つも起こらず、すっかり落ち着いたユイとサチは、現実でも活動できる環境を手に入れていた。
そのシステムは、須郷の事件が解決した後に和人が作りあげたものだ。
ザ・シードを使って自宅のPC内に簡易VRシステムを構築し、そこにアミュスフィア内のユイをコピーして、そっちを本体とすることにした。その結果、自由にネットを使えるようになり、藍子のパソコンにいるサチと仲良く遊ぶことも可能となった。
ちなみに、ALOをプレイする際は、アミュスフィアのストレージにいる【自分】とリンクして記憶と意識を共有化することで対応している。また、限定的なシステムアクセス権を有しているおかげで、アミュスフィアの電源が入っていればプレイヤーがいなくてもゲーム内で活動できる特技を持っている。はっきりいって、オーパーツみたいな存在である。
「(改めて考えると、すごい不自然なんだよな)」
紺野姉妹と会話を楽しむ幼女たちを見て宗太郎は考え込む。ユイたちの思考はあまりにも人間的であり、ゲーム用のAIとしては完成度が高すぎる。いくら茅場晶彦が凝り性だったとしても、システムの末端に過ぎないAIをここまで作りこむとは思えない。実際、他のVRゲームではMHCPの能力は不必要なのだから、生みの親である彼も当然想定できていたはずだ。
ならば、別の理由で作る必要があったと思われる。
「(恐らくそこに奴らの狙いがあるはず……)」
この間の件を切っ掛けにMHCPについて調べ始めた宗太郎は、うっすらと気づき始めていた。ホロウ・エリアを使って暗躍しているらしい者たちの狙いが、彼女たちのような高性能AIにあるのではないかと。
もちろん現時点では何の根拠もない推論に過ぎないが、大筋で当たっていた。
今より数年前。自衛隊からAI製作の依頼を受けた茅場は、こう提案した。高度なAIを作るにはVRマシンによる特殊な環境が必要だと。AIの進化を促すには、多数の人間から発せられる様々な感情を学習させ、人工の心に【恐怖と愛情】を自覚させる必要があるのだと説き伏せたのである。死に対する恐れと命を育む愛情を手に入れられれば、AIと人間の思考に距離は無くなる。
そのための検証用データとして特殊なAIを数体作り、その一つをSAOに実装した。それこそがユイだった。実を言うと彼女は、自衛隊を騙すためのエサとして用意されたものだった。だからこそ茅場は、彼女をほったらかしにしていた。彼にとっては興味の対象外だったのである。
ただ、自衛隊の目を完璧に誤魔化すためにユイの製作は本気でおこなわれていた。密かに開発を進めていたソウル・トランスレーターの機能を参考に、読み取ったプレイヤーの感情を適確に電子化し、学習する能力を備えていたのである。そうすることでAIに過負荷をかけて思考パターンのブレイクスルーを計り、自我の発現を促す。SAOでプレイヤーの感情をモニタリングし続けたユイが自らの意思でシステムから外れた行動をおこなったのはそのためだ。
デスゲーム開始後は余計なイレギュラー要素を減らすためにプレイヤーと接触することを禁止していたが、それが本来の想定を超える結果に繋がった。
実を言うとその点だけは誤算だった。キリトとアスナの間に紡がれた絆が茅場の想定以上に強い影響を及ぼし、ユイの誕生を早めたのである。青春真っ只中の少年と少女が恋をして、それを見ていたAIが愛を知って人間になり、必然的に出会うことになった3人はごく自然に家族となった。それは、本当に素晴らしい誤算であった。
ただ、結論を言ってしまうと、そう出来るように作られていただけだった。彼女をシステムから切り離せたのも元々そういう仕様だったからであり、茅場の与えた慈悲でも和人の起こした奇跡でもない。彼女は最初から、自律稼動して人類を殺せる能力を持った【新人類】として生まれるべく設計されていたのだ。皮肉なことに、愛を知って生まれた彼女は、【人殺しの道具】として運用するべく発明された存在だった。自衛隊は、無人兵器に搭載する高性能AIを求めていたのである。
しかし、AIをそのように使う日が本当に来るのかは今のところ不明だ。少なくとも、心優しい少女として自我に目覚めたユイとサチは、人を傷つけるようなことはしないだろう。自分の居場所を得て幸せ一杯な彼女たちにとっては、MHCPが生まれた経緯などもはや関係なかった。
そしてそれは、2人を家族として迎え入れた和人たちにとっても同様だ。そんなどうにもならないことで悩むよりも恋について悩んでいるほうが有意義だと、生きる喜びを知った若者たちは無意識の内に理解していた。
その意思は、彼らの楽しそうな会話で十分に伝わってくる。
「どうだ和人。俺の買ってきた猫耳は?」
「いや、どうだと言われても、これをどうしろというんだ?」
「欲望の赴くまま、明日奈の頭部にパイルダーオンすればいい。そして、めくるめくニャンニャンプレイを――」
「やらないわよ!?」
「そ、そうだよな、うん。そんなことするわけないだろ……」
「とか言って、なんか残念そうだよね?」
「和人さんも男だからね……」
ちょっぴり内容はアレだけど、平和に過ごせているのならそれでよしである。
ただし、幼女に聞かせるにはアレすぎたが。
『ねぇサッちゃん、ニャンニャンプレイってどんな遊びなんでしょうね?』
『えっ!? そ、それはその……えっと……』
可愛らしい(?)ユイの質問によって窮地に立たされるサチ。やっぱり、子供の前で不適切な会話をしてはいけないようだ。
それに、喫茶店の主にとっては営業妨害みたいなモンだし。
「どうでもいいけど、とりあえず何か注文してくれよ……」
1人背景に溶け込んでいたエギルがぽつりとつぶやく。しかし、大いに盛り上がっているみんなが彼に気を向けるのはもう少し後になりそうだった。
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それから数時間後。遅めの昼食を取りながら休日の午後を楽しんだ一行は、食後のデザートを堪能した後にプチオフ会をお開きにした。
「じゃあなエギル。次のバトルを楽しみにしてるぜ」
「ああ。その時にはアイツを実戦投入するから覚悟しとけよ?」
別れ際に宗太郎とエギルが言葉を交わす。彼らが言っているのは、ALOではなくGBOのことだ。
ガンダム好きな宗太郎は、SAOにいた時に同志を集めて場違いな雑談サークルを作っていたのだが、そのメンバーには、キリト、エギル、クラインといったお馴染みの面々も混じっていた。実を言うと、こちらの世界はガンダム人気が高く、ゲームをやっている男性の20%以上はガンプラ製作の経験があった。
そして、和人や木綿季たちに影響された明日奈もまたGBOデビューを果たしていた。ガンプラ経験の無い彼女の機体は和人が用意しているが、操縦技術はエースレベルだ。
「明日奈たちの新しい機体も楽しみにしてるよ」
「和人君が傑作だって言ってるから相当すごいよ?」
「それでもボクたちが勝つけどね」
「ふふっ、それでこそ、わたしのライバルよ」
明日奈はそう言うと、目の前にいる木綿季を抱きしめる。姉貴分が様になってきた最近は、派手なスキンシップも自然になってきた。
「にゅふふ~、やっぱり明日奈のオッパイは最高だよ」
「もう、宗太郎君みたいなこと言わないの」
「失敬な! 俺はそんなにオッパイオッパイ言っていないぞ!」
「否定しながら連呼してるけどな」
宗太郎の定番エロネタに和人のツッコミが入る。
とまぁ、最後は結局おバカなやり取りで締めることになるのだが、なんやかんやで休日を楽しめたみんなは十分に満足していた。
宗太郎たちは、バイクに乗って帰っていく和人と明日奈を見送った後に最寄の駅へと向かった。再び暴力的な暑さに耐えなければならなかったが、こればかりは仕方ない。
「うにゃ~、ちょ~暑いよぅ~。にょろにょろにトロけちゃうよぅ~」
「今は耐えるんだ、木綿季。そのうちシャアっぽい人が現れて、この世の歪みを正すために隕石を落としてくれるから」
「なるほど、核の冬が来るんだね!」
「寒くなって人が住めなくなるでしょ、ソレ!」
気が滅入るのような暑さをマニアックな会話で誤魔化す。こういう時は、楽しんだ者勝ちなのよね。
ただし、それでも暑いことには変わりないので、家路を急ぐことにする。
早足で御徒町駅までやって来た一行は、さっさと切符を買うと、改札口へ向かう。
「次の電車がもうすぐ来るよ!」
電光掲示板で到着時刻を確認した木綿季は、後ろを歩いている宗太郎たちに振り返った。それは、なんてことないよくある行動だった。しかし、この時に少しの間だけ余所見をしたことが、詩乃との出会いをもたらすことになる。後ろを向きながら歩いていた木綿季が、改札口の方向から駆けてきた詩乃とぶつかってしまったのである。
ドンッ!
「うわぁ!?」
「きゃっ!?」
予期せぬ衝撃を受けた木綿季は、姿勢を崩してよろけてしまう。幸いながら転ばずに済んだが、すぐに自分の失態を悟り、ぶつかってしまった人に謝ろうとする。
だが、その女性を見た瞬間に、木綿季は更なるショックを受けることになる。
「ご、ごめんなさいっ……?」
木綿季は、自分のそばで焦ったような表情をしている少女――朝田詩乃を見てハッとなった。眼鏡をかけたこの女性は、自分と関係がある。顔に見覚えは無いが、どこかで会った事がある気がする。そう思えて仕方が無かった。
その瞬間、木綿季の脳裏に水色の髪をした猫耳少女の姿がよぎった。
「(これは……ALOのアバター?)」
刹那の間、弓を構えたケットシーの少女が見えた気がした。それと同時に、アスナたちと出会った時に感じた親しみが湧き上がってくる。
この感覚はもしや……。
「あ、あのっ」
自分でもよく分からない不思議な予感に突き動かされた木綿季は、思わず声をかけようとした。しかし、急に険しい顔になった詩乃が彼女の言葉を遮る。
「ごめん、先急ぐから!」
「えっ!? ちょっ!」
そう言うと、詩乃はすぐさま駆け出した。その場に取り残された木綿季は、事態が飲み込めずに呆然となってしまう。
しかし、詩乃が不自然な行動をした原因はすぐに分かる。理由は分からないが、彼女を追いかける者たちが現れたからだ。
「邪魔なんだよ!」
「うきゃー!?」
ぼうっとしながら遠ざかっていく詩乃を見ていた木綿季は、後ろから駆けてきた、いかにも素行が悪そうな少女に突き飛ばされてしまった。体重の軽い彼女は簡単に弾き飛ばされ、派手に転びそうになったが、慌てて駆け込んできた宗太郎に抱きとめられる。
「ええい、秩序を乱す物の怪め!」
「あっ、ソウ兄ちゃん……」
優しく抱きしめられて思わず頬を赤らめてしまう。とはいえ今は、甘いひと時を堪能している場合ではない。
さきほど通り過ぎていった3人組は、その前に木綿季とぶつかった少女を追いかけているように見える。その状況は、誰が見ても良くないことが起きていると分かる。
「ねぇ、ソウ君。もしかして今の人たち、悪いことしてるんじゃ……」
「ああ。恐らく、あの黒い三連星は、さっきの眼鏡美少女に何らかの危害を加える気だろう」
「そんな!?」
2人の会話を聞いた途端、木綿季は走り出した。あの女性が探していた仲間かもしれないと思ったら、つい身体が動いてしまった。この機会を逃したらもう二度と会えないかもしれないのだ。たとえ相手がジェットストリームアタックの使い手だとしても逃げるわけにはいかない。
「まったく、無鉄砲なお嬢さんだ」
「ソウ兄ちゃん!」
「だけど、木綿季らしいかな」
「姉ちゃん!」
木綿季の両隣に宗太郎と藍子が並走してくる。彼女の気持ちを汲んで協力することにしたのだ。この手の厄介ごとに迂闊に関わるのは危険なのだが、こうなった以上は放っておけない。これも可愛い妹のためだ。
「いいか2人とも。黒い三連星は俺が相手するから、お前たちは手出しするなよ!」
「「うん!」」
上手く立ち回れなかった場合は事態を悪化させかねないので、最低限の対策は施しておく。とはいえ、相手はそれほどヤバそうではなかったから、話し合いで何とかなる……と思う。
「ふはははは! SAOを生き抜いた俺様の実力をなめるニャよ、小娘ども!」
「そんな可愛らしい喋り方してたらなめられるかもね」
意気込みすぎて思わず噛んでしまった宗太郎に木綿季のツッコミが入る。
そんな感じで緊張感を和らげつつ、暮れゆく街を駆けて行く。
「絶対に助けて、あのことを確かめなきゃ!」
彼女が例のイメージに出てくる幻の仲間なのか、どうしても確認したい。ゲーム内で会わなければ確証が得られないかもしれないけど、話だけでもしてみたい。そう強く思った木綿季は、見失いそうな距離にいる詩乃たちを懸命に追いかけるのだった。
次回は、黒い三連星(不良少女)を踏み台にして詩乃と接触します。
メガネっ娘な彼女はツッコミ役が良く似合いそうです。