ソードアート・オンライン アイとユウキのセカイ 作:カレー大好き
自分で作っておいてなんだけど、どうしてこうなった!
木綿季たちの尽力もあって、詩乃のパニック発作は無事に治まった。汚れてしまった服も出来る限りふき取ってあるので、表通りに出ても問題は無いだろう。もちろん、精神的なダメージは残っているが、今の詩乃にはそれ以上の癒しがあった。
不思議なシンパシーを感じる木綿季の存在が、傷ついた詩乃に力を与えてくれるようだった。
「ふぅ……」
ようやく落ち着きを取り戻した詩乃は、宗太郎が買ってきた水を飲んで一息つく。
「どうかなお姉さん? もう大丈夫そう?」
「うん……助けてくれてありがとう」
「えへへ~、このくらいどうってことないよ」
「わたしたちがやりたくてやったことですから」
詩乃にお礼を言われた紺野姉妹は、照れながら謙遜する。特に木綿季は別の目的もあったから素直に受け取れない。詩乃と話して【幻の仲間】かどうかを確かめたかったのだ。
その結論はまだ出ていないが、改めて言葉を交わしてみて可能性が高いことは実感できた。
「(やっぱり、アスナたちと同じような感じがする。でも、どうやって話を進めようかな……)」
流石に初対面で『あなたと仲間になっているイメージが浮かんだ』なんてファンタジーなことを言い出すわけにはいかないだろう。
それに今は、先にやらなければならないことがある。あの不良少女たちに罰を与えるための手続きだ。
詩乃の状態を観察していた宗太郎は、頃合を見計らって話を持ちかける。
「ちょっといいかな、お嬢さん?」
「……なに?」
「酷い目にあったばかりで何だが、すぐに被害届を出すべきだと思う。俺たちが証人になるから、最寄の交番まで一緒に行こう」
「そうだよ、お姉さん! あの黒い三連星をギャフンと言わせてやらなきゃ!」
「……黒い三連星?」
木綿季の口から飛び出たおかしな単語に首を傾げる。そういえば、最初に来た彼もそんなことを言っていたような気がするけど……どうやら、あの3人組につけたあだ名らしい。言葉の意味が分かった詩乃は、面白いネーミングだと感心する。
ただ、警察に行くという意見は賛成できなかった。以前、通報した際に事態を悪化させてしまったという事情もあるが、それだけではない。銃に対するトラウマを乗り越えなければ、何をやっても意味が無いと悲観しているからだ。人を殺したという事実が変わらない以上、あいつらを排除しても、詩乃の苦しみは終わらないのである。
「……申し訳ないけど、警察には知らせなくてもいいわ」
「えっ、なんで?」
「もしかして、報復を恐れているのか?」
「そうね……そんなところよ。あいつらは、やたらとしつこいから。構うだけ無駄なの」
「でも、このままじゃダメだよ!」
「そうですよ。せめて、身近にいる大人には知らせておくべきだと思います」
「うん……。確かに、そうしたほうがいいんだろうけど……ごめんなさい。これは、わたし自身で解決すべきことだから」
自分のことを本気で心配してくれる木綿季たちに申し訳なくなった詩乃は、心の底から謝る。この2人に嘘をつきたくはなかったが、本当の事を言うわけにはいかない。好意を抱いているからこそ、人を殺したことがあるなんて絶対に知られたくなかった。
「(彼にはすでに知られてしまっているけど……)」
詩乃は、戸惑いと恐れを含んだ視線を宗太郎に向ける。不良少女から真実を聞いた彼が自分のことをどう思っているのか分からず、不安を隠し切れないのである。
自分の汚れた手を握ってもらえた瞬間、詩乃の心に暖かな温もりが伝わった。その時に感じた喜びを簡単に失いたくない。だからこそ、嫌われたくないと思ってしまう。
「(って、何考えてるんだろ、わたし……)」
ふと我に返って落ち込む。他人の優しさを求めるなど、ストイックに強さを求める今の詩乃にとっては受け入れ難い欲求だ。弱みを見せることが出来ない以上、本心を封じ込めたまま静かに耐えるしかなかった。
そんな彼女から送られてくる意味ありげな視線に気づいた宗太郎は、先ほど聞いた不良少女のセリフを思い出す。
「(人殺しか……)」
パニックに陥るほどのトラウマになっているということは、正当防衛で強盗犯を撃ち殺してしまったという話は真実なのだろう。
それでも、目の前にいる少女を嫌悪する気にはならないし、恐れることも無い。なぜなら、彼女は、キリトと同じだからだ。2人はただ、自分の命を守るという当たり前の権利を行使したに過ぎない。たとえ、彼らに殺意があったとしても、同じ立場を経験していない第三者が批評できるものではない。
そもそも、法の許しを得ているのだから、ありのままを受け入れるまでだ。
「分かった。君の意思を尊重して、この件には一切干渉しないことを誓おう」
「っ……ありがとう」
「ちょ、ソウ兄ちゃん!?」
「本当にそれでいいの?」
「確かによろしくはないけど、こういうことは当事者の事情を優先すべきだろ? 第三者の俺たちが、すべての責任を取れるわけじゃないんだからさ」
「う、うん……」
そう言われては反論できない。詳しい事情を知らない自分たちが勝手に動いたら、事態を悪化させてしまう可能性がある。初対面で知り合ったばかりの間柄ではこれが限界だった。
しかし、友達だったら話は別だ。彼女と友達になれれば、もっと力になってあげることが出来る。詩乃と仲良くなりたいという木綿季の気持ちを理解していた宗太郎は、そのためのきっかけを作ることにした。
「そんなわけで、さっきのことは保留にするけど、その代わりに君を家まで送らせてくれないか?」
「え……」
「そのくらいはしておかないと、こちらも落ち着かないんでね」
「そうだよ、お姉さんを無事に送り届けなきゃ心配で帰れないよ!」
「でも、あなたたちに迷惑かけちゃうから……」
「大丈夫。ボクたち、ちょーヒマ人だから、遠慮なんて無用だよ!」
「そういうことですので、わたしたちのことは気にせずに同行させてください」
「………………うん、分かったわ」
可愛らしい姉妹に説得された詩乃は、アパートまでの同行を承諾する。少し話しただけでも信用できる人たちだと分かるし、彼女自身も一緒にいたいと感じたからだ。初対面だから無理は出来ないけど、もう少しだけ話してみたい。そんな気持ちが詩乃を動かす。
「それじゃあ……アパートまでよろしく」
「うむ、この私に任せておきたまえ。ヒロインの護衛役、見事完遂して見せよう!」
「……ヒロインって、わたしのこと?」
「そうだとも! 君は私のプリマドンナ! 演舞が終わるその時まで、エスコートをさせてもらおう!」
「は、はぁ……」
そこはかとなく怪しい気もするけど、とりあえず自分の直感を信じることにしよう。
袋小路を出た4人は、オレンジ色に染まり始めた街の中をそろって歩き出した。ここから少し離れた場所にあるアパートまで詩乃を送り届けることが目的だ。
詩乃の反応から考えると、さっきの不良少女たちがすぐに仕返しをしてくるとは思えないが、念のために注意を払う。
ただしそれは宗太郎だけで、詩乃と仲良くなりたい木綿季は、普段の調子で話しかける。
「それじゃあ、自己紹介するね。ボクの名前は紺野木綿季。気軽にユウキって呼んでね」
「分かったわ、ユウキ」
「わたしは姉の藍子です。妹と同様に呼び捨てで構いません」
「うん。よろしくね、アイコ」
楽しそうに自己紹介された詩乃は、人懐っこい姉妹に好感を抱く。初対面なはずなのに、親しい友人と一緒にいるような気分になってしまう。
その事実に若干の引っかかりを覚えつつ、最後に名乗ることになった宗太郎に視線を向ける。
「初めましてフロイライン。俺の名前は松永宗太郎。乙女座のカレー愛好者だ。以後、お見知りおきを」
「……え? あなたの名前は、グラハム・エーカーじゃないの?」
「それは、未来に転生した俺の名だ。ゆえに偽名などではない。そこのところを理解してくれたまえ」
「未来に転生?」
「え~っと……ソウ兄ちゃんは、ちょっとだけ中二病にかかっちゃってる人なんだ」
「はぁ……そうなんだ」
良い人だと思っていた少年は、予想外の方向に変なヤツだった。未知との遭遇を前にして、本当にこんな人がいるんだと、奇妙な感動をしてしまう詩乃であった。
「ところで、その……お姉さんの名前を聞いてもいいかな?」
「あ、うん……わたしの名前は朝田詩乃よ」
「ふむふむ、シノさんかぁ……」
木綿季は、ようやく聞き出せた名前をつぶやいてみた。最初に聞いた瞬間は例のイメージと合わない気がしたが、心の中で反芻しているうちにしっくりと来る言葉が浮かぶ。
「それじゃあ、シノンって呼んでもいいかな?」
「えっ」
思わぬところで自分のアバター名を聞いた詩乃は小さく驚いた。簡単に思いつける名前とはいえ、出会ったばかりの人物から聞かされるなんて思いもしなかった。
でも、その方がしっくり来る気がする。なぜかは分からないけど、そう呼ばれたほうが自然な気がする。
「あっ、ゴメンなさい。いきなり馴れ馴れしくしちゃって……」
「ううん、別に気にして無いわ。VRMMOで使ってるアバター名と同じだったから、ちょっとビックリしただけよ」
「えっ、そうなの?」
「まぁ、安直な名前だから、言い当てられても不思議じゃないんだけどね」
「でも、詩乃さんにピッタリの可愛らしい名前だよ!」
「ふふっ、そんなに気に入ってくれたのなら、シノンって呼んでよ」
「うん。ありがとう、シノン!」
詩乃から良い返事を聞けた木綿季はニコリと微笑む。つい熱を入れすぎて失礼なことをしてしまったが、結果的に仲を深めることができた。
しかも、聞きたかった情報を手に入れる事も出来た。どうやら彼女は、こちらの想像通りにVRMMOをやっているらしい。後は、どんなタイトルのゲームをやっているかである。
「ってなわけで、早速シノンに質問があります!」
「なに?」
「ずばり聞くけど、シノンがやってるVRMMOって、ALOかな?」
「ううん、違うわ。わたしがやってるのは、ガンゲイル・オンラインっていうゲームよ」
「……ガンゲイル・オンライン?」
期待していた答えと違ったため、内心で途惑う。例のイメージではALOのアバターが見えたのに、実際に遊んでいるゲームはまったくの別物らしい。というか、聞いたことも無いタイトルだ。
「ねぇソウ君。どんなゲームか知ってる?」
「ああ。簡単に言えば、バーチャルなサバゲーだな。手持ちの銃火器でバンバン撃ち合う、シューティングゲームってところだ」
「へぇ、そんなのがあるんだー」
「(う~ん、やっぱりイメージと合わない……)」
宗太郎の補足説明を聞いてもしっくりこない。やはり、例のイメージとは無関係なようだ。
「(これはどういうことなの?)」
もしかしたら、詩乃は【幻の仲間】ではないのだろうか。アスナたちと同じ感じがするのは確かなので、思い違いをしているとは思えないけど……。
「まさか……ボクが異能に覚醒したせいで、歴史が改ざんされちゃったのかな!?」
「? ……ユウキは何を言ってるの?」
「恐らく、この暑さのせいで中二病が悪化してしまったのだろう。地球温暖化の影響は、いよいよ人間の思考領域にまで達してしまったようだ」
「何でそうなるのよ。っていうか、元凶はあなただと思うけどね……」
突然おかしなことを言い出した木綿季に驚く詩乃であったが、宗太郎の様子を見て納得する。ようするに、大好きなお兄ちゃんの影響を受けているのだろう。そう思った瞬間、彼らの関係が少しだけ羨ましくなった。
何はともあれ、すぐに打ち解けることが出来た一行は、穏やかに会話をしながら目的地へ到着した。
詩乃が住んでいるアパートは、小奇麗な2階建てだった。間取りは1Kで、1人暮らしに適した作りである。
「へぇ~。シノンって、1人暮らししてるのか~」
「ええそうよ。実家からだと不便だから、ここを借りてるの」
「高校に通いながら1人暮らしなんて、大変そうですね」
「ちょっとだけ憧れるけど、ボクにはムリかなー」
「そんなに難しいことじゃないわよ」
紺野姉妹からキラキラとした視線を向けられた詩乃は、柄にもなく照れてしまう。強盗事件のせいで地元から逃げ出してきた彼女にとって、この状況は自慢できることではないのだが、今はほとんど気にならない。別世界からもたらされた縁が、木綿季たちに対する親近感を増大させて、ネガティブな感情を弱めていくからだ。
それゆえに、もっと親密な関係になることを望んでしまうのは当然の流れだった。
「あ、あの……」
「ん? なにかな?」
「助けてくれたお礼がしたいから、その……部屋に上がっていかない?」
「えっ、いいの?」
「うん。冷たい飲み物くらいしか出せないけど、ゆっくり休んでいってよ」
このまま別れたくないと思った詩乃は、意外な提案をしてしまう。初対面の人たちを部屋に招くなんて本来なら絶対にしないことだが、彼女たちなら大丈夫だと思えた。やたらと親しみを感じる彼らと、友人のように接したかったのである。
「もちろん、無理にとは言わないけど……」
「ううん! ボクたちめっさヒマだから、よろこんで上がらせてもらうよ!」
当然異論などは無い。木綿季は、詩乃の提案に速攻で乗っかった。彼女もまた同じ心境だったからだ。
今はまだALOをやっていないようだけど、未来でやることになるのかもしれない。その可能性に気づいた木綿季は、ひとまず連絡を取り合えるようになっておこうと考えた。
「(よし、この機会にメアドを交換するぞ!)」
心の中で、好きな女子に近づこうとしている男子のようなことを考える。因果情報の影響を受けている木綿季は、無意識の内に詩乃との絆を守りたいと思っていた。
「でも、いいのかな? いきなりお邪魔なんかして」
「なに、家主がいいと言ってるんだから、大手を振って行けばいいさ。合法的に現役女子高生の部屋に入れるんだから、遠慮は無用だぜ?」
「あなただけは遠慮してもらいたくなったわ」
さらっと漏れた宗太郎の本音に少しだけ引いてしまう詩乃だったが、それほど嫌な感じはしなかったので、そのまま案内することにした。
☆★☆★☆★☆
電子錠を開けて部屋に入った詩乃は、素早く着替えを済ませた後に3人を招きいれた。
エアコンをつけたばかりの室内はまだ暑かったが、それほど広くないので、すぐに涼しくなってくる。
「はふぅ~、生き返るぅ~」
「コラ、木綿季~。あおぎすぎて、ブラが見えてるわよ~」
「え~、姉ちゃんだって丸見えじゃ~ん」
うっとうしい暑さから開放された紺野姉妹は、胸元を大胆に開いて涼しさを堪能する。汗ばんだ胸の谷間が年齢以上に色っぽく見えるけど、無防備なところは子供っぽい。
飲み物を持ってきた詩乃は、息の合ったやり取りをしている2人を見てクスリと笑う。
「二卵性の双子とか言ってたけど、結構似てるわね」
「ああそうだな。下着の趣味も、オッパイの成長具合も、実にソックリだ」
「そこじゃないわよ! っていうか、堂々と見すぎでしょ!」
さも当たり前のように2人の胸元を見ている宗太郎に、詩乃のつっこみが入る。しかし、セクハラ行為(?)を受けている当人たちは、まったく気にしていない。一緒に寝るくらい仲がいいので、下着を見られても、ちょっぴり恥ずかしい程度で済んでしまうのだ。そもそも、全裸姿を何度も見られているのだから今更である。
「(幼馴染とか言ってたけど、仲のいい兄妹みたい)」
やたらと親密な3人を見て、そんな感想を抱く。お兄さんの性格はアレだけど、孤独に苦しんでいる詩乃にとっては、非常に羨ましい関係だった。
そのようなやり取りをしている間に部屋の温度も快適になり、すっかり落ち着いた木綿季たちは、詩乃の部屋について語り始めた。
「それにしても綺麗な部屋だね。ボクの部屋とは大違いだよ」
「あなたがちゃんと片付けないからでしょ?」
2人は、仲のいい姉妹トークを楽しみながら辺りを観察する。
八畳ほどの広さがある室内はきちんと片付いており、あまり女子高生っぽくない、こざっぱりとしたインテリアで纏められている。ぬいぐるみなどのファンシーな物は一切無く、遊び道具もアミュスフィアぐらいしか見当たらない。
「シノンは物を飾ったりしないの?」
「うん。そういうのはあまり好きじゃないから。実家もこんな感じかな」
「ふぅん。ボクの部屋なんか、ぬいぐるみとガンプラで一杯だけどなー」
「……ガンプラ?」
木綿季と話していると、気になる単語が出て来た。語感から連想してモデルガンみたいなものかと思い、つい聞き返してしまう。
「ねぇ、ユウキ。ガンプラってなに?」
「あーそっか。普通の女子高生は知らないよね……。ほら、これがガンプラだよ」
木綿季は、詩乃の疑問に答えるため、手元にあるガンプラを取り出した。間の良いことに、今日のデートで宗太郎が買ったものがあったのだ。
それは、『狙撃できる機体がいるとチームのバランスが良くなるよね』という木綿季のアドバイスを受けて購入したもので、ボックスには、大型のスナイパーライフルを構えたグリーン色のロボットが描かれていた。
「っ!?」
銃の部分が目に入った瞬間、少しだけトラウマを刺激された。しかし、気分が悪くなるほどではない。写真や絵なら、ある程度は耐えられる。それでも表情は険しくなってしまうが、余計な心配をさせないようにそのまま話を続ける。
「……このおもちゃがガンプラなの?」
「うんそうだよ。ガンダムっていうアニメに出てくるロボットのプラモデルを、ガンプラって言うんだ」
「へぇ……」
木綿季の説明を聞きながら、リアルなタッチで描かれたボックスアートを見つめる。グリーンを基調としたカラーリングと装備している武装から、GGOで使っている自身のアバターを連想してしまう。
「(このライフル、少しだけへカートIIに似てる気がする……)」
そう思った途端に、奇妙な愛着が湧いてきた。昨日の今日で同じような銃を見ることになるなんて、偶然にしては出来すぎている気がしたからだ。
「このロボットの名前は、なんて言うの?」
「ガンダムデュナメスだよ」
「ちなみに、デュナメスとは
宗太郎の注釈を聞いて、ハッとなる。その天使は、今の自分にピッタリな存在ではないか。実際にデュナメスを持った木綿季たちが現れて、苦しむ自分に力を与えてくれたのだから、夢物語とも言い切れない。
その事実に気づいた瞬間、朝見た占いを思い出す。もしかすると、テレビの占いで言っていた『素敵な出会いがある』とは、このことだったのだろうか。
「(……きっと、そうなのかもしれない)」
紺野木綿季とガンダムデュナメス。不思議な運命を感じさせるこの出会いが、自分の未来を変えてくれるような気がする。オカルトの類を一切信じない詩乃であったが、今だけは小さな奇跡を信じてみようと思った。
「……」
「おっ、何かすっごい見入ってるけど、もしかして気に入った?」
「えっ……そうね。わたしも、GGOでスナイパータイプにしてるから、親しみを感じるかな」
「ほうほう、なるほど。それなら、GBOにもハマってくれそうだなー」
これまた聞き覚えの無い単語が出て来た。話の流れからするとゲームのタイトルらしいが、詳細は不明である。
「GBOって、このロボットが出てくるVRゲーム?」
「うん、そうだよ。ガンダムビルドファイターズ・オンラインっていうVRMMOがあるんだ」
「ふぅん……もしかして、アイコもやってるの?」
「はい。MSっていうロボットを操縦するので、VRMMOとしてはかなり特殊ですけど、スペースコロニーで生活したり、自前の船で宇宙旅行もできるから、SFの世界を存分に楽しめますよ?」
「生身で大気圏突入なんてこともできるしな」
「結局、燃え尽きちゃうけど、結構面白かったよね」
「へ、へぇ、そうなんだ……っていうか、とんでもない遊び方してるわね……」
3人の説明を聞いた詩乃は、GBOに対して興味が湧いてきた。アバター自身ではなく、ロボットに乗って戦うという点はピンとこないが、デュナメスだったら動かしてみたい気がする。木綿季たちと一緒に同じゲームで遊んでみたいという想いが、詩乃の心を揺り動かす。
「(他のゲームじゃ無理だしね……)」
リアルマネートレーディングができるGGOは、15歳未満の購入・使用を禁止しているので、14歳の紺野姉妹はプレイできない。そして、銃火器が存在しないALOでは、詩乃の希望を満たせない。
だが、機動兵器を操縦するGBOなら、ギリギリ条件を満たせる。
「(GBOにも銃があるんだから、やる意味はあるわ……)」
多少強引な言い訳で、微妙な判断を正当化しようとする。今回のことがきっかけになって、仲間が欲しいという本音を自覚してしまった詩乃は、木綿季たちと遊びたいという衝動にかられてしまう。今日初めて会った人たちだけど、仲良くなりたいという気持ちで一杯になってしまう。
そんな感情に突き動かされた詩乃は、控えめな言葉で歩み寄る。
「……ちょっとだけ、やってみたくなったかな」
「ふふ~ん。どうやら、ボクの巧みな話術に魅了されたようだね」
「ふふっ、まぁね……。とりあえず、どんなゲームか確かめてみたいとは思ったかな」
「だったら今度、ボクの家で遊ばない?」
「えっ、ユウキの家で?」
「うん。ボクか姉ちゃんのヤツで、お試しプレイさせてあげるよ」
木綿季は、照れた様子で話に乗ってきた詩乃に喜んで応える。
この提案で例のイメージと違う状況になってしまうかもしれないけど、今は彼女と仲良くなりたいという感情に従う。そうやって友達になれば、いつかはALOでも一緒に遊べるようになると思うから。
「ボクはシノンと遊びたいんだけど……どうかな?」
「そうね……わたしも、ユウキと一緒に遊びたいわ」
「やった! シノンが仲間に加わったよ!」
そこはかとなく某有名RPGを思い起こさせるセリフで詩乃の仲間入りを喜ぶ。
何はともあれ、彼女たちの長い付き合いは、ここから始まることになる。
「それじゃあ、連絡取れるように電話番号とメアドを交換しようよ!」
「ええ、いいわよ」
お互いの意思を確認しあった2人は、楽しそうにスマホのデータを交換する。もちろん、宗太郎と藍子も同じように交換しあって、いつでも会話ができるようになった。
「これで君と、愉快な眼鏡トークができるな」
「なんで眼鏡なのよ!?」
眼鏡美少女とお近づきになれた宗太郎は、嬉しさのあまり、変な言葉を口走ってしまうのだった。
次回は、詩乃が紺野家にお泊りに行く話になると思います。
ただ、最近やる気が減衰しているので、完成は遅くなるかもしれません……。
のんのんびよりの2期を見たら、SSの続編を作りたくなりそうだしなぁ。