ソードアート・オンライン アイとユウキのセカイ 作:カレー大好き
ほんのりと怪しい内容になっていますが、鬱展開にはなりません。
様々な要因が重なった結果、木綿季と詩乃は運命的な出会いを果たし、友人としての関係を歩み始めた。その手始めに電話番号とメアドを交換して、遊ぶ約束まで取り付ける。
たった数時間でここまで進展したのは、別世界の因果が影響を及ぼした結果だ。無論、本来の歴史とは違う道筋であり、一連の流れを顧みれば、不自然であると言わざるを得ない。
それでも、この出会いが、彼女たちにとって祝福すべきものであることは間違いなかった。
「ふふふ~、これでいつでもメールできるぞ」
「もう、無闇に出したら詩乃さんに迷惑でしょ?」
「そんなことは気にしなくていいわよ。でも、9時から12時くらいまではゲームをやってることが多いから、その間は返事できないわよ?」
「了解~」
すっかり打ち解けた少女たちは、まるで親しい友人同士のように会話を楽しむ。その光景はとても自然で、宗太郎の気持ちを明るくさせる。これまでの成り行きに釈然としない違和感を覚えていたが、彼女たちが笑顔でいられるのならそれでいい。
ここは素直に、新たな仲間との出会いを歓迎すればいいだろう。
「おお神よ、美少女眼鏡っ娘と巡り会えたことに感謝します!!」
「いきなり何言ってんの?」
素直な気持ちをシャウトした宗太郎は、女性陣から白い目で見られてしまった。一応色々と気を使っているのに元の性格がアレなので、色々と台無しである。
何はともあれ、当初の目的は無事に果たせた。その後はみんなリラックスして、大いに話を弾ませる。
そして1時間後。夕飯時が近づいたので、お腹の空いた木綿季たちは、そろそろお暇することにした。
「ねぇユウキ。さっきの話だけど……」
「うん。無理に受けなくてもいいよ。その場合は、普通に遊べばいいんだからさ」
「……そうね。それじゃあ、金曜までに返事するわ」
「おっけー。24時間受け付けてるよ」
玄関へ向かう間に、先ほど交わした約束を確認しておく。詩乃にGBOのお試しプレイをしてもらいたいと思った木綿季は、思い切って【お泊り会】を提案したのである。それを聞いた詩乃は、途惑いと同時に喜びを感じた。しかし、これまでずっと孤独だった彼女にはハードルが高すぎる提案だったので、一先ず返事を待ってもらうことにしたのだ。
まぁ、嬉しいと思った時点で答えは決まっているようなものだったが。
「(こんなわたしが、お泊り会に誘われるなんてね……)」
ほんの数時間前まで一人ぼっちだったのに、今は可愛い後輩たちの家に遊びに行く話をしている。そのギャップが可笑しくて、思わず笑みを浮かべてしまう。
「ほう、良い表情をしている。思ったとおり、可憐な君には笑顔が似合う」
「っ!? 突然何言ってんのよ!?」
「ありのままの真実を述べたまでだよ、朝田詩乃」
「はぁ……あなたって変な人ね」
「ああ、よく言われる」
悪びれもせずあっさり認める。
「変と恋は紙一重だからな。俺が変人に見えるのは、それだけ君の美しさに恋しているということなのだろう。まったく、罪作りなお嬢さんだ」
「ちょっ……そういうことを真顔で言わないでよ……」
「はぁ、また始まったよ。ソウ兄ちゃんの悪いクセが」
「気に入った人と出会えると、口説くように褒めるんだよね……男女構わず」
「男も口説くの!?」
まことに厄介極まりないクセである。
それでも詩乃は、言うほど嫌がっていない。彼に悪意が無いせいか。やたらと男前だからか。それとも、本当に心惹かれるものを感じているせいか。その真相は彼女本人にも分からないことだったが、この奇妙な少年に対して信頼感を抱きつつあることは確かである。
だからこそ、聞いておきたいことがあった。
そっと宗太郎に近寄った詩乃は、小さな声で語りかける。
「ねぇ、宗太郎」
「ん、なにかな?」
「あの……あなたに聞きたいことがあるんだけど……」
そう言って、靴を履いている最中の紺野姉妹に意味ありげな視線を向ける。どうやら、彼女たちを同席させたくないらしい。
「分かった。君のために時間を作ろう」
視線の意味に気づいた宗太郎は、彼女の希望を叶えてやることにした。
「2人とも。すまないけど、少しだけ外で待っててくれないか?」
「え……それはいいけど……」
「ソウ君はどうするの?」
「改めて詩乃の心理状態を見ておこうと思ったんだ。結構酷いパニック発作を起こしてたからな」
「ああ……」
簡潔な説明を聞いて、素直に納得する。確かに、あの時の詩乃はとても危険な様子だった。つい先ほどまで普通に会話していたから気がつかなかったが、あんな状態になってしまうほど恐ろしい経験をしたのだから、心のケアは必要だろう。
「でもさぁ、ソウ兄ちゃんに任せて大丈夫なの?」
「ふっ、心配は無用だ。乙女座の俺なら安心して話せるから、『お風呂に入って最初に洗う場所』を告白できるくらい心を開いてくれるさ」
「って、心配な要素しかないじゃない!」
シリアスな様子だった詩乃が、顔を赤くしてつっこむ。こんな時でも下ネタをぶちこめるとは、男らしすぎる野郎である。しかし、彼の気配り(?)によって、一応お膳立ては整った。
話を聞き入れた木綿季たちは外に出て行き、玄関には詩乃と宗太郎だけが残る。
「では、君の話を聞かせてもらおうかな」
「うん……」
宗太郎に促された詩乃は、少しの間だけ逡巡した後にゆっくりと話し出した。
「あなたは……あいつらが言っていたことを覚えてるよね?」
「ああ、正当防衛で強盗犯を撃ったという話のことか?」
「ええ。あの話は……全部本当よ。わたしは、銃を使って人を殺した……殺人者なのよ」
そこまで言って顔を俯かせる。かつて、クラスメイトから向けられた嫌悪の視線が頭をよぎり、宗太郎の表情を見ることが出来ない。
それでも、彼の真意を聞いておかなければならない。そう思った詩乃は、勇気を出して返答を待つ。
「そうか。俺の想像も及ばないほどの辛い過去があったんだな」
「……嘘じゃないと分かっても、態度は変わらないのね。なんであなたは、人殺しと普通に接することができるの? 私が……恐くないの?」
「ああ、ちっとも怖くないな。俺自身も、君と同じような存在だからな」
「? ……それはどういうこと?」
「実を言うと俺は、SAO
「……えっ?」
詩乃は、思いもしなかった告白を聞いて唖然とする。なぜそんなことを言い出したかというと、彼女の過去を知って、SAOの経験が役に立つのではと思ったからだ。
デスゲームによって刻まれたおぞましい記憶。その中から宗太郎が選んだものは、ラフコフ討伐戦の話だった。プレイヤー同士の殺し合いになってしまった、あの凄惨な事件は、宗太郎にとってもトラウマになっていた。だからこそ、詩乃の助けになるはずだと思った。
「幸い俺は参加を免れて1人も殺さずに済んだけど、その代わりを俺の仲間がやってくれた。だから俺も同罪なんだ。自分たちが生き残るために、人殺しを受け入れたんだよ」
「……」
あの事件が終わった後、キリトの雰囲気が少しだけ変わったことを今でも覚えている。その原因がなんであるかを察したグラハムは、彼の心をケアしようと陰ながら尽力した。
「もちろんあれは正当防衛で、自分たちの命を守るためには仕方なかったんだが、実際に手を下してしまったあいつは、今でも苦しんでいる。そんなあいつと君が重なって見えるから、力になってあげたいと思ったんだ」
「ああ……そういうことだったのね……」
ここまで話を聞いて、ようやく理解できた。荒事に慣れていたことも、人殺しと聞いて動揺しなかったことも、SAO
「(彼も酷い目にあって、苦しんでいるんだ……)」
真剣な表情で辛い過去を語ってくれた宗太郎を見て、すべてが真実なのだと確信した。それと同時に、奇妙な仲間意識が芽生え始める。
親しい者には語るべきではないと封印していた記憶だが、ここでそれを打ち明けたのは、結果的に正しい判断だった。その忌むべき経験が、詩乃の心に近寄るための道筋となったのだ。
「生身の身体で死線を超えた君にとっては、俺の言葉など戯れに聞こえるだろうが……これだけは言わせてもらおう。君の勇気ある行動が、その場にいた人たちの命を救った。その事実は誇りに思って欲しい」
「っ!?」
「俺は、多くの仲間を救ってくれたあいつのことを誇りに思っている。だから、君のおかげで救われた人たちも、君に感謝しているはずだ。この俺と同じようにな」
「……私に感謝?」
「そうだ。君は、誰に恥じることも無い正しい事をしたんだ。少なくとも、俺はそう思う」
「っ……」
ずっと苦しみ続けてきたあの日の行動を肯定してもらえた瞬間、詩乃の目から涙がこぼれた。
同じような言葉は、事件のあった直後にも言ってもらえたが、それは単なる慰めに過ぎなかった。幼い少女の心をケアするために用意された、適切なセリフでしかなかった。
しかし、命がけの戦いを経験している宗太郎は違う。真実が込められている彼の言葉には力があった。1人で苦しみ続けていた詩乃を勇気づける力が。
「まぁ、なんだ。とにかく俺は君の味方だから、大いに頼ってくれたまえ。話したいことがあったら、何でも聞いてやるから」
「……うん…………ありがとう」
指で涙を拭う詩乃を見つめながら、小さく微笑む。SAOの経験が役に立ったのは皮肉なことだが、彼女の助けになったのならそれでいい。出会った時より穏やかになった雰囲気が、その気持ちを肯定してくれている。心の闇を少しだけ取り払うことが出来た彼女は、女性としての魅力を増したように思えた。
「やはり君は、素晴らしい物を持っているな。見惚れてしまうほどに美しいよ」
「…………えっ!? 美しい!?」
「うむ。可憐な君にピッタリの、洗練されたデザインだ」
「か、可憐だなんて、こんな時に言われても……って、洗練されたデザイン?」
「ああそうだ。君の眼鏡は、見れば見るほど素晴らしい。もしかして、オーダーメイドの特注品かな?」
「はぁ……眼鏡のことだったの……」
場の空気に流されて、柄にも無く舞い上がっていたら、まったくの勘違いだった。宗太郎が美しいと思ったものは彼女の容姿だけではなかったのである。勝手に間違えたのは詩乃の方だが、紛らわしい彼の言動もどうかと思う。
「やっぱりあなた、変な人ね」
「ああ、よく言われる」
頼りになるお兄ちゃんなのか、空気の読めないバカ野郎なのか。何とも掴みどころの無い宗太郎に翻弄される詩乃であった。
木綿季たちを見送った後、一息ついた詩乃は、普段通りの生活に戻った。簡単に食事を済ませてから洗濯をおこない、最後の締めにシャワーを浴びる。
生まれたままの姿となった詩乃は、その身を清めながら今日の出来事を振り返る。
「面白い子たちだったな……」
無邪気で良い子な木綿季たちのことを思うと、心が温かくなる。出会い方は最悪だったけど、今はただ、友達になれたことが嬉しい。色々とやらかしてくれた宗太郎も、一応感謝してるし……。
何はともあれ、あの3人と知り合えて本当に良かったと思う。
「でも、いきなり泊まりがけってのは、難しいな……」
何しろ初めての経験なので、どうしても気後れしてしまう。行きたいと思っていても、心のどこかでブレーキをかけてしまう。長年続いた孤独は、未だに彼女を捕らえていた。
「……金曜までゆっくり考えよう」
気持ちの整理がつかずに、後ろ向きな選択をしてしまう。
そうだ、いきなり泊まらなくても、普通に遊べばいいじゃないか。そうやって徐々に慣れていく方が、自分に合っている。そう思った詩乃は、答えを先送りにして本心を誤魔化した。
☆★☆★☆★☆
木綿季たちと出会ってから3日後。詩乃の日常に小さな変化が起きていた。あの日以来、不良少女たちが接触してこなくなったのだ。視線が合っても睨んでくるだけで、仕返しをしてくるような気配は見られない。あいつらのことだから、このまま大人しくなるとは言い切れないものの、とりあえずは安堵すべき状況だろう。
とはいえ、新たに出来た問題が彼女を大いに悩ませていた。お泊り会の話を受けるべきか否かを、未だに悩んでいたのである。
何度かメールを交わす内に、受けたい気持ちが膨れ上がってきたけど、なかなか踏ん切りがつかない。だから今日も、GGOをプレイしながら考え込む。
「どうしようかな……」
ソロでモンスター狩りをしてきた帰り道に、ぼそりとつぶやく。手に入れたばかりのヘカートⅡに慣れるため、まずは1人で練習しているのだが、いまいち気が乗らない。
次のバレット・オブ・バレッツで優勝するには、もっと強くならなければならないのに。
「ヘカートⅡのおかげで、かなり戦力が上がったけどね」
シノンは、装備している頼もしい相棒に視線を向ける。この銃のおかげで、攻撃力が飛躍的に増大した。これほど強力なら、戦い方次第で、ある程度のレベル差もくつがえすことができる。
「これなら、少しは余裕が出来るか……」
ヘカートⅡの性能を考慮すれば、他のゲームに時間を割くことも出来ると思う。もちろん、来月初旬におこなわれるバレット・オブ・バレッツを優先することになるが、木綿季の家でお試しプレイをさせてもらうぐらいなら問題ないはずだ。
「やっぱり、泊まらせてもらおうかな……!?」
お泊り会に行く方へ心が傾き始めたその時、シノンの後方から
バンッ!! バンッ!!
「甘いっ!」
考え事をしながらも警戒を怠っていなかったシノンは、華麗に避けてみせる。そして、そのまま身近にある建物の中へ飛び込む。現在のフィールドは廃墟街なので、隠れる場所には事欠かない。
「どうやら相手もソロみたいね」
何度か移動と撃ち合いを繰り返して状況を把握する。まだヘカートⅡを所持していることは知られていないはずだから、偶然起きた遭遇戦だろう。
しかし、目を付けられるようになるのも時間の問題だ。積極的にレアアイテムを狙ってくる奴は大勢いるので、これからは気を抜けない状況が増えると思われる。
ただ、そうなったとしても、シノンのやることは変わらない。
「どんな相手だろうと、この銃で返り討ちにしてやる」
求める強さを手に入れるためには、勝利し続けるしかない。このヘカートⅡで、すべての敵を撃ち抜くしかない。そして、いつかは最強になってみせる。それがシノンの成すべきことだった。
そのための糧として、今目の前にいる獲物を狩る。
「もらったわ!」
崩壊した建物の隙間を掻い潜って相手の後ろを取ったシノンは、その頭部に狙いを定めて引き金を引いた。
十数分後。戦闘に勝利したシノンは、本拠地にしている街に帰って来た。これでようやく、ヘカートⅡを奪われるかもしれないという不安感から開放される。
「この重圧に慣れるのは大変そうね……」
高額の現金を稼げるGGOは、本気で人を殺しかねないほど真剣にプレイしている連中が多いため、標的になりやすいレアアイテム所有者は、常に大きな精神負荷を受けることになる。リアルな環境を求めているシノンにとっては好都合であるとも言えたが、悪意を感じ続ければ当然疲労してしまう。木綿季たちと出会ったシノンは、そんな殺伐としたプレイスタイルに対して、無意識の内に不快感を覚え始めていた。
「弾を補充したら終わりにしよう」
いつもより疲れを感じたシノンは、ヘカートⅡの弾丸を買った後にログアウトすることにした。
すると、立ち寄ったショップ内で、親しい友人と遭遇した。
「やぁ、シノン」
「あれ? シュピーゲルも来てたんだ」
シノンは、話しかけてきた銀髪の少年に、気軽な態度で接する。現実の彼は新川恭二という名で、シノンとは元クラスメイトという間柄である。GGOを勧めてくれた人物であり、強盗事件の話を知っても普通に接してくれる彼は、心を許せる貴重な友人だった。
そのため、シュピーゲルだけにはヘカートⅡのことを教えており、この場でもその話題になる。
「今日も練習してきたの?」
「うん。まだ気になる点があるから」
「それでも、十分に強力なんでしょ?」
「まぁね。大抵の敵は一撃で仕留められるわ」
「へぇ~、流石はレア物ってところだね。ほんとシノンが羨ましいよ」
「うん……」
妙に饒舌なシュピーゲルに対して、悩み事のあるシノンは歯切れの悪い返答をする。それに気づいたシュピーゲルは怪訝に思い、ストレートに聞いてきた。
「ねぇ、シノン。なんか様子が変だけど、どうかしたの?」
「あ、ごめん……ちょっと、迷ってることがあって……」
「なるほどね。僕で良かったら相談に乗るけど?」
シュピーゲルは、いつものように気さくな様子で協力を申し出てきた。その態度はとても真摯で、素直に相談してみようかと思ってしまう。しかし、『友達の家に泊まりに行くことを迷っている』なんて気恥ずかしいことは言えなかったので、適当に誤魔化すことにした。
「実は、ガンダムビルドファイターズ・オンラインっていうゲームをやってみようかなって思ってるんだけど……」
「えっ?」
その話は、シュピーゲルにとって寝耳に水であった。シノンが他のゲームに興味を示すなんて、彼にとっては受け入れ難い事実だった。
「……なんでそんなことするんだよ?」
「えっ?」
「シノンは、GGOを捨てる気なのかい?」
「はぁ? そんなこと、するわけないじゃない」
「それじゃあ、なんで、あんなクソゲーをやろうとするんだよ!?」
感情が高ぶったシュピーゲルは、少しだけ裏の顔を出してしまう。
実を言うと、彼には二面性があった。家庭や学業で多くの問題を抱えているシュピーゲルは、この時既に心を病んでいた。表面上は人畜無害を装っているが、心の奥では他者に対する悪意に満ちていたのである。それが、一時の怒りで表面化してしまった。
期せずして、彼の歪みを垣間見てしまったシノンは、少しだけ驚いた。しかし、この時は、疑問よりも怒りの方が勝った。木綿季たちのことをバカにされたように感じたからだ。
「GBOがクソゲーですって?」
「ああそうさ。GBOなんて、バカなアニメオタクがキモいごっこ遊びをしてるだけのクソゲーじゃないか。そんなものに貴重な時間をかけるなんて――」
「それ以上は言わないでっ!」
「……え」
「あなたがどう思おうと勝手だけど、独りよがりな価値観を他人に押し付けるのはいけないわ。わたしたちだって、GGOのことをバカにされたら嫌でしょ?」
「っ……」
予想外の反撃を受けたシュピーゲルは言葉に詰る。他人に見下されて怒りに燃えていた自分が、同じことをやっていたのだと指摘されたら、急に言葉が出なくなった。
同時に、シノンから嫌われてしまうことを恐れた。憧れている彼女に嫌われたらと思うと、強い恐怖で心が竦む。
しかし、それは考えすぎだった。このぐらいのことで、シノンが【友人】を嫌うわけが無かった。
「どんなゲームだって、大切に思っている人がいるんだから、悪く言ってはダメよ」
「…………………………ああ、そうだね」
シノンに優しく窘められたシュピーゲルは、彼女から怒りが消えたことに安堵する。
「(良かった……シノンは僕を嫌っていない)」
心を落ち着けることができたシュピーゲルは、先ほどの暴走を反省する。GGO以外のゲームをやりたいと言い出したことでシノンに裏切られた気がしたが、よくよく考えれば自分の勇み足だったと分かる。
「(たまには、他のゲームで息抜きしたくなることもあるよね……)」
寛容な態度を示すことで、過ちを犯してしまった気まずさを誤魔化そうとする。
いきなりのことで焦ってしまったけど、心配する必要なんてなにも無かったんだ。そもそも、シノンがGGOを捨てるなんて絶対に有り得ない。銃に魅入られた彼女の居場所は、ここだけなんだから。
「(大丈夫。シノンが僕の傍から離れていくことはない。シノンを助けられるのは僕だけなんだから……)」
もはやストーカーに近い状態となりつつあるシュピーゲルは、恐ろしい妄想を抱く。本当の彼は、シノンの【友人】などではなかったのである。しかし、シュピーゲルの毒牙に狙われているシノンは、その事実に気づくことなく謝罪を受け入れる。
「嫌な思いをさせちゃってごめんね」
「ううん。お互い感情的になっちゃったけど、このぐらいで仲直りしましょう?」
「うん。ありがとう、シノン」
こうして、複雑な背景を要因にして起こった諍いは、真相が分からないまま終息した。
シノンにとっては災難以外の何者でもないが、皮肉なことに悪いことばかりでもなかった。シュピーゲルに怒ったことで木綿季たちに対する想いを再確認することになり、お泊り会を受ける決心がついたのである。
「(よし。明日、ユウキにメールしよう)」
悩みが解決して晴れやかな気分になったシノンは、小さく微笑んだ。
☆★☆★☆★☆
それから2日経った土曜日。学校からアパートに帰って来た詩乃は、事前に用意していた荷物を持って紺野家に向かった。
電車を乗り継いで西方に進み、指示された駅で降りる。
「ここがユウキたちの住んでる街か……」
都心部から離れているため、詩乃の住んでいる文京区より落ち着いた印象である。
紺野家は、ここから5キロほど離れた場所にあり、木綿季が案内する予定になっている。
「おーい、シノーン!」
「あっ、ユウキ」
改札口を出るとすぐに木綿季が待っていてくれた。自分に向けて元気に手を振る姿がとても可愛らしくて、つい微笑んでしまう。詩乃もまた、明日奈と同じような心境になりつつあった。
それはつまり、因果の影響が強まった結果であり、そんな木綿季を見ている内に、なぜか不安を覚えてしまう。彼女がいるこの光景は、儚い夢のような感じがしたのだ。
「(……!?)」
奇妙な違和感を感じた瞬間、不思議なイメージが脳裏に浮かんだ。
詩乃のイメージした木綿季は、ここではない別の場所で懸命に病魔と戦っている……。
「(って、わたしはなにを考えてるのよ……)」
ふと我に返った詩乃は、おかしな妄想を抱いてしまった自分を恥じる。いきなりあんな妄想が頭に浮かんでしまうなんて、一体どうしたというのだろう。木綿季はこんなに元気なのに。
「……」
「んにゃ? もしかして、トイレ我慢してるの?」
「違うわよ!」
木綿季の健康を考えてシリアスになっていたら、逆に心配されてしまった。
やはり、さっきのアレは、単なる妄想だったのだろう。そう思った途端、さきほどまで気になっていた違和感が急速に消えていった。
次回は、ようやくGBOをやることになります。
まずは、練習からということで、GBOのシステムをさらっと説明します。