ソードアート・オンライン アイとユウキのセカイ 作:カレー大好き
それとなくSAOの要素を絡ませていますが、やってることはガンプラバトルなのさ!
木綿季と合流した詩乃は、若干緊張しつつ紺野家へやって来た。
友人の家に上がるのはとても久しぶりで、気後れしながら居間に入る。すると、そんな心配は無用とばかりに、素敵な笑顔を浮かべた遥ママが出迎えてくれた。
「あの……こんにちは」
「はい、いらっしゃい。暑い中、良く来てくれたわね」
遥ママは、たどたどしく挨拶する詩乃に向かって穏やかに微笑む。その優しい雰囲気はとても心地よくて、実家にいる母親を思い出した詩乃は、つい感傷的になってしまう。
精神を病んでしまう前の母さんもこんな感じだったかな……。
「っ……初めまして。朝田詩乃と申します。今日はお世話になります」
「ええ。こちらこそよろしくね。今日の夕食は張り切って作っちゃうから、楽しみにしててね」
「はい。ありがとうございます」
思わず涙ぐみそうになった詩乃は、何とかそれを誤魔化した。せっかく招いてくれたのに、変な気を使わせるわけにはいかない。そんなことを考えながら遥ママとの会話を進め、飲み物とオヤツを用意している木綿季を待つ。
そして数十秒後。程なくして戻ってきた木綿季は、自室に行くことを遥ママに告げる。
「それじゃあ、上に行ってるね」
「夕食の時間になったらすぐ来るのよ?」
「はーい」
2人は、普段どおりに仲の良いやり取りをする。それは何気ない親子の会話だったが、様々な事情を抱えている詩乃にとっては、とてもかけがえの無い物に思えた。
居間を出た木綿季と詩乃は、2階にある木綿季の部屋に入ろうとした。中では藍子と宗太郎が待っているはずである。
『あん、もう! そんなにわたしを突かないでぇ!』
『うはははは! いいではないか、いいではないか!』
『ダメ~! そんなことしたら死んじゃうよ~!』
『へっ、恐いのは、最初だけだからさ!』
「……2人は何をやってるの?」
「さぁ、ナニやってんのかなー?」
唐突に聞こえてきたいかがわしい会話に引きながら中に入る。するとそこには……松永家秘蔵のファミコンでマリオブラザーズをプレイしている2人の姿があった。テレビ画面を見ると、下からマリオに突かれて動きを止められたルイージが、タイミング良くやって来た亀にやられていた。
「ゲームをやってたんだ……。っていうか、もっと普通にやりなさいよ」
「あっ。詩乃さん、こんにちは」
詩乃に気づいた藍子が淑やかに挨拶してきた。その雰囲気は可憐な容姿に合っていたが、少し前に聞いてしまったえっちぃセリフを思い出すと変な気持ちになってしまう。こんな状況になった元凶は、恐らくこの男だと思われるが……。
「よく来たな、朝田詩乃。この私、グラハム・エーカーが、君の到着を歓迎しよう」
「う、うん……ありがとう」
相変わらず濃いキャラをしている宗太郎に苦笑する。その姿はあまりに自然で、女の子の部屋にいるということをまったく意識していないようだ。ほぼ毎週泊まりに来ていると聞いたが、それだけ紺野姉妹と仲がいいということか。
その証拠とでも言うように、木綿季の部屋には宗太郎の影響を受けたと思われる物が飾ってある。大きなテレビ台の上に何個か置かれているロボットのオモチャ。あれが以前言っていたガンプラだろう。
銃を持っているため、少しだけトラウマを刺激されたが、スケールが小さい分、不快感も軽減されているようだ。
「……」
「詩乃さん、荷物を置いて楽にしてください」
「あっ、うん」
「ほら、ここに座って」
持っていた荷物を部屋の端に置いた詩乃は、木綿季の用意した可愛らしい座布団に座る。
「さて。ようやく主役が来たことだし、そろそろ『ガンダム合宿』を始めるとしよう」
「うん、よろしく。っていうか、これって合宿だったの?」
「無論だ。何事も本気にならなければ上達せんよ。ゆえに君には、ガンダムの魅力を学んでもらい、好意を抱いてもらう」
「ようするに、『好きこそ物の上手なれ』ってことね」
宗太郎の言いたいことは分かった。確かに、好意を抱ければ、よりゲームを楽しめるだろう。そしてそれは、自分の求める強さにも繋がっていると思う。銃に対するトラウマを克服するには、拒絶しているだけではダメなのだ。そんな状況を打破するヒントが、この機会に得られるかもしれない。
何にしても、今は楽しく遊べばいい。そう思いながら、宗太郎のアクションを待つ。すると彼は、用意していたスケッチブックを取り出した。
「では、手始めに。ガンダム世界の基本的な説明から入ろう」
そう言って開かれたページには、ファーストガンダムのオープニングシーンである『コロニー落とし』が描かれていた。そして、それを見せながら、あの有名なナレーションを語り始めた。
「宇宙世紀0079。地球に最も遠い宇宙都市サイド3はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に独立戦争を挑んできた。この一ヶ月あまりの戦いでジオン公国と連邦軍は総人口の半分を死に至らしめた。人々は、みずからの行為に恐怖した――」
「「何で手作り!?」」
しばらく聞いてから、ようやくつっこむ。宗太郎の想定外すぎる奇行に、紺野姉妹もビックリしてしまった。
「何か用意してると思ったら、これだったんだ……」
「っていうか、普通に映像を見てもらえばいいじゃん!」
「いいや、これでいいんだ。弁当やバレンタインチョコだって、手作りの方が愛を感じるだろ?」
「そりゃそうだけれども、何か間違ってるよね?」
やたらとめんどくさい仕掛けを用意していた宗太郎に木綿季がつっこむ。
しかし、この行動にはちゃんとした理由があった。詩乃から銃に対するトラウマについて詳細を聞いていた宗太郎は、人を撃つ描写のある映像作品を見せないほうがいいと判断していたのである。それでも、ゲームを始める前に教えておきたい情報があったので、へたくそな紙芝居をおこなうことにしたわけだ。
しかし、おちゃめな彼がこのまま普通に終わらせるはずがない。
宇宙世紀シリーズの説明を終えた後にガンダム00の話をしようと考えた宗太郎は、秋葉原で購入してきた【薄い本】を取り出した。その表紙には、半裸になった金髪の軍人が黒髪の少年を抱きしめている絵が描かれている。
「それでは次に、美しくも刹那的なガンダムマイスターの少年と、ガンダムに心奪われた乙女座の軍人が織り成す、甘く切ない愛の物語をお聞かせしよう!」
「って、そんな話じゃないでしょ!?」
「ねぇ藍子。ガンダム00って、BL作品なの?」
「いいえ、違います。あれは、ドラマCDだけの悪ふざけです……たぶん」
思いっきり誤解を受けそうなことを言って詩乃を困惑させる宗太郎。彼は、好きな女子にちょっかいをかける悪ガキ体質な男であった。
何はともあれ、素人の詩乃に最低限の基礎知識を教えることはできた。後はとにかく実践あるのみである。
とりあえず、夕食までに基本動作を覚えてもらおうと予定を立てて、早速ログインすることにした。話し合いの結果、最初は木綿季のアバターを使って練習することになり、藍子の部屋からログインする宗太郎と藍子が、その補佐役として参加する。
「それじゃあ、がんばってね」
「うん。あなたとプレイする時に、援護できるくらいにはなっておくわ」
木綿季の応援を受けた詩乃は笑顔で答える。夕食を食べた後に、木綿季と協力して実戦をやる予定になっているのだ。
それまでに、デュナメスを使いこなせるようにならなければならない。
☆★☆★☆★☆
GBOにログインした詩乃は、広々とした室内にやって来た。一見すると古びた作りの洋室で、SFの世界とは思えない光景である。
ここは宗太郎たちが拠点にしている小振りな洋館で、運よく入手できたレアアイテム【マ・クベの壺】を売って購入したものだ。
その部屋を見回している間に、ソウ・マツナガとランもログインしてくる。
「どうだシノン。我等が愛の巣は、お気に召してくれたかな?」
「ええ……愛の巣って言われるとアレだけど、素敵なところね」
やって来て早々に問題発言をぶちかますソウ・マツナガに、呆れた様子で答えるシノン。そんな彼の顔を見て、あることに気づく。
「GBOのアバターって、結構アニメっぽいわね」
「原作がアニメだから、そちらに準じているんです」
「下手に実写化したら、赤い彗星もただの変態になってしまうからな」
確かに、リアルな人間があの仮面を付けていたら、SMプレイをしている人のように見えなくもない。その点はメーカー側も熟知しており、ファンの期待に応える形でアニメ風のアバターになった。しかも、ガンダム作品に登場するキャラクターに似せて作られているので、そちらでも世界観を満喫できる仕様となっている。
「シノンさんが使っているユウキのアバターは、結構人気があるんですよ」
「ここまで似ているものを引き当てるのは非常に困難だからな。私たちは運が良い」
「へぇ、この小学生みたいなアバターがねぇ」
シノンは、現実より小さくなった身体を不思議そうに眺めながら受け答える。
現在彼女が使っているユウキのアバターは、ZZガンダムのエルピー・プルを12歳くらいに成長させた感じの【無邪気な妹系】で、幼い見た目のロリキャラとなっている。
ランのアバターは、ガンダムXのティファ・アディールをアレンジした【不思議少女系】で、眠たげな眼差しが魅力的な美少女となっており、ソウ・マツナガのアバターは、彼の愛が通じたのか、ガンダム00のグラハム・エーカーをハイティーンにしたような【我慢弱い乙女座の男系】になっていた。
ちなみに、VRゲームにおいて、現実とアバターの身体年齢が合っていなくても、大きな問題は出ない。そもそも、旧ALOで、須郷の部下がナメクジっぽいアバターを使っていたくらいなのだから、年齢差などどうということはないのである。
「なるほどね。他のVRMMOとだいぶ違うんだ……」
説明を聞いたシノンは、改めて自分のアバターを確認してみた。リアル志向のGGOと違ってスッキリとした作りをしており、演算処理は軽くなっていそうだ。
とはいえ、グラフィックの作りこみが甘いというわけではない。
特に、ガンダム世界を忠実に再現したフィールドは一見の価値がある。現に、洋館の外に出たシノンは、目の前に広がる壮大な光景に心を奪われてしまう。
「すごい……これが、スペースコロニー……」
その風景は、まさしく未来を再現していた。円筒形に作られた巨大建造物の内壁に人工の大地が広がり、そこに人々が生活している。真上を見上げたシノンは、雲の向こうに地面がある光景が不思議でならなかった。
「空に街がある……」
「そうだ。ここは、500万人ほどが住んでいる古い街、という設定のコロニーさ」
目を丸くして空を見上げているシノンに、この場所について説明をする。
ここは、サイド1に作られたロンデニオンという名の開放型コロニーである。ゲーム用に縮小・簡略化されているため完全再現ではないものの、その圧倒的な存在感は十分に伝わってくる。
「外から見ると、もっとすごいですよ」
「へぇ、早く見てみたいわね」
「ふっ、そう逸るな。コロニー見学をする前に、ガンダムとワルツを踊れるようになってもらわなければならんからな」
「分かってるわ。そのために来たんだから」
当然ながら、シノンのやる気に申し分は無い。
ならば、善は急げと行動を開始する。自由に使えるエレカを呼んでそれに乗り込み、数分間街中を走り抜けて、目的地であるシミュレーター・ルームに到着する。
ここは初心者用の練習施設で、熟練者も新しい機体の調整などに活用している。現在は、あまり人がいないので、すぐに始めることが出来る。
「それでは、基本操作を学んでくるといい」
「うん、行って来る」
ソウ・マツナガから一通りのレクチャーを受けた後に、いよいよシミュレーターに挑戦する。ウィンドウを操作して、一瞬でパイロットスーツに着替えると、コックピットを模した球形のシミュレーターに入っていく。
ちなみに、操縦席の形状はすべて統一されているので、これさえ覚えてしまえばどの機体も操縦できる。
「へぇ、かなり本格的なんだ」
まさにSF的なデザインのコックピット内を確認したシノンは、期待を膨らませながらリニアシートに座る。そして、プレイヤーデータを出力する【GPベース】という名のデバイスを正面にあるパネルの下部に設置する。
「さぁ、やるわよ……」
気合を入れたシノンは、シミュレーターを起動させて必要な手続きを進めていく。
まずは、【バイオコンピュータ】と呼称される【アシストAI】のマッチングから始める。これは、GBOの売りであるサイコトレースシステムを使用するために必要な手順で、初回のログイン時に必ずおこなわれるものだ。
もし、そのデータが気に入らなかった場合は、ここで調整できるようになっており、複数保存することもできる。つまり今回は、シノン用のデータを一から制作することになるわけだ。
「これでよし……と」
オペレーターの指示に従って各種動作に必要な思考パターンの記録をおこない、シノン専用のAIが出来上がる。そして、いよいよ、完成したAIを試す段階になった。
試験用に用意されたガンダムを操縦するため、システムを起動させる。
「っ!? なにこれ!」
AIとシンクロしたその瞬間、シノンはガンダムになった。
このAIは、シノンの思考パターンを模したクローンのような存在で、それと同期することによって、足を使った移動や格闘などの機体動作を思考だけでおこなえるようになる。
仕組みを説明すると、プレイヤーがAIとシンクロすることで、AIの身体となっているMSと半一体化したような状態になり、感覚的にマルチタスク操作をおこなうことができる、というものだ。
同時に、この特性を活かして、ニュータイプやイノベイターなどの超能力まで再現している。
例えば、AIが敵の位置を感知すると、同期していたプレイヤーにもそれが伝わり、あたかも自分の力で感知したような状態になる。
さらに、ファンネルなどの遠隔誘導攻撃兵器を動かすことにも利用されており、劇中のような操作を擬似的に再現している。遠隔誘導攻撃兵器を展開している時に兵装の名前を呼ぶと入力状態になり、その間にある程度パターン化されている動きをイメージして、それが決まったら操縦桿にある対応ボタンを押す。この機能のおかげで、ファンネルを操作している雰囲気が味わえる。
ただし、その間は思考による機体操作が不可能になってしまい、大きな隙を生むことにもなるが、そういった難しさが遠隔誘導攻撃兵器の特殊性を演出する効果にもなっている。
何はともあれ、アシストAIとシンクロするということは、ニュータイプのような超能力者になれるということなのである。
「すごい……わたしの意識が広がっていく……」
シノンは、AIとシンクロした感覚をそのように表現したが、それは適確な感じ方だった。このシステムは、『もう1人の自分』と一つになって能力を増強するようなものだからだ。
実を言うと、この技術が生まれた経緯には、茅場晶彦が関わっている。彼の知識を受け継いだ神代凛子が、とある医師から依頼を受けて開発した医療用AIが元となっているのである。
これは脳機能に障害がある患者でもVRマシンを使えるようにするために考案された技術で、その根幹には茅場晶彦が残していったMHCPが使われている。ソウル・トランスレーターの応用で健常な状態を再現したAIを作り、それとシンクロすることによって擬似的に障害を補うというものだ。ようするに、サチのようなコピーAIを発展させて実用化したというわけだ。
これを更に発展させれば、脳の障害を簡易的に補助できる医療機器の開発が可能となるので、存在を知っている関係者たちから熱い視線を向けられている。
その中にはVRゲームを扱う企業も含まれており、GBOを開発したメーカーが金に物を言わせて市販用にデチューンしたものを完成、実用化した。それがこのアシストAIとなって活用されているのだ。
しかし、開発者である神代凛子は、自身の名前を公表することを良しとせず、関係者以外には彼女の存在を確認できないようになっている。
そのように、裏方では複雑な因果が絡んでいたが……いずれにしても、安全性が立証されているシステムなので、必要以上に警戒することも無い。今はただ、思う存分ニュータイプ気分を味わえばいい。
そんなわけで、マッチングを完了したシノンは、次のステップとしてソウ・マツナガとの模擬戦をやることになった。
「ではいくぞ。フラッグファイターの実力、しかとその眼に焼き付けてみせよう!」
「こっちは初めてなんだから、お手柔らかに頼むわよ?」
「ふっ、心配は無用だ。この私のテクニックにかかれば、初めてであっても気持ちよくプレイできるからなぁ」
「別の意味に聞こえるような言い方しないでくれる!?」
始める前に軽いトークで盛り上がりつつ、シミュレーターに入っていく。
今回の模擬戦は、シノン&ランVSソウ・マツナガでおこなうハンディキャップ・マッチである。フィールドは、切り立った岩山が点在するタクラマカン砂漠。隠れる場所が豊富にあるので、スナイパーであるシノンにとっては有利といえる。
「シノンさんはデュナメスを使うんですよね?」
「うん。他の機体はよく知らないからね」
「分かりました。それじゃあ、わたしが引きつけるので、後方から狙撃してみてください」
「了解。やってみるわ」
ランと話して作戦を決めたシノンは、ノーマル状態のデュナメスを選択して出撃準備を整える。そんな彼女に続いて他の2人も準備を整え、いよいよお約束の出撃シーンが始まる。
全天周囲モニターに多目的輸送艦・プトレマイオスの格納庫が映し出され、シノンの左右と足元にはデュナメスの主兵装であるGNスナイパーライフルと腕・脚の一部分が半透明で表示されている。
この天使の名を冠する鋼鉄の巨人が、シノンの新しい相棒となるのである。
「よろしくね、デュナメス」
シノンは、正面のパネルに表示されたダメージチェック用のCGモデルに言葉をかける。
その直後に機体の射出が始まる。
「ガンダムキュリオス、ラン、介入行動に入ります!」
「えっ、えっと……ガンダムデュナメス、シノン、出撃する」
お決まりのセリフを恥ずかしそうに言うと、シノンの機体がカタパルトから射出された。
「くぅっ!」
デュナメスとシンクロしているため、高速移動にかかるGが直接的に感じられる。もちろん、身体に悪影響を与えることはないが、絶叫マシンに乗っているようなスリルと興奮を感じる。射出の勢いを失った彼女の機体が落下し始めたから尚更である。
「これって、空を飛んでるの!?」
「シノンさん、スラスターを操作してください。重力があるから、何もしないと落下しますよ?」
「う、うん……スティックとフットペダルで姿勢制御するのよね」
シノンは、つい先ほど学んだことを思い出す。
歩くなどの基本動作は思考だけでできるが、飛行などの特殊動作はコントローラーの入力でおこなわれる。右スティックを前後左右に傾けると、それに対応して前後左右に加速。左スティックは、同じ操作で上下左右の回転機動。フットペダルは、右が垂直上昇、左が垂直下降となっており、同時に踏むと、すべての慣性運動に対する減速をおこなう。
ちなみに、サイコトレースシステムよりもコントローラー入力の方が優先されるため、イメージ通りに動かない場合もあるが、スラスターの推力やGなどに押されるような感覚になるので、それほど違和感はない。
「これは、結構難しいわね」
「大丈夫。最初は途惑うと思いますけど、慣れればどんな飛び方だってできるようになりますよ」
そう言うとランは、飛行形態のキュリオスで曲芸飛行をやってみせた。それはとても鮮やかな手際で、シノンは思わず感心してしまう。
「へぇ、そんなこともできるんだ」
「えへへ~、フラッグファイターは伊達じゃありませんよ?」
『確かに君は、フラッグの女神に愛されている。今はガンダムに浮気をしているがね』
「! 宗太……じゃなくて、ソウ・マツナガ!」
いきなり通信に割り込んできたKY野郎に驚く。彼の機体は見当たらないが、会話できるということは攻撃が届く距離にいるらしい。
『楽しいガールズトークの途中で申し訳ないが、そろそろ乙女座の私も混ぜてもらおう!』
「シノンさん、早くどこかに隠れてください!」
「分かったわ!」
ランから指示を受けたシノンは、後方支援をおこなうため、適当な岩山に機体を隠す。
さぁ、ここからが本番だ。
シノンの迎撃準備が整うのを眼を閉じながら待っていたソウ・マツナガは、身を伏せていた渓谷から急上昇してきた。全身を黒く染めたその機体は、彼の愛機であるフラッグカスタムだ。
飛行形態になったそれは、キュリオスの正面から挑んできた。
『変形機構を持つ者同士、ドッグファイトと洒落込もうかぁ!』
「望むところだよっ!」
空中でエンゲージした2機は、飛行形態のままで激しい銃撃戦を繰り広げる。両機とも戦闘機のようなシルエットだが、その動きは現代兵器よりも立体的である。機体各部に設置されているスラスターが空戦機動をより複雑なものにしているのだ。
その光景を岩陰から見ていたシノンは、GGOとの違いを感じて焦っていた。
「は、早い!? なんて機動力なの!?」
あれを狙い撃つなんて、あまりにも難しすぎる。
GBOには
もちろん、そのままでは難易度が高すぎるので、GBOらしいシステムアシストが実装されているのだが、ユウキのアバターは接近戦仕様となっているため、射撃関係のスキルはほとんど習得していなかった。
「とにかく、やってみなきゃ始まらないわね」
途惑っているばかりでは先に進まないと、狙撃準備をおこなう。
GBOの射撃プロセスはいたってシンプルで、ガンレティクル(照準)を目標が来るだろう位置に合わせてトリガーを引くだけとなっている。スティックにあるトリガーを人差し指で押すと選択している武装が射撃体勢になり、ガンレティクルが視線と同期する。そして、目標に狙いを定めて、さらにトリガーを押し込むと射撃をおこなう。
ちなみに、このゲームのロックオンは、選択した目標の位置・方向を示す機能しかなく、射撃に関するアシストは、スキルと機体特性に頼ることになる。
たとえば、スナイパー機能を有しているデュナメスは、精密射撃モードを使えるため、他の機体より命中率を上げることができる。そのモードを使用すると、ロックオンしたターゲットが拡大表示され、それと同時にガンレティクルも大きくなって、射撃の自動補正範囲が広がり命中率がアップする。その間に攻撃された場合は、AIによる自動回避がおこなわれるが、対人戦ではあまり当てにならない。この辺りはGGOと同様で、最初の一撃が肝心というわけだ。
「ランの後ろを取った時を狙えば……」
まだ感覚が掴めていないシノンは、とりあえず隙が生まれそうなタイミングで撃ってみることにした。
「……そこっ!」
丁度シノンに横っ腹を見せるような形で直線飛行をしたので、そこを狙い撃つ。
ズビューンッ!!
両手で構えたGNスナイパーライフルからピンク色の粒子ビームが放たれる。そしてそれは、フラッグカスタムの黒い装甲に直撃する……ように見えたが、寸前で回避されてしまった。攻撃が来ることを見越していたかのようにプガチョフ・コブラによる急減速をおこない、機首を天に向けたフラッグカスタムはそのまま上昇していく。その直後に粒子ビームが飛来して、彼がいた場所を通り過ぎていった。
「うそっ!?」
『私の心を射抜くには、まだまだ愛が足りんようだなぁ!』
当たると確信していた攻撃を避けられたシノンは驚愕する。
確かに、GGOなら命中していたかもしれない見事な狙撃だったが、GBOにおいては通用しない。MSの機動力をもってすれば、近距離から撃たれたビームも回避可能なのだ。もちろん、それなりの技術を持ったプレイヤーでなければ出来ない芸当だが、相手のシノンが素人だったから比較的容易にできた。GGOに慣れている彼女が自分の進路上にビームを撃つことは読めていたので、射撃を確認できた時点でも回避は可能だった。
ようするに、シノンの思考が単純すぎたのだ。このゲームで射撃を当てるには、【相手の未来位置を予測する】必要がある。人間よりも奇抜な動きが可能な分、想像を膨らませなければならないのである。
『その程度の腕前では、私を射止めることなどできんよ!』
「くっ!」
『だからこそ、君にはニュータイプを目指してもらう』
「ニュータイプ?」
『そう、ニュータイプだ。ちなみに、オッパイの種類という意味ではない』
「分かってるわよ!?」
シノンは、ソウ・マツナガの下ネタにつっこみながら、彼の言葉を反芻する。
ニュータイプとは、ガンダム世界における超能力のことであり、このゲームではエクストラ・スキルの一つとなっている。それを習得すれば射撃能力をアシストするスキルが使えるので、スナイパーであるシノンとの相性は抜群だ。
しかし、今はまだその時ではない。まずは、目の前の敵を撃墜する方が先だ。
……いや、今はシノンの方が撃墜されそうだった。
「シノンさん! 早く移動してください! 狙われますよ!」
「う、うん!」
『フッ! せっかちな私が容易に逃がすと思うかな?』
乙女座の男は、初心者相手でも容赦なかった。
「こっちだって、そう簡単にやらせないよ!」
MS形態になったキュリオスは、上昇中で速度が落ちているフラッグカスタムを下方から狙い撃ちにする。しかし、ソウ・マツナガはその状況を逆手に取った。粒子ビームを巧みに回避しながら、太陽がランの視界の真正面に来るように移動したのである。
その瞬間、眼を保護するためにモニターが暗くなり、それに眼が慣れる間の一瞬だけフラッグカスタムの動きが見えづらくなる。その隙を突いたソウ・マツナガは、ランの死角へ素早く移動し、急降下する。
『人呼んで、グラハム・フラッシュ!』
「っ!? いけない!!」
目標を見失ってしまったランは、慌てて回避を始めたが、位置エネルギーも加えて急降下してきたフラッグカスタムからは逃げきれなかった。
『その翼、手折らせてもらう!』
「きゃあぁぁっ!」
すばやくMS形態に変形してプラズマソードを装備すると、すれ違いざまにキュリオスの右腕を切り裂いていく。
そしてそのまま地面すれすれまで下降し、次の目標へと接近する。
『抱きしめたいな! ガンダムゥ!』
「っ!?」
有名なセリフを叫びながら猛進してくる黒い機体に、シノンは怯む。しかし、遮蔽物の無い砂漠を突き進んでくるターゲットを狙い撃つのは容易に思えた。
「これなら当たる!」
『フン、それはどうかな?』
シノンが攻撃しようとした次の瞬間、フラッグカスタムが進路の先にある地面を銃撃した。その結果、派手に砂埃が舞い上がり、シノンの視界を遮ってしまう。
「なっ!?」
『これで見詰め合うことは出来なくなったが、すぐに行くから待っていたまえ』
「そんなもの、大人しく待つわけないでしょ!」
ソウ・マツナガにやられっぱなしでムカッときたシノンは、回避運動をしつつも闇雲に連射してしまう。しかし、それさえも読んでいたソウ・マツナガは、左から大きく迂回して彼女に接近した。
『この間合い、君の吐息すら聞こえてきそうだ!』
「っ!? しまっ――」
ドガーッ!!!
突然視界に現れた黒い影に体当たりされ、ショックを受けたデュナメスが一時的に動きを止める。それをフラッグカスタムが抱き起こした姿は、愛しいお姫様を抱きしめているように見えた。
『この儚くも可憐な姿……まさに、眠り姫だ』
「……やっぱり、あなたって変な人ね」
男はおろか、MSにまで愛を語るソウ・マツナガにちょっぴり呆れるシノンであったが、彼の操縦技術には脱帽するしかなかった。まさに、手も足も出ないほどの完敗である。
しかし、何も得られなかったわけではない。シノンは、この模擬戦を経験して、更なる強さを手に入れるきっかけを掴み始めていた。
次回は、ユウキを連れて宇宙に繰り出すことになります。
そこで、あの有名な軍人と戦うことに……。
ちなみに、SAOメンバーから1人飛び入り参加する予定となっております。