ソードアート・オンライン アイとユウキのセカイ   作:カレー大好き

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今回は、途中参加するシリカの話がメインとなっております。
SAOでグラハムと出会ったシリカに意外な展開が……。


第27話 赤い妖星のシリカ

 午後7時。何度か模擬戦をおこない練習を重ねた詩乃たちは、一旦ゲームを中断して夕食をいただくことにした。居間に行くと、休日出勤していた(あきら)パパが早めに帰宅していたので、いつもより賑やかな食卓になった。

 

「いやぁ、結城さんも可愛かったけど、朝田さんも美人だねぇ」

「は、はぁ……ありがとうございます」

 

 彰パパは、ビール片手に現役女子高生と会話できてご満悦である。

 

「なんか妙に浮かれてるよね、今日のパパ」

「確かに、明日奈さんが来たときより元気な気がする」

「そりゃ当然だ。恋人のいる女性に言い寄っても味気ないが、フリーな詩乃ならやりたい放題。おのずと態度も変わってくるさ」

「うわぁ。やっぱりパパも男なんだね……」

 

 やたらと嬉しそうに詩乃と話す彰パパを見て、子供たちが悪い噂を流す。すると、それを聞いていた遥ママの笑顔が凄みを増す。

 

「へぇ~。そういうことなの、パパ?」

「えぇっ!? いやいやいやいや、変な下心なんて微塵もないよ~?」

「心の底から神に誓える?」

「と、当然じゃないか、マイハニー!」

 

 何やら彰パパに思うところがあるらしい遥ママは、いつになく絡んでくる。実を言うと、仕事が忙しい彼に構ってもらえないので、ちょっぴり拗ねているのである。はっきり言ってただのお惚気だが、やたらと楽しそうに女子高生と会話している姿を見ている内に、オシオキをしたくなったわけだ。理不尽な八つ当たりを受けてしまっている彰パパには気の毒だが、ここは静かに見守ってあげることしか出来ない。

 

「はっはっは! せっかくの一家団欒が修羅場と化してしまったな!」

「あなたが煽ったせいでしょ!?」

 

 楽しい家族の会話(?)に詩乃も参加する。実に和やかな光景である。

 何はともあれ、久しぶりに大勢で食卓を囲むことができた詩乃は、暖かな気持ちで満たされた。

 

 

 そんなこんなで時間が経ち、順番で入浴を済ませた4人は、再び木綿季の部屋に集まった。基本操作を学んだ次は、宇宙に繰り出して対CPUの実戦をおこなうつもりだ。

 今度は藍子のアミュスフィアを詩乃が使い、藍子に代わって木綿季が参加する。そうなると、改めてAIのマッチングをしなければならないが、スキルタイプの違うアバターを試してもらいたいと思ったのだ。接近戦に特化している木綿季に対して、藍子の方は、バランスの良い万能タイプとなっているので、前回よりは扱いやすいはずだ。

 

「それじゃあ借りるね」

「はい、存分に楽しんで来てください」

 

 藍子は、自室から持ってきたアミュスフィアを手渡して微笑む。

 ちなみに詩乃と木綿季は、ログインするこの部屋でそのまま就寝することになっており、宗太郎は、藍子の部屋でお世話になる。1人お留守番の藍子は、彼の傍に居ながらまったりと過ごす予定だ。

 

「ふふっ……今夜はソウ君と2人きり……」

「むむっ。何やら不穏な気配を感じる!」

 

 妙に楽しそうな姉を警戒する木綿季だったが、今日は詩乃がいるから仕方ない。しかも彼女は、パジャマ姿を宗太郎に見せることが恥ずかしいようなので、早々に退出してもらう。

 

「ほらほら、早く出ていってよ」

「それじゃあ、向こうの世界で会おう」

「うん。また後でね」

 

 去り際に宗太郎から声をかけられた詩乃は、もじもじとしながら返事する。歳の近い男性にパジャマ姿を見せるのは初めてなので、どうしても初々しい態度になってしまう。

 とはいえ、詩乃が照れている理由は、それだけではないのだが。

 

「じー……」

「? どうしたの、ユウキ?」

「いやね。なんかシノンのほっぺたが赤くなってるよーな気がするんだけど……」

「っ!? そ、それは、お風呂に入ったばかりだからでしょ?」

「えー、そうかなー?」

「本人がそう言ってるんだからそうなのよ!」

「むにょっ!?」

 

 乙女の勘が働いた木綿季は詩乃の態度が気になったが、逆襲に転じた彼女の両手でほっぺたを挟まれてしまう。そうやってじゃれあっている間に時間が過ぎてしまい、結局そのままうやむやにされてしまうのだった。

 

 

 そんな感じで、恋の駆け引き(?)のようなものも起こったりしたが、とにもかくにもガンダム合宿の後半戦が始まる。アミュスフィアを身につけた3人は、それぞれの寝床に身体を横たえて、GBOの世界に飛び込んでいくのだった。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 再びログインした3人は、シミュレーター・ルームで用事を済ませた後に、コロニーの端に位置する宇宙港へやって来た。円筒形の中心軸にある宇宙港は、無重力地帯となっているため、体が浮いてしまう。初めて無重力を体験するシノンは、思うように動けない状態に戸惑ったが、要領が分かってくると次第に面白くなり、数分後には華麗に飛び回って見せた。ちなみに、靴底がマグネットになっているので、普通に歩くことも可能である。

 そんなこんなで世界観を楽しみながら移動した一行は、目的地に到着する。

 

「ここから艦に乗るの?」

「そーだよ。出撃許可を取ると、あそこのドックに艦が現れるんだ」

 

 そう言うとユウキは、眼前の窓から見える広い空間を指差す。

 ここにある受付で艦艇をレンタルするか、自分で所有している艦の出撃要請をおこなうと、港にCGモデルが現れて、実際に乗り込むことが出来る。そうすることで、長距離の遠征が可能となる。演算処理の都合上、艦内の行動範囲は限られているものの、そのディテールと存在感は一見の価値がある。

 

「ボクたちの艦はちょっと小さめなんだけど、すっごい高性能だから、自力で大気圏突入もできるんだ~」

「へぇ、早く乗ってみたいわね」

 

 ユウキは、つい最近手に入れたばかりの自家用宇宙戦艦を自慢する。通常は、特殊な条件を満たさないと入手できない代物なのだが、ソウ・マツナガが全国大会3位になった際の賞品としてゲットできた。

 そんな事情もあって、ユウキは早くシノンに見せたがっているのだが、その艦に乗り込む前にやることがあった。

 

「盛り上がっている所で水を差すようだが、少し待ってもらおうか」

「ん? どうしたの?」

「実は私の仲間から連絡をもらっていてね。もう1人参加する予定となっているのだよ」

「仲間って、誰か来るの?」

「その通りだが、心配無用だ。彼女は礼儀正しい少女だから、シノンともすぐに仲良くなれるはずさ」

 

 そう言って、爽やかにサムズアップするソウ・マツナガ。彼の態度は怪しいものだが、その仲間とやらには興味が湧く。それはユウキも同様で、あえて答えを聞かずに誰が来るのか想像してみる。

 そうしてしばらく待っていると、その待ち人が、文字通り飛んで来た。壁に設置してある移動用のグリップを握って、浮遊してきたのである。

 

「ソウさ~ん! お待たせしました~!」

「ああ。良く来てくれたな、シリカ」

 

 ソウ・マツナガは、親しげに近寄ってきた少女に話しかける。彼女は、SAOからの仲間であるシリカだった。

 そのアバターは、ガンダムSEED DESTINYのメイリン・ホークに似ており、ツインテールにまとめた赤い髪がチャームポイントとなっている。ちなみに、現実の自分より胸が大きいことで複雑な思いを抱いていたりするのだが、それは乙女の秘密である。

 

「なるほど、援軍はシリカだったのか~」

「うん、そうだよ~」

 

 納得したユウキは、シリカとハイタッチしながら微笑みあう。歳の近い2人は大の仲良しで、直葉と共に親友と呼べる間柄となっていた。もちろん、藍子とも同じように親交を深めているが、今日は別人がログインしているということを知っているので、失礼の無いように心がける。

 

「えっと、そちらの方が新しいお友達なんですよね」

「ああそうだ。見た目はランのアバターだが、中の人はメガネの似合う可憐な少女……。そう、彼女こそ、すこぶる貴重なメガネっ娘要員なのだよ!」

「変な紹介しないでくれる!?」

 

 確かに、メガネを強調されても困るだけである。

 しかし、シリカの方はソウ・マツナガの奇行に慣れているので、特に気にすることなく自己紹介を進める。

 

「初めましてシノンさん。わたしはシリカといいます」

「うん。これからヨロシクね、シリカ」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 お互いに名乗ってから和やかに握手をする。

 こうして、本来なら12月に知り合うことになる2人が、前倒しで友達になった。

 期せずして、奇妙な運命を演出することになったソウ・マツナガは、それに気づくことなく話を進める。

 

「いきなり気を使わせるようなことになって済まんな、シリカ」

「ううん、全然構わないですよ。わたしも新しい友達ができて嬉しいですから」

 

 ソウ・マツナガに謝られたシリカは、ニコリと微笑みながら答える。彼女としても、この出会いは歓迎すべきことだった。

 

「ところで、アスナとキリトはどうしたの?」

「今日は2人とも用事があるって言われたから、こっちに来たんだ~」

 

 ユウキに質問されたシリカは、ここに来た事情を説明する。普段の彼女は、小隊を組んでいるキリトやアスナと行動を共にすることが多いのだが、今日は彼らがいないため、宗太郎に連絡して一緒に遊ぶ約束を取り付けていたのである。

 

「しかし、土曜の夜に2人そろって用事とは。淫靡な情事の気配がするな」

「そ、そんなことはありませんよ! キリトさんはムッツリだから、ソッチの進展は遅いだろうって、リズさんも言ってましたし」

「確かに、良い読みをしている。あの少年は、私の誘いにも抗えるほどに身持ちが堅いからな。年増のアスナなどに身体を許すはずがない!」

「って、色々意味が変わってるんですけど!?」

「なんか、アスナとキリトって人が気の毒に思えてきたわ」

「うん、そうだね」

 

 シノンとユウキは、さりげなく酷いことを言われているキリトたちに同情した。

 しかし、これで面子は揃ったので、キリトたちの問題(?)は放っておいて、そろそろ出撃の手続きをおこなうことにする。

 隊長のソウ・マツナガが代表としてNPCに話しかけている間に、少女たちは親睦を深める。

 

「シリカはこのゲーム良くやるの?」

「そうですね……今はALOの方に力を入れてるから、週に1、2回くらいかな」

「ちなみに、ボクたちもそのくらいだよ」

「ふぅん。そんなにやってるわけじゃないんだ」

「GBOは時間をかけなくても強くなれますから、これでも十分に楽しめるんですよ」

 

 シリカは、シノンの質問に対して丁寧に答える。

 彼女の言う通り、GBOは、自作したガンプラの出来次第で大幅にパワーアップできるので、人によっては時間をかけずにトップクラスの戦いを楽しめる。使用する機体を和人や宗太郎に作ってもらっているシリカも、ユウキたちに引けを取らない強さを有しているため、少ない時間でも存分に遊べるのである。

 いずれにしても、シリカはシリカなりにガンダム世界を楽しんでいるのは確かだ。

 しかし、SAO開始当初はその存在すら知らなかった。そんな彼女がガンダムに興味を持った原因は、キリトとグラハムの繋がりにあった。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 SAOが始まって数ヶ月が経った頃。正式にグラハムの仲間になったアルゴは、自分たちの計画に協力してくれそうな人材を探すことになり、ベータテストからの知り合いであるキリトに目をつけた。若干、中二病の気はあるものの、人格面や実力は十分信頼できるので、彼を誘うことにしたのである。

 まずはこちらの意図を伝えて、賛同してくれるかを確かめてみた。するとキリトは、グラハムたちの未来設計に好意を示してくれた。しかし、仲間に入る件は断られてしまう。日常的な安らぎ感を満たすことで悪意の蔓延を防ごうと考えている彼らのところに『ビーター』として嫌われている自分がいたら迷惑をかけるだけだと思ったからだ。

 

「せっかく誘ってくれたのに悪いな」

「いや、キー坊の判断は正しいヨ。確かに今は、距離を置いておいたほうがいいかもしれなイ」

 

 アルゴは、キリトの考えに同意する。実はグラハムも、最前線で見かけたキリトの力に着目していたが、彼に向けられる憎悪の念が思った以上に大きくて、接触することを躊躇していた。この時期のビーターには、それほどまでに悪意が集中していたのである。

 キリトのことをよく知っているアルゴは、多少のリスクを背負ってでも仲間に加えた方がいいと思ったのだが、その考えは甘すぎた。

 

「でも、いつかは合流できる時が来るだろうから、お前のことはグラハムに売り込んでおくゾ?」

「ああいいよ。俺もあいつには一目置いてるからな。繋がりが出来るのは大歓迎だ」

「その言葉を聞けばあいつも喜ぶヨ……キー坊は困ることになるだろうけド」

「えっ、なんでだよ?」

「それは、知り合ったときの楽しみにしておけヨ」

 

 なぜか不敵に笑うアルゴに悪寒を感じたキリトだが、とりあえず自分の判断を信じることにした。いつかはアルゴの誘いを受けられるようになれればいいなと思いながら、有益な情報を交換し合う程度の繋がりを維持する。ビーターとして孤独を強いられているキリトにとっては、それだけでも救いとなった。

 

「グラハム・エーカーか……。どう考えてもガンダム好きだよな。俺のことを少年とか呼んでるし」

 

 キリトは、アルゴが持ってきたメッセージを思い出して苦笑する。自分もガンダム好きなので、彼とは話が合いそうだ。そう思いながら、仲間になれる日を密かに期待する。

 しかし、その希望を実現するのに1年以上の時間がかかってしまった。人恋しい気持ちに負けて加入した月夜の黒猫団が、自分のついた嘘のせいで全滅してしまったため、ギルドへ参加することを恐れるようになったからだ。

 それ以来、自暴自棄になったキリトは、無茶な戦いを繰り返して精神を疲弊していった。その状態を危惧したアルゴは、すぐにギルドへ入るように説得したが、心を蝕むトラウマがそれを許してくれなかった。キリトが自分を許せるようになるには、まだ時間が必要だった。

 説得は失敗に終わり、成果無く本拠地に帰ったアルゴは、深刻そうな表情でグラハムに報告する。

 

「あいつ、かなりやばそうだったヨ。このまま放っておいたら死ぬかもしれなイ……」

「しかし、常に監視することも、無理やり拘束することもできん。今は、少年の可能性にかけるしかないな」

「まったく……お姉さんとしては情けない限りダ」

 

 トラウマに対して無力な2人は、陰ながら応援するしかなかった。

 しかし、幸運なことに、彼らの心配は杞憂に終わる。孤独な冒険を続けていたキリトは、偶然再会したアスナと親交を深め、心の傷を癒すことができたのである。そのおかげで、ようやく落ち着きを取り戻し始めたキリトは、徐々にトラウマを克服していくことになる。

 そうして余裕が出来た頃に、偶然シリカを助けることになったのだが、それが彼女とグラハムを繋げる原因になった。

 

 

 紆余曲折の末に入手した蘇生アイテムでピナを復活させた後、別れ際にシリカの今後が気になったキリトは、とある提案をしてみた。どう見てもシリカは小学生くらいなので、この先の安全を考えれば、低年齢プレイヤーを保護しているグラハムたちのところへ行った方がいいと思ったのだ。

 

「なぁ、シリカ。もし興味があったら、オーバーフラッグスってギルドに入ってみないか?」

「えっ。オーバーフラッグスって、あの変わったことばかりしてるギルドですか?」

「ああそうだ。面白いアイテムを販売したり、奇抜なイベントを開催したりして有名な、あのギルドだよ」

 

 キリトの話を聞いたシリカは目を丸くする。

 実を言うと、既にフィリアから勧誘を受けていたのだが、彼女はその話を断っていたのである。

 今より1ヶ月前、幼い少女が中層にいるという噂を聞きつけたフィリアがピナと一緒にいるシリカを発見し、ギルドで保護するために接触した。しかし、その時の彼女は【中層域のアイドル的存在】という状況に舞い上がっていたため、他の勧誘と同じように受け流してしまったのである。

 

『こう見えても結構鍛えてるし、ピナだっているから、ギルドに入らなくても大丈夫ですよ』

『キュウ~♪』

『はぁ……こりゃ参ったわね』

 

 万事がこの調子で、どう説得しても調子に乗っているシリカの気持ちを動かすことが出来ず、流石のフィリアも引き下がるしかなかった。強引にお持ち帰りできない以上、本人にその気が無ければどうすることもできないのだ。

 今思えば、それが運命の分岐点だった。

 子供っぽい意地を張ってフィリアの警告を無視した結果、大切な相棒であるピナを失い、自分自身も死にかけた。迷いの森でモンスターに襲われた時、キリトと偶然出会えなければ確実に死んでいたはずだ。若さゆえの過ちと言って片付けるには、あまりにも致命的な失敗である。

 そう考えると、キリトの提案を受け入れるべきなのだろう。

 

「(でも、あんなこと言っておいて、今更行けないよ~……)」

 

 これまでの幼稚な行動が恥ずかしくなって、ギルド行きを躊躇してしまう。

 その辺りの事情をキリトに説明すると、心配する必要は無いと返された。

 

「大丈夫。あそこのギルマスは良いヤツだから、シリカが嫌な思いをすることはないさ」

「そうなんですか?」

「ああ。俺も口添えしておくから、安心してくれ」

「は、はい……それじゃあ、お願いします」

 

 シリカは、キリトの言葉に対して小さくうなずく。大好きな人にここまで勧められたら、断る理由など無い。

 それに、もう一度フィリアに会って、あの時のことを謝りたい。

 

「わたし、オーバーフラッグスに入ります」

「そうか。そうしてくれると俺も安心できるよ」

 

 こうして、キリトの紹介でオーバーフラッグスに加入することになったシリカは、面白おかしいグラハムと衝撃的な出会いをすることになる。

 

 

 数日後、オーバーフラッグスの本拠地にやって来たシリカは、最前線から戻ってきたグラハムと対面した。

 

「よくぞ来た! この私、グラハム・エーカーが、君の着任を歓迎しよう」

「は、はい! ありがとうございます!」

 

 シリカは、キリトに負けないくらい美少年なグラハムを前にして、頬を上気させる。しつこく求婚されたせいで男性プレイヤーに恐怖心を持っている彼女だが、グラハムからは嫌な気配を感じない。キリトとは違うタイプなのに、同じような安堵感を得られるのである。

 それにははっきりとした理由があって、シリカを見たグラハムが、歳の近い紺野姉妹を連想して優しい気持ちになったからだ。その点は、幼いシリカに妹の姿を重ねていたキリトと似ていた。

 

「(良かった……キリトさんの言ってた通り、良い人みたい)」

 

 良好な第一印象を得られたシリカは、これからの生活が楽しいものになるだろうと心を躍らせる。

 しかし、この男は、シリカの思っているような優しいだけの美少年ではなかった。

 

「君にはトップアイドルになれる素質があるとみた。その類稀な才能を、私と共に開花させてみないか?」

「はい、分かりました! ……って、なんでアイドル!?」

 

 いきなり予想外な話を持ちかけられて、初ツッコミを決めてしまう。

 

「あ、あのっ、アイドルって何なんですか!?」

「ふっ、何を今更。君は、中層域のアイドル的存在なのだろう?」

「そ、それは勝手にそう思われてるだけで――」

「皆まで言うな! 先刻承知だ。そのように謙遜せずとも、君の魅力は伝わっているさ」

「いや、ですから――」

「私は承知していると言った!」

「あーん、わたしの話を聞いてくださいっ!?」

 

 我慢弱く、人の話を聞こうともしないグラハムに困り果てるシリカ。『本当にこの人を信用していいんですか、キリトさん』なんて問いかけを心の中でしてしまう。

 しかし、グラハムとて、何の考えも無しにKYを演じているわけではない。

 

「無論、君の意思は尊重するつもりだ。嫌だと言うのならば、無理強いはしない。だが、その答えを出すのは、私の説明を聞いてからにしてもらえないかな?」

「は、はぁ……」

 

 急にまともな様子に変わり、シリカは面を食らってしまう。しかし、ちゃんと説明してくれるというのなら望む所である。

 

「ずばり言おう。君にアイドルを勧めたのは、キリトを救うためなのだ」

「えっ、キリトさんを救うため?」

 

 予想もしていなかった展開に驚く。何でここでキリトの名が出るのだろうか。

 

「君も知っているかもしれないが、あの少年は、ビーターとして一般プレイヤーから疎まれている。よくよく考えればただの八つ当たりであり、少年自体に落ち度は無いのだが、人付き合いが下手糞な中二病であるがゆえに誤解されてしまっているのだ。ベータテスターとの確執など、黙っていればいずれ沈静化していく問題だったのに、それを自ら煽ってしまうとは、マゾ体質にもほどがある」

「あの、擁護してるようで貶してる気がするんですけど……」

「そんなことはどうでもいい! ここで一番重要なのは、いわれなき中傷によって、少年が苦しんでいるという事実のみ。だからこそ、嫁候補である君が、少年の苦しみを和らげてあげるべきなのだよ!」

「ああ、なるほど……って、よよよよ、嫁候補っ!?」

 

 キリトに淡い恋心を抱いているシリカは、嫁という単語に食いついてきた。確かに、そうなってもいいかなーと思うけど……。

 

「(って、そうじゃないでしょわたし!? 今はキリトさんの力になれるって話の方を気にしなきゃ!)」

 

 何とか甘い誘惑に打ち勝ったシリカは、話の続きを促す。

 

「グラハムさん。今の話でキリトさんを助けなきゃいけないことは分かりましたけど、それとアイドルがどう繋がるんですか?」

「うむ。その疑問の答えは『ガンダムSEED』というアニメ作品にある」

「……がんだむしーど?」

 

 これまた意味不明な単語が出てきて、シリカは首を傾げてしまう。

 無論グラハムもそのような反応が返ってくることを承知していたので、懇切丁寧に説明する。

 ガンダムSEEDに登場するラクス・クラインは、国民的歌姫として慰問活動を精力的におこない、政治に影響を与えるほどのカリスマを手に入れて、反逆者の濡れ衣を着せられた婚約者を救うことができた。

 

「それを、このSAOでもやってみせようというのだよ、シリカ」

「そ、それじゃあ、わたしがその、ラクスって人みたいになって、キリトさんを助けるんですか!?」

「そうだとも! 今日から君は【赤い妖星(ようせい)のシリカ】と名乗り、アイドルマイスターを目指すのだ!」

 

 やたらと気合の入ったグラハムは、どこかで聞いたような単語を言い出した。何となく、アイドルを育成することこそが本題のような感じになってきたが、キリトのためという言葉も嘘ではない。

 ギルドの看板娘となるシリカをメインに押し出して、商品の宣伝やイベントの演出を盛り上げ、他のギルドへの認知度と好感度を高める。それと同時に『とあるビーターに命がけで助けてもらった』というエピソードをさりげなく広めていく。それを足がかりにして徐々に好意的な噂を増やし、ビーターに向けられる悪意を和らげていこうという算段である。

 安全性を第一に考えた方法なので、急激な効果は期待できないだろうが、やってみる価値は十分にある。少なくともギルドの役には立つはずだから、回りまわってキリトの支援に繋がる。

 

「(アイドルかぁ……)」

 

 シリカは、近い未来を想像して緊張する。

 グラハムから、『アブナイ奴らに目を付けられる危険性がある』と言われて一瞬迷ったが、それでもやってみることにした。最前線で戦っているキリトたちほど危険じゃないんだから、こんなことくらいで怖がっていられない。

 

「(わたしだって、キリトさんたちの役に立てるようにがんばらなきゃ!)」

 

 健気なシリカは、大好きなお兄さんのために覚悟を決めた。

 

 

 それから数ヵ月後。精力的にアイドル活動を進めたシリカは、その可愛さでもって、あっという間に人気者となり、ついにはアスナに引けを取らない有名人となった。

 そんな彼女の努力が功を奏して、キリトに対する風当たりがほんのりと改善された。

 そもそも、ここまで来たらベータテスターのアドバンテージなどほとんど無いので、未だに酷い難癖をつけている者はそれほど多くない。そういった少数意見は、周囲の空気が変われば、自然と消えていく。その気配は、グラハムとシリカにも感じられた。

 

「これもすべて君のおかげだよ。見事なアイカツだ。赤い妖星のシリカ!」

「はい! ありがとうございます!」

 

 もはやアイドルとプロデューサーのような関係になっている2人は、自分たちが達成した成果を喜び合う。

 そのような状況になったところで、そろそろ頃合だと判断したキリトとグラハムは、共通の知り合いであるリズベットの店で偶然の出会いを装い、初めて言葉を交わすことになった。

 

「黒の剣士、キリト。私は、君という存在に心奪われた男だ!」

「この流れでなぜそうなるっ!?」

「ア、アンタたち、そんな趣味だったの!?」

「って、リズまで乗って来るんじゃねーよ!」

 

 とまぁ、今と変わらないやり取りをおこなって親睦を深めた後は、アスナと一緒にちょくちょく遊びに来るようになった。

 そうこうしている内に、そのアスナとつきあっていることが発覚して一騒動起こることになるだが、それでもキリトとイチャイチャして青春を謳歌する押しの強いシリカであった。

 

「ほぅ。巨乳美少女とつきあっておいて浮気とは、見た目に似合わずお盛んだなぁ、少年!」

「お前は本当に俺の味方なのか?」

 

 すかさず茶化してくるグラハムに、割と必死な形相でツッコミを入れるキリト。実際、この後、恐ろしい笑顔を浮かべたアスナから厳しく問い質されてピンチに陥ることになるのだが、本編とまったく関係ないので割愛させていただく。

 

 

 何はともあれ、そのような経緯でガンダムSEEDを知ったシリカは、キリトたちと共に参加した【ガンダム愛好者の集い】で興味を深めることになる。その結果、ちょっぴり腐女子属性を身につけてしまったのはアレだが、ガンダム仲間が増えたことは喜ばしいことであった。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 こうして、ガンダムに興味を持ったシリカは、キリトたちと一緒にGBOを始め、現在に至っている。SAOクリアと同時にアイドルを卒業した彼女は、恋する14歳の少女として今を楽しんでいた。

 

「あっ、ソウさんが戻ってきました」

「待たせたな」

 

 みんなで話しているうちに、手続きを終えたソウ・マツナガが帰ってくる。すると、空のドックに彼の所有する宇宙戦艦が出現する。その艦は、ガンダム00に登場する私設武装組織ソレスタル・ビーイングの母艦、プトレマイオス2の同型艦だった。

 それを初めて見たシノンは、興味深そうに眺めながらソウ・マツナガに話しかける。

 

「あれがあなたたちの宇宙船?」

「ああそうだ。私は彼女に敬愛の念をこめて【フラッグシップ】と名付けている」

「何と言うか、捻りが無いのが逆に新鮮な名前ね……」

 

 ちょっぴり残念なネーミングに苦笑しつつ、初めての宇宙に思いを馳せる。

 果たして、シノンの実戦デビューはどうなるだろうか。




次回は、宇宙でガンプラバトルします。
あの有名な(?)軍人が、シノンの前に立ちふさがります。
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