ソードアート・オンライン アイとユウキのセカイ   作:カレー大好き

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今回は、宇宙空間でフィールド戦闘をおこないます。
文章説明だけですが、オリジナル機体も出ます。

※体調を崩してしまいまして、完成が遅れてしまいました。
まだ復調していないので、次回も遅れるかもしれません。
作りかけている『のんのんびより』のSSもあるから、何とか回復しないと……。


第28話 ゲームの中の戦争

 サイド1のロンデニオンから発進した<フラッグシップ>は、宇宙港を出てから180度転進してコロニーの外壁を通過する。その雄大な景観をシノンに見せてあげるためだ。

 

「どう? 外から見ると、もっとすごいでしょー?」

「うん……上手く言えないけど、圧倒されるわね……」

 

 艦の外に出てスペースコロニーの全景を見たシノンは、純粋に感動した。作り物の景色とはいえ、そこには確かに、人類が進むべき『未来の可能性』があった。

 

「コロニーの他にも、巨大な宇宙要塞とか月面都市なんてものもあるんだー」

「へぇ。これを見たら、そっちにも興味が湧くわね」

 

 シノンは、楽しそうにGBOの魅力をアピールしてくるユウキに笑顔で答える。可愛い妹分に勧められては、買ってみようかなという気になってしまう。小遣いの余裕はあまりないが、低年齢層の集客を狙っているGBOは接続料が低めなので、資金面は何とかなる。後は、シノンの決断次第である。

 とはいえ、お試し合宿はまだ終わっていないので、答えを出すのはもう少し先でもいいだろうと思いなおす。どんなに楽しくても、VRゲームをやっている本来の目的を優先しなければならない。

 でも、今だけは……普通に遊ぼうと思う。

 

「さて。コロニー見学はこのぐらいにして、そろそろパーティ会場に向かうとしよう。紳士淑女が、ダンスの相手を待ちかねているだろうからな」

「うん、いいよ~」

「ところで、今日はどこに行くんですか?」

「そうだな。ユウキたちの希望に応えて、【ソロモン宙域】へ行こうと思う」

 

 シリカから目的地を尋ねられたソウ・マツナガは、ガンダム世界における観光名所とでも言うべき有名な場所を告げる。

 ソロモン宙域とは、ジオン公国が建造した【宇宙要塞ソロモン】が置かれているエリアである。サイド1エリアと隣接しているので、移動時間はそれほどかからない。

 

「初デートの場としては申し分ないだろう?」

「まぁ、名所めぐりをしてくれるのは嬉しいけど、敵の要塞がそんな近くにあるの?」

「実際の設定ではかなりの距離があるのだが、このゲームではそうなっている。ようは、大人の事情というヤツさ」

 

 当然ながら、月軌道内の空間すべてを再現することはできないので、GBOのフィールドはゲーム的にアレンジされている。大きな拠点のあるエリアごとに区切って、広大な宇宙を現実的な広さで表現しているのだ。

 エリア間を移動するには艦が必要で、外縁部に到着すると隣のエリアに移ることができるといった仕組みになっている。

 その他の移動手段として、所属している陣営の各拠点に一瞬で移動できる【民間シャトル】もあるが、それを利用した場合はデメリットも起こる。自前の艦船を使用するには各拠点で契約金を払う必要があるため、遠出をする際は懐具合と相談する必要が出てくるのである。

 しかし、今回は目的地が近いので、その心配はいらない。

 

「でも、いきなり要塞に攻め込むのはハードル高すぎない?」

「無論、そのような火遊びはしないさ。今回我々が相手をするのは、フィールドモンスターみたいな奴らだ」

 

 今回ソウ・マツナガが狙っている獲物は、連邦エリアに入り込んでくる強行偵察部隊である。

 各エリア内で移動すると、哨戒・補給・偵察・防衛任務についている敵勢力と接触することがある。それらの敵が、RPGで言うところのフィールドモンスターというわけだ。

 実を言うと、これから向かう【ソロモン宙域エリア】は、最近おこなわれた【戦争イベント】で地球連邦軍が勝利したため、支配権が変わっていた。その影響で出現する敵も弱まっており、今回の合宿では都合のいい場所となっている。

 

「あそこならば、経験の無い初心な君でも、甘美な快感を得ることができるだろう!」

「いかがわしい言い方しないでくれる!?」

 

 ソウ・マツナガの下ネタに、すかさずシノンがつっこむが、初心者でも楽しめる場所であることは嘘じゃない。

 ちなみに、エリアの支配権を巡る戦争イベントは2パターンあり、GMが定期的に開催する【キャンペーン・ウォー】の他に、プレイヤーたちが作戦を立案する【フリーダム・ウォー】というものが存在する。

 それが認可されるには、作戦を立案した部隊(ギルド)が、条件を満たすだけの【資金と戦果】を用意する必要がある。エリア別に定められた軍資金の提供や、司令官(GM)を説き伏せるために必要なボス撃破の戦績といった条件を満たすと、エリア争奪戦を任意に発生させることができる。

 また、フリーダム・ウォーの参加者は、主催者であるプレイヤーが選べるため、仲間内で楽しむ場合に使用される。

 とはいえ、それは特殊なイベントの話であって、基本的なフィールド戦闘を楽しもうとしている今回は移動しながら敵を探すだけでいい。

 

「まず手始めに偵察部隊と戦うのね」

「うん、最初の相手としては妥当なとこかな。でも、時々強いネームドエネミーが出てくるから、油断は禁物だよ?」

 

 ユウキの言っているネームドエネミーとは、ガンダムシリーズに出演しているキャラクターが操縦している敵ユニットのことである。AIで再現されたキャラクターたちは、劇中同様の強さを有しており、返り討ちに遭うプレイヤーの方が多いほどの実力がある。特にマスターアジアの強さはデタラメで、『無理ゲーだろコレ』状態である。

 もちろん彼らはボス的存在なので、通常はクエストやイベントなどで遭遇することになるのだが、フィールドで出くわすパターンも存在する。雑魚敵を全滅させると、たまに増援として現れる場合があるのだ。それを倒すと、クエストクリア時と同じようにレアアイテムを得ることができる。

 無論、メタルキング並に出てくる確立は低いので、密かに期待することしかできないのだが、会えた場合は出来る限り倒したい相手である。

 

「その時はシノンにもがんばってもらうからね?」

「分かった、後方支援は任せてよ」

 

 やる気を高めた2人は、艦内に戻りながら拳をくっつけあうのだった。

 

 

 それから数分後。ソロモン宙域エリアに入った一行は、その中心に位置する宇宙要塞を視界に入れていた。

 

「あれがソロモン……」

 

 その光景をブリッジから見ていたシノンは、想像以上の大きさに息を呑む。

 それは金平糖のような形状の小惑星を要塞化したもので、見た目は巨大な岩石である。しかし、中身は人工的な軍事基地そのものだ。光が漏れている場所は、複数の宇宙戦艦を停泊できるスペースゲートとなっており、その周囲には、駐留しているNPC艦隊が見える。連邦の主力艦艇であるクラップ級とサラミス改級だ。素人目から見ても、この要塞が強固な防衛能力を有していると理解できる。

 ちなみに、戦争イベント以外でエリア拠点を攻略することはできず、たとえ複数の小隊で協力しても、無限のように湧いてくるNPC部隊と強力なネームドエネミーに押しつぶされるだけである。

 何にせよ、簡単に攻略できないということは間違いない。

 

「こんな要塞をよく落とせたわね」

「まぁ、ボクたちは参加できなかったから自慢できないんだけどね。原作みたいにソーラ・システムを上手く使って主力部隊を一掃したらしいよ」

「ソーラ・システムってなに?」

「でっかい鏡で太陽光エネルギーを収束して広範囲を焼き尽くす大量破壊兵器だよ」

「大量破壊兵器って、そんなものまであるの!?」

「うん。クエスト開始前に参加プレイヤーからお金を集めると、それに見合った大量破壊兵器を一つだけ使えるんだ。結構高くて使い勝手も悪いからあんまり使われないんだけど、前回は贅沢したみたいだね」

 

 詳しい話を聞いたシノンは、GGOとの違いに驚いた。あっちの世界でもっとも破壊力のある兵器と言えば、ゾンビに有効なロケットランチャーぐらいなのだが、GBOで使用できる兵器の威力は桁違いである。アニメを基にした作品と言えど、戦争の理不尽さを体験できる作りになっているのだ。

 

「でも、わたしはそんなものに頼りたくないわ」

「ボクもそう思うよ。やっぱり、MS戦がメインなんだから、マップ兵器なんて邪道だよね」

「そうね。虫眼鏡みたいなもので焼かれるなんてゴメンだわ」

 

 シノンは、遠ざかるソロモンを見つめながらつぶやいた。彼女の求める勝利には、自身を納得させるだけの手ごたえを得られる【目標】が必要なのだ。忌むべき銃を使いこなし、乗り越えたと言い切れるだけの勲章は、自らの手で掴み取らなければ意味が無いのである。

 

 

 宇宙要塞ソロモンを通過した一行は、ジオン勢力寄りの暗礁宙域にやって来た。ここら辺は、ソロモンから流れてきた岩石や兵器の残骸が漂っているフィールドとなっており、スナイパーのシノンにとっては比較的プレイしやすい場所となっている。

 このあたりまで来ると敵との遭遇率も高くなり、早速<フラッグシップ>の光学センサーが敵影を捉えた。

 

敵艦隊発見(テキカンタイハッケン)! 敵艦隊発見(テキカンタイハッケン)!』

 

 <フラッグシップ>の戦況オペレーターをしているピンクハロが警告音を発する。実に良いタイミングな上に、相手の索敵範囲外なので、奇襲もできそうだ。

 ちなみに、遮蔽物がほとんど無い宇宙空間では、光学センサーによる画像解析で数十万キロ先の目標も識別可能だが、それだとゲームにならないので、レーダー類の有効範囲はかなり狭くなっている。(恐らく、ガンダム世界では、可視光線に干渉するようなステルス機能があり、太陽や地球から届く光の反射を軽減して、艦やMSを宇宙空間の闇に溶け込ませることができるのだと思われる。そうじゃないと遥か遠くから丸見えになってしまうため、劇中でおこなわれているような奇襲作戦などは成立しない)

 いずれにしても、赤外線&レーザーセンサーの有効範囲外までは気づかれることなく近寄れるようになっており、上手く動けば奇襲も可能となっている。

 

「よし。空間機動の練習もかねて、ここら辺から出撃するとしよう」

「おっけー!」

「それじゃあ、MSの登録を済ませましょう」

 

 敵を察知すると同時に出撃することにした4人は、ブリッジで使用機体の登録を済ませると、3つある格納庫に向かう。ユウキとシノンは左舷第1格納庫、シリカは右舷第2格納庫、ソウ・マツナガは艦首第3格納庫へ向かい、それぞれの愛機に乗り込む。

 再びデュナメスのコックピットに収まったシノンは、ソウ・マツナガからもらった新装備を見て満足そうにうなずく。

 

「ほんとにソックリね」

 

 シノンは、左肩のGNフルシールドにマウントされている武装を嬉しそうに眺める。それは、へカートIIを模して制作した実弾式のスナイパーライフル【アルテミス】だった。

 派手な軌跡を残してしまう粒子ビームだと1発撃っただけで位置がバレてしまうが、フラッシュサプレッサーでマズルフラッシュの発生を抑制した実弾なら、発見されるリスクを大幅に軽減できる。その代わりに、射程と命中率の減少や弾数制限というデメリットが発生するものの、実銃に慣れているシノンにとってはこちらの方が扱いやすい。

 何より、トラウマを克服するための訓練になることが重要である。

 つまりこの銃は、シノンの事情を知っているソウ・マツナガが気を使って用意してくれたものだった。

 

「普段はとぼけてるクセに、こういう細かいところで気が利くのよね……」

 

 自分のことをちゃんと考えてくれていることが嬉しくて、自然と微笑んでしまう。

 その間に発進シークエンスが進み、登録した順番に射出される。シノン、ユウキ、シリカ、ソウ・マツナガの順だ。

 

「それじゃあ、先に行くわよ」

「了解~」

 

 後ろにいるユウキに声をかけると、シノンの<デュナメス>が射出されていく。

 

「くうぅっ!」

 

 未だに慣れないリニアカタパルトの加速に顔をしかめつつ、漆黒の宇宙に飛び出す。

 

「えっと……確か、宇宙にも上下があるんだよね……」

 

 シノンは、モニターの表示を見ながら自機の姿勢を調整する。

 ガンダム世界では、北極星の方向を『上』として水平面を設定しており、通常はそちらに頭を向けるような姿勢になって行動する。上下が無いという異常な場所にいることは、人間にとって大きなストレスになってしまうため、宇宙空間でも『地面』が必要なのだ。

 

「ふぅ。地上より難しいかも……」

「ははっ、難儀してるようだねー」

 

 後から追いついてきたユウキの機体が、フラフラしている<デュナメス>と並ぶ。

 そのMSは黒と紫を基調としたカラーリングで、一見すると鎧武者のようなデザインだった。

 

「ユウキのMSはずいぶん和風なのね」

「うん。大き目の実体剣を使いたくて作ってもらったんだ~」

 

 ユウキは、自分の愛機をじっくり見てもらおうと、ゆっくり一回転する。

 このMSは<タケミカヅチ>と名付けられたオリジナルMSである。ガンダム00でグラハムが搭乗した<スサノオ>の改良型という設定で、ソウ・マツナガが自作した。

 ぶっちゃけると、マブラヴ・シリーズに登場する戦術歩行戦闘機<武御雷(たけみかづち)>を<スサノオ>風にアレンジしたもので、少しばかりグレーゾーンな機体ではあるものの、念入りに作りこんだおかげで無事に登録できた。

 主な武装は、電撃効果が付与されている大型強化ソード【フツノミタマ】と、有線式の電磁アンカーを先端に装備した【GNプラズマビット】となっており、その名の通り、雷神と刀剣の神の要素を併せ持っている。

 射撃武器が一切装備されていないものの、ユウキのプレイヤースキルでその弱点を補っている。

 

「それもソウが作ったんだ」

「そうだよ~。今回シリカが乗ってるヤツもソウ兄ちゃんの作品なんだ」

「はい。この子はわたしのお気に入りなんですよ~」

 

 ユウキと話していたらシリカも追いついてきた。彼女の機体は、飛び跳ねるような軌跡を描いてデュナメスの左側に並ぶ。

 それに視線を向けたシノンは軽く驚く。そのシルエットは人型ではなく、猫だったからだ。しかも、背中には小型のドラゴンを模した支援機が乗っかっており、非常にメルヘンな見た目となっている。

 何にしても、赤みの強いピンク色に塗られた3頭身の猫が宇宙を飛んでいる様子は、とってもシュールだった。

 

「何か、世界観を無視した可愛いらしさね……」

「ソウさんに頼んで、現実の飼い猫とALOの使い魔を再現してもらったんです」

 

 通信画面に写っているシリカは、ニコリとしながら答える。

 彼女の機体は、ガンダムSEEDに登場する犬型MS<バクゥ>を猫っぽく改造したもので、<バクゥニャンwithピナ>と名付けている。

 全体的に可愛らしくアレンジしたボディに、<ベアッガイⅡ>を参考にして作った猫型の頭部をくっつけた愛らしい一品となっている。

 主な武装は、口内にある【カリドゥス複相ビーム砲】、両方の猫耳に設置してある【複列位相エネルギー砲・スキュラ】、前足の裏に装備された【肉球ビーム砲】、指の先から出力する【ビームクロー】などで、砲撃と近接の両方に対応できる作りとなっている。

 それに加えて、支援戦闘機のピナにも強力な武装が施されており、背中に装備された【プラズマ収束ビーム砲】、両翼に内蔵されている【ビームブレイド】、頭部に装備されている【ビームラム】といった仕様で、単体でも対艦戦闘をこなせるほどである。

 通常は背中に装着したピナがメインスラスターとして機能し、離れている時はバクゥニャンの背中に付いているリボン型ブースターと脚部に設置された高出力スラスターで移動する。

 とはいえ、見た目は可愛いニャンコだ。

 

「ガンダムって、こういうのもアリなんだ」

「まぁ、そこが面白いトコでもあるんだけど、時々調子に乗りすぎちゃう人もいるんだよねー」

「そうですね……アレは流石に恥ずかしいです……」

 

 シノンの感想を聞いたユウキたちはため息をつくような表情になり、後方から近づいてくるソウ・マツナガの機体を見ろと言う。そんな2人の態度に怪訝な表情をしつつ、言われた通りに視線を向ける。するとそこには……異様な形をしたMA(モビルアーマー)がいた。

 

「何てモノに乗ってんのよ!?」

 

 一目見て、それが何をモチーフにしているかを察したシノンは、顔を真っ赤にしながらつっこむ。その機体は、長い棒に2つの玉がくっついた【男性器】のような形をしていたからだ。

 簡単に説明するとそのMAは、ブースターを増設した<メガバズーカランチャー>の後部に、戦闘用ポッド<ボール>の改造機を2機くっつけた遠距離支援砲撃機となっている。一応、世界観は保っているが、どう見ても男の股間についている一物である。

 

「その卑猥な物体は何なのよ!?」

「ふっ。君は何か勘違いしているようだが、これはアレだ。<ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング・ボール>という、立派な機動兵器だよ」

「名前も色々アレだけど、形そのものがアウトだって言ってんの!」

 

 シノンの意見はもっともだった。

 しかし、文句を言われたソウ・マツナガは、納得できずに反論する。

 

「ふん、そこまで不評を買ってしまうとは心外だなぁ! 江戸開国を果たして調子に乗ったペリー提督が、『こんな大砲があれば、日本はおろか世界も取れるんじゃね?』と夢想したことで有名な超兵器だというのに!」

「その話自体が夢想でしょーが!」

 

 どのように言い訳しても、シノンのウケは良くならなかった。とはいえ、女子の恥ずかしがっている様子を見るのが大好きなS野郎であるソウ・マツナガは、平然とした態度で話を進める。

 

「さて、今回のミッションだが……私は高みの見物をさせてもらう」

「えっ。わざわざそんな物を持ち出しといて何もしないの?」

「ああそうだ。恥ずかしがるシノンの反応を楽しむためだけに、この機体を選んだのだからな。はっきり言って、こいつはただのワイセツ物にすぎんよ」

「自分で言うな! っていうか、改めて考えたら、ただのセクハラなんですけど!?」

 

 シノンのツッコミはもっともだった。

 しかし、これはシノンのための合宿なので、彼が参戦しないという理由には一理ある。

 

「いいわ。あなた抜きで全滅させてやるわよ」

「ふっ、いい覚悟だ。その心意気に敬意を表すよ、メガネっ娘ファイター!」

「どんだけメガネに食いついてんのよ!」

 

 気になっている男子に変なところを気に入られたシノンは、喜んでいいのか迷いながらもツッコミを入れる。

 そんな彼女の複雑な乙女心はともかく、最初の戦闘はソウ・マツナガ抜きでおこなうことになった。

 

 

 ユウキ、シノン、シリカの操る3機は、後方で待つことにしたソウ・マツナガを残して敵に近づく。

 最初のターゲットは、後期生産型のムサイ級軽巡洋艦4隻。1個戦隊という編成で、MS搭載数は16機。まともにやりあった場合は、数的に不利となる。

 

「最初に、シノンのGNスナイパーライフルで巡洋艦を狙撃してもらうよ」

「そうすれば、MSの数も減らせますから」

「うん、分かったわ」

 

 一通り作戦を決めた3人は、すぐさま行動を開始する。別行動となるユウキとシリカから離れたシノンは、相手のセンサー範囲外から狙撃できるGNスナイパーライフルを装備して、照準を巡洋艦のブリッジに合わせる。先制攻撃で一隻沈めると同時に、搭載しているMSを4機道連れにする算段だ。

 

「あれなら簡単に当てられる……」

 

 まっすぐ進んでいるだけの大きな標的を狙い撃つことなど、シノンの腕前なら朝飯前である。

 

「まずは1隻!」

 

 ズビューンッ!

 GNスナイパーライフルからほとばしるピンクの光が<ムサイ級>の装甲を突き抜ける。その成果を確認する間もなく更に連射し、2基のエンジンと胴体も撃ち抜いて、巨大な巡洋艦は宇宙空間に爆散する。10キロ以上も離れた場所で起こった爆発は線香花火程度に見えたが、シノンの初戦果はかなりの大物となった。

 

「やった!」

 

 比較的簡単な狙撃だったとはいえ、初めて戦果を上げたシノンは喜ぶ。

 しかし、その直後に残った<ムサイ級>3隻からメガ粒子砲の反撃を受ける。レーダーの有効範囲外から予測射撃をしてきたのだ。

 

「うっ!?」

 

 シノンは、初めて受ける艦砲射撃の凄まじさに驚愕する。こちらの位置を掴めていないため狙いは正確では無いものの、凶暴な極太ビームが自分に向かって飛んでくる様は恐怖すら感じる。手の平サイズの銃弾を撃ち込まれる緊張感とはまったくの別物だ。

 しかし、その非現実的なスリルが、徐々に楽しいと思えてくる。

 

「よし。ボクとシリカは突撃して敵を撹乱。シノンはデブリに隠れて狙撃よろしく!」

「「了解!」」

 

 隊長役のユウキが、各機体に指示を出す。その間に迎撃行動を開始した敵艦隊は、搭載している12機のMSを発進させる。そこへユウキとシリカが突っ込んで行き、シノンの<デュナメス>は、主戦場から離れた場所に漂う戦艦の残骸に身を隠す。

 

「これで相手から見えなくなるのよね……」

 

 シノンは、乾いた下唇を舐めるような仕草をしながら、レーダーとモニターを確かめる。

 【GNドライヴ】を主機としている機体がいる場合、敵味方共に赤外線センサーが無効化されるので、レーザーセンサーを妨害できる障害物に隠れればレーダーに映らないようにすることもできる。その場合、自分のレーダーも無力となり、光学センサーによる直接目視しか当てにならない状態になるが、シノンにとってはそちらの方が普通なので悪影響はほとんどない。

 その辺りの状況を確かめつつ、右手の装備をGNスナイパーライフルから隠密性の高いアルテミスに代えて、射撃体勢を整える。

 

「敵MSは……いた!」

 

 精密射撃用の望遠画像に、無骨な姿をした一つ目の巨人が映る。ガンダム0083に登場する<ザクII F2型>と<リック・ドムII>だ。敵艦に近づこうとしている<バクゥニャン>と<タケミカヅチ>を包囲しようとしているらしい。

 しかし、それはこちらの思惑通りだった。ユウキとシリカは、記念すべき初戦をシノンに楽しんでもらうために、あえて敵を撃墜することなく囮役を徹底しているのである。

 そして、すべてのお膳立ては整った。

 

「さぁ、シノン! 今こそあのセリフを言う時だよ!」

「えっ!? ……本当に言わなきゃダメ?」

「もちろんですよ。わたしの大好きなキャラの名セリフなんですから、カッコよく決めてください」

「う~…………わかったわよ」

 

 シノンは、通信画面から送られてくる期待の眼差しに根負けして、しぶしぶ了承する。

 

「デュ、デュナメス……目標を狙い撃つわ!」

 

 そのセリフは、本家ガンダムマイスターであるロックオン・ストラトスの名言であり、いわゆるアニメオタクではないシノンにとっては恥ずかしい行為だった。

 しかし、狙撃の方に手抜かりは無く、冷静かつ正確におこなう。

 

「(未来位置をイメージして……撃つ!)」

 

 シノンは、ソウ・マツナガに教えられたことを上手に実践してみせた。

 <タケミカヅチ>を追いかけている<ザクII F2型>に狙いを定めて、120mmの実弾を発射する。圧縮したGN粒子が込められている徹甲榴弾が、小さい炎を纏いながら銃口から飛び出していく。

 バシュッ!

 思いのほか大人しい発射音がコックピット内に鳴り響く。精神衛生上のために、音が伝わらない宇宙空間でも、地上で発せられるだろうサウンドエフェクトが聞こえるようになっているのだ。

 そしてそれは、シノンの放った銃弾によって発生した<ザクII F2型>の爆発音も再生してくれた。

 

「1機撃墜!」

 

 戦果を確認して歓声を上げる。この時シノンは、GGOをプレイしている時には感じることのない【楽しい】という感情に満たされていた。

 

「すごいよシノン! その距離で当てられる人なんて滅多にいないのに、一発で決めちゃったよ!」

「ふふっ、これでもGGOではトップレベルのスナイパーだからね」

 

 ユウキに褒められたシノンは、ちょっぴり照れながらも嬉しくなる。彼女と出会ったことで、仲間と一緒に遊べる喜びを実感し始めているのだ。

 残念ながら、シノン自身は自覚していないが、自然な笑みを浮かべているその表情を見れば本心を伺い知ることが出来る。

 

「それじゃあ、次行くわよ!」

「「了解!」」

 

 とにもかくにも、やる気スイッチが入ったシノンは、アルテミスを自在に使いこなして、撃墜数を増やしていく。そして、数分後には、12機いたMSがすべて撃ち落とされていた。1発のミスショットも無い遠距離狙撃だけでやり遂げた大戦果である。どうやらシノンは、GBOの特殊な機能との相性が良いようだ。

 

「後はボクたちに任せて!」

「一撃で決めてみせます!」

 

 想像以上の実力を見せてくれたシノンに感化されたユウキとシリカは、残りの<ムサイ級>3隻に情け容赦なく襲い掛かる。

 1隻目は<タケミカヅチ>の愛剣フツノミタマで一刀両断にされ、2隻目は<バクゥニャン>の口から放たれた極太ビーム砲で吹き飛び、3隻目はピナのビームラムによって貫かれた。まさに、圧倒的な勝利である。

 

「よし、一丁あがりぃ!」

「ノーダメの完全勝利だね!」

「ふぅ……GGOとは別のスリルがあったわ……」

 

 3人の美少女戦士たちは、それぞれの性格に合った喜び方をする。

 しかし、勝利の美酒に酔うのはまだ早かった。

 

「! レーダーに感あり!」

「まだ隠れてたヤツがいたの?」

「いいえ、これは増援です!」

 

 シリカは、瞬時に状況を察してシノンに教える。

 その直後に、離れた場所で静観していたソウ・マツナガから通信が入る。

 

「気をつけたまえ乙女たち! 次の相手は並ではないぞ!」

「えっ?」

 

 なにやら慌てた様子で合流してきたソウ・マツナガは意外な反応を示してきた。彼ほどの実力者が並ではないというのだから、相手は名うてのネームドエネミーだろう。ユウキとシリカはそのように思ったが、まさにその通りだった。

 そう、彼は見たのだ。威風堂々と接近してくる【青いMS】を。

 

「あの人は……エースだ」

「エース……?」

 

 あの機体のパイロットを知っているソウ・マツナガは戦慄する。シノンたちはそれほどの相手と戦うことになるのである。

 果たして、ソウ・マツナガがワイセツ物に乗っている状況で勝利することができるだろうか。




次回は、青いMSとの死闘と、ガンダム合宿のその後を描写する予定です。
シノンと宗太郎にちょっとしたロマンスがあるかも?
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