ソードアート・オンライン アイとユウキのセカイ   作:カレー大好き

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今回は、青い機体に乗ったエースと激戦を繰り広げます。
シノンの狙撃とツッコミが戦場を駆け抜ける。

かな~りお待たせしてしまいました。
体調の方はだいぶ良くなったのですが、モチベーションの方はまだまだ微妙なのです。
そんなわけで、恐らく次回も遅くなると思います。


第29話 宇宙を駆ける少女

 偵察部隊を殲滅したシノンたちの前にジオンの増援が現れる。それは、非常にレアなエンカウントであり、とても強力なネームドエネミーだった。

 

「あの人は……エースだ」

「エース……?」

 

 シノンは、ソウ・マツナガのセリフを反芻する。

 彼の言うエースとは、多くの撃墜数を誇る凄腕パイロットに与えられる称号であり、あの青い機体に乗った人物はそう呼ばれるべき実力を持っている。ゆえに、その言動も威厳に溢れたものとなる。

 

『ふん、連邦の犬にしては良い腕をしている。小娘と言えど侮れんな』

 

 レーザー通信の有効範囲に入った瞬間に、敵から送られてきた通信画面が表示される。そこには立派な口ひげを生やした渋い中年男性が映っていた。

 通信設定をオープンにしていると敵から話しかけられることがあるのだが、AIの場合は有名なキャラクターのみである。だからこそ、その人物を見たユウキは興奮気味に名前を叫ぶ。

 

「あっ、ランバ・ラルだ!」

「誰それ?」

「【青い巨星】の異名を持つ、ジオン軍のエースパイロットだよ……たぶん」

「? なんでたぶんなの?」

 

 シノンは、曖昧な言い方をするユウキに疑問符を浮かべる。確かに、画面に映っている人物はランバ・ラルなのだが、ユウキはとある疑いを抱いたのである。

 無論それには理由があり、相手の機体を確認しているソウ・マツナガは、その答えを得ていた。

 

「なぜなら彼は、ランバ・ラルではなく【ラルさん】だからだ!」

『ほう、こうもあっさりとわしの正体を見破るとは。できるようになったな、小僧!』

「ガンプラビルダーである私を侮ってもらっては困るな。大人気無いほど作りこまれたその機体を見れば、あなたの正体など一目瞭然。もはや隠し通すことなど出来はせんよ!」

「っていうか、会う度に同じことやってるよね? もはやお約束になってるよね?」

 

 敵機の姿を確認してようやく相手が分かったユウキは、2人の会話にツッコミを入れる。彼女の言う通り、ラルさんと呼ばれるオジサンとは過去に何度か戦っており、それ以来同じようなやり取りを続けているのだ。

 望遠で捉えた青い機体を見ると、案の定、彼の制作するガンプラの特徴が見て取れる。

 ようするに、ラルさんはAIではなく、自称35歳の人間というわけだ。

 

「機体が変わってたからちょっと迷ったけど、間違いないね……」

 

 ユウキは、ラルさんの乗っている新型MSを観察して確信する。

 その青い機体は、ファーストガンダムに登場する<ドム>を改造した<ドムR35>という名の重MSである。以前は<グフ>を改造した<グフR35>を操り、ユウキたちと激戦を繰り広げたが、つい最近になって新作のオリジナルMSを投入していた。

 武装の方は格闘戦を主体としたシンプルな構成で、両腕にマウントした【多目的シールド】による打突攻撃をメインに、両肘と両膝に搭載している【クロー】とグフ用の【ヒートサーベル】を使いこなして熟練の腕前を存分に見せつける。大型ブースターによる強力な推進力で素早く懐に飛び込み、得意の白兵戦へと持ち込む戦法に特化した、実に玄人向けの仕様となっている。

 そのように完成度の高い機体を作り、オリジナルのガンダムキャラをアバターとして使っているラルさんとは、一体何者なのだろうか?

 

「ねぇユウキ。この人はプレイヤーなの?」

「まぁ、プレイヤーって言えばそうなんだけど、ラルさんは【GMファイター】っていう特殊な人なんだ」

「GMファイター?」

「簡単に説明すると、GBOを運営しているGMの人たちです」

 

 シノンの疑問にユウキとシリカが答える。なんと、あのオジサンはGBOを制作・運営しているメーカーの社員らしい。

 ちなみに、GMとはゲームマスターのことであり、連邦のMS<ジム>のことではない。

 

「えっ、この人ってGMなの?」

「ああそうだ。ガンダム好きなGMが、大人気無い改造を施した機体で、大人気無い時間帯に出没し、大人気無い戦闘を存分に楽しむ、非常に大人気無い存在なのだよ!」

「やたらと『大人気無い』を強調するわね……」

 

 なにか思うところがあるらしいソウ・マツナガは、やたと邪念を込めて力説する。ぶっちゃけると、勤務中に趣味を満喫している彼らに嫉妬しているだけであり、ソウ・マツナガ自身も十分に大人気無かった。

 とはいえ、ラルさんが仕事以上に熱を入れていることも確かである。彼らは、モデラーではないプレイヤーのためにオリジナルMSを入手できるチャンスを与えるという名目で現れるレアキャラなのだが、はっきり言って普通にゲームを楽しんでいるようにしか見えなかったりする、ちょっぴり困った大人なのだ。

 

『気に入ったぞ小僧、それだけはっきりものを言うとはな。しかし、貴様がどう喚こうと、わしの戦場(職場)がここ(GBO)であることに変わりはない! ゆえに、全力で戦う(遊ぶ)ことは道理なのだよ!』

「ええい! 仕事と遊びを混同するとは、なんと大人気無い!」

『覚えておくがいい。関係者の特権とは、こういうことだぁ!』

 

 ソウ・マツナガとラルさんの論争は徐々に熱を帯びてくるが、その内容はかなりしょっぱかった。外見と声はランバ・ラルそのものなのに、世界観を守る気はあまり無いらしい。

 ちなみに、GMファイターにはアナベル・ガトーを演じている【カトーさん】という人もいるのだが、今日は本社で会議に出席しているため不在だった。

 

「青いMSが見えた瞬間は彼が来たと思ったのだがな」

『残念ながら、カトー大尉は会議室にて奮闘中だよ。若手のホープである彼は、上司の要求する無茶な企画を成功させようと必死になっておるのだ』

「なるほど。【ソロモンの悪夢】と恐れられる男も、所詮はしがない企業戦士というわけか……」

『そう言ってやるな。良い給料を勝ちとるには、理不尽な仕事とて逃げ出すわけにはいかんのだよ。過度のストレスを受けて生え際が後退しようともな……』

「なんと! たとえ矛盾を孕んでも勤務し続ける……それが正社員として生きる事だと言うつもりか? 楽しい時を創る企業も、中を覗けばブラックだなぁ、バン○ム!」

「飲み屋で一杯やってるサラリーマンみたいな会話しないでくれる!?」

 

 いつの間にか生々しい話を始めた2人にシノンのツッコミが入る。確かに今は純粋にゲームを楽しむ時であって、世知辛い飲みニケーションを再現されても困るだけだ。

 無論、元凶であるラルさんもこの時間を楽しみたい1人なので、彼女の意見に異論は無い。

 

『フハハハッ! このランバ・ラルが年端も行かぬ小娘に説教されようとはな。しかし、実戦ではこうはいかんぞ!』

「切り替え早っ!?」

 

 おバカな会話をしていたと思ったら唐突に歴戦の猛者へと豹変するラルさん。その変わり様にユウキたちが呆れている間に、機体を加速させて先制攻撃を仕掛けてくる。ちょっぴり卑怯な感じもするが、戦場では油断した者の方が悪い。そして、もっとも攻めやすい弱者を狙うことも常識となっている。

 そんな彼が最初に目をつけた目標は、もっとも近くにいて孤立しているソウ・マツナガの<ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング・ボール>だった。

 

『アコース、コズン、用意はいいか?』

『はい大尉』

『準備OKです』

『お前たちは狙撃型のMSに仕掛けろ。私はあの卑猥なMAをやる』

『『了解!』』

 

 ラルさんは、後方に追従している部下2人に命令を下す。彼らもまたラルさんと同様にGMファイターであり、ファーストガンダムに登場した脇役をやたらと見事に演じている。

 アコースとコズンは、ビーム・バズーカとMMP-80マシンガンを装備した<ゲルググM>を操り、ラルさんとの編隊機動を見事にこなしていたが、命令を受諾すると、シノンが隠れているデブリの方へと向かっていく。

 そして、単独となったラルさんは、ソウ・マツナガとの一騎打ちを挑んできた。離れて観戦していた彼は、少女たちよりラルさんの近くにいたため、格好の獲物となってしまったのである。

 

『砲撃型の機体で孤立するとは、迂闊なヤツだ!』

「ええい! この私が隙を突かれるとは!」

 

 ソウ・マツナガは自身の失態を罵りつつ、高速で接近してくる青いMSの機動力に舌を巻く。彼が乗っているMAは近接戦に弱い遠距離支援型なので、動きが早く小回りの利く<ドムR35>との相性は最悪だった。

 この状況で助かるにはユウキたちと合流するしかないのだが、それは間に合いそうにない。しかも彼らは、シノンの居場所まで把握済みだったらしく、隠れていた場所を<ゲルググM>に攻撃されて援護どころでは無くなった。

 

「見つかった!?」

『残念だったなぁ! お前の居場所はバレてんだよ!』

「くっ!」

「逃げてシノン!」

 

 ユウキは、2機の<ゲルググM>に追われている<デュナメス>を見て叫ぶ。宇宙に不慣れなシノンでは荷が重過ぎる相手なので、すぐに合流しなければやられてしまう。幸いこちらはユウキたちと位置が近いため、どうにか助けられそうだ。

 しかし、ソウ・マツナガの方は既に手遅れだった。悪あがきにメガ粒子砲で迎撃するが、援護の無い砲撃などが当たるはずも無く、簡単に避けられてカウンター攻撃を許してしまう。

 

『沈めぇーっ!!』

「なんとぉーっ!?」

 

 猛スピードで突進してきた<ドムR35>が、スパイク付きのシールドをナックルガードに変形させて、強烈な拳撃を打ち込む。回避行動の途中で機体の右側を無防備に晒した<ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング・ボール>は、為す術も無く攻撃を食らい、その装甲を抉り取られる。

 たったの一撃で<メガバズーカランチャー>の砲身はズタズタに引き裂かれ、右側の<ボール>は粉々に粉砕されてしまった。

 

「ぐおぉー!? 私の大事な一物をよくもやってくれたなぁ!?」

『立派な物を晒している貴様が悪いのだよ!』

「っていうか、普通にいかがわしい会話しないでくれる!?」

 

 何とかユウキたちと合流したシノンが律儀につっこんでくる。セクハラ被害者である彼女としては当然の反応だが、その報いを受けたのか、簡単にやられてしまった当人も精神的ダメージを受けていた。

 

「こんな一瞬でやられるなんて、情けなくて顔向けできねぇー! っていうか、俺は今まで何てモンに乗ってたの? ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング・ボールってなーに? こんなワイセツ物に乗って喜んでるなんて、タダの変態じゃねーか!!」

「羞恥心に負けて素に戻っちゃってるよ! 若さゆえの過ちを普通に後悔しちゃってるよ!」

「だったら最初から乗るな!」

 

 シノンのツッコミはもっともだった。しかし、味方が1機大破して戦力が低下してしまったという事実は変えられない。

 やっぱり、タダのワイセツ物じゃラルさんには勝てなかったよ。

 

「武士道とは……死ぬことと見つけたり!」

「あーん、ソウ兄ちゃんがー!」

「まさか、あのソウさんがあんなにあっさりとやられちゃうなんて!」

「ほとんど自業自得な気がするんだけど……」

 

 ようやく合流したユウキたちが、撃墜寸前のソウ・マツナガの元へやって来た。それと同時に、彼女たちを追撃していた<ゲルググM>もラルさんと接触する。これで実質的に3対3となり、ユウキたちの方が劣勢な状況になってしまった。

 

「こうなったら、ソウ兄ちゃんの弔い合戦だよ!」

「ソウさんの仇は、わたしたちが取ってみせます!」

『フフ、良い覚悟だ。この風……この肌触りこそ戦争よ!』

「はぁ、みんなノリがいいわね」

「というか、私はまだ死んでいないのだがな」

 

 ソウ・マツナガのアピールを無視して、みんなの戦意が高まっていく。棒と片玉を潰されたワイセツ物など放っておいて、今は目の前にいる強敵をいかに倒すか考える時である。

 

「シリカ! ラルさんはボクとシノンで相手するから、その間に残りの2機を倒してくれる?」

「うん、任せて! すぐに倒して合流するから!」

 

 一時的に敵の通信を封鎖したユウキは、自分たちの戦力を考慮して最善と思われる戦術を伝える。ラルさんの実力は非常に高く、ユウキとシノンの2人がかりであっても勝利するのは難しい。それでも、他の2機を無視することはできないため、戦力を分けなければならないのである。

 しかし、逆境だからこそ少女たちのハートは燃え上がる。

 

「それじゃあボクたちも行くよ、シノン!」

「わたしは後方支援に徹するのね?」

「そうだよ。ボクのことは気にしないで、バンバン狙撃しちゃってね!」

「了解!」

 

 一瞬でやるべき事を決めた少女たちはすぐさま行動に移った。

 

「行け、プラズマビット!」

 

 ユウキの言葉に反応して<タケミカヅチ>の背部にマウントされているGNプラズマビットが4基射出される。それらのオールレンジ兵器は、イメージ入力された行動パターンに従って飛び回り、ラルさんたちに襲い掛かる。

 バリバリバリッ!!

 宇宙空間に青白い電撃が走る。2機の<ゲルググM>の進路上に電磁アンカーを撃ち込んで、その動きを牽制したのである。

 

『た、大尉! 連邦軍の新兵器です!』

『うろたえるな。これが地球の雷というものだ』

「いや、ラルさんの方が間違えてるんですけど! どっちかって言うと、連邦軍の新兵器なんですけど!」

 

 電撃エフェクトを利用してアニメの一場面を演じ始めたラルさん一行にツッコミを入れる。

 しかし、彼らの余裕(?)を利用してユウキはラルさんに切りかかり、2機の<ゲルググM>と分断することに成功する。壁役に使ったGNプラズマビットはすべて撃墜されてしまったが、後はシリカの<バクゥニャン>に任せておけばいい。

 

『ほう、ビット兵器を捨て駒にするとは、思いきりの良いパイロットだな。手ごわい。しかし!』

 

 ラルさんは、ユウキの手並みに感心すると同時に<ドムR35>のブースターを全開にして、絡みつくように攻撃していた<タケミカヅチ>を押し返す。

 

「うわっ!? すごいパワーだっ!」

『グフとは違うのだよ、グフとはっ!!』

 

 少しアレンジされた名言を叫びながら、バランスを崩した<タケミカヅチ>に追撃をかける。

 とはいえ、ユウキもむざむざやられるほど甘くはない。スラスターを噴かして素早く姿勢を立て直すと、すぐさま反撃に移る。

 

「ソードスキルで鍛えた剣捌きを見せてあげるよっ!」

『ぐおぉっ!? やるな、黒いMSのパイロットめ。よくも別ゲームの動きをここまで再現したものだ!』

 

 流石のラルさんも、ユウキの凄まじい剣技に舌を巻く。例の超常現象の影響を受けている彼女は、システムアシスト無しでもソードスキル並の攻撃が出来るため、ザ・シードを使って制作されたゲームなら同じような動きを再現できるのだ。

 変幻自在に剣を振るい、華麗に宇宙を舞う<タケミカヅチ>。

 その光景を離れた場所から見ていたシノンは、あまりに見事な白兵戦に思わず見惚れてしまう。

 

「あれがALOのソードスキルか……」

 

 なぜか分からないが、眺めているうちに奇妙な既視感を覚える。

 わたしはあれを見たことがあったっけ? ううん、そんなことはない。

 だけど、ものすごく興味を惹かれるのは確かだ……。

 

「って、いつまでも魅入ってる場合じゃないわね」

 

 しばらくして我に返ったシノンは、マガジンを交換したアルテミスを構える。早くユウキを援護しなくては。

 

「未来位置をイメージして……撃つ!」

 

 シノンは、<タケミカヅチ>の一撃を盾で受け止めた隙を突いて<ドムR35>を狙撃した。先ほどまでの雑魚敵ならば確実に命中しているだろう見事な射撃である。

 しかし、必中すると思えたその弾丸をラルさんは回避してみせた。

 

「避けられた!?」

『正確な射撃だ。それゆえコンピューターには予想しやすい!』

「くっ!」

 

 完全に手玉に取られて悔しがるシノン。しかし、それも仕方が無い。ラルさんのスゴ腕とGBOに実装された特殊スキルが上手く合わさった結果だからだ。

 

 

 GBOの成長システムはスキル制となっており、以下の基本パラメータを上げることで個性的なスキルを習得できるようになる。

 

1、【射撃】……ビームライフルなどの手持ち兵装の性能に影響する。

2、【砲撃】……キャノン砲などの攻撃範囲が広い大型兵装の性能に影響する。

3、【格闘】……ビームサーベルや格闘技などの近接攻撃の威力に影響する。

4、【反応】……OSの学習率が上がって機体の動作が機敏になる。

5、【防御】……ダメージを受けた時や攻撃系スキルを使った後の硬直時間を短縮する。

6、【精神】……スキルを使用する際に消費するSP(スペシャルポイント)の回復速度に影響する。

7、【覚醒】……オールレンジ兵器の性能上昇・超能力タイプのスキルを覚えるために必要。

8、【熟練】……ノーマル機体搭乗時に性能上昇・オールドタイプのスキルを覚えるために必要。

 

 以上の8種類に入手したポイントを割り振り、特定のパラメータを一定の値まで上げると5種類の【エクストラスキル】が発現してプレイヤーのバトルスタイルが分かれていく。

 また、一度決まったエクストラスキルは変更できず、基本パラメータの上限も変化するので、自分に合ったスキルを慎重に選ぶ必要がある。

 

1、【ニュータイプ】……【射撃】【反応】【覚醒】の3つを上げると習得。超常的な索敵能力や命中精度が上昇するスキルなどを習得して、射撃戦の名手となる。

2、【SEED】……【砲撃】【精神】【覚醒】の3つを上げると習得。豊富なSPを活用して強力な砲撃を連発し、1対多数の戦闘で真価を発揮する。

3、【明鏡止水】……【格闘】【防御】【覚醒】【熟練】の4つを上げると習得。Gガンダムに登場する破天荒な技を覚えて、白兵戦に特化した熱血ファイターとなる。

4、【イノベイター】……すべてのパラメータを平均的に上げると習得。上記のエクストラスキルを平均化したようなスキルを覚えて、あらゆる局面に対応できる万能型となる。

5、【エース】……【覚醒】を0にしたまま【熟練】を中心に高めていくと習得。超能力の無いオールドタイプのままで無難なスキルを覚えていく、マニア向けの仕様となる。

 

 以上のように性質がはっきりと分かれており、それぞれのスキルで遊び方が変わってくるという楽しみもある。

 ちなみに、ユウキは【明鏡止水】、ランは【イノベイター】、シリカは【SEED】、ソウ・マツナガとラルさんは【エース】を選んでいる。

 

 

 そんなラルさんが先ほど使ったスキルは、【当たらなければどうという事はない】という名称のパッシブスキルで、自分が攻撃されたことをアシストAIの報告で知ることが出来るというものだ。エースの勘が働いて敵の殺気を感知できたという解釈となっており、致命的な攻撃を放たれた際にSPを消費することで自動発動する。

 これが【ニュータイプ】の場合は【私にも敵が見える】という名称のパッシブスキルとなり、相手の位置まで把握できるのだが、歴戦のラルさんにかかれば、そこまで分からなくても適切な回避運動ができる。

 

『良い腕をしているがまだまだ青いな、スナイパーの小娘!』

「言ってくれるじゃないっ!」

 

 ラルさんの挑発にムカッときたシノンは再び狙撃を試みる。しかし、またしても紙一重のタイミングで避けられてしまう。

 

「また外れたっ!?」

『このランバ・ラルが、そう易々と落とされるものかよ!』

 

 強烈なユウキの攻撃を見事に捌きながら啖呵を切るラルさん。つい先ほどまでおバカな会話をしていた変なオジサンとは思えないほどの変わりようである。

 

「どうして当たらないの!?」

 

 スナイパーとしてそれなりの自信を持っていたシノンは、手も足も出ない状況に苛立つ。GGOとはシステムが違うとはいえ、こうまで結果が出せないなんて……。思っていたほど自分は成長していなかったのだろうか。迷いが生じたシノンは思わず苦悩してしまう。

 そんな時に、あの男の声が届く。

 

「何を迷っている! 強くなるために戦うと言ったのは君のはずだ!」

「ソウ!?」

「たとえ今が苦しくとも、未来を示す道しるべはすぐ傍にある。目を凝らしてよく見たまえ」

「見たまえって、一体何をよ?」

「分からぬならばお答えしよう。スナイパーとはターゲットの未来を狙い撃つ者であり、その因果は過去と繋がっている。つまり、事前に相手の動きを読むことができれば、おのずと道が見えてくるはず」

「そんなこと、言われなくてもやってるわよ!」

「果たしてそうかな? 君はMSという人型兵器に惑わされて、ラルさんという人間を見ていないのではないか? あの無表情な巨人から彼の思考を読み取れなければ、弾を当てることなど出来はしないぞ」

「!?」

 

 そこまで言われてハッとなる。彼の言う通り、自分は勘違いをしていたかもしれない。

 生身の身体で戦うGGOでは、相手の心境や身体の姿勢を観察することで、ある程度動きを予測することができるのだが、ロボットを使うGBOではそれが通用せず、先ほどまではそういうものなのだと諦めていた。

 しかし、考え方を柔軟にすれば、やることは何も変わらないと分かる。人が動かしている以上、どんなものでも個性は必ず表れるはずなのだから、その法則を新たに見つければいいのだ。

 

「MSでもプレイヤーのクセは出るのね?」

「その通りだ。愛するものと接する時は、誰でも感情があらわになるものなのだよ。この機体のようになぁ!」

 

 シノンと会話していたソウ・マツナガが、突然意味不明なセリフを叫んだ。すると、大破していた<ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング・ボール>が再起動した。無事だった左側の<ボール>が、壊れた<メガバズーカランチャー>を切り離して、ユウキたちのところへ向かってきたのである。

 

「それが本体だったの!?」

「そうだ。左の片玉こそがコックピットであり、この機体の真なる姿! 刮目して見よ、我が相棒の雄姿を!」

 

 ここが見せ場だとばかりにクワッと目を見開きながらシャウトするソウ・マツナガ。すると、彼の乗る<ボール>が変化し始めた。頭頂部の装甲が中心を境に左右へ開き、中から<フラッグカスタム>の頭部が出て来たのである。

 

「勝利の水先案内人は、この<フラッグ・ボール>が引き受けた!」

「なにその変形!? 意味無い上にすっごいキモい!」

 

 シノンのツッコミはもっともだったが、これが彼なりの愛の形なのだから仕方が無い。

 

「君が何を思おうともかまわん。だが、その汚名、戦場で晴らしてみせよう!」

 

 基本的に何を言われても平気へっちゃらなソウ・マツナガは、ラルさんと戦っているユウキと合流して戦線に復帰する。彼女と協力して、ラルさんの動きをシノンに観察させるつもりなのだ。

 

「さぁユウキ! ここからは、愛の共同作業と洒落込もうかぁ!」

「おっけー、ソウ兄ちゃん! ボクの愛を存分に見せてア・ゲ・ル♪」

「はぁ、こんな時まで仲良いわね……」

 

 愛しい兄の要望に応えて、妙に色気のある声を出すユウキ。いよいよ反撃開始……と思いきや、なにやらおかしな雰囲気になってしまった。先ほどまで楽しそうに会話していたシノンといい、この3人はただならぬ関係らしいと察することが出来る。

 

『ええい、わしの前で甘酸っぱい三角関係を見せつけおって! 尻がムズムズするではないか!』

「わたしはそんなんじゃないわよ!?」

 

 ユウキとソウ・マツナガが良い感じに話していると、意外にもラルさんが食いついてきた。巻き込まれたシノンにとってはとんだ迷惑(?)だが、お茶目な彼は他人の恋バナが大好物なのだ。

 しかし、それが思わぬ隙となってしまう

 

『前々から思っていたのだが、私は君たちの関係が気になって仕方ないのだよ! どちらの少女も好きだけど、だからこそ答えが出せないもどかしさ……ああ、言葉にするだけで尻がムズムズしてしまう!』

「今だっ!!」

『なにぃ!?』

 

 ラルさんが尻の痒さに気を取られているところを狙ったソウ・マツナガは、<フラッグ・ボール>の左腕に装備されたリニアライフルを放って<ドムR35>の腹部を破損させた。

 

「他人の恋路に干渉するなど、問答無用で無粋の極み! そんな邪魔者は、故事にのっとり馬に蹴られるものと思え!」

『くっ! このランバ・ラル、戦いの中で戦いを忘れた……』

「っていうか、そんなことで被弾しないでくれる!?」

 

 まさか、あんなおバカなやり取りで弾を当ててしまうなんて……。さきほどまでの苦戦は一体なんだったのだろうか。これではシノンの苦労が水の泡である。

 

『や、やるな小僧。しかし、こちらとて、まだまだ操縦系統がやられた訳ではない!』

 

 シノンにジト目を送られて頬を赤く染めたラルさんは、失態を誤魔化すように向かってくる。今度こそ、真剣勝負の再開である。

 

「だったら、こっちも全力でいくよ!」

 

 ラルさんに触発されたユウキも、大技を繰り出すことにした。【格闘】【反応】【防御】の値が2倍に上がると同時に、思考能力の加速により操作の反応速度を上げるアクティブスキル・【明鏡止水】を発動したのだ。これは、減り続けるSPが尽きるまで効果が持続する【明鏡止水】固有のスキルである。

 

「見えた! 水の一滴!」

 

 ユウキが劇中のセリフを叫びながらスキルを発動すると、<タケミカヅチ>の装甲が黄金色に輝き出す。いわゆる、Gガンダムにおけるハイパーモードである。

 ちなみに、GNドライヴを搭載している<タケミカヅチ>は、機体性能を一時的に3倍上げる【トランザム】を使えるが、【明鏡止水】使用時は能力が上がりすぎて暴れ馬状態になってしまうため、ユウキの実力をもってしても併用は難しい。

 だから今は、【明鏡止水】だけで行く。

 

「勝負だラルさん!」

『その挑戦、受けて立とう!』

 

 ユウキからの申し出を勇ましく受けるラルさん。もとより拒否する意思など無く、彼もまた、虎の子のアクティブスキル・【エース】を発動して迎え撃つ。これは、SPが尽きるまで【覚醒】以外の基本パラメータを1.2倍に上げる効果がある。思考能力の加速が出来ない分、プレイヤースキルで埋め合わせしなければならないのだが、ラルさんほどの腕前ならば、本気を出したユウキとも対等以上に渡り合える。

 いや、それどころかソウ・マツナガとシノンが加わったとしても彼の優位は変わらない。何故ならGMファイターは、相手の【プレイヤーランク】に合わせて程よく苦戦するように能力が変化するからだ。

 しかし、シノンの実力はまだ未知数なので、彼女の活躍が意外な突破口になるかもしれない。

 

「行けシノン! 魅惑的な君の視線で、彼の心を捕らえてみせろ!」

「ようするに、相手をよく見て動きを捕らえろってことね」

 

 相変わらず回りくどい言い方に苦笑しながらも、彼の提案に乗っかる。

 

「このスキルを使えば……」

 

 音声入力でスキルウィンドウを確認したシノンは、ランのアバターが習得しているアクティブスキル・【イノベイター】を使った。これは、SPが尽きるまですべての基本パラメータを1.5倍に上げると同時に思考能力の加速も付与されるスキルで、発動の証としてアバターの両目が金色に輝き出す。

 

「これがイノベイターの力……」

 

 すべての感覚が鋭くなり、時間の流れが若干遅くなるような状態に少しだけ途惑ってしまう。しかし、これで<ドムR35>の動きがよく見えるようになった。

 

「これならいける!」

 

 テンションを上げたシノンは、反撃の準備を整えるために<デュナメス>を移動させる。ラルさんを観察しながら狙撃に適した位置とタイミングを探し出すのである。

 そんな彼女のために、ユウキたちは激しい攻撃をおこなう。

 

「秘技・十二王方牌大車併(じゅうにおうほうぱいだいしゃへい)!! でやあぁぁぁっ!!」

『うっ!? あれもMSか?』

 

 マスターアジアの秘技を使ったユウキは、小型の分身を多数放って<ドムR35>に回避運動を強要する。嵐のような攻撃がラルさんに襲い掛かり、青い機体を翻弄する。それでも彼はほとんど怯まず、僅かな損傷だけで切り抜けてみせた。

 

『これしきのこと、ハモンの小言より生ぬるいわ!』

「ちいぃ! 我らの攻撃が内縁の妻の口撃よりも劣るとは!」

 

 ラルさんの挑発にソウ・マツナガは憤る。しかし、彼らの行動は決して無駄ではない。そのような動作を何度も繰り返している内に、それを見ていたシノンが、パイロットと機体の個性を把握できるようになってきたからだ。

 回避する際に移動する距離とその方向。どこのスラスターを使うとどのように機動するか。確率の高い回避パターン。そういったデータがシノンの頭に蓄積されていく。

 そして、それらを彼女の狙撃センスと組み合わせれば……

 

「今度こそ当てられる!」

 

 確信に近い自信を感じて、思わず声に出してしまう。彼女自身も気づいていないことだが、GBOの特殊なシステムがシノンの才能を新たなステージへと導くきっかけになったのだ。ゆっくりと流れる(とき)を体感したことで、元から鋭かった観察力と洞察力が更に高まり、より正確な未来位置を予測することが可能となりつつあったのである。

 その裏にはユウキの起こした超常現象による影響もあり、別世界から送られてきた自分の因果が密かに経験値となってシノンの能力を底上げしていたおかげでもある。無論、彼女が知る由も無いことだが、この場は彼女なりに答えを出して納得する。

 

「ソウが言っていたのはこういうことだったのね!」

 

 疑問を解消して充実感に満たされたシノンは、意気揚々とアルテミスを構える。実を言うと彼の想像を超えた成果を出しているのだが、この際それはどうでもいい。

 これが三度目の正直、今度こそ狙撃をきめてみせる。

 細かく位置を調整しつつ絶好のタイミングを待ち続け……数十秒後にその時が来た。

 <フラッグ・ボール>の放った銃弾を避けた<ドムR35>が、スラスターを噴射させて右に半回転している。このタイミングで狙撃した場合、ラルさんが避ける位置は……上だ!

 

「そこっ!!」

 

 バシュッ!!

 アルテミスから発射された銃弾はシノンの思い描いた通りに宇宙を駆け抜け、上昇し始めた<ドムR35>の右脚に直撃した。

 ズガアァァァンッ!!!

 

『うおぉっ!?』

「当たった!」

 

 徹甲榴弾が炸裂した衝撃で<ドムR35>の動きが鈍る。その隙を突いたユウキとソウ・マツナガが、それぞれの剣で左右の肩を切り裂いていく。

 

「青い巨星破れたり!」

「シノン、止めを!」

「了解っ!」

 

 頼もしい仲間の支援でお膳立ては整った。後は、最後の一撃を命中させるだけである。

 

「デュナメス、目標を狙い撃つわ!!」

 

 今度の決めゼリフは堂々と叫ぶ。そして、彼女の本気が込められた銃弾は、見事に<ドムR35>の胸部へと命中した。コックピットの上部に大きな破孔を穿ち、火花とスパークを生じさせる。

 これはボスクラスの敵を撃墜した時の演出で、すぐに爆発せずにパイロットのセリフが入るようになっている。無論、キャラの個性に溢れた内容で、ラルさんは有名な負け惜しみを言う。

 

『見事だな! しかし小娘、自分の力で勝ったのではないぞ。頼れる仲間たちの協力があったおかげだという事を忘れるな!』

「……そんなこと、分かってるわよ」

 

 それは、この場のノリで出て来た言葉だったが、今のシノンには大きな意味があるように感じられた。

 何にしても、彼とのバトルはシノンにとってとても有意義な経験になったことは間違いない。

 派手に爆発する<ドムR35>を見つめながら、初めて味わう達成感に酔いしれる。

 

「やったぁー!! ホント、シノンの狙撃は最高だね!!」

「ああ、見事な腕前に感服したぞ。私の心まで射抜かれそうなほどにな」

「えっと……ありがとう」

 

 あまり褒められることに慣れていないシノンは、2人の賛辞に照れまくる。とはいえ、居心地が悪いわけではない。信頼できる仲間たちと共に喜びを分かち合っているのだから。

 

「って、綺麗にまとめようとしてますけど、わたしのこと忘れてません!!?」

「「「あ」」」

 

 可愛らしい怒声と一緒に届いた通信画面に視線を向けると、頬を膨らませたシリカの顔が映っていた。次いでモニターを見ると、気づかないうちに傍に来ていた<バクゥニャン>と<ピナ>も怒ったようなジェスチャーをしている。彼女は2機の<ゲルググM>を撃墜してから急いで戻ってきたのだが、感動の場面に間に合わず、ちょっぴり寂しい思いをしてしまったのである。

 

「ううっ、みんなのために1人でがんばったのに……」

「ああっ、シリカがヘコんだ!?」

「これはいかん! リアルでケーキをご馳走するから、機嫌を直してくれまいか?」

「……キリトさんも呼んでくれます?」

「う、うむ……善処すると言わせてもらおう」

「シリカって、見た目に反して肉食系だよね」

「え~、そんなことないよ~」

 

 ジト目のユウキにとびっきりのスマイルで答えるシリカ。そこはかとなく怪しい気配を感じるが、実に微笑ましい光景である。

 

「ふふっ……これが本当の仲間か」

 

 シノンは、仲良くじゃれあうユウキたちを見つめて、柔らかい笑みを浮かべるのだった。




次回は、ガンダム合宿の後日談となります。
今度こそ、シノンと宗太郎にちょっとしたロマンスがあるかも?
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