ソードアート・オンライン アイとユウキのセカイ   作:カレー大好き

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今回は、ガンダム合宿の後日談となっております。
詩乃の身に、かつてない災難が襲い掛かる?


第30話 アメイジング・フレンド

 激闘の末にラルさんを撃破したユウキたちは、早速今回のバトルで得た報酬を確認することにした。GBOのドロップアイテムは、ALOと同様にLA(ラストアタック)を決めたプレイヤーが得られるようになっており、見事な狙撃で止めをさしたシノンの前に確認用のウィンドウが届いていた。

 

「むふふ~、ラルさんはかなりのレアキャラだから、報酬も期待しちゃうよね~」

「うん、そうだね。部下の2人も非売品アイテムを落としていったから、もっと豪華だと思うよ?」

 

 貴重なレアキャラを倒せた喜びで、ユウキとシリカはニコニコしている。本来GMファイターと遭遇することは非常に稀なので、得られるアイテムも当然レア物となっているのだ。

 ちなみに、数回ラルさんと戦っているユウキたちも倒せたのは初めてであり、シノンやシリカと同様にゲットしたアイテムに興味津々である。

 

「さぁシノン。私たちのリビドーに応えて、神秘の扉をご開帳してもらおうか」

「あえて変な言い方するな!」

 

 楽しみすぎておかしな催促をしてくるソウ・マツナガを軽いツッコミでいなしながらウィンドウを開く。すると、おめでたい感じの曲と共にドロップアイテムの名称が表示された。

 

「えっと、<ドムR35>と出力8000kwの小型ジェネレーター。それに……ハモンのセクシーブロマイド?」

「「「生々しい私物が混じってる!?」」」

 

 予想外なお宝(?)を耳にして仲良く驚く。確かに貴重な非売品ではあるが、喜んでいいのか判断に困る代物である。いや、あえてはっきり言うと、ガンダムの食玩に入ってるガム並にどうでもいいアイテムだ。ゆえに、速攻で処分することを考える。

 

「後でクラインに売りつけるとしよう。女性に飢えてる彼ならば、きっと喜んでくれるはずだ」

「それはナイスアイデアだね!」

「たぶん高値で買ってくれますよ」

「「「フフフフフ」」」

「みんなの顔から悪意が見えるわ……」

 

 イイ笑顔を浮かべるユウキたちを見て苦笑するシノン。こんなあからさまな表情を見れば、アレルヤ・ハプティズムでなくとも彼らの悪意を感じられる。まぁ、とても可愛らしい悪戯心ではあるが。

 

「(久しぶりだな、こういう感じ……)」

 

 楽しそうにふざけあう3人を見ている内に、ふとこれまでの人生を振り返ってしまう。思えば、このようにリラックスした気持ちで遊べる時間は本当に久しぶりだ。そもそも、友人と呼べる存在は、あの事件以来1人もいないのだから当然である。

 でも今は……ユウキたちがいる。それはシノンにとって、とても高価な宝物よりも尊いものだ。

 言葉にすれば気恥ずかしいけど、嬉しい気持ちに偽りはない。彼らとこのゲームで遊べた幸せを改めて実感したシノンは、自然と笑みを浮かべてしまう。

 

「……ふふっ」

「ん? どうしたのシノン?」

「もしかして、ハモンのセクシーブロマイドが欲しいんですか?」

「違うわよ!」

 

 思わぬシリカの口撃を受けてツッコミをきめるシノン。会ったばかりの2人だが、一緒にゲームをプレイしたことで例の超常現象による影響が強まり、一気に仲が深まったのである。裏を見れば、不自然な状況だと言える。とはいえ、事実を知らなければ『一緒に遊んで仲良くなった』だけなので、ユウキたちは特に疑問を抱いていない。

 しかし、特殊な事情があるシノンは、彼女たちほど素直に受け入れられなかった。<デュナメス>のスナイパーライフルが視界に入った途端に、ふと冷静になって、とある疑念を抱いてしまう。

 

「(改めて考えるとおかしな話よね。『人を殺す』行為をやっているのに楽しい気持ちになるなんて……)」

 

 いつの間にか本来の目的を忘れてゲームを楽しんでいた自分が情けなくなり、自嘲気味な思考に陥る。

 彼女は、トラウマを克服するための【医療機器】としてVRゲームを使い始めた。だからこそ、それを楽しむなどという考えは端から無かったし、これほどリアルな物を遊び道具として見ることが出来なかった。

 しかし、ソウ・マツナガは違う。デスゲームに巻き込まれて死にそうな目にあったというのに、それでも戦争を題材としたVRゲームで楽しそうに遊んでいる。そんな彼に乗せられる形で自分もはしゃいでしまったが、果たしてこれは正常なことなのだろうか?

 

「(アイツはどんな風に思いながらやってるのかな?)」

 

 何となく彼の心情を知りたくなったシノンは、心のままに尋ねてみる。

 

「ねぇ、ソウ」

「なにかなシノン?」

「ちょっとだけ疑問に思ったんだけどさ。なんで戦争ゲームなんて物騒なことしてるのに、楽しいって思えるのかな?」

「ふん、何を言うかと思えば。軍人に戦いの是非を問うとは、ナンセンスだなぁっ!」

「なっ!? わたしは真面目に聞いてるのよ!?」

「無論、こちらも真面目に答えている。私のKYキャラに惑わされず、よく考えてみるがいい。『これはゲームであっても戦争ではない』のだから、楽しむことに何ら問題などないではないか。いや、むしろ、このゲームを正しく使っているからこそ、乙女座の軍人を楽しく演じるのさ」

「……」

 

 この時シノンは、ソウ・マツナガの意見に少しだけ怒りを覚えた。VRゲームを医療目的で使用している自分を否定されたような気がしたからだ。

 しかし、彼女の怒りは見当違いである。彼は、道具というものの本質を冷静に見ているだけだった。

 

「……そんな風にふざけることが正しいことなの?」

「その通りだと言わせてもらおう。ゲームとは【楽しく遊ぶための道具】であって、それ以外の何者でもない。使い方によっては教育や医療などにも役立つが、基本的に遊び道具であるということを見誤ってはいけない。たとえゲームであっても、間違った方向に使えば【人を傷つける凶器】となりうるのだからな」

「それはSAOのことを言ってるの?」

「ああそうだ。茅場晶彦の歪んだ望みがVRゲームを殺戮マシンに変えてしまった。遊び道具として正しく使わなかったせいで、数千人もの命が失われた。だが、VRゲーム自体に悪意があるわけではない。だからこそ、私たちは、道具の本質を理解して正しく使う必要があるのだよ」

 

 ソウ・マツナガは、茅場晶彦の起こしたSAO事件を思い浮かべながら返答する。

 あの狂人は、ゲームという遊び道具を歪めて使い、仮想世界に現実を作り出そうとした。ゲームと現実でもっとも異なる点は【本当の死の有無】であり、茅場晶彦はプレイヤーという生贄を捧げることによってSAOに死の概念を植え付け、仮想世界を現実に近づけようとしたのである。

 しかし、彼自身も認識していたように、所詮ゲームはゲームでしかない。人の命が現実の肉体に依存している以上、仮想世界の死は擬似表現でしかなかった。だからこそ彼は、自分の夢を実現するために【魂の電脳化】を試みて、本当に【異世界の住人】となる道を選んだのだろう。その手段がVRマシンであり、理想に近いSAOを見せ付けることで、自分の望みが夢物語ではないということを世界にアピールしたのだと思われる。

 ただ、キリトの前に現れた茅場晶彦の行動を考えると、SAO事件を実行した本当の目的は別の所にあった可能性もある。あの男は、自分の夢に共感し、更なる発展を促してしてくれる【仲間】を増やそうとしていたのかもしれない。世界というものは1人だけでは成り立たないものだから、後に続いてくれる人材を求めていたのかもしれない。

 何にしても、茅場晶彦が史上最悪の犯罪者であることは間違いないのだが。

 

「確かに我々は争いを題材とした娯楽を好んで楽しむが、それはあくまで倫理を遵守した上でのエンターテインメントに過ぎない。暴力をふるう心理とは似て非なるものであり、茅場晶彦の愚行とはまったくの別物だ」

 

 そこまで話を聞いてシノンは考え込む。

 擬似的な殺人行為を、殺人に起因しているPTSDの治療行為としておこなっている自分はどうなのだろう。冷静に考えれば……正しくはないと思う。

 そもそも、ゲームはそういう風に使うものではないから、効果があるかも分からないのだ。もしかすると、かえって悪化する可能性だってありうる。それが、ソウ・マツナガの言う間違った使い方なのだろう。

 

「私たちが争うことに興味を示すのも、非力な人類が過酷な生存競争を生き抜くために力を求めてきたことを省みれば、何ら不自然ではない。その性質は、戦争だけでなく学業やスポーツといった社会を支える活動にも影響しているのだから、遊び道具であるVRゲームに反映されても不謹慎だとは言い切れないだろう。言うなれば、二度の世界大戦を経てようやくまともになってきた社会倫理が、それなりに暴力をコントロール出来ている証でもあるわけだからな。ゆえに、ゲームはゲームとして、余計な思考を挟まずに、無邪気な心で楽しむ方が正常と言えるのだよ」

「なるほど……だから、暴力的なゲームを楽しんでもおかしくないのね」

「ああその通りだ……と言いたいところだが、残念ながらすべての人間に当てはまる訳ではない。人類がどんなに進化を続けても狂った奴は現れるからな。暴力行為に心奪われ、欲望のままに人を傷つける愚か者が、ゲームの有り様を歪めてしまう」

「うん……確かに、VRゲーム絡みの事件は増えてるからね」

 

 ソウ・マツナガの説明は、実に的を射ていた。

 残念ながら、暴力的なゲームをやって感化された若者が実際に暴れる事件はそれなりに起こっている。特にVRゲームが普及してから増加傾向にあり、徐々に社会問題となりつつあった。大きな利益が絡んでいる政府やマスコミは、お家芸の情報操作で火消しに回っているが、実際に被害が出ている事実は間違いなかった。

 

「とはいえ、無闇に恐れることもない。そのような愚行をしでかす者はごく少数である上に、君自身はこのゲームを正しく使えているのだからな」

「……そうかな?」

「ああそうだ。この私、グラハム・エーカーが断言する! ハモンのセクシーブロマイドを欲している君は、心の底からGBOを楽しんでいると!」

「んなもん欲しがってないわよっ!!」

 

 急に空気を変えてきたソウ・マツナガに鋭いツッコミを入れるシノン。これまでは意味深な質問をしてきた彼女の心情を読んで真面目に答えていたが、基本的にお調子者な彼がシリアス状態を保てる時間はとても短かった。

 しかも、先ほどまでのハードな会話が、何故か年下の少女たちにウケてしまい、キラキラとした視線で見つめられてしまう。

 

「シノンは哲学的にゲームをやってるんだね~。流石、現役女子高生。もっとも女子大生に近き存在……」

「雰囲気が大人っぽくて素敵ですね」

「いや、あの、別にそういうのじゃないんだけど……」

 

 クールが売りのシノンが、思わぬ反応に困惑してたじろぐ。そのギャップが可愛らしくて、Sっ気のあるソウ・マツナガは満足そうにうなずくのであった。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎて、翌日の朝が来た。時刻は午前7時。いつもなら起床している時間だが、4時間ほど前まで遊んでいた木綿季たちは、まだぐっすりと眠っている。今日は日曜日なので、すぐに起きる必要はないのだ。

 それでも、1人暮らしをしている詩乃は、身についた体内時間に促されるまま目を覚ます。

 

「ん~……もう朝?」

 

 木綿季の部屋に敷いた布団から上半身を起こし、眠たそうに目をこする。横に視線を向けると、ベッドで寝ている木綿季の姿が見える。お腹にかけていたタオルケットは床に落ち、パジャマもはだけてヘソとパンツが見えてしまっている。

 

「んにゅ~……だから、ポカリは凍らしちゃダメなんだってば~……」

 

 落ちていたタオルケットをかけ直してあげていると、おかしな寝言が聞こえてきた。なにやら某スポーツ飲料について誰かと論争しているらしい。

 

「一体どんな夢を見てるのよ」

 

 苦笑しながらツッコミを入れる。夢の内容は色々とアレだが、とりあえず楽しそうで何よりである。

 

「この子は幸せなんだね……」

 

 詩乃は、慈愛に満ちた笑みを浮かべながら思う。愛すべき妹のような存在である木綿季は、大好きな人たちに囲まれて健やかに暮らしている。その事実を改めて確認した途端、何故か涙が溢れてきた。自分でも理由は分からない。とにかく嬉しくて仕方がないのだ。

 

「っ……なんで泣くのよ」

 

 ふと我に返って疑問に思う。なんで涙が出て来たのだろう。自分が得られなかった幸せを垣間見て、つい感傷的になってしまったのだろうか。正確な理由は彼女自身にも分からなかった。

 しかし、嬉しいという気持ちを感じていることは間違い無い。恐らく、本当に心を許せる友人が出来たことに感動しているからかもしれない。これから先も、みんなと一緒に遊びたいと素直に思えるから……。

 

「こうなったら、認めないわけにはいかないわよね」

 

 この瞬間、詩乃は、自分の心に対して素直になった。こんな幸せな時間をこれっきりにしたくない。だから、GBOを始めよう。木綿季の期待と自分の希望に応えるために。

 

「週1回ぐらいなら問題無いし……」

 

 それならGGOの育成にも大きな問題は出ないだろうと分析する。

 あくまでも、現時点で優先すべきは、銃に対するトラウマを克服することである。そのためにバレット・オブ・バレッツで優勝して最強にならなければ、自身を納得させられない。

 とはいえ、木綿季たちと出会って心に余裕が出来た今は、そう急がなくてもいいのではないかと思えるようになってきた。彼女がトラウマを消したい理由は、友人と普通に遊べるような『日常』が欲しかったからだが、その理想が半ば実現した今、彼女が抱いていた焦りや苛立ちが徐々に弱まりつつあった。

 

「うん、やっぱり買おう」

 

 しばらく思案した末にようやく決心した。GBOを手に入れて、もっとたくさん木綿季たちと遊ぼう。自分の気持ちに素直になった詩乃は、晴れやかな気持ちで頷く。

 そのように満足できる答えを出してモヤモヤしていた心が落ち着いた途端に、下腹部から伝わる【尿意】に気づく。先ほどまでは考え事をしていたので気にならなかったが、気づいてしまっては我慢できない。

 

「2度寝する前にトイレに行っとこうかな」

 

 少しだけ気恥ずかしい気持ちになりながら立ち上がり、階段のそばにあるトイレへ向かう。幸い使用されておらず、すぐに用を足せる状況である。

 

「……ふぅ」

 

 詩乃は、パジャマのズボンとパンツを下ろして便座に座ると一息ついた。たとえ美少女であっても、この瞬間の開放感は共通なのだ。

 しかし、彼女はリラックスしすぎていた。1人暮らしのクセで、ついカギを閉め忘れてしまったのである。その結果、彼女と同じように尿意を催した宗太郎が禁断の扉を開けてしまうことになる。

 ガチャリ

 

「「…………」」

 

 カギが開いてることを確認した後にドアを開けると、そこには下半身をあらわにした詩乃がいた。あまりに予想外な状況だったため、事実を認識するのに時間がかかり、2人の動きがはしばらく止まる。その間に、少しだけ開いた太ももの隙間から詩乃のVゾーンを見てしまった宗太郎は、事態を把握すると同時に……悲鳴を上げた。

 

「キャ―――――――――――――――――――――――――ッ!!?」

「って、何であんたが悲鳴上げてんのよっ!!?」

 

 とってもTo LOVEるなアクシデントに、スケベであることを公言している宗太郎も流石にテンパってしまった。客観的に見れば羨ましいラッキースケベも、当事者にしてみればとんでもない災難となる。美少女の放尿シーンを見れた喜びよりも、後でおこなわれるだろうオシオキに対する恐怖の方が勝ってしまう。

 その悪夢は、数分後に現実の物となるわけだし。

 

「ほんと、スンマセンでした――――――――っ!!!!!」

 

 顔を赤らめた詩乃が恥ずかしい気持ちを抑えてトイレから出ると、木綿季の部屋の前で綺麗な土下座をした宗太郎が謝ってきた。その周りには、騒ぎに気づいて起きてきた紺野姉妹がおり、不機嫌そうな顔で仁王立ちしている。自分たちの裸を見られるのは許せるけど他の女性は許せない、複雑な乙女心が爆発している様子である。

 

「……」

「ゴメンねシノン。ウチのバカ犬が粗相をして……」

「なんて言うか、その、犬に噛まれたとでも思ってください……」

「そうです! 私のような変態は犬扱いで構いません! いや、むしろ犬と呼んでください、ご主人様!」

「それだと意味が変わってくるんですけど!?」

 

 あまりに焦りすぎておかしなことを言い出した宗太郎に、詩乃の鋭いツッコミが入る。セリフだけ見ればふざけてるのかと言いたくなるが、その表情は割と必死で、本気で謝ろうとしていることは伝わってくる。

 それに、思ったほど怒りが湧いてこない。カギを閉め忘れた自分に非があることも理由となっているが、彼の明け透けなキャラクターがどうにも憎めないのだ。無意識の内に高まっていた宗太郎への好感度が、彼女の怒りを和らげていたのである。

 ただし、当の本人はその事実に気づかず、彼には色々と恩もあるからと納得して許すことにした。無論、タダで済ます気はないけど。

 

「……本当に反省してる?」

「はいもちろん! 一生犬扱いで構わないくらいに反省してるであります!」

「それは逆に迷惑なんですけど……まぁいいわ。一つだけお願いを聞いてくれるなら、今回の事は許してあげる」

 

 そう言うと、詩乃は悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 彼女の大事なトコロを見てしまった代償とは、一体何だろうか。未知の恐怖を感じた宗太郎は、無力な子供のように竦みあがる。

 

「それで、その、お願いとはなんでせうか?」

「何もそんなに難しいことじゃないわ。あなたの手で、わたしだけの<デュナメス>を作って欲しいのよ」

「……へ?」

 

 恐る恐る聞いてみたら、思っていたほど怖くないお願いだった。それどころか、喜ばしい展開である。

 

「それってつまり、GBOを始めるってこと?」

「ええそうよ。木綿季たちと遊んでみて気に入ったから、買うことに決めたの」

「やったぁ! ボクのアピールが上手くいったぞ!」

 

 唐突にもたらされた朗報に、先ほどまでのムカムカは吹き飛んでしまった。まだ幼い木綿季にとって、恋愛と友情の垣根はそれほど高くなかった。もちろん、宗太郎を譲る気は微塵も無いけど、今は詩乃が参戦してくれた喜びの方が上だ。

 

「(よし。この調子で、今度はALOをプッシュしていくぞ)」

 

 とりあえず、例のイメージに近づけるための布石を打つことに成功した木綿季は、次の目標に意識を向ける。いつの日か、その機会が訪れるのを待ちながら、詩乃と一緒にGBOを楽しもう。

 

「まぁ、なんだ。とにかく話がまとまって、めでたしめでたしだな!」

「あんたが言うな」

 

 流れに乗って調子の良いことを言い出した宗太郎の後頭部に、詩乃のビンタがきまる。怒ってはいないけど、大事な部分を見られた身としては、もっと動揺して欲しいと思ってしまう。乙女心とは、とっても複雑なのだ。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 ガンダム合宿終了後。詩乃は、宣言した通りにGBOを購入して、定期的に木綿季たちと遊ぶようになった。その際にGBOをやっているキリト・アスナ・クライン・エギルらと出会い、シリカと同様に速攻で親しくなった。

 ちなみに、彼女のアバターは、ガンダムUCのヒロイン【ミネバ・ラオ・ザビ】に似ており、美少女好きなクラインを大いに喜ばせた。もちろん、彼のラブコールは、シノンの心にこれっぽっちも届かなかったが……。

 

「なぁ、シノン。今度リアルでお茶しない?」

「フフッ、おもしろい冗談ね」

「あ、うん、俺の定番ギャグなんだコレ……あはははは……」

「あれ……クラインを見てたら、何か涙が出てきた……」

「ってか、切な過ぎるんですけど! 健気にやせ我慢してる姿に同情を禁じ得ないんですけど!」

 

 予想以上に大敗北を喫したクラインに、みんなで仲良く涙した。悲しいけどこれ、お約束なのよね。

 

 

 そんなこんなで時間は流れて、木綿季たちと出会ってから3週間後の2025年10月5日。ようやく気温も落ち着いてきた秋口に、GGOにて第2回バレット・オブ・バレッツ(BoB)が開催された。

 その大会に初参戦したシノンは、得意の狙撃能力を存分にふるって順調に予選を勝ち抜き、本選でも大健闘して17位に入賞した。木綿季と出会い、GBOで狙撃のコツを掴んだおかげで、急激に実力が上がっていた結果である。木綿季と接点の無かった別世界では22位だったので、彼女の影響はかなり大きいと言える。もちろん、類稀なシノンの能力があればこその成果だが。

 

「今度はもっと上位を目指すわ……」

 

 大会が終わり、シノンは新たな目標を目指す。まだまだ1位の座は遠いが、十分な手ごたえは掴めた。親しい友人が出来て、心に余裕が生まれている今の彼女は、焦ることなく自己分析する。この調子で成長できれば、次の大会で優勝することも夢ではない。

 

「ユウキたちにカッコイイとこ見せたいしね」

 

 ALOから中継映像を見ているだろう仲間たちのことを思うと、つい微笑んでしまう。顔なじみの面々に加えて、まだ会ったことのない面子も応援してくれているらしい。そんな彼らに感謝しつつ、これまでの努力が結果に現れたことをささやかに喜ぶのだった。

 

 

 それから更に時は流れて、2週間後の日曜日。詩乃は、心なしか嬉しそうな表情で自室の掃除をしていた。なぜかと言うと、宗太郎が尋ねてくることになっているからだ。今回は詩乃の都合で木綿季と藍子を呼んでいないから、少しだけ緊張していたりする。

 

「よし。変な物は落ちてないわね」

 

 何度も確認してはソワソワとしてしまう。クールな印象を受ける詩乃だが、内面は初心なので、こういうシチュエーションに慣れていなかった。

 でも、悪い気はしない。新川恭二が来る時よりも意識してしまっているけど、その緊張感が心地いい。

 

「……なんでかな?」

 

 何となく疑問に思って思考に耽る。

 彼女は、トラウマで想像してしまう強盗犯のせいで男性に不信感を抱くようになってしまっており、そのせいで新川恭二の好意にも応えられないでいた。彼と付き合ってみてもいいかなと思うこともあるけど、あのトラウマがどうしてもちらついてしまう。

 それに、新川恭二の行動に違和感を覚えるときがあることも原因となっている。心に闇を抱えている彼は、現実の詩乃ではなくゲームの中の【強いシノン】に好意を抱いており、そこから生じる違和感を彼女の鋭い観察力が感じ取っていたのだ。それがトラウマと重なって、付き合うことを躊躇わせていた。皮肉なことに、彼女を苦しめる悪夢が彼女を助ける結果になっていたのである。

 

「新川くんも良い人なんだけどね……」

 

 裏の真相など露知らず、のん気に宗太郎と比べてしまう。

 良い意味で裏表の無い彼と出会って、彼女の男性観はがらりと変わった。あの男は、歳相応におバカなようで、内面は頼れる兄貴のような包容力を持った不思議な存在だ。小学生の頃に最愛の母を亡くし、中学生の頃にSAO事件に巻き込まれ、現在は父親がアメリカに単身赴任しているため1人暮らしを余儀なくされている苦労人なのだが、そんな環境でも紺野姉妹に溢れんばかりの愛情を注ぐことが出来る宗太郎の強さは、詩乃にとって尊敬出来るものだった。

 

「まぁ、エッチなのは困るけど……」

 

 とっても出来る子なのに分かり易い欠点があることを思い出して赤くなる。それもまた彼の魅力なのだが、大事なトコロを見られてしまった詩乃としては心穏やかでいられない。

 そんなタイミングで、玄関のチャイムが鳴った。

 ピンポーン

 

「ひゃうっ!?」

 

 ビックリして可愛らしい悲鳴を上げる。何もトイレを覗かれたシーンを思い浮かべている時に来なくてもいいじゃない。

 少しだけムカッとした詩乃は、乱暴な足取りで玄関に向かい、ドアスコープを覗いて空気の読めない訪問者を確認した。するとそこには、空気の読めない乙女座の男が立っていた。

 

「はぁ、宗太郎だったのね……」

「いかにも、俺は宗太郎だ」

 

 ため息をつきながらドアを開けると、いつも通りマイペースな様子で話しかけてきた。黙っていればアイドル顔負けのイケメンなのに、グラハムっぽい性格が色々と台無しにしている。まぁ、その点が一部の美少女たちに好かれていたりもするのだから、あながち欠点というわけでも無いのだが……。

 

「とりあえず上がってよ」

「うむ。お招きいただき感謝する」

 

 とにもかくにも、待っていたお客が来たので部屋に入れる。紺野姉妹で慣れている彼は、綺麗な女子高生と2人っきりでも途惑う素振りは見せない。そこがまた憎たらしいのだが、念入りに掃除した部屋を褒められるとあっさり喜んでしまう。

 

「ほう。相変わらず整理が行き届いているな。その手際に賞賛と好意を送ろう」

「う、うん……ありがとう」

 

 頬を赤く染めながらお礼を言う詩乃は、歳相応に可愛らしかった。

 そんな感じで甘酸っぱいやり取りをおこなった後、クッションの上に腰を下ろした2人は本題に入った。今日は、シノン用に制作していたガンプラをお披露目する日なのだ。紺野姉妹を連れてこなかったのは、スナイパーライフルを見て発作が起きた場合のことを考慮しての判断だった。

 そのような事情もあって、詩乃は若干緊張しながら愛機の登場を待ち、彼女の視線を一身に受けている宗太郎は、持ってきたケースから丁寧に作りこまれたガンプラを取り出した。

 

「それではお見せしよう。我が渾身の傑作……その名も<ウルティマラティオ・ガンダムデュナメス>!」

「……これが、わたしのガンダム……」

 

 新たな相棒を見た詩乃は、一番最初に綺麗だと思った。破損防止のため武装が外されているそれは、とてもすっきりとしたシルエットだった。

 その機体は、<ガンダムデュナメスリペア>を改造したもので、<ケルディムガンダム>と<ガンダムサバーニャ>の特徴も合わせたハイブリッドMSとなっている。素人が見ても素晴らしい出来栄えで、ほぼフルスクラッチと呼べるほど全体的に手を加えてある力作だが、その内容は以下の通りである。

 本体は、GGOで使っているシノンのアバターを参考に女性っぽい細身のラインに仕上げ、より人間らしい動きが出来るようになっている。

 GNドライヴは腰部後方に外装され、その両サイドに設けられたアームにライフル状のビット兵器が左右3基づつマウントされる。

 背部には4発のGNバーニアが搭載され、その両サイドに設けられたアームに大型スナイパーライフルが左右1挺づつマウントされる。

 肩部のGNフルシールドはGNシールドビットⅡの集合体となっており、分離して広範囲を防御することも出来る。

 以上のように全体的に改造が加えられて、元のデザインからかなり変化しているこの機体は、まさにシノン専用のガンダムとなっていた。

 

「どうかな詩乃。この機体、満足していただけたかな?」

「うん……すごく綺麗で気に入ったわ」

 

 <ウルティマラティオ・ガンダムデュナメス>を手にとって細部を確認した詩乃は、素直な感想を述べた。本体の方は申し分ない出来栄えで、余計な事を言う必要など微塵も無い。

 これで後は、懸案となっている武装確認をするだけだ。

 

「それじゃあ、ライフルを見せてくれる?」

「いけるのか?」

「ええ。とりあえず挑戦してみるわ」

「了解した」

 

 詩乃の意思を確かめた宗太郎は、武装を取り出していく。背部に搭載する新型ビット兵器。近接戦用に追加したGNビームピストルⅢ。若干大型化して威力を増したGNスナイパーライフルⅢ。そして、弾のサイズを120mmから135mmに変更して一回り大きくなった実体弾型スナイパーライフル【アルテミスⅡ】。それらを順次に取り出してテーブルの上に置いていく。

 

「っ!」

 

 ヘカートⅡに酷似したアルテミスⅡを見つめていると、徐々に詩乃の表情が険しくなっていく。やはり、現実では発作が起きてしまうようだ。

 

「大丈夫か?」

「え、ええ……スケールが小さい分、発作も弱まってるみたい」

「そうか……でも、無理はしないほうがいいぞ」

「うん、ありがとう」

 

 微笑を浮かべた詩乃は、宗太郎の気遣いに感謝しつつ、ゆっくりとした動作でアルテミスⅡを手にとってみる。その瞬間、例のイメージが浮かんで呼吸が荒くなるが、宗太郎に視線を向けると嫌悪感が薄れていく気がした。

 

「はぁはぁ……」

「詩乃!」

「だ、大丈夫……あなたが作ったものだって思ったら、だいぶ楽になったから」

「ふっ、そうか。それはビルダー冥利に尽きるな」

 

 そう言うと、お互いに照れ笑いを浮かべた。いつの間にか見詰め合っていたことに気づいて、何となく気恥ずかしくなったからだ。

 それと同時に詩乃は思う。これは、トラウマ克服のための良い切欠になるかもしれない。宗太郎が傍にいたら、アレを持っても発作が弱まるかもしれない。そのように考えた詩乃は、更に難易度の高い挑戦をしてみることにした。

 

「ねぇ、宗太郎。こっちに来てくれる?」

「ああ、いいとも」

 

 詩乃は、アルテミスⅡをテーブルに置くと、部屋の隅にある黒いデスクの前に移動した。宗太郎がその後に続くと、彼女はデスクの引き出しを開けて中を見せた。するとそこには、一挺のモデルガンが入っていた。

 

「ほう、見慣れない銃だ。どこで作られたものか」

「これは、GGOの大会で入賞したプレイヤーが貰える賞品よ。トラウマを克服するために使えると思って手に入れたの」

「なるほど、そういうことか……」

 

 簡潔な説明を聞いた宗太郎は一先ず納得した。

 そのモデルガンは、GGOに登場する架空の光学銃で、名を【プロキオンSL】という。彼女はこれを2週間前に入手していたが、トラウマの影響で、開封するのに更に2週間を要した。しかも、最初に手に取った時は、恐れていた通り酷い発作に襲われてしまい、結局嘔吐してしまった。

 でも、今なら……。

 

「事情を知ってる人が傍にいれば、少しは楽になるかもって思ったの」

「それで私がいる時に挑戦することにしたのか」

「うん……もしかしたら、最初に会った時みたいになっちゃうかもしれないけど、試させてもらえるかな?」

「もちろんいいとも。この私、グラハム・エーカーが、君のナイトを務めてみせよう!」

 

 この男が、覚悟を固めた乙女の願いを聞き入れないはずがない。

 嫌な提案を快く受けてくれた宗太郎に力を貰った詩乃は、真剣な表情でモデルガンに手を伸ばす。そして、ひんやりとしたグリップを握り締めて、目の前にかざす。

 

「……っ!!」

 

 黒い銃身を見つめていると、徐々に視界が赤く染まってくる。これは血だ。あの強盗犯から溢れ出た真っ赤な血だ。

 

「はぁっ、はぁっ」

 

 だんだん呼吸が荒くなる。真っ赤な世界が広がり、そこからあの男の恐ろしい顔が浮かんでくる。

 ダメだ。このままではまた、悪夢に飲まれて――

 

「負けるな詩乃! 君の仲間はここにいるぞ!」

「っ!!?」

 

 急に聞こえてきた力強い声と共に、温かいものが詩乃の身体を包み込む。背中から宗太郎が抱きついて、一緒に銃を握ってくれているのだ。

 

「未来を切り開くためには、今を見失ってはいけない! 過ぎ去った過去ではなく、今ここにいる私を感じたまえ!」

「あ、あなたを……?」

「そう、私は君の傍にいる! そして、戦友となった木綿季と藍子の想いも、君と共にあるはずだ!」

「はぁ、はぁ……木綿季、藍子……」

 

 苦しい呼吸の中、詩乃は可愛い友人たちのことを思った。すると、恐怖しかなかった心の中に、温かい感情が広がっていく。

 

「過去を変えることはできなくとも、今を共に戦うことは出来る。だから、遠慮なく私たちの手を取りたまえ! 君のためならば、喜んでこの力を貸そう!」

「……そ、宗太郎っ!!」

 

 その瞬間、詩乃の目から涙がこぼれた。自分は1人ぼっちじゃないと実感出来た喜びが、悪夢を超えて溢れ出たのだ。

 そしてそのまま宗太郎と共にトラウマと戦い続け、数分後にモデルガンを引き出しに戻した。

 

「ふぅ……」

 

 ようやく不快感から開放されて一息つく。

 結果を言うと、トラウマに打ち勝つことはできなかった。発作はある程度押さえ込めたが、嫌なイメージを払拭できたわけではなく、宗太郎がいなければ恐らく元どおりになってしまうと思う。

 それでも、改善の兆しは見えた気がする。その切欠を与えてくれた宗太郎に対して、感謝の気持ちが膨らんでくる。だから、抱きしめられた恥ずかしさを隠して、素直にお礼を言う。

 

「あの……さっきはありがとう」

「なに、礼など不要だ。この私も、美しい君を抱きしめられて役得だったからなぁ」

「はぁ……何か急にありがたみが無くなったわ」

 

 珍しくシリアスしてると思ったらこれである。詩乃にとって誤算だったのは、紺野姉妹にしょっちゅう抱きつかれている宗太郎が、この手の状況に慣れまくっていることだった。恋愛原子核である和人と同様に、恋する乙女の天敵と言える。

 その被害者(?)となった詩乃は、こんな男に惹かれつつある自分にそれでいいのかと問いたくなるのであった。




次回は、キリトたちと共に拠点防衛戦をおこないます。
大規模な戦争イベントで、ビルドファイターズのキャラも多数登場する予定です。
ちなみに、今回の章は後2話ほど続くと思います。

それと、次回も遅くなると思います。
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