ソードアート・オンライン アイとユウキのセカイ 作:カレー大好き
今回は、アメイジング・フレンド編のエピローグです。
フリーダムウォーの顛末と、現実の詩乃のその後を描いております。
ソーラレイの光が消え去り、先ほどまでの騒乱が嘘のようにソロモン近海が静まりかえる。
しかしそれも一瞬。エギルの狙い通りに勝機を得たジオン軍は、レーザーの消失と同時にすぐさま進軍を再開する。それに対する連邦軍は、半減した防衛能力を立て直すべく消失した第2スペースゲート跡に生き残ったユニットを集結させる。
「レコンが突っ込むまでここを通すな!」
『了解!!』
ギリギリの戦いを強いられることになった連邦プレイヤーたちは気合を入れ直す。とはいえ、戦力が逆転したこのピンチを凌ぎきるのは至難の業となるだろう。ほぼ無傷で逃げ延びた<デンドロビウム>を上手く使ったとしても、突破されるのは時間の問題だと思われる。
こんな状況でこそ<スサノオ400型>の性能が活かされるはずだった。しかし、ランはクラインと共にゲームオーバーとなってしまった。それを悔やんだユウキは、レーザーが消えた後に姉がいた地点を見た。すると、信じられないことに、誰もいないはずのその場所にスラスターの光が見えた。
「うそっ、レーダーに反応がある!?」
急いで確認してみるとランたちがいた辺りにMSの反応があり、ソロモンへ向けて移動をしている。その事実に驚いたユウキは、少し離れた位置にいるメイジン・カワグチを警戒しながら正体不明の機影を追う。そして、ロックオンできる範囲まで来たところで望遠画像を映し出す。するとそこには、全身傷だらけの<紅蓮武者ネオシナンジュ>が映っていた。
「あれはクライン!? 生きてたの!?」
まさか、あの状況で助かるなんて。しぶとく生き残ったクラインに思わず驚いたが、すぐにそのタネを理解する。GBOにはソーラレイにすら耐えられる防御法がいくつか存在するのだ。
クラインの場合は、<ネオジオング>に搭載されているチート兵器【サイコシャード】を使ったのである。原作では操縦者が望むイメージを何でも具現化できてしまうトンデモ兵器だが、 このゲームではエネルギーゲージとSPゲージすべてを消費することで【一定時間、ロックオンした敵の武装を破壊する】か【一定時間、あらゆる攻撃を無効化する】かの選択式となっている。戦争イベントでは1回しか使用できないとはいえ、その効果は絶大だ。
しかも、彼が使っているサイコシャードはかなりのレアパーツらしい。デフォルトのままでは持続時間がとても短く、ソーラレイに耐えられなかったはずなのだ。
「それにしても、クラインってやたらとレアアイテム持ってるなぁ……」
ユウキは、クレバーな遊び方をするクラインにちょっぴり呆れる。人付き合いの上手な彼は、ダブったレアアイテムを譲ってもらえる機会がやたらと多いのだ。そうでなければ、短いプレイ時間の間にこれだけの装備を整えられるわけが無い。
そんな彼女の読み通り、最近手に入れた高性能サイコシャードのおかげで何とか生き延びることが出来たクラインは、冷や汗を流しながら安堵する。
「ふぅ~、さっきは本当に危なかったぜぇ!」
思わぬハプニングに救われた彼は、自身の幸運に感激する。レーザーに飲み込まれる前、電撃によるダメージで<紅蓮武者ネオシナンジュ>の右足が壊れ、運良くエグナーウィップの戒めから逃れることができたのである。後は、ぎりぎりのタイミングでサイコシャードを展開して難を逃れたというわけだ。ようするに、惜しいところでランの道連れ攻撃は失敗していたのだった。
「だったらボクが姉ちゃんの仇を取る!」
何となく浮かれた様子のクラインを想像してムカッと来たユウキは、彼を追撃しようとする。しかし、そんな彼女の前にメイジン・カワグチが立ちはだかる。
「待ちたまえ。君の相手はこの私だと言ったはずだ!」
「むぅ~、やっぱり見逃してくれないか」
流石に彼を無視して行くことはできない。こうなったら、完全に決着をつけるしかない。
☆★☆★☆★☆
ソーラレイが消えた後、ソロモンへ向かうシノンの元に司令部からの報告が入る。連邦軍の被害状況とジオン軍の動向だ。それによると、現在の戦況はかなり悪いようだ。
「敵がソロモンに取り付いた? ユウキたちはなにやってるの!」
まさかあのレーザーでやられてしまったのだろうか。そうだとしたら、自分も防衛隊に加わらなければならない。
「でもその前に、あのナンパ男を何とかしないと!」
シノンは、後方から追跡してくる<ガンダムフェニーチェリナーシタ>に視線を送る。ここへ来るまでに彼女の攻撃がいくつか当たり、機体の各所に小さな傷を負っている。だが、徐々に回避パターンを変えることで直撃を回避していた。シノン同様、リカルドの操縦センスも並以上なのだ。
「君の魅力が本物だから、こんなにも追いたくなるのさ!」
ナンパ男であることを自負しているリカルドだが、ガンプラバトルに関しては一点の曇りも無い。シノンの強さは、恋のときめきにも似た熱き情熱を感じさせるのだ。
始めてから一月も経っていないビギナーでこの実力……。
「こんなものを見せられたら、体がうずく!」
そう叫ぶと同時に、バスターライフルカスタムから強力なビームが放たれる。シノンはそれを銃の動きで察知し、リカルドの裏をかくような回避運動をおこなう。しかしそのビームは<ウルティマラティオ・デュナメス>には向かってこず、前方に漂っていた戦艦の残骸に直撃した。
「なっ!?」
不意を突かれたシノンは驚く。デブリを利用することを思いついたリカルドは、彼女が後方に意識を向けた瞬間を狙っていたのだ。丁度、真横を通り過ぎようとした絶妙なタイミングで大量の残骸が衝突し、<ウルティマラティオ・デュナメス>は姿勢を崩されてしまった。
「きゃあっ!」
「前方不注意には気をつけないとなぁ!」
この瞬間を待っていたリカルドは、貴重なチャンスを逃すことなく小型ライフルを連射する。その銃弾はクルクルと回り続ける<ウルティマラティオ・デュナメス>に次々と直撃し、左肩と両足を破壊した。
「やったわね!」
愛機を傷つけられたシノンは、これ以上はやらせないとGNシールドビットⅡを放つ。攻防一体の無線式誘導兵器であるそれには小型ビーム砲が内蔵されており、破損していない7基が接近しようとしていた<ガンダムフェニーチェリナーシタ>に襲い掛かる。それを囮にしている間に体勢を整え、GNスナイパーライフルⅢで左ウイングを撃ち抜く。
「これでもうスピードは出せないわよ!」
「だったらコイツで片を付ける!」
ウイングを破壊され追撃が難しくなったリカルドは勝負に出た。バスターライフルカスタムを最大出力で放つ気なのだ。これほどの至近距離で撃てば、傷ついた<ウルティマラティオ・デュナメス>に当てることも不可能ではない。その代わりにバスターライフルカスタムは壊れてしまうだろうが、彼女を撃墜できるのであれば安いもんだ。
「ターゲット、ロックオン! 今度は俺が狙い撃つぜぇ!!」
シノンの決めゼリフを取ったリカルドは、GNシールドビットⅡの攻撃に耐えながら必殺のビームを放った。
「(このままではやられる!)」
それを悟ったシノンは、これまで温存していた切り札を使うことにした。背部にマウントされたままだった【GNリフレクタービット】を。
この装備は、<G-セルフ>のリフレクターパックを改造したもので、敵機から発射されたビームを吸収し、自身のエネルギーとして再利用できる特殊な機能を持っている。デフォルトのままでは通常レベルのビームしか吸収できないが、ソウ・マツナガはシノンのために必殺技すら無効化できるレアアイテムを用意していた。
「これで形勢逆転ね!」
「なんだと!?」
勝利を確信して放ったビームは、観音開きで面積を広げた4基のGNリフレクタービットに吸収されてしまう。しかも今度は、そのエネルギーがシノンの攻撃として再利用されることになる。
「悪いけど、これでは狙い撃てないから……圧倒させてもらうわ!!」
エネルギーを蓄えた4基のGNリフレクタービットが<ウルティマラティオ・デュナメス>の前に整然と並び、その中央に向けてGNスナイパーライフルⅢを放つ。すると、凄まじい粒子ビームが発生して、瞬く間に<ガンダムフェニーチェリナーシタ>を飲み込んだ。ウイングをやられた状態では回避も出来ず、ただ敗北を受け入れるしかなかった。
「ふっ、君に撃たれてイけるってんなら、それはそれでアリだぜ!」
生粋のナンパ野郎であるリカルドは、散り際もそれっぽかった。
☆★☆★☆★☆
シノンがリカルドを倒した頃、ジオンの艦隊は連邦の攻撃部隊に攻め立てられて狭い空間に固められつつあった。レコンの自爆攻撃で一気に全滅させるつもりなのだ。
それを見たエギルは瞬時に相手の意図を理解して、そうはさせまいとキリトたちに襲い掛かる。
「リーンホースJr.など使わせるか!」
<パーフェクトノイエ・ジール>の巨体が複数のメガ粒子砲を連射しつつ突進してくる。強化アイテムによって魔改造された砲撃は非常に強力で、接近することすらままならない。格闘戦が主体のキリトたちでは相性が悪過ぎた。SPがあれば特殊スキルで突破することもできるのだが、今は3人共にガス欠中で使えない。まさに万事休すである。
「これじゃあ間に合わないよ!」
「くっ、どうするソウ!?」
「焦るな少年! この私に考えがある!」
何やら良い手を思いついたらしいソウ・マツナガは、突進してくる<パーフェクトノイエ・ジール>の横を高速で通り過ぎる。そして、ある程度の距離を確保したところでスプリットSという空戦機動をおこない、機体を反転させた。つまり、下向きのUターンで急速旋回してエギルの下方を取ったのだ。
「たとえ屈強な男でも尻の穴は弱いもの! そこを突かせてもらう!」
「って、穴は余計だろ!?」
いつもながらの下ネタにツッコミを入れるキリトだが、それしかないとも思った。ファーストガンダムに思い入れのあるエギルは、ビグ・ザムの弱点である【機体下方の死角】をあえてそのままにしていたからだ。一応、機動力をあげることでカバーできるようにしておいたのだが、フラッグファイターの戦闘機動には流石に対応しきれなかった。
「悲しいけど、これが戦争なのだよ!」
「くっ、下か! 対空防御!」
<パーフェクトノイエ・ジール>の足に搭載されたクローミサイルが下方から急速接近してくる<フラッグサレナ>に向けて射出され、重厚な作りをした黒い装甲に次々と突き刺さる。しかし、その攻撃が破壊したものは追加装甲だけだった。傷ついたそれをパージすると、中から無傷の<ダブルオーフラッグ>が出現して、勢いを殺すことなく突進していく。
「まだまだぁ!!」
<フラッグサレナ>の装甲を犠牲にすることで、再び懐に入り込めた。このチャンスを最大限に活かさなければならない。
「死中に活あり!」
そう叫びながら右手のGNグラハムソードをビグ・ザムパーツの股下に突き刺し、前部の大型メガ粒子砲まで切り裂いていく。そして、深く突き刺さった右手のソードを手放すと、今度は左手のそれで周囲のメガ粒子砲を横薙ぎにする。これで<パーフェクトノイエ・ジール>の攻撃力は半減した。
その代わりにソウ・マツナガ自身がリタイアすることになったが。
「たかが1機のモビルスーツに、この<パーフェクトノイエ・ジール>をやらせはせん!」
下方で発生した爆発の震動を感じつつ、エギルは反撃に出る。左右の有線クローアームを飛ばして、攻撃を終えた瞬間の<ダブルオーフラッグ>を串刺しにしたのである。
「これは死ではない! 連邦が勝利するための……!!」
ズガァ―――――ンッ!!!
絶妙なタイミングで<ダブルオーフラッグ>が爆散する。まさに劇場版グラハム・エーカーのような死に様である。しかし、実際はスレッガーさん役であり、この直後にアムロ役のキリトが満を持してやってくる。
「うおぉぉぉぉ―――っ!!」
視界を遮る爆煙の中から<ダブルオーガンダム・ソードマスター>が現れ、動きを止めた<パーフェクトノイエ・ジール>に必殺の剣技をお見舞いする。
「食らえっ! なんちゃって、スターバースト・ストリーム!!」
気合を入れたキリトは、自慢の反応速度でSAOのソードスキルを再現して見せた。華麗な連続16回攻撃で<パーフェクトノイエ・ジール>を切り刻み、ようやく撃破に成功する。
「ぐおぉ――っ!? ジオン公国に栄光あれ――――っ!!」
どこまでもノリノリなエギルは、ガルマやドズルにも負けない立派な最期を遂げる。
これで一番厄介な<パーフェクトノイエ・ジール>は消えた。<サイコガンダムMk-II>も他の仲間が追い込んでいるので、ジオンのMAが全滅するのも時間の問題だろう。
「ふぅ、何とか倒せたな」
「うん。後はレコン君を守りきるだけだね」
生き残ったキリトとアスナは、身を挺したソウ・マツナガのことを気にかけることもなく、すぐさま次の敵へ向かう。一見すると冷たいようだが、グラハム好きな彼はこの手の最後が多いので、いちいち構っていられないのだ。そんなメガンテ野郎に気を使うより敵MSを減らすことを優先すべきだろう。
☆★☆★☆★☆
一方、メイジン・カワグチに挑まれたユウキは、劣勢に追い込まれていた。キリトよりも空間機動に慣れている彼女だったが、メイジン・カワグチのセンスも負けておらず、プレイ時間の差で僅かに劣勢となっていたのである。対戦相手の全力を引き出しつつも圧倒的な力をもって勝利する。それが、メイジンの名を受け継いだユウキ・タツヤのガンプラバトルだった。
「この機会に経験させてあげよう! メイジンの名を受け継いだ男のガンプラバトルを!」
好敵手と呼べる相手に巡り会えたメイジン・カワグチは、更にモチベーションを上げていく。だが、対するユウキの方は微妙な気持ちになっていた。
「まぁ、メイジンと戦えるのはボクも嬉しいんだけど……さっきから全然攻撃が当たらないよぅ!」
ユウキは、何度か鍔迫り合いを繰り返しているうちに違和感に気づく。まるで自分の動きを読まれているかのように上手くあしらわれてしまうのだ。
剣技に関してはユウキの方が上なのに何故このような状況になっているのか。その答えは、メイジン・カワグチの巧妙な機動にあった。剣を振るう際の初期モーションを覚えることで攻撃位置を予想し、事前に対処動作をおこなっていたのである。そうすることで、ユウキの人並みはずれた処理速度に対抗しているのだ。実を言うと、ギャンブル性の高い苦肉の策なのだが、メイジン・カワグチの高いバトルセンスとGBOのシステムが上手い具合に噛み合って、彼女の攻撃をほぼ無力化していた。
「君には天賦の才がある。それに見合った向上心もある。しかし……今はまだ未熟!」
「言ってくれるねっ!」
上から目線のメイジン・カワグチに剣を振り下ろすことで自分の意思を伝える。目の前にいる<アメイジングレッドウォーリア>は、左手のガンブレイドを下方に弾かれたばかりで体勢を崩している。これならこちらの攻撃も当たるか――ユウキがそう思ったその時、<アメイジングレッドウォーリア>の両肩に搭載されている可動式バーニアユニットが前を向いて、思いっきり噴射炎を吐き出した。
「うわぁー!?」
いきなり視界が真っ白に染まる。更に、バーニアの圧力で、一瞬だけ機体の自由が奪われる。
まずい、大きな隙が出来てしまった。瞬時に危機を感じ取り、<ブレイヴセイバー・オルタナティブ>をその場から避退させようとする。だが、その動作は少し遅かった。移動を始めた機体の左肩にハイパーバズーカから放たれた実弾が直撃したのである。
ズガァ――――ンッ!!!
「あぁっ!」
思わぬ攻撃で左腕を破壊されてしまった。まさに、ガンプラの性能を完全に使いこなした戦い方であり、これには素直に感服するしかない。
「(でも、まだ負けたわけじゃないよ!)」
こんなことでユウキの心はへこたれない。ソウ・マツナガも勝ったことがあるのだから、絶対に勝てない相手じゃないはずなのだ。
とはいえ、どうしたらこの劣勢をくつがえすことが出来るのだろうか。お互いに能力上昇スキル――【明鏡止水】と【エース】を使っている状態で一歩抜きん出るには……。
「(もうアレしかない!)」
勝利を手に入れるための希望を見出したユウキは、禁断の合わせ技を使う決心をした。これまで何度か試してみたが、あまりにステータスが上がりすぎて翻弄されるだけだった。それを使いこなすことが出来れば、メイジン・カワグチに勝つことが出来るかもしれない。だったら、ぶっつけ本番で成功させてみせる。
何故か湧き上がってくる自信に心を押されたユウキは、起死回生となるだろうスキル名を叫ぶ。
「【トランザム】!!」
可愛らしくも勇ましい声で有名なあの機能が発動する。それと同時に、金色に染まっている<ブレイヴセイバー・オルタナティブ>が更に赤く発光しだす。【明鏡止水】と【トランザム】を同時併用することで、機体性能とプレイヤー能力を大幅に増強したのである。これをおこなった際のじゃじゃ馬ぶりは尋常ではなく、上位レベルのプレイヤーでさえまともに扱えない。
しかし、今のユウキなら使いこなすことが出来る。メイジン・カワグチの言葉をきっかけにして無意識のうちに【絶剣】である自分を体感した彼女は、更に別世界の自分へと近づいていたからだ。GBOのアシストAIシステムで加速した思考能力がメディキュボイドと接続していた状況を擬似的に再現していたという偶然も重なって、とんでもない反応速度を実現した。
「うおぉぉぉぉぉ―――――っ!!」
まさに絶対無敵と化したユウキは、すさまじいスピードで<アメイジングレッドウォーリア>に迫る。
「なんとぉーっ!?」
その常識破りの速度にメイジン・カワグチも唸るしかない。あまりにも早すぎて彼の予測も間に合わないのだ。
「これが彼女の本気か……!」
短くも激しい攻防の末にようやくGNソードEXが当たり、<アメイジングレッドウォーリア>の左腕を切り裂いた。更に、後方へ逃れようとしていた所を追撃して左足を切断する。
「この私が圧倒される!?」
豹変したユウキの力に驚きながらも、胸部に内蔵されている3連ミサイルポッドで牽制する。彼女がそれを切り払っている間に何とか距離をかせぐが、それも焼け石に水だった。スキルの発動が終わるまで一時的に離れる作戦に出た<アメイジングレッドウォーリア>を見て、ユウキは<ブレイヴセイバー・オルタナティブ>の使える最高の大技を使うことにした。隙の多い必殺技なためこれまでは使えなかったが、今ならいける。
この好機を逃すまいと背部に搭載していた6基のGNソードビットEXを射出させ、GNソードEXと合体する。そうして巨大な両刃の剣【GNエクスカリバー・モルガン】を完成させて、最強の必殺技を繰り出す。
「我が旭光の錆と消えよ!
ユウキの掛け声とともに、前に突き出したGNエクスカリバー・モルガンから眩しい光がほとばしる。それは長大な光の刃となって宇宙空間を走り、その先にいる<アメイジングレッドウォーリア>の胴体を吹き飛ばした。
「先ほど未熟と言ったことを訂正させてもらおう。君のガンプラバトルは、今この瞬間にも成長し続けている……その力を誇るがいい、絶対無敵の剣姫よ!」
散り際も潔いメイジン・カワグチは、ユウキのバトルを賞賛しながら消えていく。その言葉通り、彼女は素晴らしい力を示して最強のガンプラファイターを倒してみせた。しかし、ユウキの心は喜びよりも疑問に満ちていた。
「絶対無敵の剣姫…………絶剣」
知らないうちに自分に付けられていた二つ名。それを何となく略してみたらドキンと胸が高鳴った。理由は分からないが、妙に心をざわつかせる言葉だ。でも、ここで聞くべきものでは無い気がするのは何故だろう。漠然とだが、そう思えてならないのだ。
そんなユウキの違和感は、確かに当たっていた。これも別世界からもたらされた因果がこの世界に与えた影響だからだ。別世界のユウキとは異なる道を歩んでいるため、異なる形で【絶剣】という因果が反映されてしまったのである。
この歪みとも言える現象がVRゲームの世界に与える影響はどこまで広がるのか。そんなことが起きていることすら知らないユウキには想像できるはずもなかった。
☆★☆★☆★☆
各フィールドで名だたるプレイヤーが消えていく中、しぶとく生き残っているクラインは、ソロモンの中枢部へ向かうべく、しぶといバトルを続けていた。
「これで終わりだぁ!」
合流した仲間の援護を受けて<デンドロビウム>の懐に飛び込み、本体の<GP03>を串刺しにする。防衛部隊の要となっていたこの機体を倒したことで、いよいよ勝機が見えてきた。
「クライン隊長。ここは俺たちに任せて、先に行ってくれ!」
「了解! 勝利を土産に持って帰るぜ!」
サムズアップして送り出してくれた仲間に応えて、後ろを振り返ることなく前進する。目指すはソロモン中枢部に設置されたメインジェネレーターを管理するコントロールルームだ。
「邪魔すんなぁーっ!」
進路を塞いでいた<ガンイージ>を切り捨てながら突き進む。そのまま勢いを止めることなくソーラレイによって融解したゲート跡を通り抜け、その奥にあるメインシャフトに到達する。後は、この真下にあるコントロールルームを破壊すればジオン軍の勝利となる。
「はっはーっ! 今回は俺の勝ちだぜキリの字!」
勝手にライバルだと思っているキリトに向かって勝利宣言する。たとえ負けてる要素ばかりでも、彼はめげないへこたれない。どこまでも前向きな性格がクラインの強さであり魅力でもあるのだ。
「ここらでお兄さんは出来る子だってことをシノンやランちゃんたちに見せ付けなきゃな!」
どうやら彼は、知り合いの美少女たちに自分をアピールする気でがんばっていたらしい。こういう女好きな部分を見せられると、前向きすぎるのも少し考え物かもしれない。
とはいえ、彼のヨコシマながんばりによって勝敗が決しようとしているのも事実だった。今、クラインの眼前には無防備なコントロールルームがある。ここに愛刀を突き立てれば、この戦いも終わる。
「行くぜぇ―――――っ!!」
刀を水平に構えたクラインは、<紅蓮武者ネオシナンジュ>を吶喊させようとする。その直後だった。彼の真上から粒子ビームが降ってきたのは。
ズビュ―――ンッ!!
「え?」
感知スキルが働いたが、浮かれていたせいで反応が遅れた。刀を構えて突進しようとしていた<紅蓮武者ネオシナンジュ>の頭部に粒子ビームが直撃し、そのまま胴体を突き抜けていく。
「そんなバカなぁ―――――……」
ドッカ――――ンッ!!
驚愕の表情を浮かべたクラインの叫び声は、爆発音の中に掻き消えていく。そんな彼の最後を見届けたシノンは、GNスナイパーライフルⅢの構えを解いて宙に漂う。
「ふぅ……何とか間に合ったわね」
ギリギリのタイミングで危機を救ったシノンは一息つく。リカルドを倒した後にソロモンへ戻ってきていた彼女は、メイジン・カワグチと戦っていたユウキよりも先にこの場へ辿り着いたのである。
「ふふっ、これならソウにも自慢できるわ」
何かと彼にやられっぱなしなシノンは、ようやく仕返しが出来るとイタズラっぽい笑みを浮かべる。出会って間もないのに、彼女も大分、彼らの雰囲気に染まってきたようだ。
何はともあれ、シノンたちの活躍によって勝敗は決した。更に、クラインの攻撃が失敗したすぐ後に<シルフィード>の自爆攻撃がきまり、ジオン艦隊が全滅した。その結果、今回のフリーダムウォーは連邦軍の勝利で幕を閉じるのだった。
☆★☆★☆★☆
大いに盛り上がったフリーダムウォーから1週間後の土曜日。祝勝会と残念会を兼ねたオフ会がダイシーカフェにて催されることとなった。実を言うと、リアルで詩乃を紹介しようと画策した木綿季が発案したもので、GBOをやっていない面子も呼んでいる。もちろん詩乃本人にも説明しており、ちゃんと了承を得ている。ただ、内心ではかすかな不安を抱えていたが。
午後12時半頃。土曜日にも授業がある進学校に通っている詩乃は、ホームルームを終えた教室で帰り支度をしていた。普段なら学生特有の開放感に満たされる瞬間であり、周りの生徒たちは午後の予定を楽しそうに語り合っている。しかし、詩乃だけはスッキリしない表情をしていた。和人たちと会うことを少しだけ躊躇してしまっているのだ。不良少女たちに騙された経験が新たなトラウマになって、現実で親しい友人を作ることを避けていたことが原因だった。歪んだ動機で近づいてきた新川恭二や、超常現象の影響により運命的な出会いを果たした木綿季たちと友人関係を築けたのは例外中の例外だったのだ。
「ほんと、情けないわね……」
ゲームの中では普通に振る舞えるのに、現実では上手くいかない。そのもどかしさについ苛立ってしまう。現状を変えられない自分が嫌で。それでも秘密を知られた時の変化が怖くて。結局、心に壁を作って停滞してしまう。木綿季たちと出会ってから前向きな思考が出来るようになったものの、過去の恐怖を完全に払拭できたわけではなかった。
「(宗太郎はこれまで通りでいいって言ってたけど……)」
以前、秘密を抱えた罪悪感を何とかしたくて、紺野姉妹にだけは事情を話すべきかと彼に聞いてみたことがあったのだが、その時にこう言われた。
『君の秘密は保護されるべきプライバシーの一部なのだから、無理に打ち明ける必要はないよ。誰だって大なり小なりの秘密を抱えているものだからな。ただ、心の底から話すべきだと思った時は、迷うことなく打ち明けるといい。君自身が納得していれば、私に聞かずともそうしているだろう? そしてその時は、相手も必ず納得してくれるはずだ。君がそう信じた人物ならば間違いないさ』
確かに彼の意見は正論であり、説得力があった。そもそも、自分が納得できていなければ余計な気を使わせるだけになってしまう。つまり、迷っている時点で『話すべき時』ではないということになる。
「(大体、今日はオフ会じゃない……)」
せっかく木綿季たちがお膳立てしてくれたんだから、暗いことなんか考えてないでしっかり楽しまなきゃ。宗太郎の言葉を思い出したおかげで心が軽くなった詩乃は、ようやく落ち着くことができた。
よし、この気持ちのままでみんなと会おう。そう思いながら教室を出たところで、ポケットに入れていたスマホが震える。
「えっと……宗太郎から?」
画面を見ると彼の名前が表示されている。間が良いのか悪いのか、彼の事を考えているタイミングで接触してくる場合が多い気がする。それも、ちょっぴり恥ずかしくなるような時に限って……。
「ま、アイツは自他共に認めるKY野郎だからね」
宗太郎との付き合いに慣れてきた詩乃は、『仕方ないわね』と苦笑しながら着信に応じる。廊下の窓際に寄ってからスマホに話しかけると、おかしな男がおかしな言葉で挨拶してきた。
「もしもし?」
『こんにちわだなぁ、朝田詩乃! こちらはグラハム・エーカー上級大尉だ』
「はいはい。それで、何のようなの宗太郎?」
『ふっ、連れない物言いだな。たとえ用事が無かったとしても、親しい友人の声を聞きたくなった……それだけでは理由にならないかな?』
「……まぁ、今は別にやることも無いから、つき合ってあげるけど……」
「その温情に感謝する」
まったく、コイツはいつもこうだ。バカなことを言ってると思ったら、不意にドキッとしてしまう言葉を挟んでくる。彼の存在を意識し始めている彼女としては大いに困ってしまう。ただグラハムというキャラを演じているだけなのか、それとも本心で言っているのか。
『ところで詩乃、今日の予定は把握しているかな?』
「もちろん。6時からダイシーカフェでオフ会でしょ?」
『ご名答。では、そこまでの道のりは確認済みかな?』
「うん。木綿季に勧められて、ちょっと前に行ってみたから問題無しよ」
『ほう、事前に偵察を済ませているとは。見事な対応だ、朝田詩乃! とはいえ、可憐な女性の一人歩きはお勧め出来ない。ここは私にエスコート役を任せてもらえないかな?』
「うん、それは別に構わないけど……さっきから何か変ね」
妙に自分を気にしている宗太郎に気づいて疑問を感じる。
「もしかして、わたしに気を使ってる?」
『バッ!? ちっげーよ! 俺たちが強引に誘ったせいで困ってたら可哀想だから楽しく過ごせるように全力でもてなしてあげようとか、そんなんじゃねーよ! たまたま通り道にお前ん家があるから、ついでに寄ってやるって言ってんだけだよ! 変な勘違いしてんじゃねーぞ! バーカ、バーカ!』
「あからさますぎるツンデレね……」
照れすぎて変な誤魔化し方になってしまった宗太郎に呆れた声をかける。どうやら、変な罪悪感を抱いていたせいで、激しく動揺してしまったようだ。
「心配してくれてありがとう。でも、わたしは大丈夫だから、お店で会いましょう?」
『……そうか。ならば私は、ダイシーカフェにて待つとしよう。少しでも遅れるとレイジやアイラに料理を食い尽くされてしまうから、時間厳守で来るがいい』
「ふふっ、分かったわ」
宗太郎の気遣いを嬉しく思った詩乃は、自然と笑みを浮かべながら受け答える。その表情は、これまで学校で見せたことのない楽しそうなもので、意外な場面に遭遇したクラスメイトは、驚くと同時に親近感を覚えた。
強盗犯を撃ち殺したという噂を流されてから周囲の人間が信じられなくなった詩乃は、自ら壁を作って人との繋がりを避けるようになった。噂が沈静化した現在は、彼女の立場を理解して普通に接しようとしているクラスメイトもいるのに、彼女自身の弱さが友人を遠ざけてしまっていたのである。
しかし、そんな悲しいすれ違いも、木綿季たちと出会ってから始まった変化を切欠にして、ようやく改善の兆しが見えてきた。その証拠に、今も廊下で電話している詩乃に対して友好的な視線を向ける女生徒たちがいた。
「あの朝田さんが笑ってる……」
「超レア顔ね。半年以上も経って初めて見たわ」
「でもさぁ、最近の朝田さんって、雰囲気柔らかくなった気がしない?」
「もしかして、カレシでも出来たとか?」
「「「それだ!」」」
何やら詩乃をダシにして恋バナを始めた3人の女生徒たち。若干、誤解があるものの、悪意のある内容ではないので問題ないだろう。幸か不幸か、変な勘違いをされている本人は、それに気づいていないし……。
「なんか幸せそうでいいなー」
「相手がどんな人なのかすご~く気になるけど、邪魔をするのは野暮ってモンよね」
「じゃあ、月曜になったら聞いてみない?」
「そうだね~。カレシいないわたしらじゃ出来ない話だモンね~」
「「「……はぁ」」」
何やら勝手に盛り上がって勝手にヘコんでしまっているようだが、気の良いクラスメイトたちは詩乃の幸せ(?)を祝福し、生暖かい笑顔を浮かべながらその場を離れていった。
そんなことなど露知らず、宗太郎と話し込んでいた詩乃は、彼女たちが去った後に電話を終える。
「うん……それじゃあ後でね」
軽く別れを告げて電話を切る。柄にもなく長話をしてしまって少し疲れたものの、それが何だか心地良い。
「よし、早く帰って服選びしなきゃ」
宗太郎と話せたおかげで気分が良くなり、つい独り言を言ってしまう。その瞬間に見せた彼女の表情は同性の目から見ても綺麗で、とても魅力的だった。しかし、こっそりと彼女の様子を伺っていた不良少女たちにとっては激しい怒りを感じさせるものだった。
「くそっ! 人殺しのクセにヘラヘラしやがって!」
角に隠れて詩乃を見ていた不良少女――遠藤が、理不尽な悪態をつく。彼女は以前、詩乃を恐喝していた3人組のリーダーで、こっそりと詩乃を見張っては復讐の機会を伺っていたのである。宗太郎に叱られてプライドを潰された彼女たちは、しばらくの間大人しくしていたものの、あのくらいで改心するほどまともな奴らではなかった。
1ヶ月ほど様子を見て、あの日の恐喝未遂を警察にチクられる気配が無いと確信しつつあったところで、幸せそうな詩乃を目撃してしまった。そんな状況で短気な彼女たちがじっとしているはずがなかった。
「ほんとアタマ来んな、あのアマ……」
「だったら、アレを再開しない?」
「そうだなぁ、チクられる心配も無さそうだし、そろそろやっちまうか」
「やった! 最近金が無くて困ってたんだぁ」
いかにも頭が悪そうな会話をする不良少女たち。歳に見合わぬ幼稚な動機で、遊びでは済まない犯罪行為をしでかそうとしているのだ。馬鹿な3人組は、自分たちがなにをしているのか深く考えようとはせずに、身勝手な報復を実行する。
「よぉ、朝田ぁ!」
「っ!?」
オフ会のことを考えながら帰ろうとしていたら、階段の前で待ち構えていた不良少女たちに捕まってしまった。このところ大人しくしていたため、不意を突かれた詩乃は内心で驚く。それでも、ポーカーフェイスを保って用件を聞く。
「なんの用?」
「はぁ? 用があんから声かけてんだろ?」
怖がる様子の無い詩乃の反応が気に食わないのか、あからさまに怒りを表す遠藤。その様子を見た詩乃の方は、彼女たちの愚かさに呆れた。宗太郎に『自分を大切にしろ』と言われた意味をまったく理解していないようだ。他者の心を傷つけると同時に、自分の人生も傷つけているというのに。
「つーわけでさぁ、お前に話があっから、いつもの所に1人で来な」
「……」
「絶対に逃げんなよ? 黙って逃げたら、ただじゃあ済まさねーからな?」
遠藤は、恫喝するように命令すると、嫌らしい笑い声を上げながら階段を下りていった。一緒に行かないのは、教師に見つかった時に妨害される場合があるので、別々に移動することにしているからだ。弱みを握られている詩乃は理不尽な命令でも逆らえず、彼女たちの言うままに従うしかなかった。
ただしそれは、これまではの話だ。木綿季たちと出会い、トラウマと向き合う勇気をもらった今の彼女は、不良少女たちに抗える力を得つつあった。
「あんたたちに言われなくても、わたしはもう逃げないわ!」
詩乃は、不良少女たちと戦い抜く覚悟を決めた。場合によっては状況を悪化させかねない選択だが、それでも今は逃げてはいけない時だと感じたのである。
数分後、詩乃は指定された校舎裏にやって来た。そこは非常階段のある場所で、普段から人気の無いところだった。自販機やベンチもあるが、この時間に利用する者はほとんどいない。だからこそ、犯罪行為に及ぶにはもってこいの危険地帯となってしまっていた。
「ふぅ……」
大きな花壇を縁取っている低いブロック塀に腰掛けて空を見上げる。詩乃にとってこの場所は嫌な思い出しかない。不良少女たちに呼び出されては、トラウマを刺激されて何度もお金を取られた。しかし、今日からは違う。どこまでも抵抗して、もう二度とあいつらに屈したりしない。そうしないと、笑顔でみんなに会えないから。
「(……来たわね)」
右前方の薄暗い通路から下品な話し声が聞こえてくる。何であいつらは、わざわざ自分の品位を下げるような喋り方をするのだろう。不思議なほどに心を落ち着けている詩乃は、そんなことを思いながら不良少女たちを待つ。そして、こちらに近づいてきた彼女たちに自分から声をかけた。
「呼び出しておいて待たせないでよ」
「「「っ!?」」」
強気な発言をしながら静かに立ち上がる詩乃。その態度に不意を突かれた不良少女たちが小さく驚く。
「朝田さぁ、最近マジ調子乗ってない?」
「ほんと、ちょっと酷くない?」
意外な反攻を受けて怒りを感じた2人の取り巻きが、ありがちな言葉で突っかかってきた。それを切欠にして互いに睨み合い、急速に不穏な空気が広っていく。そんな中、不敵な笑みを浮かべた遠藤が一歩前に出てくる。取り巻き同様、彼女も怒りを感じていたが、不良なりのプライドでもってそれを押し込め、強気な態度で言葉を返す。
「別にいいよ、友達なんだから。まぁそんかしさぁ、わたしらが困ってたら助けてくれるよなぁ?」
あんな酷いことをしておいてまだそんなことを言うのか。道理を知らない人間の醜さを素直に実践してみせる遠藤は、自分で自分を馬鹿にしていることも理解できずに悪事を続ける。
「とりあえず2万でいいや。貸して」
何を言うのかと思っていたら、これまで通りにお金を無心してきた。何だかんだと格好つけておいて結局それか。相変わらず馬鹿なことをやり続けている遠藤を見て、詩乃は哀れに思った。
「(現実世界の人生はゲームじゃないのに……)」
悪びれもせずにやっているところを見ると、彼女にとっては自分が主人公のゲームをプレイしている感覚なのかもしれない。しかしそれは、思い通りにならない現実から逃げているだけだ。詩乃自身も、【銃を恐れない仮想世界のシノン】に逃避していたのでよく分かる。
アミュスフィアを使ったVRゲームは、【脳に直接仮想の五感情報を与えて仮想空間を生成する】ため、パニック発作の条件である【肉体的な異常】を感じにくくなっている。あくまで【遊び道具】なので、苦痛や不快に思うような現象を極力感じないようにしてあるからだ。しかし、わらにもすがる心境だった詩乃はその効果を歪めて受け止め、ゲーム内では発作が起きないと自己暗示をかけた。そうしてGGOを続けているうちに、理想的な強さを見せるシノンに魅了され、依存するようになっていったのである。
しかし、それでは何も変わらない。そんな代償行為を続けていては、本当の自分を見失い、成長が止まってしまう。信頼できる仲間のおかげで現実と向き合えるようになってきた詩乃はその事実に気づき、無意識のうちに止めていた歩みを進めることが出来るようになった。
だからこそ、勝手に参加させられている【遠藤主催のゲーム】などに、いつまでも付き合っていられない。銃に対する恐怖から心を守るためにかけていた伊達眼鏡を外し、身勝手な要求を堂々と拒絶する。
「前にも言ったけど、あなたにお金を貸す気は無い」
しっかりと目を合わせて、恐れることなく言い切る。その返答を聞いた遠藤は目を細め、詩乃にきついお仕置きをしてやることにした。1ヶ月前の復讐をするために用意していたとっておきの道具がある。これを使えば、すぐに抵抗できなくなるはず。初めから言う事を聞いていれば使わずに済ませてやったのに、バカなヤツだ……。
「今日はマジで兄貴からアレ借りて来てんだからなぁ?」
「……好きにしたら」
詩乃には彼女の言うアレが何を指しているのか分からなかったが、絶対に負けないという覚悟が迂闊な発言をさせてしまった。
「(そうか……そんなにゲロを吐きたいんなら思う存分吐かせてやる)」
最後の警告を突っ返された遠藤は、嫌らしい笑みを浮かべながら肩にかけたバッグに手を入れる。そして中から一丁のモデルガンを取り出し、その銃口を詩乃に向けた。
「えっ!?」
それを見た瞬間、鼓動が急激に早くなる。
「これ、絶対人に向けんなって言われたけどさぁ。朝田は平気だよなぁ? 慣れてるもんなぁ?」
遠藤が憎たらしい言い方で罵ってくるが、まったく言い返せない。発作が始まり、ドクンドクンと心拍数が上がっていくばかりだ。
「おら、泣けよ朝田ぁ! 土下座して謝れよぉ!?」
「あ……あぁ……」
止めて……。呼吸が乱れる。強盗犯の死に顔が見える。足元に真っ赤な血が広がっていく。
やっぱりダメだ。銃を持ち出されたら自分は何も出来なくなる……。発作のせいで心が弱まり、抵抗することを諦めかけてしまう。
その瞬間、詩乃の脳裏に不思議なイメージが浮かんだ。冬用のコートを着た自分が、今と同じように遠藤から銃を向けられているイメージが。
「!?」
いきなり起こった超常現象に驚き、目を見開く。今のは一体何だったのだろうか。どこかで経験したことがあるように感じる既視感という現象に近い気もしたが……もしそうだとすれば、この後、銃を撃とうとした遠藤は……。
「くっ!? 何だよこれ!?」
トリガーを引こうとした遠藤が苛立った声を上げる。セイフティを解除しなければならないことを知らずに撃てなかったのだ。
「(うそ!? さっきのイメージと同じことが起きた……)」
思った通りの結果を目にして更に驚く。本当に未来を見ただなんて、とても信じられない。
しかし、これは好機だ。あまりに驚いたせいか発作も弱まっている。今ならあのイメージ通りに動くことが出来るかもしれない……。
瞬時にそう判断した詩乃は、銃を持った遠藤の右手首を左手で掴み、爪が食い込むほど強く握った。
「いてっ!?」
手の平の下を強く押すとグリップを握っている指が外側へ広がるように動き、その隙に銃を奪い取る。それを慣れた手つきでクルリと回しながら装備すると、今度は落ち着いた様子で観察してみた。これまでなら絶対に出来ないことだったが、今なら出来るような気がしたのである。
「1911ガバメントか……。お兄さん、良い趣味ね。わたしの好みじゃないけど」
モデルガンの種類を確かめて、感想まで述べる。
更に、何故撃てなかったのかまで親切に説明してみせる。
「大抵の銃は、セイフティを解除しないと撃てないの」
「「「あ、あぁ……」」」
その堂に入った様子に不良少女たちは言葉を失う。
よし。ここまでは先ほどのイメージ通りに進んでいる。そうなると、この次にやることは……。
「(右奥の角にあるバケツの上に置かれた空き缶を狙い撃つ!)」
イメージを思い返して右を向くと、想像通りに空き缶を乗っけたバケツがあった。ここまでお膳立てが整っているのなら、後は命中させるだけだ。今までモデルガンを使ったことが無いから弾道がまったく分からないけど、今の自分なら当てることができる気がする。
そう思った詩乃は両手で銃を構え、少しだけ左上方に銃身を向ける。そして、迷うことなくトリガーを引いた。
パシュッ! カンッ!
見事にBB弾が当たり、空き缶が弾け飛ぶ。
「ふぅ……」
構えを解いて安堵のため息をつく。これまたイメージ通りに当てることが出来たため、内心ではビックリしている。
「(ほんとに何なの……)」
まるで夢を見ているようで不思議な気持ちになってしまう。でも、嫌な感じはしない。何故ならあのイメージは、別世界の自分自身から流れ込んできたものだからだ。木綿季の能力に影響されて跳んできた詩乃の因果情報が、同じような状況に陥った彼女の意識と同調して別世界のイメージを見せたのである。
実を言うと、詩乃には特殊な才能があり、和人のように【心意】を使いこなせる素養があった。それこそが、木綿季の能力の元となっている脳量子波であり、因果の影響が他の仲間より強く出ている原因でもあった。
「(……よく分からないけど、やっぱり既視感ってヤツだったのかな?)」
裏の事情など知るよしもない詩乃にとってはそう結論付けるしかない。とりあえず、逆境をはね返す役にはたったので良しとしておく。
後は、発作を押さえていられる間にここから立ち去るだけだ。
何とかポーカーフェイスを保ちつつ、銃を返すために遠藤の方へ向き直る。すると彼女は怯えた声を上げた。どうやら撃たれると思ったらしい。その様子を見て、詩乃は心外に思う。あなたみたいに子供じゃないんだから、そんなことはしないわ。
「や、やめっ!?」
「確かに、人には向けない方がいいわ。【オモチャ】の銃でも、誤って使えば人を傷つけてしまうから」
「うぁ?」
穏やかな声で話しかけたら、途惑った様子で動きを止める。そんな彼女の右手を取って、セイフティロックをかけ直したモデルガンを手渡す。
「はい」
「あぅ……はぁぁ……」
これまでの仕返しをされるのかと恐怖したら何もされなかった。意外に小心者だった遠藤は、安堵した途端に力が抜けて座り込んでしまった。実際の彼女は、見た目ほど強いわけではなかったのだ。彼女たちが強者でいられたのは詩乃が弱者だったからであり、立場が逆転してしまえば、抵抗すら出来ない軟弱者になってしまう。ようするに、悪ぶっていた彼女たちも本当は弱者だったのである。
しかし、そうだからといって、再び仲間意識が芽生えるわけもない。彼女たちと決別した詩乃は、はっきりと自分の意思を伝える。
「じゃあね、黒い三連星」
「「「……」」」
短い言葉で完全な別れを告げる。これでようやく、彼女たちとの縁が切れたはずだ。
実際、遠藤たちは、この後詩乃と関わることを止めた。この3人は愚かな小悪党だったが、幸いな事に引き際というものを理解していた。
呆然となった不良少女たちを放置してその場を離れた詩乃は、正門へ向かう途中で立ち止まる。何とか押さえていた発作が表に出てきて息苦しくなったからだ。このままでは歩けないので、校舎の壁に手をついて荒くなった呼吸を整える。
「はぁっ、はぁっ……」
呼吸困難に加えて、吐き気とめまいも感じる。当然ながら苦しくて辛い。でも今日は、少しだけ気分が良い。
「これが最初の一歩なんだから……」
そう言いながら弱弱しい一歩を踏み出す。その瞬間、彼女は確かにトラウマを克服するための一歩を進んだ。小さいけど大事な一歩を。
「これなら笑顔でみんなと会える……。あなたのおかげでがんばれたわよ……木綿季」
詩乃は、自分に勇気を与えてくれた大事な友達に感謝した。彼女と出会えなければ、この一歩を踏み出すことは出来なかったはずだから。
「それに、アイツにも一応お礼を言わないとね……」
何となく宗太郎のドヤ顔を思い浮かべた詩乃は、彼が気に入っていた伊達眼鏡をかけ直す。そして、軽くなった足取りで家路につくのだった。
次回は、第四章のソレスタル・ナイツ編が始まります。
タイトルは『天空の騎士団』という意味で、ダブルオーとは一切関係ありません。
ALOを舞台にした大掛かりな展開になる予定で、ユージーンやサクヤなどの原作キャラも登場することになると思います。
そして、意外なあの人も……。