ソードアート・オンライン アイとユウキのセカイ 作:カレー大好き
第3層の迷宮区に到着した一行は、すぐに攻略を開始した。
ここからは地面に足をつけて進んでいく。日光や月光の無い場所では飛行が出来ず、ボスの部屋までは自力で走破しなければならないからだ。当然その間に雑魚モンスターとエンカウントしてしまうため、そいつらを倒しながらの強行軍となる。だが、歴戦の勇士であるキリトたちにとっては足止めにもならない。
それを証明するように、前衛を務めるキリト、グラハム、クラインが、行く手を遮る植物型モンスター・ベノムプラントを見事な連携で切り刻む。
「はっ!」
「遅いな!」
「くらいやがれぇ!」
「グギャァァ!!」
華麗な連続攻撃を食らったベノムプラントは、瞬く間に倒された。命がけで磨き上げてきた剣術だけあって、見惚れるような鮮やかさだ。
「うわぁ、すごい! これがSAOプレイヤーの実力か~!」
同じ前衛として参加していたユウキは、先輩たちの華麗な戦いっぷりにひたすら感動する。
しかも、彼女を興奮させているのは彼らだけではない。キリトたちが取りこぼしていった敵と戦っている女性陣の強さも目を引くものがあった。
中衛のリズベット、シリカ、リーファがそれぞれの武器を振るってマンドレイクと戦っており、本来なら後衛のアスナも得意の細剣で応戦する。
「このっ!」
「えいっ!」
「たぁーっ!」
「もらったぁ!」
「グオォォォ!!」
最後にアスナの突きが決まり、HPがゼロになったマンドレイクが砕け散っていく。こちらの攻撃も見事で、ランの援護もいらないほどだ。後に【バーサクヒーラー】という二つ名で呼ばれることになるのも納得の剣士っぷりである。
「うん、良い感じ!」
「まったく。この閃光さんは、ヒーラーってものを分かっているのかね?」
「気がつくと一緒に戦ってますからね」
「だって、後方支援って結構暇なんだもん」
リズベットとシリカからつっこまれたアスナは、可愛らしく文句を言う。とはいえ、回復役のウンディーネが前線に出てくるのは得策ではないことも確かだ。
もちろんアスナと同じようなことをするプレイヤーは他にもいて、基本的に3人パーティで遊んでいるランも似たようなプレイスタイルなのだが、アスナほど積極的に剣を使う者は珍しい。回復や補助役に特化したウンディーネは戦闘能力が低めで、近接戦をやること自体が難しい種族となっているからだ。そのような状況でトップクラスの実力を示せるアスナの強さは、SAOでの戦闘経験があってこそだった。
「(あの姿……やっぱり見覚えがある)」
かつて閃光と呼ばれていた彼女の強さを目の当たりにしたユウキは、またしても既視感を覚えて疑問を深めた。しかし今は、それ以上に嬉しい気持ちが湧き上がってくる。アスナと出会えて本当によかったと、感謝と喜びの感情で一杯になる。
そんな妹の感情が伝播したのか、姉のランもアスナの活躍に見惚れていた。泣いてしまったユウキを優しく宥めてくれた彼女に、尊敬の念と親しみを感じていたのである。
「アスナさんって、綺麗な上にカッコイイね」
「うん、ボクの思ってた通りだ」
ユウキは、当然だと言わんばかりに胸を張る。別世界の自分とリンクした彼女には、勇ましく戦っているアスナの記憶があるからだ。もちろん、ユウキがその事実を正確に認識している訳ではないのだが、それはこの際問題ではない。アスナと一緒に戦える、それだけで十分だった。
「よ~し、ボクもやってやるぞー!」
もう一人の自分に後押しされるようにやる気を漲らせたユウキは、新たに出現したモンスターに1人で向かっていく。
襲いかかってきた触手を素早いステップでかわし、一瞬で懐に入ると、左袈裟に斬りつける。そこから続けて右方向へと切り払い、止めとばかりに突きの嵐をお見舞いする。
「てやぁ―――!」
ユウキが得意としている突き技はとても素早く、綺麗だった。その証拠に、最後の一撃は、ソードスキルが発動した時のように刀身が光っていた。
これは、新たに実装された【オリジナルソードスキル】のための特殊効果だ。通常攻撃がソードスキル並みの速度と完成度だった場合には動作の後に剣が光り、これを2連続以上決められるとオリジナルソードスキルとして登録できる仕組みとなっている。
その条件を簡単に説明すると、ものすごく難しいコマンド入力を成功させるような感じだ。身体のモーションをコマンドとして扱い、システムの合格点を得られる動きが出来ればソードスキル並の技として発動される。1撃の時はその場限りのクリティカルヒット、それ以上ならオリジナルソードスキルといった仕組みだ。今回ユウキが放ったのは1撃だけなので、前者のクリティカルヒット扱いとなる。それでも狙って出せるようなものではないため、見ていたみんなから歓声が上がる。
「やったねユウキ!」
「止めにクリティカルヒットを出すなんて出来すぎだぜ!」
「いやぁ~、ボク自身もビックリしてるよ」
みんなから褒められたユウキは、頬を赤く染めながら照れた。その姿はとてもキュートで、アスナたちのハートを魅了してしまう。
「「「「「(か、可愛い……)」」」」」
さりげなくクラインも混ざっているが、彼についてはもはや何も言うまい。
それはともかく、ユウキの動きを観察していたキリトは彼女の可愛さではなく、センスに対して興味を抱いた。先ほどの戦闘を見ただけでも彼女のプレイヤースキルが群を抜いていると分かる。
「ユウキはアバターの扱いが上手いな。1年以上のアドバンテージがある俺たちと変わらないくらいだ」
「ああ、よもや彼女にこれほどの才能が秘められていようとは。私は聞いていないぞ!」
「んなもん説明できないだろ?」
確かにキリトの言う通り、本人でも把握できるものではない。
どうしてプレイ時間に差があるはずのユウキがこれほどの強さを発揮できるのか。その要因の一つにVRMMO特有の問題がある。
VRMMOの世界ではどうしても本人と違う身体になるため、脳の感覚にずれが生じて動作に微妙な影響を及ぼす。それが、オリジナルソードスキルの習得を難しいものとしていた。その問題を解決するためには、脳のイメージ力を高めてVRマシンとのシンクロ率を上げる必要があり、通常は長時間プレイして徐々に慣れていくしかない。ようするに、現実の運動練習を仮想世界でやるような感じだ。
ただ、ユウキの場合は違う。誰にも説明できない奇跡が起きたことで、経験という差を短期間の内に埋めてしまった。だからこそ、才能と表すしか方法がなかったのだ。
「いずれにしても、心強いことには違いない。頼りにしてるぞ、フラッグファイター!」
「ふふん。今日のボクはすっごい調子良いから任せといて!」
「わたしとしては、調子に乗ってるユウキが心配だけどね」
「何だよ姉ちゃん。そんなに心配ばかりしてると、ストレスでオッパイが育たなくなるよ?」
「余計なお世話よ!」
ランは、妙にはしゃいでいる妹にツッコミを入れながら苦笑する。それでも、彼女のフォローをすることがランにとっての幸せであった。
それから十数分後。雑魚モンスターとの戦闘でお互いの力量を確かめながら進んだ一行は、迷宮区の最奥部にたどり着いた。目の前には巨大な門がそびえ立っており、その先には倒すべきボスが待ち構えている。タイミングの良いことに、今は他のパーティがいないので、すぐにボス戦を始められる状況だった。
いよいよあのアインクラッドでボス戦をプレイすることになる。初めての経験を前にしたユウキとランは、緊張と同時に高揚感を感じていた。たとえデスゲームではないとしても、今度はグラハムと一緒に戦えるのだ。彼のことが大好きな彼女たちにとって、この戦いは特別だった。
「絶対に勝つよ、姉ちゃん」
「もちろん、ソウ君に喜んで欲しいもんね」
声は落ち着いているが、内心ではドキドキしっぱなしだ。そしてそれは、キリトたちSAO生還者も一緒だった。いや、ユウキたち以上に緊張していると言っても過言ではない。特に熾烈を極めたボス戦を実際に経験している4人にとっては言わずもがなだ。
「久しぶりに来たけど、やっぱり落ち着かないな」
「うん。これはもう命がけの戦いじゃないけどね」
「それでも、あの時の恐怖感が蘇ってくるぜ……」
「ああ。認めたくはないが、私とて人の子だ。あの恐ろしさは、決して消えることはない」
たった一度のミスで本当に死んでしまう悪夢のような激戦の記憶。今思い出しても身体がすくむ。心が恐怖で満たされる。
しかし、いつかはそれを乗り越えなければならない。仲間たちとともに。
「だからこそ、私たちはここに来た。この世界をゲームとして楽しむために。生きてここにいる幸せを分かち合うために。そうだろう、少年!」
「ああそうだ、今度こそ思いっきり楽しもう。このアインクラッドを!」
「おうよ! ズバッとボスをぶっ倒して、俺たちの名を【剣士の碑】に刻んでやろうぜ!」
「そうね。わたしたちでクリアして、今日を素敵な記念日にしようよ。ねっ、みんな」
「もちろんよ。この面子でやるからには、勝利しかないわ」
「はい。わたしもがんばります!」
「うんうん、盛り上がってきたね。これこそオンラインゲームの醍醐味だよ」
グラハムの言葉をきっかけに、キリトたちはモチベーションを上げる。
そう、これはゲームだ。誰も命を落とすことのない、ごく普通のゲームなのだ。それなら、心置きなく全力で遊ぶべきだろう。
「ユウキとランもよろしくね?」
「任せといてよ。絶対にアスナたちを勝たせてあげるから!」
「わたしも、出来る限り支援してみせます!」
アスナに声をかけられたユウキたちもやる気を漲らせる。そんな2人の笑顔を見てグラハムは思う。
「(そうだ。これでいい。これこそが私の望みなのだよ)」
少女たちが笑顔で遊べるこの状態こそが、彼の望んだ仮想世界だ。ここでは、たとえ死んでしまっても生き返ることができる、実に優しい世界である。
だが、それでも仲間達には死んで欲しくなかった。全員で生き残ってクリアしたかった。だから、ボスに挑戦する前に自分の思いをみんなに伝える。
「ソルブレイヴス隊の精鋭に通告する! これから出向く戦場では諸君らの命を賭けてもらうことになる。だが、あえて言おう……死ぬなよ!!」
「「了解!」」
「うおっ! 意外にノリがいいな、ランちゃんたち!」
「うん……ユウキたちも、グラハム君の世界に巻き込まれてたんだね……」
相変わらず独特なグラハムのセリフを聞いたアスナたちは、懐かしさを感じて苦笑する。それと同時に、彼の気持ちも理解した。
1人も死なせることなく全員で生きて帰る。困難ではあるが、自分たちに相応しい目標だ。ならば、彼の提案に乗るとしよう。ソルブレイヴス隊ではないけど。
☆★☆★☆★☆
各人がそれぞれの思いを胸に秘めながら門をくぐると、そこには第3層のボス【ネリウス・ジ・イビルトレント】が待ち構えていた。
巨大な樹木の姿をしたモンスターで、デザインはほぼ変わっていない。地面に根を張っているため移動はせず、旧SAOではそれほどてこずらない相手だった。高めの防御力と毒ブレスによる範囲攻撃が厄介だったものの、時間をかけて戦えたおかげで犠牲者ゼロでクリアできた。
しかし、新しくなった今回のボスは一味違った。
「キシャアアアア!」
「ぐはぁー!!」
開始早々、ボスの近接攻撃範囲に飛び込んだクラインが吹き飛ばされた。素早く伸びてきた触手攻撃をもろに食らったのだ。
「クライン! ……あえて言ったはずだ!」
「まだ死んでねーよ!」
攻撃がクリーンヒットしてぶっ飛ばされたものの、クラインは無事だった。しかし、キリトから聞いていた昔の情報とは違う攻撃だったため、若干面食らってしまっている。
以前も触手攻撃はあったが、今回は触手の先端が女性の上半身のようになっており、手に持った武器や魔法で攻撃してきたのだ。始める前に確認したフレーバーテキストによると、『エルフの乙女より精を食らい、強大な魔力を得た』とあったが、こういう意味かと理解する。流石はアップデート版であると言える改良だ。
ただ、パワーアップしすぎな気もするが。
「ちょっと、触手から魔法撃ってくるなんて反則でしょコレ!」
「確かに、思っていた以上に激しいな!」
「これじゃあ、近寄るだけでも大変だよ!」
「ならば、私の魅力で彼女たちを釘付けにするっ!」
襲ってくる触手を破壊していたグラハムは、ボス戦のセオリー通りに行動を始めた。ヘイトを自分に集中させることで仲間の攻撃を支援するのだ。
「アスナさん、シリカさん、ソウ君にバフをお願いします!」
「うん!」
「分かりました!」
意図を察したランは素早く対応して、グラハムのヘイト上昇と同時に防御と速度も上げる。
更にキリトたちの援護を受けて触手攻撃の嵐をかいくぐったグラハムは、片手剣のソードスキル【ホリゾンタル・アーク】をボスに向けて放つ。素早い水平切りを左右続けておこなう2連撃で威力はそこそこだが、グラハムの高いプレイヤースキルに速度支援が加わっているおかげでダメージ量も上がっていた。
「グロロロロオォ!?」
「ふっ。私の想いは届いたかな、移り気なお嬢さん?」
強いダメージを受けたボスは、ヘイト上昇の魔法に釣られてグラハムに敵意を向ける。ここまでは作戦通りだ。後はグラハムの回避能力とアスナたちの支援に任せて時間を稼ぎ、その隙にノーマークとなっているキリトたちがダメージを与える。この行動を出来る限り続けて、グラハムが危険になったらキリトとスイッチする。それをしばらく繰り返して、ボスの行動が変わるまでHPを削っていくのである。
「すごい……これが、アインクラッドのボス戦なのか……」
ユウキは、ボスに向けて連続攻撃を決めながらも先輩たちの戦いぶりに魅入ってしまう。魔法戦が主体だった以前のALOでは近接攻撃が難しくなっており、彼らほどの腕前を持っている者はかなり少ないからだ。
実を言うと、そこが仇となってこのボスの攻略に手間取る原因となっていた。
「(そのおかげで、ボクたちにもチャンスが巡ってきたんだよね)」
ボスにソードスキルを叩き込みつつ笑みを浮かべたユウキは、作戦会議でおこなわれた会話を思い返す。
ボス戦を始める前。迷宮区に向かって飛行している途中で、キリトは事前に仕入れた情報をみんなに伝えていた。
「この層のボスは毒ブレスを使うんだけど、今回はそれ以外にも攻撃パターンが増えてるらしいんだ」
「ほう、興味深いな」
「どんな攻撃をしてくるの?」
「俺が聞いた話だと、【クラスター・シード】というヘイト無視の範囲攻撃と【エナジー・プランダー】というHPドレイン攻撃が追加されて、かなりパワーアップしてるらしいぞ」
キリトの話に出て来た技はどれも厄介な代物だった。
クラスター・シードは、魔法攻撃を受けると発動するカウンターアタックで、発射した巨大な種子をプレイヤー集団の直上付近で爆発させ、そこから撃ち出された小型の種子で広範囲を吹き飛ばす物騒な攻撃である。
そしてもう一つ、エナジー・プランダーは、ボスのHPバーが25%切ると発動する特殊攻撃で、参加プレイヤーが多いほどHPの回復量が増加してしまうといういやらしい仕様となっている。
つまり、魔法攻撃を主体にしたり大人数で殴りかかるとかえって難易度が上がってしまうことになるため、魔法や人数を頼りにしている単純な連中は苦戦を強いられているのだ。ぶっちゃけると、実装されたばかりのソードスキルを生かすための強引な調整だった。
そうなると、少数精鋭で魔法攻撃に頼らないキリトたちの方が有利になってくる。今回、出遅れたキリトたちがボス戦に参加できた理由がそこにあった。
戦闘前のやり取りを思い出している間に再びソードスキルを叩き込んだユウキは、レイド戦の面白さを肌で感じて嬉しくなる。やはり、仲間と協力して強い敵と戦うのはすごく楽しい。
「(でも、何だろう……何か物足りないような気がする……)」
アスナやランに目を向けるとその気持ちは更に高まる。
何となくだけど、ボクにはもっとたくさん仲間がいるような……。
「避けろユウキ!」
「えっ? うわぁ!?」
考え事をしている間に触手の攻撃を受けそうになり、慌てて避ける。いつの間にかヘイトが高まっていたようだ。
「ふぅ、危なかったぁ」
「もう、ぼうっとしてちゃダメでしょユウキ!」
「あははー、ゴメンね姉ちゃん!」
照れ笑いをしたユウキは、心の迷いを誤魔化すように謝る。
そうだ、今はこいつを倒すのに専念しなきゃ。
「考えるのはその後だ!」
この戦いに勝利して、みんなで祝勝会をした後でも十分だろう。そう思ったユウキは、剣を構えなおしてボスに向かっていく。
そうこうしているうちに時間は進み、戦闘は終盤に差し掛かる。
グラハムとキリトの囮役が功を奏し、全員健在でボスのHPを25%まで減らすことに成功した。ここで3回目のエナジー・プランダーが発動してみんなのHPを20%吸収し、ボスのHPが数%回復してしまうが、回復魔法のリキャストタイムをしっかりコントロールしているからプレイ継続に問題は無い。
「これでエナジー・プランダーは終わりのはずだ!」
「ってことは、もう少しで倒せるってことね!」
「それじゃあ、一気に決めちゃおう!」
30分以上にも及ぶ長い戦闘に終わりが見えて、全員の士気が上がる。しかし、そのまますんなりとは終わらせてくれなかった。瀕死状態になったボスの攻撃パターンに変化が起こったからだ。通常なら魔法攻撃をしない限り使ってこないクラスター・シードを放ってきたのである。
「ちょっ、あれってやばくね!?」
「ああ、こうなったら回避は不可能だ!」
「総員、耐爆防御! こらえてみせろよ!」
「うそーん!」
「いや――!?」
ズガガガ―――ンッ!!!!!
キリトたちの周囲に種子爆弾が降り注ぎ、連続した爆発音を轟かせる。威力は思っていたほど大きくないが、デバフ効果を付与されてしまったのは痛い。
「リバフ急いで!」
「回復はアイテムで済ませろ!」
急に変化した状況に対応するため、全員の行動が慌ただしくなる。
このゲームにおける特殊攻撃のリキャストタイムは最低でも60秒以上あるから、それまでに体勢を整えなければならない。もしくは、キャンセル技を上手く当ててボスの技を封じる手もあるが、それだけにかけるのはかなりリスキーなので、次の攻撃を受ける前に可能な限りコンディションを整えるべきだ。
「みんなのHPは大丈夫か?」
「はい、全員70%以上あります!」
「よし。ここからは総攻撃を仕掛ける! 頼むぞリーファ、シリカ!」
「待ってました!」
「任せてください!」
キリトはそう言うと、真っ先に切り込んで行く。ここまで来たら時間との勝負でもある。MPや回復アイテムが尽きる前に決着をつけなければならない。
これまで支援をメインにしていたリーファとシリカも本格的に戦列へと加わり、一斉にソードスキルを叩き込む。ヘイト役をキリトに任せて、他の面子はとにかく攻撃を与え続ける。後もう少しでボスを倒せるとはいえ、攻撃パターンが変わった今はピンチでもあった。
一度バランスが崩れれば全滅してしまう可能性すらありうる。それがレイド戦の恐ろしさだとキリトたちは知っているため、一切手を抜いたりはしない。
そんな彼らの努力に応えるように、再びクラスター・シード発射のモーションが始まった。60秒経ってリキャストタイムが終了したのだ。
「さっきの技が来るぞ!」
「心配するな! あれの対処は私がおこなう!」
「対処って、出来るのか?」
「当然だと言わせてもらおう!」
何か策があるらしいグラハムは、技が発動する前に駆け出していた。なぜかクラインを捕まえて。
「おわっ、なにすんだよハム太郎!?」
「ナニをするかなどどうでもいい! とにかく私は君を求める!」
「こんな時にBLネタかよ!?」
状況の分からないクラインは、グラハムの回りくどい言葉に対してツッコミを入れる。しかし、当然ながらそんな理由で彼を引っ張っているわけではない。
「君はここに立っていたまえ」
「えっ!? 一体どういう――」
「その答えはすぐに分かるさ!」
走っている途中でクラインを離したグラハムは、そのままボスから離れるように距離を取った。それとほぼ同時に、クラスター・シードが発射される。巨大な種子が、もっともプレイヤーを巻き込めるような位置に向けて飛翔する。それを見越していたグラハムは、猛スピードで助走をつけると、種子に向かってジャンプした。クラインの肩を足場にして。
「なぁ、俺を踏み台にしたぁ!?」
「爆弾など、事前に対処すれば無力なのだよ!」
通常のジャンプでは届かない位置に高々と舞い上がったグラハムは、迫り来る種子にタイミングを合わせて体術スキル【弦月】を放った。いわゆるサマーソルトキックのようなものを繰り出す技で、爆発前のクラスター・シードを蹴り返したのである。
そのままものすごい勢いでボスに向かっていったクラスター・シードは、ボスの身体に当たって大爆発を起こした。火属性に弱いボスは、自らの技で大ダメージを受けてしまったわけだ。
「人呼んで、グラハムシュート!」
「ええ―――!?」
「あんなことできるんですかー!?」
「まぁ、グラハムだからねー」
「ソウ兄ちゃんだったら、このくらい当然かな」
グラハムの破天荒なプレイを目撃して、シリカとリーファは驚愕する。初めて彼とプレイした彼女たちなら仕方ない。しかし、慣れている者たちは、『またやってらー』と思うだけだった。
何はともあれ、彼のファインプレーでチャンスが生まれたのは間違いない。この機会を生かしてHPの回復を済ませ、更なる攻撃に備える。
これまでの経験から察すると、恐らくは次のアタックで勝負が決まるだろう。
そう判断したアスナは、ユウキのHPを回復しながら最後のエールを送ることにした。
「今がチャンスよ! がんばれ、ユウキ!」
「!!?」
その声援を聞いた瞬間、ユウキの脳裏に新たなシーンが思い浮かんだ。双頭の巨人と戦っている自分に向けてアスナから声援を送られる光景。それが、先ほどのやり取りとかぶった。
『最後のチャンスよ! がんばれ、ユウキ!』
初めて聞いたのに聞き覚えがある言葉。とても不思議だけど……何度聞いても力が湧いてくる。それはまるで、大好きな家族から声援を送られた時と同じ気持ち。
だからユウキは――ランと混同して返事をしてしまう。
「まかせて、姉ちゃん!」
「ねぇ、ちゃん?」
思いもかけない言葉を受けて驚くアスナ。そんな彼女とは対照的に照れ笑いを浮かべたユウキは、猛然とボスに向かっていく。
「(ボクは……アスナの期待に応えたい!)」
そして、みんなと勝利したい。
とても強い感情に突き動かされたユウキは、得意としている突きの構えを取ってボスに飛び掛る。
今ならソウ兄ちゃんの言ってた極みに届きそうな気がするから……全力で行くよ!!
「やぁ――!!」
気合の篭った掛け声と共に、綺麗な光をまとった突きが連続で決まる。
1撃、2撃、3撃。
「まだだ!」
まだ続けられる。自分はもっと先に行ける。
4撃、5撃、6撃。光り輝く剣を高速で突き続ける。
その瞬間、トッププレイヤーの記録を更新したが、ユウキの勢いは止まらない。
「てやぁ―――!!!」
そして、7撃目が決まる。
ユウキの熱い想いが力となって素晴らしい結果を実現させたのだ。それでも、もっと行けると感じた彼女は、続けて8撃目を放とうとする。
だが、その剣は届かなかった。攻撃が当たる前に、ボスの身体が光の粒子となって砕け散ったからだ。
「……あれ?」
急に手ごたえがなくなって拍子抜けするユウキ。残念ながら、彼女のイメージ通りに決めることは出来なかった。
とはいえ、念願の勝利を手に入れたことは間違いない。
「そうか。ボクたちは……勝ったんだ」
こうして第3層のボス、ネリウス・ジ・イビルトレントは、ユウキのラストアタックで倒された。
ログ・ホライズンを見てボス戦を盛り上げようと思ったのですが、いかがでしたでしょうか?
自分はMMORPGをプレイしたことがないので、おかしな部分があると思いますが、結構楽しく作れました。
とはいっても、戦闘描写は難しいです。
ご意見、ご感想をお待ちしております。