ソードアート・オンライン アイとユウキのセカイ 作:カレー大好き
でも、胸はシリカより大きいです。
第3層のボス、ネリウス・ジ・イビルトレントは、ユウキの連続攻撃によって倒された。巨大な木の化け物は光の粒子となって砕け散り、勝利を告げるファンファーレがマップ中に鳴り響く。
それと同時に、ユウキだけに贈られたファンファーレも流れた。彼女は、最後の攻撃で祝福されるべき成果を達成したのだ。
「ねぇ、今の曲ってなに?」
「あれは、オリジナルソードスキルを会得した時のファンファーレです」
「えっ、あれがそうなの!?」
「わたし、初めて聞きました!」
ユイの説明を聞いたリズベットたちは、やたらと強く反応する。これまで一度も聞いたことがないほどに、とても珍しい出来事だったからだ。
オリジナルソードスキルが実装されて一月も経っておらず、会得できたプレイヤー自体が少ないため、リアルタイムで目撃できる機会は非常に稀だ。しかも、キリトやアスナですら3連撃がやっとの状況で、それ以上の成果を出せたユウキはかなり特別だった。
「へぇ~、あの土壇場で会得しちまったのかよ!」
「まさにスペシャルだな。しかし、トップファイターであるこの私すら追い抜くとは。成長率が高すぎるぞ!」
「確かに、才能があるようだな」
キリトは、グラハムの言葉に答えながらユウキを見る。彼の言う通り、彼女の成長はとても早い。まるで、自分たちよりも長くVRマシンに接続しているのではないかと感じるほどに。
「(まぁ、そんなことは有り得ないけど)」
可能性すらない空想を思い浮かべて頭を振るキリト。SAOプレイヤーを超えてVRダイブしているとしたら、【あのマシン】の臨床試験をしている人ぐらいしか考えられない。
「(だとしたら、この子はよほど相性が良いんだろうな)」
VRマシンは脳との相性が深く関わっており、人によってはダイブそのものが不可能な場合もあるくらいなので、その予想は十分に有り得る。深い知識を持っているキリトは、勝手に考察して一人納得するのだった。
一方、頭の固い彼とは対照的に素直な気持ちで喜んでいる女性陣は、偉業を達成したユウキの元に集まってキャッキャウフフと騒いでいる。
「おめでとう、ユウキ! こんな短期間でオリジナルソードスキルを会得するなんてすごいよ!」
「う、うん。ありがと……」
「どんなスキルができたのか確認してみようよ」
「ええっと、そうだね」
アスナとランに話しかけられるまで呆然としていたユウキは、少し慌てながらスキルの一覧を調べる。すると、オリジナルソードスキル専用のウィンドウに新しい技が追加されていた。名称は初期設定の【OSS-01】で、効果は無属性の7連撃となっている。
「……あった」
「で、攻撃回数はいくつ?」
「7連撃って書いてある」
「えっ、7連撃ぃ!?」
「現時点でトップじゃないか!」
現在発表されている最高は5連撃なので、ユウキは記録を更新したことになる。だが、当の本人は、どことなく満足していないような表情をしている。
ボスに向かっていった時、ユウキには自信があったのだ。もっと先に行けると。しかし今は、あの時の感覚を思い出せない。
「(さっきまではすっごい自信があったんだけどなぁ……)」
頭の中で疑問符を浮かべたユウキは、可愛らしく首を傾げる。あんなにも印象的な光景を一瞬で忘れてしまうのは不思議な気もするが、それには当然のように理由があった。
彼女が見る別世界のイメージはとても曖昧で、強いきっかけがあった場合でないとすぐに霧散してしまうのだ。同一人物の記憶といっても別物には違いないので、ありのままに留めておくことはできないのである。
そのような理由により、絶対最強の剣士は、再び記憶の奥底へと戻ってしまった。かなり残念だけど、思い出せないのなら仕方ない。
それに今は、もっと気になることがあった。ボスと戦っている時に感じた違和感のことだ。あの時彼女はもっと仲間がいるような気がしたのだが、そのイメージが頭から離れないのである。今となってはどんな姿をしていたのかも思い出せないけど……あの人たちは一体誰なんだろう?
「(最近見るようになったあのイメージ……。これまでは単なる夢かと思ってたけど、アスナとは実際に会えたし……。もしかすると……)」
「……ユウキ、ユウキってば!」
「うぇっ!? ど、どうしたの姉ちゃん?」
「どうしたのって、それはこっちのセリフよ。いきなりボーッとして、今日のあなたは何か変だよ?」
「あー、えっと、ゴメン」
確かにランの言う通りだ。ユウキ自身にも心当たりがあるため、ここは素直に謝るしかない。
本当に、今日の自分はどうかしている。急に泣いたり、おかしなイメージを見ちゃったりして……。特に、初対面のアスナにはずっと迷惑をかけっぱなしだ。
「アスナもゴメンね。せっかくの記念日なのに」
「ううん、気にしないで。初めてのアインクラッドで緊張してたのかもしれないし、1時間以上も戦ったから疲れちゃったんだよ、きっと」
「ああ、そうかもしれませんね」
アスナの説明を聞いたランはすぐに同意する。彼女の言う通り、今は全員が疲労感を抱いている。
もちろんそれはグラハムも同様だ。久しぶりのアインクラッドに気を取られて、いつもの余裕が失われていた。そのせいで、愛しい少女たちに気を使ってあげることができなかったのである。
「(ええい。愛の水先案内人たるこの私が、気づいてやれんとは……面目次第も無いぞ!)」
彼女たちの会話を聞いてようやく状況を察したグラハムは、ユウキの身体を優しく抱きしめ、頭を撫でた。
「よくがんばったな、ユウキ。君の圧倒的な活躍に、私は心奪われたよ」
「えへへ~、ソウ兄ちゃんから愛の告白を受けちゃった~♪」
「都合の良いように受け取らないの!」
突然やってきたラッキーイベントに嬉しくなったユウキは、思わず調子に乗ってしまう。気になることがあっても、恋する乙女は恋愛を優先するものなのだ。
恋のライバルであるランとしては若干面白くないものの、この場は大人しくしておく。今日はユウキの活躍で記念すべき日になったのだから、ここは寛大な心で許してあげようと思ったのだ。
「まぁ仕方ないわね。今日のユウキはすごくがんばったから、特別に許してあげるわ」
「なにその上から目線。別に姉ちゃんの許可取る必要なんかないでしょー?」
「そうはいかないわよ。遠慮してばかりじゃユウキに勝てないからね」
「ふふん。それでこそボクのライバルだよ、姉ちゃん! でも、勝つのはこのボク、ユウキ・エーカーだよ!」
「勝手に結婚するな!」
「はっはっは! 私を巡って可憐な乙女が喧嘩をするとは、男冥利に尽きるな!」
「ちくしょう! 俺の前でかわいこちゃんと戯れやがって……。全然羨ましくなんかないやい!」
「クライン、お前の気持ちは分かってるから……」
「ええい、同情するなら彼女くれ!」
グラハムたちのラブラブなやり取りを見て、クラインの嫉妬が再燃する。そんな彼を哀れんでキリトが慰めようとするが、可愛い恋人のいる野郎では逆効果にしかならない。
しかし今は祝うべき時だ。これ以上女々しい話で盛り上がるなど無粋の極みだろう。
「何にせよ、私たちはこの層をクリアしたのだ。ならば、盛大に祝勝会と洒落込もうではないか!」
「おっ、いいねぇ! 嫌なことはさっさと忘れて、パーッと騒ごうぜ!」
「ちょい待ちお二人さん。ユグドラシルシティに帰る前に、剣士の碑を見ておくべきでしょ?」
「そうだよ。わたしたちの名前が初めて刻まれるんだから、絶対に見に行かなきゃ」
グラハムとクラインがこの後の予定を話し合っていると、横から絡んできたリズベットとリーファに文句を言われる。そのやり取りをグラハムの腕の中で聞いていたユウキは、とある単語に興味を惹かれる。
「剣士の碑……」
アインクラッドに初めて来たユウキにとって一度も行った事がない場所だけど、そこはとても思い出深い場所――のような気がする。今はまだはっきりとしないが、そこに行ってみればそう思う原因が分かるかもしれない。
「ボクも行ってみたいな」
「ほら、ユウキも行きたいって言ってるじゃん」
「そうだね。祝勝会の前に、みんなで記念写真でも取ろうか」
「あっ、いいですねそれ!」
ユウキの賛成を得たリズベットたちは、意気揚々と話を決める。こうなったら逆らうことは出来そうもない。キリトたち男性陣は、しょうがないなと言った様子で女性陣のいう事を聞くしかなかった。
何はともあれ、こうして意見はまとまり、一行は剣士の碑がある黒鉄宮へと向かうことになった。
第4層の転移門をアクティベートした一行は、第1層の主街区にやってきた。そして、その足で中央広場に面して立っている大きな宮殿・黒鉄宮へと赴く。
目的地である剣士の碑は、SAO時代に【蘇生者の間】と呼ばれていたところにある。広々とした部屋の奥に金属製の巨大な碑があり、そこに各階層のフロアボスを最初に討伐したプレイヤーたちの名が記載される。
「(ここは……。何となくだけど、来たことがあるような気がする)」
おぼろげながら記憶を思い出したユウキは、急いで駆け寄る。やはり、ここにもあの記憶に関する何かがあるようだ。
そう思ったユウキは真剣な眼差しで観察する。眼前に広がる黒色の碑を見ると、英語で記されたプレイヤー名が見て取れた。まだ3層分しか記されていないため、グラハムたちの名はすぐに確認できた。
「あった、ソウ兄ちゃんたちの名前だ!」
ユウキの視線の先には、確かにグラハムたちの名が刻まれている。
ただし、その中にユウキとランの名前はない。一つの層に記載される名前は最大7人なので、グラハムをリーダーにしてパーティを組んでいる彼女たちは、残念ながら省略されてしまったのである。
「すまない2人とも。今回は君たちの名を刻むことができなかった」
「ううん、いいんだよ。今日はソウ兄ちゃんたちの復帰記念なんだから」
「そうだよ。わたしたちは、また今度挑戦すればいいしね」
ユウキたちは、申し訳無さそうにしているグラハムを気遣う。
確かに、自分たちの名が無いのは残念だけど、これで最後ってわけじゃないから大丈夫。ランの言うように、また挑戦すればいいんだ。この世界が続く限り、何度でも。
だってボクたち姉妹には、まだまだたくさん時間があるんだから。
「(って、なに当たり前なこと考えてるんだろ)」
剣士の碑を見ているうちに、おかしな言葉が脳裏をよぎる。
時間があるなんて当然じゃないか。ボクたちはこんなに健康なんだから。
そう思った瞬間、ユウキの脳裏に見知らぬプレイヤーたちのイメージが浮かんできた。自分とアスナの他に5人おり、剣士の碑を見て喜んでいるようだ。
しかし、そこにはなぜかグラハムとランの姿が無い。それに、アスナを見つめる自分は、悲しそうな表情をしている。
「(やっぱり見えたけど、相変わらず意味不明だよ……)」
ユウキは、自分に起きている不可思議現象に疑問符を浮かべる。嫌な気持ちになるわけではないが、気になって仕方がない。
会ったこともないのに、親しみが湧いてくる彼らは一体誰なんだろうか。そして、あの人たちと一緒にいるボクとアスナには、どのような関係が――
「……あれ、なんで涙が……」
「ユウキ? どうしたの?」
「えっ!? ううん、なんでもないよ!」
「そう? ならいいけど……」
ユウキは、目からこぼれた涙を拭って誤魔化す。何度も迷惑をかけたくはないし、このような怪現象(?)を説明することもできない。
「(でも……こうなったら、誰かに相談したほうが良いのかな……」
アスナという証拠が現れた以上、只の妄想とは言えなくなった。ということは、他の登場人物たちもこの世界のどこかにいるのかもしれない。
「(もしそうだとしたら……ボクはどうすればいいんだろう?)」
会いたい気持ちが湧き上がるけど、果たしてそれが良いことなのか判断がつかない。そもそもおかしな現象が発端なのだから、どのような結果になるかわかったものではない。
「(だけど、気になる……すごく気になるんだ)」
考えているうちに迷いが生じたユウキは、グラハム、ラン、アスナの3人に不安げな視線を向けるのだった。
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剣士の碑で成果を確認したグラハムたちは、そろってユグドラシルシティに戻り、キリトとアスナが共同で借りている部屋にやって来た。ランたちからS級食材を持ってきていると聞いたアスナが、自分で料理を作ると張り切り出したため、この場で祝勝会を催すことになったのだ。
広い部屋の中央にあるソファーセットに座った一行は、エプロン姿になったアスナとランに労いの言葉をかける。
「それじゃあ、アスナ。よろしく頼むな」
「うん。久しぶりのS級食材だから期待しててね」
「ほう、堂に入った発言だ。これも愛の成せる業かね?」
「そうよ、わたしの料理には愛情がたっぷり込められているわ」
「ふっ、たいした自信だ。ならば、この私を魅了するほどのパーリィ料理を作ってみせるがいい!」
「はいはい、分かりました。とっても豪華なパーリィ料理を作ってあげますよ」
アスナは、キリトとグラハムの声援に応える。多少温度差を感じるが、それは仕方ない。愛しい恋人と怪しい変人とじゃ比べるべくもないだろう。
だが、アスナとは逆にグラハムへ好意を寄せているランは、ここぞとばかりにアピールする。
「わたしもお手伝いするから楽しみに待っててね、ソウ君♪」
「うむ。君の手腕に期待している」
「ぐぬぬ……料理に関しては姉ちゃんに勝てる気がしない……」
得意げな姉に対してユウキは劣勢だった。普段からオヤツを作ってもらったりしている手前、強気に出れないのだ。
「そろそろボクも料理の勉強しよっかな……」
少しだけ悔しい気持ちになったユウキは、グラハムの腕に抱きつきながらぼそりとつぶやく。こうやって甘えるのはとても心地良いけど、ランのように何かをしてあげられるようになりたい気もする。実際に、グラハムも喜んでいるようだし。
「(やっぱり料理は女の武器だもんね)」
恋しちゃってるユウキは、おませなことを考えてウンウンと頷く。
そんな彼女の想像通り、ランの特技を知ったクラインは目を輝かせている。彼は、料理が作れる女性に対して強い憧れを抱いている典型的な独身男だった。
「へぇ~、ランちゃんって料理作れるんだ?」
「はい。現実でも料理を作ってますから、結構自信があります」
「う~ん、いいねぇ。料理ができる美少女! 俺もリアルで料理を作って欲しいなー?」
「無理ね」
「無理でしょ」
「無理ですね」
「仲良くハモってんじゃねーよ!」
大人びて見えるランのエプロン姿に鼻を伸ばしていたクラインは、女性陣の総攻撃を食らう。確かに、大の大人が女子中学生に向けてはいけない熱視線である。
とはいえ、彼が心惹かれてしまうのも仕方ないかもしれない。現実のランもアバターに負けないくらいの美少女で、しょっちゅう料理をしているから、ゲーム内でも魅力的な雰囲気を感じるのだ。その点もアスナと似ている要因になっているため、クラインは元より、キリトまで不思議な気持ちになってしまう。もちろん、彼のようによこしまな感情ではないが。
「(ランとユウキにアスナを入れると、まるで3姉妹みたいだな……)」
そんな風に思ってしまうほど、彼女たちはあっという間に仲良くなった。アスナが親しみ易いのか、ユウキとランがフレンドリーなのか分からないが、とにかく相性は良いようだ。
その代わりに男性陣の肩身が狭くなるだろうけど、それは仕方ない。
「只でさえ女性が少ないのに、美人ばかりそろってるからなぁ」
キリトは、この場に集まっている仲間たちを見つめて思った。アスナを始めとして、みんな美少女ぞろいだ。周囲からのやっかみが増えるとしても、甘んじて受け入れるしかないだろう。
「これも贅沢な悩みってヤツか」
「ん? 何か言いましたか、パパ?」
「ああ……新しい仲間ができて良かったなって言ったんだ」
「はい、そうですね。ランさんもユウキさんも良い人だから、わたしも嬉しいです」
キリトの肩に座っているユイは、にこりと微笑む。彼女はグラハムと仲が良いので、彼の復帰を促してくれたユウキたちに感謝していた。だから余計に彼女たちの仲間入りを喜んでいるのだ。
「ふふっ。またグラハムさんと一緒に遊びましょう、パパ!」
「まぁ、遊ぶのはいいけど、ガンダムごっこは勘弁してくれ」
「え~、なんでですか~?」
「俺がグラハムにストーカーされるからだよ」
キリトは、SAO時代の苦い経験を思い出してうなだれる。
あの当時、人間というものを学んでいたユイは、グラハムが語る現実世界の話に興味を持ち、キリトたちを巻き込んで演劇などをおこなっていた。その題目の一つに【機動戦士ガンダム00】があり、キリトは刹那役にされたのである。無論、グラハムは刹那を追い求めるグラハム役で、キリトを精神的に苦しめたのは言うまでもない。
「アレのせいで、アスナに変な誤解をされて大変な目にあったからな……」
「そういえば、パパとグラハムさん、すっごく怒られてましたね~」
2人は、ユイの教育に悪いという理由でアスナからこっぴどく叱られていた。確かに、至極真っ当な対応ではある。
しかし、真実は違った。あの時アスナは、美少年同士の絡み合いに少しだけ興味を抱いてしまったことを誤魔化していただけだったりするのだが……もはやそれを確かめるすべは無い。
まぁ、すべての元凶であるグラハム自身は特に気にしていないようだが。
「どうした少年。先ほどからユイとばかり話しているが、今は賓客をもてなす時ではないかね?」
「誰が賓客だよ。と言いたいところだけど、お前を呼んだのは確かに俺だからな。仕方ないからホスト役を務めてやるよ」
「ならば早速、料理が来るまで場を盛り上げたまえ」
「盛り上げるって、芸でもやれってのか?」
「そうだとも! この私、グラハム・エーカーは、君の裸踊りを所望している! さあ、さらけ出すと良い。君という存在を! その全てを!」
「誰がやるか―――っ!?」
悪夢は再び蘇る。
またしても悪乗りしだしたグラハムに対して、キリトは渾身のツッコミを入れるのだった。密かに女性陣から送られてくる期待の眼差しを無視しながら。
キッチンに向かったアスナとランは、早速料理の準備を進める。2人の腕前はかなりのもので、すべての行動にそつが無い。SAOで料理スキルを極めたアスナは言わずもがなだが、ランのほうも決して負けてはいなかった。
「それじゃ、みんながビックリするようなメニューを作りましょう」
「はい。よろしくお願いします」
食材を吟味し終えた2人は、気合を入れて料理を始める。
このゲームで料理を作る方法はオートとマニュアルの二通りあって、どちらもメリットとデメリットがある。
オートの場合は、マスターしているメニューを選ぶだけですぐに作れるが、凡庸な味付けになってしまう。対してマニュアルのほうは、製作工程を簡略化したミニゲームの結果で味付けを変えることができるのだが、その分技術と時間が必要になってくる。
ようするに、時間を取るなら前者、味を取るなら後者となるわけだ。
因みに、アスナとランの場合は、現実世界の腕前を生かしてマニュアルで作っている。やはり、恋する乙女としては、好きな人に美味しいものを食べさせてあげたくなるものなのだ。
「ランも現実で料理を作ってるんだ?」
「はい。ユウキにオヤツを作れってねだられているうちに上手くなっちゃいました」
「ふふっ、あの子らしい話ね。でも、上手くなった理由はそれだけじゃないんでしょ?」
「えっ?」
「時々グラハム君が持ってくるお弁当を作ってるのって、あなたでしょ?」
「!!? ええっと、その、あの……」
「どうやら当たりだったみたいね」
「あうう~」
アスナは、恥ずかしがるランを見てイタズラな笑みを浮かべる。普段は大人びている彼女も、恋バナになるとお茶目になるのだ。
しかし、その表情はすぐに真面目になる。今のアスナには少し気になることがあり、それをランに伝えようと思っていたのである。
「あのね、ラン。あなたに言っておきたいことがあるんだけど」
「はい、なんでしょう?」
「えっとね、ユウキのことなんだけど。剣士の碑に行ったとき、少し様子が変じゃなかった?」
「……そうですね……」
ランは、アスナの言葉に同意する。リズベットの店でユウキが泣いてからさりげなく様子を気にかけていた彼女が気づかないはずがない。そもそも2人は双子の姉妹なのだから、感情の動きをある程度理解することが出来た。
「たぶん、悩み事があるんじゃないかと思うんですけど、いきなり問い質さないほうがいいかなって考えてます。あの子は強い子ですから」
「そうね……そのほうがいいかもね」
「それに、ソウ君がいるから大丈夫です」
「グラハム君がいるから?」
「はい。ソウ君は、わたしたちが悩んでると可能性を示してくれるんです。だから、今回も大丈夫なんです」
「そっか……2人はグラハム君のことが大好きなんだね」
「……はい」
はっきりとうなずいたランは、頬を赤く染める。その様子を見たアスナは、ユウキとランに言い寄られるグラハムを思い浮かべて苦笑するのだった。
次回は、紺野家と松永家の出会いと親交を描きたいと思っております。