ソードアート・オンライン アイとユウキのセカイ 作:カレー大好き
リーファとランによる激しいデュエル。その一部始終を見たキリトとグラハムは素直に驚いた。想像していた以上にランの実力が凄まじかったからだ。これならユウキたちが興奮するのもうなずける。そう思えるほどの強さだった。
「見たかグラハム?」
「ああ見たとも! プルンと揺れる乙女の胸が、私の視線を釘付けにする!」
「そこじゃねぇよ!」
まったく着目点が違ったグラハムにツッコミを入れる。まさか、あの激しいデュエルの最中にパイオツを鑑賞していただなんて、とんでもないハレンチ野郎である。
とはいえ、男子諸君ならば同意できる行為だろう。3Dゲームに出てくる女子キャラの胸に注目してしまった経験のある人は多いはずだ。はっきり言ってどーでもいい話なのだが。
「まぁ、揺れる胸はともかく、すごい戦いだったな」
「そうだな。あまりの華麗さに、私の心はときめいてしまったよ。あの勇ましい姿、まさしく戦乙女と呼ぶに相応しい」
改めて感想を聞かれたグラハムは、手放しで賛辞を送る。流石のキリトたちも、しきりに関心してしまうほど素晴らしい内容のデュエルだった。
今より数分前。ランとデュエルを始めたリーファは、キリトたちと同様に驚いていた。後から来た彼女も、ランに起きた変化を直接見ていなかったからだ。
得意の空中戦に持ち込んだというのに、いざ始めてみれば自分の方が押されている。数日前に遊んだ時は迷宮内での戦いだったため分からなかったが、ランは空中戦が得意らしい。いや、それだけじゃない。すべてのプレイヤースキルがパワーアップしているように感じる。
「ちょ、ナニコレ!? ランってほんとにウンディーネなのーっ!?」
激しい突きの嵐をなんとか凌ぎつつ叫ぶ。
本来なら接近戦が苦手な種族なのにこの強さ。事前に話を聞いていてもビックリしてしまう。
「アスナさんもバーサク気味だけど、この子も普通じゃない!」
「わたしってそう思われてたの!?」
リーファは、自分の周りにいるウンディーネが常識外な存在ばかりなことを改めて思い知らされて戦慄する。その気持ちを思わず口走ってしまいアスナがショックを受けてしまったが、今はそれどころではない。自分は彼女の同類と戦っている最中なのだから。
「知り合いのウンディーネが2人ともバーサーカーなんて、どーいう巡り合わせなのよー!」
「なにを言うんですか。わたしはアスナさんと違ってものすごく普通ですよ!」
「それってどういう意味よ!?」
アスナと同一視されたランは訂正を求めたが、ちょっぴり言い方がまずかった。彼女としてはアスナほど凄くないと謙遜しての発言だったものの、言葉が足らずにあらぬ誤解を招いてしまった。
とはいえ、話の流れにあまり関係ないので、物語はそのまま進む。
「そろそろ決着を付けさせてもらいます!」
「こっちだって、このままやられっぱなしじゃいられないよ!」
ランに煽られて負けん気を強めたリーファは、勇ましく立ち向かっていく。
無駄のない動作で繰り出された彼女の突きを右方向に払い、その流れで左袈裟切りを放つ。この攻撃を凌ぐには、通常だったら剣を戻して防御するところである。しかしランは、普通とは違う行動に出た。
この時ランは、足元を軸にするように身体を倒してリーファの剣を避けて見せたのだ。そして、その体勢のまま後方へ飛び退りつつ身体を丸めて一回転すると、剣を振った直後のリーファに向けて突進する。三次元を巧みに用いた機動で翻弄されたリーファは目を丸くする。
「あっ!?」
「行けーっ!」
完全に不意を突かれる形となったリーファは、為す術もなく胸を貫かれる。その衝撃で彼女の豊満な胸が激しく揺れ動き、それと同時にダメージ硬直に陥る。
「ここだ!」
その隙を好機と見たランは、つい先ほど会得したばかりのオリジナルソードスキルを発動する。後にその光景を見たグラハムから、【マーシフル・ヴァルキリー】――慈悲深い戦乙女――と名付けられる7連撃の技だ。
「たあぁぁぁ―――!!」
気合の叫びと共に華麗な剣の舞いが展開される。
右袈裟斬り、左袈裟斬り、右水平切り、左水平切りを高速で決めた後に、身体の中央へ渾身の突きを放ち、そこから頭上まで切り上げて、止めに身体を一刀両断するように切り下ろす。名前の通り、苦しむ時間すら与えずにヴァルハラへ送られてしまうような連撃である。
そして、この技が決まると同時にデュエルの決着もついた。
激しいデュエルが終わり、がっくりと肩を落とすリーファと彼女を慰めるアスナたち。そんな女性陣の姿を見つめながら男性陣は語りあう。特にグラハムとクラインは妙に表情を輝かせており、言葉にも熱が入る。
「ほんと、さっきのOSSはすごかったなぁ」
「その意見に同意させてもらおう。リーファの股を切り裂いたあの一撃、賞賛と好意に値する」
「そうそう。リーファのお股をズバッと通過したあの一撃には興奮しちまったぜ!」
「ああそうとも! 乙女座の私にはエロチシズムな衝動を感じずにはいられない!」
「お前らそろって最低だな!」
妹をいやらしい目で見られたキリトは荒ぶった。しかし、最後の技が見事だったのは認めざるを得ない。あれほどのスキルを会得するのは、元SAOプレイヤーでも非常に難しい。
だからというわけではないものの、気になる点がある。ランの成長が早すぎるのだ。ユウキにも感じたことだが、ランまで同じような状況となると話が変わってくる。
「双子だから同じような才能があるのか。それとも……」
「どうした少年。ランに熱い視線を向けて」
「いや、ちょっと気になることがあってな……」
「なにぃ!? アスナだけでは飽き足らず、ランにまで懸想したとでもいうのか!? 浮気性とは感心しないなぁ、少年!」
「そうだそうだ! 浮気はサイテーだぞ、キリの字!」
「思いっきり誤解で迷惑な冤罪だコンチクショウ!」
せっかくかっこよく決めようとしていたのに邪魔されて憤るキリト。グラハムのお茶目で数少ないシリアスシーンが台無しになってしまった。とはいえ、彼も伊達に友人をやっていないので、キリトに助け舟を出す。
「それでは、なにが気になったと言うのかね?」
「ああ……ランとユウキの成長がプレイ時間以上に伸びていることが気になってね。もしかしたら、何らかの原因があるんじゃないかって考えていたんだ」
「なるほどな……。実は私も気になっていたのだ。恐らくは、VRマシンによる影響ではないかと推測しているのだがね」
「VRマシンの影響? なんだよそれ?」
キリトたちの話に興味を持ったクラインが質問してくる。彼らは年齢以上に専門知識を持っているので、こういう時に頼りになるのだ。そして今回も期待に応えてくれた。
「では説明しよう。君も知っている通り、VRマシンは脳と直接接続することで使用する特殊な装置だ。ゆえに、脳に対する様々な影響があるのではないかと想定され、現在も検証が続けられている」
「代表的なものは量子脳理論だな。意思や心といったものを科学的に捉えて、VRマシンによる影響や相互作用を研究しているんだ。実を言うと、VRマシンが脳に対してどのように作用しているのか完全に解明されていないからな。何らかの変化をもたらす可能性は十分にありうる」
「私としては、その変化とやらが少年自身にも起きていると感じているのだが、君の見解はどうかな?」
「俺の思考速度がアップしてるって言ってたアレか? やっぱり自分じゃよく分からないな。検査でも異常はないみたいだし」
「その情報が真実だとは限らんがな」
「うっ。怖いこと言うなよ……」
得意分野を聞かれたグラハムとキリトは、熱の入った議論をしだす。
彼らが言っていることは確かで、VRマシンは未だに様々な問題を孕んでいる。それでも、将来の発展を期待している国や企業の切望によって、半ば強引に販売され続けている。
ようするに、仕組みが完全に把握されていないのに使用されている全身麻酔と同じようなものだ。効果は確かで必要なものだからよく分からなくても使う。そうして実績を重ね、得られた経験を元に不具合を直していく。それで良いではないかというのが彼らの言い分である。
もちろん、それなりの安全性は保障できるからこそ販売されているのだが、実験的な側面があるのも否定できない。しかし、危険性を無視してでも市場を拡大しようとする動きが見られる。VRマシン技術は、それほどまでに重要視されているのだ。そうでなければ、2回も大事件を起こしたものをこれほど早く広めることはできない。
当然グラハムとキリトもその辺を理解して、注意深く使用している。茅場や須郷が起こしたような犯罪に対抗できるように、あえて関わることで知識と力を身につけていこうという算段だ。一度関わってしまった手前、無力ではいられないのである。
とはいえそれは、知識を持っている彼らだからこその行動で、一般的な反応はクラインのように曖昧なものだった。
「う~ん。脳に影響があるとか言われても、俺にゃあサッパリ分からんなぁ」
「ならば、もっと簡潔に述べるとしよう。私たちが言いたいことは、VRマシンを長く使っていると脳の機能が拡張する可能性があるという話なのだよ。つまり、VRマシンによって刺激を受けた脳が鍛えられるということだな」
「それって頭が良くなるってことか?」
「そのような世迷言、分かるわけないだろう!」
「お前が言い出したんだろっ!?」
「だが、この世は素敵なワンダーランドだからな。もしかすると、テレパシー能力すら得られるようになるかもしれんぞ?」
「ははっ、それこそ世迷言だろ」
「ふっ。男のロマンを理解できないとは。だから君はモテないのだよ!」
「余計なお世話だコノヤロー!」
グラハムは、ノリの悪いクラインをからかいつつ考える。
先ほど自分で言葉にしたテレパシー能力。世間一般では空想の産物でしかないものだが、今のグラハムは違う見解を持っている。ユウキが経験している超常現象という実例があるからだ。
それがもしVRマシンによって引き起こされている現象だと考えたらどうだろうか。テレパシーを超越したとんでもない能力があの装置によって発現したというのなら、非常に由々しき問題になりかねない。ニュータイプやイノベイターのような新人類が本当に誕生するかもしれないとなれば、無視できる話ではないだろう。
「(人の意識を加速させ、尋常ならざる処理能力をもたらすVRマシン。それが人の可能性を拡大し、神の領域へ導く効果があるとしたら……)」
いや、調子に乗って話を膨らませすぎた。ふと我に返ったグラハムは頭を振る。
ただ、絵空事だと言い切れなくなったことも間違いない。ユウキとアスナの不思議な出会いは、常識だけでは説明できない要因が存在している。
それに加えてユウキとランの急成長という要素もある。証拠がそれなりにそろっている以上、楽観視は出来ない。
「ねぇねぇ、ソウ兄ちゃん!」
「……ああ、どうしたユウキ?」
「何か盛り上がってたみたいだけど、どんな話してたの?」
「なに、ランの圧倒的な成長に心奪われたと話していたのだよ。思春期の乙女とは、瞬く間に羽ばたいていくものなのだな。その変化に、愛しさと切なさを感じてしまうよ」
「えー。ボクだって、姉ちゃんと同じくらい強くなってるぞー!」
姉にばかり注目が集まって何となく悔しくなったユウキは、グラハムの右腕にギュッと抱きついてアピールしだす。すると、その光景を見たランも負けてはいられないと参加してきた。
今の彼女は、デュエルに勝てて気分が良くなっていたから、普段より大胆になっていた。空いているグラハムの左腕にそっと抱きつくと、これまでの戦績を伝えてアピールしてきた。
「ソウ君。わたし、5連勝もできたよ!」
「ほう。それは見事だな。祝いとして、君の好きなベイクドチーズケーキを作ってあげよう」
「やったぁ、ありがとうソウ君!」
「ぐぬぬ~。さっきのデュエルで負けちゃったから邪魔しにくい……というか、ボクも食べたい」
「もちろん、ユウキの分も作ってやるさ」
「わーい! ソウ兄ちゃん大好きー!」
何だかんだと言って、結局は仲良くまとまる3人。
そんな幸せを享受しながらグラハムは思う。VRマシンの件は気になるが、今は保留にするしかない。だって、こんなに楽しんでいる2人をこの世界から引き離すことなんてできないじゃないか。だから自分がユウキとランを守ってみせる。
悪い状況にならないことを祈りながらも、力をつけなければなるまいと心の中で誓うのだった。
キリトたちと合流して全員揃った一行は、その後モンスター狩りをして遊んだ。それを2時間ほどおこなって区切りが良い時間となったので、今日のプレイはお開きとなった。
その帰り際にユウキは、アスナとランを呼び集めた。例の話を持ちかけるために。
「あのね。2人に聞いてもらいたいことがあるんだけど……」
「うん、いいわよ。何でも聞てあげる」
「もちろんわたしも」
「2人ともありがとう」
「ふふっ、お礼なんかいらないわよ」
「それで、何か相談したいことでもあるの?」
「うん。ソウ兄ちゃんにはもう話したんだけど、2人にも話そうって思ったんだ」
もじもじとしながらも何とか話を進めるユウキ。その姿を見つめるアスナとランは、彼女の愛らしい仕草に微笑みつつ、静かに次の言葉を待つ。
「でもね、ここで話すのは落ち着かないから直に会いたいって思ってるんだけど、どうかな?」
「現実で会うの? もちろん構わないわよ。わたしも2人に会ってみたかったし」
「当然わたしも問題ないわよ」
「ほんと!? それじゃあボクたちがアスナの学校に行くよ!」
「えっ、なんで学校?」
「だって、これ以上アスナに面倒はかけられないでしょ? それに前から行ってみたいって思ってたから一石二鳥なんだ」
「なるほどね。それじゃあ正門前で待ち合わせしようか。学校の庭に落ち着ける場所があるから、そこで話を聞かせてもらおうかな」
「うん、よろしくおねがいします!」
こうしてユウキは、現実世界でアスナと会う約束を取り付けた。
日にちは今度の土曜日。ユウキたちの授業が半日で終わるので、時間を合わせやすいと考えたのだ。許可に関しては、和人たちの部活を見学したい後輩がいると説得すれば大丈夫だろう。その辺は優等生の信用という特権でどうとでもなる。
何はともあれ、勇気を出したユウキは憧れの学校に行く機会を得ることができた。別世界のユウキが自身の身体で行くことができなかったその場所に……。
☆★☆★☆★☆
約束当日の土曜日。半日で授業を終えた紺野姉妹は、中学校の制服のまま明日奈たちが通っている学校へやって来た。
「ふぅ、やっと着いた」
「電車通学って、思ってた以上に大変みたいだね」
「ボクは近くの高校に入ることにするよ。睡眠時間を削りたくないし」
「気にするトコはそこなんだ」
ここまで来るのに少しばかり疲れた2人は、電車通学について語りながら目的地の学校を見る。すると、部活の無い生徒たちが下校している様子が見て取れた。他の学校より終業時間が遅いのは、SAOの影響による勉強の遅れを挽回するためだ。自由時間を減らしてしまうのは可哀想だが、いつまでも被害者ではいられない。悲しいけどこれ現実なのよね。
とはいえ、生徒たちの雰囲気は結構明るい。デスゲームから生還することができた彼らは、生きている喜びを実感しているのだ。
あの恐ろしい日々に比べたら土曜日の授業延長などどうということはない。まぁ、大変であることには違いないのだが、こういう普通の日常こそが本当の幸せなのだと彼らは学んでいた。
指定時間前に到着した木綿季たちは、邪魔にならない所に立って宗太郎たちが来るのを待つ。通り過ぎていく生徒たちから注目を集めてしまっているが、双子の美少女中学生が突然現れたのだから仕方ない。とりあえず気づかないフリをすることにした2人は、初めて見る学校を興味深げに観察する。
その時、木綿季の脳裏に例のイメージが浮かんだ。
「へぇ、ここのイメージもあるんだ……」
不意に感じた既視感に少しだけ驚く。ALOにログインしている時より不鮮明だったが、少なくともこの場所だということは分かる。どうやら、イメージの中の自分はここに来たことがあるようだ。
「木綿季、ソウ君たちが来たよ」
「うん。いよいよご対面だね」
思考に没頭しているうちに待ち人が来たらしい。藍子に声をかけられた木綿季は、こちらに近づいてくる団体を見た。するとそこには、見覚えのある顔ぶれがそろっていた。
もちろんその中には宗太郎がいて、やたらと爽やかな笑顔を浮かべながら挨拶してきた。
「ちょりーっす!!」
「なにその挨拶!?」
突然キャラを変えてきた宗太郎に里香がつっこむ。
リズベットの時と変わらないリアクションだが、見た目もほとんど一緒だ。違いと言えば、髪の色がピンクから黒に変わった程度である。
そしてそれは、傍にいる明日奈と珪子も同様だ。宗太郎や里香と同じくSAOのデータを引き継いだ彼女たちは、ゲーム内のアバターと同じ容姿をしている。だからこそ、木綿季と藍子も一目で認識できた。
「すごい! 向こう側とほんとにソックリなんだね!」
「ふふっ。そんなに似てる?」
「はい。現実の明日奈さんもすごく綺麗でビックリしてます」
「そうそう。ボクが思ってた通りの美少女っぷりだよ」
「あはは……ありがとう」
2人の感想を聞いた明日奈は照れ笑いする。こんなにも純粋に褒められると流石に恥ずかしい。
とはいえ、美少女という点では木綿季と藍子も負けてはいない。初めて見た双子の姉妹は、明日奈たちの想像以上に可憐だった。
「木綿季と藍子だってすごく可愛いよ」
「えへへ~、そうかな~?」
「いやいや、ほんとに可愛いよ~。宗太郎が自慢するのも納得できるわ」
「はい、わたしもそう思います」
「ええっと、その、ありがとうございます……」
紺野姉妹の可愛さを知った明日奈たちは、そろって褒めまくる。ただし、里香と珪子は別の感想も抱いているようだが。
「それにしても双子で美少女かぁ。世の中ってやっぱり不公平よね」
「まったくその通りですよ。年上のわたしよりスタイルいいし……」
どうやら、2人の美少女っぷりに思うところがあるらしい。しかしここは、あえて触れないでおく。それが優しさってモンだ。
何はともあれ、女性陣たちは出会ってすぐに打ち解けあった。男供を無視して。
「おいみんな。時間が無くなるから、そろそろ自己紹介しようぜ」
間を持て余していた和人は、若干呆れた様子で割り込んできた。そんな彼に視線を向けた木綿季は、なぜか目を輝かせる。
「ん~。もしかして、あなたがキリト?」
「ああそうだよ」
「やっぱりそうかー! ほんとにソウ兄ちゃんが心奪われちゃうほどの美少年だね!」
「嫌な言い方をするな!」
「ふっ、照れるなよ和人。すべて本当のことなのだから」
「お前は黙ってろ!」
木綿季と宗太郎の同時攻撃を受けて荒ぶる和人。仮想世界の英雄も、現実ではいじられ役と成り果てるのだった。
一通り自己紹介を終えた後。明日奈と紺野姉妹は、やたらと広い学校の庭にやって来ていた。中央にあるベンチに腰掛けて、じっくりと木綿季の話を聞くことにしたのである。
里香と珪子は先に帰宅し、和人と宗太郎は3人の話が終わるのを部室で待っている。
これでいよいよ、あの話をする準備が整ったわけだ。
「それじゃあ話すね」
心を決めた木綿季は、宗太郎に打ち明けたあの現象について説明した。荒唐無稽なその話は、普通だったら妄想の一言で済まされてしまうものだ。しかし、明日奈と藍子は真剣に聞き入る。特に、同じような経験をしている藍子は内心で驚いていた。
「(木綿季もあのイメージを見ていたなんて……)」
こうなると、ただの妄想などでは済まなくなってくる。宗太郎の言う通り、あのイメージはここにいる3人と関係があるものなのだろう。話を聞いた藍子はそう思い、明日奈もまた木綿季に起きている不思議な状況を受け入れていた。只一人イメージを見ていない彼女も思うところがあったからだ。
「(この子は本当のことを言っている。それは間違いない)」
初めて出会った時に木綿季が流した涙は本物だった。あの姿をしっかりと覚えている明日奈には、彼女の話を疑うことなんて出来ない。
そしてなにより、自分自身が木綿季の力になりたいと思っている。彼女のことを考えると心が切なくなって、大切にしてあげたいと感じてしまうのだ。まるで大好きな家族に愛情を抱くように。明日奈にとって木綿季は特別な存在となっていた。
「(出会って数日しか経ってないのにおかしいかもしれないけど……この気持ちは本物だわ)」
だから、木綿季の話を信じる。だってこの子は、わたしの大切な仲間だから。
不思議な記憶の中で見た仲間に会いたいという奇妙な望みだとしでも叶えてあげたい。どうやら自分にも関係があるようだし、少なからず興味もある。だったら協力すべきだろう。
「木綿季はその人たちに会いたいんだね?」
「うん。ボクは、あの人たちに会ってみたい。明日奈や姉ちゃんと一緒に」
「そっか……。うん、分かったわ。わたしも木綿季の手伝いをしてあげる」
「……ほんとに?」
「もちろん嘘なんかつかないわ。わたしはどこまでも木綿季の味方だよ」
「うん……ありがとう、明日奈!」
もっとも聞きたかった返事を貰った木綿季は、とびっきりの笑顔を浮かべる。
そして藍子も、明日奈に勇気付けられるように例の話を告白する。
「木綿季。実はわたしも言わなきゃいけないことがあるの」
「えっ?」
「わたしもね、木綿季が見たってイメージを見たことがあるんだ」
「…………えぇっ!?」
「本当なの?」
「はい。今週の月曜日に明日奈さんたちがデュエルした時、見えたんです。わたしと木綿季が知らない人たちとALOで遊んでいるイメージが」
「ほぇ~……まさか、姉ちゃんまで見てたなんて……」
「これで更に信憑性が増したわね……」
思いもかけない事態に3人は呆然とする。姉妹そろって同じようなイメージを見るなんて偶然でも起こりえないだろう。ということは、本当の超常現象が起きているという可能性が現実味を帯びてくる。
しかし、木綿季と藍子は恐怖を感じていない。何となくだが、イメージの中の世界を想うと、暖かい気持ちが湧き上がってくるのだ。
「すごい不思議な話だけど、ボクは素敵なことだと思うんだ。だって、あのイメージのおかげで明日奈とこんなに仲良くなれたんだからね」
「……そうね。木綿季がそう感じるのならそうだと思うよ」
「ということは、探すんですか? いるかどうかも分からない人たちを」
「うん。それでいいんじゃないかな。何もしないで悩んでるより納得できるまでやったほうがいいしね」
「っ! ……はい、そうですね」
紺野姉妹は、エリスママと同じようなことを言う明日奈に笑顔を向ける。
そうだ、少しでもやりたいと思ったら挑戦してみるべきだ。そして、エリスママに報告してあげるんだ。自分たちの決断した未来がどうなるのかを。
「(大丈夫。ボクたちにはソウ兄ちゃんがいるもん)」
大好きな人と一緒だったらなにも怖くない。この気持ちは、明日奈と藍子だって同じはずだ。ならば後は、迷わず進めばいい。自分の未来を切り開くために。
「はっきり言ってどういう結果になるか想像もつかないけど、とにかく探してみようか」
「うん! 改めてよろしくね、明日奈!」
「ご迷惑をおかけしますが、よろしくおねがいします」
こうして進路を見定めた3人は、無謀とも言える行動を開始することにした。もう一人のユウキが紡いだかけがえのない記憶――ユウキのシルシを求める冒険を。
今回でサイン・オブ・カーリッジ編は終わりです。
ここまでお読みになってくださった方はお分かりだと思いますが、この作品のユウキたちは、イノベイターとか因果導体的な特殊能力を持っている設定です。
原作基準世界のユウキがメディキュボイドを使い始めたことがきっかけで能力に覚醒、無意識の内に次元を超える道を作ってパラレルワールドのユウキとリンクする。
それが原因でパラレルワールドのユウキにも同様の力が宿り、原作基準世界のユウキが存命している間だけ共鳴・増幅し合っているといった感じです。
ちなみに、アスナにもほんのりと影響が出ているのでユウキの話を受け入れられた、ということになっております。
ぶっちゃけると原作通りの強さを再現させるための仕掛けなので、木綿季たちの命が脅かされるような展開にはなりません。
ELSもBETAも来ませんよ?
そんなわけで、次回から新しいパートに入ります。
オリジナルのクエストを攻略する話になる予定です。