娘のバンドと対バンしたい   作:肉野郎

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お気に入り登録、高評価、感想ありがとうございます!
なんかめちゃくちゃお気に入りとか評価増えててビックリしたけど、よく見たら日間ランキング載ってました。マジでどこで火が付いたんだ?謎だ…
今回は各キャラの反応集みたいな感じです。
それではどうぞ


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 12月。

 

 『NEW GLORY Evolutionary Tour』が全て終了した。

 

 直樹は日本への帰国を前に、ロンドンの高級ホテルのスイートルームから虹夏とリモートで打ち合わせをしていた。

 画面にはクリスマスライブのタイムテーブル案と、星歌へのサプライズセットリストの構築を進める二人の姿があった。

 

 

 「お姉ちゃんの特に好きな曲はその曲です!スポチファイの年間リスニングレポートも、毎年その曲で埋まってます!」

 

 「うわっ…懐かしいな〜。ほとんど10年くらい前の曲だ。他も十数年前の初期の曲ばっかり…あっ。この曲は何気にライブでやったことないかも。分かった…この辺からピックアップして、店長さん好みのセトリにしておくね」

 

 「ありがとうございますNaokIさん!」

 

 

 虹夏は画面に向かって嬉しそうに頭を下げた。

 星歌の好みを完璧に反映した、世界に一つだけのセットリストが形になっていく。

 

 

 「こちらこそ。じゃあリョウちゃんの提案通り、当日は初対面ってことにするからよろしくね」

 

 「はっはい!なんとかボロを出さないように頑張ります!」

 

 

 以前リョウが考案した「DMでダメ元オファーを出したら、NaokIの気まぐれで奇跡的に通った」というカバーストーリーは、【NEW GLORY】のメンバーにも好評で、そのまま採用されることになった。

 当日、他の出演者と顔を合わせたとしても、この設定を徹底して押し通さなければならない。

 虹夏は早くも緊張で表情を硬くした。

 

 

 「あはは…まぁ一番気をつけなきゃいけないのは、僕とひとりだけどね…」

 

 

 直樹は困ったように笑いながら付け加えた。

 実の親子であるが故に、ふとした瞬間の距離感や口調で周囲に察せられるリスクが、一番高いのは間違いなく自分たちだった。

 

 

 「それじゃあ、またね」

 

 「はい!お疲れ様でした!」

 

 

 画面が暗くなり、リモートの接続が切れた。

 

 これで全てのお膳立ては整った。

 

 世界中を欺き、一人の店長を驚かせるための、下北沢史上最大の極秘作戦が。

 

 

 それから数週間──

 

 街がイルミネーションと華やかな喧騒に染まる中、その日は瞬く間にやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスマス・イブ当日──

 

 【結束バンド】のメンバーは、初めての自主企画ライブを成功させるため、朝早くからスターリーに集まっていた。

 フロアでは、ひとりとPAさんがクリスマスの飾り付けを行っていた。

 

 

 しかしそこに広がっていたのは、およそクリスマスとはかけ離れた、完全なるカオスだった。

 

 

 天井からは巨大な逆さクリスマスツリーが吊り下げられ、枝にはなぜか大量の500円玉がテープで貼り付けられている。(全部ひとりの金)

 

 壁一面には『一日で3000円稼ぐ女』『胸キュン三十路♡』『クールジャパン上等卍』と書かれた掛軸が何枚も掛けられ、さらには『氷』『冷凍』『激安』『本日限りの大特価』『お前30円』と書かれた赤提灯が不規則に揺れていた。

 

 中央には無駄に豪華なパルテノン神殿風の神輿が鎮座し、頂上ではバランスボールサイズの巨大ミラーボールが狂ったように回転している。

 神輿の四方にはラメをこれでもかってくらい吹きかけたエクスカリバー(15本以上)が乱雑に突き刺さり、柄の部分にはなぜか『激辛』『二郎系』『背脂マシマシ』の のぼりがはためいていた。

 

 さらに神輿の周囲には、意味不明な等身大のAIロボット・ビッパー君(クリスマス仕様)が何体も配置され、右手にはウェットティッシュ、左手には芳香剤を握っていた。

 

 

 「あっあの…PAさん。これでクリスマスっぽさ…出ますかね…?」

 

 「大丈夫ですよ〜後藤さん。完璧に世紀末のクリスマスですよ〜♪」(面白いから黙っとこ)

 

 

 二人は虚無の瞳で、怪しげなオブジェクトの最終調整に勤しんでいた。

 

 

 一方、伊地知家のキッチンでは虹夏とリョウが、本日誕生日を迎える星歌のための特製ケーキ作りに励んでいた。

 と言っても、実際に手を動かしてクリームを泡立て、スポンジを焼いているのは虹夏だけ。

 リョウはいつの間にか「味見担当」という名の特権階級に就き、ボウルに残った生クリームをスプーンで器用に掬っては口に運んでいた。

 

 バイトの猫々と恵恋奈も、いつもより早めに出勤して会場の設営や掃除を手伝っている。

 

 そして──この全ての喧騒の中心にいるべき店長・伊地知星歌はというと、現在下北沢の街へと繰り出していた。

 「妹たちが自分のためにサプライズを計画してくれている」という事実に胸を躍らせ、ライブ開始までの時間を潰すため、普段のツンツンとした態度はどこへやら、スキップをしながらルンルン気分で歩いていた。

 

 しかしこの後、そのあまりにも変わり果てた浮かれ姿を数多くの知り合いやバンドマンたちに目撃され、後から死ぬほど悶絶することになるのだが──今の星歌に、それを知る由はなかった。

 

 

 

 ───

 

 ──

 

 ─

 

 

 

 ある程度飾り付けや設営の準備が終わった頃、出演バンドが続々と会場に到着し始めた。

 

 

 「【結束バンド】さんこんにちは〜」

 

 「今日はよろしくね」

 

 

 最初に姿を現したのは、【しじみ帝国】の一行だった。

 

 

 「あっ!【しじみ帝国】のみなさん!今日は出てくれてありがとうございます!」

 

 「いいよいいよ〜。いつもお世話になってる店長さんの誕生日だしね」

 

 

 虹夏が嬉しそうに応じ、メンバーたちと軽く挨拶を交わしていると、入れ替わるようにして次のバンドがスターリーに入ってきた。

 

 

 「やっほ〜♪虹夏ちゃん来たよ〜♪」

 

 「あっ!()()()()待ってました!」

 

 

 その親しげなやり取りを横で見ていた喜多は、ふと不思議に思って虹夏に尋ねた。

 

 

 「あの…私たちの前の出番のバンドの方たちですよね?伊地知先輩とお知り合いですか?」

 

 「ふふふ〜♪実はね〜この人たち、お姉ちゃんが元居たバンドのメンバーなんだよ!」

 

 「え!?そうだったんですか!?」

 

 

 思いがけない繋がりに、喜多は目を丸くした。

 リナはそんな喜多の反応を楽しみながら、懐かしそうに目を細めた。

 

 

 「そういうこと〜。あの虹夏ちゃんが主催のライブなら絶対に出なきゃね〜。にしても…虹夏ちゃん大きくなったね〜。前はあんなに小さかったのに」

 

 「えへへ〜♪」

 

 「そうだ。星歌って今、外に出てたりする?」

 

 「え?なんでですか?」

 

 「実はさっき下北沢の駅前で、ルンルンでスキップして歩いてる星歌みたいな人を見かけたからさ。他人の空似かと思ったけど…」

 

「ウッ……上デ爆睡シテマスケド!!」

 

 

 虹夏は引き攣った大声を上げ、全力で現実から目を逸らした。

 あの冷徹でツンデレな姉が街中でスキップをしているなど、身内としては口が裂けても認められない。

 

 

 「まぁいいや。今日はよろしくね〜」

 

 

 リナたちは小さく笑うと、楽屋へと入っていった。

 彼女たちの背中を見送った後、喜多が再び虹夏に疑問を投げかけた。

 

 

 「それにしても、私たちの前のバンド…店長さんの元居たバンドだったんですね。でも、どうやって知り合ったんですか?」

 

 「実は1ヶ月くらい前の話なんだけど……」

 

 

 虹夏は少し照れくさそうに、ぽつりぽつりと語り始めた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 それは新しいドラムスティックを新調するために、虹夏が都内の大型楽器店を訪れていた時のことだった。

 お目当てのスティックを手に取ってはいたものの、虹夏の頭の中は、遅々として進まないクリスマスライブの出演者探しのことで占められていた。

 

 

 《どうしよう………あれから十日以上経ってるのに、まだ一組も応募がない。…このままじゃ本当にワンマンに切り替えないといけなくなるかも…》

 

 

 どん底の気分で大きな溜息をついたその時、横からウェーブのかかった髪の女性が声をかけてきた。

 

 

 『……あれ?もしかして…虹夏ちゃん?』

 

 『え?』

 

 

 振り向いた虹夏はキョトンとした。

 見覚えがあるような、ないような、綺麗な大人の女性が自分を見つめている。

 

 

 『やっぱりそうだ!虹夏ちゃんだ!おひさ〜!私のこと覚えてるかな?』

 

 『あっ……あなたは!………………だ…誰でしたっけ?』

 

 

 率直すぎる問いかけに、女性は苦笑しながら前髪をかき上げた。

 

 

 『あはは…そうだよね〜。虹夏ちゃんと最後に会ったの、小学生の頃だもんね。私、リナだよ。ほら、星歌と同じバンドにいた元ドラムだよ』

 

 『……………あ!リナさん!お久しぶりです!』

 

 『よかった〜覚えてて〜』

 

 

 虹夏に話しかけてきたのは、星歌の元バンドメンバーであるリナだった。

 実は、虹夏にドラムの基礎的な部分を最初に教えてくれたのが彼女であり、幼少期の虹夏もリナにはとても懐いていた。

 

 思わぬ再会に驚きつつも、二人はすぐに近くのカフェへと場所を移し、話を弾ませた。

 

 

 『星歌とはちょくちょく会って話してたけど、虹夏ちゃん凄いね。初出場で未確認ライオット準優勝で、もうレーベルにも加入してるんでしょ?いや〜、今の子って本当にレベル高いな〜』

 

 『そんな、まだまだですよ』

 

 『それにさ、星歌からアルバムの完成音源を聴かせてもらったけど、腕もすごく上がっていたね。キックも速いし、スネアのクラック音も鋭かった。ハイハットのオープンも完璧に同期しててよかったよ。正直、バンドをやってた頃の私よりずっと上手いよ』

 

 『あっ……ありがとうございます!リナさんにそう言ってもらえるなんて、すごく嬉しいです!』

 

 

 憧れていた先輩ドラマーからの具体的な絶賛に、虹夏は胸を熱くした。

 

 

 『結成して一年で、もうブッキングライブもソールドアウト出来てるんでしょ?じゃあ、そろそろワンマンとかも行けそうじゃない?』

 

 『ッ…!』

 

 

 ワンマン──

 

 その単語が飛び出した瞬間、虹夏の表情がピクリと不自然に歪んだ。

 リナはそれを見逃さなかった。

 

 

 『え?大丈夫?なんかまずいこと言っちゃったかな?』

 

 『え?…あ…あぁいえ!大丈夫です!………そうですね!そろそろワンマンライブも出来るかも〜!なんて、あはは……』

 

 『…………虹夏ちゃん。悩みがあるなら聞くよ?』

 

 『え!?いや、そんなこと…』

 

 『そんな露骨に苦い顔をしてたら、嫌でも気づくって〜。ほらほら〜お姉さんに話してみな〜』

 

 

 昔と変わらないリナの気さくな優しさに触れ、虹夏はついに堪えきれなくなり、【結束バンド】の初の自主企画ライブが完全に頓挫しかけている現状を全て吐露した。

 

 出演依頼をしようとしたバンドは全員予定が埋まっており、知り合いの伝手も全滅してしまったこと。

 焦って出演者募集の告知を出したものの、一件の応募もないまま日数だけが過ぎ、精神的に追い詰められていること。

 

 リナは顎に手を当てながら、虹夏の話を真剣に最後まで遮らずに聞いた。

 

 

 『あちゃ〜それは災難だったね。まぁ今の【SICK HACK】は日本でもトップクラスのバンドだもんね。しゃーないしゃーない』

 

 

 リナは少し眉を下げ、困ったように頭を掻きながらも、どこか現実を受け止めさせるようなトーンで言った。

 

 

 『はい。それに関しては、完全にあたしの考えが甘かったです…せっかくの初企画ライブなのに…誰も来なかったらどうしようってなってて…』

 

 

 虹夏は視線を落とし、きゅっと拳を握りしめる。

 その肩は心細さに小さく震えていた。

 

 そしてしばらく考え込んだ後、リナはニッと悪戯っぽく笑って、ある提案を口にした。

 

 

 『よし分かった!可愛い可愛い虹夏ちゃんのために、私が一肌脱ぐよ!』

 

 『え?』

 

 

 思いがけない言葉に、虹夏は涙で潤んだ目を丸くしてリナを見つめる。

 リナは事も無げに、しかし確かな力強さで言い放った。

 

 

 『私たちがそのライブ出演するよ!星歌以外にもまだ連絡を取り合ってるし、他のメンバーも「久々に大きな音で演奏したいね」って丁度言ってたところなんだよね!』

 

 

 その提案が意味することを理解した瞬間、虹夏の顔に劇的な光が差し込んだ。

 

 

 『あっ…ありがとうございます!!お姉ちゃんも、きっと喜びます!!』

 

 

 こぼれ落ちそうになる涙を必死に堪えながら、虹夏は何度も何度も深く頭を下げるのだった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 「───っていうことがあって、リナさんたちが出てくれることになったんだ~」

 

 「わぁ〜!そんな素敵な奇跡の再会があったんですね!!店長さんの元バンドメンバーが揃って出てくれるなんて、めちゃくちゃエモいじゃないですか〜!」

 

 

 当時のやり取りを話し終えた虹夏は、嬉しそうに微笑んだ。

 それを聞いた喜多は、胸の前で両手を合わせて目をキラキラと輝かせた。

 

 

 

 ───

 

 ──

 

 ─

 

 

 

 各バンドのサウンドチェックやリハーサルが始まり、慌ただしく時間が過ぎていった。

 全てのリハーサルが順調に終わろうかという頃、タイムテーブルの書かれたホワイトボードを確認したリナが、不思議そうな顔で虹夏に声をかけた。

 

 

 「虹夏ちゃん。私たちの前のバンドって誰なの?タイムテーブルには『シークレット』って書いてあるし、リハにも結局来なかったみたいだけど…」

 

 

 本日の構成は、トップバッターに【しじみ帝国】、二組目が問題のシークレット枠、三組目に星歌の元バンド、そしてトリを【結束バンド】が務めることになっていた。

 しかし、リハーサルが終わっても一向に現れない二組目の存在に、リナは首を傾げている。

 そこに、設営の手を止めた恵恋奈も心配そうな顔で近づいてきた。

 

 

 「もしかして飛ばれちゃった系ですか〜?ドタキャンとかお先真っ暗ぴえんなんですけど、大丈夫ですか〜?」

 

 「大丈夫です!そろそろ来ると思うので…!日向さんも心配しないでね」

 

 

 虹夏は引き攣った笑みで二人をなだめつつ、背中に大量の冷や汗を流していた。

 

 

 その時、スターリーの扉が静かに開いた。

 

 

 下北沢の冷たい外気と共に、あり得ないほどの威圧感と華やかなオーラを纏った四人の男たちが、スターリーへと足を踏み入れた。

 

 

 「こんにちは〜。今日はよろしくお願いします」

 

 「ここがスターリーか…あっ【結束バンド】のみなさん、今日はよろしくお願いします」

 

 「うわ。ライブハウスとか何年ぶりだろ…いや、数十年ぶり?」

 

 「ここ10年以上、ずっとドームとかスタジアムばっかりだったからな。ライブハウスとか逆に新鮮だわ…」

 

 

 世界最高峰のロックバンド【NEW GLORY】のメンバーが、一気にスターリーへとなだれ込んできた。

 

 一瞬にして、フロアの空気が限界まで張り詰める。

 

 NaokIたちはあらかじめ虹夏と打ち合わせていた通り、身内バレを完全に防ぐため、【結束バンド】とは初対面のフリをして虹夏に向かって歩み寄った。

 

 

 「君が【結束バンド】の伊地知虹夏ちゃん?初めまして…【NEW GLORY】のNaokIです。今日は招いてくれてありがとう」

 

 「あっはい!!!こちらこそ!!お忙しい中お越しいただき、本当に、本当にありがとうございます!!」

 

 

 虹夏は心臓をバクバクさせながら、完璧なビジネススマイルと、それなりの緊張感を装って頭を下げた。

 

 

 (……虹夏ちゃん。こんな感じでいいかな?)

 

 (はい!バッチリです!ちゃんと初対面っぽいです!)

 

 

 アイコンタクトだけで完璧な口裏合わせを行う二人。

 

 しかし、突如として現れた世界のロックスター達を前に、何も知らされていなかった周囲の時が止まった。

 

 一瞬の静寂の後、【しじみ帝国】や星歌の元バンドメンバーたちの絶叫が、スターリーの地下フロアに爆音で鳴り響いた。

 

 

 「え!?え!?え!?え!?え!?え!?え!?え!?え!?え!?えええええええええええええええ!!!?EEEEEeeeeeeEEEeeeEeeeEeeEEEE!?!?!?!?」

 「嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘!??!?!!?ええええええ!!!?なんで【NEW GLORY】がここに!!!?」

 

 「ほ…ほほほほほ本物でしかえ!?!?!?!?」

 

 

 泡を吹かんばかりに狼狽し、語彙力がおかしくなっている 【しじみ帝国】に対し、NaokIがいつもの穏やかな笑顔で歩み寄った。

 

 

 「あっ。今回のブッキングの相手かな?うん、そうだよ。今日は一緒に盛り上げようね」

 

 「「「はっ…はい!!!!!!!!頑張ります!!!!!!!!」」」

 

 

 世界トップのギタリスト直々の優しい言葉に、【しじみ帝国】のメンバーたちは直立不動の姿勢で涙ぐみながら返事をするのだった。

 

 

 続いて、星歌の元バンドメンバーたちも理性を失ったオタクのような形相で、圧倒的なカリスマ性を放つRoÉへと詰め寄った。

 

 

 「あっ…あの!!!RoÉさん!!!俺【NEW GLORY】の大ファンで、RoÉさんのベースにずっと憧れてました!!!最後にチケット当たったの11年前ですけど…!その時行った日○スタジアムのライブ、マジで神でした!!!」

 「イギリスのスタジアムでのアドリブスラップ、本当にカッコよかったです!!わ…私たちも足を引っ張らないように全力で頑張ります!!!」

 

 

 興奮のあまり過呼吸気味になりながら熱弁する彼らに対し、RoÉはわずかに口元を緩め、クールに頷いた。

 

 

 「そうか。頑張れよ」

 

 「「は…はい!!!!!!!」」

 

 

 世界最高峰のベーシストからの激励を受け、彼らはあまりの尊さにその場で消滅しそうなほどの感動に震えていた。

 リョウが用意した完璧なカバーストーリーが機能する前に、スターリーはただの本物のファンミーティング会場と化していた。

 

 そしてリナは、喉の渇きを覚えるほどの緊張に震えながら、Lavielに声をかけた。

 

 

 「あの…!Lavielさん…!つ…つかぬことをお聞きしますが、どのような経緯でこのクリスマスライブに…!?」

 

 「あ〜やっぱ気になる?実はそこに居る虹夏ちゃんって子からDMが来て、それから色々あって俺らも出ることになったんだよ」

 

 「いっ色々…ですか…?」

 

 

 あまりにフランクな返答をするLavielにリナが戸惑っていると、その曖昧な説明を補正するように、横から別の声が重なった。

 

 

 「おいラヴィ。それじゃあ説明になってないだろ」

 

 

 割って入ってきたのはKyoyaだった。

 彼はリナに向き直ると、リョウが用意したカバーストーリーを澱みなく話し始めた。

 

 

 「実は俺たちも最近、原点に立ち返って小さなライブハウスでシークレットギグをやりたいって話をしていたんだ。そんな時に、偶然【結束バンド】さんからの熱いメッセージに気づいてね──」

 

 (………ヤバい…ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!!!!!!!!わっ私…!あのKyoyaさんに話しかけられてるッッッ!!!!!!!!!!!うわっ!!!うわ!!うわぁああぁあぁぁ!!!Kyoyaさんの声初めて聞いた!!!!!こんな声だったんだ!!!!!!!!マジでカッコいい!!!!!あとなんかもう…オーラが違う!!!!!!)

 

 

 言うまでもないが、当然リナも【NEW GLORY】の大ファンだった。

 

 中でも同じドラマーとして、目の前で静かに微笑むKyoyaには並々ならぬ憧れを抱いていた。

 そんなレジェンドドラマーが至近距離に立ち、自分に丁寧な説明をしてくれている。

 リナは興奮のあまり、少女のように目をキラキラと輝かせながら、その一言一言を噛み締めるように何度も頷いた。

 

 

 「───という経緯で、今回のクリスマスライブに参加したんだよ」

 「はっはいッ!よく分かりました!!もう本当に、生きててよかったです…!!」

 

 

 Kyoyaの完璧なカバーストーリーは、リナの純粋なファン心理によって一切の疑念を持たれることなく、完全に真実として受け入れられたのだった。

 

 

 そんなカオスな空間の中、誰よりも凄まじい興奮状態に陥っていたのは──

 

 しゅきぴの養分になりたいオタクこと──日向恵恋奈だった。

 

 

 「あ…あぁ…!ああああああああ!!ほぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!え!?え!!?ええ!?え!?え!!?え?!嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘え!!?え!?え!??嘘!!!?無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!本物本物本物本物本物!!?本物のラヴィ様ッッッ!!?ラヴィ様がえれの目の前にッ!!!!?……………………きゃあああああああああああああああああ!!!!!しゅき♡しゅき♡しゅき♡しゅき♡しゅき♡しゅき♡しゅき♡しゅき♡しゅき♡しゅき♡しゅき♡しゅき♡しゅき♡しゅき♡しゅき♡しゅき♡しゅき♡しゅき♡しゅき♡しゅき♡しゅき♡しゅき♡しゅき♡しゅき♡しゅき♡しゅきめろりィィィィィィィィィィィィィィィィ〜〜〜ッッ!!!!!!♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!!!♡♡♡♡♡♡♡♡ラヴィ様お顔が良すぎて死ぬッッ!!!尊死する!!!!♡♡♡♡♡♡生ラヴィ様死ぬほどカッコいい♡♡♡♡♡♡♡!!!お顔がスーパーチートのビジュすぎて尊い〜〜〜〜♡ ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡尊いオブザイヤー5000兆個受賞〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ 」

 

 

 限界オタクの語彙力をフル動員させた恵恋奈の絶叫が、スターリーの空気を激しく震わせた。

 顔を真っ赤にして身をくねらせ、尊さのあまり今すぐその場で卒倒しかねない勢いで愛の言葉を捲し立てる。

 

 至近距離でその凄まじい熱量と、謎の言語の濁流をまともに浴びたLavielは首を傾げた。

 

 

 「何語?」

 

 「あっ…気にしないでください。この子、元々こんな感じなので」

 

 

 世界的なロックスターが本気で困惑する中、隣から喜多が死んだような魚の目で そっとフォローを入れた。

 喜多の冷ややかな言葉が、恵恋奈の狂乱と見事なコントラストを描いていた。

 そして、普段から恵恋奈の破天荒な振る舞いを苦手としているリョウが、この日は珍しく怪訝そうな眉をひそめて質問を投げかけた。

 

 

 「ていうか、前バンド女子しか勝たんとかわけの分からない事言ってたけど、【NEW GLORY】はいいの?」

 

 

 その言葉は、恵恋奈の心の中の導火線に火をつけるには十分すぎるものだった。

 恵恋奈は身を乗り出し、目を輝かせて声を張り上げる。

 

 

 「もちろんです!!!!実はえれ、『Evolutionary Tour』の国立二日目行ったんですよ!!」

 

 「え?…あの国立ライブ行ったの?」

 

 「はい!!!といっても、最初は付き添いのつもりでしたけど!!」

 

 

 リョウは思わず絶句した。

 世界一倍率が高いプラチナチケットを彼女が手にしていたことに、純粋に驚きを隠せなかった。

 

 

 「天キュルの元リーダーのミカエルさんが大学で出来た彼氏の影響で【NEW GLORY】にハマり出したんです!!それで天キュル解散させた罪滅ぼしなのかは知らないですけど、同じメンバーのウリエルちゃんとガブリエルちゃんとえれを連れて【NEW GLORY】のライブに行ったんですよ!!正直可愛いアイドルとかカッコいいバンド女子しか興味なかったんですけど、実際ライブが始まったらもう…凄くって!!今までカッコいい女の子が圧倒的至高だったんですけど、【NEW GLORY】は全員ビジュが神すぎるし演奏が脳に直接響きまくったし、なによりラヴィ様の圧倒的な歌唱力とビジュとカリスマ性が えれの心に刺さりまくって、気がついたら沼りまくってたんですよ!!!!バンド女子しか勝たんのは今でも変わらないんですけど、【NEW GLORY】だけは別です!!!そして国立ライブ終わった翌日に速攻でCDやライブ円盤やグッズ買い漁って【NEW GLORY】に貢ぎまくりました!!!といってもCDショップや通販サイトはどこ行っても品切れで結局一枚ずつしか買えませんでしたけど!!【NEW GLORY】は箱推しなんですけど、本担最推しは当然ラヴィ様です!!!!!あっでも同担拒否なのでリアコガチ勢はNGです!!」

 

 

 オタク特有の専門用語と、夢女子としての熱量を限界まで詰め込んだ早口。

 周囲が圧倒されるほどの熱量で【NEW GLORY】を──というよりも、ほとんどそのフロントマンであるLavielのことを褒め称える恵恋奈。

 

 当のLavielは少し圧倒されたように目を丸くしていた。

 

 

 「ありがとう。こうやって面と向かってファンと向き合った事って一度もなかったから…そう言ってもらえて嬉しいよ」

 

 

 正直なところ、恵恋奈が口にしたオタク用語の半分以上はLavielには伝わっていなかった。

 それでも目の前の少女が自分を熱狂的に愛し、褒めちぎってくれているということだけははっきりと理解できた。

 だからこそ彼は少し照れくさそうに、けれど誠実にお礼の言葉を伝えたのだ。

 

 

 しかしその瑞々しい微笑みと優しい声音が、恵恋奈の理性を完全に消し飛ばした。

 

 

 「あっ…ああ!!ラヴィ様が…えれに直接お礼を…!!こちらこそありがとうございます!!!!!!!もう存在自体が神です!!!!!!!!!!しゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきめろり〜!!!!♡♡♡♡♡♡♡」

 

 

 恵恋奈の顔が歓喜と衝撃で劇的に歪み、再びに暴走モードに突入した。

 今度は狂喜乱舞しながら夢女全開の限界ワードを連発する恵恋奈。

 

 その熱量に圧倒されつつも、Lavielは何事もなかったかのように穏やかに笑い、恵恋奈に話を振った。

 

 

 「あはは ありがとう。ところで天キュルってなに?君も何かやってるの?」

 

 「あっはい!!!実はえれ、元地下アイドルで【天使のキューティクル】ってアイドルグループに属してたんです!!アイドル名はラファエルです!!!」

 

 「そうなんだ~。俺はラヴィエルで、えれちゃん?はラファエルって…なんか俺たち似てるね」

 

 

 Lavielがふと気づいたように、端正な顔立ちを綻ばせて微笑む。

 その偶然の共通点は、恵恋奈にとって天にも昇るような衝撃だった。

 

 

 「ありがとうございますラヴィ様ッッ!!!!!!!!!もうセカンドネームと言っても過言じゃないです!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!というかもう区役所行って恵恋奈からラファエルに改名してきます!!!!あぁ〜!!それにしてもラヴィ様ホントに顔が()ー!!それに、オートチューンなしの生の声カッコ良すぎる!!!!ヴィーナスも裸足で逃げ出す圧倒的美しさ!!!この世に存在してくれてありがとうございますぅ♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!!!!!!!!!」

 

 

 感極まった恵恋奈は、床が抜けんばかりの勢いで飛び跳ね、周囲の空気も震えるほどの声量で叫ぶ。

 

 

 (…こいつ、本当に顔のことばっかりでペラいな……)

 

 

 その様子を横目で見ていたリョウは、内心で深い溜息をついていた。

 相変わらず音楽の本質ではなく、ビジュアルや表面的な要素だけで騒ぎ立てる恵恋奈の軽薄さに若干イラついていた。

 

 そんな空気を察してか、NaokIが穏やかな笑みを浮かべて間に入った。

 

 

 「まぁそういうことだから…今日はよろしくね。僕たち、今からトラックから機材運んでくるから」

 

 

 仕切り直すようにポンと手を叩いたNaokIの言葉に、隣のKyoyaがどこか懐かしむような目を細めて応じる。

 

 

 「それにしても、自分たちで機材運んだりするのって久しぶりだな。トラックとか久しぶりに運転したよ」

 

 「俺はマイクとパソコンとプロセッサーだけだから楽だけどね~。楽器隊の諸君は頑張りたまえ」

 

 「いやお前も手伝えよ」

 

 

 人ごとのように肩をすくめ、悪びれもせず軽口を叩くLaviel。

 そのマイペースすぎる態度に、すかさずRoÉからの鋭いツッコミが飛んだ。

 

 バンド内の見事な様式美に、それまでタイミングを計っていた猫々が、パッと手を挙げて元気よく声を張り上げる。

 

 

 「あっ!!機材運びならウチ手伝います!!」

 

 「えれも行きます!!!推しの手を煩わせるわけにはいきません!!!」

 

 

 猫々に負けじと、恵恋奈も鼻息荒く立ち上がった。

 愛する推しの美しい手を一本の傷からも守らなければならないという、謎の使命感が彼女を突き動かしていた。

 【NEW GLORY】のメンバーと、彼らを案内するエレ&ネネの背中が扉の向こうへと消えていく。

 

 その瞬間──それまで辛うじて保たれていた静寂が、ガラスが割れるような勢いで弾け飛んだ。

 スターリーのフロア内は、一瞬にして蜂の巣をつついたような大騒ぎへと変貌を遂げた。

 

 

 「ヤバいよ!! まさか【NEW GLORY】と共演できるなんて!!てか生の声初めて聞いたよ!!」

 

 「だよねだよね!!去年東京ドームでNaokIさんがMCしてたらしいけど、私たち行けなかったし!マジで今回出演して良かったわ!!」

 

 「ねぇねぇ!サインとかもらえないかな!? ワンチャン写真とかも!」

 

 

 【しじみ帝国】のメンバー達は、まるで子供のように目を輝かせてお互いの肩を揺さぶり合っている。

 

 

 そして、星歌の元バンドメンバーたちも例外ではなかった。

 

 

 むしろ【NEW GLORY】全盛期ど真ん中の時代にリアルタイムで追っかけをしていた彼らにとっては、この状況はまさに筆舌に尽くしがたい奇跡の瞬間だった。

 かつて憧れの眼差しで見上げていた雲の上の存在が、今、自分たちと同じステージに立とうとしているのだ。

 

 

 「ヤベェよ!! 俺らステージ袖から【NEW GLORY】の演奏、生で聴けるってことだよな!? しかもタダで!!」

 

 「本当に夢じゃないよね!!? あ~ヤバい! 私たち【NEW GLORY】の後だよ!? プレッシャー半端ないって!盛り下がらないようにマジで気合入れないと!!」

 

 

 その熱狂の渦は留まることを知らない。

 地道な活動を続ける【しじみ帝国】の面々も、そしてかつて星歌と共にステージに立っていた歴戦の元バンドメンバーたちも、この時ばかりは立場を忘れて一人の純粋なファンとして大興奮していた。

 

 世界の音楽シーンのトップに君臨する絶対的王者達が、今まさに自分たちと同じ地平に立ち、同じ空気を吸っている。

 

 その事実だけで、全員の全身の血が沸き立つように熱くなっていた。

 

 そんな狂騒の中心で、リナは感極まった様子で虹夏の身体を強く抱きしめ、その金色の髪をぐしゃぐしゃと愛おしそうに撫で回した。

 

 

 「虹夏ちゃんホントに凄いよ~!!まさか【NEW GLORY】に直接DMして出演OKしてもらえるなんて!!もうこれ以上ないくらいのサプライズじゃん!!星歌もきっとツンデレなこと言いながら心の底から喜ぶよ~!!」

 

 「えへへ~♪ありがとうございます♪」

 

 

 リナの腕の中で虹夏は面映ゆそうに、けれど最高に誇らしげな笑みを浮かべた。

 虹夏はリナの抱擁からそっと離れると、集まった全てのバンドマンたちを見渡すように、フロアの中央へと一歩踏み出した。

 

 

 「改めて…みなさん!今回はイブの貴重な時間なのに、わざわざ集まってくれて本当にありがとうございます!最高の仲間と、最高のゲストが揃いました。絶対!このクリスマスライブを成功させましょう!」

 

 

 虹夏の弾けるような声が、ライブハウスの壁に反響する。

 

 

 『もちろん!!!!!!!!!』

 

 

 地鳴りのような大歓声が、一つになって返ってきた。

 

 出演者やスタッフ、その場にいる全員の心が完全にシンクロし、未だかつてないほど強固な一体感が、熱気となってスターリーを優しく包み込んでいった。

 

 




今回も読んでくれてありがとうございます!
レコーディングでリナさんの出番なくなったけど、なんとかぶち込めました。
ちょっとタイムテーブル載せときます。

[原作]
1.エレ&ネネ
2.しじみ帝国
3.ぼっちちゃんパパのバンド
4.星歌が元居たバンド
5.結束バンド

[このss]
1.しじみ帝国
2.NEW GLORY
3.星歌が元居たバンド
4.結束バンド

になりました。
エレ&ネネは6巻のSICK HACKのライブイベントがなかったので、山田メソッドもなくなり4組だけになりました(許せサスケ…)
その分、枠広がったのでライブシーンがっつりやります。
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