財団はどうしても異世界の調査をしたいようです。   作:Kudzubug

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第31話:神話2

 その日もまたニヒリスはフローラが住む村はずれの草原に佇んでいた。

 先日、自身の姿をフローラに似せて形作った際、直接本人に似ているかどうか尋ねてみたところ、色がないから分からない、とのことだった。

 ニヒリスはこの世界を、”周囲に充満する自身の魔力とそれに重ならない物体”、と知覚していた為、色という概念が分からない。もちろん知識としては知っているがそれを知覚することはない、人間とは違う存在だから人間と同じように世界を知覚することは出来ないのだと諦めてはいたが、フローラの知覚する世界が自分が知覚する世界と違うことに少し寂しさのようなものを感じていた。

 

 ニヒリスはそんなことを考えながらフローラが来るのを待っていたが、フローラはまだ現れない。いつもならニヒリスの気配を察知すると、例え泣きべそをかいている時だろうが姿は見せた、既に日も暮れかけている、何か非常事態でも起こったかと村の方へ意識を飛ばすと、やはり村がいつもよりも騒がしい雰囲気だったので、直接出向いて様子を伺うことにした。

 

 村に到着すると様々思念が飛び交い騒がしい、相変わらず自分は村人に視認されていないため話しかけるわけにもいかないので、とりあえず近くにいた村人の思念を探ってみると、血だらけで佇むフローラのイメージを見ることが出来た。血だらけではあるが怪我をしている感じではない、まるで頭から血を浴びせかけられたかのような姿だった。

 このイメージだけでは何が起きたかよくわからないので複数の村人の思念を読み、ここで何が起こったのか詳しく探ってみると、どうやら何かに驚き興奮した馬車馬が、馬車ごと大勢の人で賑わう村の市場へ突進していくイメージが見えた、そして両親と思われる人間と共にその場に居合わせたフローラが突進してくる暴れ馬を魔法を用い破裂させ、馬車の暴走を止めた。

 

 なるほど、ついにフローラが魔法を行使したかと、そして魔法で市場にいた大勢の人間の命を救ったのだとニヒリスは理解し、フローラのことをなぜか自分のことのように誇らしく感じた。

 物語風にいえばフローラは多くの人間の命を救った英雄である、今頃は村を挙げての宴か何かの主賓とされているであろうと推測し、いつもの場所に現れなかったことにも納得した。

 確かに村の中心部辺りが騒がしいし、やはりそこにフローラの魔力を感じることが出来た、おそらくそこで宴が開催されていると判断したニヒリスは、宴の主賓とされ恥ずかしがっているフローラの姿を想像しながら村の中心部へと漂い向かった。

 

 村の中心へたどり着くとニヒリスは驚愕した、ニヒリスの想像した光景とは真逆の光景を知覚したからだ。

 フローラは磔にされ、それを取り囲む群衆が「魔女を殺せ!」などとフローラに罵声を浴びせていた。

 魔女というのは()()と契約し魔法が使えるようになった人間の女を指す言葉だ。だがニヒリスが知覚する限り()()などこの世界には存在しない、ニヒリスはこのような認識を人間に植え付けた神を呪いながらも冷静に状況把握に努めた。

 フローラの近くには村人に拘束され泣き叫んでいる二人の男女――フローラの両親という()()の男女がいる。神にそのように創造されたとはいえ本人らにしてみれば実の娘だ、必死に取り返そうとして散々殴られたのだろう、その顔は元がどんな顔だったのかわからないほど膨れ上がっている。

 ニヒリスはひとまず今にも磔台に並べられた薪に火を付けようとしている神官であろう男の首を撥ね、フローラの火炙りを阻止すると、すみやかに磔台からフローラを解放した。

 群衆からしてみればニヒリスを視認できないのでフローラが自力で磔台から脱出し空中を浮遊しているように見えたであろうが、今のニヒリスに群衆のお気持ちを汲んでやる余裕はなかった。

 ニヒリスはすぐさまフローラの容体を確認する、体中に殴られた跡があり刃物で切り付けられたような痕もある、そしてその両眼はまぶたを縫い付けられ、舌は焼けた金属を押し当てられたかのように焼け爛れている。

 

 (愚かな……目を縫おうが舌を焼こうが魔法の発動を封じることなど出来ようもないというのに……)

 

 ニヒリスは村人の行いに、そう憤りを感じながらもフローラを介抱することを優先した、フローラはまだ生きている……が意識はない。拷問で受けたであろうダメージは内臓へも達していると思われる為、時間的猶予はない。

 人間の神官は神の力を借り、治癒魔法を使うことが出来るという知識を思い出したが既に神官は殺してしまった。

 ニヒリスはフローラの受けた損傷を修復するイメージを魔力と共に放出するがフローラを治癒させることは出来なかった、ニヒリスは人体の構造や治癒手段を具体的にイメージすることが出来なかったからだ。今からその知識を得ようにもフローラの命は待ってくれない、時間がない。

 ニヒリスは一瞬、どうするべきか悩んだが直ちに人体の構造の知識を得られ且つフローラを修復する手段を思いついた。

 まずフローラの肉体を自身の体に吸収するとフローラという存在を解析し始めた、フローラを解析し終えるとすぐにフローラを、自身の体内でこれ以上分解できない粒子にまで分解し補完する、そしてニヒリス自身の体を限りなくフローラの体組織と近い形で再構築し、それをフローラに与えてやるのだ。

 その試みはおそらく成功した、あとはフローラの意識が戻れば自身の意識を周囲を漂う魔力に移し、自分の体はまた別に構築すれば良いという算段なのだが、なかなかフローラの意識は戻らなかった。

 ニヒリスはフローラの思念を感じ取れていたのでフローラが生きていることは確信していた。この時ニヒリスが感じたフローラの思念は”罪悪感”だ。

 子供なので大人が説く魔法を使ってはいけない理由をその言葉通り鵜呑みにし、その信仰心という呪縛から逃れることが出来ない為、目覚めることが出来ないのだとニヒリスは解釈した。

 フローラをその呪縛から解き放つにはフローラ自身の認識を改変したところであまり意味はない。

 ”普通の人間が魔法を使ってはいけない”という認識自体を世界から消し去らないと意味がないのだ、非常に手間のかかる方法だがこれでひとまずはフローラを元の状態に戻す目処は付いた。

 

 今のニヒリスは仮とは言えフローラと寸分違わぬ姿であると自負していたが、念の為いつの間にか拘束から解放されていたフローラの両親に、ちゃんと似ているかどうか尋ねてみた。

 フローラの両親は泣き叫ぶばかりでまともに会話できる状態ではなかった為、ニヒリスは両親の思念を読んだ、が思念もぐちゃぐちゃに混乱していてあまりよく理解できなかったのだが、その中から"髪の色が違う……"という思念をなんとか拾うことが出来た。

 髪の色……か、ニヒリスは色を知覚することが出来なかったのでフローラが元々どのような髪色であったか見当がつかなかった。

 今のニヒリスの体は限りなくフローラを再現した肉体で、当然フローラの目を備えている。知覚方法を魔力から目による視覚に切り替え、初めて人間が見る世界を視認してみようと考えた。

 そこには、泣き叫び取り乱している者、魔女だの魔人だの叫ぶ者、ひれ伏し許しを請う者、武器を構え今にも飛びかかる構えを見せる者、気が触れたかのように笑い続ける者、様々な村人の姿を視認することが出来た、まさに阿鼻叫喚とした様だった。

 初めて視認する色・景色がこれかと、ニヒリスは強い不快感を感じたので、たった今フローラを解析して得た知識を使い、村人たちを――村そのものを、フローラの両親だけ除外して、瞬時に分解、消滅させた。

 

 ニヒリスはフローラの両親にねぎらいと、髪の色を再現できなくてすまない、といった言葉をかけると、二人をいつもフローラと一緒に遊んでいた草原に転送し、フローラの罪悪感を取り除く手段――"世界の認識を書き換える"工程へと取り掛かる。

 

 この工程を為すにはさすがに体内魔力だけでは足りなかったので、世界に散った自身の魔力も併用することにした。

 ニヒリスは自身の足元に巨大な魔法陣を生成し、世界に散っていた魔力を回収し始める。

 しばらく魔力の回収に集中していると、予想外の邪魔が入った。

 翼の生えた人間――おとぎ話に登場する姿そのままの天使が四体、空から降りてきた、おそらくこの魔法の性質を察知した神による干渉だ。

 天使たちは、新たな悪魔がとか魔人がどうとか話し合っていたかと思うと一斉にニヒリスに向けて手をかざし、何らかの魔法を放ち邪魔をしてくるであろうことが予測できた。

 ニヒリスは世界に散った自身の魔力を回収しながらも、天使達の構築する魔法、そして天使達の体組成を分析した。

 

 ニヒリスは世界が再構築されたあの時、同時にごっそりと自身の体が削られた感覚を覚えていた。当時は目覚めたばかりで事態を正確に把握することが出来なかったが、それは神が自分から魔力を奪い世界を改変するのに利用したのだと、今では完全に理解している。

 

 案の定、天使達の魔力はニヒリス由来の魔力であり、体組成ですらそのほとんどがニヒリス由来の魔力で構成されていたので、それらもついでに回収した。

 天使達は途端にその浮力を失い、そのまま地面に落下した。落ちた天使達は泡を吹きながら体を痙攣させている。

 

「世界に散りし我が同胞、神に奪われし我が同胞よ、我の求めに応じ此処に集結せよ」

 

 その言葉に呼応するかのようにニヒリスが展開した魔法陣が眩い光を放ち、上空に巨大な魔力塊を形成すると、それはまるで胎動するかのように脈打ち始めた。

 ニヒリスは脈打つ魔力塊を眺め、満足そうな笑みを浮かべるとさらにこう唱える。

 

「胎動する世界、今こそ此処に顕現し、その力を――」

 

 ニヒリスがそこまで唱えたところで突然、空に雷鳴が轟いた。その稲妻は脈打つ魔力塊を貫くと共にニヒリスをも圧し潰し大地を穿った、質量を伴った稲妻――明らかに自然現象ではない、これも神による干渉だ。

 貫かれた魔力塊は音もなく破裂し、光の波動を生み出した。その波動は破壊を伴わず、瞬く間に世界を駆け抜け、世界のありとあらゆるものを貫いた。

 稲妻はニヒリスごと大地を穿ち続け、ニヒリスを地中深くまで圧し潰す。

 しかしニヒリスはその圧力に圧し潰されながらも笑い続けていた、魔法はすでに発動されていたからだ。

 

 「胎動する世界の光、新たなる理よ、この仮初の秩序を書き換え、罪なき罪を浄化せよ……さあ、力を示せ!」

 

 《(ニュ)世界(ー・ワール)秩序(ド・オーダー)》!

 

 *

 

 ニヒリスは笑い続ける。

 ニヒリスは神の(いかづち)に触れた瞬間、神を捕捉した。

 同時に、神に世界を書き換えるだけの力は残されていないことを知覚した。

 今後、神にその力を貸してやるつもりもない、だが完全に魔力の供給を断つことはしなかった、フローラを創造した功績を評価したのだ。

 

 ニヒリスはなおも圧し潰されその肉体は崩壊し始める、薄れゆく意識の中、ニヒリスは自身の内に眠り未だ目を覚まさないフローラに語りかけ続ける。

 

「フローラ、世界は魔法を受け入れる、もう誰もお前を責めたりはしない……」

 

「痛みも、罪悪感も、目覚めた時には全部忘れてる……だから……」

 

「……フローラ……少し疲れたか? ……なら今は眠るといい……」

 

「……君が寝ている間……たくさん……物語を集めておこう……」

 

「……君が……目を覚ましたら……また……」

 

「……物語を……」

 

 …………。

 

 ……。




■『神話』解説

幕間:『神話』ですが、全体を通して言い回しや言葉選びがやや独特で、特に前半は読み辛いのではないかと思い、解説を入れることにしました。
もちろん解説なんて必要ないぜ!という方もいらっしゃると思いますが、映画とかの巻末特典みたいな物だと思って読んでいただければ~と思います。
当然ネタバレを多く含みますので、まだ最後まで読み進めてない方はご注意ください。

【以下ネタバレ注意】

最初の段落から「……詩ですか?」みたいな感じだと思いますので、そこから解説します。
『長く長く、悠久とも思える時間』
もしこのワードで宇宙を想像できた方は、かなり勘の鋭いお方かと思います、そして『揺り籠』ですが、これもやはり乗り物・何かを運ぶ物のメタファーです。
『私』(以下、ニヒリス)を含有した何かが宇宙を漂っていた、というイメージで書きました。
そして『第8・9話』辺りでニヒリスは未知の元素・魔素で出来た何かだということが分かっています。
つまり宇宙を漂っていた何かは魔素の結晶とか巨大な魔素化合物の隕石とか彗星をイメージしてあんな文章になりました。
そして眠っていたニヒリスは何かの衝撃によって起こされる訳なんですが、ここでニヒリスの認識と実際に起きた出来事に齟齬があります。

ニヒリスの認識では
「自分はあくまでもあの世界のどこかで眠っていたのであって、突然何かの衝撃で無理やり起こされた。そしてその衝撃のせいで世界中の生き物がほとんど消滅した!酷い!」
なのですが、実際は魔素を大量に含んだ隕石が地球に衝突して地球上の生物のほとんどが死滅した。が正解です。
『第20話:異世界調査記録』では東シナ海辺りの海岸線が抉れているという描写があります、たぶんその辺に落ちたんでしょう。基底世界と世界線が分岐したのもソコです。

ちなみにそれがいつ頃起きた出来事かというと、『第29話』で桐生が1600年前~現在までの間だと推測して実際にニヒリスがその分岐を確認しました。地球の歴史が46億年と言われてますから、わりとピンポイントで当ててます、さすが博士です。
あと『第3話』の時点で、原田が少女の姿をしたアノマリー(ニヒリス)の正体を「宇宙人」だと推測しています、ほぼ正解です。さすが(略)

地球に衝突した魔素隕石は気化して世界中に広がりました。これがニヒリスが言う「魔力に満ちた世界」です、ニヒリスの意識もその時点で発生しました。
隕石衝突で地球がどういう状態だったかは、「イチロー 隕石」とかで検索するとよくわかると思います。

■この作品における『神』について。
キリスト教等における唯一神をイメージして書きましたが、この作品自体がフィクションですので当然この作品に登場する『神』もフィクションです、同一視しないようご留意下さい。

地球上の生物のほとんどが死滅するレベルの隕石衝突から今のような環境に戻るにはそれこそ数十億年かかりますが、それを瞬時に元通りにしたのが『神』です。
隕石衝突前から地球上には微量ながら魔素が存在していました。ニヒリスは魔素思念体ですが、この作品における『神』も同様の存在です。隕石衝突前の魔素(魔力)量では到底世界を元通りにする力はありませんでしたが、隕石衝突によって世界中に散った魔素(魔力)を用いて瞬時に元通りにすることが出来ました。
『第20話:異世界調査記録』の記載にあるコーカソイド系白人種が異様に多い理由もここにあって、『神』は自身を信仰する民しか救っていません。これは唯一神信仰における「掟」であるので『神』はそうせざるを得ませんでした。
キリスト教を例にとれば有色人種にも信者はいたはずだ!と思うかもしれませんが、隕石の衝突は大航海時代到来前の西暦900年前後を想定して書きましたので、まだその数は少ないです。
ちなみにこの作品においても『神』は一応、万物の創造主だということになっていますが、僕の設定ではまず信仰が先にあり、その信仰(思念)によって生み出されたのが『神』で、『神』は人間が考えた『神』はこうあるべき!という思念を行動原理としています。ですので信者以外を救わなかったのも実際には、「そうあるべき!」と考えた聖職者・神学者のせいです。

実はこの作品というか『神話』のテーマもそこにあって、テーマは「宗教観に基づく道徳的圧力」です。
昨今クレジットカード会社の決済拒否による表現規制が問題になっています、あれも元をたどれば欧米基準(宗教観)の道徳的圧力ですので……まあ私怨です。

話が脱線してしまいましたが、この作品において実のところ『神』は別に悪くないんです、むしろ人類の為に相当尽力しています。悪いのは信仰を過剰に強要する人間です。
神・人類視点から見たニヒリスは悪魔そのものです。ニヒリスは一度気に入ったものへの執着がヒグマ並みに尋常ではありません、ニヒリスはフローラを救うために世界を改変しましたが、それは本当にフローラが望むことだったのかは分かりません、少なくとも人類にとっては望まない結果だと思います。『神』は魔法の使用を『信仰』によって厳しく管理していましたが、本来その方が平和なんじゃないかなと思います、中世レベルの倫理観しか持っていない人類がいきなり大量破壊兵器を手にするようなものですから……。

一応、財団視点の物語はこれで完結しますが、次回作として予定している作品はこのニヒリスが改変した世界が舞台となります。魔法が当たり前に使えて、妖精を使役する異世界人や謎の天狗(比良山)がいる世界の現地目線の物語を予定しています、調査団救出計画プランBなんかも関係してきます。

■フローラについて。
大体10歳~11歳くらいの女の子を想定しています、後のSCP-X1751-JP-Aとなったニヒリスも容姿だけは髪の色以外同じです。ちなみに髪の色は本編で描写していませんが、フローラが亜麻色、ニヒリスが青みがかった白色をイメージしています。
フローラはやはりあの世界において、かなりイレギュラーな存在で、生まれつき魔力を人より多く保持していた為、ニヒリスと邂逅する前から魔法を行使することが出来ましたが、両親によって決して行使しないよう厳しくしつけられました。魔法を使えることがばれたら即、魔女扱いされる中世社会だからです。
ただそれでも、人には知覚できない何かを知覚したりしていたので、村の人たちからは気味悪がられていました。過剰な叱責を受けた描写や、友達がいる描写をしないことでそこら辺は匂わせときました。
後々の描写で、ニヒリスとフローラが大分仲良しになった頃、ニヒリスがフローラの為に魔法で花畑を作った場面がありますが、そこでフローラはニヒリスに「頭がないから花冠をかぶせられない」と言っています、つまり初めて会った時からニヒリスには頭部が無かったんですけど、フローラはそんな異常存在に普通に話しかけているので相当変わった子なのです。

あまり本編とは直接関係ないんですけど、フローラの名前にはいろいろ仕掛けがしてあります。
フローラのフルネーム、『フローラ・フェブルウス』
この作品を熱心に読んでくださった方はお気付きかと思いますが、『第20話:異世界調査記録』に記載されている、原田が地上世界に到達して駐留中の国の王家がフェブルウス家となっていて、代々魔導神道の宮司長を務めている、とあります。
ニヒリスはあの村でフローラの両親だけは殺しませんでした、フローラの両親はニヒリスを視認出来てませんから、両親から見たあの惨劇はフローラが自力で磔から抜け出し、自力で怪我を修復し、そして自分を虐げていた人々を瞬殺した出来事として映ったはずです。おまけに髪の色と口調まで変わっていましたので、自分の娘が『神』のような何かに変化したと認識してもおかしくないんじゃないかな、と。
それでフローラの両親はそれまでの信仰を捨て、自分の娘を『魔導の祖神』として崇め広めた結果、出来上がったのがアストリア魔導国です。
アストリア魔導国及びフェブルウス家は次回作でも登場する予定です。

実はもう一つ仕掛けがあって、ニヒリスに初めて言葉を教えた人間がフローラなわけですが、基底世界に現れたニヒリスに初めて日本語を教えたのが如月 華です。
『フローラ』はラテン語で「花」、『フェブルウス』はラテン語か古代ギリシャ語で二月を象徴する神様の名前だったと思います。
『如月』も日本の古語で「二月」、『華』も「花」と同義で、どちらの名前も意味的には「二月の花」です。
まぁ完全に後付け設定なんですけど、そうした方がエモいかなと思って、そう命名しました。

フローラと如月は名前もそうなんですが、ニヒリスに対してとった行動も非常に似通っているので、ニヒリスは如月とフローラを重ね合わせて見ています。
つまり如月はフローラ並みにニヒリスに気に入られています。逆に言うとニヒリスは如月以外の人間はどうでもいいと思っているので、人類視点だとわりと危険な状態です。
財団はフローラのことなど知る由もありませんが、現状そうなってしまっていることには気付いているので、如月自体をSCPオブジェクトとして監視せざるを得なくなりました。

■結末について。
あの終わり方は正直自分でも説明が足りないなぁとは思ったんですが、この状況はこうで、こうで、こうだと延々と説明を入れるとあまり美しくないなと思ってああなりました。

あの描写だと「ニヒリス死んじゃうん?」みたいな印象を受けると思います、『第8話』においてニヒリスを構成する体組織は「加圧減圧に弱い」という描写がありました、神の雷は質量をもった高圧の雷なので実際、圧し潰されて肉体が崩壊しかけています。
結論を言うとニヒリスは死んではいませんが、数百年単位で意識を失う羽目になっています。『第29話』での「封印された時に一度意識を喪失している」という発言はそのことを指しています。
ニヒリスは神を舐めていたので、『神話2』でのラストシーン時点では自分がまさかそのような状況になるとは微塵も思っていなかった為、普通にフローラに語りかけるという行動をとりました。

そして一番気になるのがフローラは本当に目を覚ますのか?という部分だと思います。
『神話』は全編通してニヒリス視点です、ニヒリスがあくまで「こうだ」と思った描写しかしてません。
ですので「フローラは眠っていてそのうち目を覚ます」というニヒリスの認識自体に疑問符が付きます。
結論を言うと、フローラが目を覚ますことはありません。
かといってフローラは死んだのかというとそうでもありません。
ニヒリスはフローラの怪我を治す方法として、フローラの肉体を自身に取り込み解析・分解・再構築して新たな肉体を作り、そしてフローラの意識が戻り次第それをフローラに与えるという方法を考えましたが、当時のニヒリスはやはり未熟でした。桐生とSCP-X1751-JP-Aの右腕の時のように上手く精神を分離することが出来ずニヒリスとフローラは完全に融合してしまいました。

『神話』におけるニヒリスは完全に悪魔ムーブをかましていましたが、フローラと融合後、ニヒリス自身は気付いていませんが性格がだいぶマイルドになっています。
基底世界に現れたニヒリスは誰も殺してませんし、SCP-X1751-JP-Bの行いにも"なんか知らんけどごめん……”的な感想を述べています。
元々、ニヒリスが物語の収集に執着し始めたのはフローラが物語が好きだったからで、ニヒリス自身は別に物語自体を楽しんでいたわけではありません。
それが基底世界のニヒリスは如月から与えられた娯楽コンテンツを積極的に楽しんでいます、それらへの執着心は相変わらずですが、積極的に楽しんでいるのはフローラ面です。
わらわ口調を真似てみたり、プニキュアのコスプレをしてご機嫌だったり、わりと見た目年齢相応の挙動を見せることが多々ありましたがやはりフローラ面が現れています。その瞬間フローラの意識が蘇ったとかではないんです、元々のニヒリスの性格とフローラの性格を足して二で割った性格が現在のニヒリスの個性となっているわけです。

■その他小ネタ等。

・冒頭に出てくる『私』はSCP-X1751-JP-A(ニヒリス)なんですが、当初そこは物語的には正体不明なので『  』にしようと思ってました。
ただそれだと投稿時に自動字詰めされるかな?と思い『私』にしておきました。

・フローラが拷問された際、本当は目がくり抜かれていた描写をするつもりでしたが、それだとニヒリスがフローラの目を再現できなくなってしまうので、縫われたという描写になりました。コンプライアンスに配慮してそうなったわけではないです。

・ニヒリスは世界の認識を改変し、信仰による魔法への忌避感を排除しました。そしてフローラの両親は今までの信仰を捨て、フローラを祖神とする信仰(魔導神道)を立ち上げ国を作りました。つまりアストリア魔導国はキリスト教に酷似した"神の教え"を信仰する国ではないはずですが、第20話の調査記録では、信仰は基本的に"神の教え"であって"魔導神道"は魔法に対する道徳観だと触れられています。これはどういうことかというと、ニヒリスが改変した認識を神サイドがさらに改変したということになります、しかしニヒリスはその力を神に貸さないと断言しているので、どのような手段を用いたのかというと、1000年近くかけて地道に布教してました。それでもニヒリスの認識改変の力は強くて"道徳観念"としてアストリア魔導国には残り続けている状況ということになります。

・「胎動する世界」とか「新世界秩序」とかグ〇ブル好きなんですか?と問われたら、はい、その通りです。
一応本編にもたくさん他作品のオマージュがちりばめられています、一応それらの作品固有の名詞は使わないように気を付けていますが、「胎動する世界」も「新世界秩序」も別にグラ〇ル固有の名詞・概念というわけではないのでそのまま使いました。なんなら「ニヒリス」もそうです、グ〇ブルに出てくるニヒリスというキャラが大好きなんですけど公式が無かった事のように扱ってるので、自分の作品で大活躍させてやろうと思いました、キャラ設定とかはもう完全に別人ですが。

『神話』以外のエピソードに出てくるオマージュはまた別に機会があれば紹介したいと思います。

その他、全体を通して「ここの設定どうなってるの?」とかあれば大体お答えできるとは思いますのでお気軽にコメントして下さい。

長々とお付き合いいただき誠にありがとうございました。m(__)m
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