教会の扉が勢いよく開かれる。
薄暗かった室内に光が差し込み、人影が逆光を浴びているのが見えた。
「すまない、ここで強者の気配を感じ取った。手合わせ願いたい」
とんでもない一言と共に入って来た人物は狐の耳をしていて、神社などでよく見る御幣を刀に取り付けており、たった今それを構えているところであった。
(あーっ!この人知ってる!めっちゃ強い人じゃん!)
最も、勝負を挑まれているのにも関わらずサンデーは呑気であったが。
「何かの間違いではないでしょうか?ワタシは戦闘が苦手なのですが...」
自分は後衛職だからという偏見が強い上に武術を全く知らないことが重なり合っている事で、自分がフィジカルモンスターという事を完全に忘れている。
「いや、間違いない。気配を隠しもしないから間違いようがない...戦う前に名乗っておこう。星見 雅だ。」
「サンデーです...」
雅が構えたのでサンデーは嫌々ながらも本を開いて戦闘の準備をする。
(せめて場所移動しようよ...)
そんなことを思っても時すでに遅し。悲しいかな、せっかく手に入った教会が木っ端微塵になる未来は避けられない。
両者のボルデージがMAXになり、空気もピリピリとし始める。
雅の背後からオーラが立ち昇って教会が埋め尽くされた。
もはやプレッシャーだけで教会が音を立てて崩壊しそうなレベルまで来たその時──
「課長!見つけましたよ!」
どうしようもなく詰んでいたサンデーに救いの手が差し伸べられた。
「む...柳か、少し待っていて──「期間限定メロンパフェを食べる修行と言って会議を抜け出すのはいつもの事ですが、一般市民に手を出すのは違いますよね?」
「......すまない」
雅の耳はペタンと倒れ、目に見えてシュンとしている。
「やるにしても場所を考えて下さい」
「こちらとしてはやらないで頂けると助かるのですが」
乱入してきた女性がサンデーに向き直る。
「申し遅れました、対ホロウ特別行動部第六課の月城柳と言います。先程の失礼をお許しください」
深々と頭を下げ、まるで自分がやったことのように謝罪をしてきた。
「柳さん...顔を上げてください。被害が出ていないのでワタシは大丈夫ですよ」
両者は大人の対応をしてこの場を収めた。
その内の1人はついさっき内心で文句たらたらだったが。
「ありがとうございます。この件で何かしら問題が生じた場合はこちらの電話番号におかけください」
サンデー は 連絡先 を 入手した!
「さ、課長。戻りますよ」
ずっと黙って立っていた雅に向かって柳が声をかける。
雅は柳の横にスッと移動して、扉から出て行こうとする前にサンデーに振り向く。
「次は逃がさない」
「次会ったら戦闘は確実なんですね...」
サンデーのツッコミは柳の苦笑で返された。
………
「サンデー、と言ったか」
H.A.N.D本部に帰っている途中、雅はポツリと言葉を溢す。
「水墨と紙の如し心象、大海を幻視する程の力...要注意、だな」
「何か言いましたか?」
「気のせいだろう。それより柳、会議のテーマは──」
........
(めっっちゃ怖かった!!!!)
話し相手を募集してたはずなのに通りすがりの戦闘狂に教会もろとも沈められそうだったサンデーは椅子に体重を預けて天を仰ぐ。
「出鼻を挫かれましたね...」
流石に予想外過ぎて仕方がないところもありつつも、少し落ち込む。
そういえばとインターノットに出したものには何か反応があるだろうかとスマホを見てみると、一件だけだがコメントがあった。
「どれどれ...『お仕事の相談でお伺いします。30分ほどで到着します』...?」
コメントがついた時間と現在時刻を二回ほど見比べる。
「準備出来てないですね」
そう言って席を立ち上がった次の瞬間...
す、すみません!サンデー様はいらっしゃいますか?
(...天丼?)
あながち間違いでもない。しかし、大きな声でのアイサツは大事。古事記にもそう書いてある。
サンデーが声の主の方に視線を向けると、自分より少し背の低い柳の木が下に垂れているように見えたが、それは紛れもなく少女であった。
「はい、ワタシがサンデーですよ」
「インターノットで連絡をしたカリンといいます。本日はよろしくお願いしましゅ...!」
「本日はお一人でいらっしゃったのですか?」
「そうですけど、何か問題でもありましたか...?」
「いえ、特にはありませんよ。安心して下さい」
サンデーが人数確認をしたのには理由があった。
(すごく...見られてる気がする)
サンデーには危険じゃないかどうかを見定めるような視線が突き刺さっていた。主に3人くらいから...
なぜか気温が下がったように感じたが、それよりもやるべきことがあるため気のせいだということにした。
「では、案内します。ついてきて下さい」
.........
「ふむふむ...仕事で失敗ばかりしてしまって仲間に迷惑をかけている気がする...と」
「そうなんです...お皿を運ぶ時だって何もないところで躓いてお皿を割りそうになったり、お掃除をしようと思ってバケツに水を入れようとしたらひっくり返って水浸しにしちゃったり...うう、カリンはどうすれば良いのでしょうか?」
待ちに待った普通の相談事で少し感動しかけているが、これが普通というかさっきの一件がただただ不運すぎるだけであるので安心して欲しい。
「そうですね...もっとお仲間を頼りにしてみてはいかがでしょうか?」
「仲間を...ですか?」
「はい。無理に全てを1人でこなしてしまう事は必ずしも必要というわけではないのです。人には得意不得意が存在します...全てが完璧な人間など、それこそ手で数えるほどでしょう。理想を目指す、一人前になる、このような目標を立てて壁に当たってしまった時、解決法を持っているものは常に自分の周りにいる人間です。こんな時、自らの弱さを認めて助けを求める事が出来る人こそが一人前なのです」
「ちゃんと仲間に助けを求めることが出来る人が、一人前...!」
カリンはほわ〜っとした表情で何度もサンデーの言葉を自分なりに噛み砕いて理解していく。
「サンデーさんは私の悩みをこんなに一瞬で吹き飛ばしちゃって凄いですね...」
「それほどでもありませんよ。ワタシはただ進むべき道を提示してその後押しをしただけです。その道を歩いていく、つまり、これを実践するのはアナタの力なのですから」
「はっはひ!頑張ります!サンデーさん、本日はありがとうございました!」
カリンはそうお礼を言うと、勢いよく90度腰を曲げてお辞儀をする。
(めっちゃ直角のお辞儀だ...というか腰とか頭とかに負担かからないのかな)
「はい。こちらこそ実りある時間を過ごす事が出来ました。今日はありがとうございました」
サンデーもしっかりとお辞儀を返してカリンに礼を尽くす。
カリンが扉を閉めて見えなくなるまで見送ると同時に話に夢中で気にしなくなっていた視線が消えていた。
「とても礼儀正しく、健気な人でしたね。あのまま順調に成長して一人前になれる事を願っておきましょう」
「.........礼儀、ですか」
「ネクタイは真っ直ぐに、シャツはベストから出ないように、スラックスのラインは直線になるよう保ち、常に靴の先を合わせる...」
ポツリと胸の奥から迫り上がって口から溢れてきた言葉が教会の高い天井に跳ね返って空間全体に反響する。
「
.........
「ライカンさん、ただいま戻りました」
「おかえりなさい、カリン。今日はいつもより少し帰宅時間が遅くなったようですが、何かあったのでしょうか?」
ライカンの問いにカリンは正直に言うか否か逡巡したのちライカンの目を見て答える。
「実は、お仕事のことで相談しに行ってたんです。辞めたいというわけでは無いのですが、どうしたら迷惑をかけないようになるかなと思って」
カリンにとっては勇気を振り絞って出した回答ではあったが、カリン以外のメンバーは全員その事を知っていた。ヴィクトリア家政の名誉のためだが、ヴィクトリア家政は決してカリン見守り隊ではないのだ。決して。
「ふふふ...心配ご無用ですよ。私たちは今のままでも十分助かっております」
そうして、時間は穏やかに過ぎ去っていった。
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次回「エーテル怖い系司祭」