コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐   作:ライト鯖

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Archive-057 虚ろの日常

 

大掃除が決定してから暫くして──。

 

最初に、体操着のジャージ姿となったヒフミが、ルルーシュの待つグラウンドへとやって来た。

 

「体操着か。掃除って感じがするな」

「形から入るのも大事ですからね。…って、先生はジャケット脱いだだけですね…。大丈夫ですか?汚れちゃったら…」

「予備ならあるさ。問題ない」

「─で、私は何をやれば良いの?」

 

ヒフミとルルーシュが話している間に、コハルも到着した。

 

「お待たせ」

 

それに続きアズサが、愛銃を背に背負ったジャージ姿でやって来る。

 

「アズサちゃん?どうして銃を…」

「肌見放さず持っていないと銃の意味がない。

襲撃はいつ来るか分からないものだ」

「いえ、それはその…何と言いますか…その通りかもしれませんが…」

 

ヒフミは困ったような反応を見せていたが、そのアズサの後ろから来る後一人の姿に気付き、アズサの銃の事など吹き飛んで目を剥いた。

 

「お待たせしました。皆さん、早かったですね?」

「ハナコちゃん?!」

「アウトーーーー!!」

 

コハルも目を見開きながら声の限り叫んだが、ハナコは「あら?」ととぼけたように言うのみだった。

 

「何で掃除するのに水着なの?!バカなの?!バカなんでしょ?!バーーカ!」

「ですが動きやすいですし、汚されても大丈夫ですし、洗い流すのも簡単で──」

「そういう問題じゃないでしょ?!水着はプールで着るものなの!っていうか、誰かに見られたらどうするの?!」

 

笑顔でからかうようにハナコは首を傾ける。

 

「誰かも何も、ここには私たちしかいませんよ?」

「と、とにかくダメ!アウトったらアウト!あんたはもう水着の着用禁止!」

「あら…それはそれで、まあ」

「何がそれはそれでなんだ…。

というか、水着だとケガをしやすい。普通に体操着の方が安全だろう」

「ふむ…そうですね。仕方がありません。着替えて来ますね」

 

紆余曲折ありながらも、こうして彼女らの大掃除が始まった。

 

まずは建物周辺の雑草を抜いたり、ガラクタを片付け、それから彼女らは建物内部の清掃へと移る。

 

「思っていたよりも埃が溜まっているな」

「ですね。まずは箒である程度埃を取ってからモップ掛けをした方が良さそうです」

 

多少は手入れされている影響か、パット見ただけでは気付けないものの、箒ではいてみると、埃が何処からか湧き水のように現れるような場所もあった。

 

「アズサちゃんはお手洗いやシャワー室の辺りをお願いしても良いですか?」

「うん。任せて」

 

そうして建物の各所を綺麗にしていく。

ルルーシュも幾つもの部屋を手慣れた様子で清掃していっていた。

 

「先生のおかげで思ったより早く終わりそうです。何だか凄く、手際が良いというか」

「まあ、慣れてるからな」

「おお!頼もしいです」

 

午前中に始めた掃除も、皆が協力して効率よく進めた事で、まだ陽も傾かない時間に合宿所はある程度綺麗になった。

 

「まあ、こんなところか」

「良いんじゃない?随分綺麗になった気がする!うん。気持ち良い!」

「うん。悪くない」

「ですね!お疲れ様でした!」

 

どうにか終わったと伸びをするヒフミ達へ、ハナコが、「あ、まだ一箇所残ってますよ?」と、何処か楽しげに口にした。

 

 

「あれ、そうでしたっけ?」

「はい♡屋外プールが」

「ぷ、プール?あ、そう言えば…」

 

確かに屋外プールはあるが、とルルーシュはハナコの意図を図りかねながらも、皆と一緒になってとりあえずプールの方へと歩いていく。

 

「だいぶ大きいな。何処からか取りかかれば良いのか。…いや、そもそも補習に水泳の科目はなかったはずだけど」

「試験にも関係ないし、誰か使うわけでもない。

放置してても良いんじゃないか?悪臭を放っているというわけでもないのだし」

「関係ないのに、掃除する必要ある?」

 

アズサやルルーシュ、コハルの疑問は当然のことだろう。

補習にも生活にも関係のない施設。

しかも、ついで、で掃除するには余りに大きい。

むしろ、意義を見出す方が難しい可能性すらある。

 

「いえいえ、よく考えてみてください。コハルちゃん」

「…?」

「キラキラと輝く水で満たされたプール。楽しい合宿。はしゃぎ回る生徒達…」

 

ハナコはしかし、意義等どうでも良いじゃないかと言わんばかりに満面の笑顔でコハルに語りかける。

 

「楽しくなってきませんか?」

 

しかし、コハルにはその言葉の意図もさっぱりわからず、ただ困惑するだけだった。

 

「…え?!何?分かんない!何か私に分からない高度な話してる?!」

 

頭に?の浮かぶコハルは置いて、ヒフミが「確かに」と、口を開く。

 

「こうして放置されてしまったプールを見ていると、何だか寂しい気持ちになりますね」

「このサイズだ。昔は賑わっていたのだろうしな」

 

ルルーシュの言に、アズサも頷いていた。

 

「うん。元々は賑やかな声が響き渡ってた場所なのかもしれない。

それでも、こんな風に変わってしまう。"Vanitas Vanitatum"…それがこの世界の真実」

「…ふむ」

「えっと…?」

「古代の言葉ですね。"全ては虚しいものである"…確かに、そうなのかもしれません」

 

ハナコはアズサの言葉の意味に首をかしげるヒフミとコハルに説明してから、暫く黙考し始めた。

 

そして、笑顔で三人に呼びかける。

 

「アズサちゃん、ヒフミちゃん、コハルちゃん、今から、遊びましょう!」

「え、ええっ?!」

「今から掃除して、プールに水を入れて、皆で飛び込んだりしましょう!

明日からはお勉強をし続けないといけませんし、となると今日が最後のチャンスかもしれないじゃないですか。

今のうちにここで楽しく遊んでおかないと!」

 

ハナコは三人の背を急かすように押しながら言う。

 

「さあさあ、早く濡れても良い格好に着替えてきてください!プール掃除を始めましょう!」

「………うん。例え全てが虚しい事だとしても、それは今日、最善を尽くさない理由にはならない」

「…………」

 

ルルーシュはアズサの言葉を黙って聞きながら、彼女の背を見つめていた。

 

転校生だから当然とは言え、トリニティでは随分珍しい考え方、価値観をしているように思えるな。

異様に襲撃を警戒していることとかもその一部か。

ますます、彼女の前にいた学校というのが気にかかる。

やはり本腰を入れて調べてみる必要があるのかもしれない。

 

「ちゃんと水着も持ってる。待ってて」

 

アズサは一目散に着替えに走り、それに続くようハナコは残る二人を急かす。

 

「さあヒフミちゃんも、コハルちゃんも水着…いえ!何でも良いので、濡れても良い格好に!」

「うーん。…でも確かに、ここだけ掃除しないのも何だか気持ち悪いですし、私も着替えてきます!」

 

ヒフミも乗り気になり、着替えに向かう。

だが、コハルはそうではないようだった。

 

「ええっ?!補習授業と全然関係ないじゃん…うぅ…なんで…」

「ふふっ…」

 

怪しく微笑むハナコににじり寄られたコハルはばっと後ろに飛び退く。

 

「わかった!わかったから!無言で近寄らないで!」

 

そうして着替え終わり、再びプールに四人が集合する。

 

一人を除く全員が学園指定の水着でプールサイドに立った。

それを確認したハナコは満足げに頷く。

 

「さあ、これでびしょびしょになっても構わないということですね」

「うん。問題ない」

「ま、まあ一応」

「では、皆でお掃除を始めましょうか?」

 

スムーズな進行に割入ってルルーシュがツッコミを入れるよりも早く、コハルが叫ぶ。

 

「待て待て待てっ!」

「コハルちゃん?どうかしましたか?」

「あんた掃除の時は水着でどうして今度は制服なの?!本当にバカなの?!濡れても良い服ってあんたが言ったんじゃん!」

 

そう、唯一水着でなかったのは、ハナコである。

セーラー服に身を包み、水着のみの字もその立ち姿にはなかった。

 

「これが濡れても良い格好ですよ?」

「もうあんたが何言ってるか分かんない!制服が濡れても良いの?!」

「コハルちゃん。これは各々の美学の問題かもしれませんが…」

「び、美学…?」

「制服と水着、濡れた時どちらが良い感じになると思いますか?」

 

至って真剣な様子で尋ねるハナコにコハルは困惑を隠せない。

 

「良い感じってなによ?!何の話?!」

「ふふっ。まあ半分は冗談ですよ。

ほら、実は中に着てるんです。お小遣いで買ったビキニ」

 

わざとらしく困ったような表情を作りハナコはコハルの目を覗き込むように言う。

 

「先ほどコハルちゃんに"水着の着用禁止"、と言われてしまいましたし、今日はこれで許していただけませんか?

スクール水着は今、洗濯中でして、これがダメだと私、下に何も──」

「な、何で私に判断を託すのさ!別に勝手にすれば良いじゃん?!」

「うふふ、ではそういうことで、改めてお掃除を──」

 

はた、とハナコはルルーシュと目が合ったことに気が付くと、いたずらっぽく笑って見せた。

 

「役得ですね♡」

「なっ!──お前なあ…」

「あらあら。意外な可愛らしい反応を見られたかもしれません」

「──バカなこと言ってないでさっさと掃除を始めろ。日が落ちてしまってからでは遊べないぞ」

「うふふ。分かりました。それじゃ、始めましょうか」

 

C.C辺りが隣にいれば間違いなくからかっただろう反応を思わず取ってしまったルルーシュは「我ながら詮のない反応をしてしまったと後悔しつつ、彼女らのプール掃除を手伝いに入る。

彼は濡れても良い服ではなかったので、主にプールサイドの清掃ではあるが、四人の様子を見守りつつ、洗眼器やらを綺麗にしていった。

 

「見てください!虹ですよ!虹!」

「ひゃっ!?ハナコちゃん!冷たいですよお!」

「ふふっ。トリニティの湖から引っ張ってきている水のようですので、そのまま口を開けて飲んでま大丈夫ですよ?」

 

「…どうしてこんなことに」

「こちらのブロックは完遂した。続けて速やかにそちらに向かう」

 

ヒフミはハナコのじゃれ合いに巻き込まれながら、コハルは不満を垂れながらもなんだかんだ掃除をし、アズサは一人どんどんと進めていく。

四人それぞれが名々に掃除をしながらも、どんどんと綺麗になっていくプール。

一つの目的に向かっていく様を、ルルーシュは、かつての彼の仲間たちを無意識に重ねてか、彼自身気付かぬうちに笑みを漏らしながら、見守るのだった。

 

「結局、日が暮れてしまったな」

「あはは。水が思ってたより溜まるのって時間がかかるんですね」

「ごめんなさい。すっかり失念していました」

「謝る必要はない。十分、楽しかった」

「…綺麗」

 

コハルがそう小さく漏らすのも納得する光景がプール全体に広がっていた。

 

月光と星明かり、幾つかの照明に照らされた夜のプールは、皆で掃除したかいあって、美しく光を反射する水面が揺れる、幻想的な空間となっていたのだ。

 

「そうですね。真夜中のプールなんて中々見られない景色で」

 

頷くヒフミの肩にコハルの頭が近付くが、直ぐに離れる。

しかし、コクリコクリとコハルの首は揺れていた。

 

「あら、コハルちゃん。おねむですか?」

 

それに気付いたハナコに尋ねられたコハルは恥ずかしそうに「そんなことないもん」と否定する。

 

「…でも、ちょっと疲れた」

「確かに、今日は朝から大掃除でバタバタでしたもんね」

「では、そろそろお部屋に戻ってお休みしましょうか?明日から本格的に勉強合宿が始まりますし」

「うん」

「そうですね。では、今日はこれくらいで」

 

一応聞いておくが、と部屋へ戻ろうとする四人をルルーシュは呼びとめる。

 

「食事とシャワーくらいは浴びるだろう?」

「そう言えば、朝から何も食べてませんでしたね…」

「確かに、お腹もペコペコです」

 

なら、とルルーシュはヒフミに鍵を渡す。

 

「シャワールームの鍵だ。君等が持ってた方が安心出来るだろう?」

「あら、では先生はどうされるんです?もしかして──」

「その手には乗らん。時間を見て鍵を貰いに行くだけだ。今日の所は、私は食事を準備しておくから、その間に汗を流してくると良い」

 

何だその目は、とルルーシュは四人の視線に気付き眉をひそめる。

 

「いえ、何といいますか…意外だな、と」

「ふふっ」

 

ヒフミの濁した言い方にハナコは可笑しそうに吹き出した。

 

「…先生って料理出来るんだ」

 

寝ぼけ眼のコハルはその状況も手伝ってか直球にヒフミ達がルルーシュのキャラとは似合わないと感じていた所をぶつけてしまった。

 

「出来るよ。いつもではないがそれなりに機会はあったからな。掃除と同じだ」

 

会長にも似たようなことを言われた気がするな。

キャラじゃない、とは言われたが。

そんなに俺に似合ってないのか?

 

「まあ、今日は遅いから簡単なものだ。期待するなよ」

 

そう言い残し食堂の方へと消えるルルーシュ。

 

四人がシャワーを終え、寝間着に着替えてから集合した食堂には、既に皿が並べられていた。

 

「やあ、どうだった?設備は一応問題なく使えるとは言っていたが、お湯も大丈夫だったか?」

「はい。温まれました」

「それは良かった。さて、食事も見ての通り準備出来ている」

 

四人が簡単と言われて想像していたようなものとはかけ離れていた。

 

「ミネストローネとフィッシュフライだ」

 

野菜がふんだんに入れ込まれたミネストローネと小ぶりの白身魚がさっと揚げられたフライ。

そしてバスケットに幾つかのパンが詰められ、机に並んでいたのだ。

 

「簡単…?」

「同時並行なら一時間弱もあれば出来るし、簡単な方だろう。

明日からに備えて栄養はしっかり取らないとな」

 

ルルーシュの意外な一面に驚き、そして彼女達は料理を口に運び、更に目を見張る。

 

「美味しい…」

「お店で食べるみたい」

「ええ。野菜も、わざわざ合宿の為にティーパーティーが高級品を揃えるとは思えませんし、つまりこれは純粋に…」

「先生の腕…」

「トマトの風味を邪魔しないで他の野菜も引き立てられているような見事なバランスで、とても…」

 

「こうも褒められると流石に気恥ずかしいものがあるな」

 

苦笑しつつ、ルルーシュは厨房で片付けを始めていた。

 

「あれ?先生はお食べにならないんですか?」

「ん?ああ、味見ついでに食べたよ」

「え。それじゃあお腹空かない?」

「大丈夫。少食だしな」

 

そんなやり取りを聞いていたハナコは、食事を終えて、皆が食堂を後にする中で、ポツリと他の皆には聞こえないように、尋ねる。

 

「何といいますか…先生はお人好しなんですか?」

「…?。いいや私は特段お人好しではないよ」

「そうでしょうか。適当に夜食を済ませるように言っておくだけでも良かったのに、わざわざこうして作ってくださいましたし。

シャワールームの鍵も、別に先生が管理していてもおかしくはなかったですよね」

「ふむ。…まあ、先生だからね」

 

笑顔ではあるものの、微笑みとも苦笑とも異なる雰囲気を滲ませながら、ハナコはその返答へ更に問い返す。

 

「それは、窮屈に感じたりしないんですか?

お人好しでないのだとしたらそんな風に振る舞うことって」

「……私が選んだ事だから、特には」

「選んだ事、ですか」

「ああ。それに、守りたいと思えるものが出来たから。私は先生でいるんだよ」

「………」

「納得出来たか?」

 

数秒ほどの沈黙。

 

「ハナコちゃん。何かあったんですか?」

 

そこに、ハナコが来ていないことに気付き、戻ってきたヒフミの声が届く。

 

「いえ。少し先生とお話していただけです」

 

ヒフミに応えてから、ルルーシュに向き直り、小さく囁くように彼女は微笑み、言うのだった。

 

「─やっぱり、お人好じゃないですか」

「───」

 

「何のお話をしてたんですか?」

「プール掃除の時、私たちの方を見てたけど誰を見てたんですか?と尋ねてました♡」

「えっ?!」

「おい!誤解だぞ!ヒフミ!」

「で、ですよねっ?!」

 

はあ、と二人を見送ったルルーシュは息を吐き、力を抜く。

 

さて、あの答えで良かったのだろうか。

…わからないな。まだ、彼女の芯には触れられていない気がする。

 

だが、分かったこともある。

彼女は別の、何か狙いがあるのか、或いは"何も"無いのか。

何れにせよ、ナギサの言う裏切り者は消去法にはなるがやはり──。

 






今回も読んで頂きありがとうございました。
また次回もよろしくお願い致します。

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