あまりにも国内情勢の紆余曲折が知りたくてこのくらい飛躍しなければ安定しないのでは?という妄想です。
叩きつける様な雨が降る曇天の空模様だった。
ただでさえ陰鬱な空気に整備されていない泥にぬかるんだ道が拍車をかけて気分を害する。
郊外に建てられたあばら屋にしては一際大きなそれは、禁忌の入口と言えるだろう。
ドアを叩いても反応はなく、仕方なくドアノブに手をかけるとわずかな抵抗と共に悲鳴をあげながら開いていく。
薄暗い部屋の中、その奥、暖炉のそばに安楽椅子に揺れる頭を見つけゆっくりと近づいていく。
「失礼、ドアを叩いたのだが反応が、!」
突如として振り下ろされた何かは私の立っていた床に大きな穴を開けて引き抜かれる。
あれは肉叩き棒だろうか?あまりにも大きなそれは立派な凶器として煌めいている。
「まて!まて!!」
「ひひ、ひ、黒エルフか、黒エルフは初めてだ、、」
暖炉に照らされた顔が現れそれがオークにしては珍しい落ち窪んだ大きな瞳をしている。その不気味な目でこちらを凝視して舌なめずりをする姿に思わず数は後ろに下がると小さな明かりが頬にあたり、その熱に思わずみじろいだ。
ガタンッと大きな音がしたと思えば目の前のオークが得物を落とし驚愕に震えている、、
「あっあんた陛下のいい人、、じゃあないか?
へ、陛下のいい人がなんでここに?」
「いかにも!私はディネルース、国王グスタフの妻である。今日は知りたい事があって来た」
説明するには長くなる。
しかし事の発端からすべてを詳らかにせねば彼も胸襟を開いてはくれまい。
当然と言えば当然だが、グスタフの国王としての仕事を数多く見て来た。
その中の一つに彼自身が直筆でかきあげる書簡、その中でも他国に対して政治的効力を発揮するそれは一等に上等な豪奢な紙に国章の封蝋が施されると見ればすぐに分かるもの。
しかし時折、安紙の便箋にただの切手を貼り付けた封筒を出す事がある。
いつもならはサラサラとかきあげる彼がその手紙だけは頭を悩ませ、葉巻一本を消費してようやく書き上げる。
旧友に送るそれであるのならまた違った感想を抱くものではあるが、それを認める時、彼は決まって眉間に皺を寄せ、呻くように息をしながら遅筆を進ませている。
過去に一度だけ馬鹿正直に彼にその手紙はなんだと聞いた事がある。
彼は答えてくれはした。
「…何というべきか、、私個人とは全く関係が無い。…しかし一言貴方に伝える。"暴かないでほしい"それだけだ」
彼が最初で唯一行った私に対する明確な拒絶、それに私はショックを受けてしまって長い事心に引っかかった。
しかしある日それは何かの式典か、あるいは会議の後だったか,我が国の情報長官その人に合い、好奇心に負けて聞いたのだ。
国王から安紙の手紙を貰っているのは貴方か?とすると長官は私をひと睨みしたかと思えば小さな声でこう言った"それは我々ではない、しかし知らないとは言わない"歩き去った長官の後、私に大きな疑問と少しの好奇心が残され返の付いた矢のように記憶に引っかかる。
私はついにそれを盗み見た。封筒に描かれた住所を。
「故にここに来た、ここがグスタフの何であるかを知る為に好奇心に駆られてここに来た」
凶器のような肉叩き棒を片付けた彼は湯を沸かし茶を入れてさえしてくれた。初対面でいきなり殺そうとしてきた野蛮なオークの姿はどこにもない。
「は、はは、オラの名前はバウチャーだ。へへ 、陛下とは面識がある、ここには1人で?」
「いや、信頼できる仲間2人とここに来た。車内で待たせているが3時間も姿が見えなければ窓を突き破り銃を突きつけるだろう」
悪意は感じない、しかし釘を刺す意味を込めて伝えるが、帰って来たのは安堵の声。
「そ、それは良かった。生憎馬車は馬ごと整備に出したんだ。も、戻ってくるのは一週間はかかるからな、足があるなら何もない。か、ああでも雨には気をつけて、ぬかるみもそうだが、滑ると大変だ」
「お気遣い感謝する。しかし本題に入って頂けるとありがたい」
「偶然か、奇跡か、あるいは必然か、うん、うん、説明しよう」
呪文のような呟きの後、バウチャーは語り出す。
今から100年前ほどロザリンド会戦が終わり、皆が貧困と飢饉にあえいでいた時、徐々にグスタフ陛下は頭角を現していた。
我々はそんな時、最初にできた支援者たち。とは言っても規模も小さく当時は金銭も受け取らないお方だったため今で言うファンクラブに近しい小さな集まりに過ぎなかったよ。
しかし陛下のお力は本物だ。お傍についた方々は徐々に大きくなりまたその支援も必要にないほど力をつけていった。
もはや我々にできることは何もないとただ陛下を陰ながら応援していく心づもりで日がな一日を過ごしていた時、初めて陛下が躓いた。
それは権力闘争だった。
無理もない、当時、いや当時から陛下の権力基盤たる支持層は軍部に多く、当時においてはそちらに頼りきりだったために貴族や経済界とのつてには悪戦苦闘であったのは明白だった。
とはいえそれは無理からぬ事、いまだ偉大な先王の側近や政界は健在であったし、いかに先王が倒れたとはいえ次代の有力候補はグスタフ陛下を除いて幾人もいてロザリンド会戦の大敗に飢饉、不安定な情勢は玉座をかけて内戦になることはあの年代の誰にでもわかることであった。
ああ、だが一つ疑問におもったのではないかな?黒エルフの君はオルクセン王国の王はその魔力量によって決められると聞いたはずだろう。
そうだ、それはオルクセン国の歴史であるし誰も疑わない事実であるが、同時に一つ疑問がある。
その
簡単だ、我々オルクにとっては強いやつが強いのだ。
でなければグスタフ陛下の対抗馬となるものが次々と辞退を申し入れ、失踪をするなんて他に考えられないだろう?
なぜそうなったのかは理由があるのだろう。だがそれは陛下のお力に他ならない。
出されたお茶を一啜りするふりをした。
もはや香りも温度ですら頭は理解できない。
今わかるのは目の前の彼、バウチャーの真の職業について、それにしか注意を向けられない。
「お、お茶は口にあいましたかな?こ、コーヒーもありますが」
「…いや、結構だ。続きを教えてくれるか?」
「ええ、勿論」
当時我々はすでに陛下の目に留まることすら恐れ多い小さな集まりとして、すぐに忘れ去られた。
だが、陛下のおかげでこんな辺鄙な片田舎に水道を!街灯を!何よりも道そのものを!これらすべては陛下のおかげだ!我々はよく知っていた!陛下の為になる事を知るために陛下を調べ尽くしたから!
故に我々の忠誠、いや信仰はだれよりも強く、今なお一番であると自負している。
だからこの片田舎のグスタフ教の敬虔な信者はただひたすらに陛下の安寧の為に願って!願って!願い尽くしてやった!
証拠が一つも残らない方法は当時いくらでもあった。
たとえそれが口にする事でさえ憚られることであったとしても、そんなものでさえ口にしなければ生きてゆけないものは数多く、疑問を呈するものなど居なかった。
だが陛下はついに成し遂げた。『第一次農業改革』その収穫によって!我々オルクに希望が見えた!太陽が再び上がったのだ!
枯れ枝を食むことも!雪の静けさに怯えることも!動く体力のなくなった幼子を眺める親の狂気の瞳を見ることも!すべてが消えた!
食はすべての根幹だ!何物にも否定できわしまい!!
もはや陛下の足元は盤石になった!我々がやらなくても誰かがするだろう!
だが気づかれた
誰に?陛下にだ。遂にオルクセンが陛下のもとに一つに成ったとき、この国の暗い部分も陛下の知るところへと変わった。
その時陛下の疑問は確信に変わった。
かつて不自然に起きた権力者たちの失踪と心変わりそれはだれが絵図を描いたものではなく、ともすればグスタフ陛下自身が描いたものであると決定づけられたとき。陛下自身の取り乱しぶりは想像に難くない。
陛下は彼らに最初の仕事を命じた、それが誰であるかを調べよと。
だが我々がそれから隠れることは容易であった。しかしそれは我々が望むことではない、もとより陛下の為、それだけを願う時、遂にその対象が我々の番になった、それだけのことだ。
甘んじて消滅を受け入れるつもりであったが、そうも言ってられない状況になった。
デゥートネ戦争の始まりにより、彼らに渡した情報網とそれを運用する人材は黄金よりも価値があった。
われらは一時的に免責された。ああ、そう現職の情報長官はその時に私が教えたものの一人だったな。
当時のグロワール軍の素早さはオルクセンにとって驚異的なもの、いかに素早く敵の所在を伝えることが一戦の勝敗を分けた。
120年、人族ならばこの期間に父になり孫ができ、墓に埋もれるこの期間は、われら魔族にとっては短すぎた。
辛勝に辛勝を重ねてたどり着いたかの戦争では多くの問題が浮き上がったのだ。
今や戦争は一人の英雄ではなく、一発でも多くの弾薬と一食みでも多くの糧秣を必要とし、そのすべてを平らげる怪物となった。
国内は盤石となった、しかし国外は?長く確執のあるエルフィンドは勿論、魔族狩りのアスカニア、不凍港を追い求める東の大帝国ロヴァルナ、大陸覇権を目論むグロワール、キャメロットでさえデゥートネという敵とだけの共闘関係にすぎない。
戦争と言う怪物を御しきれなけば陛下の治世は続かない、陛下の取り組み始めた参謀本部しかり時代は変わり始める。
その為に最も保守的であり最も頑なであり、英雄を望む彼らに対して我々は最後の仕事をした。全てでなくてよいのだ。
勝ちの見え始めた戦争で、それらは大損害の内に含まれた。
陛下が望んだことではない、明確な離反行為だ、しかしそれは最初から。始まりから我々は狂っている。
そして我々はもはや不要となった。後はただ消えゆくのみ。
なぜ、われらはまだ生きているのか?それは、それこそが貴方の知りたいと望んだものの答えだ。
週の初め、我らは具申する。週の終わり、陛下はそれを拒絶する。
それがあなたの知りたがった封筒の正体だろう。
納得いただけたかな?
紅茶を勢いよく飲み干した。強烈な紅茶の香りと熱さが、冷え切った頭にじんわりと広がった気がした。
なるほど理解した。彼は狂気の信奉者だ。神はグスタフ、願うは死。
彼の顔色がなぜ悪くなるのか、簡単だ。あの安紙一枚にきっと何百、何千の命がかかっている。彼は何度も読み返す、この紙が命を奪うものではないことを確信するために。安紙一つに命を懸けられる異常者のせいで。
「長らく私は沈黙の誓いをおこなっていた。呂律が回らず、たどたどしくて済まない」
「いや、いいそれよりもあなたは…!」
それを口にすることはなかった。なぜならそれは私が望んだことだから。たとえ結果がどうであれ私が望んでここに来たのだ。
バウチャーが柔らかにほほ笑み。紅茶を飲む。
「例え記憶に蓋をしようとも歴史は変わらない。誰しも暗い過去はあるものだが、陛下は抱え込みすぎる。あなただけには傍にいてあげてほしい」
「それは…それだけは私が決めたことだ。違えることはない」
もうすぐ3時間が経つ、このままここにいては窓をかち割られてしまうだろう。
「まだ、話したいことがあるがその前に仲間に話をつけてくるがかまわないか?」
バウチャーは優しく微笑み何も言わなかった。
外に出て車のある道まで歩く道中、小雨にはなったもののぬかるみは深く足取りは来た時よりも重かった。
バチャバチャと慌ただしい足音が聞こえたかと思えば目の前に連れてきた旅団員が駆けつけて来ていた。
「ディネルース閣下!何があったのですか!?」
何事かと視線の先を見やる。振り返れば曇天かと思われた、空の闇はいつしかかの家から立ち上る黒煙へと変わっていた。
「っ!?消防を呼べ!出来れば消火を!」
不意に風に流されて強烈なガソリンのにおいが鼻につく。
ああ、そうか。やはり彼自身が火をつけたのだろう。
結局、あの家は炭と塵に変わってしまった。
隠されるように存在した大きな地下室の何かが燃え上がった結果全てがきれいさっぱりと無くなり、バウチャーの骨だけが見つかった。
この事件は新聞の片隅、に一文だけを載せて片付けられ。
それっきりあの安紙の便せんは届かなくなった。グスタフはそれがわかると机の書類をすべてどけ、書類の渡し忘れがないか確認しようと電話を手に取った所でようやく私は話をしなければならないと諦め。
覚悟を持って口にした。
グスタフはただ一言
「本当に終わったのか?」
目を閉じてそうつぶやいたきり、この件に触れることすらなくなった。
翌週、片田舎の礼拝堂で事件が起きた。種族も年齢もバラバラ、互いに接点すらない者たち数十名が集団で服毒自殺をしたのだ。
『
そう書かれた壁の前で。
もはや誰も知らなければ新たに吹聴するものが現れようと信じる者はいない。
後日談は考えてないです