ジェンティルドンナのにぃに概念 作:おっき!!!
桜花賞最終話は少し時間かかりそうなので、もう中編出しちゃいます。
正直、この小説を書いたのって、どんちゃんとヴィルシーナのドロドロした感情のぶつけ愛が、ぶつけ愛!!が見たかったわけで。
ジェンティルがどんちゃんとして最初に登場しましたけど、ぶっちゃけヴィルシーナでも全然良かったんですよね。
まあ某よーつべの女王様反応集に脳焼かれちゃったのでどんちゃん推しが加速したんですけども。ええ。
私はどんちゃんシーナの両推しなので、2人して重い感情を持って欲しい訳ですよ。曇らせ……滾るっ。
次回は少しお時間を頂きますので、よろしくお願いいたします。
正直レース描写難し過ぎて何度端的に書こうか迷いました。しかし、折角蹂躙ジェンティルがいるのなら、それに相対するヴィルシーナを書いてみたいと思うのがファンとしての心。なので頑張って文章にしました。その結果2万文字です。ええ、分けられませんでした。
ムッチャクチャ長いですが、私は小説を読むのなら読み応えがあるものを読みたいし、書きたいと思うのでこれは私の癖です。
もしかしたら分かりにくいかもしれませんが、分かりにくかったら感想でご指摘下さい。頑張って解説します。
それでは、ご覧下さい。
※感想にて本編かクロスオーバー作品か投稿が分からないと指摘受けまして、クロスオーバー作品と本編の順番を返させて頂きました。
よろしくお願いします。
ガコンッと解き放たれたゲート。ほぼ同時に飛び出したウマ娘達。
ゲートが開いた瞬間に飛び出す反射神経、簡単なように見えるがこれ一つでも血の滲むような努力による賜物だ。
GIレースとなれば世代の頂点が集うレース。スタートダッシュの精度も群を抜いている。
その中でも、大外出走した18番のウマ娘がぐんぐんスピードを上げて先頭に躍り出る。
『━━━━━GIレース桜花賞、スタートしましたっ!!大歓声と共にスタートしました優駿達。全員綺麗なスタートを切って、大外っ、宣言通り大外18番オヤフネ前に出ていきます。桜舞い散る中をくぐって内から2頭前に出てくる。先頭、まず前に出たのは18番。その後ろ6番8番すぐに着けた。15番ヴィルシーナも4番手5番手辺りにとどまります。そのすぐ隣2番、5番、3番とこの位置。中団集団になります14、9、11、13番はやや団子気味。後方待機1、4、7番。注目の1番人気10番ジェンティルドンナは今日は後方レースか。次第に縦長になっていく向正面。最後方は12番で進みます』
縦長になったバ群。GIレースなだけあってみな一様にジュニア期からの成長が見て取れる。
ヴィルシーナが先頭集団に入り込んだ。それに対してジェンティルは後方待機。ヴィルシーナはジェンティルが前に来ると予想していたが、その可能性が無いことを即座に判断し、思考をすぐに切り替える。
早め前には出ていたかったジェンティルではあったが、スローなレースが多いこのレース場で有利となるのは後方からの追い上げ組。ジェンティルの脚を使えば、十分勝利を収める事が出来る範疇であった。
ジェンティルは後方でのレースを選択した。自分の力を考えればそれでも
反対に、切り替えたとはいえ未だ脅威であるジェンティルが、なんの弊害も無く後ろについたことに、ヴィルシーナは複雑な表情を浮かべる。
圧倒的。ジェンティルがレースで見せた凄まじい末脚は、彼女とレースで競い合うであろうウマ娘達にとっては最も警戒しなくてはならない要因である。特に、緩やかなレースになるこのレース場において、後方に陣取るジェンティルの末脚は脅威以外の何者でもない。
今ジェンティルは、最も己の武器を披露しやすい場所を確保したのである。
その脚を使わせない為、他のウマ娘達は警戒してジェンティルの進路を開けないように蓋をしてくるだろう。
故に、ジェンティルは何処からでも伸びると言うのであればハナから集団に揉まれない位置を選び、じっくりとレースを走る事を選択する。本人にとって、少なくとも小細工が嫌いな彼女が納得出来るような展開では無いが、メイクデビュー戦において進路を塞がれた事を思い出し、勝率を上げるためにジェンティルは敢えてらしからぬレースを選んだ。
欲を言えば、先頭集団に近付ければ良かったが、包囲網をしこうとする考えを持ったウマ娘達が先に持ち出した為、敢無く後退することとなってしまった。ジェンティルにとって少し誤算ではあるものの、その程度でジェンティルの精神が揺らぐことは無い。なんなら、まだこの位置でもジェンティルの足は発揮されるだろう。
やや外気味に持ち出しているヴィルシーナは、それを加味していつでもジェンティルドンナを警戒可能範囲を走行する。包囲網を警戒するジェンティルが、遅かれ早かれ後ろに来る事は予想できた。欲を言えば後ろの方が、そう思っていたことが的中し、ヴィルシーナはこのレースの勝ち星を少しずつ見出していく。
ジェンティルのパワーは嫌という程見てきた。レース映像で、直接本人の走りで。同担故にその機会はいくらでもあった。
初めて見せたメイクデビュー戦から分かる通り、ジェンティルのその強靭な肉体は、どんな体勢からでも加速が可能。体勢が崩れていようとも、踏み出した一歩目で瞬時に全身の筋肉で対応しスパートをかけてくる。ならば、ハナからその状況に持ち込む前に、ペースを乱して反応を遅らせる作戦を実行する。ジェンティル対策に
正直真っ向から策を薙ぎ払ってくる相手に、下手な作戦を立てた所で効果は無いとは思う。しかし、ヴィルシーナとジェンティルは
ジェンティルの圧倒的な末脚が惜しみ無く発揮される花形のレースとなるか、ヴィルシーナの策がはまった脚を使わせない泥沼なレースとなるか。一か八かの賭け。
(━━━━━始めます。
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『さぁハナを進む18番。すぐ後ろに着けます6、8番。ヴィルシーナ前を狙っているか。じりじりと外目から上がっていくぞ。2馬身開いて2番。その内並んで5番。さらに後ろに14番、9、11、13番。外10番ジェンティルドンナここにいます。もうすぐ2ハロン進み坂を登り少しして第3コーナー入ります最後方は12番と言った様子。ここまでは平均ペースよりも少し早いタイム。やや縦長の展開が続く』
阪神競バ場1600m。第3コーナー進入前に少しだけ上り勾配となり、ペースが若干落ち着く。そして進入後大きく外を回るようにコースが出来ているため、上り勾配を登りきってからもそこまでペースが上がる訳ではない。
しかし第4コーナーへ向かうまでに、傾斜が現れる。これによって速度が上がっていくのだ。
1600m、第4コーナー付近でラスト3ハロンがやってくる。そうなると、足をためるウマ娘達はこの3ハロンを目安にスパートをかける。この傾斜はまさにその追い上げの起爆剤となる。
故に、レース展開としては最もわかりやすいと言ってもいい。誰がどこから動くか、では無く、全員がそこに向かって動いていく。
入口の入り方は違えど、スパートをかけるためのゴールは目に見えている。
だからこそ、第3コーナーに侵入する際の位置取りは重要だ。緩やか故に、そこまで遠心力が大きくなる訳ではない。カーブを曲がると遠心力が起こるのは必然ではあるが、他の場所と比べても曲がりながらの身動きは取りやすい。
カーブを曲がりながら、外側を目指し、位置取りをキープ。ラスト3ハロンに向けて足を動かす。
堅実なレース展開としてはここが妥当であろう。
しかし、そう簡単にレース運びが出来るほど、このレースを走るウマ娘達は一筋縄では行かない。
(━━━━━なにかっ、なんだこれっ)
2ハロンをもう少しで過ぎようとしていた最中。
先頭を走る18番オヤフネは異変に気が付いた。彼女は、先頭を走るからこそ、後ろから来るウマ娘達のプレッシャーをヒシヒシと背中に受けている故に、視線には最も敏感であった。後ろを気にしつつ前だけ向いて走る先頭の彼女にとって、視界には入らない死界を感覚で感じ取る事は逃げウマ娘が習得するべき必須スキルである。
オヤフネは後ろから来る視線に違和感を覚えた。視線の中に混じる他とは違うなにか。形容し難い種類の視線が、彼女の背中にヒシヒシとプレッシャーを与えている。
大半は虎視眈々と仕掛け所を見つめる緊張感の入った視線。一つは獰猛な荒ぶる力強い視線。そしてもう一つは。
(━━━━━首元に何かを突き立てられてるような緊張感っ。触れられてもないのに、前に行けと急かされてるような威圧感っ。誰っ?こんな視線を向けてるのは一体……っ)
彼女は頭の片隅で結論付ける。これは、彼女に向けられた
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2ハロンを越えた。少しずつレースが動いていく。
その中でヴィルシーナは視線の先に走るウマ娘の
それは、彼女の作戦が始まったと言う開始の合図でもある。
『先団第3コーナーに入ります。ここからは下り坂。緩やかなコーナーを回ります優駿達。ヴィルシーナ少し動いた2番手に躍り出る。18番を外から牽制。6番8番後ろで様子を伺います。その後ろ5番が前に出て2番その後ろ、2バ身3バ身離れて続く14番、11番前に出た。9番13番競り合っている。1番内7番、その外10番ジェンティルドンナまだ控える。その後ろ3番』
ヴィルシーナは少し速度を上げて位置を上げる。ピッタリと18番の左後ろに控えた。
ヴィルシーナはコーナー入口前から始まる傾斜に、そしてコーナーの形に目を付けた。
コーナー入りをしても位置取りの争奪戦は行われる。コーナー前の向正面では位置取りを決めればそこまで動きがある訳では無い。このレース場ではコーナーを曲がっている時に位置を上げる事が可能。故に、わかりやすい程展開が見えるこのレースにおいて、ヴィルシーナが取れる作戦は自ずと絞られる。
ヴィルシーナが目指すこのレース展開。それは如何にジェンティルの進路を塞ぐかどうか。警戒するその豪脚、末脚。何よりその崩れないフィジカルの封殺。
どうしようもない事ではあるが、それを意図的に発動させない事は出来る。その結論の一つが、包囲網。ほかのウマ娘達も同様の考えをしているであろう辺り、囲ってしまえば何処からでも抜け出せなくなるので、実質的にジェンティルの脚を封印することができる。
しかし問題なのは、その包囲網を敷くにはどうすればいいのか。
レースは一人、周りには競い合うライバル。そんなウマ娘達に、包囲網を敷きますっ、なんて言って返事が返ってくる訳がない。意思疎通がなくとも、同じ考えを持つ誰かがいなければ、包囲なんて出来るはずがない。
だが、今回のレースに限っては一つ懸念がある。ジェンティルを警戒する他のウマ娘達が、何も無策にレースを進めるだろうかと。
ヴィルシーナ同様に
もし仮に、ジェンティルの身動きを制限する包囲網が敷かれる可能性があるのであれば、
ならば、やらないよりもやる覚悟で。その仮定を起こす
足りない自分を意識し、実力だけでなく知恵を持ち出してヴィルシーナはジェンティルに全身全霊でぶつかる。今回初めての公式レースでの衝突。今後、ティアラレースのオークスも秋華賞も必ず当たることになる。ならば自分が何処まで通用するか、ヴィルシーナにとってこのレース、勝利もそうだが、己の実力の照らし合わせも兼ねた一戦である。
何のために
合宿で思い知った実力差。
ヴィルシーナはその
ヴィルシーナはゆっくりと外から前進する。すぐ右隣にはウマ娘が2人。キーとなるのはこの2人を如何にして活かすか。
自分以外の誰かを自分の意図する展開になるように誘導していくことはとても難しい。レース中に思考を回転させて策を練るのは至難の業。しかしヴィルシーナはそれを片手にレースをやってのけている。レースを走り慣れたからこそできる芸当と言えよう。
普通に考えて、横にいるこの2人は包囲網を作りにかかる可能性は低い。前を走るウマ娘同様に関わることは無いだろう。
先頭を走るウマ娘対し、ヴィルシーナと横にいる2人の足音を少しずつプレッシャーとして与えていく。
ウマ娘は耳が良い。故に、レース中の足音はどう頑張っても耳に届く。だからこそ、ヴィルシーナは
どの位置にいるのか、何人いるのか。聴覚を研ぎ澄ませて情報を探る。後ろを安易に振り向けない先頭だからこそ、最も重要な情報源は聴覚からの情報。
だが、音による圧をかけるだけではそこまでだ。情報を精査されれば驚異が迫る程度の事でしかない。
しかし、どうにも先頭のウマ娘の内心は穏やかではなかった。表情には焦りが見えるし、異常に額を汗が伝う。
ヴィルシーナが与えているのは
GIレースと言っても、クラシック級の初戦。ジュニア級でもGIレースはあったとはいえ、ここまで来るウマ娘達の平均出走レースは多くても5レース。このレースに出走したウマ娘の中で、最もレース経験があるのはヴィルシーナである。何故10戦も挟んだのか。それは、全てはヴィルシーナの今後必ず役に立つであろうと
ヴィルシーナは、先程よりもより強いプレッシャーをかける。少しずつジリジリ近付き、先頭を走るウマ娘に
(━━━━━は、なに……これっ)
異様な雰囲気を、先頭のウマ娘は感じとっているだろう。表情に少しずつ曇りが見えてくる。後ろから早くも迫る
先頭のウマ娘は少しずつその圧によって掛かっていく。冷静な判断が出来なくなっていく。
まだ中間にも達していない時点で抜かされるのは先頭を走るウマ娘にとって自分が不利になることであるとわかっている。しかし、今の先頭を走るウマ娘にとって、自分が抜かされること=恐ろしい何かと認識し始めていた。前者だけであるなら、正直無視出来る思考である。前に出られても、その後ろに入ってスリップストリームを仕掛ければ問題は無い。末脚が発揮出来なくとも、スタミナの温存は確実だ。せっかく前どった位置取りではあるものの、足を残せば最終直線はまだどうにかできる。
しかし、後者の思考が正常な判断力を鈍らせる。少しずつ募る恐怖心が、ただの憶測だけで払拭出来ない不安感が次第次第に込み上げてくる。
故に、そのウマ娘が速度を上げていくのは必然であった。
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「━━━━━成程、
その指摘に、
「レースは実力が全て。走ること、位置取りのタイミング、環境把握の広い視野。そして全ての状況において揺るぎない決断出来る心。全てにおいて完璧なウマ娘なんてそうそういないが、こんなもん時間とトレーニングを掛ければ一定以上は磨かれる。本人の努力次第で差はできるだろうが、少なくともジュニア級のウマ娘とシニア級のウマ娘とじゃその部分が違うのはその差だわな」
走る。それは総合的にいえばウマ娘の筋力、体力と言ったステータスの話。
速く走れるようになるには、身体を鍛え、体力をつける。時間とトレーニングを積み重ねる事でそれはどんどん成果として蓄積される。
位置取りのタイミング。それは言ってしまえば判断力。状況を瞬時に察知し、自分が最も最善であると思う手を打つ。経験の積み重ねによって、これもどんどん磨かれていく。
広い視野。判断力とは違い、こちらは観察力。見えない死角も五感を使って察知。自分の視界には映らない場所をも見通すこと。集中力が研ぎ澄まされることによって、これは次第に磨かれていくだろう。
決断出来る心。判断出来た所で、じゃあどうするかなんて悠長に考えていられるほど、レースの展開は遅くない。判断し、状況を瞬時に理解し、決断する。その工程が瞬時に出来なければ、一瞬で他のウマ娘に置いていかれる。判断ミスでは無い、自分の決断が遅かったからなんて、そんな後味の悪い後悔だけが残る。例え間違いだとしても、自分の中ではっきりさせなければ一歩先の動き等出来ないだろう。
どれも時間とトレーニングによって成長していく。日々の積み重ねによって、それは己の武器として開花していく。
「……だが、時たま。天性の才によって齎された
安国トレーナーはヴィルシーナを見つめる。
昔はパッとしないウマ娘ではあった。空回り気味に何でもかんでも頑張ろうとするウマ娘。
それがどうだ。安国トレーナーは自分の目を疑った。長年見てきても、ヴィルシーナの
安国トレーナーは天を仰ぐ。初めて、自分の弟子に嫉妬してしまった。
「……おめぇ、最初から分かってたってことか?」
「……そんなわけないじゃないですか。俺だって、まさか
「……けっ、どうだか。長年見てきたが、おめぇ程心を読みにくいやつはいねぇよ。知っててかどうかは知らねぇが、ジュニア級で11戦もやらす阿呆と思ったが……」
「走らせたのは本当にシーナに必要だと思ったからですよ。ジェンティルに対して対抗心を燃やす彼女にとって、力だけじゃ勝てないのは明白だった。だから、俺は多少無茶をしてでもあの子にレースを走らせて感覚を
「……だがヴィルシーナはまだ
今回のヴィルシーナは出走ウマ娘達の中ではまだ一番注目されているわけではない。警戒態勢の注意人物ではあるとはいえ、このレースにおいてはもっと根本的に注目しなければいけない相手がいる。
故にヴィルシーナが目立っている訳ではなく、あくまでも警戒しなければならない一出走ウマ娘の一人。目の離せない注目して警戒すべき相手とは訳が違う。
だからこそ、今回のレースではヴィルシーナは
安国トレーナーの脳裏に浮かぶ懐かしい光景。
自分では見つけられなかった怪物級が、再び目の前に現れた。
何処か遠い目をした安国トレーナーは、懐かしい様に少しだけ微笑む。
「……
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かの
彼女の眠る闘争心を周囲に撒き散らして威圧し、自分の有利な展開に誘導する。時に動きで、時に視線で。意図せず存在感を醸し出すシンボリルドルフは、レースを走るウマ娘達にとっては注目せざる負えない相手であった。
故に、否応にもシンボリルドルフの掌の上で転がされてしまった。それが最強伝説の証明。無敗の三冠、GI7勝を掲げた日本ウマ娘界の頂点である。
ヴィルシーナの作戦の発端も、言ってしまえばシンボリルドルフと同じことが出来るから、と言えるだろう。威圧して判断を鈍らせ、自分の有利な状況を作り出す。
しかし違う事はヴィルシーナがシンボリルドルフ程注目されていない点と、シンボリルドルフの様にその存在感を示していない事。何よりも、ヴィルシーナは自身にそんな力が備わっている事を
今回のレース、一番注目されているのはジェンティルだ。故に、ウマ娘達の意識は後ろに向いている。18番もこのプレッシャーはジェンティルから来るものであると思っている。
ヴィルシーナはそんな状況だからこそ、周囲に溶け込んでジェンティルの存在感を利用した。虎の威を借る狐、ジェンティルに紛れ込むことで注意をジェンティルに反らせたまま、ヴィルシーナは作戦を遂行する事が出来ている。
そしてそんな作戦の幕開けとも呼べる現状、ヴィルシーナは速度を上げた先頭のウマ娘に思わずほくそ笑んだ。
先ずは最初の餌が掛かった。マイル距離と言う一周約1分40秒弱の世界において、例えウマ娘の瞬足の足があろうと、何十秒と差をつけられた状態で走った所で末脚が輝こうが根性で粘ろうが、必ず勝てるという訳ではない。
故に、先頭のウマ娘がペースを上げるとその後ろにつけるウマ娘達は、先頭のウマ娘はまだ脚が残っており、
長い距離では無い今回のレース。ウマ娘達にとってはゴールは一瞬とも思える感覚。だからこそ、頭の片隅とは言え、長い思考は命取り。位置取り仕掛け時を間違えれば、間違いなく他のウマ娘のバ群に呑まれるのは目に見えていた。
何よりも、ジェンティルが後ろにいる以上、早めに前に出なければ他のウマ娘達とスパートタイミングが被ってしまう。
一番肝心なのは場所取り。そこだと思ったところに加速で入り込み、直線が見えた瞬間、トップスピードに乗っかる。
焦りに表情が歪んだ。後ろのウマ娘達はスパートのタイミングをどうするかが肝となる。自分のスタイル?脚の温存具合?警戒する相手から早く場所を取らなければ。
考える。考える。しかし、その思考は僅かだ。レース中に深く考え込むウマ娘はいない。レースにおいて重要なのは思考ではなく、判断力と決断力。瞬時に判断し、それを決断する心が重要。
焦っている間、まともな思考が出来るはずがない。刻刻と迫る
先頭がペースをあげたなら切り替える。そのままついて行くか、脚を溜めて最後に差し切るか。
先団を走っていた6、8番は18番の背を利用してスリップストリームも体制であった。故に、まだ離されまいとペースを上げる18番について行くために自然と速度を上げた。しかし、ウマ娘とて考える生き物。心理的に、前がペースを上げたのならば、何故ペースを上げたのか考えるのが普通である。
━━━━━ペースメーカーが速度を上げた。後ろもそれに合わせてついて行った。まだコーナーに差し掛かったばかり。なのに何故?スリップストリーム?考えてる余裕なんてない。上げたのなら少しずつ距離を詰めるのみ。離されちゃ勝てるレースも勝てない。まだ脚はある。外から回って早めに直線に向けるようにしなきゃ。坂道がバフになって少しスピードが出しやすい。ジェンティルドンナよりも前に出て進路を塞がなければやられるのはこっち。ジェンティルドンナよりも前に。簡単にやられたりなんてしない。これなら行ける。前に出る。これでいい。大丈夫。まだ大丈夫━━━━━。
現在縦長。1600mという距離で、先頭を走る18番との距離が離れるとなると、それより後ろにいるウマ娘達は二択の選択肢が突きつけられる。着いていくか、このままのペースか。
阪神競馬場のターフの特徴である灘らかなカーブ。下り坂という事もあって、速度は加速する一方。逃げる先頭は現在一人。ならば、彼女はなんの障害もなく自分のペースで走りきることが出来る。ヴィルシーナの誘導が、先頭を走る18番の少しペースを上げて差を広げて逃げ切る
全員ペースを上げ、少しでも離されないようにと速度を上げてコーナーに侵入していく。
こうしてやれば、後は狙い通りに動いてくれるはずだ。ヴィルシーナはそう確信した。
実力で全てをねじ伏せるジェンティルに対して、ヴィルシーナは力と知恵を携える。
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後方につけるジェンティルは、先頭集団が速度を上げたことにすぐに気がついた。自分の
そしてその原因もすぐに見つけることとなる。
しかし、内心はとても冷ややかであった。
(━━━━━
ジェンティルの疑問も後ろに、ヴィルシーナの策がゆっくりと動き出していく。
時間を正確に掴むためのトレーニング。所謂、体内時計を作るという事だ。
レースにはタイムが存在し、大体はそれを参照してレース運びをすることが出来る。特にペースメーカーとなる先頭を走るウマ娘にとってはそれは必要不可欠なものだ。
先頭を走るウマ娘の特徴として、馬群に囲まれるのが苦手であったり、差し足に自信が無いウマ娘が前を走ることが多い。単純に強いからいつの間にか前を走っていたなんて怪物の話もあるがそれは置いておいて。逃げの作戦をとるウマ娘にとって、ラップタイムと言うのは重要である。
ジェンティルは後ろから見ていて、ヴィルシーナが一体何をしようてしているのか、少しだがわかった気がしていた。
ヴィルシーナが行ったのはチクチク後ろから指で背中をつついて、集中力を切らさせる事。これに尽きる。
少々姑息な手なような気もするが、ヴィルシーナからすれば抜かそうと思ったら
ヴィルシーナもジェンティルも、体内時計誤差0.001秒という殆ど正確な時間を刻むことが出来る様になっており、日常生活でも時計要らずな生活をしている。
そして、一番の問題はヴィルシーナがこれを利用し何かを企てていること。それがジェンティルにどのような影響が出るか。
同じトレーニングをしたのであれば、当然タイムが狂っている事にも一瞬で気がつく。参考タイムは頭の中に入れこんであり、このレース展開の平均タイムを参照し、仕掛け所まで事前にイメージ済みである。飽くまでも参考程度であるため、ジェンティルもヴィルシーナもそれ通りに動くつもりは毛頭ないが、ヴィルシーナはジェンティルも参考程度には
(━━━━━8、9、10。ペースが早くなった。前半3ハロンも少し早いとは思いますが、コーナーに入ってからは更に早く?もうスパート?先頭の方は、かなりのハイペースを狙うのですわね)
(━━━━━或いは、そう動かされているか。本当に、
ジェンティル自身も動くかどうか。ヴィルシーナが何を狙っているのか、そこが気がかりではあるものの、予想としてはジェンティル自身の足を止める算段を立てているのではと仮定。
こうもジェンティルよりも前にいるウマ娘達の動きが大きい故に、ジェンティルの脚を使わせないという狙いは少しづつだが確信には変わりつつある。
しかしジェンティルはまだ
ただ冷たく、熱の帯びていない冷ややか緋色の瞳でレースを後ろから眺めているだけだった。
『第3コーナーに入って前半3ハロンは
焦ってペースを上げたせいで後半に貯めるはずの足を少しずつ削ってしまった先頭のウマ娘。ここで速度をこの際上げるか下げるかの二択が彼女を襲う。
迫る後続。中間手前で抜かされるのは悪手でもある。逃げをとった時点で末脚が残っている可能性は低い。しかし、今更速度を落とす事など出来ない。
18番の耳に届く足音。少しずつコーナーの出口付近に近付くに連れて耳に届く芝を蹴りあげる轟音が次第に大きくなっていく。
「━━━━━っ」
最早考えている暇はなかった。焦る心に形振り構っていられない。
そのまま速度を上げて逃げる事も可能ではあっただろうが、既に真後ろに序盤から引っ付いている2人のウマ娘を引き離すことは出来ない。
18番は、もう後がない。ペースを上げたことで予定よりも足が削られた。しかしまだ気合と根性で抜かれないようペースを落とさず走る。
しかし、思ってるよりも速度は上がらない。最早気力だけで走る彼女には、速度を上げる加速と体力が足りなかった。
ラスト3ハロンを示す600メートルの看板が目に入った。ドンピシャでトップスピードで走れるように、先団にいる6番8番は加速に入ろうとする。しかし速度を上げようとしていた所で、18番の速度がまるで逆に
18番に最早スパートをかける脚は無い。しかし後ろで加速に入ろうとするウマ娘達は、前も速度を上げると言う前提として動こうとしているわけで。
6番8番の加速体勢に対して18番の変わらないスピードに、失速したのだと誤認するのはレース中としては
(━━━━━いきなりペースダウンっ!?足に不調っ!?)
(━━━━━下手っぴなレースしてんじゃねぇぞっ!!)
急激なブレーキによって、二人のリズムは崩された。18番を躱すべく外を回ろうとするも、そこには
6番と8番が18番とヴィルシーナを躱して前に躍り出るには、更に外から回らなければならない。しかし、それでは加速が間に合わなくなる。トップスピードになる時間が足りなくなるので、最後の直線では思うように末脚を発揮出来なくなる。
そして、外に持ち出すのならば、ヴィルシーナの後ろを走らなければならない。そうなれば、今の位置からして加速しながら抜けることは出来ない。
減速しなければ。2人はそう判断した。
減速しなければならないという事実が、まるで鉛の重りのように6番と8番の心にズシンと乗っかった。
何とか、外に持ち出そうと少し速度を落とし、2人は自然と
18番と6番、8番、ヴィルシーナがそのまま横並びで展開すると思った。しかし、結果は18番の速度が伸びず、ヴィルシーナに蓋をされて抜け出せなくなった6番と8番が抜け出すために減速して外に位置を変えてきた。
これによって外を走って前を狙っていた中団のウマ娘たちはペースダウン。斜行では無いものの、そのままスピードを上げればぶつかる可能性もある進路であった。
ペースダウンした影響が中団を通して後続にも伝わる。先頭に迫っていた中団付近のウマ娘達が自然と距離が詰まった事で逃げるスペースをみつけようと若干速度を落とす。しかし、速度を落とすのは1人ではなく中団にいる3人4人のウマ娘達だ。その後ろ、後方から進出してきたウマ娘達にとっては、唯一の逃げ道が内か外かの選択肢しか無くなる。現在コーナーを回っているこの状況で、下手に外から上がろうとするのは自殺行為にも等しい。緩やかな曲線の阪神競バ場ではあるものの、遠心力に任せて体を振られればスタミナの消費は激しくなる。
しかし内に残れば間違いなく抜け出せない。バ群に埋もれるのは目に見えていた。自ずと、内か外かという二択は、勝利を望むのであれば外という選択肢しか取れない。
トップスピードになりつつある自分の速度を下手に落とす事は自分の脚を潰すことと等しい。しかし、更にその外を回ることは得策では無い。自然と、その場から動くことが出来ず、後方のウマ娘達も速度を一瞬落とす事となった。
これにより、ヴィルシーナの考えていた包囲網が完成した。
何も包囲網は四方を囲むだけではない。後退出来ないレースだからこそ、塞ぐのは前と横。右側は内ラチがあるので、残すのは前と左側。しかし左側に出てもカーブを曲がっている間は大回りとなる。
結果として、前に行き場所を失ったウマ娘を置けば、自然とジェンティルの包囲網は出来上がってしまった。
ジェンティルの目の前には、その影響でほぼ
ジェンティルはジッと、目の前に現れた
(━━━━━成程、小細工ですわね。ラップタイムを参照に他のウマ娘達が私よりも前に出ようとする展開を考慮して、先頭集団の機能を麻痺させる。それによって錯覚した中団のウマ娘が速度を上げようとしたところで、先頭集団の機能が崩壊。逃げ場を求めて外に動いた先頭集団のウマ娘が今度は中団のウマ娘達の機能を封じてきた。それが更に後方にいる私達にも影響を及ぼしている)
それは中団と後方付近を走るジェンティルにとって絶対に無視出来ないものであった。前方には6人のウマ娘がほぼ横並びでコーナーを回っている。逃げるスペースを確保する為に中団のウマ娘達が自然と外側に持ち出したのだ。これによってコーナーを回りきるまではジェンティルの視界の先に道が出来る可能性が低くなる。
そして、想定ラップタイムを刻んでいたジェンティルにとって、早め予定していた加速のタイミングと位置取りの両立が出来なくなった。ヴィルシーナが狙っていたのは、まさにこれである。
集団の早い遅いを加味しても、抜け出して末脚を使うタイミングはレース場の特徴もあって、ラップタイムをベースとしたタイミングを見計らっていた。時間は狂っていない。狂ったのは位置取りと末脚への入り方。後方でレースをしたのが初めて裏目に出たと、ジェンティルは理解してしまった。
予定通りラップタイムを参照したペースで今からペースを上げるか。そうなると、この壁となるウマ娘達の大外を回らなければならない。緩やかな曲線カーブである第4コーナー出口、今から外からぶん回して前方進出しようとしても、明らかに足が残らない。遠心力によって外に身体を振られてしまう。
そして、速度を落としたバ群の隣。唯一その影響を受けなかったヴィルシーナがゆっくりと先頭のウマ娘の前に飛び出した。
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『ここで外からヴィルシーナ距離を縮めていく。後続も続いて外に拡がり出した!!後半3ハロン600メートル手前、ウマ娘達の動きが激しくなる!!』
ヴィルシーナが前に出た事で中団のウマ娘達もその道を辿ろうとする。そうすれば更にバ群は横一列に広がる形となっていく。
ジェンティルの位置から、先頭を見据える事は出来なくなった。外を走り、前は横一列にウマ娘のバ群。横には内側を詰めるようにウマ娘のバ群。ジェンティルの脚を止めさせる包囲網が完成していた。
(━━━━━ごめんなさいジェンティルさん。でも、貴方に勝つには私はどんな手でも使ってみせる。私の力量では真っ向勝負で貴方に勝つ事なんて出来ない。でも、
(━━━━━何よりも)
「━━━━━あの人は、絶対に渡さない!!」
ヴィルシーナの瞳の奥に、碧い炎が燃え上がる。ヴィルシーナの闘志が、今ここに解き放たれた。
━━━━━━━━━━━━━━━
『さぁ最終3ハロンを超えて横に広がった第4コーナー終わりっ。先頭躍り出たヴィルシーナ!!18番苦しいかっ、6番8番追い縋る!!外から外から大きく回って14番が上がってきた!!その内3番の追い上げ!!最後の直線下り坂を降りてウマ娘達はトップスピード!!』
ジェンティルは少しずつ離れていくヴィルシーナの背中を見た。少しずつ離れていく青い姿。その背中はジェンティルに勝つという強い意志を背負っている。それが、ジェンティルにとっては堪らなく
ジェンティルに対抗心を燃やし、ジェンティルに噛み付いてトレーニングに打ち込んでいたヴィルシーナ。
ヴィルシーナ本人は、ジェンティルに一度足りとも勝てた事がないと思っているが、ジェンティルはそう思っていない。ジェンティルにとって、ヴィルシーナは屈辱的な敗北を味あわせて来た憎き相手なのだ。
ジェンティルは正直な話ヴィルシーナの事を鬱陶しいと思っている。
突然
ジェンティルにとって、ヴィルシーナとは腹立たしい有象無象の一人であった。
故に、そんな有象無象に負ける事は、ジェンティルにとって筆舌に尽くし難い事態である。
ジェンティルは前を見た。ウマ娘達が広がる視界。どこを見ても隙間なぞあるわけが無い。
前は塞がれた。内側のウマ娘も既に速度を上げて外に道を作って加速していく。しかしジェンティルは未だにその体勢に入っていなかった。
既に最後方のウマ娘ですらジェンティルの前にいる。ジェンティルは現在最下位の順位となっていた。
(━━━━━貴方の掌で踊らされるなんて、なんて屈辱なのかしら。こんな卑劣で姑息な手しか使えない輩に、
ジェンティルは
ならば、ヴィルシーナに届き得る場所を走るだけだ。
ジェンティルの瞳がここに来て初めて、赤く燃え上がる貪欲な勝利への闘志を熱く宿らせる。
(━━━━━作戦的には認めましょう。ですが、姑息故に詰めが甘かったですわね。あと少し、せめて後半3ハロンを超えるまで先頭の方の頭を押さえ込んでいれば)
グッとジェンティルの体勢が
(━━━━━
瞬間、一筋の細い道がジェンティルの前に現れる。
第4コーナー出口。その最短ルート。先頭を奪われた18番の右隣。坂の傾斜よし、溜め込みよし。狙い、定めて。
(━━━━━そのゴールは)
バァンッ。
芝がめくれ上がり、ジェンティルの身体が一気に前に飛び出す。
「━━━━
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その弾ける音をヴィルシーナも聞いた。しかし振り返る事はしない。些細な小細工で止められるわけが無いと思っていたからだ。
最内が空いたのは想定済み。なんなら、少しの隙間でも一瞬で入り込んで瞬間移動地味たことをしてくる事ぐらい予想していた。
欲を言えば、もう少し横長の展開で18番が最内を完全に蓋してくれていれば、とは思うが。
しかしだからといって、ヴィルシーナは驚くことは無い。ジェンティルであるならば当然してくるという当たり前として受け止めていたからだ。
『第4コーナー抜けて直線コース!!最後方から最内っ、最内から飛んできたジェンティルドンナァ!!外に持ち出したウマ娘達とは真逆に最内を狙って直線コースに入った!!』
実況の声が聞こえた。ヴィルシーナにとってそれで十分である。
(━━━━━弱気になるなヴィルシーナ!!前だけ見ろヴィルシーナ!!あの人に勝つんでしょ!!トレーナーさんの隣に立ちたいんでしょ!!だったらっ、最後の力振り絞ってでもっ!!脚を止めるな!!)
我武者羅に走るヴィルシーナは、自分に喝を入れる。下り坂が終われば、ゴール手間に上り坂が来る。
それまでにもっとスピードを上げ、その反動で登りきらなければジェンティルに追いつかれる可能性が十分ある。
歯を食いしばる。眉間に皺がよる。全身が発熱する。芝を蹴りあげる足裏に力が入る。
「━━━━━勝負!!」
ヴィルシーナの踏み込みがより深く芝に踏み込まれる。碧い輝きを宿したヴィルシーナが最後の直線を駈ける。その姿はまさに彗星。儚さと尊さを宿した一瞬の煌めきの流星の如く。しかしそれとは裏腹に、その熱量は己の欲望を糧とし燃ゆる魂の熱。
最大限加速に持ち込み、残りの直線。ゴール手前までの下り坂でこのままのスピードをキープしなければ、後方からグングン伸びてくるジェンティルには敵わない。
『ヴィルシーナ加速!!ヴィルシーナ逃げる!!ゴール手前までの傾斜で更に速度が上がる上がる!!後続厳しいか!?18番ここで垂れていく!!外から5番、7番が追い上げ!!最内ッ!!最内ジェンティル!!早い早い!!内から最後方の位置からごぼう抜き!!』
轟音の様な足音。ヴィルシーナの踏み込む足音よりもより大きな恐怖の象徴。だが、ヴィルシーナには関係ない。力を振り絞り、息を乱しながら、それでも脚を前に出すことは躊躇わない。
姿勢を落とし、より深く、より大きく地面をかく。肺がグッと縮まった様な気がした。呼吸しずらくなった。それでも、呼吸が浅くなろうと短い呼吸を繰り返して対応を図る。
(━━━━━まだっ、まだっ。上り勾配まで後少しっ)
耳に轟く轟音。次第に近付いてくる。まだ伸ばす。まだ速度を出さなければ。
出なければ坂途中で問答無用で食いちぎられる。
ヴィルシーナはこれ以上無いぐらい必死な形相だ。普段は絶対に見せない破面した表情で、歯を食いしばって走った。
観客の歓声が耳に届かない。届くのは後ろから来る巨大な足音だけ。
ヴィルシーナはこのレース、集中力が常に研ぎ澄まされていた。故に、集中力は既に限界を迎えている。
圧をかけ、他のウマ娘を誘導し、自分の位置取りの為に少し大雑把に脚を使った。
体力だってそう残っている訳ではない。GIIGIIIの重賞とは訳が違う。世代の頂点が集まるGIレース。そんな中で自分の策を立てるために感覚を研ぎ澄ませ、集中力を切らさずにここまで走ってきたのだ。周りのウマ娘以上に、ヴィルシーナは疲労困憊であった。
次第にクリアになっていく視界。遠のいていくゴール板。浅く続けた呼吸音が鮮明に聞こえ出す。
ヴィルシーナの思考が真っ白になる。何も考えられず、何をやっているのか分からなくなる。ただ、ずっと必死に脚を前に出す。早く走る。何故早く走るのか?
ふわふわとした感覚が頭に広がる。浅い呼吸の影響で酸素が頭に回りにくい。手足の感覚が無くなってきた。段々視界もぼやけてくる。
私は何をしている?何していたんだっけ?なんで私は、こんな所にいる?
真っ白だった。何も無かった。何故こんな所で走っているのか分からなかった。
色褪せていく身体。それでもまだ、心の底から湧き上がる走りを止めるなと言う思いだけは色褪せなかった。
脚を止めたい。止めてみたい。そうすれば何故だか理由が分かる気がした。そうすれば、このもやもやも解決するのではと思った。
それでも足は止められない。走りは止められない。何故だか、ここでやめたら絶対に負けると言われているような気持ちになったから。
しかし、耳に届く声があった。
━━━━━ッ!!
聞こえる。
━━━━━ッ!!
聞こえる。
━━━━━ッ!!
声が、聞こえる。
━━━━━ナッ!!
声が聞こえる。
━━━━シーナッ!!
声が聞こえてくる。
━━━れシーナッ!!
声が届く。
━━ばれシーナッ!!
声が、届いた。
━━━━━頑張れシーナッ!!
(━━━━━トレーナーさんッ!!)
世界が青色に染った。真っ白な世界が、ヴィルシーナを中心に蒼く青く染まっていく。
ヴィルシーナは思い出す。ヴィルシーナは考え出す。
ヴィルシーナにとってこの世界は己の精神世界。己の心を形にし、自分の中で最適な世界を作る。己の願いを、悲願を、強い願いを、固有結界として想像する。
青い。何処までも青い。しかし、その青さは冷たさを孕んでいない。抱くのは信念。強い信念。蒼を糧とし、己の魂に燃焼の炎を灯す。
ヴィルシーナの目の前に広がるのは
あれが始まり。あそこから、ヴィルシーナと
(━━━━━そうよ、ヴィルシーナ。貴方はどうしてトレーナーさんと一緒にいたいの?どうしてトレーナーを選んだの?態々頭を下げてまでトレーナーさんの担当にしてもらうように取り計らって貰ったのはどうして?)
消えそうだった。儚げだった。
自分の事を語っている筈なのに、そこに自分がまるで存在していない様な、薄っぺらい表情だった。
それでも、胡散臭いという印象では無く、ヴィルシーナはその顔を見る度胸が苦しくなり、とてつもなく可哀想だと思ってしまった。
(━━━━━あの人を心の底から喜ばせたいのではなかったの?あの人の笑顔に色を付けたいのではなかったの?あの人が自分に自信を持てるようにするのではなかったの?)
どうしようもなく、姿の見えない誰かに付き従う痛々しく見える
ヴィルシーナに指導しているのに、視線の先にはヴィルシーナ以外の誰かが何時もいた。
腹立たしかった。むかっ腹が立った。
(━━━━━貴方の瞳に映るのは誰?
巫山戯るな。そんなこと許されていいはずがない。
(━━━━━そう。そうだ。私は━━━━━)
(━━━━━ジェンティルさんの事が、
気が付けば後は簡単だ。どうしようもなくて笑えてくる。こんな単純なことだったのだ。無意識に自分の気持ちに蓋をして、自分の気持ちに正直になれなかった。
当然だ。誰かを嫌うことなんて、あってはならない。苦手だなと思うことだってあるけれど、万人がそれを受け入れることなどできないことをヴィルシーナは知っている。だから、その気持ちが嫌悪感を示していると知ってはいても、誰もが当たり前に抱いて、それを分かっているからこそ気にしていないのだと無意識にそう思っていた。
けど違う。これは無意識に追いやっていい感情では無い。
優等生だから、こんな感情を持っちゃダメなんて、誰にも言われないし決められてもいない。ずっと、ヴィルシーナは真面目に生きてきた。だからこそ、誰かを嫌いになるのはダメなことであると意識して思ってはいけないと思い込んでいた。
だけど、それはもう終わり。ヴィルシーナは気持ちに気がついた。当たり前が、当たり前では無いのだと初めて気がついた。
その気付きは、心の炎をさらに燃やしていく。大きく、大きく燃ゆる魂の燃焼。フツフツとヴィルシーナの心の奥底から湧き上がってくる気持ちの昂りが、ヴィルシーナの気分を高めていく。
(━━━━━ジェンティルさん。私は貴方が嫌いです。トレーナーさんの一番を自称する貴方のことが。トレーナーさんに愛されてる貴方が。トレーナーさんの愛を受けている貴方が)
ここから始めよう。まずは、挑戦状を叩き付けるところから。
レース中だとか関係無い。ヴィルシーナは今、全身全霊を持って、この気持ちをジェンティルに叩きつけたい気持ちだった。
(━━━━━だから、これが貴女への挑戦状━━━━━)
「━━━━━ジェンティルドンナァァァァッ!!!!」
(━━━━━来てみなさいよジェンティルドンナ!!)
(━━━━━ジェンティルドンナなら、
「━━━━━来い!!!!!」
息絶え絶えな中、ヴィルシーナの轟く叫びがターフに響き渡った。
(━━━━━私はそう簡単にッ、
ラスト約300mの直線。
ヴィルシーナの挑戦が始まった。
モブウマ娘達「「「━━━━━包囲網、しくぅー?しいちゃうー?前でーちゃおっかなー?」」」
モブちゃん達「「「━━━━━うごごっ、なんか思ったレースできないよぉ!!」」」
ヴィルシーナ「狙い通りね。だいちゅきなあの人と考えた作戦なのっ、だからみんな協力して!!(催眠!!)」
ジェンティル(……キスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキス………)