他の作品を進めるために少々更新を止めていました。
エタることはないと思いますのでご安心を。
では、どうぞ。
雪がしんしんと降っている。
ここは新潟県と福島県の県境付近にある越後山脈、守門岳の中腹にある小さな宿だ。
「雪、降り止まないかなぁ……」
縁側で絣の和服を着た槭は暗灰色の空を見上げ、白い息を吐く。
昨日から降り始めた雪いつの間にか吹雪に変わり、この宿にいる者を帰させないと言わんばかりに止むことを知らない。
「……槭、お客様のお食事を運ぶのを手伝ってくれる?
雪が止まないから、帰れない人がいてね」
襖を開け、矢絣の柄の銘仙を着た槭の母が顔を出す。
「……はぁい」
面倒くさそうな顔をして槭はゆっくりと立ち上がる。
縁側の板は氷のように冷たくなっていた。
座布団に座っていた槭は、足裏に直接伝わってくる冷たさに思わず体を震わせる。
そのまま急足で台所に向かうと、盆に茶碗などを載せている母がいた。
「槭、お客様がいらっしゃるのだから、走るのはやめてちょうだい。
それと、今準備しているから、運ぶのお願いね」
「わかったよ。
………父さんと兄さんは?」
槭には猟師の父と大学生の兄がいる。
二人は今朝、休みの日だからと言って麓の街に買い物に行った。
槭の質問に母は窓から見える外のを確認しながら答える。
「この降り方だと山を登るのは危ないからねぇ……
明日ぐらいに帰ってくるんじゃない?」
「そっかぁ……
大判焼き、食べたかったなぁ」
雪が降っていなかったら今頃は大判焼きを食べれていた、と思うと気分が沈んでいく。
そんな槭を見て、母は肩をすくめると飴玉を彼女の口に入れた。
「……ん!飴だ!」
「ほら、これでも舐めて元気出しな」
「うん!それじゃ、届けてくるね」
一瞬にして上機嫌になった槭は食事が載った盆を持つと台所を後にした。
先程の床の冷たさを忘れて槭は鼻歌を歌いながら廊下を進む。
「お休み中失礼します。お食事をお届けに参りましたー!」
「おぉっ!元気なお嬢ちゃんだねぇ」
ノックもせずに部屋に入る、と言う失礼な行動をする槭。
しかし意外にも宿泊客の老人夫婦は満面の笑みで迎えてくれた。
「廊下は寒くて床は冷たいのに、お利口さんだねぇ
今日のお夕飯は何かな?」
「このぐらいへっちゃらです!
夕飯は山菜の味噌汁と炊き込みご飯、えーっと、なんて言う魚だろう……魚の塩焼きです!」
「この時期だと、
……そうだそうだ、お嬢ちゃん、お母さんにこの事を伝えといてくれるかな?」
「どんな事ですか?」
老紳士は槭に手招きをすると、彼女を座らせる。
「何日か前に二つ隣の山で熊が出たらしくてね。
警察も見回りをしているらしいけど、暗い時間は注意してほしいんだ」
「熊、ですか…?」
「そう、まだ誰も怪我はしていないそうだけど、お嬢ちゃんも気をつけるようにね」
わかりました!と元気よく槭は返事をすると、一礼し、部屋を出ていく。
そのままぺたぺたと裸足で廊下を歩いていると、違和感を感じた。
(何か寒いなぁ……ん?風が吹いてる?お客さんでも来たのかな)
そう考えながら廊下を曲がると、玄関の戸が開いていることに気づいた。
外はここからでも風の音が聞こえ、一歩先すら見えなさそうなぐらい白くなっている。
「さむっ!母さーん、玄関閉め忘れてるよー」
返事は無い。
槭はため息をつくと、身を縮こませながら進み、戸を閉める。
服についた雪を払いながら母を探しに台所に向かおうとしたその時、床が軋む音がした。
「……ひぃっ!な、何!?」
恐る恐る音のした方向を向く。
槭の視界にまず入ったのは全身を黒い毛で覆われた巨体。
それだけでわかった。
「熊ぁ!?」
そこにいたのは、先程に老紳士が話した熊だった。
「熊だぁぁ!!」
槭は思いっきり布団から跳ね起きる。
その瞬間に頬に激痛が走った。
「誰が熊だ、この野郎!派手に寝ぼけてるんじゃねぇ!」
「しっ、師匠!?……
彼女の頬をつねっていたのは宇髄 天元、彼女の師匠だった。
彼は額に青筋を立て、物凄い形相で槭を睨みつけている。
「なかなか起きねぇと思ってこっちは派手に心配してやったのに、起きた瞬間に
この俺を熊呼びだと!?」
「ひっ、
「………そうか、」
家族、と言う単語に宇髄は反応し、ぱっと手を離す。
槭は涙目で赤くなった頬をしばらくさすっていた。
「……今度、墓参りでも行くか?」
「えっ、あ、行きたいですけど、師匠?どうしましたか?」
「いや、大丈夫だ。なんでもない。それよりも……」
天元は軽く咳払いをすると、槭の鎹鴉である
霙は他の鴉に比べて一回りほど小さく、自由な性格と合わせてすぐにどっかに行ってしまう。
そして、任務の内容以外は全くと言っていいほど話さない。
槭が任務に向かう際に迷子になる原因のほとんどがこいつである。
「お前に任務が来ていたんだ。最近、地味に隊士が足りなくなっているらしいからな。
任務が頻繁にくるんだと」
槭が躊躇いがちに声をかける。
「お、おはよう、霙。私に任務が来てるって聞いたんだけど……教えてくれるかな…?」
「……………。」
「……み、霙?」
「………巡回任務ダヨ。隊士一名ヲ率イテ、京都ノ町に向カッテ」
「どっ、どの町…?隊士って誰…?」
大雑把な説明を理解できない槭は聞き返す。
霙はただ冷たい目で槭を見つめていた。
「む、無視しないで教えてよぉ……」
「……………。」
「し、師匠ぉ……」
半泣きになりそうな槭は天元と霙を目で交互に見続ける。
流石に可哀想と感じたのか、彼は口を開いた。
「……ほら、霙。そんな地味じゃなくて、もっとド派手に内容を伝えないか?
流石に情報が少なすぎるぞ」
「……………。」パタパタパタ…
「ちょっ、おい!逃げんな地味鴉がぁ!」
その後、槭が任務に行った後に霙は帰ったきた。
冬の山道は寒さが段違いだ。
冷たい風が首元から体温を奪っていく。
「……ふぅ、寒いなあ」
水の呼吸の隊士の村田はとある場所に向かっていた。
(最近は一人での任務が多かったから、強い人について行くのはいいけど、)
「なんで音柱の継子なんだよぉ!」
そう、その継子が待っていると思われる集合場所に向かっているのだ。
〜遡ること三日前〜
「肆ノ型、打ち潮!」
少し薄いが水をまとった一撃が鬼の首を切り落とす。
「おのれ鬼狩りめぇ………」
そう言い残して鬼は消えていった。
ふぅ、と村田は一息ついて刀を鞘にしまう。
ちょうどその時に朝日が顔を出し始めた。
「よしっ、鬼もちゃんと消えたし、報告頼んだ!」
「村田、新シイ任務ガ入ッタゾ!」
「ええっ!?またかよ!連続は勘弁してくれよぉ……」
「最近ハ隊士ガ少ナイ。ツベコベ言ワズニ行ケェ!」
「わかった!わかったから!突くな!」
さすがに減給や降格は避けたいので渋々鴉の進む後を走って追いかける。
しっかりとついてくるのを確認した鴉は速度を下げて村田に合わせた。
「……次もまた一人の任務か?」
「違ウ、階級ガ上ノ隊士二ツイテイケ!」
「本当か!?その隊士って誰かわかるか?」
「音柱ノ継子ォ!」
村田の足がピタッと止まった。
頭の中で他の隊士が言っていた音柱の情報を集めまくる。
「音柱って、あの派手で有名な?あの人の継子?」
「ソウダ!」
「絶対面倒じゃん!うるさそうだし!」
「案外ソウデモナイゾ?」
鴉は村田の肩に乗りながら言った。
「……?どう言うことだ?」
「会ッテミレバワカルサ」
そして、今に至る。
「えーっと、ここで合ってるんだよな…?」
とりあえず集合場所の神社に到着した。
一応集合時間よりも少し早く着いたのでまだ音柱の継子らしき人は見えない。
すぐそこに大きな街があるため、人通りは多かった。
「もうそろそろ時間なんだけど………」
階段を登って辺りを見回したが、派手な人物は見えない。
集合時間が過ぎてもその継子は一向に現れない。
「忘れてる?……いや、そんなことないはず――」
「……お、遅れました!えっと、あの、……ごっ、ごめんなさい!」
「…………へ?」
村田の口からどこまでも呆けた声が出る。
目の前にいるのは彼より背が低く、わたわたしている華奢な少女だ。
想像していた人物と全く違う。
気が弱そうな少女。
それが第一印象だった。
「……?どっ、どうかしましたか?」
「あっ、いえいえ、俺も今着いたので。
ところで……音柱様の継子さんであっていますよね?」
「そっ、そうです!日不見 さ、槭です。よっ、よろしくお願いします……」
「村田です。よろしくお願いします!」
「ひゃっ!?……あっ、こ、こちらこそ!」
(えっ、お、俺なんか怖い顔してる!?てか、頼りなそうなんだけど!)
村田の様子を伺う槭。
頼りない槭を見て任務に来たことを後悔する村田。
気まずい空気が二人の間に流れる。
周りを通り過ぎる人々は不審そうに見ていた。
「とっ、とりあえず移動しましょう。
槭さん、道分かりますか?」
村田の質問に周りをキョロキョロする槭。
少しすると申し訳なさそうに答えた。
「……す、すみません。私の鴉、案内をしないんです…」
「わかりました。じゃあ、俺についてきてください」
(俺、この任務で死ぬかも………)
村田の心は不安が渦を巻いていた。
読んでくださりありがとうございます。
引き続き不定期更新で進めていきますので、よろしくお願いします。
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