走狗   作:カストロ

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りんご

 俺が不在の間も呪文(スペル)カードを購入し続けていたようで、20枚ちょい集まったそうな。

 でも相変わらず同行(アカンパニー)交信(コンタクト)ばかりで、当たりと言えるのは擬態(トランスフォーム)の1枚だけだった。

 

 が、新たにチームミルキに加わったヤマイヌが、QOLを上げる系の指定ポケットカードは『ゲイン』済みのものばかりだったけど、呪文(スペル)カードをそれなりの枚数持っていたそうな。

 本人はすべて献上しようとしていたようだけど、それはさすがにゲーマーの矜持的に嫌がったミルキにより固辞され、ゲーム外のリアルマネーで買い取るという、がっつりとしたRMTで処理された模様。

 まあ、それでも一番欲していた聖騎士の首飾り量産へのコンボの要となる堕落(コラプション)をヤマイヌも所持していなかったので、まだまだ呪文(スペル)カードショップに執事らは張り込むことに。

 

 そんでもってよぉー、俺っていらなくね?

 

 そんな考えが頭に過らなかったと言えば嘘になる。

 だからソロで遊んでくるー! ってな主張はイルミの監視の下という条件付きではあるけどすんなり通った。

 まあプレイヤーとの接触が激増するらしいフェーズになる前には合流予定だけど、それまでは搭乗者(イルミ)とともに同行(アカンパニー)交信(コンタクト)を何枚か持って一路エピタフへ。

 

 65万もする地図によればエピタフとは死亡したプレイヤーの名のすべてが記載されている記銘碑がある町、というより場所である。

 マサドラより南、初期リスより更に南下して幾つかの町を通り過ぎるとエピタフがある。

 ここに向かう理由は当然カイトのことがあるからで、奴の安否をずっと頭の中で抱えているのは気持ち悪いからだ。

 

「急ぐの?」

『ベツニ?』

「そ」

 

 エピタフへの道のりを急ぐ必要はない。

 だってのに、ついつい全力以上の速さで走ろうとしてしまう。

 かと思えば、減速して自分を落ち着かせようなんてアホなことを考えて、そこらの岩を蹴っ飛ばしたりしてしまう。

 

 確認するだけだろ。何を気にしてんだよバーカ。

 

 そう思い直していつもの調子でエピタフへと向けて走る。

 名前なんてねえよ。確認して、ほら、なかったじゃん。それで終わり。

 だからこの後のフリータイムに何をするかを考える。

 あまり期待できないけどボスがいるっていうクエストやダンジョン攻略をするのもいいし、イルミを連れて競馬が開催されているという町へ向かうのも良い。

 

 そんなことを頭の中でぐるぐるさせていると、昼過ぎにはエピタフに到着した。

 

 エピタフ。その名を表すような巨大な記銘碑ってよりも墓標のようなオブジェクトは遠目からでも目立つ。

 島の天気は晴天だってのに、不思議と雨のニオイがして曖昧な感覚にさせてくる。

 柄にもなく大きく息を吐いて、墓標のような記銘碑の前へと立つと、頭上に居たはずのイルミがいつの間にか隣に立っていた。

 

 そこそこの数が並ぶプレイヤー名を上から順に確認していく。

 

 ふー。あの野郎め、心配掛けやがってからに。

 

 ᴥ

 

 何しようかしら。

 エピタフではさすがにマーキングする気が起きないし、他にすることもないので、とりあえずてくてくと適当に歩きながら考える。

 道中に考えていた候補は何故だかすべて吹き飛んでいるので、仕方なく頭の中に頑張って叩き込んだ島内のマップを参照するも──抜けがかなりあるものの、候補がいくつか浮かんでくる。

 北西方向へと向かえばギャンブル都市ドリアスがある。

 ギャンブル。すごく惹かれる。俺なら勝てるし。FXで鍛えた勝負勘を今こそ活かす時──。

 

 んでも懸念事項もあるし、まずは東へ向けて針路を取りつつ頭上の搭乗者に問うておく。

 

『オメー レンアイッテ ワカル?』

「仕組みは知ってる」

 

 はい? その返答は予想外。

 

『ホントー?』

「ウソ吐いてどうするのさ」

 

 それもそっか。

 

『ジャー レンアイトシ アイアイッテトコ イクゾー』

「どうして?」

『ミルキニ イカセルト マジーカラ』

 

 それはそれは拙い。

 

「どうして?」

『ソコッテ ギャルゲーヲ グゲンカ シテッカラ』

 

 何でも都市全体がギャルゲー空間になっているそうで、だからこそそんな場所にミルキを赴かせるのは拙い。

 ギャルゲーを当然履修している少年ミルキだけ(・・)ならまだ大丈夫だろうけど、夢見る少女のガラスのハートも持ち合わせている今のミルキは危険。

 男向けだけじゃなくて女向けのNPCもうようよと居るそうだから、ミルキが定住すると言い出す可能性がある。

 

「行ったことあるの?」

『ヤマイヌカラ キイタ』

「へェ……」

 

 これにはメガネ(ゴトー)も同意見だし、何ならミルキ本人も自覚があるのか、アイアイには近付かないようにする(・・)ではなくて、したい(・・・)と言っている程度には危機感を抱いている様子。

 まあ、グリードアイランドのNPCは全部見た目がリアル過ぎるから、そこまで心配する必要もないとは思うけど……恋愛都市アイアイって謳っているだけあって二次元に寄せたNPCも居るかもだし。

 

 それにレアなカードが入手できるってな情報がなきゃ俺も行きたくはない。断じてな。俺はギャルゲーよりエロゲー派だし。

 まあ、そんなわけでレアカードに釣られる形で恋愛都市アイアイを目指すことになった。

 

 アイアイへの道中は、小銭にしかならないランクD以下はスルーするけど、運よく遭遇できたランクBやCのモンスターは搭乗者のイルミに丸投げしつつ進む。

 念獣なモンスターに針を刺しても操れないので、周辺の石や木、時には葉なんかも操って手早く処理しているイルミの姿を見るに、こうして環境を武器にするのが操作系の最適解なんだろうってのがわかる。

 強化系が余計なことをせずにひたすらに肉体とオーラを練って纏めてペッタンして鍛えて、あとは全力でぶっ叩くのが王道なのと似ている。

 

 つーか嫉妬。

 

 俺って操作系のくせに自分以外を操作するのがいまだに苦手だし……ぐるるっ。

 だってのにイルミは自分自身もかなり操れるし、なんなら念無しでもある程度以上に肉体を変化させられるしで、ずるくね。

 それに天空闘技場でフロアマスターを目指していた頃に取り入れだした寝技に投げといったワザマエも磨き続けているようで、まだまだ細ェくせに彫刻を相手にパウンドの攻防をしっかりと行えているほど。

 

 だが、恋愛に関しては隔絶した技術差があるはず。

 

『トリマ ミニイベ イッパイ アルカラ ソレデ レンシューシテケ』

「練習? それってする必要あるの?」

『キソハ ダイジダロ』

「そ?」

『ウム』

 

 今回初狩りはしない。

 だって追いつかれる気がしないし。

 なのである程度、イルミの育成をしつつレアカードの奪取を目論んでいる。へっ。

 

『ンデ ヒメト カップルニ ナルノガ ゴール』

「姫?」

 

 本命のレアカードってのは、恋愛都市アイアイには大きな城があって、そこに住まう姫とカップルとなれたらゲットできるらしい。へっ。

 

「そもそもオマエは恋愛詳しいの?」

 

 聞こえなかったフリをして、いざアイアイ。

 

 ᴥ

 

 町歩き用に【シュリンクフレーション(カントリーマアム)】で体を縮め、イルミと連れだってアイアイを歩く。

 他の町に比べてここにはNPCがうようよいるようだけど、プレイヤーっぽいニオイと気配もかなり存在する。

 つっても都市に入ってすぐの場所にはプレイヤーはほとんど存在せず、大半が都市内の建物内に居るっぽい──ってなことを考えていると、NPCの少女が俺らの前で転んだ拍子にメガネを落っことした。

 

『オイ メガネ ヒロエ』

「どうして?」

 

 イルミが常からのぽけっとしたまますぐに動かなかったから、メガネをかけた少女NPCが「こいつハズレか」ってな表情を浮かべて去っていく。

 

『タブン ソレガ フラグ』

「フーン」

 

 もー、先が思いやられるぜ、へっ──と自尊心を満たしていると、イルミに対して正面衝突するコースを辿ってくる少女NPCが、イルミはサッと回避した。

 

『ブツカレヨ』

「フラグだから?」

 

 最悪避けるのはいいけど、一瞬殺そうとしたろ、お前。

 俺だから見逃さなかったけど、タックルを仕掛けて来ていた前傾姿勢の少女NPCの顔面に膝蹴りを合わせようと歩幅調整したろ。

 

『ソウ ンデ カイワガ ハッセイシタラ セイカイ エラブケイ ジャネ?』

「ヘェ」

 

 ま、この程度は序の口だろう。

 そして、俺のこの予想は大きく外れてはいないはずだ。

 

「離して! 大声出すわよ!」

「出すなら出せよ。誰も助けちゃくれないぜ」

 

 これは非常にわかりやすい。

 白昼堂々、ガタイの良い3人の男NPCが女NPCを取り囲んで、遊んでよー! と駄々をこねている。

 

『アレハ ワカルダロ?』

「女を助ける?」

『ソ イルミサン コラシメテ ヤリナサイ』

「ウン」

 

 後方水戸黄門スタイルを決め込む俺の前で、イルミさんが一切の無駄を排して女を取り囲む大小のハゲを瞬殺。

 次いで女の手を掴んで駄々をこねていた残る1人もサクッと片付けるその一連の流れには、まったく淀みが無い。

 それにしてもイルミが手早く心臓抜いていったけど、NPC相手にもちゃんと即死判定あるんだな。

 

「あ、ありがとう、ございます……た、助かりました」

 

 おや? 助けられた女NPCの様子が少しおかしい。どうして怖がるのか。

 

「──それではッ!」

 

 む? 礼を述べるだけ述べて走り去っていってしまった。

 

『ナニカ ミノガシタカ?』

「そうなの?」

『アア タブン?』

 

 マジで何がいけなかった?

 イルミさんは手早く駄々っ子どもを成敗したし、助けを求めていた女NPCも無傷だったはず。

 だってのにイルミさんに対して謎に怯え、逃げてしまう始末。

 

「やっと……やっと、帰ってきてくれたんだね──ごめん、ね。ぐすっ、あなたが帰ってきたら笑顔で迎えるって決めてたのに……」

 

 こちらのフィードバックをする暇すら与えないペースで間断なくイベントが挟まれてくる……ここは想定以上に忙しい場所であるらしい。

 ふん、だがこの程度であれば簡単。とにかく合わせることが正解。

 そして、地頭の良いイルミならばもう答えにたどり着いているはず。

 

「誰?」

 

 オイ。

 

『アワセロヨ バカ』

「ハ?」

「さよなら。やっぱりあんたは私のこと捨てたんだね──シネ」

 

 泣き腫らしていた顔を豹変させたNPCが、捨て台詞と唾まで吐いて立ち去っていく。

 その背には哀愁ではなく憎悪が宿っているようにも見え……これはまだイベントが継続中か?

 

「合わせるってどうすればよかったの?」

『ンー シランアイテヲ …… ホラ アレダヨ』

「アレ?」

 

 全然話したことがなくて、名前すら思い出せない、所属するサークルが同じだけっていう共通点くらいしかないのに、学年すら不明の奴に馴れ馴れしく話し掛けられた時の例のアレである。

 でもあの感覚を言語化して正しく伝えるのが難しい。なんだろう、わかりやすい例えを捻り出そうとして、過去の己の記憶のアーカイブを参照すべくエピソード系の棚を開けても乳に関するものばかりが出てくる。不具合かな?

 

「コラ! また遅刻する──」

「うるさいよオマエ。邪魔」

 

 ピィーッ! もー、懐かしさを覚える制服姿の少女NPCの心臓をサクッと抜くなよー。

 最後まで台詞聞けってば……んでも矢継ぎ早過ぎてだりーし、一旦NPCとの絡みを絶つか。

 

『ヤネノウエ イクゾ』

「オッケ」

 

 イルミと共にぴょいーんと跳んで、適当な家屋の屋根の上へ。

 わー、煙突だー! マーキングしとこ! ふぅ……。

 

「オマエならできるの?」

『フゥ ナニガ?』

「あのヘンな恋愛イベント」

 

 ハッハー! かくいう俺はヒトであった頃、母ちゃん以外からもバレンタインにチョコを貰えていた()でね。

 

『ハッ ヨユー』

「やってみせて」

 

 隔絶した差ってものを今度こそ見せてやろう。いざアイアイ。

 

 ᴥ

 

 見せられませんでしたぁ。

 

 何故かって? そりゃコッテコテのギャルゲー的展開のイベントが俺には発生しないというバグがあったからだよ!

 おかしいと思ってたんだよ。イルミと再び町中を歩いても俺にはNPCが誰も声掛けてこないし、ぶつかってもこなければ、頭上から水や植木鉢をぶちかましてもこないし。

 それらはすべてイルミにしか向かわないし、転校生扱いされたり、サボり中の新人アルバイター扱いをされるのもイルミだし。

 

 ま、手本を見せられないままなら、諦めて目的地へと向かうしかない。

 イルミに練習させてもダメそうだし、そもそもここには俺がクリアする前提で来たし……。

 とはいえ、無駄足になるのもだりーし、もうイルミをぶつけることになるけど城へ向けて、いざ。

 

 んでもって到着した城は、ファンタジーないかにもってな感じで、尖塔なんかがにょきにょきしていて、出入りするための門も城の規模に合わせて相応にデカい。

 門には当然のことに番が居て、案の定そこの門番をしている衛兵の女NPCに絡まれるイルミを横目に城の中のプレイヤーの存在を探る──よし、居ないな。

 

「黙れ。行かない」

「むむっ。それではまた明日来てくれ。待っているぞ」

「……」

 

 イルミは絡んでくる女NPCの心臓をいちいち抜くのを止め──抜いたら抜いたでリポップした同一NPCがまたすぐに絡んでくるから──言葉で制することを覚えた模様。

 さておき、目の前の城にはそのまま入城せずに踵を返して宿へと向かう。

 チェックインを済ませて部屋でぐでーんとしていたら、何やら隣室からタンスの中に潜んでいたらしいNPCとイルミが愛についてやり取りしている声が聞こえてくるが、俺には誰も干渉してこないので夜までひと眠りする。

 

 夜、やや機嫌が悪いっぽいイルミに起こされ行動を開始する。

 

「忍び込むの?」

『オウ ヨルハ ラクショー ラシイ』

「フーン」

 

 聞くところによると夜になると警備がわりとざるになるそうで、姫の私室へと忍び込むことが容易くなるそうな。

 実際、日中は城の周りを衛兵が巡回していたってのに今はその姿がないし、遠目に城へと繋がる大きな門の前に立つ門番が居る程度。

 城壁をするりと乗り越え、芝生が敷き詰められたゲーム感が色濃い城内の敷地内をイルミに【円】をさせて進ませる。

 当然俺はその後ろを付いていくだけなので、楽。

 

 それにしても本職の殺し屋さんは、さすがである。

 下調べも無し、加えて城内の地図さえ見ていないのにさくさくと進む。

 城内に居るはずの姫の頭部はりんごの形らしく、そのわかりやすい特徴を【円】によって判別しやすいのもあるのかもしれないが、それにしても目的の場所へとさくさくだ。

 基本、一か所に場所に留まらないので衛兵のNPCはイルミが都度心臓を抜いて処理していく。

 

 最終的に姫の私室の前に立つ牢番のNPC2体を片付け、錠前を噛み砕いて分厚い扉を開いて部屋の中へ。

 就寝中であるからか、あるいは窓がひとつもなければ、壁や天井に照明が見当たらないことからして常から真っ暗なのかもしれない。

 加えて囚われの姫の部屋の中は生活感が皆無で、演出なのか室内には強烈な死臭が漂っている。

 

「あら、あなたは……」

 

 頭部がりんごだってことと死臭で誤魔化されてたけど、この姫──ヒトでした。

 この距離なら耳を【凝】らさずとも心音やら呼吸の音が自然と聞こえてくるし。

 

『イルミ』

「ウン」

 

 久しぶりに起動された感が強いけど畜生由来の本能が告げてくる、こいつは厄介と。

 ジーさん連中ほどのヤバさはない。でも厄介。所謂、強烈な慣れをコレからは感じる。

 

「フフ……王子が、これほどに美しい王子がわたくしを救いに来てくださったのですね……フフフ」

 

 イルミはわりとガチの臨戦態勢となりオーラを静かに練り練りしている。

 が、所詮はまだまだヒト成分が多めなもやしだから俺がイルミの前に立ち、タンクをしてあげる。

 

「無粋ですね、あなた。邪魔よ?」

『ウッセーヨ ババア オヒメサマ ゴッコハ ムリア──』

「──消えなさい」

 

 なんらかの念。

 たぶんそう。

 りんご姫の言葉を理解した時には城の外に飛ばされていた。

 

 こりゃあ、あの死臭が漂う部屋自体が念空間になっていた?

 何らかの条件が満たされていて、俺だけが外に飛ばされたか──何て考える前に頑張って【円】を張ってイルミの様子を確認する。

 飛ばされる瞬間、イルミの腕がブレていたが決着はついていないようで、まだ両者ともに健在。

 わりとかっ飛ばし気味に姫の部屋へと向かうが、ここは警備に見つかって警報を出されると城外へと強制転移させられるので、どうしても一直線で向かえない上にさっき通ったばかりの順路をわりと忘れてしまっているので……モタモタ。

 

 ようやっと姫の部屋ってか監禁部屋前に到着し、【シュリンクフレーション(カントリーマアム)】を解く。

 牢番の2体のNPCを口に含んで警報を出させないようにした上で、部屋の中には入らずに中の様子を覗き見る。

 監禁部屋にしてはかなりの広さがある室内の壁には、針が何本か突き刺さっているけど、残念ながらりんご姫は無傷っぽい。

 

「おや、無粋な邪魔ものが戻ってきたようですね。ですが関係ありません。あと少しの辛抱ですよ。もうすぐあなたはわたくしのすべてを手に入れるのです」

『イルミー ガンバー ババアニ マケンナー』

「……ウン」

 

どしゅっと死臭が舞う。

ニオイだってのにそれぞれに一瞬だけ重さが生じたような気がする。

 

「姫であるわたくしに対する不遜な言動は許しましょう。ですが姫ではなく、イゾルデとしてあなたを許すことはありません。のちほど、あなたには必ずや死を授けます」

『メンドー ナラ アレダスケド?』

「まだ平気」

『…… ヘーイ』

 

 つーか口の中でもぞもぞと動き続けている牢番NPCがうぜぇ。

 うぜぇけど吐き出すわけにもいかないので、飴玉みたいに牢番NPCを口内で転がしながらイルミとりんご姫の戦いを観戦──やりにくそー。

 

 どうやら具現化されたであろう死臭がりんご姫を守っているようで、イルミが投擲する針の軌道を悉く逸らしているようで、業を煮やしたイルミが接敵することを選ぶも姫は肉弾戦もイケる口のようでシンプルに上手いし速い。

 フリフリのドレスの中から暗器めいた武器を取り出したり、時には手にそのまま具現化させてイルミに突き立てようとしたり、時には閃光や音を出すようなブツを使って有利を得るように動くその姿は、熟練のワザマエが為せるもののように思え、繰り返しとなるがとにかく上手い、こいつ。

 

 なのでイルミの意思なんて無視してアシストする。

 

『アワセロ イルミ』

 

 ──【視球(ビーンボール)

 

 室内に肉球マーク付きのバランスボールサイズの玉っころを顕現させる。

 体からごっそりとオーラが抜けていったが、目論見どおりにりんご姫の視線と意識が数瞬だけ玉っころに釘付けに。

 こちらの意図を察したイルミがタイミングを合わせて置くように投擲した針は、りんご姫の頭部へと突き刺さる。

 

「……ッ! フフ、ですが残念でしたわね。わたくしが操作系対策をしていないとでも? フ……フフフフグッ……?」

「それ、毒」

「……貴、様ッ! このわたくしを、謀ったの──みッ」

 

 うわぁ……あからさまに操作しまっせーな針を毒針にすり替えるのえぐ。

 んでもって、おかわりの毒針をぽんぽこ刺していく様もえぐい。

 でもりんごな頭部に針が生えていく姿は中々にコミカルだから中和されている気がしなくもない──てか、どこぞに転送されていきよった。

 

『オツー』

「オレひとりでもヤれたよ」

『マツノダリー ソロシタイナラ マタヤレヨ』

 

 ま、ボスのリポップ設定次第だけど、いずれにしろまた湧くだろう。

 あのりんご姫は運営だかGM本人、もしくは雇われたボス役だろうし、今頃は治療を受けるか、そもそも毒で倒れたフリしてるだけで負けを演じて撤退してくれただけかもしれないし。

 

「そうする」

『カード ハヨヒロエ バインダーニ イレロ ハヨ ハヨ』

「ウン。『ブック』」

 

 オホ? オホホだな? レアカードが手に入るって言ってたし。

 あれ? でも姫とカップルになったら、手に入るって言ってたような……?

 じゃあ失敗? でもカードはりんご姫が転送される瞬間に出てたし、クリアしたってことだよな?

 

『トリマ ソトデルカ』

「針回収する」

『ウイー』

 

 イルミが壁に突き刺さった針や、床に落ちているものを回収し終えるのを見て、口の中の牢番NPCを吐き出して警報を鳴らさせる。

 瞬間、城外へと飛ばされ、少し間を空けてイルミも飛ばされてきたのですぐに確認する。

 (バインダー)を取り出したままのイルミのフリーポケット枠に収まる、たった今取得したであろうカードの名は──『愛の耐久』。

 

 名前からして微妙そうだし、条件未達成でハズレがドロップした?

 

 説明欄を見るに『愛の耐久』という媚薬を飲むと所持品の耐久値が無限になるそうな。

 ただし指定ポケットカードや呪文(スペル)カードには適用されないと明記されている。

 

 説明を読み解いても微妙。

 ミルキなら何か使い道を思い付くのかもしれないが……うーむ。

 

『ビミョー?』

「そ? ならオレが飲んでもいい?」

『エ イイケド オマエノダシ』

 

 カード化されている『愛の耐久』を手に取り『ゲイン』するイルミ。

 媚薬というだけあってその容器はスケベ度合が高いが、内容物はりんごジュースみたいな優しい色合いだ。

 

「じゃあ飲むね」

 

 こいつ、マジで飲んじゃったよ。

 

『ドウ?』

「ナニが?」

『アジ』

「わからない」

 

 だと思った。

 

 

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