ふらっと訪れた『そこ』は、かつて彼女に引きずられた場所と同じだった。

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ねらいうち

 学級掲示にかかる看板にひときわ目を引かれた。与えられたものをぶち込んでみましたとばかりにカラフルな文字がお出迎えしている。

 

『おばけやしき!』

 

 高校生にもなって、まだ遊び心を失っていないヤロウどもがいたらしい。

 

(……いつ振りだろう、こんな文字見たの……)

 

 そして、雄輔(ゆうすけ)の内にある心も突かれていた。

 小学校の思い出として残っている、いつの日かのテーマパーク。家族ぐるみの付き合いである柚希(ゆずき)に引きずり込まれたのだった。欄干から川へ飛び込む度胸を据えていた雄輔ですら抵抗できなかったのだから、それはそれは強大な姉御だった。

 

 懐かしい記憶を再生しつつ、雄輔は入口に立つ係に情報を求めた。

 彼が言うには、武装したお化け役が待ち構えているそうな。入る予定であることを伝えると、教室内になにやら指示を出していた。アナログな方式であるのもまた一興か。

 窓という窓に張られた隙間の無い暗幕に本気度を感じていると、係がなにやら漏らした。

 

「まあ珍しいですよね高校にもなって……。私は賛成派だからバンザイもいいところですけど、ね……」

 

 様子が怪しい。もう少し探ってみることにする。なにせ、こちらには心当たりがあるのだから。

 

「……その感じ、抗争が起こって……?」

「そんな感じです。ある子が主導権を握って、そのまま突っ走っちゃいましたけど」

 

 教卓の上で腕を組み、子ども心の大切さを熱弁する女子生徒の姿が浮かぶ浮かぶ。頬に絆創膏をつけてスポーツ少女になったとある人が。

 

 うんうんと頷いていると、入場係がまた独り言。

 

「……分かりますよ。ワンマンな子がいたら、それだけでクラスはそっちに引っ張られちゃいますからね……。……平穏なクラスであってほしかった……」

 

 入学してから一か月でもう悪名を轟かせ始めているのか。予想外にもほどがある。

 

 勝手に自己完結してしまった彼に確認を取り、雄輔は入口の暗幕をくぐった。料金もいらないとは、材料費をどこで賄うつもりなのだろう。ポケットマネーでもあるまいし。

 

 二、三歩踏み出してすぐ、雄輔は異変に気付いた。灯りという灯りがなかった。

 床のタイルの溝はおろか、教室を仕切ってあるはずの壁も空気に溶けている。背後から差し込む光だけが進んできた道を表していた。

 演出だろうが不備だろうが、このままでは進みようがない。引き返すのが吉。右も左も分からない。

 

 這いつくばった光を頼りにして雄輔が反転しようとした、ちょうどその時。

 己の陰しか映っていなかった床が揺れた。

 何かがおかしい。そんなはずがない。誰かが追ってきたなら入口が開かなければならない。廊下の騒がしい雑音など今の今まで入ってきていなかった。

 まさかまさか。真っ暗闇で肩をたたかれたあの日の恐怖を振り払って、雄輔は元来た方に顔をやった。

 

 先ほどまで進んでいた道中には、ほんのりと照らされた能面がつっ立っていた。

 心臓を口から吐き出す間もなく、その仮面に押し倒される。

 

(……いた……くない……?)

 

 そこにいたはずのコンクリートではなかった。弾力のあるソレに雄輔は受け止められていた。

 

 目の前では、隠す気のない懐中電灯によってお面が照らされていた。その支柱は左から伸びている腕だった。

 面の縁に手がかかり、仮の姿が剥がされる。

 

「……じゃんじゃじゃーん! 私は誰でしょう?」

「……柚希! ……どういう……こと……だ?」

 

 下から照明を受けた薄暗い顔には、トレードマークの絆創膏。ケガしているわけではないのに常駐している。

 仰向けに倒されている雄輔には、全てを主張しようとする彼女が乗っかっている。もたれているマットレスのようなものが更に沈み、雄輔を逃れられないよう縛っている。

 

 唇を潤した柚希が、視界いっぱいに広がった。瞳孔の開いた瞳がいっそう美を高まらせている。

 

「……ゆーすけ。これでも分からない?」




キミだけをねらいうち!

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