それでは第32話、どうぞ
赤道祭の片付けが進む中、明乃は一人艦尾で海を眺めていた。そしてそこにましろが近づく
「艦長」
「んぁっ…シロちゃん」
「どうかしたんですか?」
無理やり声を明るくしているかのような明乃に尋ねる
「あぁ…赤道祭楽しかったなぁって…」
「それだけじゃ…ないですよね」
見透かした様にましろが言う。明乃もさすがに隠し通せないと思ったのか声のトーンを下げ、話す
「艦の修理が終わったらパーシアス作戦に参加することになる」
「それはあくまでも協力ですよね」
「でも…もしかしたら…また…」
そういう明乃の脳裏には射撃指揮所に砲弾が命中した記憶が蘇る
「私…私ね、やっと、晴風のみんなと家族になれた気がしたの。したのに…」
ましろも明乃の心境を察し、何も言えなくなるのだった………
2016年5月5日……
富士山頂遠水平線レーダー武蔵ヲ捕捉ス
同日1時。ブルーマーメイド
プルルルル……ガチャ
「はい、こちら作戦本部」
電話に真霜が応答する。その間にも作戦本部付の隊員が他の通信等を行い深夜にも関わらず騒がしくなっていた
「福内です。そちらの状況で変わりはありますか?」
九州に別働隊として配備されたTU-01隊の典子から状況確認がはいる
「富士山頂の遠赤外線レーダーが武蔵を捕捉したわ」
「フィリピンに向かっていたはずでは!?」
この報には典子も驚く
「主力は間に合わない…貴方の艦隊で、武蔵を止められる?」
「最善を尽くします。それでは」
そうして電話は切れる。受話器を戻し、椅子に腰掛けた真霜はパソコンの地図画面を拡大、移動させ1隻の航洋艦の現在地を見る。その画面には「Y467 晴風」と表示されていた。そしてその画面を数秒間見つめた後、真霜は直ぐ様受話器を取るのだった
同日6時10分。日本近海を航行する航洋艦晴風にて
教室のでは日本近海の地図が広げられており、付箋で「TG01」、「TU01」、「晴風」、そして「武蔵」と貼り付けられていた
「現在、武蔵は伊豆半島の南西10マイルを針路40度、速力18ktで航行中と推測されます。本艦は35ktで追跡中です!」
朝早くにも関わらず幸子はハキハキと話す
「学校からの指示は『ブルーマーメイドの部隊が到着するまで本艦の安全を優先しつつ武蔵を捕捉し続けよ』とのことだ」
ましろも補足する
「今度こそ遅刻しないようにって早めに出発してたのに…」
「おかげで私たちが武蔵の一番近くになっちゃうなんて…」
美海や美甘が話す中後ろで一人手を挙げる
「美波さん」
幸子がすぐに当て、美波が立つ
「武蔵の生徒も、比叡やシュペー同様ウィルスに感染していると見るべきだ」
「てことはこの前みたいに助けられるってことっすよね」
美波の言葉に百々が間髪入れずに反応する
「私たちも何かできないかな」
「うん、そうだよね!」
まゆみと秀子が顔を合わせて言う
「主砲もバキュンと新しい12.7cm連装高角砲になったし!」
「指揮所もバッチリ新品だって!」
順子も言う。そう。結城やユウカからのお詫びとして主砲には九八式十糎高角砲の後継となる八〇式十二.七糎連装高角砲が、射撃指揮装置にはMk.37 砲射撃指揮装置が贈られていたのだった
「そうそう。水雷方位盤も新型になったしね」
果代子も言う。こちらは零式水雷方位盤…の改。これを見たとき芽依は
「三角関数から解放される♪」
と大喜びしており
「だま、る」
と志摩に言われているのであった。しかし、その話をしている最中でも、明乃の顔は沈んでいた
「艦長。どうします?」
心配しながらもましろが声をかけ判断を仰ぐ
「私たちは学校からの指示通りブルマーを支援しよう。武蔵は装甲も火力も桁違いに強力だし…」
「そうだな。ブルーマーメイド主体で当たるのが妥当だと思う」
明乃やましろが盛り上がったクラスを少し落ち着かせる
「そっか…」
「そうだよね…」
「相手が武蔵じゃあ…」
クラスの皆が思い出した通り、今回の相手は大和型戦艦二番艦武蔵、言わずとしれた超弩級戦艦であり火力面では世界に類を見ない46cm砲を搭載している他、自艦の砲撃にも耐えられるように装甲が貼られている。高性能である陽炎型といえどこれは破れない。しかしその落ち込みムードも媛萌の
「けど、みんな、頑張ろうよ!」
の一言でやる気に満ちる。そんなクラスの様子を見ながらもましろは顔が沈んでいる明乃をみるのだった
同日9時、真雪は学校の会議室でビデオ通話をしていた
『我々の部隊は、石垣島南方を40ktで航行中。とにかく急行します!ピッ!』
真冬がそう言うとプロジェクターのビデオ通話が切れ画面は南太平洋の地図へと切り替わる
「主力の殆どがフィリピンの東方。戦力を集中させる作戦が裏目にでたわね」
真雪はパソコンのビデオ通話相手である真霜へと話す
『間に合うのは最低限の備えとして九州沖に残しておいた平賀部長の別働隊と…結城大将率いる聯合艦隊だけ。それに聯合艦隊の方はやっと出航したあたりだわ』
「…………他に動かせる艦は?」
『ドックでメンテ中の艦が一隻。出せるかどうか…』
その話を聞いていた教頭も頭を抱えながら言う
「約3時間で武蔵は浦賀水道に入ります」
真雪は少し考え込み
「晴風は?」
と聞く
「およそ2時間後、武蔵に追いつきます」
とすぐに教頭も答える。プロジェクターには晴風と武蔵の予想合流位置が表記されていた
『艦影一、左10度、水平線、動静不明!』
『電探でも探知しました!』
見張所、電探室から次々と報告が入る
『方位角、右90度…閃光視認!目標、発砲した模様!』
マチコから切迫した報告が入る
「回避!面舵いっぱーい!」
「はい!」
明乃もすぐに反応し回避を指示する。そして回避中に海面に着水した砲弾が衝撃波を巻き起こし晴風を襲う
「しっかり距離を取って」
「はいぃ!」
そんな中でも明乃は落ち着いて指示を出す
『主砲弾六、こちらに接近!』
慧が言い切る前に着水し海面に水柱が立つ
『艦長!撃っちゃう!?』
『威嚇射撃したほうが回避もぐるぐるしやすいかも!』
射撃指揮所から意見が来る。衝撃に見舞われるだけとなった晴風をみかねてましろが
「艦長!指示を…!」
と言うがその途中で言葉を飲む。明乃が床へと座り込み祈るような事をしていたからだ。ましろが困惑するその時
「ブルマーです!」
幸子から報告が入る
『ブルーマーメイドより通信!晴風は至急この海域から退避せよとのことです!』
鶫が通信を読み上げる
「退避…?」
『ブルマーより撤退命令です!』
晴風で命令が受信された頃、TU-01隊旗艦のみくらに乗っている典子が指示を出す
「本艦隊はこれより右舷前方の武蔵に強制停船オペレーションを実施する。突入チームは武蔵の乗員が学生であることに留意し、極力格闘は避けるように。オペレーション開始」
「オペレーション開始します!」
典子の指示を倫子が復唱する。武蔵がTU-01隊を捕捉し主砲を発砲すると
「艦隊、左90度、一斉回頭!」
「とーりかーじ!」
典子が針路変更の指示を出し、倫子が復唱する。そしてTU-01隊のみくら、みやけ、こうづ、はちじょうの4隻が一斉に回頭を始める。これには鈴も
「あんなに綺麗に艦隊運動できるなんて…」
と呟いていた。そして一斉回頭から間を空けずに典子は
「二番艦、四番艦、噴進魚雷、発射はじめ」
と指示を出す。すると57mm速射砲の後ろに配置されたVLSハッチが開く
「噴進魚雷、発射はじめ!」
倫子の号令に合わせ噴進魚雷が発射される。そして的確に武蔵の舷側に命中する。その光景をみた晴風では
「すごっ!全部当たってるよ!」
「これで武蔵の足も止められる」
と芽依や幸子が言う。その時ましろが
「艦長、ちょっと…」
と明乃を連れる
「しばらくここを頼む!」
と言いましろと連れられた明乃は艦橋を出ていくのだった。その頃みくらでは
「武蔵の様子は」
典子が聞く
「砲撃は止まったけど損傷不明、速力変わらないわね」
隣に立つ倫子がすぐに答える。その報告を聞いた典子は
「一番艦、三番艦、右90度一斉回頭、突撃せよ!」
と指示を飛ばす。そしてその指示に合わせ改インディペンデンス級2隻が回頭し武蔵へと突撃する。武蔵もそれに対抗して主砲を旋回する
「一、三番艦、主砲、攻撃始め」
「撃ちぃ方始め!」
57mm速射砲が発射される。武蔵も対抗として15.5cm副砲で応戦する。しかし40ktの快速艦と練度の壁にあたり武蔵は命中弾がでない。その間にも間を詰めた改インディペンデンス級2隻は再度速射砲を発砲、これが武蔵の二番副砲に命中、そして破壊する
「目標!右舷副砲を破壊しました!」
みくら艦内でも報告が入る。典子はすぐに
「二番艦、四番艦、噴進魚雷攻撃始め」
と指示を入れる
「噴進魚雷、発射はじめ!」
その号令に合わせ噴進魚雷が先ほどと同様、放たれるが変な軌道を描く。艦内でエラー音が鳴り響くのを聞いた2人は
「何!?」
「作動不良!?」
と即座に反応する
「ゆ、誘導システムにエラー発生!」
火器管制の隊員が報告する。そしてそんな事を知る由もない晴風副長室では
「どうしたんですか?艦長」
自分の部屋の椅子に座った明乃を見てましろが言う
「ブルーマーメイドが来てくれたが、私たちは私たちの役割を…」
「分からない…」
ずっと俯いたままの明乃がやっと口を開く
「どうすればいいのか…」
副長室の伝声管を通じて艦内に響く
「分からないの……」
明乃の震える声が響く。そしてその頃みくらでは
「電子機器が狂うというのは聞いていたけれど…」
噴進魚雷のエラーをみた倫子が呟く
「魚雷発射管、発射準備。無誘導に設定」
「無誘導!?」
典子が電子機器を使わない方式へと変える指示をする。そしてその頃の武蔵艦橋にて
「残弾各砲塔およそ90から100!」
「針路変わらず、浦賀水道に向かっています」
もえかと共に武蔵艦橋に籠城する機関科応急員の角田夏美がノートに撃った段数を記録しながら逆算して残弾を言い、同じく航海科航海員の吉田親子が針路を報告する。そしてもえかは双眼鏡を下ろし少し考えるのだった
「うっ…うう…私たちの艦が…ブルーマーメイドを……」
自分たちが目指しているところを自分の艦が攻撃していることに耐えられなくなった夏美が泣き始めてしまう。そんな彼女にもえかはハンカチを渡し、
「状況把握に努めよう。艦を止めるチャンスを見つけるの。ね?」
と慰める
「はい…」
しかしもえかは慰めながらも事の発端となった時を思い出すのだった
4月6日20時ちょうど。武蔵は西之島新島沖を航行していた
「明日から他のクラスと合流ですね」
艦橋当直をしていた親子が嬉しそうに話す
「うん」
同じく艦橋当直をしていたもえかは双眼鏡へと向かうと
「航海艦橋へ連絡。左60度10,000に貨物船。注意して」
と指示を出す
「了解しました」
親子は艦内通話用受話器を持ち連絡する
「もしもし?」
「どうかしたの?」
もえかが違和感を感じて尋ねる
「艦長。応答ありません」
と親子が言ったその時、ブザーが鳴り響き主砲が旋回する。もえかは慌てて窓へと駆け寄る。そして主砲が発砲され貨物船付近へと着弾する
「射撃指揮所、応答して!」
その声に反応がないことに嫌な予感を覚えたもえかは
「ちょっと見てくる!」
と駆け出す
「私も行きます」
と親子もついて行く。そのとき、羅針が針路が変わっていることを表記していた………
艦内を駆けていると向かいから夏美が走ってくる
「角田さん!」
「艦長!」
「落ち着いて。一体何が?」
「みんな…みんなが!」
ただ事ではない雰囲気にもえかは夏美の肩をさする
「みんなって…」
そう言いかけた時前から他の生徒がぞろぞろとやってくる。その目は紅く染まっていたのだった
「きゃぁ!?」
「貴方達…いったい……」
生徒の中から一人が歩き始める
「走って!こっち!」
もえかは咄嗟に指示を出し夏美の手を取って走る
─2日後、17:30……
第一艦橋の入り口にバリケードを敷き、籠城する4人。そんな中、調理担当兼予備倉庫管理者の小林亜依子は缶詰を食べていた
「ん…まずまずかな。艦長、糧食と水は確保しました」
「射撃管制、機関操舵…すべて占拠されています…」
確認してきた夏美が報告する
「まともに会話もできないなんて…みんなまるで何かに操られているような…」
何やら工具を使い工作していた親子が呟く。そしてその後
「これで届くの?」
親子が作っていたもの─通信機を見て亜依子が聞く
「問題ないはず。ただ…電源はバッテリーしかないので使えるのは数分かと…どうぞ」
親子が答えつつマイクをもえかへと渡す。もえかは頷いて受け取ると
「こちら武蔵、こちら武蔵。現在アスンシャン島北西10マイル。非常事態が発生しています。現在アスンシャン島北西、アスンシャン島北西。至急救援を…至急救援を!」
明乃やユウカ、結城達が聞いた非常通信はこれだった
今回もお読みくださりありがとうございました!
読んでくださる方に最大級の感謝を
本話を作るにあたり、キタミリチャンネル様の「航洋直接教育艦『晴風』解説」を参考にさせていただきました。晴風の設定等を資料を元に深く解説しております。ぜひご覧ください
次回、第33話、明乃の葛藤(仮)
明日へ向かって、ヨーソロー!