やっと暗殺教室と鬼滅の刃のクロスオーバー小説が出せました。不定期になると思いますが、楽しんでもらえるように全力を尽くして完結目指します!よろしくお願いします。
それではプロローグ第一弾開幕です
始業前1 紅の記憶の時間
炎が、人を傷付けている。
違う。 あれは炎じゃない。 触手だ。 おぞましい、赤黒い触手が——。
私は目を背けたかった。 でも、できなかった。 これは記憶だから。 過去退行催眠で見せられている、遠い過去の記憶だから。
無限城。 鬼舞辻無惨との最終決戦。
炭治郎さんが、鬼になった。 無惨の血と力を注がれて、暴走している。
仲間たちが必死に呼びかけている。 ゆうくんのひいおじいちゃん、暁勇助さんと。 その師匠である、杏寿朗さんが、体を張って食い止めている。
禰豆子さんが、善逸さんが、伊之助さんが——。
みんなが泣いている。
血の匂い。 肉が焼ける匂い。 悲鳴。 咆哮。
私は争いごとが嫌いだ。 血生臭いことなんて、もっと嫌いだ。
でも、目を背けちゃいけない。 これは、受け止めなきゃいけない記憶なんだ。
恵さんが、七歳からの私達に教えてくれている。 命の重さを。 戦うことの意味を。 人を殺すということが、どれほど取り返しのつかないことなのかを。
六年間、毎日。 炭治郎さん達の戦いの始まりから順番に、鬼殺の剣士の記憶を見続けてきた。
最初の頃は本当に辛かった。 七歳の私には、あまりにも重すぎる記憶。
鬼に家族を殺された人々の絶望。 愛する人を守れなかった無念。 それでも戦い続けなければならなかった剣士たちの覚悟。
何度、目を覚ました時に泣いていたことか。
でもゆうくんが、いつも隣にいてくれた。 同じ記憶を見て、同じように苦しんでいるのに、私を支えてくれた。 悠馬くんも、陽斗くんも、みんな一緒だった。
だから、ここまで来られた。
そして今日——。 無限城での戦いの最後。 炭治郎さんが人間に戻る瞬間まで。
これで、全部。
私は、全てを受け止められた。 本当に……、良かった……。
「——桃花、起きろ」
優しい声が、記憶の闇から私を引き上げてくれた。
「大丈夫か? 朝だぞ」
ゆっくりと目を開けると、オレンジ色の瞳が心配そうに私を覗き込んでいた。
額の左側、薄く炎のような痣。 生まれつきのものだと、恵さんが教えてくれた。 ヒノカミを継ぐ者の証なんだって。
「……ゆうくん」
ゆうくん、暁遊星くん。 私の幼馴染の一人。
小さい頃から、互いの家を行き来して、一緒に寝ている。 家族として。 矢田家と暁家は、もう二つで一つの家族みたいなものだから。
ずっと一緒に寝ていたからか、恥ずかしさより安心感が大きかった。 でもあの事件の後、ゆうくんは悪夢にうなされることが多くて。
一人にしておけなかった。
一緒に寝ないと熟睡できない時があるくらい。 それが、当たり前になっていた。
「また……見たのか」
ゆうくんは私の表情だけで、全てを察してくれる。 彼も同じ記憶を見てきたから。 どれだけ辛いか、知っているから。
「うん……今日で、最後だった」
「そっか」
ゆうくんは私の頭に手を置いて、優しく撫でてくれた。 大きくて、温かい手。
この手に、何度救われたことか。 七歳のあの日から、ずっと。
「よく頑張ったな、桃花」
その言葉に、涙が出そうになった。 でも我慢した。 泣いてばかりはいられない。
ゆうくんは、いつも笑顔だ。 辛いことがあっても、悲しいことがあっても。 生まれつきの明るさで、周りを照らしてくれる。
そんなゆうくんがいるから、私も頑張れる。
「さ、朝ごはん食べよう。母さんが待ってるぞ」
「うん」
二人で階段を降りる。
いつもの朝。
でも今日は、何かが違う気がした。
リビングに降りると、台所から良い匂いがしてきた。 お味噌汁と、焼き魚の香ばしい匂い。
いつもの朝。
でも、今日は何かが違う気がする。
「おはよう、桃花ちゃん」
恵さんが、いつもの笑顔で振り向いた。
暁恵さん。 ゆうくんのお母さん。
綺麗な人だ。 鮮やかな赤い髪に、優しい目。 動きの一つ一つが綺麗で、でも力強さも感じる。
武人であり、お医者さんであり、そして何よりお母さん。 私の憧れの人。
恵さんは「神の手の全能医」って呼ばれている。 チーム医療と設備が整っていれば、どんな致命傷も治せるんだって。 お母さんが言ってた。
「恵はね、本当にすごいのよ。あの人の腕があれば、助からない命なんてないんじゃないかって」
私も、いつか恵さんみたいになれるかな。 誰かを守れる、強くて優しい人に。
でも今日の恵さんは、どこか儚げに見える。 まるで、消えてしまいそうな。
「おはようございます、恵さん」
「ゆっくり眠れた?」
「はい。いつもありがとうございます」
恵さんは優しく微笑んで、私の頬に触れた。 その手が、いつもより少し震えている気がする。
「記憶はこれで最後。受け止めてくれてありがとう」
最後。
その言葉が、胸に刺さった。 記憶が全部終わったという意味だけじゃない。 恵さんは、何か別の意味も込めている気がした。
恵さんの手が、優しく私の頬を撫でてくれる。 まるで壊れ物を扱うみたいに。
でも、考えすぎだよね。
「さ、朝ごはんにしましょう」
恵さんが明るく言った。
テーブルには、いつもの朝食が並んでいる。 でも、いつもより丁寧に作られている気がした。
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私の幼馴染、ゆうくん、暁遊星くん。
彼は、運命に翻弄されながらも決して折れない。 強くて、優しい男の子だ。
私と同じ日、同じ病院で生まれた。 お母さん同士が親友で、家も隣同士。
お母さんが言ってた。
「恵とね、冗談で言ってたのよ。お腹の中でお見合いでもしてたんじゃないかって」
こんな奇跡が起こるなんて、運命なんじゃないか? って、傑さんも笑ってた。
傑さんは、いつも優しかった。 ゆうくんだけじゃなくて、私にも。 悠馬くんにも、陽斗くんにも。
「よお! 元気か?」
って、いつもかがんで目線を合わせて、歯を見せて笑ってくれた。
一緒にゲームもしてくれた。 スマッシュブラザーズ、マリオカート、マリオパーティ、ポケモン——。 ジャンル問わず、傑さんはめちゃくちゃ強かった。
「親父さん強すぎだって! 手加減してくれよ!」
「バカ言え! 手加減は相手に失礼だろ? どんなことでも本気だぞ俺は!」
楽しかった。 傑さんと遊ぶ時間が、大好きだった。
——暁傑さん。 ゆうくんのお父さん。
現場叩き上げの警視正で、いくつもの事件を解決してきた人。 警察はもちろん、町の人たちからも信頼が厚かった。
お父さんが言ってた。
「傑さんはすごい人なんだよ。どんな難事件でも、現場を大切にして、必ず解決してきた」
傑さんはよく言ってた。
「いいか、遊星、桃花ちゃん、みんな。初めはできなくて当たり前だ。比べなくていい。焦らなくていい。その分、できた時の喜びも一入だからな」
その言葉が、今も胸に残ってる。
そんな人が、一ヶ月前に亡くなった。
理由は知ってる。 中学三年生だから、ちゃんと教えてくれた。
混合結合組織病の急性化。 自己免疫疾患っていうらしい。
自分の免疫が、自分の身体を攻撃してしまう病気。
恵さんが言っていた。
「全力で治療したの。傑も、最期まで諦めなかった」
って。
でも、聞いたからって、何も言えなかった。 ゆうくんの顔を見たら、何も言えなくなった。
お父さんとお母さんも、深刻な顔で話していた。
「傑さんほどの方が、病気で……」
「恵さんでも、どうにもならないことがあるのね……」
断片的にしか聞こえなかったけど。
傑さんは、誰よりも強い人だったのに。 その強さが、逆に免疫を暴走させたのかもしれないって。
ゆうくんも、恵さんも、泣かない。 私たちを心配させないために。
でも分かってる。
また、大切な人を失ったんだって。
今から7年前、7歳の時。
ゆうくんの家族が、両親以外全員……殺された。
暁家と一条家。 100人もの親族が、数日で、立て続けに。
あの日、私たちは「旅行」と称して避難させられていた。 幼馴染みんなで。
ゆうくんの両親が戦っている間。 何も知らずに楽しく過ごしていた。
お父さんやお母さん、他の幼馴染の両親たちが、必死に私たちを楽しませてくれた。 笑顔で。
でも今思えば、大人たちの笑顔は、どこか引きつっていた。 何かを、必死に隠そうとしていた。
ゆうくんや私達が真実を知ったのは、全てが終わった後だった。
帰ってきた時、ゆうくんの家は、人がいなくなっていた。 あんなに賑やかだった家が、静まり返っていた。
恵さんと傑さんだけが、玄関で私たちを待っていた。
二人とも、傷だらけだった。 血まみれで。
でも、ゆうくんを抱きしめて、泣いていた。
「ごめんね、ごめんね」
って、何度も謝っていた。
ゆうくんは泣かなかった。 ううん、泣けなかったんだと思う。
あまりにも突然すぎて。 実感が湧かなかったんだと思う。
ただ、ぽかんとしていた。 それが、逆に痛々しくて。
でも、ゆうくんは折れなかった。
恵さんと傑さんが。 私のお父さんとお母さんが。 それに私を含めた幼馴染が。
みんなでゆうくんを支えた。 少しずつ、少しずつ。
ゆうくんは笑ってくれるようになった。 生まれつきの明るさで、私たちを照らしてくれるようになった。
でも、夜中に一人で泣いているのを、何度も見た。 布団の中で、声を殺して。
だから私は、私達は隣にいようって決めたの。
一人にさせないって。
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それから、7年。
恵さんは私達5人—— ゆうくん、悠馬くん、陽斗くん。 そして私と、のちに加わるあかりちゃん。
私達に、過去退行催眠で鬼殺の記憶を見せ続けた。 命の重さを教えるために。
あかりちゃん——雪村あかり。 雪村先生の妹で、子役として活躍していた女の子。
ゆうくんが八歳の夏祭りで出会って、私たちに紹介してくれた。 最初はお互い緊張してたけど、すぐに打ち解けた。 女の子の幼馴染ができて、私も嬉しかった。
それから、ずっと5人で連絡を取り合ってきた。 会えない時もメッセージで。
中学一年の時からは、ゆうくんと特に仲良くなった五人—— カルマくん、メグ、ひなたちゃん、龍之介くん、友人くんも加わって、みんなで全集中の呼吸を習った。
カルマくんは最初、ちょっと怖かった。 目つきが悪いし、いたずら好きだし。 でもゆうくんが仲良くなってから、私達ともよく遊ぶようになった。 本当はすごく優しいんだって、すぐ分かった。
メグは落ち着いてて、ゆうくんや悠馬くんと同じくらいリーダーシップがある。 お姉さんみたいな存在。
ひなたちゃんは元気いっぱいで、いつも明るい。 体を動かすのが大好きで、私も一緒に遊ぶと楽しい。
龍之介くんは寡黙だから誤解されやすいみたいだけど。 責任感が強くて優しい。 射撃が得意で、ゆうくんとよく練習してる。
友人くんは努力家で、ゆうくんと同じ野球部だから切磋琢磨してる。 二人で走り込みとか、筋トレとか、本当に頑張ってる。
みんな、大切な仲間。
ゆうくんの両親と交流を深めて、私たちは学んだ。 戦うことの意味を。 守ることの尊さを。 そして、人を殺すということが、どれほど重いことなのかを。
恵さんも教えてくれた。
「命は、一度失ったら取り戻せない。だから、大切にしなきゃいけないの」
二人の言葉が、今も胸に残ってる。 これからも、ずっと。
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「遊星、また夜遅くまで鍛錬してただろ?」
皆で遊びに行く途中、悠馬くんが言った。
悠馬くん——磯貝悠馬くん。 ゆうくんの親友で、私たちの柱みたいな存在。 水の呼吸の使い手。
真面目で、しっかりしてて、でも優しい。 ゆうくんのことを誰よりも理解してる男の子。
「なんでわかったんだ?」
ゆうくんがきょとんとした顔で聞き返す。
「そりゃわかるって。お前、毎晩道場で型の練習してんだから」
前原陽斗くんが、いつもの調子で笑う。
陽斗くん——前原陽斗くん。 ゆうくんの親友で、雷の呼吸の使い手。 私たちのムードメーカー。
明るくて、元気で、いつも場を盛り上げてくれる。
「まあまあ、遊星も頑張ってんだからさ。今日は思いっきり遊ぼう!」
陽斗くんが肩を叩く。
「俺達、呼吸の修行もかなり進んだよな。意識しなくても常中を維持できるようになったし。さすがに反復動作や動作予測はまだだけど」
悠馬くんが嬉そうに言った。
「恵さんのおかげだよ。あんな記憶見せられて、最初はキツかったけど……」
陽斗くんが、しみじみと言った。
「でも、必要なことだったんだと思う」
私は本心からそう言った。
辛かった。 何度も逃げ出したくなった。
でも、あの記憶があったから、今の私たちがいる。 命の重さを、本当の意味で理解できた。
「ああ。母さんは、俺たちに……命の重さを、本当の意味で教えてくれたんだ」
ゆうくんの言葉に、みんな黙って頷いた。
空を見上げる。 青い、綺麗な空。 雲一つない、澄み渡った空。
傑さんが空の上で笑った気がした。
『よくやってるな、みんな』
って。
「よし! じゃあゲーセン行こう! 今日は俺が奢るから!」
陽斗くんが急に言い出した。
「お前、お小遣いでも入ったのか?」
悠馬くんが驚いた顔をする。
「へへっ、ちょっとだけな! たまにはパーッと行こうぜ!」
「陽斗、貯金しなくて大丈夫か?」
ゆうくんが苦笑いしながら言う。
「大丈夫大丈夫! こういう時くらい、な!」
陽斗くんの明るさに、みんな笑顔になった。 ゆうくんも、楽しそうに笑ってる。
良かった。 こうやって、笑ってる時間も大切だよね。
辛いことばかりじゃない。 楽しいことも、たくさんあるんだから。
「桃花も行くだろ?」
「もちろん!」
四人で歩きながら、他愛もない話をする。
学校のこと。 部活のこと。 好きなゲームのこと。
普通の、中学生の会話。 でも、この普通が、とても大切なんだって思う。
ゆうくんは、こういう時間を大切にしてる。 みんなと笑って、遊んで。
だから、私たちも無理に触れない。 ゆうくんが抱えてることに。
ゆうくんが話したい時に、話してくれればいい。 いざとなったら踏み込むけど。 それまでは、そばにいるだけ。
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ゲームセンターで、私たちは思いっきり遊んだ。
悠馬くんがクレーンゲームでぬいぐるみを取ってくれた。 陽斗くんが音ゲーで高得点を出した。 ゆうくんが格ゲーで連勝してた。
私は、みんなの笑顔を見てるだけで幸せだった。
「桃花も一緒にやろうぜ!」
陽斗くんが私を誘ってくれた。
「じゃあ、プリクラ撮ろう!」
「おお、いいね!」
四人でプリクラを撮った。 変な顔したり、ポーズ決めたり。
楽しかった。 写真を見ながら、みんなで笑った。
「この写真、最高だな」
ゆうくんが嬉そうに言った。
「うん。ずっと、大切にする」
私も本心からそう言った。
この瞬間を、忘れたくない。 みんなで笑ってる、この時間を。
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夕方、家に帰ると、恵さんから連絡が来た。
『今夜、神社に来てくれる? みんなに、見せたいものがあるの』
見せたいもの? 神楽……かな?
ゆうくん、最近ずっと道場で練習してたし。 恵さんの神楽、見てみたいな。
「……」
ゆうくんが、黙ってメッセージを見つめている。
「ゆうくん?」
「……ああ、なんでもない」
でも、ゆうくんの表情は、どこか曇っていた。
ゆうくんの予感は、いつも当たる。 いい予感も、悪い予感も。 特に悪い予感は、絶対に外れない。
まさか……。 いや、考えたくない。
でも、胸騒ぎが止まらない。 朝から感じていた、あの違和感。
恵さんの、涙を堪えているような震えた手。 儚げな笑顔。 丁寧に作られた朝食。
全部、繋がっている気がする。
「……行こう、桃花」
ゆうくんが静かに言った。
「うん」
私は頷いた。 でも、心臓が、早鐘を打っていた。
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夜の神社は、静寂に包まれていた。
月明かりが境内を照らし、神聖な空気が漂っている。 石段を登る足音だけが、静けさに響く。
一歩、また一歩。 登るたびに、胸の鼓動が大きくなる。
集まったのは五人。 ゆうくん、私、悠馬くん、陽斗くん。 そして、雪村あぐり先生。
雪村先生は、ゆうくんがお姉さんのように慕っている人。 あかりちゃんのお姉さんで、私たちが通う椚ヶ丘中学校3年E組の教師。
優しくて、生徒思いで。 でもちょっと天然なところもある、素敵な先生。
恵さんと雪村先生は、とっても仲が良い。 姉妹みたいに。
雪村先生も、今日は泣きそうな顔をしてる。
「来てくれてありがとう」
恵さんが現れた。
いつもと違う、神楽を舞うための装束を身に纏って。 赤と白の装束。炎を象った模様。
月明かりに照らされて、まるで炎そのもののよう。 息を呑むほど、美しかった。
「恵さん……」
あぐりさんの震える声。
何かが、起こる。 そんな予感が、胸を締め付けた。
「……よく見ておいて」
恵さんは静かに微笑んだ。 その笑顔が、とても悲しそうで。 でも、どこか晴れやかで。
そして——舞い始めた。
炎が、舞う。
いや、恵さん自身が、炎だった。
ヒノカミ神楽。 神様に捧げる、感謝と祈りの舞。
ゆうくんが継承する、伝統の舞。 でも今、この舞には別の意味が込められている気がした。
これは……覚悟? 恵さんの……最後の?
ゆうくんがじっと見つめている。 その瞳に、炎が映っている。 オレンジ色の瞳が、揺れている。
悠馬くんも、陽斗くんも、あぐりさんも。 誰も声を発さず、ただ見守っていた。
とっても綺麗だった……。 目を奪われ、呼吸を忘れるくらい、綺麗だった。
一つ一つの動きが、優雅で、力強くて、でも儚くて。 まるで、命そのものを舞っているみたいに。
一つ一つの動きに、想いが込められている。
ゆうくんへの信頼。 私たちへの愛情。 傑さんへの想い。
そして——覚悟。
恵さんは、全てを知っているんだ。 これから何が起こるのか。 自分に何が待っているのか。
それでも、恵さんは舞い続ける。 最後まで、母として。武人として。
私の頬を、涙が伝った。 止めようとしても、止まらない。
隣を見ると、悠馬くんも、陽斗くんも、泣いていた。
舞が、終わった。
恵さんが、ゆっくりと動きを止める。
静寂。 風が、恵さんの髪を揺らす。
誰も、何も言えなかった。
「……ありがとう。見届けてくれて」
「母さん……」
ゆうくんの声が、震えていた。 拳を、強く握りしめている。
「遊星。あなたは、もう完璧に継承したわ」
「あとは……あなたが、この舞を守っていってね」
「……!」
ゆうくんは何かを察したようだった。 でも、何も言わなかった。言えなかった。
ううん、言わせなかった。 恵さんが、優しく微笑んで。
「みんなも。遊星を、よろしくね」
「……はい」
私たち三人は、必死に涙をこらえて答えた。 でも、声が震えてしまう。
もう、涙は止められなかった。
「あぐりちゃん……私も、一緒に……」
「……ええ。行きましょう、恵さん」
あぐりさんも泣いていた。 二人は、何を話しているんだろう。
私には分からなかった。 でも、きっと——。
きっと、もうすぐ会えなくなるんだ。 だからこれが最後の継承、見取り稽古だったんだ。
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神社を後にする道すがら、誰も口を開かなかった。 石段を降りる足音だけが、夜に響く。
ゆうくんが、一番前を歩いている。
月が、空に浮かんでいた。 まだ満月に近い、大きな月。
そして——何かが起こる。
私たちには、分からない。 何が起こるのか。 いつ起こるのか。
ただ、確かなことがあった。 これが、私たちが見た恵さんの最後のヒノカミ神楽だった。
あの夜、恵さんは全てを伝えてくれた。 言葉ではなく、舞で。
ゆうくんへの信頼。 私たちへの想い。 そして——覚悟。
私は、あの舞を忘れない。 炎のように美しく、強く、儚かった恵さんの姿を。
絶対に、忘れない。
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家に帰ると、お父さんとお母さんが深刻な顔で話していた。
「……本当に、あと三日なのね」
「ああ。恵さんと雪村先生は、覚悟を決めてる」
覚悟? 三日? 何の話?
私が近づくと、二人は急に黙った。
「あ、桃花。おかえり」
お母さんが、いつもの笑顔で言った。 でも、その笑顔は、どこか悲しそうだった。
私は何も聞けなかった。
お父さんとお母さんは、何か知ってる。 恵さんとあぐりさんに、何かが起こることを。
でも、私には教えてくれない。 私たちを、守るために。
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その夜、ゆうくんと一緒に寝た。 いつも通り。
でも、ゆうくんは眠れないみたいだった。
「桃花……起きてるか?」
「うん」
「……俺、母さんを守れるかな」
ゆうくんの声が、震えていた。
「守れるよ。ゆうくんなら」
「けどさ……」
「大丈夫。私も、悠馬くんも、陽斗くんも、みんな一緒だから」
「……ありがとう」
ゆうくんの手を、ぎゅっと握った。 温かい手。
この手を、離したくない。
「ゆうくん。一人で抱え込まないでね」
「……ああ、わかってる」
でも、ゆうくんの声は、どこか遠かった。
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私は争いごとも、血生臭いことも嫌い。 でも、何もしないでただ泣いてるだけなのはもっと嫌だ。
だから私は、戦う。 花の呼吸で。
守るために。 救うために。 ゆうくんを支えるために。
それが、恵さんの想いに応える道だから。
運命の日。
月が三日月になるまで——。
あと、三日。
次回予告
桃花「ようやく始まったねえこの作品」
遊星「ああ、作者さんは想像力や読解力があっても文才が乏しいんだよなあ」
桃花「どのくらいかかったんだけ?アイデア浮かんでから」
遊星「覚えてないらしい…」
桃花「えぇ…」
遊星「でもいろんな人に相談に乗ってもらったのは覚えてる。それに加えて技術を駆使した結果できたんだけどな」
桃花「まあ、本編書いてるのほとんどAIなんだけどね」
遊星「それを言わないであげてくれよ…」
ここで平成コソコソ噂話!
遊星「杏寿朗さんが生きているのは、無限列車での戦いで勇助じいちゃんが彼と連携したことで猗窩座を撃退した結果で、痣が出る直前まで強くなってあの戦場にいたんだぜ!」
桃花「色んな救済展開が用意されてるらしいから楽しみだね!」
遊星「曇らせはあっても鬱展開で終わることはないから安心してくれ」
桃花「次回、始業前2 天涯孤独の時間」
遊星「いきなり不穏だけど負けるかああ!」
つづく
※評価と感想もらえたら狂喜乱舞します
遊星の先祖、勇助と結ばれたのは誰がいい?
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甘露寺蜜璃
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真菰
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那田蜘蛛山で出た女性隊士