妖刀使いの英雄譚   作:刀は銃より強し

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第二種目 騎馬戦

 

「予選通過は上位42名。残念ながら落ちちゃった人も安心しなさい!まだ見せ場は用意されてるわ。

そして、次からいよいよ本選よ!ここからは取材陣も白熱してくるよ!キバリなさい!!」

 

障害物競走の熱狂が冷めやらぬ中、メインモニターには最終順位が冷徹に映し出された。

 

結果は2位。

 

その数字を見つめ、千鉱は静かに目を閉じた。

決して油断していたわけではない。

だが、最後の土壇場で緑谷に先行を許した事実は、彼の胸に確かな悔恨を刻んでいた。

あと一歩、踏み込みが早ければ。あるいは、より合理的な判断ができていれば。

 

しかし、感傷に浸っている時間はなかった。

檀上のミッドナイトが、鞭を小気味よく鳴らしながら次の競技の説明を始めたからだ。

千鉱は思考を切り替え、鋭い眼光を正面に向けた。

 

「さーて、第二種目よ!私はもう知ってるけど〜何かしら!!?

言ってるそばから⋯⋯コレよ!!!」

 

スロットのように回転していたスクリーンが止まり、現れたのは『騎馬戦』の三文字だった。

 

ルールは以下の通り。

 

参加者は2〜4人のチームを自由に組んで騎馬を作る。

基本は普通の騎馬戦と同じルールだが、一つ違うのが先程の結果にしたがい各自のポイントが振りあてられる。  

 

制限時間は15分。

振り当てられたポイントの合計が騎馬のポイントとなり、騎手はそのP数が表示されたハチマキを装着。

終了までにハチマキを奪い合い保持ポイントを競う。

 

そして、重要なのはハチマキを取られても、また騎馬が崩れてもアウトにはならないところ。

 

与えられるポイントは下から5ずつ、42位が5P、41位が10Pといった具合だ。

                          

そして⋯⋯

 

「1位に与えられるポイントは⋯⋯1000万!!!!

上位の奴ほど狙われちゃう下克上サバイバルよ!!」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

チーム決めの交渉時間が始まると、スタジアム内は一気に喧騒に包まれた。

 

1000万を持つ緑谷から距離を置く者、高得点者である爆豪と轟に群がる生徒たち。

千鉱が周囲の動向を探ろうとしたその時。

 

「おい、傷面」

 

喧騒を切り裂くような鋭い声がした。

爆豪だ。

彼はポケットに手を突っ込んだまま、千鉱の前に立った。

 

「俺と組め」

 

端的な、命令に近い誘いだった。

千鉱は淵天の鞘を軽く指で叩き、無表情のまま問い返す。

 

「⋯⋯理由は?お前なら、切島あたりと組むのが妥当だと思っていたが」

「あぁ? クソ髪と醤油顔ならもう確保してあるわ。だがよ⋯⋯」

 

爆豪は一歩、千鉱のパーソナルスペースに踏み込む。

 

「⋯⋯テメェ、さっきのレースで俺の前走ってただろ」

「そうだな」

「気に食わねぇんだよ。俺より前に立つ奴がよ」

 

その声音には怒りよりも、むしろ獲物を見つけた猛獣のような昂りが混じっていた。

 

「だから潰す。正面から、堂々とな」

「⋯⋯潰す相手と組むのか?」

 

千鉱は眉をわずかに動かす。

 

「あ゙ぁ!? 勘違いすんじゃねえぞ傷面、馴れ合うつもりなんて毛頭ねぇ。だがよ……」

 

爆豪はさらに一歩、踏み込む。掌で弾ける火花の熱が、千鉱の頬をかすめた。

 

「デクを確実に、完膚なきまでに叩き潰す。そのためには俺の爆破に耐えれる奴と、俺と同威力の攻撃ができる奴が必要なんだよ。テメェは後者な。

それに⋯⋯あそこでデクに抜かれたまま終わるようなタマじゃねえだろ?」

 

爆豪の口角が、凶悪な弧を描く。

千鉱は、そのあまりに純粋な勝利への執念に、一瞬だけ亡き父の打った刀の熱を思い出した。

 

「そういうことか⋯⋯分かった、組もう」

 

爆豪は満足げに鼻を鳴らした。

 

「ハッ、決まりだ。騎手は俺。クソ髪が前、テメェと醤油顔が後ろ。文句ねぇな?」

「問題ない」

 

 

 

 

 

『さぁ起きろ、イレイザー!15分のチーム決め兼作戦タイムを経て、フィールドに12組の騎馬が並び立ったァ!!!』

『これは⋯⋯なかなか面白い組が揃ったな』

 

フィールドには、観客のざわめきと、各チームが最後の確認をする声が入り混じっていた。

千紘たちの騎馬も、爆豪を騎手に据え、切島・瀬呂・千鉱の三人が騎馬を構成している。

 

しかし、ほかの騎馬と決定的に違う点は、左側の後方を支える千鉱が、左手に妖刀【淵天】を携えている点だ。

 

本来なら前の切島の手をしっかりと握り、そこに騎手である爆豪の足を固定することで安定感を上げるのが定石だ。

しかし、このチームは防御を捨てた。騎馬全体の圧倒的な攻撃力を維持するため、千鉱はいつでも攻撃できるようにしている。

 

「いいか、テメエら!!デクからハチマキを奪い取って、立ち塞がる雑魚共は全員死なねぇ程度に爆破して終わらせる!! 足を止めるんじゃねえぞ!!!」

「⋯⋯ああ」

「応!!まかせろ!!」

「嫌な予感しかしねぇんだけど⋯爆豪お前無茶すんなよマジで…」

 

 

『よォーし、始めるぞ!!?準備はいいかなんて関係ねぇ!!

いくぜ、残虐バトルロイヤルカウントダウン!!! 3・2・1!

START!!!!』

 

騎馬戦、開始の合図が鳴った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「っしゃあ!デクんとこ行くぞ!!てめぇら足動かせ!!!」

 

開始直後、爆豪チームは作戦通り緑谷チームのほうへ足を動かした。

千鉱は緑谷チームのほうを見ると、さっそく2チームほどに狙われていた。

 

「えっ!?緑谷のやつ飛んでね!!?」

「⋯⋯サポートアイテムか」

「どうすんだ爆豪!?空にいられたらハチマキ獲れねえぞ!!」

 

すると、緑谷チームがサポート科の発目が発明したサポートアイテムを使い空中に飛んでいたのだ。攻撃も常闇のダークシャドウで防がれる。

 

「てめえら! 態勢維持して待ってろ!!」

「は? 待ってろって、お前⋯⋯」

 

瀬呂が困惑の声を漏らした瞬間、爆豪は騎馬の肩に置いていた足を力強く踏み抜いた。

 

「決まってんだろ⋯⋯飛ぶんだよ!!」

「えっ、お前何言って⋯⋯⋯爆豪!!?」

 

瀬呂の制止も聞かず、爆豪は単身、空中へと身を躍らせた。両掌を後方へ向け、爆破の反動で弾丸のように緑谷へ肉薄する。まさに飛び道具だ。

 

「調子乗ってんじゃねえぞクソが!」

「っ、常闇くん!!」

 

空中での苛烈な一撃。だが、常闇の『ダークシャドウ』が盾となり、爆豪の爆破を間一髪で防ぐ。さらに空中という不安定な足場では、爆豪も追撃の手を緩めざるを得ない。

 

重力に従い、爆豪の体が落下を始める。

その落下地点を見定め、千鉱は静かに左手の【淵天】を握り直した。

 

「瀬呂、準備しろ。来るぞ」

「分かってるよ! ったく、無茶しやがって⋯⋯!」

 

瀬呂が右肘から射出した「テープ」が、空中の爆豪の腰を正確に捉える。釣り上げられる獲物のように、爆豪の体が千鉱たちの騎馬へと急速に引き戻された。

 

爆豪が乱暴に騎馬の上へと舞い戻る。衝撃で揺れる肩を、切島が踏ん張って支えた。

 

「カッカすんな爆豪! まだ始まったばかりだぞ!!」

「うるせぇクソ髪! もう一回だ!!!」

 

『おおおお!!?騎馬から離れたぞ!?良いのかアレ!!?』

「テクニカルなのでオッケー!!地面に足ついてたらダメだったけど!」

 

 

爆豪が緑谷へ執着し、空中に気を取られたその一瞬の隙。

 

「単純なんだよ、A組──────」

 

B組、物間は音もなくその背後に忍び寄り、嘲笑を浮かべて手を伸ばした。

勝利を確信した物間の指先が、爆豪のハチマキに触れようとしたその刹那。

 

「【涅】」

 

千鉱が【淵天】を抜き放った。

 

「あ゙ッ…………!」

 

衝撃波に突き飛ばされ、物間の身体が大きくのけぞる。

予想だにしない方向からの迎撃に、B組の面々の顔が驚愕に染まる。

 

「物間!!」

「爆豪! ハチマキを⋯⋯」

「指図すんなやクソが!!!」

 

千鉱の声に、体勢を立て直した爆豪が即座に反応する。

そして爆豪は、苛立ちを爆発させるように右手を突き出した。

物間の顔面に爆破を当てると、逃がさぬと言わんばかりにハチマキを奪い取った。

至近距離での爆破。その衝撃で物間チームの騎馬は完全にバランスを崩し、崩壊する。

 

「うっ⋯⋯」

 

衝撃と爆風に耐えきれず、物間の騎馬は足並みを乱し、無残に崩れ去った。

地面に叩きつけられた物間は、呆然とした表情で空を仰ぐ。自分の首から消えたハチマキと、冷徹に自分を見下ろす千鉱の瞳を交互に視界に入れながら、彼は言葉を失っていた。

 

『こいつはシヴィーー!!爆豪チーム、物間チームから鉢巻を奪取!!2位に躍り出たァ!!!』

 

「次!!デクんとこだ!!!」

 

 

爆豪の咆哮とともに、騎馬が加速する。物間から奪い取ったハチマキを首に巻きつけ、爆豪の視線は一直線に1000万のハチマキを持つ緑谷を捉えていた。

周囲には、残り時間が半分を切った焦りから、なりふり構わず緑谷へ群がる数多の騎馬。混戦は極まり、砂塵が舞う。

 

その直後だった。

 

「しっかり防げよ!『無差別放電 130万ボルト』!!!」

 

緑谷チームの進路を塞ぐように立ちはだかった轟チーム。その一角、上鳴から全方位へ向けて凄まじい電撃が放たれた。

 

逃げ場のないほどの広域攻撃。周囲の騎馬が次々と感電し、動きを止める。切島が歯を食いしばり硬化で耐えようとする。

 

すると、爆豪チームの左翼───千鉱が動いた。

 

 

 

「【猩(あか)】」

 

 

 

千鉱が左手に持った【淵天】の刃から、赤い金魚が現れる。

すると、周囲に展開していた電撃の奔流が、まるで吸い込まれるように金魚へと収束していった。

 

「⋯⋯!? 電気が消えた⋯⋯!?」

 

切島が驚愕したような表情で言う。

 

『な、何だ今のは!? 六平、上鳴の電気を吸い込みやがったぞ!!!』

『十中八九あの妖刀の能力だろうな⋯『無効』⋯⋯いや、あの感じ『吸収』か⋯⋯⋯?』

 

実況席のプレゼント・マイクが身を乗り出して叫び、相澤が冷静に分析を加える。

 

「⋯⋯。瀬呂、切島、行けるか」

「お、おう! 助かったぜ六平! 全然痺れてねえ!」

「マジかよ⋯妖刀何でもありだな⋯⋯⋯」

 

驚愕に目を見開く仲間たちを背に、千鉱は静かに息を吐く。刀身に溜まったエネルギーの熱が、掌に伝わってくる。

しかし、轟チームの追撃は止まらない。

 

「悪いが⋯我慢しろ⋯⋯!」

 

轟が個性を発動。凄まじい勢いで地面が凍りつき、巨大な氷の波が、地面を伝い伸びていく。

 

「ちっ、てめえら跳べ!!」

 

そういうと同時に、爆豪が掌を爆発させた。

爆風の推進力と、下三人の驚異的な脚力が噛み合い、騎馬は氷の津波を飛び越えるようにして空中へ舞う。

 

眼下では、逃げ遅れた他チームが氷の中に足を封じられ、完全に戦線離脱していくのが見えた。

 

「おい傷面、さっきのは⋯⋯。テメェ、まだ何か隠してやがんな?」

 

爆豪の声は低いが、確かな苛立ちと、それ以上の妖刀という未知の力に対する高揚に震えていた。

 

「⋯⋯説明は後だ」

「ああ゙?」

「1000万、獲るんだろ?」

 

短く、淡々と。だがその言葉には、爆豪の執念に唯一応えられるだけの重みがあった。

爆豪は一瞬の沈黙の後、凶悪な笑みをその面に張り付かせた。

 

「!! 上等だ⋯クソが⋯⋯!!」

 

『残り時間、あとわずか!! 1000万は誰に頭を垂れるのか!!!』

 

「行くぞ!! テメェらしっかり支えてろ!!」

 

爆豪が再び、騎馬の肩を蹴り飛ばすようにして跳躍した。

両掌からの爆破で加速し、最短距離で緑谷へ肉薄する。だが、そこには轟の氷壁と、常闇のダークシャドウが幾重にも重なる障壁となって立ちはだかる。

 

「⋯切島、瀬呂、移動するぞ。爆豪のサポートだ」

「よっしゃあ任せろ!!」

「ああ⋯もう何とかなれだ!!」

 

千鉱は地上で轟たちに攻撃が当たるように移動し、左手の【淵天】を振るった。

 

「【涅】」

 

放たれた衝撃波が、爆豪を叩き落とそうと伸びたダークシャドウの腕を正確に弾き飛ばし、轟が作りかけた氷の支柱を粉砕する。

 

「なっ……!?」

「1000万よこせやデク!!!」

 

爆豪が空中で体勢を立て直し、緑谷の額へ手を伸ばした、その瞬間。

 

「獲れよ!!轟くん!!!!」

 

轟チームの前衛、飯田天哉の排気筒から、青白い火花が爆ぜる。

 

 

「トルクオーバー!!レシプロバースト!!!」

 

 

視認不可能なほどの超加速。

爆音とともに轟チームが地を駆け、一瞬にして緑谷の懐へ潜り込んだ。爆豪が空中で虚を突かれ、緑谷が反応する間すら与えない。

 

轟の手が、緑谷の額にあった「1000万」のハチマキを奪い取った。

 

『なーーーーー!!?何が起きた速っ速ーーーー!!

飯田、超加速!!!!逆転!!轟チームが1000万!!!』

 

スタジアムが揺れるほどの歓声。だが、その加速の代償はすぐに訪れる。

飯田のエンジンがエンストを起こし、轟チームの足が止まった。そこへ、未だ空中にいる爆豪が形相を変えて突っ込んできた。

 

「何勝手に獲ってんだよ、半分野郎ぉ!!!」

 

爆豪の狙いが瞬時に切り替わる。

轟チームは、背後から迫る緑谷チームの猛追と、正面から突っ込んでくる爆豪チームの挟み撃ちを食らう形となった。

 

「上鳴、もう一度だ!! 迎撃しろ!!」

「応よ! まとめて痺れ───」

「【涅】」

 

上鳴が再び個性を放とうとした。しかし、発動よりも早く、千鉱の放った【涅】が上鳴の顔面に炸裂する。

 

「がっ⋯⋯⋯!?」

 

不意を突かれた上鳴の個性が不発に終わり、一瞬の硬直が生まれる。

 

「歯ぁ食いしばれぇぇぇぇ!!!」

 

爆豪の手が、轟の首元へ伸びる。

轟も反射的に氷結で防ごうとするが、先ほどから千鉱に翻弄され続けていた意識のズレが、決定的な遅れを生む。

 

「死いいいいねやあああ!!!」

「くそっ⋯⋯!!」

 

爆豪の指が、1000万の数字が記されたハチマキを力強く引きちぎった。

しかし、それと同時轟もまた至近距離まで踏み込んできた爆豪の額に手を伸ばし、ハチマキを強引に奪い取る。

 

クロスする二つの影。

奪い、奪い返される刹那の攻防。

 

『おおおおおっと!? 爆豪、執念の1000万強奪!! だが轟もタダでは転ばねえ、爆豪のハチマキを奪う!!

そして、そろそろ時間だ!!カウントダウンいくぜ!!』

 

プレゼント・マイクの放送を聞いた瀬呂は、すぐさま空中の爆豪に向けてテープを放った。

そのテープに捉えられた爆豪は、そのまま引き寄せられるように騎馬の方へと帰還する。

 

「ッ、何すんだ醤油顔!!戻せ!!!」

「はぁ!?いやいやもう1000万取ったじゃん!?もうあそこいる意味ねーって!!」

「ちげーわカス!!半分野郎に獲られた分のハチマキまだ取り返せてねぇんだよ!!!」

「あっ、ちょっ爆豪!!?」

 

瀬呂の言葉を無視した爆豪はまた轟たちのほうへ向かう。

しかし⋯⋯

 

 

『TIME UP!!!』

 

 

その前に、終了の合図がスタジアムに響き渡った。

 

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