お読みいただきありがとうございます。
細かい説明はせず、このまま物語に入ってもらえればと思います。
今日の一話、静かに楽しんでもらえたら嬉しいです。
「それじゃあ、説明してもらおうかしら?」
部屋に戻ってそのままゆっくりできるはずもなく、あたしはルイズに詰められていた。
「あはは、どこからどう説明したらいいのやら。」
ごまかし笑いで頭をかくあたし。そんなあたしに、少し思いつめた顔をしたルイズが聞く。
「……サヤカは、メイジなの?」
迷子のような顔で聞くルイズ。
「そうだともいえるし、そうじゃないとも言えるんだよねえ。」
「どっちなのよ。」
「あたしの魔法は、ルイズが使うような魔法とはまた違うんだよね。」
どうしたもんか―――
あたしもこの世界の魔法についてはあまり詳しくない。だからといって、自分が使う魔法に関して詳しいかといわれると、それもちょっと違う。そもそも今のあたしの状態すら碌にわかっていないのだ。何がどう違うのかと聞かれると困ってしまう。
「ルイズたちの使う魔法って、血筋があれば誰でも使えるの?」
「……そうね、たまに平民でも使えるらしいけど、たいていは貴族崩れかその子孫ってオチみたい」
気になる沈黙があったが、やはりこの世界の魔法と、あたしが使う魔法は根本から違うようだ。
「あたしの世界ではさ、魔法は物語の中だけにある架空のものなんだよ。」
「それじゃあ、あんたが使ってるのはなに? 魔法じゃないってこと?」
「ふっふっふ、聞いちゃいますか? ついに聞いちゃいますか!」
「……」
ちょっと調子に乗ってしまったらしい。ルイズからの視線が絶対零度だ。
「ごめんごめん、ちゃんと教えます。はい」
「それが賢明ね」
はじめからそうしなさいとルイズは文句を言ったが、今はおとなしくあたしの話を待っている。
「あたしはね、インキュベーターと契約した魔法少女」
「インキュベーター?」
あたしは左の手のひらをルイズに見せると、指輪をソウルジェムに戻した。
「これが魔法少女の証」
「魔法少女の証。きれいな宝石ね」
「これはソウルジェム。インキュベーターとの契約で作られる宝石だよ」
「さっきから言ってるそのインキュベーターって何?」
あたしはこほん……と咳払いをする。特に意味はないけれど、雰囲気作りだ。
「さっきも言ったけど、あたしのいた世界には基本的に魔法って存在してないんだ。
でも、このインキュベーター……言いづらいからキュウべえっていうけど、そいつと契約をすると魔法を使えるようになる」
「契約?」
この質の悪い契約について、どこまで説明するかあたしは迷った。迷ったが―――
「キュウべえが願いを叶えるのと引き換えに、あたしたちは世界に災厄を振りまく魔女を倒すって使命を課されるの。そのための力が、この魔法ってわけ。ソウルジェムはその契約の証」
結局、表向きの契約の説明をすることにした。
「願いを叶えるって何? キュウべえっていうのは、あんたの世界の―――」
「―――神様?」
「ちがう」
思ったよりも冷たい声が出た。
やつを神様だなんて、冗談でも受け入れられなかった。
何かを察したのか、ルイズは一度口を閉じた。
「キュウべえは願いを叶えるけど、そんな神聖なものじゃないよ」
「じゃあ、願いを叶えるって何よ。どういう意味?」
「そのままの意味だよ……望むのならば、どんな願いもかなえてくれる」
「何よそれ。そんなの、契約するに決まってるじゃない」
ルイズから見ればそうなのかもしれない。魔法が使えるようになるうえ、願いもかなえてくれるんだもん。
「まあ、契約するには素質もいるし、魔女との戦いも命がけ。それでもかなえたい願いがあるなら、いいと思うよ」
そう言うと、ルイズは黙った。
もし自分ならどうするか、考えているんだろうか。いつかのあたしみたいに……。
ルイズの願い。
魔法を使えるように……は、契約すれば叶うのか。
みんなに認めてもらいたいとか、それともまた別の誰かのために願うのか……。
「まあ、この世界にキュウべえはいないわけだし、願い事なんて考えても無駄なんだけどね」
「あ……」
あたしの言葉に、残念そうに声を上げるルイズ。
それほどまでに“どんな願いでもかなえる”という言葉は魅力的なのだろう。
……バカバカしい。
そんなの、あたしが一番よく知っているのにね……。
「ぬか喜びさせちゃってごめんね。落ち込んだ?」
「まあね。もしかしたら、私の病気の姉を治せるかもって思ったから……」
『上条恭介の怪我を、元通りにしてください』
一瞬、ルイズが自分に重なって見えた。
はっとしてルイズを見ると、何か考えていたようで、あたしの様子には気が付かなかったみたいだ。
しばらくの沈黙の後。
「それと、これはあたしとルイズの秘密にしてほしいんだけど」
「なによ、改まって」
あたしの真剣な声色に、ルイズが少し動揺したのが分かった。
正直、言うかどうかだいぶ迷ったけど……。
「このソウルジェムはね、あたしの魔法の源なの」
「源?」
「そう。これがなくなれば、あたしは魔法を使えない」
ルイズが真剣な目でソウルジェムを見ている。
「メイジの杖のようなもの?」
「うーん、ちょっと違って……これ自体が魔力の源、みたいな?」
「あんたも、よくわかってないの?」
「あはは、実はそうなんだよねえ」
ルイズはまた冷たくあたしを見たが、あたしの世界の化学の話をしたら思いのほか食いついた。
あたしがあえて話題をそらして、魔法少女の話を終わらせただけだけど。
あからさまな話題逸らしに、あたしがそれ以上魔法少女の話をする気がないと分かったのか、あたしの中途半端な化学話に付き合ってくれた。
そんなルイズに、何とも言えない気持ちになる……。
―――嘘を、ついてしまった。
あまりにもまっすぐな彼女にとって、魔法少女の真実はきっと重荷にしかならない。
だから言わなかった。
こんな醜いあたしを、知られたくなかった。
だから言えなかった。
真実を知った時、ルイズはどんな顔をするだろう。
目の前にいる人間が、実はもう存在してはいけない者で、向こうに帰るということが、あたし自身が死人に戻ることを意味することを知った時。
それでもルイズは、あたしに協力してくれるのだろうか?
いくら納得していることだとしても、この心優しい少女は、きっと苦しむことになるのだろう。
だからあたしは黙っていることにした。
そうすれば、この世界から去るその瞬間まで、幸せな夢を見ていられると思うから―――。
黙っていることには慣れている。
だってあたしは、オクタヴィア。
オクタヴィアのさやかだ。
―――人魚姫は、最後まで王子に真実を伝えることはなく―――
―――泡となって、消えてしまうのでした―――
最後までありがとうございました。
語り足りない部分もありますが、
それも含めて物語として受け取ってもらえれば幸いです。
次回 第11話「どうだい俺様を使って見る気はないかい?」