ゼロの人魚姫   作:北町スイテイ

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夜空を見ながら、さやかの気持ちに浸ってもらえたら嬉しいです。


第13話「まーた助けられちゃったなあ」

静かな夜の学院、今日は雲一つなく、2つの月がよく見えた。

 

別に何か理由があったわけではないけど、あたしは魔法で身体強化をして、屋根の上で涼んでいた。

 

 

---きれいな空だなあ

 

 

何の障害物もない空を見ていると、元の世界を思い出す。

 

宇宙のような、海のような・・・円環の理とはそんなところだった。

別に怖いとか寂しいとかそんな気持ちはない。だってそこにはまどかがいたし、魔法少女たちがいつかたどり着く場所だったから。

ただそこにいるときはどこか意識がふわふわしていて、そこではあたしは美樹さやかであって円環の理でもある。

そんな感覚。

その意識が美樹さやかとして覚醒するのは、まどかの手伝いに行くときだ。

まどかとともにいるときは、あたしもまどかも、『円環の理とその一部』から、『鹿目まどかと美樹さやか』になれた。

 

だからこそわかってしまう。

 

 

 

ーーーこのままこの世界に居れば、あたしは本当の意味で自由になることができる---

 

 

円環の理とのコネクトを完全に失った今のあたしは、いわば切り離された円環の理。魔女の使い魔が育ち、自分の意思をもってひとりでに動き、成長し、魔女へと羽化するように、あたしも円環の理から外れ、美樹さやかという『なにか』に成ろうとしている。

あたしがこの世界の使い魔として召喚されたというのは、何という皮肉なんだろう。

 

 

---このまま元の世界に帰らなかったら

 

 

不謹慎だけど、そう思うこともある。無理をしてあちらに帰る理由なんてないんじゃないかと思うことが。

だって、あたしがいなくても何も変わらない。

恭介のときもそうだった。

恭介にとってあたしは数ある友人の一人に過ぎず。

あたしがいなくても、恭介は仁美と幸せになる・・・

あたしがいない町、あたしがいない世界で幸せになる。そう、あたしがいなくても・・・

暗い暗い気持ちが湧き上がりどうにもならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---【しょぼくれてんじゃねーぞ、ボンクラ】

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・」

 

 

 

 

数秒・・・思考が停止した。

それは幻聴だったんだと思う。

あの時の杏子の言葉が聞こえた。

 

「っふ」

 

自分があまりにも間抜けで思わず笑ってしまう。

 

「そうだよね、そうだった。」

 

まどかはあたしの大切な親友だ。そのまどかが困っている。だったら助けに行かなきゃいけない。それだけで向こうに帰る十分な理由になる。

 

「それに、杏子を迎えに行く役目も残ってる。」

 

あたしを、暗い暗い海の底まで杏子は迎えに来てくれた。だから今度はあたしが杏子の迎えに行くんだ。ここに居たらいつまでも杏子の迎えに行けない。

そう考えると、不思議と心が楽になった。

 

「まーた助けられちゃったなあ。」

 

こんな遠い世界に来たって言うのに、それでも杏子はあたしを支えてくれる。

 

 

あたしは無性に杏子の顔が見たくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いろいろ考えていたせいで、ずいぶん遅くなってしまった。ルイズには少し風に当たってくるとしかいてないし、きっと心配している。

 

「んしょっと。」

 

あたしは屋根の上から飛び降りるとルイズの部屋に向かった。

足取りはここに来た時よりも軽くなっていた気がした。

 

 

 

ルイズの部屋に向かっていると

 

「あ、サヤカさん。」

「ん? シエスタ?」

 

大きなカバンを抱えるシエスタに出会った。

 

「こんな遅くにどうしたの? もしかして夜逃げ?」

「そんなところです。」

 

そう寂し気にシエスタは笑った。

そんな顔で笑うシエスタを、あたしはほっとくことなんてできない。

 

「何かあるなら、このさやか様に相談するがいい。」

「・・・いえ、なんでもないんです。」

「なんでもなくはないでしょ。いいから話してみなさいって。」

「いえ、本当になんでもないんです。」

「・・・そっか」

 

気まずい沈黙が流れた。まっすぐにシエスタを見つめるあたしとは違って、シエスタは地面から目を離さなかった。

あたしはもどかしくて仕方がない。どうにかしなくてはいけないと思いーーー

 

「・・・シエスタ。」

 

あたしはシエスタの名前を呼んだ。その声に下を向いたままだったシエスタがやっとあたしを見る。

 

「あたしはシエスタのこと友達だって思ってる。」

「サヤカさん。」

「だからシエスタが何か悩んでいるなら相談してほしいって思うんだ。」

 

あたしにはできなかったから・・・

 

「・・・」

 

しばらく黙っていたシエスタだったけど、やがてぽつりぽつりと話し始めた。

 

「今日モット伯様が学院にいらしたんです。」

 

モット伯? 名前からして貴族だろうか?

 

「モット伯はハルケギニアの中でもそれなりに大きな貴族で、この学院に対してもある程度権力を持っています。」

 

なんだか嫌な予感がする

 

「私は・・・そのモット伯の館で働くことになりました。」

「それって・・・」

 

シエスタは何も言わないが、つまりはそういうことだ。

あたしはこの世界に居てそんなに日はたっていないが、この世界での身分はあたしが考えるよりもずっと重い枷だ。

貴族が白だと言えば、たとえそれが黒だったとしても白になる。それがまかり通る世界---

 

 

だからと言ってこれはあんまりじゃないか。

シエスタは普通の女の子なんだ、恋だってまだだってこの前話していた。その時あたしは、シエスタならきっと素敵な恋をして、かわいい子供に囲まれて、幸せな家庭を築けるよだなんて言って、笑いあったんだ。

そんな彼女を・・・

 

ふつふつと湧きあがる感情がソウルジェムを黒く染めているのがわかる。

魔女の私が思うままに暴れようか?と小首をかしげている気がした。

 

 

そんな誘惑を私は静かに奥に沈めていく。

 

 

・・・あたしもまだまだだ。

円環の理に導かれて、少しは落ち着いたと思っていたけれど、手綱を放されたとたんにこれじゃあ先が思いやられてしまう。いくら魔女化しないとはいえ、それを操るのはあたし自身。そのあたしが冷静さを失う訳にはいかない。

 

 

ーーーこんなところはほんとに変わってないなあ。

 

 

「すぅーはあぁ。」

 

一回大きなため息をはくとあたしはもう一度シエスタの目を見つめる。

 

「シエスタ、話してくれてありがとう。」

「サヤカさん?」

 

シエスタがあたしを心配そうに見つめている。きっと何かやるのだと、そう思ってるんでしょ?

 

その通りだ

 

「ねえシエスタ。今からシエスタはそのモット伯って人と一緒に屋敷に行くんだよね?」

「はい。」

「ってことはモット伯はまだこの学院にいるってことでいんだよね?」

「はい、そうですけど。」

 

そのときのあたしはきっとすごい顔をしていたに違いない。シエスタがあたしの顔を見て苦笑いをするくらいには。

 

「サ、サヤカさん? なんだか悪い顔をしてますよ。」

「そう?」

 

あたしはにっこりとした笑顔をシエスタに向けた。

 

「まああたりまえか、これから『悪いこと』をしに行くんだから。」

 

あたしの友達に手を出したことを後悔させてやる---

 

あたしはシエスタの腕をつかみ、モット伯の居場所を聞くとその場所に向けて歩みを進めた。

 




シエスタに手を伸ばすさやかを描きたかった。読んでくれてありがとう。

次回 第14話「大切な友人のためならあんなもの・・・」
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