ゼロの人魚姫   作:北町スイテイ

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守りたいものがあるとき、人は必ずしも強くなくていい。


第14話「大切な友人のためならあんなもの・・・」

シエスタをひっつかみモット伯の居る部屋の前までやってきた。

 

「だーかーらー、あたしはこの中にいるモット伯様とやらに用があるの。さっさとそこをどいてって。」

「先ほどから言ってるように、そこのメイドしか通すのを許されていません。」

 

やってきたはいいが、さっきからこの繰り返しだ。

仕事熱心な衛兵だ、ほんとはいいことなんだろうけど、今はそれが煩わしい。

 

「あたしを入れてくれないなら、シエスタもいれない。」

「それは貴様が決めることではない。」

「あなたが決めることでもないでしょ。」

 

ああいえばこう言う。いつまでたっても平行線。このまま話していても結論はでないことは明らかだった。

いっそのことこいつをドアごとふっとばそうかと本気で考え始めたとき。

 

「あらぁ、あなたルイズの使い魔のサヤカじゃない。」

 

聞いたことのある声がした。

 

「えーっと、キュルケさん?」

 

そこにはルイズの毛嫌いしているキュルケが腕を組んで立っていた。

 

「覚えていてくれてうれしいわ。」

「えぇ、まあ。結構印象的でしたし。」

 

腕の間で強調されているそのけしからんものとか、けしからんものとかな!

 

「こんなところでどうしたのよ? 結構遅い時間だし、ルイズが心配するんじゃない?」

 

あなたこそどうしたんですかと聞こうと思ったけど、どこか官能的な彼女の格好から、おそらく夜のデートの帰りなのだろう、夜の。

胸元の大きく開いたワインレッドのドレスが絶妙に着崩れ、なんともけしからん。

 

普通友人のこんな場面に出くわしたならば気まずくてたまらないだろうが、なぜかキュルケ相手だと気まずい気がしない。それはキュルケの普段の行いのせいもあるのだろう。だがそれに不潔さは感じない。それは一様にキュルケのカラっとした性格のおかげなのだろう。ルイズから彼女の家系がそういうことにたけていると聞いたせいもあるかもしれないが・・・

 

「ちょっとあたしの友達がここのモット伯ってやつに脅されてるの。」

「どういうこと?」

 

あたしは事と次第をキュルケに話した。このままここで話していても何も変わらない。だからこそ貴族のキュルケに何かいいアイデアがないかを聞いてみることにしたのだ。平民のあたしでは思いつかないことでも貴族のキュルケなら思いつくかもしれない。

 

「なるほどねえ。」

 

キュルケは顎に手を添えて考えるような顔をする。

 

「モット伯、モット伯・・・」

 

どこかで聞いたことがあるのよねえというキュルケ。そのうち何か思い出したように掌にこぶしを乗せると---

 

 

「ねえねえ、衛兵さん。」

「・・・なんだ。」

 

衛兵を下から覗き込むように話しかけた。

そのせいでキュルケのけしからんものは衛兵の目線から大変なことになっているようで。彼の目はキュルケの胸に釘付けだ。

 

 

--これがダイナマイトか

 

 

なんてくだらないことをつぶやく。

 

「モット伯に、ツェルプストーの娘がお見せしたいものがあるって伝えてくれない?」

 

見せたいもの? いったい何のことだろうか。もしかしてそのダイナマイトのことか! そうなのか!

 

「ちょっとキュルケ!」

 

いくらシエスタを助けるためとはいえ、そのためにキュルケを危険にさらすわけにはいかない。彼女とはまだそんなに長い付き合いではないが、それなりに彼女のことはわかってきたつもりだった。

 

普段ルイズを馬鹿にするような言動をとる彼女だが、その言葉にはほかの生徒にはない親しみのようなものを感じる。これはあたしの憶測でしかないが、キュルケはきっとルイズといい友達になれると思うのだ。そんなことを言えばきっとルイズは怒るんだろうけど、どこか確信めいた気持ちがあたしの中にはあった。

 

「心配しなくても大丈夫。あたしに任せて。」

 

そう言ってあたしにウィンクするキュルケ。そこにはどこも後ろめたさがなくて、あたしはとりあえず様子を見ることにした。

 

衛兵は少し考えたあと(その間彼の視線は一度もキュルケの胸から離れなかった)もう1人の仲間に伝言を頼んだ。

 

「ありがと。」

 

キュルケは仕事は終わったと ばかりにスッと姿勢を戻す。それに目に見えて落胆する衛兵を見て、男って本当にバカだなと思うあたし。

 

しばらくすると、とても趣味の悪い服と髭をしたおっさんが部屋から出てきた。

 

「話を聞かせてもらおう。中へ。」

 

キュルケとシエスタ、そしてついでという感じにあたしの胸を見るおっさん。どうやら彼がモット伯のようだ。

 

こいつがシエスタを攫おうとした張本人。女の敵。

 

とりあえず殴ろうかと思ったが、まだまずい。今ここで殴れば、それをタテにまたシエスタにちょっかいを出すかもしれない。まずはシエスタを自由にしてからそのあとゆっくり報復することにする。

 

「君がツェルプストー嬢で間違いないかね?」

「ええ、お初にお目にかかります。」

「その独特の肌の色。間違い無いようだね。」

 

キュルケの体を舐め回すように見つめるモット伯。下手したら国際問題では無いのだろうか?

 

「それで、私に話があるようだね。」

「はい」

 

そういうとキュルケは話を切り出した。

 

「ここにいるメイド、あたし結構気に入ってるの。」

「ほう?」

 

それでとキュルケが続ける

 

「なにやら事情ができてここを去るっていうものだから、急いでここまできたんです。」

「ああそうだ。彼女は今日から私の屋敷で働くことになる。」

「やっぱり・・・」

 

はあ、と妖艶なため息を吐き目に涙さえ浮かべるキュルケ。ここまで鮮やかに女の武器を使うとは、やっぱりキュルケは只者では無い。

その姿にいかにも致し方ないという顔をしたモット伯。

 

「私はなにも意地悪で彼女を引き抜いたわけじゃないんだよ。彼女はこんなところで働いていてはもったいない。彼女の素晴らしい才能はもっと大きな貴族の元で生かされるべきだとね。」

 

いったいどんな才能を開花させようというのだろうか。

そのいやらしい目線からろくなことではないというのは間違い無い。

 

「それがあなたのもとだと?」

「そうだ。」

 

まるで我こそが世界の中心だと言いたげに両手を広げるモット伯。

こんな貴族しかいないのかこの国は。

 

キュルケがそういえばと話を切り出した。

 

「たしかモット伯殿は以前ゲルマニアに『異世界から召喚された秘蔵の本』の閲覧許可を求めていましたよね。」

 

突然なんの話かと思ったが、異世界から召喚された本? そんなものがあるのか。

もしかしたら元の世界に帰るヒントになるかもしれない。

今はタイミングが悪いし、あとで詳しく聞いてみよう。

 

「ああ、たしかに。」

「もしそこのメイドを返していただけるのでしたら、それを差し上げてもよろしいのですが・・・」

「それは本当か!!」

 

身を乗り出し驚きを露わにするモット伯

 

「ええ。」

「だ、だがあれはゲルマニアの秘宝、そんな簡単に渡していいのか?」

 

そうだ、あたしのわがままのためにそこまでさせるわけにはいかない。

 

「大切な友人のためならあんなもの・・・」

「キュルケにそこまでしてもらうわけにはいかないよ。」

 

流石にまずいと思いキュルケを止めるが

 

「いいのいいの、あんなもの持ってたって何にもならないわ。特にあたしなんかはね。」

 

ガラクタ? いったいどういうものなんだろう。

気になりはしたが、キュルケがそこまでいうのならとありがたく利用させてもらうことにした。

 

その後交渉はうまくいき、シエスタを連れていかないと約束させることができた。

シエスタはあたしとキュルケに何度もお礼を言っていたが、あたしはシエスタを連れまわしていただけで何もしていない。そう伝えると。

 

「いえ、きっと私だけではただ黙って連れていかれるだけだったと思います。サヤカさんがいてくれたからこそ、ミスツェルプストーにたすけていただけたんです。」

 

と言ってくれた。

 

本当はもっとかっこよくたすけられたらよかったのにと思うあたしは、きっとまだどこかで正義のヒーローってやつにあこがれているんだろう。

 

 

そのあと例の書物に関してキュルケに聞いてみたが、その本が召喚されたのは偶然の産物で何もわかっていないとのこと、ちなみに本の中身については、あのモット伯が欲しがりそうな実にくだらないものだったことをここに記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

~マチルダ~

 

宝物庫の開け方について、ある程度めどは立ったものの、さすがに懐が寂しくなって来た私は、夜中の散歩中に小耳にはさんだ、ゲルマニア国の秘蔵の書物を盗み出すためモット伯の屋敷にやってきていた。

 

「どれどれお宝はどこだろうね。」

 

寝静まった屋敷には最低限の衛兵しかおらず、その衛兵のレベルも、このフーケを捕まえるにはまだまだ未熟としか言いようがない。

もうずいぶんと遅いせいであくびをした衛兵の隣をサイレントの魔法で音を消し、素早く通り抜ける。

 

玄関さえ通り過ぎれば、屋敷の中はほとんど人はいなかった。

あのモット伯のことだ。「夜のお楽しみ」のために人払いをしているのだろう。

 

「それが裏目に出たわね。」

 

自分だけは大丈夫などと胡坐をかいているから、こんな風にコソ泥に侵入されるのだ。

目の前には半裸のモット伯がいびきをかいている。そのベッドの枕元には、一冊の本。

 

「これだね。」

 

カバーに入ったままのその本を懐にしまうと

 

『お宝は確かに頂戴いたしました  土くれのフーケ』

 

と書いたカードを枕元に置き、そそくさとモット伯の屋敷を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おう姉さん。お帰んなさい。』

 

部屋に帰ると、すっかりこの部屋になじんでしまったデルフが出迎えてくれた。

 

「あいよ。」

 

それに適当に返事を返す。

そして今の今までかぶっていた顔をすっぽりと覆ってしまうほど大きなフードを外した。

 

『そんな恰好で暑くないのかい?』

 

熱いに決まっている。誰が好き好んでこんな格好をすると思ってんだい。

 

『べつに聞いただけじゃねえか、姉さんは短気でいけねえなあ』

「大きなお世話よ」

 

そう言ってポイっと服を投げ捨てると

 

『おいおいおい! 服はちゃんと一か所に集めろっていつも言ってるだろ!』

「っさいわね」

 

あんたは私の何なのさ。

文句を言いながらも言われたとおりに決まった場所に服を移す。

 

そうしてようやく今日の成果を確認に入った。

 

 

今回モット伯の屋敷では、例の本以外にも小さな指輪やネックレスなどの小物も拝借させていただいた。これだけあればあの子も孤児院もしばらくは大丈夫だろう。

 

『俺が言えた義理じゃねえけどな、ほどほどにしとけよ姉さん』

「・・・私の仕事には口を出さない。それがあんたをここ置く条件だったはずだよ。」

 

一人と一本の間に緊張感が走る。

私はこの剣にある程度の事情は話してある。はじめにこの仕事がばれたときに猛反対され、事情を話さなければ私の正体を言いふらすと言いだしたからだ。

 

『俺は姉さんが心配なのさ、姉さんの力量なら傭兵としてでもやっていける。こんな危ない橋を渡る必要はないだろう』

 

・・・確かに、ティファニア一人を養うだけだったらそれで十分だろう。だけどあの子には孤児の子供たちを見捨てることなんてできない。子供たちのためならば、優しいあの子は体を売ることさえいとわないだろうことは、私が一番わかっている。だからこそやめるわけにはいかない。この仕事を続けるしかないのだ。

 

「・・・」

『すまねえ。余計なこと言っちまった。』

 

しおらしくなる剣に、らしくないわねと皮肉を言うと

 

『俺だって姉さんのことを心配してるってことさ。同じように姉さんの妹さんも心配してるだろうよ。』

「そんなのわかってるわ。」

 

わかってる。

それでも私はあの子の未来のために自分が汚れることを選ぶ。

 

 

だってあの子は、私にたった一人だけ残された最後の家族なのだから。

 

 




正義らしくなくても、誰かを守れたならそれでいい。
今回はそんな話でした。

次回 第15話「そういえばあたしたち髪の色似てるね!」
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