ルイズの気持ちと、サヤカの選択。それぞれの正義がぶつかるとき、次はどんな波が立つのだろうか。
「サヤカ! こんな時間までどこほっつき歩いてたのよ!」
部屋に戻ると、案の定というか予想通りというか。かんかんに怒ったルイズが待ち構えていた。
「私がどんなに心配したか。」
「心配してくれたんだ。」
「当たり前でしょ。」
友達の心配ぐらいするわよというルイズを可愛いと思ったあたしはなにも間違っていないと思う。
こんな風に心配させてしまったことを反省しながら、こんなルイズが見れるならたまにはいいかもしれないだなんて思ったり。
「サヤカ聞いてるの!」
「あーはいはい、ルイズはかわいいですよ~」
「聞いてないじゃない!」
おっとばれてしまった。
にしても心配しすぎである。あたしが強いのはわかっているんだから、少しくらい信用してくれてもいいのに。
「もう・・・わかったわよ。帰りが遅かったことはもういいわ。」
仕方ないと肩の力を抜くルイズ
「で、いったい何があったの?」
ここであたしはどうしようか考えた。
正直に話すのが一番だと思うけれど、キュルケに助けられただなんて聞いたらルイズは怒るだろうか?
でも別に悪いことをしたわけではないし。ここは正直に話してしまおうと、結局キュルケのことまで包み隠さずはなすことになったのだがーーー
「あのツェルプストーにたすけられたああ!」
予想していたがこれは予想以上である。
まるでアレルギー反応を起こすようにルイズは怒り狂った。
「サヤカ、私の家がツェルプストーと因縁があることは知ってるわよね。」
もちろん知っている。ルイズとキュルケの家が色恋沙汰でいろいろあったのは知っているが、そこまで気にすることなのだろうか?
「あの尻軽女に借りを作るなんて・・・」
「尻軽って・・・それはちょっと言いすぎなんじゃない?」
そうだ、キュルケはシエスタのために自分の国の秘宝を譲ってくれたのだ。そのキュルケをそんな風に言うことないじゃないか。
「キュルケはシエスタを助けてくれたんだよ。昔の因縁だか何だか知らないけどさ、ルイズがそんな風に人を見るような人だなんて思わなかった。」
「あの女が尻軽なのは事実よ!」
「ルイズ!!」
あたしが大声を出したのにルイズは驚いたようだった
「さ、サヤカ?」
「幻滅した。」
「え?」
ルイズはなにを言われたかわからないといった顔をした
「あんたならさ、自分が色眼鏡で見られることのつらさわかってるんでしょ。」
「・・・・」
だってルイズはそのせいでいつもつらい思いをしてきたんだ。
だからこそ、ルイズがそんなことをいうのが悲しくて・・・
「ごめん、しばらく考える時間も必要だと思うから、あたし今日は別のところで寝るわ。」
「ちょっとサヤカ!」
そう言い残しあたしは部屋を後にした。
そんなあたしがいけるところなんてたかが知れているわけで。
「急にごめんね」
あたしは今キュルケの部屋にお邪魔していた。
どこか怪しい雰囲気を醸し出すキュルケの部屋に、あたしはおののいていた。
なにあの服・・・ほとんど見えてるじゃん。
キュルケの部屋の服はなんていうか、紐とかスケスケとか、もうすんごい感じだった。
キュルケは突然来たあたしを拒否することもなく入れてくれた。
「なにがあったか知らないけど、さっさと仲直りしちゃったほうがいいわよお。」
「だよねえ。」
「こういう問題は長引けば長引くほど面倒になるんだから。」
キュルケはその軽そうな見た目とは裏腹に真剣にあたしの相談に乗ってくれた。
「わかってはいるんだけどねえ。」
なかなか素直になれない。
それに今回に関しては、あたしから謝る気はない。だってあたしは悪くないもん。悪いのはルイズだ。
「ルイズもルイズだけど、あんたもあんたねえ」
面目ない・・・
でも少し時間を置けば落ち着くはずだから。そのために今は離れる時間が必要なんだと思う。
「まあいいけど、もうしばらくしたら部屋に戻りなさい。」
「・・・」
それは困る、あんなことをいった手前、まだ戻るなんてできない。
だからと言ってシエスタのところに行くのは彼女に責任を感じさせてしまうためできない。ほかにあたしを匿ってくれるような友人はいない。
ほんとにどうしよう・・・
「お願いキュルケ、さっきも助けてもらっておいてなんだけど、今夜だけでも何とかできない?」
「泊めてあげたいのはやまやまなんだけど、今夜は先約があるから。」
そういって怪しく笑うキュルケ。
・・・ああ、確かにこの部屋にいるのはまずそうだ。
「仕方ないわね。」
キュルケは少し悩んだかと思うと上着を羽織ってあたしを連れて部屋を出た。
廊下を歩いていく、行先は言われなかった。
やがてある部屋の前にたどり着く。
コンコン
ドアをノックするが返事がない。
しかしキュルケはそんなこと関係ないとばかりに堂々とドアを開けた。
「入るわよタバサ。」
「えぇ・・・」
その行動にあたしは苦笑い。もし着替え中とかだったらどうするつもりなんだろうか。
「・・・なに。」
部屋には青い髪で眼鏡をかけた女の子がいた。
彼女は背丈よりもあるように見える杖を横に携えて本を読んでいる。
「サヤカ、この子はタバサ。あたしと、ついでにルイズの同級生よ。タバサ、こちらルイズの使い魔のサヤカ・ミキ。」
「・・・知ってる。」
随分気難しそうな女の子である。たぶんあたしが今まで合わなかったタイプの女の子だ。
そんな彼女はどうやらあたしのことを知っているらしかった。
「えっと、どこかであたことあるっけ?」
「・・・決闘。」
決闘・・・ああ、ギーシュとの決闘を見ていたのか。それはまた恥ずかしいところを見られちゃったなあ。
「タバサ、ちょっと悪いんだけどこの子を今晩泊めてあげてくれない? ルイズと喧嘩したらしくて居場所がないみたいなの。」
「・・・」
「今度あなたが買いたがっていた本買ってきてあげるから。」
それを聞くとタバサは横にある杖を手に取りふる。
すると部屋の奥から寝袋が出てきた。
どうやら交渉は成立したらしい
「ありがとタバサ、恩に着るわ。じゃああたしはこれから約束があるから。サヤカうまくやるのよ。」
そういうとキュルケは自分の部屋に帰っていった。
「・・・」
「・・・」
部屋には気まずい沈黙が流れていた。
それはそうだろう。友達の友達と二人きりだ。気まずいに決まってる。
あたしは、とにかく何か話題を探すのに必死だった。
「あーーー。」
とりあえず声を上げてみる。
「・・・」
当然無反応だ。タバサは視線を本に落としたままこちらに見向きもしない。それでも何か話題を見つけようときょろきょろと周りを見渡すと。ふとタバサの読んでいる本が目に入った。
文字は読めないので絵しかわからないが、表紙からして勇者?冒険もののように見える
「それってさ、どんな本なの?」
「・・・」
一瞬タバサがこっちを見た。
これは手ごたえありと判断したあたしは会話を続ける。
「あたしってさ、文字とか読めないからさ、ここに来てから本とか全然読んでないんだよね。まあ故郷でも音楽関係の本くらいしか読まなかったんだけど。」
「・・・」
「ああ! 読書の邪魔してごめんね! 言いたくなかったら別にいんだ。ちょっと気になっただけだし。その・・・表紙がかっこいいなあって思ってさ。」
「・・・・・・イーヴァルディの勇者」
今度は返事があった。
なるほど、勇者ものか。
「へえ、どんな話なの?」
聞くと、ごく普通の少年が勇者に選ばれ、いろんな困難に立ち向かっていく。そんな王道冒険ファンタジーらしい。
タバサは彼のいろんな話を聞かせてくれた
「それで、結局彼はどうしたの?」
「・・・その水を飲んだ。」
「え、毒が入ってるかもしれないのに?!」
「・・・それが彼なりの信頼の証。」
タバサはイーヴァルディの話になると随分饒舌になった。それでも普通の人くらいだけど。
ついでにあたしはタバサの話すイーヴァルディの話に夢中になっていた。
信念と正義を胸に戦う彼はあたしの思い描いた「正義の味方」そのもので、あたしの胸は高鳴りっぱなしだった。
「くー! 痺れる!! イーヴァルディ! 貴様はなんでそんなにかっこいんだよお!」
「・・・ん」
表情には全然わからないが、タバサも同意しているのがわかった。
初めは何考えてるか全然わからなかったタバサだったが、イーヴァルディの勇者の話をしているうちにだんだん何を思っているのがわかるようになってきた。
無表情に見えるタバサだが、意外と情熱的なところがあるようだ。
ん?
「・・・」
タバサがあたしをじっと見ている。いったいどうしたのだろうか?
「どうかしたの? タバサ?」
「・・・・髪」
「かみ?」
かみって・・・髪?
「そういえばあたしたち髪の色似てるね!」
「・・・あなたの居たところでは、その髪の色は普通なの?」
「まあ、そんなに珍しいわけではないと思うけど? なんで?」
「・・・何でもない。」
それっきりタバサは何も言わなくなった。
また沈黙。
でも、さっきほど気まずいわけではない。
あたしはもう一度タバサとコミュニケーションをとるために口を開こうとしたが---
「ねえタバーー」
どごおおおおん!!
---それはものすごい音でかき消された。
今回はサヤカの“観察者としての強さ”と、ルイズの本来の勝気さを描くことに集中しました。
怒りや戸惑い、友情と負い目――小さな感情の揺れが、大きな物語の動きに繋がっていく様子を見せられたらと思います。
次回は、ルイズの行動がどう展開に影響するのか。サヤカ視点ではなく、少しルイズ側の心情も追ってみる予定です。
タバサ
本名:シャルロット・エレーヌ・ド・オルレアン
通称:タバサ
出身:ガリア王国
身分:王族(傍系)
属性:風
魔法系統:風系統・トライアングル級
トリステイン魔法学院に在籍する無口な少女。
感情表現が極端に乏しく、常に本を手放さない。
本来の歴史では、
その寡黙な態度から冷淡な人物と誤解されがちだが、
実際には非常に思慮深く、他者の痛みに敏感な性格をしている。
ガリア王家の血を引く王族でありながら、
政治的陰謀によって母を失い、
自身も命を狙われる立場に置かれていた過去を持つ。
その影響により、
「余計な言葉を発しない」という生存戦略を身につけ、
感情を内に閉じ込めるようになった。
使い魔は風竜(ウィンドドラゴン)のシルフィード。
本来は軍事的価値の高い存在だが、
タバサは使い魔を道具として扱わず、
一個の存在として大切にしている。
戦闘においては冷静かつ的確で、
必要な時にのみ動き、
決して無駄な魔法を使わない。
彼女は多くを語らない。
だがその沈黙の裏には、
「守れなかったもの」と
「もう失わないと決めたもの」が確かに存在している。