「そしてそのまま賊を逃したというのか!!」
あたしは学院長室に呼び出され、職員会議という名の責任の擦り付け合いに参加していた。
そこにはタバサもいて、そしてなぜかキュルケも一緒だった。
どうやらどこからか話を聞きつけタバサについてきたらしい、本当に恋愛だけじゃなく友情にも熱い。髪の赤い女の子はみんなそうなのだろうか? 杏子も一緒に心中してくれるくらいには情に厚かった。
まあ恋愛に関しては奥手もいいところだったけど。
「まあまあギトー先生、彼らはこの学園の一生徒、サヤカ殿に関しては使い魔じゃ。そんな彼らにプロのメイジすらも欺く土くれのフーケをとらえろというほうが酷な話じゃろうて。」
「しかし!」
今回の件の責任を追及されるあたしたちを学院長はかばってくれるけど、ギトー先生は納得がいかないらしい。どうしてもあたしたちに責任を押し付けたいみたいだ。
「そんなことより、今は一刻も早くさらわれた生徒を助け出すのが先決じゃ。」
そういうが、そのフーケってやつがどこにいるかもわからない。わかってたら今にでもここを飛び出してルイズを助けに行っている。
「学院長!」
そんな殺伐とした学院長室に眼鏡をかけた女の人が入ってきた。そのいでたちからおそらく先生というのはわかる。
随分走ったのか息を切らして。
「ロングビル先生、いったいどうしたのかね?」
「こんな非常事態にいったいどこで何をしていたんだか。」
もう手当たり次第だなあおい。
とりあえず責任を押し付けられれば誰でもいいってかい。たちわるいわあ。
「すいません。事件のことを聞いていてもたってもいられなくて、情報収集をしていました。」
っち。
とギトーが舌打ちをする
「ほうほう、してなにか情報はあったかの?」
「はい、ここから北にある町で、フードをかぶって人一人が入りそうな袋を抱えた怪しい人物を見たという情報が。」
それを聞いてあたしはすぐにドアに向かった。いてもたってもいられなかった。
「お待ちくだされ使い魔殿。」
しかしそれは学院長に止められてしまった。
一体どうしたというのだろうか? あたしは早くルイズを助けに行きたいのに・・・
「自分の主人が心配なのはわかるがのお、もうちと待ってくだされ。」
「なんで?」
「相手はあの土くれのフーケじゃ。先ほどの報告の通りならば君一人ではちと荷が重い。」
あなたたちが思うほどあたしは弱くないと言おうとして、やめた。
話なんて聞かなくていいと判断したからだ。しかし・・・
「・・・私も一緒に行く。」
タバサが一歩前に出る
「タバサ・・・」
「タバサがいくなら私も行くわ。」
あたしは二人のその行動に驚いた。
「タバサ、キュルケ・・・なんで。」
「・・・サヤカは突っ走るから心配。」
キュルケは無言であたしにウィンクした。
ほんとにもう・・・
「生徒風情がどうにかできる問題だと思ったら大間違いだぞ!」
って、まーだ文句言ってるのか。本当にめんどくさいやつだなあ。
「だったらどうするの。代わりにあんたがルイズを助けてくれるって言うの?」
「それは・・・」
「さっきから責任を押し付けるのに必死になってるけどさ、今すべきことはそんなことじゃないでしょ? これからどうするか、それが今いの一番にやらなきゃいけないことだと思うんだけど、ほかの人はどう?」
あたしはさっきから黙っているほかの教師陣にも向けて言った。
しかしみんな目をそらすだけで答えを返さない。
「彼女の言う通りじゃ、今は責任の追及などしても仕方ない。」
「しかし学院長! この大きな問題に生徒たちだけで対処させるのはいささか・・・」
「自分で行く勇気もないのによく言うよ。」
ギトーはあたしをにらみつけたがそれ以上は何も言わなかった。
「ギトー先生。ここにいる三人の生徒は、おぬしが思うほどやわではないぞい。」
おほん、と学院長はつづけた。
「ミス・タバサは若干15歳ですでにシュヴァリエの称号を持っておる、ミス・ツェルプストーは火のメイジとしては一流だと聞く。それに使い魔殿はあのグラモン家のギーシュ殿を決闘で打ち破るほどの剣の使い手。」
「なんと!」
「今回は突然の襲撃で実力を発揮できなかったようじゃが、今度こそは土くれのフーケをとらえてくれるじゃろう。」
学院長のその言葉に、もう誰も反論することはなかった。反論すれば自分も巻き添えを食うかもしれないという思いからだったのだろうとは思うけど。あたしにとっては好都合、少なければ少ないほど早く動ける。
「それでは私が道案内をします。」
「よろしく頼むよ、ミス・ロングビル。」
そしてとんとん拍子に出発が決まった。
例の場所には馬車で行くことになった。
タバサの使い魔に乗っていくという意見もあったが、それでは敵に位置を感づかれるということで却下された。
一度でいいから背中に乗ってみたいと思っていたから残念だった。
その馬車の中
「へえ、じゃあロングビル先生は貴族じゃないんだあ。」
「ええ、昔はそれなりの貴族だったと聞いていたのですが、なにぶんずいぶん昔で、ほとんど覚えていないのです。」
「どうりで。」
ロングビル先生からは、貴族特有の威圧感みたいなものを感じなかったわけだ。
馬車の中は、あまり重くしないために最低限の荷物しかなかった。軽い食事に目的地までの地図、そして袋に入った剣のようなもの。
「そういえば気になっていたんですけど、ロングビル先生って剣も使うんですか?」
「・・・ええ、まあ。」
あたしの質問に先生はなんだか複雑な顔をした。何か気に障るようなこと言っちゃったかな。
それからその話題については触れないことにした。
「ここです。」
たどり着いたのは開けた場所に小屋が一つ建っている森だった。
「ここにルイズが・・・」
いるかもしれない。そう思って飛び出したい気持ちでいっぱいだったけどそれを無理やり抑え込む。
どこに敵が潜んでいるかわからないのだ、ここは慎重に事を進めるべきだろう。
あたしたちは馬車を降りると小屋を調べるチームと周りを警戒するチームの二手に分かれることにした。
あたしは小回りも聞くということでキュルケと一緒に小屋を調べることになった。
「それじゃ外の警戒はまかせたよ。」
「うん・・・あなたも気を付けて。」
タバサの言葉に笑顔を見せるあたし。そのまま魔法少女に変身する。
さて、作戦開始だ。
はじめにキュルケが魔法で小屋のカギを開ける。そのままキュルケがドアを開けその隙間にあたしは体を滑り込ませる。
中は思ったよりも広かった。
いくつかの部屋に分かれた小屋はガラクタだらけだった。
その部屋の一つからうめき声が聞こえたのは、もう半分ほどの部屋を調べたころ。
「! こっち!」
ばん!
ドアをけり開けるとそこには簀巻きにされたうえ口をふさがれたルイズがいた。
「ルイズ!!」
あたしは急いでルイズに駆け寄るとすぐに縄を外し、しゃべれるようにした。
一刻も早くルイズの声が聴きたかった。
「ルイズ、ルイズごめん! あたし言い過ぎた。本当にごめん。」
「サヤカ・・・」
あの時あたしがわがままを言わずにルイズのところに帰っていれば、ルイズがこんな危険な目にあうこともなかったんだ。
それが情けなくてたまらなかった。
あたしは何度もルイズに謝ると、力いっぱい抱きしめた。
「私こそごめん。」
最初は戸惑っていたルイズだったけど、やがてあたしの背中に手をまわし抱きしめ返してくる。
今はこのぬくもりがなによりも大切だった。
「再会がうれしいのはわかるんだけど、そろそろほかの二人と合流しない?」
「キュ、キュルケ!!」
おっと、ルイズに夢中になっていてキュルケのことを忘れていた。
「ああ、ごめんごめん。」
「なななななんでキュルケがここに!?」
「なんでってルイズを助けに来たんだよ。」
「あのキュルケが?」
「別に助けに来たわけじゃないわ、あたしはただタバサが心配だっただけ。」
動揺していたルイズだったけど、すぐにいつもの調子をとり戻した。
なんだかんだと文句を言いながらも
「あ、ありがと・・・」
とお礼を言っていたのを見て、あたしは少し安心した。
少しは仲良くなってくれたかな?
「そんなことよりタバサとロングビル先生に合流しちゃいましょう。」
「ロングビル・・・・あああ!」
ひと段落したところでルイズが突然大声を上げた
「おおお! 急に大声なんて出してどうしたのルイズ。」
あたしは危うくサーベルを取り落とすところだった。
「そうよ! ロングビル先生! フーケの正体はロングビル先生だったのよ!」
「なにそれ! 本当なのルイズ!」
キュルケが焦ったような声を出す。
「どっかで見たことある顔だと思ったのよ! 間違いないわ、一度図書室で見かけたことがあっただけだったから、思い出すのに時間がかかったわ。」
フーケの正体がロングビル先生・・・だとしたら
「タバサが危ない!」
急いで戻らなければと振り向いたとき
「おっと、動かないでもらおうかねえ。」
「ロングビル先生・・・」
入口にタバサに杖を向けたロングビル先生がいた。背中にはあの剣を背負っている。
「両手を上げてついてきな。」
そういうとロングビル先生はあたしたちを警戒しながら外へ出た。
「いったい何が目的なの?」
あたしの質問にロングビル先生。改めてフーケは答えてくれなかった。
やがて広い場所に出ると、宝物庫から盗み出した例の箱を取り出した。
「情報をやればこれの使い方がわかるやつをおびき出せると思ったけど、こんな餓鬼どもしか来ないなんてね。計算違いだったよ。」
そういうと箱を開けるフーケ。
あたしはその中から出てきたものに驚きを隠せなかった。
「資料によればこれを発動させれば、町一つを簡単に破壊できるほどの生物兵器が生まれるっていうけどね、使い方がわからない。」
それはこの世界に、いや、改変したはずのあの世界にすらあるはずのないもの。
「グリーフシード・・・?!」
「・・・・あんた、これがなんだか知ってるのかい。」
言ってからしまったと思った。
いくら動揺していたとはいえ、今のこの状況であたしがグリーフシードの存在を知っているというのはどう見ても悪手だ。
「とんだガラクタをつかまされたと思ったが、これはこれは・・・私の悪運もまだ尽きてなかったみたいだね。」
フーケはにやりと笑うと、タバサを自分のほうへ引き寄せて言った。
「サヤカ、こっちに来な。」
「・・・わかった。」
「サヤカ!」
ルイズが止めるが、あたしはその言葉を無視して、できるだけゆっくりフーケとタバサのもとに向かった。ここでタバサを見捨てるわけにもいかない。それに・・・
『タバサ、聞こえる?』
『・・・聞こえる』
『あたしに作戦があるんだ。合図をしたらキュルケとルイズを連れてここから逃げてくれない?』
『・・・大丈夫?』
『さやかちゃんにまっかせなさーい!』
『・・・わかった』
一応考えもある。
そしてあたしはフーケの前までやってきた。
「あんたはこれの使い方を知ってるんでしょう。」
「・・・まあね。」
フーケは少し考えるそぶりを見せると
「これからこれをあんたに渡す。だけど少しでもおかしい行動をしてみな、こいつの頭が吹き飛ぶよ。」
「・・・わかった。」
そういうとフーケがグリーフシードを渡してきた。それをあたしは受け取った。
そしてフーケをにらむと、あるお願いをした。
「ちょっと下がってもらってもいいですか?」
「なんでだい。」
「危ないと思うので。」
最初は怪訝な顔をしたフーケだったけど、あたしが何もしないと判断するとゆっくり後ろに下がった。
それを確認してあたしはグリーフシードを手の中にすっぽりと覆い隠すと、指輪をその掌の中でソウルジェムに戻す。
初めてだけど、うまくいくはず。
あたしは自分のソウルジェムにグリーフシードの穢れを『吸収』した。
その時に指の間から光が漏れる。
「おお!」
それに目を輝かせるフーケ。しかしその光もそのうちに収まってしまった。
しばらく待ってもなにも起こらないことを不審に思ったフーケが、我慢できずに話し出した。
「どうした? なにも起こらないじゃないか。」
「・・・そうですね。」
ここからが正念場だ。
「どうやら壊れてしまってるようです。」
「なんだって!?」
フーケはその言葉に本気で怒ったようだった。
「こんなに時間をかけて計画をしたのに! 盗み出したのがこんなゴミだって言うのかい!」
地団駄を踏むフーケ。
そしてそんな冷静さを失った今のフーケなら。
あたしは次の瞬間に土を蹴り上げるとフーケめがけて突きを繰り出した!!
「なに!?」
「今だよタバサ!!」
あたしの声を聴くとタバサはすぐに行動を起こした。あたしの脇をすり抜けてルイズたちのほうに走る。そして口笛を吹くとどこからともなく彼女の使い魔が現れた。
「あれはあいつの使い魔! いったいどこに!」
あたしもおんなじこと考えたよ・・・
「これで形勢逆転ですねっ!」
あたしは攻撃の手を緩めずにもう片方の手にもサーベルを出すとクロス状態に構えてそのまま体ごとフーケに飛び込んだ。
「っく!」
フーケは素早く背中の剣を取り出すとそれであたしの剣を防ぐ。
「やってくれたわねっ」
「そっちこそ。」
お互いに鍔迫り合いをしながら言葉を交わす。
本当はこの一撃で決めたかったがそうもいかないらしい。長期戦はあまりよくない。
あたしはちらりとルイズたちのほうを見た。
3人は今から使い魔に乗るところだった。
「サヤカ!!あなたも早く!」
ルイズがあたしを呼ぶけどそんな余裕はない。
「よそ見をしてていいのかい!!」
フーケは足であたしを払うと距離をとった。
「しまった!!」
気づいた時にはもう遅い
「こい! クリエイト・ゴーレム!!」
そこにはゆうに30メートルを超えるゴーレムが生成されていた。
「あーらら。」
これがいやだったから最初の一撃で決めたかったのに。
めんどくさいことになった。
「タバサ! あたしを置いて先に行って!」
「なに言ってるのサヤカ! あんたも一緒に来るのよ!」
そう言ってあたしに手を伸ばすルイズ。だけど無情にもタバサの使い魔は上昇を始める。
「タバサ! お願いおろして!」
「・・・危ない。」
小屋の周りはもうフーケの攻撃圏内だ、降りるのは危ない。タバサの判断は正しかった。
だけどルイズはそれに納得できなかったらしい。次の瞬間に驚くべき行動に出た。
「ルイズ!」
あろうことかタバサの使い魔から飛び降りたのだ!
タバサの使い魔はもうずいぶんと高いところまで上がっていた。あんなところから落ちたらケガではすまない。
あたしはいったんゴーレムとの戦闘を離脱するとルイズのほうに飛び両手でルイズを抱えた。俗にいう姫様だっこだ。
「ルイズ!なんで降りたの!」
「あんたを置いて逃げられるわけないでしょ!」
そう堂々と言い切るルイズをちょっとかっこいいと思ってしまった。
「あーもー、そういえばあんたはそういうやつだったねっ!」
すぐそこまで迫っていたゴーレムの腕をよけながらあたしはうれしくて笑ってしまった。
その状態のままゴーレムと距離をとる。
「ここまでくれば大丈夫か。」
「サヤカ?」
あたしは周りを見渡すと水を探す。
残念なことに近くに川や泉はない。
「せめて雨さえ降ってればよかったのに。」
こうなったらあの手しかないかもしれない。
「なにをするつもりなのサヤカ。」
そうこうしているうちにゴーレムがそこまで迫っていた。
「サヤカ下がって! あんたの剣じゃどうにもならないでしょ。」
「ルイズ・・・」
ルイズがあたしをかばうように前に出た。その肩は見てわかるように震えている。
ああ、なんてことだ
ルイズにここまでさせちゃうなんて・・・・使い魔失格だなあ。
本当は、ルイズたちが見えないくらい遠くに行ってからにしようと思ってた。
そうすれば見られないで済むと思ったから・・・
「ルイズ。」
あたしはルイズの肩に手を置き手前に引くとそのルイズの前に出た。
「サヤカ?」
「危ないから下がってて。」
あたしはルイズを手で制すると、ゴーレムに向かって歩き始める
「あたしさ、たぶん怖かったんだと思う。」
そう・・・いろいろ言い訳を並べていたけど、ただ単に怖かったんだ。
「あんたに嫌われるかもしれない、そう思うと怖くて。」
つまりは勇気が足りなかったんだ。あたしの醜い部分を見せる勇気が。
「だけど・・・やっと覚悟が決まったよ。」
あたしはサーベルを一本出すとそれを自分の胸に突き付けた。
「サヤカ!」
ルイズの制止の声が聞こえる。
---大丈夫だよルイズ、心配いらない。
だからどうか---
「嫌いにならないでね。」
そういうとあたしはサーベルの切っ先を胸に沈めた。