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ルイズをなだめてからキュルケたちに顔を向ける
「キュルケたちも怖い思いさせてごめんね、学園に戻ったら説明するよ」
「そうしてもらえると嬉しいわ」
キュルケは肩をすくめる。先程のような緊張はある程度はほぐれているようだ。
まあ、ルイズがあたしの胸でおとなしく抱かれているのが理由かもしれないが。
「まあ、それはそれとして」
「フーケをどうしようかなって話なんだけど・・・」
「そのまま忘れてくれてもよかったんだけどね」
ふてくされたようなフーケの声
彼女はいまだ下半身をがれきの下に埋めている。
『そこのおっかねえ姉ちゃんや』
「それってもしかしてあたしの事?」
『それ以外ないだろう、この中では断トツであんたがおっかねえよ』
「この剣マジで失礼なんだけど」
デルフはそうは言うが口調は軽い。おっかないとは言うが本人、この場合は本剣というのかもしれないが、そんなに気にしていないようだ。
『ここはひとつ姉さんを見逃してはくれねえかい』
「はあ?!そんなことできるわけないでしょ!」
あたしが話すより先にルイズがかみついていく
『姉さんも好きでこんなことしてるわけじゃない』
「デルフ、黙ってな」
『いいや黙らないね、ここで姉さんが捕まっちまったら、誰が俺とおしゃべりしてくれるってんだ』
「あたしはお断りだね」
あたしが返事をする前にフーケと剣が喧嘩を始めた。そのやり取りはなんだかこなれていて、いつもこんな感じなんだろうなあと思わせる。
「とりあえず事情を聞かせてよ」
「サヤカ?!」
「ちょっと、盗賊の話を聞くつもり?」
どうやらフーケの話を聞くつもりらしいあたしに、ルイズだけではなくキュルケも会話に入ってきた。
「まあ、ルイズも無事だったわけだし、聞くだけ聞いてもいいでしょ?」
「捕まえられたのはサヤカのおかげだから、サヤカに任せるけど」
「キュルケまで何を言い出すの?!こいつは賊よ、逃がすなんてありえない」
「まあまあ」
実際一番被害を被っているのはルイズなわけで、彼女の言い分も理解はできる。
でも、
「誰も好きで犯罪者になるわけじゃないよ。聞くだけならタダだし。今なら逃げられる心配もないわけだしね」
杏子だってそうだった。あいつは父親の件があってひねくれちゃったけど、本当は誠実で優しいやつって知ってる。あいつの場合根っこのところの優しさはかわんなかったしね。
「勝手に話を進めるんじゃないよ」
しかし、当の本人から否の返事。フーケは何とか天を仰いだ格好のまま続ける。
「あたしはね、自分の責任で盗賊やってんだよ。そんな安い同情なんてくそくらえだ。」
『姉さん・・・』
「捕まえないって言うならこれからもあたしは盗みを続けるよ。逃がしてもらったからって恩なんて感じないし、貴族の同情なんて反吐が出る。そんな施しを受けるくらいならここで舌を噛み切って死んでやる!」
杖もなく、立ち上がることすらできないフーケだったが、その言葉には力があった。何が彼女をそうまでさせているのかはわからないが、彼女の中には確かな信念が見えた。
「こいつもこう言ってるし、さっさと捕まえちゃえばいいわ」
「・・・」
ルイズはそういうがあたしはフーケをじっと見る。
しばらくそうした後、あたしはやっと口を開いた。
「あんたはほんとにそれでいいの?」
さっきまで煩かった剣は今度は事の成り行きを静かに見守っていた。
「本当は、やらなきゃいけないことがあるんじゃないの?」
「やらなきゃいけないことって何だい。そんなたいそうなもの、あたしは持ち合わせてないね」
「いやあるはずだよ、でなきゃそんな顔はできない」
「・・・」
フーケはそれきり何も言わなかったが、あたしにはそれが誰かを守るための沈黙だと思った。
だから
「はい」
「ちょっとさやか!」
「・・・何のつもりだい」
あたしはフーケに杖を返した。
「あんたには、どうやらやらなきゃいけないことがまだあるみたいだからね。できれば犯罪はやめてほしいけど、幸いあんたはだれも殺してないみたいだし」
「そんなのわからないだろう」
「あたしそういうのはなんとなくわかっちゃうんだよね。あんたみたいなやつよく知ってるからさ」
何かの為ならば、どこまでも自分を犠牲にできる。そんなやつ
「あんたが居なくなったら、あんたを大事に思ってる誰かが悲しむと思うし。あたしもぶっちゃけこの世界の貴族はそんなに好きじゃないからさ」
「・・・礼は言わないわ」
そういってフーケは杖を取るとあっという間にがれきを元の地面に戻す。
その際に土埃が立ち込め視界を遮った。
「あたしを逃がしたこと、後悔しないといいわね」
遮られた視界の向こうでどこからか声が響く。
最後まで皮肉ばっかりだったけど、後悔したらその時だ。
「ほんとに逃がしちゃうなんてあきれた」
「勝手に決めてごめんね」
「まあ、あんたがそれでいいて言うならそれでいいけど」
あきれたように言うルイズ
「まあ、学園への報告はうまく言っておくわ、幸い悪魔の繭は回収できたし」
そう言ってキュルケはフーケが直した地面に丁寧に置いてあったグリーフシードを手に持った。
「それと、学園に戻ったら私たちにも事情を話してくれるんでしょうね?」
「全部ではないけど、話せることは話すつもりだよ。今回はだいぶ迷惑をかけちゃったからね」
さすがに全部忘れてくださいじゃいけないだろう。そういうと私たちは馬車に踵を返した。
今回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
フーケ
通称:土くれのフーケ
本名:マチルダ・オブ・サウスゴータ
属性:土
魔法系統:土系統・ライン級
トリステイン王国を騒がせた怪盗。
巨大な土人形(ゴーレム)を使い、
貴族の宝物を次々と盗み出したことで知られる。
本来の歴史では、
彼女は単なる犯罪者ではなく、
貴族社会の歪みと腐敗に反発した反体制的存在として描かれる。
その正体は、
没落貴族の出身であり、
貴族でありながら「貴族という身分」に裏切られた人物。
才能がありながら正当に評価されず、
力を持つ者が力を濫用する現実に絶望し、
怪盗フーケとして行動する道を選んだ。
戦闘では巨大ゴーレムによる圧倒的な質量攻撃を得意とし、
正面からの魔法戦では高い制圧力を誇る。
一方で、
無意味な殺しや破壊を好まず、
目的のためにのみ力を使う理性も持ち合わせている。
最終的にはルイズたちに敗北し、
その素性が明らかになるが、
彼女の行動は「悪」と断じ切れるものではなかった。
彼女は問いを残して去った存在である。
「力を持たない者は、従うしかないのか」
その問いは、物語の中で静かに残り続ける。